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思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観―親の養育行動の次元構成および子どもに与える影響について―

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(1)日本福祉大学社会福祉学部・日本福祉大学福祉社会開発研究所 日本福祉大学社会福祉論集 第 117 号 2007 年 8 月. 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観 親の養育行動の次元構成および子どもに与える影響について. 末. 目. 盛. 慶. 次. 1 . 親の養育行動に関する研究史 2 . 親の養育行動に関する 2 つの次元. 親の統制と支援. 3 . 思春期の子どもと親の変化をめぐる議論 4 . 思春期の子どもに対する親の養育行動の特質 5 . 思春期の子どもに対する親の養育行動の次元構成 6 . 親の養育行動が思春期の子どもに与える影響. 先行研究の概観. 7 . 今後の研究課題. 国内の親子関係研究の多くは, これまで乳幼児段階に焦点を当てている. 一方, 乳幼児以降の 親子関係を検討する研究は少ない. そこで本研究では, 乳幼児以降の年齢段階でも, 思春期の子どもに焦点を定めて, 研究を行う. 子育てにおいて思春期は, 乳幼児期と並び, 社会的な注目や親の関心が高いと思われる. しか し, 上述の通り, 海外と比較すると日本ではあまり研究が行われていない. 本論文で国内外の先 行研究の概観と課題の析出を行うことを通して, この空白を埋める端緒としたい. 本研究の目的は大きく 2 つある. 1 つは, 親の養育行動の次元構成に関するこれまでの議論を 参考にしながら, 思春期の子どもに対する親の養育行動の次元を明らかにすることである. もう 1 つは, 親の養育行動が思春期の子どもに与える影響に関して, 国内外の先行研究の動向 を概観することである. 最後に, 今後の研究課題を提示する.. 1. 親の養育行動に関する研究史 思春期の子どもを持つ親の養育行動の議論に入る前に, そもそも親の養育行動に関する研究が, どのような形で開始されたのかを主に米国の研究を手がかりにして述べていく.. 51.

(2) 社会福祉論集. . 第 117 号. 親の養育行動に関する研究の展開. 行動主義の研究者による母子関係研究の試み. 親の養育行動を最初に取り上げた研究を厳密に定めることは難しいが, 親の養育行動と子ども の発達の関連をとりあげた初期の代表的な研究として Sears et al (1957) の“Patterns of Child Rearing”が挙げられる(1). シアーズらは, 行動主義の先祖といえるハル, 同僚のダラード, ミラーなどの影響により, 行 動主義に関心をもっていた. その後, 行動主義への関心と, それ以前から持ち続けていた子ども 特に親子関係. への関心とが融合し, 行動主義的な視点にもとづいた母子関係研究を打ち. 立てた. シアーズは, 行動主義に傾倒する前には, 精神分析理論に関心を示しており, こうした 背景から彼の研究は乳幼児期の発達問題に集中した. こうして生まれた代表作が先の研究である. この著作では, 以前にシアーズとその協力者が発表した依存性の概念を中心とする育児の問題 が行動主義的に考察されている. 子どもの動機の質と強度は, 母子相互作用において生じる報酬, 罰, フラストレーションによってきまると考えた. この考えは, 基本的にハルの刺激. 反応理. 論に従うものである. これ以降, このような研究スタイルの親子関係研究が行われていく. シアーズの研究により, 行動主義の枠組に基づいた親子研究の道筋が引かれたと言ってもよいだろう. 現在行われる研究 の多くも, 多かれ少なかれ行動主義を理論的背景としたシアーズの研究を踏襲していると言って よいだろう(2). しかし, シアーズの研究および後続の研究も, 研究対象は乳幼児に集中する傾向が続いた. 上 の説明では, どのような形で, 親の養育行動に関する研究が開始されたかは説明できても, なぜ 乳幼児段階に研究が集中し続けたのか, なぜ近年になって米国において思春期における親子関係 研究が注目されてきたのかが説明できない. この問いに答えるためには, 乳幼児研究に大きな影 響力をもった理論の展開に目を向けなければならない.. . 乳幼児期以降に関する研究の進展. 精神分析理論の影響とその後の展開. 関連研究の多くが乳幼児段階を検討した背景には, 当時精神分析理論が発達心理学内で大きな 影響力をもっていたことがある. 1950 年代当時, 精神分析理論から導かれる仮説を行動主義的 に検討することが, 1 つの研究のスタイルになっていたことが発達心理学史の中で指摘されてい る (Maccoby, 1992). しかし, 精神分析理論に基づいた研究は, その後実証的な確証をあまり得られなかったことか ら, その勢いを徐々に失い始める (Maccoby, 1992). 何らか問題を抱えた特定のケースの回顧 法データを用いた研究で認められても, 代表性を考慮した実証研究においては確かめることがで きないことが次第に明らかになってきた (柏木, 1993:高橋, 1992). これに加え, その後の研究から, 初期経験の永続性に対する疑問が研究者の中で浮上してきた. 具体例として, 藤永ら (1987) の研究がある. 彼らは, 一度も母親に抱かれたこともなく遺棄同 様の扱いを受け, 5 歳や 6 歳になっても排泄行動や言語能力の統制もできず, 著しい発達遅滞の 52.

(3) 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観. 状況にある子どもの追跡調査を行った. 明らかに初期経験の剥奪を伴ったケースだったが, その 後, 施設での手厚い看護, 保母の温かい養育を受けた結果, 2 人は心身ともに極めて短期間のう ちに目覚ましい発達を遂げた. その後も順調に発達を遂げ, 高校進学も果たし, それぞれ社会人 として働くまでに到ることを示した. この藤永の研究は, 初期経験が決定的に重要であるとする 主張に対する批判的資料の 1 つとして紹介されている (柏木, 1993). 精神分析理論の影響力が低下してきたことに加え, 生涯発達の概念が発達心理学の中で定着し てきたことも, 米国において乳幼児期以降の子どもを対象にした研究を行うことの追い風となっ た. 思春期に関する研究が増え始めたのは 1980 年代からと指摘されているが (Holmbeck et al, 1995), この時期は生涯発達心理学の定式化が大きく進んだ時期とおおよそ一致している (Baltes, 1987). 推測の域は出ないが, 発達心理学における精神分析理論の位置づけの低下と生 涯発達概念の浸透が, 乳幼児以降の親子関係に研究者の目を向かせる推進力になったものと考え られる. では, 乳幼児以降の子どもに関する研究は, 現在どのように行われているのか. かつてほど, 強固な発達段階が設定されているわけではないが, 緩やかに段階別に研究が蓄積されているのが 現状である (Bornstein, 1995). しかし, 単純に子どもの年齢段階ごとに研究が行われているだけではない. 各段階のつながり を重視していくライフコースの視点も意識され始めている. 例えば, 夫婦関係の不安定性が, 思 春期の子どもの発達にどのような影響があるかを縦断的調査によって明らかにした Amato and Booth (1997) の研究がある. 彼らの研究は, 思春期段階において親同士の夫婦関係が不安定だっ た者は, 数年後の心理的適応や地位達成に問題が生じていることを明らかにした. 上記の点に加えて, 段階間の連続性に関する研究が進んできたことも, 従来の研究との違いと して挙げることができる (Montemayor and Flannery, 1990). 特に, 児童期と第二次性徴を 迎える思春期との間の連続性に関しては, 多くの研究が行われている (Collins, 1990:Montemayor and Flannery, 1990). 思春期の子どもを持つ親の養育行動を議論する前に, まず親の養育行動がどのような次元によっ て構成されているかに関する議論を行いたい.. 2. 親の養育行動に関する 2 つの次元. 親の統制と支援. 親の養育行動に関しては, 主に親の統制 (parental control) と親の支援 (parental support) という 2 つの次元によって整理されてきた (Amato and Booth, 1997:Maccoby and Martin, 1983:Peterson and Rollins, 1987:Rollins and Thomas, 1979). 本分野の研究者によれば 「数十年間にわたる親の養育行動は, 親の統制と支援の 2 つの次元によって示されてきた」 と指 摘されている (Rollins and Thomas, 1979). 親の統制とは, 親にとって望ましいマナーを子どもに教授するために行われる行動と定義され 53.

(4) 社会福祉論集. 第 117 号. ている (Rollins and Thomas, 1979). 一般的にいえば, 子どもを叱ったり, 注意したりといっ た統制的な関わりを指している. 親の子どもに対するこうした関わりは, 子どもを育てる上で不 可欠な次元と言えるだろう. 親の統制が意味するところは, 日本でいうしつけに近いと言える. 他方, 親の支援とは, 親がいることで子どもが快いと感じ, 自分が 1 人の人間として親に受容 され, 支持されていることを確認させるために, 親が子どもに向けて行う行動である (Thomas, Gecas, Weight et al, 1974). 子どもに優しく接したり, 悩みを聞いてあげたりといった情緒的 支援がその中核を占める. 子どもを育てる上では, 子どもを叱り, 統制していくと同時に, 子ど もが情緒的に安定するように関わっていくことも重要になってくる. 親の統制と支援という次元を用いた研究は数多く存在している. 具体的な先行研究については 後に詳述するが, 例えば Amato and Booth (1997) は親の統制と支援の両次元が子どもの地位 達成や心理的安寧に与える影響を検討している. 一方, わが国でも, 親の統制と支援の 2 つの次 元を親の養育行動として設定し, 研究を実施している (古川, 1972:石川, 2004:篠原・福山, 1987). 以上から, 国内外の養育行動に関する研究において, 親の統制と支援という 2 つの次元 が用いられ, かつ, 親の養育行動の中で中心的な次元として認識されてきたことがわかる. しかし思春期の子どもを持つ親の養育行動は, 親の統制と支援という 2 次元のみで良いのだろ うか. この両次元は研究者間で理解しやすく, 先行研究も多いため, 多くの研究で用いられてき た. しかし多様な養育行動を 2 つの次元を集約してしまうと, 多くの情報がこぼれてしまうとも 指摘されている. 思春期の子どもを持つ親の養育行動をよりうまく捉えるためには, もっと精細 な次元構成を行っていくことが求められる. そこで以下では, 思春期の子どもを持つ親の養育行動の定義について議論していきたい. この 議論に移る前に, まず児童期から思春期に移行する際の親子双方の変化について議論しておきた い.. 3. 思春期の子どもと親の変化をめぐる議論 思春期の子どもと親が, それ以前の時期と何がどのように異なるかに関しては, 親子それぞれ にわけて議論することができる. まず, 親側の変化から議論を始めよう. 思春期の子どもをもつ親は, ちょうど中年期危機の時期と一致することが指摘されている (Jaffe, 1998). 子どもが思春期という難しい段階に入るのと同時に, 中年期危機という課題に 親は対応しなければならない. これまでの研究では, 小さい子どもを持つ親より, 思春期段階の 子どもを持つ親に, アイデンティティに関する問題が見られることが確認されている (Steinberg and Silverberg, 1987). わが国でも, 35∼45 歳において 「悩みやストレスがある」 と答える者がもっとも多いことが国民生活基礎調査 (平成 7 年度) を用いた研究によって明らか にされている (稲葉, 1999). 中年期危機に直面することで, 親がうまく子どものニーズに対応 できなくなる, というケースも考えられる. 54.

(5) 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観. 中年期危機に加え, この時期にもっとも盛んになるのが母親の就業参加である. わが国の女性 の労働力率に関しては, 未婚時に高く, 出産・育児期という段階で就労率が低下し, 子どもが手 から離れてくると再就職をするという M 字型カーブの存在が指摘されている. 実は M 字型カーブ後半のピークは, 思春期の子どもをもつ段階と一致している. 平成 9 年の 就業構造基本調査. によれば, 有配偶女性の就労率が最も高まるのは, 子ども (この場合末子). が 12∼14 歳の時である (労働省女性局, 1999). この場合の就業の多くはパートタイマーなどの 非正規雇用の場合が多いが, 有配偶女性の就業が最も高まるのは, 子どもが中学に入学した前後 であることに変わりはない. この時期に女性の就業率が高まる理由としては, 先の社会参加や自己実現に対する欲求に加え, 子どもが手から離れることや, 教育費や住宅ローンなど家計の圧力が高まっていることが考えら れる. つまり, わが国の女性にとって, 仕事と家庭の多重役割に直面しやすいのは, 子どもが思 春期を迎える頃なのである. 母親が多重役割を担い, 日々忙しい生活を送ることで, それ以前ほ ど, 子どもに関われなくなることが考えられる. 職業生活上の変化は, 母親に限る話ではない. 子どもが思春期になる頃, 父親は仕事が最も忙 しくなってくる (望月, 1988). この時期の父親は, 職場内で一定に責任を担う地位にいること が多く, どうしても仕事が生活の中心になりやすい. 例えば, 単身赴任がもっとも多いのは, 40 歳台が多く, 全体の約半数を占めることが明らかにされている (婦人少年協会, 1986). 父親が 40 歳台という時期は, 多くの子どもが思春期に差しかかっている. つまり, 子どもが思春期に なる頃, 父親は仕事に大半のエネルギーをとられ, 家族への関わりが疎かになりやすいのである. つまり, 中年期危機の存在, 母親の就業参加あるいは父親の職業生活の多忙化から, 親の養育 行動のあり方も, 児童期とは異なったものになる可能性がある. 次に, 思春期の子どもの変化について説明しよう. まず大きな点は, 思春期になると多くの者 が第二次性徴を経験することである. 中学生男女にわけて第二次性徴の経験の有無により, 親子 関係にどのような変化が生ずるかを検討した研究がある. これによれば, 男女とも, 第二次性徴 を経験している子どもに対して, 親の関わりが減少することが明らかになっている (Hill et al, 1985a:Hill et al, 1985b). 子どもが思春期に入ることで, 身体的にも大人としての機能を身に つけるに従い, 親は徐々に子ども扱いができなくなってくる. つまり, 子どもが思春期に入るこ とで, 親の子どもに対する接し方も変化することが考えられるのである. 身体的な変化に加え, 子ども自身の意識の変化も重要である. 思春期になると, 子どもの中で 独立心が徐々に芽生え, 細かいところまで親に指示されたり, 注意されることに抵抗を示すよう になる. 思春期になり, 子どもの反応に変化が出てくると, 親の養育行動のあり方も修正を余儀 なくされるだろう(3). 身体上の変化, 意識上の変化に加え, もう 1 つ重要なのは, 子どもの認知能力の変化である. ピアジェは, 思春期を認知能力の最上の段階と位置づけ, 形式的操作が可能になると定義した. 親の言うことを素直に聞いていた児童期と異なり, 子どもはいろいろな類推を行うようになって 55.

(6) 社会福祉論集. 第 117 号. くる. そのため, 児童期と同様な養育行動を行っても, 思春期の子どもはそれまでとは全く異な る解釈を行う可能性がある. 受け取る子どもの認知能力が高まっているが故に, 思春期の子ども に対する親の接し方は難しいのである. このため, 親の養育行動のあり方も児童期に比べセンシ ティブなものにならざるをえないし, 子どもの受け止め方も児童期とは異なると考えられるので ある(4). 以上の議論から, 児童期に行われていた養育行動がそのまま思春期になっても行われるとは考 えにくい. たとえ同じ養育行動がなされていると仮定しても, それが子どもに与える影響が児童 期と全く同一とは考えにくい. 児童期から思春期の親子間の相互作用の質的な変化に関しては, 連続性はあるともないともいえないと指摘されるが, 筆者が概観する限り, 両者の間には何らか の違いがみられるとする研究の方が多い (Brim and Kagan, 1980:Dornbutch, 1989). Brim and Kagan (1980) は, 一般的に信じられているほど, 児童期の影響というのは強くも 永続的でもないことを多くの実証研究の結果をレビューした結果述べている. たとえば, 児童期 や乳幼児期と思春期や青年期の間の, 同じ子どもの特性の継続の度合いは驚くほど低いことが指 摘されている (Brim and Kagan, 1980)(5). 橘 (1995) は, 親の養育行動に関する縦断的な調査を実施し, 子どもが年齢を重ねるに連れ, 養育行動に変化が現れるかを検討した. 分析対象は, 中学 1, 2 年生の母親 53 名である. 母親に は 7 年前に同様な養育行動に関する調査を行っており, 両者のデータの間にどのくらい差がある のかをみた. 分析の結果, 両調査の間には多くの有意差が確認された. 例えば, 「私はうちの子 をよくほめる」 という項目がある. 親の支援を示す端的な項目で, 年齢横断的に用いることが可 能な項目といえる. しかし, 縦断的調査の結果, この項目でも 5%水準で有意差が確認された. 結果をみると, こうした情緒的な支援は中学生の子どもより小学校低学年の子どもに対してより 行う傾向が有意に示されている. また, 他の養育行動項目について見ると, 子どもが大きくなる に従い, 子どもが扱いにくくなっている様子が示され, 子どもを統制するあり方が有意に変化し ていることも報告されている. これは, 子どもの独立心やプライバシーの感覚が育つにつれ, 親 が子どもに対する関わりも変わっていくという先の議論と重なっている. こうした結果を著者た ちは, 「子どもの成長によって, その行動を統制し調整する方法, 対応の仕方に当然起こる変化 が示されている」 と指摘している. 以上の結果をみて, 著者たちは親の養育行動の継時的な一貫 性は低いと考えている. 以上の研究報告を考慮すると, 親の養育行動に関しては連続性より非連続性を示す結果の方が 多いと考えられる. では, 幼児期や児童期とは異なった思春期の子どもを持つ親の養育行動のあり方とはどういう ものなのか. 次にこれに関する議論を行いたい.. 56.

(7) 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観. 4. 思春期の子どもに対する親の養育行動の特質 実は, 子どもの年齢段階にしたがって, 親の養育行動がどのように変化していくかに関する体 系的な議論はそう多く存在していない. しかしこうした中, 子どもが大きくなるにつれて, 親の 統制が緩まり, 親と子が共に子どもを統制する形へと移行するという見解が出されている (Maccoby and Martin, 1983). 彼らは, こうした移行を 「regulation から co-reguration」 へ と表現した. つまり子どもが小さい時は, 親の統制により子どもが統制されるが, 子どもの大き くなるにしたがい, 親の統制とともに, 子ども自身による統制. いわば自己統制. のウェイ. トが高まるというのである. コリンズらは, マコビーらの見解にもとづき, 幼児期と児童期の親の養育行動の違いを以下の ように整理している. 幼児期の子どもの場合, 親がさまざまなことを統制しなければならない. そこに子ども自身に統制の権限を委ねるような余地は基本的に生まれないとしている. しかし, 小学校入学をその開始とする児童期に子どもが入ると, 親の統制のあり方に変化がみられ, 子ど もの自己統制を見守り監視していくモニタリングという次元が重要になるという (Collins et al, 1995). モニタリングとは, 明示的に子どもに叱りつけたりするのではなく, ある程度子どもの 自己統制を信頼して, 親が子どもの様子を見守ることを指す. モニタリングは通常日本語では監 視と和訳されるが, 養育行動の議論の中では監視といった意味も含みつつも, 基本的には子ども の様子を見守ることを指しているといってよいだろう. したがって, 児童期の子どもに対する親 の養育行動は, 親の統制と支援をベースにしながら, モニタリングという養育行動を加えている といえよう. こういう形をとることで, 親が明確に叱りつける形から, モニタリングを含める形 へと変化していることが分かる. これは, 子どもが小学校に入学し, 家庭以外の生活場面で過ご す時間が多くなることから, 直接叱りつけるより, 子どもを見守る形が多くなるのだろう. この ねんとう. モニタリングは, 中学生段階を念頭に置いている思春期の子どもにおいてもあてはまると考えら れる. では思春期の子どもに対する親の養育行動は, 親の統制, 支援, モニタリングの 3 つでよいの だろうか. 思春期の子どもを持つ親の養育行動に関する先行研究を整理したホルムベックによれ ば, もう 2 つの次元が提示されている (Holmbeck et al, 1995). 1 つは, 民主的育成である. 思春期になると, 子どもは独立心が芽生えてくるといわれる. 例 えば, ホリングワースの「心理的離乳」の議論はこうした主張の代表例といえよう (Hollingworth, 1928). ホリングワースは, 12 歳から 20 歳までのすべての青年に 「家族の監督から離れ, 1 人の独立した人間となろうとする衝動」 が現れるとして, このことを心理的離乳と呼んでいる. こうした発達理論からすれば, 児童期と思春期を分ける最も重要な特徴は, 子どもの独立, 自立 への希求が現れはじめる点にあると言える. こうした思春期像に対応するためには, 子どもの自 主性を積極的に許容していく養育行動次元を新たに加えていく必要がある (Gray and Steinberg, 57.

(8) 社会福祉論集. 第 117 号. 1999). より具体的には, 子どもに対して, 民主的な態度をもって親が接すること, 子どもに一 定の意思決定や自己裁量の幅を広げてあげる親の関わりである. これが以下で触れる民主的育成 に相当する. 親の明確な統制から, いわば親子の“共制”という形に移行するというマコビーの 見解からすれば, 思春期の子どもの場合, 民主的育成が求められることも理解できるだろう. な ぜなら, 民主的育成は, 子どもの自己決定や自由度を積極的に認めていく態度や関わりを示して おり, これは子どもの自己統制をさらに求めることになるからである. しかし, 思春期になったからといって, 子どもに民主的に接していれば事が済むというわけに はいかない. 児童期以上に多感な思春期の子どもを, どう統制していけばよいのかは親にとって 重要な課題となる. 「子どもはできるだけ自由にさしてやりたいが, 野放しにして何か問題を起 こされたりするのも心配」 というのが, 思春期の子どもを養育する親が抱える実情だろう. しか も, 子どもは身体的に成長してきており, 児童期まで通用していたような身体的統制は効かなく なっている (場合によっては, 子どもの方が親より身体が大きい場合さえある). したがって, 児童期と同じようなしかり方をしていては子どもに通じない部分がどうしても出てくる. そこで 親の統制概念の再構成を考えなければならない(6). そこで, しかる理由をきちんと説明するような ンセントをとるような. いわば子どもとの間でインフォームド・コ. しかり方が重要になってくる (Holmbeck et al, 1995). これが, 以. 下で触れる説得的統制にあたる. これは児童期までのように, ただ厳格的に頭ごなしにしかるの ではなく, 子どもの同意を得ようと親が努める点に特徴がある (Holmbeck et al, 1995). 一方, 従来の単にしかりつけるものを厳格的統制とする. 以上を総合すると, 親の統制に関する 3 つの次元 (厳格的統制, 説得的統制, モニタリング) に, 支援, 民主的育成を加えた, 合計 5 つの親の養育行動次元が設定される. 以下, 改めて各養 育行動の次元について説明していく.. 5. 思春期の子どもに対する親の養育行動の次元構成 以下, 5 つの親の養育行動次元について説明していく.. . 厳格的統制. 厳格的統制とは, 親にとって望ましいマナーを教示する目的をもって, 子どもに対してなされ る親の教示的な行動をいう. 社会生活に必要なマナーをしつけるために, 親が比較的に率直に行 う教示的な行動といえる. 具体的には, マナーをしつけるために厳しくしかっているかなどを含 んでいる.. . 説得的統制. 説得的統制とは, 単に頭ごなしに叱りつけるのではなく, その理由を子どもに説明することを 58.

(9) 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観. 伴った親の教示的な行動である. 子どもは思春期になると, 明確な理由も分からず親に叱られる ことに反発を覚えるものである. 説得的統制では, 意味もなく叱っているのではなく, こういっ た理由があって叱っているということを子どもに示す点で, 子どもの側も納得しやすく, 教示さ れた内容の習得も進むと言われる. 叱る理由や説明を行う点で, 先の厳格的統制とは異なり, 思 春期の子どもの独立心を考慮した関わり方といえる.. . モニタリング. モニタリングとは, 子どもがどのような学校生活を行っているのか, どのような友人と付き合っ ているのか, 子どもの日々の表情や行動に何らかの変化がみられないかを見守っていく親の行動 を指している. モニタリングが, 厳格的統制や説得的統制と異なる点は, 直接的な教示を基本的 に含まない点である.. . 支援. 4 つめの親の養育行動次元は支援である. 具体的には, 子どもに対する情緒的サポートがこれ にあたる. 内容的には, 子どもに対して優しく接したり, 子どもの気持ちを和らげたり, 子ども の心理的な状態を安定化させるような養育行動のあり方を指す. これまでの研究から, 思春期の 子どもにおいて, 親の情緒的サポートが子どもの自尊心の向上やストレスの低下を関連すること が示されている.. . 民主的育成. 5 つめの養育行動次元は民主的育成である. これは, 子どもに, 子ども自身の意見を表現させ たり, 子どもの自己決定の余地を許容する養育行動を指している. 先述した様に, 思春期の子ど もは徐々に独立への欲求が高まっているので, こうしたニーズに対応した養育行動のあり方が求 められてくる. 子どものニーズに対応すると同時に, 責任ある大人になるプロセスとして, 自分 で責任をもって意思決定を行うことを徐々に学習していく必要性もある. 具体的には, 子どもと言い争いになったとき子どもの言い分に耳を傾けているか, あるいは子 ども自身のことはできるだけ子どもに決めさせるよう努力しているかといった内容が該当する。. 以上のように, 思春期の子どもを持つ親の養育行動として 5 つの次元を本研究では構成した. これは, 親の統制と支援の 2 次元による構成より, 思春期の子どもの特性を考慮したものといえ る(7).. 6. 親の養育行動が思春期の子どもに与える影響. 先行研究の概観. 以下では親の養育行動が思春期の子どもに与える影響に関する先行研究を概観する. 59.

(10) 社会福祉論集. 第 117 号. 具体的な研究を検討する前に, 子どもの発達指標に関する議論を行い, その上で先行研究の検 討に入りたい.. . 発達指標の選択. ここで発達とは, 生涯発達論における発達の定義で用いる. つまり, 発達とは多次元的であり, かつ成長や獲得のみならず衰退や喪失も発達概念に含みうるものと考える. 発達概念の定義は現状においては多様に議論されており, 一義的に定義を決めるのは難しい状 況にある (矢野, 1995). ここではひとまず, 発達を, 環境の影響を受け, 環境と人間とが相互 に関わりあいながら変化していく過程と定義しておく (久世・勝部・山下他, 1990). 親の養育行動のもつ影響は, その結果変数の設定の仕方により変化する. 子どもの発達あるい はその時点における特性の把握に関しては, 大きく 2 つの軸を交差させた 4 つの分類が可能であ る. 1 つめの軸は, 行動上の特性を尋ねるか, 心理的な特性を尋ねるかである. 行動的な特性とし ては, 向社会的行動, 薬物利用などの問題行動および学業成績などが挙げられる. 心理学的な指 標としては, 自尊心やディストレスがその代表格といえる. もう 1 つの軸は, 指標そのものの現在の社会における望ましさの程度である. 行動面を聞く上 で, 該当社会においてポジティブな内容を聞くのか, ネガティブな内容を聞くのかが 1 つの区分 として考えられる. 何を結果変数として用いるかは, 個々の研究上の目的による. 行動的な側面を確認したいので あれば, 問題行動や学業成績を聞くことになろう. 他方, 子どもの心理状況を踏まえたければ, 当然心理学的な変数を用いることになる. 本研究では, 思春期の子どもの心理社会的特性 (psycho-social property) を取り上げること にする. その理由としては, ①心理学的な変数を扱った先行研究が多く, これまでの研究蓄積を 活かすという意味で適合的なこと, ②本人の心理的状況は本人の行動とも緩やかに関連を持って いると考えられる, ことが挙げられる.. . 親の養育行動が思春期の子どもの特性に与える影響. 米国の先行研究. 以下では, まず米国の先行研究にもとづきながら, 親の養育行動と思春期の子どもの特性との 関連に関する知見を概観する. 厳格的統制と子どもの関連に関しては, 理論的には 2 つの予測が立てられる. 1 つは統制理論 によるものである (Harshi, 1969). 統制理論では, 人間は元来快楽を求めているので, 一定の 統制が行われないと問題行動を起こすものと考える. そのため, 厳格的な統制が行われ初めて子 どもは安定的な状況を獲得することができるとしている. もう 1 つは, リアクタンス理論である. リアクタンス理論では, 人間は自由に物事を決定した いという欲求があり, これを無用に制限されたり自由が脅かされたりすると, 本人は心理的反発 60.

(11) 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観. を覚えるというものである (Brehm, 1966). この予測に従えば, 厳格的統制を行うほど, 子ど もは反発を覚え, 非安定的な状況を生むということになる. 先行研究をみると, 一貫した結果を見出すことは難しい (Peterson and Rollins, 1987). 統 制理論を支持するものとしては Kurdec and Fine (1994) がある. 彼らは思春期の子どもを対 象に, 親の統制と支援のあり方が子どもにどのような影響を与えているかを検討した. 分析の結 果, 親が統制を行うほど子どもの心理社会的な有能感が高まり, そして親の統制が特に低い群で 子どもが自己調整上の問題をより多く抱えていることが明らかにされた. リアクタンス理論を支持する研究もある. 過度な厳格的統制は子どもの自信を低下させ, 自尊 心の低下に結びつくことも指摘されている (Holmbeck et al, 1995). 一方, Barber et al (1992) では, 親の養育行動と自尊心の関連を検討したが, 親の統制は自 尊心と明確な関連は示さなかった. 先行研究の結果を見る限り, 親の厳格的統制のもつ効果に関 して一貫した関連を見出すことは難しい. 一定の説明を加える説得的統制に関しては, 子どもの自尊心の向上やストレスの低下と関連す ることが報告されている. 単に押しつける形でなく, 子どもに親側の説明を加えていることで, 子どもの側も納得がいくと指摘されている (Holmbeck et al, 1995). 先のリアクタンス理論を 援用するなら, 親が子どもにしかる事情や説明を加えることで, しかられる側の子どもの心理的 抵抗を取り除く効果があるのかもしれない. Hoffman (1975) では, 親が説得的統制を行うほ ど, 子どもの向社会的行動 (prosocial behaviors) が促進されていることが報告されている. モニタリングの低下と, 子どもの問題行動の上昇との関連は再三指摘されている. これは先の 統制理論による解釈が妥当だろう. 実際, 米国の研究を眺めると, モニタリングが低下するほど, 子どもの補導経験が増したり, 非行的な生活スタイルに浸っていることが明らかにされている (Patterson and Stouthamer-Loeber, 1984). 親のモニタリングが高まることで, 友人からの影 響力が減じるとの研究報告もある (Fuligni and Eccles, 1993). 情緒的サポートは, 思春期の子どもの自尊心の上昇あるいはディストレスや問題行動の低下と 関連することが確認されている (Holmbeck et al, 1995). 理論的には, ボウルビィの愛着理論 やクーパーらの結合性の議論を援用することができる. これらの理論は, 人間は支援的な対人関 係を確保することによって, 精神的な健康をより安定的なものにすることができるという. 先行研究をみても, 親の支援と思春期の子どもの心理社会的特性の関連を示す研究は多い (Amato and Booth, 1997:Barber et al, 1992:Boyum and Parke, 1995:Gray and Steinberg, 1999:Kurdec and Fine, 1994). Barber et al (1992) では, 親の支援が青年期の子どもにどのような影響を及ぼすかに関する 分析を, 107 名の青年期の子どもを対象に行った. 分析の結果, 男女ともに, 親の支援が高まる ほど, 子どもの自尊心が有意に向上していることが確認された. Gray and Steinberg (1999) では, 14 歳から 18 歳 8700 人のデータを用いて, 親の支援と子 どもの心理社会的特性との関連に関する分析を行っている. 分析の結果, 親の支援が高まるほど, 61.

(12) 社会福祉論集. 第 117 号. 心理社会的発達や学業成績が高まることが確認されている. Kurdec and Fine (1994) においても, 親の支援が子どもに与える影響を検討している. 分析 の結果, 親の支援が高まるほど, 自尊心や自己有能感 (self-efficacy) が高まること, 飲酒経験 が低下する傾向があること, 仲間からの人気がより高いことが有意に確認されている. 自尊心や 飲酒経験に関する結果はこれまでの結果と同様に親の支援の重要性を確認させてくれるが, 親の 支援を受けていると答える子どもほど, 仲間から人気があるという結果は興味深い. 親の支援が 得られず, 友人に拒否的に対応するというメカニズムは米国の青年心理学でよく指摘されるが, この結果はこうした類推が的外れではないことを示唆している. Young et al (1995) は, 12 歳から 16 歳の子ども 640 人を対象に, 親の支援が子どもの生活 満足感にどのような影響を与えているのかを検証した. 分析の結果, 男女ともに, 情緒的な支援 を親から受けるほど, 子どもの生活満足感が有意に上昇していることが確認された. 民主的育成の促進は, 思春期の子どもの自尊心などと肯定的な関連を持つことがこれまでの研 究で示されている (Holmbeck et al, 1995). 理論的にはデシの自己決定理論による説明が妥当 だろう. デシは, 動機づけに関する代表的論者で, 人間は他者が統制するより本人に自己決定さ せた方が, より高い動機付けをもつようになると主張する (Deci, 1980:デシ・フラスト, 1999). これを親子関係に置きかえれば, 子どもは管理的に統制するより, 自己決定の裁量を提供する方 が, 子どもの心理的状況は改善し, 安定した状況がより確保されると考えられる. Gray and Steinberg (1999) によれば, 親が民主的育成を行うほど, 子どもの心理社会的特 性が向上すること, ディストレスが低下することが有意に確認されている. 先の Barber et al (1992) でも, 民主的な関わり方を行うほど, 心理的な健康が高まることが確かめられている. 以上, 説得的統制, モニタリング, 情緒的サポート, 民主的育成に関しては, こうした関わり を親が行うほど, 子どもの状況は良好であることが米国の先行研究により示された. 厳格的統制 に関しては, はっきりした結果が出ておらず, 一貫した仮説をたてることは難しい.. . 親の養育行動が子どもの特性に与える影響. 国内の先行研究. 米国に比べると国内の研究の数は少ない. しかし, 子どもの年齢幅を広げて研究を探すと, 国 内においても親の養育行動と子どもとの関連をめぐる研究は行われている (久世他, 1972:森・ 堀野, 1992:篠原・福山, 1987:戸田, 1990:戸ヶ崎・坂野, 1997). 以下, 小学生から大学生 までを対象とし, 子どもの心理社会的な変数を用いた先行研究を中心に検討していく. 米国では, 親の情緒的サポートが子どもの自尊心などを向上させているという結果が報告され ていたが, このことは国内の先行研究においても確かめることができる. 森・堀野 (1992) は, 横浜市の公立小学校の高学年 351 名のデータを用いて, 児童のソーシャ ルサポートに関する検討を行った. その中で, 子どもが受けているソーシャルサポートと絶望感 との関連を分析した (ここでいうソーシャルサポートとは, 情緒的サポートと道具的サポートの 合計が用いられている). 主なサポート源としては, 父, 母, きょうだい, 祖母, 親類, 友人, 62.

(13) 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観. 先生が設定された. 分析の結果, 父や母からのソーシャルサポートと絶望感の間には有意な負の 相関がみられ, その関連の強度は友人のサポートとともに他のサポート源をしのぐものだった. 父や母から情緒的な支援が少ないと評価する子どもは, より多くの絶望的な感情を経験していた ことになる. 戸田 (1990) は, 親の養育行動と女子青年の内的ワーキングモデルとの関連を検討した. 某私 立短大の学生 200 名を用いて, 分析を行った. 親の養育行動は, 親の統制と支援と服従の 3 つの 次元が見出され, この各次元と内的ワーキングモデルとの関連が分析された. 内的ワーキングモ デルとは, 対人関係に対する信頼感などを尋ねており, 本人が人間関係をどのくらい安定的なも のとして認識しているかを聞いている. 分析の結果, 母親から情緒的支援を受けているほど, 安 定的な愛着パターンをもっていることが有意に示された. 川原・松尾 (1998) では, 親の養育行動と青年のアパシー (無気力度) の関連を検討した. 分 析対象は, 中学生 216 人, 高校生 211 人, 大学生 300 人である. 親の養育行動に関しては, 両親 に関して尋ね, 「受容統制型」, 「受容自律型」, 「拒否統制型」, 「拒否自律型」 の合計 4 つのカテ ゴリーに分類した. これは統制. 自律と受容. 拒否の 2 次元をクロスさせたものであり, 前. 者が親の統制次元, 後者が親の支援次元と考えてよい. 分析の結果, もっともアパシーの度合い が高かったのは 「拒否統制型」 であった. つまり, 支援的な関わりをせず厳しく子どもに接する とき, 最も子どもが無気力になっていたのである. 中高生では一貫して 「拒否統制型」 が子ども のアパシーを高めており, 男女ともに同様な結果が確認された. 逆にもっとも無気力度が低いの が, 「受容自律型」 であった. つまり, 親が子どもを支援し, あまり厳しく接しない場合に無気 力な程度が最も低かったのである. 松田・鈴木 (1988) では, 親の養育態度と児童の効力感との関連を検証した. 分析対象は, 小 学校 5 年生とその両親がペアとなった 72 組である. 効力感に関しては, 知的領域として内的統 制感が用いられ, 社会的領域として仲間関係における効力感が用いられた. 前者は, 自分の能力 に対する自信の程度を尋ねており, 後者は子どもの仲間関係の中で積極的な主張を行えるかどう かを聞いている. 親の養育行動に関しては, 受容的関わりと統制的関わりが取り上げられている. 両者の関連を分析したところ, 父母が受容的関わりを子どもに行うほど, 子どもの内的統制感が 高まることが有意に確認された. ここでも, 子どもに対して支援的に関わるほど, 子どもの自信 や効力感が高まっていることが示されている. これまでの結果は, 子どもの性別を問わず, 親の支援が子どもの心理社会的特性を高めている ことを示しているが, 一部の研究では親の支援がもつ効果に性差がみられる. 例えば, 嘉数・砂 川・井上 (2000) は, 小学校 3 年生と 5 年生の合計 434 名を用いて, 児童のストレスとソーシャ ルサポートの関連を分析した. ストレスは身体反応, 抑うつ, 不安感情, 不機嫌, 無気力が指標 として用いられた. ソーシャルサポートは情緒的サポートと情報的サポートの合計得点が用いら れた. 父母のソーシャルサポートとストレス反応との関連を分析したところ, 母親のソーシャルサポー 63.

(14) 社会福祉論集. 第 117 号. トが, 子どもの無気力感と負の相関を有意に示し, また, こうした関連は女子にしかみられなかっ た. 結果の全体を見ると, 両親のソーシャルサポートとストレスとの関連は男子より女子にみら れ, 著者たちは子どもの性別によって親の支援の効果が異なることを指摘している. 同様な結果は, 別の研究にもみられる. 森・堀野 (1997) は, 小学校高学年 410 名を対象に, ソーシャルサポートと子どもの絶望感の関連を検証した. 分析の結果, 父母からのソーシャルサ ポートが多いほど, 子どもの絶望感が有意に低下していることが示されたが, 男女別にして分析 を行うと, 女子では父母のソーシャルサポートが絶望感と負の相関を有意に示す一方, 男子では 父親のソーシャルサポートのみが有意な負の関連を示した. ただ母親からのソーシャルサポート もほぼ同様な係数を示しており, この結果から断定的な結論は導けないが, 女子の方が両親のソー シャルサポートの効果が若干強く出ているという傾向は見てとれる. 一方, 親の統制と子どもの特性に関する検討も行われている. 篠原・福山 (1987) は, 親の養 育態度を PM 理論を応用して構成した. 親の統制と支援の高低でクロスさせ, 合計 4 つのカテ ゴリーを作成し, これにより子どもの達成動機に違いがあるのかを検討した. 分析の対象は, 小 学校 5 年生 206 名である. 父母の統制的関わりと, 子どもの達成動機の関連をみたところ, 父親 が統制的に関わり情緒的な支援を行わない場合, 子どもの達成動機が低下していた. 全体的に, 親が統制的な関わりに偏る場合, 子どもの達成動機は低下する傾向が確認されている. 同様の枠組を用いて, 篠原・井上 (1991) は小学校 5, 6 年生 330 名を用いて, 親の養育行動 と子どもの自己教育力との関連をみた. 著者らによれば, 自己教育力とは 「自己をよりよくしよ うとする意志」 を指しており, 類似の概念としては達成動機を考えてもよいだろう. 親の養育行 動は, 古川 (1972) にしたがい, 親の統制と支援の 2 つの次元を設定し, 子どもの自己教育力と の関連をみた. 分析の結果, 親の統制は子どもの自己教育力を低下させていた. これは, あまり 親が厳しく接してしまうと, 子どもは失敗を恐れるようになり, 何かを立ち向かうことに消極的 になるのではと解釈されている. この関連は特に女子に強く出ている. 他方, 親の支援が行われ るほど, 子どもの自己教育力が高まる傾向がみられた. 統制するより支援するほうが, 子どもの やる気を育てられると著者たちは指摘している. 先のアパシーに関する分析でも, 親の支援が低 く, 統制を行う場合, 子どもの無気力感が上昇していた. 親が統制のみ行うと, 子どもが自分自 身に否定的な認識を抱えやすい傾向が示唆されている. ただし親の統制が常にネガティブな結果をもたらすわけではない. 先の戸田 (1990) の研究で は, 親の統制と子どもの内的ワーキングモデルとの関連も検討されているが, ここでは両者の間 に有意な関連はみられなかった. つまり, この研究では親が厳しく接しているか否かによって, 子どもの対人関係に対する信頼感が変化することはなかったのである. 国内で, 説得的統制といった概念を直接検討した研究は見当たらないが, 比較的近い養育行動 次元を聞いたものに稲葉・戸田 (1999) がある. 彼らは中学 2 年生 235 人を対象に, 母親の養育 行動と自己概念との関係を検証した. 母親の養育態度は, 権威的な養育態度と権威主義的な養育 態度, 無責任的養育態度の 3 つに分類された. 権威的な養育態度とは, 民主的な接し方をしなが 64.

(15) 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観. ら統制もきちんと行うというもの, 権威主義的な養育態度とは親の統制のみを強調するものを指 している. 権威的な養育態度の下位次元で, 「理性的/子どもへの配慮」 がある. ここでは 「お 母さんは私になぜ規則を守らなければならないかを説明してくれる」 といったアイテムが用いら れ, 米国での説得的統制と概念的に近似している. 分析の結果をみると, こうした子どもを配慮 した親の関わりは, 子どもの学業成績の向上, 仲間関係の活発性, 自己受容の促進と有意に関連 しており, わが国でもこうした配慮の行き届いた統制のあり方は子どもの心理社会的特性を高め るものと考えられる. 他方, 民主的育成が子どもに与える効果に関しては, 日米で結果が異なっている. やや時期の 古い研究になるが, 林・山内 (1964) の研究によれば, わが国の場合, 米国とは逆に親が子ども に対して自律訓練を早くから行う程, 子どもの達成動機が低いことが確認されている. 分析対象 は 22 名と少なく, 結果の一般性には限界があるものの, 米国の研究を方法論的に厳密に援用し た研究において, 米国とは全く逆の結果が出たことは興味深い. 親の民主的な関わりの効果が, わが国の研究ではあまり確認できないことは他の研究でも報告されており, 民主的育成が子ども に与える影響に関して日米で違いがある可能性がある. 以上, 米国の先行研究と国内の先行研究を検討してきた. 以上を総合すると, 以下のような仮 説を設定することができる. 親の支援は, 思春期の子どもの心理社会的特性を高めることが予測される. 国内外を問わず, 多くの先行研究において, 親の支援と子どもの心理社会的特性とが正の関連を示していたためで ある. 他方, 親の統制に関しては, 米国の先行研究では一貫した結果は得られていないが, 国内 の先行研究を検討すると, 全体としては, 親の統制が高まるほど, 思春期の子どもの心理社会的 特性が低下する傾向がみられた. したがって, 親の厳格的統制は思春期の子どもの心理社会的特 性を低下させるものと予測される. 説得的統制に関しては, 米国の先行研究をみる限り, 子どもの心理社会的特性を高める働きが あることが報告されていた. 国内で直接該当する研究はなかったが, 説得的統制に近い養育行動 次元は子どもの社交性や学業成績を高める働きをもっていた. 以上の結果からすると, 説得的統 制は思春期の子どもの心理社会的特性を高める働きを持つと予測される. モニタリングに関しては, 米国の先行研究を見る限り, 子どもの状況を安定させる働きをもつ とされている. 残念ながら, 親のモニタリングと子どもの心理社会的特性の関連をみる国内の研 究はみられなかった. 米国の研究結果が日本でそのまま援用できるかは未知数であるが, 米国の 知見を参考にするなら, 親のモニタリングの低下は, 思春期の子どもの心理社会的特性の低下と 結びつくことが考えられる. 最後は民主的育成だが, この養育行動次元は日米で異なる結果が報告されていた. 米国の先行 研究では, 親が民主的な育成を行うほど, 子どもの達成動機が向上する, ディストレスが低下す るといったポジティブな結果が得られていた. しかしわが国では, 結果の一般性に留保が付くも のの, 民主的な関わりを行うほど達成動機が低まるといった報告もなされている. 65.

(16) 社会福祉論集. 第 117 号. そこでここでは, 相反する 2 つの仮説を提示しておく. 1 つは, 米国の先行研究に順じたもの で, 民主的育成を行うほど, 思春期の子どもの心理社会的特性が高まるというものである. もう 1 つは, 国内の先行研究を尊重するものである. それは, 親が民主的育成を行っても, 思春期の 子どもの心理社会的特性には変化はみられない (あるいは低下する場合さえある) というもので ある.. 7. 今後の研究課題 本論文では, 親の養育行動に関する研究の端緒から思春期の子どもを持つ親の養育行動の研究 が始まるまでの経緯, そして思春期の子どもを持つ親の養育行動の次元構成およびそうした親の 養育行動と子どもの心理社会的特性の関連に関する先行研究を検討してきた. そして, 各養育行 動の次元が思春期の子どもに与える影響に関する仮説を提示した. 内容をまとめると, 親の養育行動に関する研究は 1950 年代の行動主義者たちによって研究が 始められ, その後, 発達心理学における精神分析理論の地位低下と生涯発達心理学の定式化が, 乳幼児以降に関する研究が着手される背景になったことを指摘した. しかし, 思春期は乳幼児期や児童期を通過して到達するものである. とくに児童期と思春期の 連続性および非連続性が研究の焦点となってきた. これまでの研究の結果は, 一般的に信じられ る以上に, 児童期と思春期との間に連続性がみられないことが明らかにされている. 子ども自身 の特性にも連続性がみられないこと, 親子関係そのものも思春期に変化することが指摘されてい る. 以上の研究結果を通して, 思春期を対象とした研究分野を打ち立てることが要請されてきた. こうして 1980 年代以降, 思春期段階の親子関係研究が海外において数多く蓄積されてきた. この結果, 思春期の子どもを持つ親の養育行動の次元構成も徐々に明確になってきた. 本研究で は, ①厳格的統制, ②説得的統制, ③モニタリング, ④情緒的サポート, ⑤民主的育成を設定し, 合計 5 つの親の養育行動に関する次元を構成した. そして各々の養育行動が思春期の子どもの心 理社会的特性に与える影響に関しても検討を行った. 日米両国の先行研究を検討した結果, 親の 支援が子どもの心理社会的特性の向上に寄与していることや, 民主的育成の効果に関しては日米 で違いがあることが指摘された. 以上, 思春期の子どもを持つ親の養育行動に関する先行研究をみてきた. 以下で, 今後の研究 課題を述べていく. これまでの研究は, 親の養育行動を独立変数と位置づけて, 子どもの発達を従属変数と位置づ けるような研究が多い. しかし, こうした研究スタイルに対して, 近年批判が多くなってきてい る (遠藤・江上・鈴木, 1991). 1 つは, 親子関係の内部過程に研究が集中しすぎている点である (柏木, 1999:山根, 1999). これまでの親子関係研究の多くは, 親の養育行動を独立変数にたてて, 子どもの発達を従属変数 にした分析を多く行ってきた. そのことによって多くの知見がもたらされてきたことは明らかで 66.

(17) 思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観. あり, 先の親の養育行動がもつ影響のセクションではその一端を知ることができた. しかしこれまでの研究では明らかにできない点がある. それは, 親の養育行動そのものが社会 構造によってどのように規定されているのかという問題である. 従来の研究スタイルを維持すれ ば, 親の養育行動のもつ効果について, より詳細に明らかにすることができるだろう (末盛, 20 00). しかし, 親の養育行動が子どもに与える影響に関しては, すでに相応の研究の蓄積がある. 親の養育行動がもつ効果に関して一定の知見が蓄積された現在, 次に問うべきは, どのような 条件の時に, どういった親の養育行動がなされるのかを明らかにすることである. 例えば, 親の 支援が, 思春期の子どもにポジティブな影響をもたらしていることが先行研究により明らかにさ れているが, どのような条件において親の支援行動がより行えるのかに関しては, 従来の研究ス タイルを維持しては答えることができない. 今後は, 親の養育行動と思春期の子どもとの関係に関する従来の研究に加え, 親の養育行動が どのような社会状況のもとに置かれ, そして現にどのような社会的な影響を受けているものなの か, という点を明らかにしていくことが重要と考えられる(8). こうした親の養育行動の規定要因に関する研究は少ない (Belsky, 1984). しかし, 丹念に先 行研究を読み込んでいくと, いくつか有望な理論的視野が存在することに気付く. 次回の論考では, 親の養育行動の規定要因に関する理論的展開を紹介していく.. 注 . これより前の研究であると, Symonds (1939) の研究がある.. . 行動主義的なスタイルを採るとはいえ, もちろん個々の研究によって修正が図られている. 心理学の 中で, 行動主義から認知主義への移行が 80 年代以降明確になっているので, たとえば親の養育行動の 効果を直接的に考えるのではなく, 子どもの認知上の条件によってその効果が変化すると考える研究が 現在では行われている.. . 調査を行う準備作業として行ったインタビュー調査でも, 思春期に近づくと子どもに変化が現れる様 子が窺えた. 例えば, 親子間の接触を, それまでと異なり恥ずかしながら求めるようになったり (「やっ ぱりだんだん年頃になるから, べたべたしなくなってきた. 恥ずかしがってきた. 恥ずかしがりながら べたべたする.」 【A 氏:35 歳】), 反抗期に近い状況が生じ始めたり (「生意気な口をきくようになる. (中略). へ理屈をこねる. 素直にやらない……だから結局, 「これやれ」 っていうと, 一言なんか言っ てから言い返してからやる」 【B 氏:44 歳】), 自分のプライバシーに対する意識が高まったり (「もう 上の子が, そろそろ, 母親に話すこと, 父親に話すこと, それから全面的にいろんなことを話してない なっていうことが, やっぱり……ありますね」 【C 氏:49 歳) していることが分かった.. . もう 1 つ子ども側の環境の変化として, 学校生活の変化が挙げられる. とくに中学への入学というイ ベントは, 子どもに対して大きなインパクトを持つと指摘されている (Montemayor and Flannery,. 1990:酒井, 2000). 小学生と中学生の間で行動や態度に大きな変化がみられることは, 国内の実態調 査から把握することができる. 例えば, 不登校や校内暴力は中学校段階に最も多く, 特に中学 1, 2 年 に多い (酒井, 2000). 中学校に入学することで, 仲間関係が拡大し, 部活や塾通いなどで子どもの生 活も忙しくなってくる. 中学入学というイベントが, 親の養育行動のあり方や子どもの受け止め方に一 定の変化をもたらす可能性が考えられる. . 「東京都子ども基本調査」 (1996 年) によれば, 小学校 5 年生から中学校 2 年生にかけて自己評価が低 下していることが示された. 特に, 「友だちが多い」 や 「やる気になればなんでもできる」 といった項 67.

(18) 社会福祉論集. 第 117 号. 目で, 肯定的に答える子どもが減少していた (東京都生活文化局, 1996). . 親の統制概念の明細化は, 理論的な背景のみならず, 実証研究者たちからも提案されている. 研究に よって親の統制がもつ効果にばらつきが見られた為, 親の統制と括られている中に, 異なる親の統制的 な側面が混合していたのではないかと実証派の研究者たちも考えている.. . 思春期以降の子どもに対する親の養育行動に関しては, 先行研究の蓄積も少なく, 明確な議論を提供 することが難しい. ただ筆者の考えを言えば, 子どもが思春期を越え, 親子間にも一定の信頼が築かれ る状態になり, 子どもの自己管理能力が高まるにしたがい, 親の厳格的統制の必要性は徐々に低下して いくだろう. むしろモニタリングや説得的統制が親の統制の中心的なあり方になると思われる. さらに 子どもが大きくなり, 成人としての自覚も生じてきた場合には, モニタリングや説得的統制を行う必要 も減少し, 親の統制自体の意味合いもかなり減少するだろう. むしろ, 一定の情緒的サポートと民主的 育成を行っていく形に移行していくものと考えられる.. . 思春期の子どもを持つ親の養育行動を検討する前に, 乳幼児期や児童期の子どもに対する親の養育行 動の規定要因を問うべきとの指摘もあるだろう. 親の養育行動の規定要因に関する研究は全体として少 ないものの, 乳幼児や児童期の子どもに対する親の養育行動の規定要因に関しては, ベルスキーが行う 研究を中心にいくつか研究が行われている (Belsky, 1984). こうした中, 思春期の子どもを持つ親の 養育行動の規定要因に関する研究が少ないと指摘されている (Bogenschneider et al, 1997). 国内研究. においても, 数は少ないものの, 乳幼児の子どもに対する親の養育行動の規定要因に関しては研究が行 われている (東・柏木・ヘス, 1981). 引用文献 Amato, P. R, and Booth, A, 1997,        .

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(35)   

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参照

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