地域研究資料の収集とコアジャーナル (特集 アジ
ア地域研究と雑誌 -- 「コア・ジャーナル」を語る
)
著者
矢野 正隆
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
198
ページ
16-19
発行年
2012-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004034
一.情報の発信・受信・蓄積
東南アジア諸国情報へのアクセ スについては、近年、地域差はあ るものの、ウェブにおける現地か らの情報発信がそれなりに行われ るようになり、以前に比べると随 分風通しがよくなった。 もちろん、 こうした変化には長短所が併せ存 するものであり、情報収集機関に おいても、それに応じた対応が求 められる。 情 報 伝 達 そ の も の を 考 え る 場 合、まず、発信者と受信者の存在 が想定されるであろう。情報収集 機関は、この二者の間で、情報の 伝達を円滑に効率よく行うための 存在である。従って、情報への直 接のアクセスが容易になれば、こ うした仲介など不要だと思われる かも知れない。近年のような海外 情報がウェブで簡便に入手できる 時世には、この仲介者の役割につ いて、再度確認して置いた方がよ いと思われる。 現 地 で イ ン タ ビ ュ ー を 行 う の も、海外から資料を取り寄せて読 むのも、情報の伝達が行われてい るという意味においては同様であ る。ただし、前者では情報の受信 が発信と同時に行われているのに 対し、後者では発信から一定の時 間を置いて受信が行われる。 通常、 情報の収集や蓄積という場合、後 者 の よ う な 記 録 情 報 が 対 象 と な る。前者は、後者と同様の形式に 変換されて始めて蓄積が可能にな る。このタイプの情報は、発信さ れたのち、いったんどこかに留め 置かない限り、受信することはで きない。つまり、 情報はまず紙 (あ るいはフィルムやディスク)とい う媒体に蓄えられ、この媒体の物 理的な動きがそのまま情報の伝達 となる。従って、情報伝達に凝滞 が生ずる場合、原因の多くは、モ ノの動きの 阻 そ 碍 がい による。その一方 このモノの蓄えられる場は、その まま情報の収蔵庫となる。 では、発信情報をいったんプー ルするのは誰かといえば、例えば 発 信 者 自 身 で あ り、 書 店 で あ り、 あるいは図書館等の情報収集機関 である。ただし、前二者は、受信 までのタイムラグをある程度短く 見積もり、基本的には、受信が行 われた時点で情報を手放してしま うのに対し、後者は、発信から受 信 ま で の ス パ ン を 長 く 見 積 も り、 また、同じ情報の受信回数を制限 しないため、情報を手放すことは ない。つまり、 情報収集機関とは、 情報の受信を長期に渡って保証す る 機 能 を 持 つ も の で あ る と い え る。 以上は紙媒体による情報伝達を 概観したものであるが、ウェブの 情 報 で は ど う な る か。 こ の 場 合、 モノの動きという要素は抜け落ち るが、実は伝達の構造自体は全く 変らないのである。つまり、発信 された情報はどこかにプールされ な い 限 り 受 信 す る こ と は で き な い。しかし、ウェブの情報は、伝 達の速度がモノを介する場合より 断然速く、また、情報をいったん プールする場が発信者自身である こ と が 多 い た め、 「 蓄 積 」 と い う 機能にはあまり焦点が当てられな いようである。 つまり、情報伝達のあり方が変 化 し た と い わ れ る 今 日 に お い て も、 情報収集機関が担ってきた 「長地域研究資料
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期に渡る情報の蓄積」という機能 自 体 は 依 然 と し て 存 在 し て い る。 いやむしろ後述するように、この 機能は以前にも増して重要性を帯 びていると思われる。 さて、この前提を踏まえたうえ で、発信者=東南アジア諸国、受 信者=日本国内の情報利用者とし た場合、現状はどうなっているだ ろうか。 二〇〇七年より、アジア経済研 究所や京都大学東南アジア研究所 の専門司書を中心に、東南アジア 諸国の情報資源の共有化を主な目 的とする研究会が組織され、筆者 もその末席に連なっている。ここ で は、 「 情 報 収 集 機 関 」 が 中 心 と なり、現地情報へのアクセスを向 上 す る た め の 方 策 を 探 っ て い る が、節を改めて、その活動をいく つか紹介する。
二.
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関
に
お
け
る
地
域
研
究
資
料の収集
前 節 に ま と め た 機 能 か ら す る と、情報収集機関に求められるの は、 ⑴ 厖 大 な 量 の 発 信 情 報 の 中 か ら、 蓄積すべきものを選別する(= 資料選別) ⑵ 受信までのアクセスを容易にす る(=資料所蔵情報の共有) ⑶ 受 信 を 長 期 に 渡 っ て 保 証 す る (=資料の蓄積) このように整理することができ る。 ①資料選別 選別の基準となるのは、まず受 信者の要求である。ただし、この 受信は、同時代だけでなくスパン を長期に見積もっていること、そ して、受信者には情報収集機関自 身も含まれること、この二点は注 意しておく必要がある。ある特定 時期の受信者の数や彼等の同時代 的な要求は、選別基準の一要素に 過ぎない。 東 南 ア ジ ア と 一 括 り に さ れ る が、 その内実は非常に多様である。 現地情報の質・量は、政治や社会 の現勢と密接に関係するのは当然 として、受信要求の質・量も、同 時代の現地情勢に影響されがちで ある。つまり、発信される情報の 量が多いところには、多くの受信 要求があり、少ないところに人の 関心は集まりにくい。そうした傾 向 に、 情 報 収 集 機 関 が 棹 さ す と、 受信要求の多い地域の情報収集に ヒト・カネが割かれ、そうでない 地域には次第に目が向けられなく なる。しかし、長期の受信を考え るならば、継続的に蓄積すべき情 報の最低ラインは明確にしておく 必要があるであろう。 そうした問題意識のもと、前記 の研究会では、まず東南アジア地 域研究のためのコアジャーナルの 選定を行った。その具体的な誌名 や 選 定 方 法 に つ い て は、 『 東 南 ア ジア研究逐次刊行物総合目録』 (二 〇〇九年三月刊) に記されており、 ま た、 本 誌( 二 〇 一 一 年 六 月 号 ) でも高橋宗生氏が紹介しているの で、詳細はそちらに譲る。 コ ア ジ ャ ー ナ ル 選 定 の 意 図 と は、まず、一時的な発信・受信の 質・量に左右されることなく、長 期的な受信を保証するための基盤 を 作 る こ と に あ る。 こ の こ と は、 高橋氏も指摘しているように、既 に刊行が終了したタイトルもコア ジャーナルに含めているところに も示されている。また、選定にお いて、 一エンドユーザーではなく、 収集機関が主体となり、他国の収 集機関や複数の専門家に意見を 徴 ちょう していることも、こうした意図に 沿ったものである。 ②資料所蔵情報の共有 コアジャーナル選定の次に行っ たのは、これらが、日本国内にお い て ど れ だ け 蓄 積 さ れ て き た の か、 そ の 現 状 を 知 る こ と で あ る。 幸い、今日ではOPACシステム が非常に発達し、個々のタイトル の所蔵情報を調べることはそれほ ど 難 し い こ と で は な い。 し か し、 このコアジャーナルの収集状況を 総体として知りたい場合にはいく つか留意点がある。ひと つは、学術雑誌の探索で 使われる、国立情報学研 究所(NII)の総合目 録 ( w e b ca t h tt p :/ / w e b c a t. n ii .a c .j p /、 Cin iiB oo ks h ttp :// ci.n ii. ac.jp/books/ ) だけでは、 国立国会図書館 (NDL) を始めとする国公立図書 館の所蔵情報が把握でき 表1 コアジャーナル国別タイトル数 (2011.12現在) 発行国 タイトル数 国内所蔵あり カンボジア 16 11(68.8%) インドネシア 61 57(93.4%) ラオス 13 4(30.8%) マレーシア 31 28(90.3%) ミャンマー 9 8(88.9%) フィリピン 33 30(90.9%) シンガポール 37 33(89.2%) タイ 54 38(70.4%) ベトナム 34 34(100.0%) 日本 37 37(100.0%) ほか 107 104(97.2%) 計 432 384(88.9%) (出所)東南アジア逐次刊行物総合目録データベース CiniiBooks。地域研究資料の収集とコアジャーナル
『東南アジア研 物 総 合 目 録 』 で あ り、 ア 逐 次 刊 行 物 総 合 目 録 ー ス 」( http://www . to -u .a c.j p /in fo /d b/ である。こ 時 の 所 蔵 情 報 で あ る か ら ず 存 在 す る こ と。 時 期 に 所 蔵 が 確 認 さ れ な い こ と は、必ずしも資料が存在しないこ とを意味しない。調査時には所蔵 のないタイトルが八〇誌以上ある と さ れ て い た が( 前 掲 高 橋 六 〇 ペ ー ジ )、 二 〇 一 一 年 一 二 月 時 点 で集計したところ四八誌に減少し て い る( 表 1)。 入 力 作 業 の 進 展 次第では更に所蔵数が増える可能 性がある。 この表の「国内所蔵あり」のタ イトル数は、一誌につき一号でも あれば所蔵ありとカウントしたも ので、例えばベトナムは一〇〇% となっているが、これは全号揃っ ているという意味ではない。この 点を加味してみると、現状として は、国内全体レベルでも完備には ほど遠く、結局の所、複数機関が 連携して互いに補っていく他はな いと思われる。また、情報のアク セスにも改善の余地がある。情報 収集機関のレベルで、各言語に対 して読解できる人材を配置するの はまず不可能であることを考える と、 特に、 タイやカンボジア、 ミャ ンマーのような独自の文字を使用 する言語については、ローマナイ ズ等により言語に熟達してない者 にとってもアクセスがより容易に することが必須である。マイナー な言語はエンドユーザーだけが理 解できればよいという考えは大き な誤りであって、そのエンドユー ザ ー に 情 報 が 伝 達 さ れ る た め に は、情報収集機関のレベルで、適 切に情報の内容が把握され整理さ れておく必要がある。整理されて ない情報は存在しないに等しい。 ③資料の蓄積 ① ② で 概 ね 把 捉 さ れ た 情 報 を、 長期間利用するためには、どのよ うなポイントに注意すればよいだ ろうか。情報の保存とは長期の利 用の保証のことである、という考 え方は、図書館界でも近年次第に 普 及 し て き て い る が( 参 考 文 献 ② )、 こ れ は お も に、 情 報 が 載 っ ている媒体(=資料)の劣化に焦 点を当てた議論である。もちろん 紙の酸性劣化やマイクロフィルム のビネガーシンドロームは看過で きない問題であるが、これは、他 分野の資料とも併せて図書館界全 体 で 取 り 組 む べ き 課 題 で あ っ て、 ある特定の情報を収集する機関が 最初に注意を向けるべきポイント は別にあると思われる。 表 2によると、インドネシアの コアジャーナルのうち、日本国内 の所蔵が一九九〇年代まで確認さ 表2 コアジャーナルの日本国内所蔵最終年次(数値はタイトル数 2011年12月現在) 所蔵最終年次 1900-1909 1910-1919 1920-1929 1930-1939 1940-1949 1950-1959 1960-1969 1970-1979 1980-1989 1990-1999 2000-2004 2005- 所蔵なし 計 カンボジア 1 1 4 5 5 16 インドネシア 2 2 1 1 3 9 10 29 4 61 ラオス 1 1 2 9 13 マレーシア 2 2 5 2 17 3 31 ミャンマー 1 2 5 1 9 フィリピン 2 3 2 3 19 4 33 シンガポール 1 2 1 1 1 2 1 2 2 3 17 4 37 タイ 1 1 2 1 3 1 29 16 54 ベトナム 1 1 2 2 2 2 3 21 34 (出所)東南アジア逐次刊行物総合目録データベース(http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/info/db/sealib/) CiniiBooks(http://ci.nii.ac.jp/books/)。
れるタイトルは九誌ある。各書誌 情報を調べてみると、一誌は誌名 変更、一誌は終刊であることが判 明するが、 残りの七誌については、 国内に所蔵がないだけなのか、そ れとも、誌名が変ったのか、ある いは廃刊になったのかは不明であ る。このように、継続的に情報を 蓄積していくためには、発信者の 動向を高い頻度で把握しておく必 要がある。 このような問題意識のもと、研 究会では、 コアジャーナルの選定、 目録・所蔵情報データベースの作 成と前後して、情報基盤に関する 現地調査(二〇〇八年 参考文献 ③ )、 お よ び、 出 版 状 況 に 関 す る 専門家へのヒアリング(二〇〇九 〜一一年)を行った。ある程度予 想されたことであるが、各国の政 治・社会情勢と、情報や出版を巡 る 環 境 が 密 接 に 関 係 し て い る こ と、 ま た、 ど の 地 域 に つ い て も、 ウェブへのアクセスが不安定であ ることが指摘された。 ただし、 ウェ ブ情報については、対処困難な問 題と見なすのではなく、情報を蓄 積する場を自前で確保しているか どうかが問われていると考えた方 がよさそうである。 不安定な政情 ・ 社会下では、発信が恣意的になる 可能性も高くなるであろう。しか し、少なくとも記録情報について は、これまで紙媒体で一冊一冊購 入してきたのと同様に、各ファイ ルをダウンロードする、 あるいは、 紙焼きすることによって蓄積でき る は ず で あ る。 に も か か わ ら ず、 こ れ が 大 き く 問 題 視 さ れ る の は、 ひ と つ に は 受 信 者 や 収 集 機 関 の、 情報の蓄積場所に対する意識が希 薄だからではなかろうか。