マレーシア -- ささやかな体験への追想 (特集 図
書館と障害者サービス -- 情報アクセシビリティの
向上)
著者
東川 繁
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
234
ページ
30-30
発行年
2015-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003256
30
アジ研ワールド・トレンド No.234(2015. 4) ●マラヤ大学での﹁事故﹂ ﹁あっ!﹂ という声を出したときにはもう遅かっ た。 もう少しで、 白い杖をついた華人らしい若者を 地面に押し倒すところだった 。 ここはクアラルン プール郊外にあるマラヤ大学の構内 。 在外研究の ため一九八七年に同大学を訪問した 、 まさに初日 の出来事だった。 さいわい彼に怪我はなかったが、 平謝りに謝ったことはいうまでもない 。 校舎を見 上げているうちについ周囲への注意を怠ってし まったのだ 。 しかし 、 大学構内になぜ盲人がいる のだろうか ?尋ねてみると 、 マラヤ大学の学生だ という 。 特別枠による入学制度があるという 。 そ のことに驚き 、 また日本より進んでいると感心し た。 また、 ﹁ マ レ ー シア盲人 協 会 ﹂ と いう団体 がY M C Aの近く にあるこ とも教え てもらっ た。 そ の 日はそれ で終わっ た。 大学か らは図書館内のキャレル ︵個人用閲覧室︶ を使用 できる便宜を図ってもらったが 、 ある日盲人の学 生が隣のキャレルで晴 眼 者 から専門書の対面朗読 を受けているのがみえた 。 構内で盲人学生のため の対面朗読をするボランティア募集の張り紙をみ たことを思い出した。 後で気がついたのだが、 筆者 がみたボランティアはすべて女性だった 。 男性も いたのかもしれないが、 みたことはなかった。 ●盲人協会を訪問して 日がたってから 、 マレーシア盲人協会を訪ねて みた 。 以前の華人男子学生の白 杖 がみすぼらしい 竹でできていたことがずっと気になっていたから である。 協会の話では、 マレーシアは障害者には優 しい社会だが 、 経済的支援が足りていないとのこ とであった。 協会の図書館もみせてもらった。 点字 図書と朗読を録音したカセットテープ ︵録音図書︶ が主な所蔵資料だったと記憶している 。 最後に協 会への貢献を申し出たところ 、 意外にも ﹁近くの 雑居ビルに盲人のマッサージ室があるから 、 そ こ の常連客になってもらいたい﹂ とのこと 。 確かに 、 一時的な寄付より有益と思われた。 というわけで、 マレーシア滞在中はずっと通うことになった 。 マ レー人、 華人、 インド人もここではみな仲良く働い ているようだった。 ある日、 マッサージの最中に突 然の停電に襲われた 。 窓もない部屋のなかであわ てたが 、 担当のマッサージ師が手を引いて外に連 れ出してくれた 。 今となっては楽しい思い出であ る。 その後、 協会を訪問することはなかったが、 二〇 一二年末に再訪の機会を得た 。 情報機器を活用し た支援が多面的に行われているようであった 。 ま た 、 出入りする視覚障害者は軽金属あるいはグラ スファイバーと思われる杖を使用しており 、 以 前 のような竹製のものはまったくみられなかった 。 国内外の支援が拡大したことで 、 施 設 ・ 設備の改 善が可能になったとのことであった 。 日本からの 支援もあったという 。 なんとなく晴れやかな気持 ちで協会を後にすることができた。 ︵ひがしかわ しげる/アジア経済研究所 図書館 資料企画課︶マレーシア
︱ささやかな体験への追想ー
column
東川
繁
マラヤ大学図書館。大学のウェブサイトによると、館内にある 53 のキャレルのうち 21 が視覚障害者用とのこと(筆者撮影)マレーシア盲人協会。マレー語では Perastuan bagi Orang Buta Malaysia、 英語では Malaysian Association for the Blind。マレー語名が正式名称だが、 英語名の略称 MAB が呼称として使われることが多い。マレーシア盲人協議会 (NCBM)の傘下組織の 1 つ(筆者撮影)