数式処理ソフトと正課外活動
神戸大学・人間発達環境学研究科 長坂 耕作(Kosaku Nagasaka) 高橋 正 (Tadashi Takahashi)
Graduate School
ofHuman
Development and Environment,Kobe University
1
はじめに
これまでの教育における数式処理システムの活用方法は,
教育側による利用を中心と した,正課の授業や演習に限られることが多かった。
本報告では, 正課における数式処 理システムの活用について紹介するとともに, 学生 (主に大学院生) の正課外活動に積極的に数式処理システムを導入した経緯とその効果について報告する。
1.1
講義演習科目での教育利用
本研究集会でも様々な報告が行われているが,
近年の教育における数式処理システム の利用は,以下のタイプに分類することができる。
$\bullet$ 授業資料を数式処理システムで作成する - 複雑なグラフィックスを描画したり, 出力することが可能になる。 $-$ 複雑な数式を生成しやすく, それを $EX$ などに出力することも可能である。 - 数式処理システム自体をワープロとして利用することで,
資料作成が手軽に なる。 $\bullet$ 授業を板書でなく数式処理システムで実施する $-2006$年度,2007
年度の本研究集会で著者の一人が報告した活用形態である。
利点:
文字と数式がきれいに表示され, 修正も容易である。 欠点:
画面あたりの情報量が少なく, 書き込みが難しい。 $\bullet$ 演習問題を数式処理システムで作成する - 乱数などを用いて演習問題を自動生成し, $M$ などに出力してから印刷する。 - 一定の制約 (簡素な答えや中間式などの制約) 下で問題の作成が可能となる。 -演習問題と共に模範解答も同じ仕組みで自動生成させることも可能である。
数理解析研究所講究録 第 1624 巻 2009 年 45-4845
- 学籍番号に応じて問題を変化させたり, その採点にも利用できる。 $\bullet$ 数式処理システム自体を直接使って演習を実施する -Maple付属のチューター (Thtor) など, 数式処理システムを直接使うもの。 $-$
webMathematica
などを利用した, ウェブベースのシステムを使うもの。 $-$LeActiveMath
など, 既存のCAS
を土台としていないウェブベースのもの。 これ以外にも卒業論文指導や修士論文指導などの教育利用もあり, 学生による研究 開発の目的に利用されている。例えば, 数式を扱った様々な計算を行う研究開発にお ける実証コードのプロトタイプへの利用, 複雑な式やグラフィックスを生成し論文や報 告等に活用, 数式処理システム自体で論文作成を行うことなどが行われている。2
正課外活動における数式処理システムの利用
神戸大学人間発達環境学研究科では, 平成 19 年度から 21 年度まで, 大学院教育改革 支援プログラムの課題「正課外活動の充実による大学院教育の実質化」に取り組んでい る。 この課題の目的を端的に表現すると次の3つになる。 $\bullet$ 学術的な力量とは別に「ヒューマンコミュニティ創成マインド」 を醸成する $\bullet$ 現実の実践または研究フィールドで期待される構えや力量を育む。 $\bullet$ 積極的に大学院生の正課外活動を応援しようとするプログラムを展開する。 ここで, 大学院生の正課外活動としては, 大きく分けると次の 3 種類が存在する。 $\bullet$ 実践活動 - 大学の内外で集団的に行なわれている社会的活動への参加 - ボランティアを中心とする地域活動や市民活動などへの参加 (大学で実施されている社会貢献活動も実践活動も含む) $\bullet$ 学術活動 - 学会や研究会への参加参画, 研究チームの組織化 (研究費獲得のためのグラント申請なども含む) $\bullet$ 委員会活動 - 「大学のマネジメント」に関する組織的活動への参加46
2.1
サイエンスサポーター
大学院生に正課外活動の機会を,
数式処理システムによるコンテンツ作成という形で 提供しようと考え,大学院教育改革支援プログラムを契機に活動を始めたのが「サイエ
ンスサポーター」である。 その目的と組織を以下に記す。 $\bullet$ 活動の目的 $-$大学や大学院での高度な専門知識を活かしたコンテンツを作成する。
一在学中に作成したサイエンスに関するコンテンツを公開する。
一作成したコンテンツを使用する人と意見交換を行い作成を進める。
$\bullet$ 活動の組織 $-$ 正課外活動のため,人間発達環境学研究科の有志の大学院生が中心である。
$-$本発表者の長坂が教員側の後援として参加している。
以下は,2007
年
12
月に開催されたワークショップ「博士がつくる
21
世紀社会」
で報告したポスターからの引用である。
2007 年度後期は, 毎週月曜と火曜の19時$\sim$21時にペアプログラミングでMathematica を利用して, コンテンツが出来たら公開するという活動を行った。2008年度前期は, 毎 週月曜と火曜の17時$\sim$21 時に自由な組合せでMathematica
を利用して, コンテンツが出来たら公開するという活動を実施した。
この活動は, 現在も継続中である。実際に公 開されている主なコンテンツは,
円を点で描く, 二点を通る直線とその式, 中心と円周 上の一点から円を作る, 増減表, 外接円, 二次不等式の解の範囲, 三角形のサイクロイ ドなどである。サイエンスサポーターのウェブサイトの
URL
は,「$http://$scisuph kobe-uac
jp」であり,
「サイエンスサポーター」
を Google などで検索しても見付けることができる。3
最後に
数式処理システムを活用した正課外活動「サイエンスサポーター」への大学院生の参
加状況は,
正課外活動のため
.
その全容を把握することは難しいが, 新規参加者数は減少している。 また, 同じ時間と場所に集まってからコンテンツの作成をするのではなく, 個人で行き詰まった部分を協働で解決しようとする場に変化しつつある。 サイエンスサ ポーターの活動における教材作りは, 対象とする教材は簡単なものが多いが, 実際の問 題とプログラミングの間にはかなり大きな壁がある。 しかし, その壁を乗り越えること で, 大学院生の様々な資質の向上に役立っている。 2008年度前期は, サイエンスサポーターの展開事業として, 科学技術振興機構「理数 系教員指導力向上研修事業 (希望型) 」の一環で,「中等教育学校再編に向けた大学院