• 検索結果がありません。

特別支援学校における医療的ケアの現状 : 医療的ケアに携わっている教諭の視点より

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "特別支援学校における医療的ケアの現状 : 医療的ケアに携わっている教諭の視点より"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

特別支援学校における医療的ケアの現状

──医療的ケアに携わっている教諭の視点より──

濵田 憲太

・全

有耳

** キーワード:医療的ケア 特別支援学校 教諭 多職種連携 要約:医療的ケアの必要な幼児児童生徒数は増加傾向が継続しており、ケアの内容の複雑化・高 度化が進んでいる。本研究では、特別支援学校における医療的ケアの実施状況や体制整備に関す る現状と課題を明らかにすることを目的に、大阪府の特別支援学校に勤務する医療的ケアに携わ った経験のある教諭を対象に調査を実施した。医療的ケアに関する校内体制の課題について、6 割が「教員の知識向上が必要である」、「教員の連携が必要である」と回答し、「マンパワーの不 足」として特に看護師確保の難しさが挙がった。また、職種間の連携に関して、教育現場で医療 的ケアに携わる教員と看護師の考えや症状のとらえ方の違いに難しさを感じる現状が明らかとな った。教員が医療的ケアを行う意義については、多くの教員が肯定的な意見を有している一方 で、教員としての業務に加えて医療的ケを行うことへの負担感も認められた。今後も医療的ケア の内容の高度化・個別化がさらに進むことが予測される。学校における医療的ケアに関わる課題 解決に向けて、自治体、学校及び医療の連携により、さらなる人材育成、校内体制整備及び多職 種間の連携体制の構築を進める必要があると考えられた。

1.研究の背景と目的

近年の医療技術の進歩はめざましく、平成元年頃より日常的に医療的対応を必要としながら 在宅で生活する医療的ケア児の数は年々増加している。いわゆる「医療的ケア」とは、法律上 に定義された概念ではないが、一般的に学校や在宅等で日常的に行われている、喀痰吸引・経 管栄養・気管切開部の衛生管理等の行為を指しており、医行為(医療行為)とは区別された医 療的生活援助行為と位置づけられている。 現在、一定の要件を満たした場合には教員が医療的ケアを行うことが認められているが、現 行の制度化に至るまでには行政と専門家による検討が長年にわたり積み重ねられてきた経緯が ある(山田,2013)。文部科学省は平成 10 年から厚生労働省と各都道府県教育委員会の協力を ──────────────── * 高知県立 山田特別支援学校 田野分校 ** 大阪大谷大学教育学部 ― 3 ―

(2)

得て、医療ニーズの高い児童生徒に対する教育・医療提供体制のあり方についての検討を開始 した(「特殊教育における福祉・医療との連携に関する実践研究」,文部科学省,2003)。その 中で、学校等において医療的ケアが行われた場合の教育効果として、児童生徒の授業の継続性 の確保、児童生徒と教員の信頼関係の向上や保護者の負担軽減等の意義が明らかとなった。ま た、平成 16 年の厚生労働科学研究費補助事業(「在宅及び養護学校における日常的な医療の医 学的・法律学的整理に関する研究会」)による検討結果をうけ、平成 16 年 10 月には文部科学 省と厚生労働省から「盲・聾・養護学校における痰の吸引等の取り扱いについて」が通知され た。これにより実質的違法性阻却の考え方に基づいて、「看護師が常駐することや必要な研修 を受けること等を条件とし、特別支援学校の教員が痰の吸引や経管栄養を行うことはやむを得 ない」とする考え方が示されたのである。最終的には、平成 23 年 6 月の介護サービスの基盤 強化のための介護保険法等の一部を改正する法律による社会福祉士及び介護福祉士法の一部改 正により、平成 24 年 4 月からは、一定の研修を修了し喀痰吸引等の業務の登録認定を受けた 介護職員等(「認定特定行為業務従事者」と呼ばれる)が、一定の条件の下に特定の医療的ケ ア(「特定行為」と呼ばれる)を実施できるようになった。この制度改正により、学校の教職 員についても特定行為については法律に基づいて実施することが可能となり、学校における医 療的ケアの実施が広く普及することになった。現在、教員が実施できる医療行為(特定行為) の内容は、喀痰吸引(口腔内及び鼻腔内)、気管カニューレ内の喀痰吸引及び経管栄養(胃瘻、 腸瘻及び鼻腔チューブからの経管栄養)となっている。 令和元年度の学校における医療的ケア実施体制状況調査(文部科学省,2019)によると、医 療的ケアの必要な幼児児童生徒は 9.845 名(平成 29 年度は 8,218 名)と増加傾向が継続してお り、そのうち特別支援学校の在籍児数は 8,392 名であった。特別支援学校在籍児の医療的ケア の内訳でみると、口腔・鼻腔内吸引(咽頭より手前)が最も多く(通学 3,257 名、訪問教育 1,170 名)、経管栄養(胃ろう)が次いでいる(通学 3,173 名、訪問教育 1,237 名)。一方、特定 行為以外の医療的ケアを必要とする幼児児童生徒も増加しており、人工呼吸器の管理を必要と しながら通学している幼児児童生徒は 475 名と、学校における医療的ケアの内容の高度化が進 んでいる現状がある。このような現状の中で、平成 31 年 3 月に文部科学省は、「特別支援学校 における医療的ケアの今後の対応について」として学校における医療的ケアの実施に関する検 討会議の最終の取りまとめ結果を公表している(文部科学省,2019)。その中では学校におけ る医療的ケアに関する基本的な考え方として、①必要な職員の確保と安全な実施、②医療的ケ アに係る関係者の役割分担と相互連携の必要性、③保護者の理解と協力、④教育委員会の役割 等が具体的に示されており、この考え方に基づいて学校現場でのさらなる体制整備が進められ ているところである。 本研究では、平成 24 年に学校教職員による医療的ケアの実施が制度化されてから 7 年が経 ― 4 ―

(3)

過ししようとする中で、特別支援学校における医療的ケアの実施状況や体制整備に関する現状 と課題を明らかにすることを目的に、大阪府の特別支援学校に勤務する医療的ケアに携わった 経験のある教諭を対象に調査を実施した。

2.研究の方法

(1)調査対象 対象は、大阪大谷大学教育学部特別支援教育実践研究センターが実施する「令和元年度小中 学校、高等学校、支援学校特別支援教育コーディネーター・アドバンス研修」の参加者のう ち、大阪府立の特別支援学校に勤務し、医療的ケアに携わった経験のある教諭 50 名とした。 (2)調査期間 令和元年 10 月 1 日から 11 月 31 日 (3)調査方法と調査内容 研修会で研究説明書及び調査用紙を配布した。調査は無記名自記式で行い、同封した返信用 封筒を用いて回収した。その際、調査用紙の返信をもって研究への同意を得たものとした。 調査内容は、医療的ケアを行う際の気持ち、児童生徒の医療的ケアに関する情報、医療的ケ アを行うにあたっての学校内体制の課題、教員が医療的ケアを行う意義等についてである。

3.結果

(1)回答者の属性 回答数は 46 人(92.0%)で、性別は男性が 19 人(41.3%)、女性が 25 人(54.3%)、未記入 が 2 人(4.3%)であった。 回答者の年代は、20 歳代が 13 人(28.3%)、30 歳代 20 人(43.5%)、40 歳代が 12 人(26.1 %)、50 歳代が 1 人(2.2%)と、30 歳代が最も多かった。 回答者の教員経験年数は、2 年未満が 3 人(6.5%)、2 年以上 5 年未満 12 人(26.1%)、5 年 以上 10 年未満が 13 人(28.3%)、10 年以上 20 年未満が 13 人(28.3%)、20 年以上 30 年未満 が 4 人(8.7%)、30 年以上が 1 人(2.2%)と、2 年以上 20 年未満が計 38 人(82.6%)と多数 を占めた。 回答者がこれまでに担当した医療的ケアが必要な児童生徒数は平均 13.4 人であり、経験し た医療的ケアの内訳は、口腔及び鼻腔からの喀痰の吸引が平均 7.4 人と最も多く、胃ろう・腸 ― 5 ―

(4)

ろうからの経管栄養が平均 6.9 人、気管カニューレ内の喀痰の吸引は平均 4.2 人、鼻腔チュー ブからの経管栄養は平均 2.2 人であった。 (2)医療的ケアを行う際の気持ち 医療的ケアを行う際の気持ちについて、選択肢から回答を求めた結果(複数回答)、「実施し 始めた頃は、とても不安であった。」が 39 人(84.8%)と最も多く、「看護師の存在が安心に 繋がっている。」が 38 人(82.6%)、「経験していくうちに不安は軽減し て い る。」が 31 人 (67.4%)、「緊急時への対応が不安である。」が 16 人(34.8%)、「医療的ケアを教員が行うこと に難しさや課題を感じる。」が 15 人(32.6%)、「何度経験しても不安は解消されにくい」が 14 人(30.4%)あった(表 1-1)。 医療的ケアを実施する際の回答者の気持ちを、教員経験年数別(5 年未満群、5 年以上 10 年 未満群、10 年以上 20 年未満群、20 年以上群の 4 区分)にみた結果を表 1-2 に示した。「実施 しはじめた頃はとても不安であった」を選択した割合は、5 年未満群と 10 年以上の者では 85 %以上と高率であったのに対し、5 年以上 10 年未満群では 69.2% と低率であった。不安の軽 減状況に関する質問の中で「何度経験しても不安は解消されにくい」については、5 年未満群 及び 20 年以上群(それぞれ 42.9%、40.0%)が、5 年以上 10 年未満群及び 10 年以上 20 年未 満群(それぞれ 15.4%、30.8%)に比して高率であった。また、「緊急時への対応に不安があ る」を選択した割合が最も低かったのは、10 年以上 20 年未満群の 38.5% であったのに対し、 最も高かったのは 20 年以上群の 100% であった。さらに、「医療的ケアを教員が行うことに難 しさや課題を感じる」と回答したものは、経験年数が増加するほど高率であった。 表 1-1 医療的ケアを実施する際の気持ち ― 6 ―

(5)

(3)児童生徒の医療的ケアに関する情報について 児童生徒の医療的ケアに関する情報について、「まあ得られている。」と回答したのは 30 人 (65%)、「よく得られている。」と回答したのは 13 人(28%)と両者をあわせると 93% が情報 は得られていると回答しており、「あまり得られていない。」と回答したのは 3 人(7%)、「得 られていない。」と回答したものはなかった(表 2)。 (4)看護師との連携 医療的ケアを行う際に看護師との連携で感じる困難さについては、「ほとんどない」と回答 したのが 28 人(60.9%)と最も多く、「たまにある」と回答したのは 17 人(37.0%)、「よくあ る」と回答したのは 1 人(2.2%)であった(表 3)。 表 1-2 教員経験年数別にみた医療的ケアを実施する際の気持ち 教員経験年数 5 年未満 (n=15) 5 年以上 10 年未満 (n=13) 10 年以上 20 年未満 (n=13) 20 年以上 (n=5) 実施しはじめたころは、と ても不安であった 80.0% 69.2% 92.3% 100.0% 経験していくうちに不安は 軽減している 66.7% 69.2% 61.5% 80.0% 何度経験しても不安は解消 されにくい 40.0% 15.4% 30.8% 40.0% 緊急時の対応への不安があ る 53.3% 61.5% 38.5% 100.0% 看護師の存在が安心につな がっている 73.3% 76.9% 100.0% 80.0% 医療的ケアを教員が行うこ とに難しさや課題を感じる 20.0% 30.8% 38.5% 60.0% 表 2 児童生徒の医療的ケアに関する情報について ― 7 ―

(6)

さらに、医療的ケアを行う際に看護師との連携で感じる困難さについて、「たまにある」と 「よくある」と回答したものに対して、具体的にどのような状況で困難を感じやすいかについ て、4 つの選択肢から選択を求めた上で(複数回答)、自由記述での回答も求めた。その結果、 最も多かったのは「教育と医療の考え方の違い」12 人(66.7%)、次いで「看護師とコミュニ ケーションをとる時間が不足」が 7 人(38.9%)、「看護師のマンパワーが不足」3 人(16.7 %)、「看護師と教員の知識に差がある」が 2 人(11.1%)あった(表 4)。自由記述で得られた 回答は以下のとおりである。 ・酸素飽和度(SpO2)の許容範囲や吸引をどの程度まで行うのかなどの基準が、看護師に よって異なる。 ・看護師間での意見の違いで担任や保護者とトラブルが起こることがある。 ・看護師と教員の関係性(教員が看護師に頼りすぎるなど)。 (5)医療的ケアに関する校内体制の課題 医療的ケアに関する校内体制の課題について選択肢から回答を求め(複数回答)、自由記述 でも回答を求めた。その結果、「教員の知識向上が必要である」と回答したものが 29 人(63.0 %)「教員の連携が必要である」が 29 人(63.0%)、「マンパワー不足を感じる」が 12 人(26.1 %)、「研修の機会が必要である」が 12 人(26.1%)、「主治医との連携の機会が少ないと感じ 表 3 看護師との連携で感じる困難さ 表 4 看護師との連携の際に感じる困難さの内容 ― 8 ―

(7)

る」が 11 人(23.9%)みられた(表 5)。 自由記述では以下の回答が得られた。 ・たくさん研修を受ける機会はあるが本当に役立つ内容の研修が少なく、外部の研修を受け に行く余裕がない。 ・学校勤務の看護師が不足している。 ・医療的ケアを行うことをよく思わない教員もいる。 ・子供の学習機会の保障と安全な医療的ケアの実施両方の板ばさみになるので心苦しい時が ある。 ・養護教諭の知識と専門性の向上 ・保護者の要望と学校で可能な対応を検討すること (6)教員が医療的ケアを行う意義 教員が医療的ケアを行う意義について選択肢による回答(複数回答)と自由記述で回答を求 めた。その結果、「児童生徒の登校できる機会が増えること」と回答したものが 40 人(87.0 %)、「児童生徒への教育の機会の保障、教育内容の充実」が 39 人(84.8%)、「保護者・家庭 への支援」が 29 人(63.0%)、「教員と児童生徒の関係性の深まり」が 17 人(37.0%)、「児童 生徒の発達・成長が見られること」が 14 人(30.4%)、「教員の専門性の向上」が 8 名(17.4 %)みられた(表 6)。 自由記述による回答は以下のとおりであった。 ⃝教育に関すること ・医療的ケアは教育を保証する為のあくまでも補助的な手段であるが、医療的ケアを教員が実 施するための業務が膨大である。その為日々の児童の指導や、授業・教材研究の為の時間が なくなっていると感じる。 ・医療的ケアを行なっていることで生徒の少しの変化に気付き、その日の学習内容を変えるこ 表 5 医療的ケアに関する校内体制の課題 ― 9 ―

(8)

とが出来ているので学習にプラスな面もあるかもしれない。 ・教員の仕事は授業の中で子供達の人格形成を行うことであり、医療的ケアはその前段階に必 要最低限のことであると考える。 ・全ての医療的ケアを看護師が出来ることが一番だと思うが、医療的ケアを通して保護者との 関わり、信頼関係が深まっている部分もある。 ・医療的ケアにはリスクがあるが、児童生徒が友達と楽しんでいる様子を見たら、医療的ケア を学校で教員が行う大切さをとても感じた。「医療的ケアの為に登校できない」という状況 は良くない。 ⃝人員に関すること ・現場に求められる医療的ケアの専門性がより高度なものになってきており、教員、看護師へ の負担が大きくなっていると感じる。特に看護師が不足している。安全性を考えるならもっ と人員を増やしてほしい。 ・教員が教育活動に専念できるよう看護師の数を増加して欲しい。 ・近年は人工呼吸器、カフアシスト、中心静脈栄養(IVH)等ケアの種類が複雑になってい る。保護者からの要望や要求も高い。対応するために見合う教員や看護師の増員は不可欠で ある。 ⃝校内体制に関すること ・人工呼吸器が必要な児童生徒への対応などの高度な医療を「学校に求める」には無理がある と感じる。大きな負担、責任を感じている教員は多いと思う。 ・学校によって医療的ケアのマニュアルが異なることがあり、異動するたびに混乱することも ある。 ・ケアが必要な児童であっても可能な限り周りの児童たちと同じだけの経験ができるよう環境 整備をしていくことが大切であり、保護者・教員・学校看護師などがもっと繋がっていけれ ばと思う。 ・医療的ケアがスムーズに行われることで、児童達が同級生、同世代の友達と同じ空間で過ご すことができることがとても意義あると感じる。 ・地域の学校における医療的ケアの体制整備が十分でないと感じる。 ⃝その他 ・教員が行える医療的ケアの内容を広げてほしい。 ― 10 ―

(9)

4.考察

(1)特別支援学校における医療的ケアの現状と校内体制の課題 特別支援学校における医療的ケアの現状について、行っている医療的ケアの内訳は口腔・鼻 腔からの喀痰吸引が最も多く、次いで胃ろう・腸ろうからの経管栄養が多かった。これは、全 国的な傾向と同様であった(文部科学省,2019)。また、個人の医療的ケアに関する情報が十 分に得られているかについては、「まあまあ得られている(65%)」と「よく得られている(28 %)」を合わせると 93% あり、医療機関や家庭からの情報共有に関する課題は大きくない状況 にあることが推測された。 「医療的ケアを行う際の気持ち」では、67.4% が「経験するうちに不安は軽減している」と 回答した一方で、約 3 割の教員が「医療的ケアを教員が行うことに難しさや課題を感じる」 「何度経験しても不安は解消されにくい」と回答した。一方、医療的ケアを実施する際の気持 ちを教員経験年数別にみた結果の中の不安の軽減状況に関する質問でみると、経験年数 5 年未 満の短い者と 20 年以上の長い者で不安が高い傾向がみられた。また、緊急時の対応への不安 についても、10 年以上 20 年未満群が最も低かったのに対し、最も高かったのは 20 年以上群 であった。背景要因として、経験年数が 5 年以上から 20 年未満の時期は、教員業務にも慣れ 自身の指導力を高めている時期であると同時に、様々な事象への対処行動についても柔軟性が ある時期であることが推測される。経験年数の比較的浅い時期から医療的ケアに携わること が、ケアスキルの習得と自信の獲得において重要であるといえるのかもしれない。 医療的ケアに関する校内体制の課題について、「教員の知識向上が必要である」「教員の連携 が必要である。」と回答したものは 6 割強を占め、「マンパワーの不足」と回答したものは 3 割 弱であった。自由記載では、看護師確保の難しさ、子どもの学習機会の保障と安全な医療的ケ アの実施を並行して行うことの難しさ等が挙げられた。文部科学省は平成 31 年 3 月の通知 表 6 教員が医療的ケアを行う意義 ― 11 ―

(10)

「学校における医療的ケアの今後の対応について」の中で、各教育委員会の役割として、医療 的ケア児の受け入れに備え、地域内の学校における医療的ケア児に関する総括的な管理体制を 整備することを求めている。その中には、学校医・医療的ケア指導医の委嘱や護師等の配置、 看護師等や教職員の研修や養成、緊急時の対応指針の策定、ヒヤリ・ハット等の事例の蓄積及 び分析、新たに対応が求められる医療的ケアの取扱いの検討等が含まれている(文部科学省, 2019)。医療的ケアを安全にかつ教育活動の中で実施するための校内体制整備に際して、学校 単位で解決の難しい問題については教育委員会が各学校の現状と課題を早期に探知し、適切か つ迅速な対応を進めることが、現場の教員が安心して医療的ケアを実施できる体制整備に必要 であると考えられる。一方で、各学校においては教員間の情報共有と連携がスムーズに行われ るための具体的な方策の検討が必要であると考えられた。 (2)特別支援学校における多職種連携 教員と看護師との連携において困難を感じることが「ほとんどない」と回答したものは 6 割 であったのに対し、残り 4 割は「たまにある」、「よくある」と回答した。感じる困難の内容と して、「教育と医療の考え方の違い」が 66.7% と最も多く、次いで「看護師とコミュニケーシ ョンをとる時間が不足」が 38.9% みられた。泊らは、特別支援学校で医療的ケアを担う看護 師の困難と課題について、教育の場における看護師の役割の不明確さ、子どもの症状・重症度 に対する見方の違い、看護師・教員・養護教諭の連携に関する問題を挙げている(泊,2012)。 教育現場で医療的ケアに携わる教員と看護師の考え方や症状のとらえ方の違いは、専門性の違 いに加えて、教育場面に医療という別の専門性が混在するという状況が影響している可能性が ある。今後円滑に連携を図っていくためには互いの専門性を知ること、互いを尊重し合い相互 理解を進めること及び積極的にコミュニケーションを図ることが重要だと考える。そのために は時間的・人的な余裕が必要であり、行政による理解と対応も必要であると考えられる。 看護師のマンパワー不足については、「現場に求められる医療的ケアの専門性がより高度に なっており、教員と看護師への負担が大きくなっている。」「安全性を考えるならもっと人員が 必要である。」「教員が教育活動に専念できるよう看護師の数を増加して欲しい。」といった回 答があった。山本らは医療的ケアの実施・支援体制の課題を検討する中で、正規職員や常勤看 護師ではなくパート看護師や非常勤が多いという雇用形態が看護師確保の難しさにつながって いる可能性を指摘している。さらに、教員と看護師がうまくコミュニケーションをとりながら 協力することが重要であることにも言及している(山本,2019)。学校看護師の待遇改善や専 門性の向上が必要であり、やりがいを感じることができる職場環境整備が求められている。 ― 12 ―

(11)

(3)教員が医療的ケアを行う意義について 教員が医療的ケアを行う意義について、「児童生徒の登校できる機会が増えること」、「児童 生徒への教育の機会の保障、教育内容の充実」を 8 割強の対象が選択しており、「保護者・家 庭への支援」が 6 割強と次いだ。自由記載では「医療的ケアを行なっていることで生徒の少し の変化に気付き、その日の学習内容を変えることが出来ているので学習にもプラスな面もある かもしれない」、「医療的ケアを通して保護者との関わり、信頼関係が深まっている部分もあ る」といった肯定的な意見がある一方で、「医療的ケアを教員が実施するための業務が膨大で ある。その為日々の児童の指導や、授業・教材研究の為の時間がなくなっていると感じる」、 「人工呼吸器が必要な児童生徒への対応などの高度な医療を担うには無理があると感じる」と いった負担感を訴える意見もみられた。鈴木らは(鈴木,2016)、子どもが学校で医療的ケア を受けている保護者を対象に現状についての調査を実施し、養育者らは教員の医療的ケアに関 する負担の大きさ、医療的ケアに対する拒否感や不安感を抱く教員の存在を感じており、その 背景に負担感や不安感、事故やリスクから逃れるための自己防衛としての拒否があるのではな いかと考察している。一方で養育者らは教員の教育への姿勢や養育者と児童生徒を理解しよう とする努力も感じていると報告している。現場の教員らが自身の教員としての業務を全うしな がら、自身の専門領域と異なる業務を習得するという難しい状況の中で、様々な正と負の感情 を抱えている実態があることが推測される。これらの問題を解決するためには、どのような要 因がポジティブな感情につながるのか、逆に負の感情を引き起こすのはどのような要因なのか についても今後明らかにしていく必要があると考えられる。 最後に、本研究は大阪府内の全ての教員を対象として実施したものではないため、大阪府全 体の現状を反映したものではない。一方で、今回対象とした大阪大谷大学が実施している特別 支援コーディネーター・アドバンス研修会の参加者は、大阪府内の特別支援学校で特別支援 コーディネーターを担う立場にあること、さらに回答率の高さを考慮すると現状に近い結果で あるとも考えられる。 今後も障害の重度化・重複化が進み、医療的ケアの内容の高度化・個別化がさらに進むこと が予測される。学校における医療的ケアに関わる課題解決に向けて、自治体、学校及び医療の 連携により、さらなる人材育成、校内体制整備及び多職種間の連携体制の構築を進める必要が ある。 謝辞 本研究にご協力いただきました令和元年度小中学校、高等学校、支援学校特別支援教育コーディネー ター・アドバンス研修の参加者の皆様に心よりお礼申し上げます。 ― 13 ―

(12)

参考文献 鈴木和香子(2016):特別支援学校における医療的ケアの現状.日本小児看護学会雑誌.25(2),68-73. 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2003):平成 13・14 年度特殊教育における福祉・医療等と の連携に関する実践研究(最終報告書). 文部科学省(2019):令和元年度学校における医療的ケアに関する実態調査. https : //www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1406456_00008.htm(閲 覧 日:2021 年 1 月 25 日) 文部科学省(2019):学校における医療的ケアの今後の対応について(平成 31 年 3 月 20 日通知) https : //www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1414596.htm(閲覧日:2021 年 1 月 25 日) 泊 祐子(2012):医療的ケアを担う看護師が特別支援学校で活動する困難と課題.大阪医科大学看護 研究雑誌,2, 40-50. 山田景子(2013):特別支援学校における医療的ケアと実施に関する歴史的変遷.川崎医療福祉学会誌, 23(1),11-25. 山本陽子(2019):介護保険法改正後の特別支援学校における医療的ケアの実施・支援体制の実態.神 戸市看護大学紀要,23, 1-9. ― 14 ―

参照

関連したドキュメント

式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲

教育・保育における合理的配慮

これらの定義でも分かるように, Impairment に関しては解剖学的または生理学的な異常 としてほぼ続一されているが, disability と

世界的流行である以上、何をもって感染終息と判断するのか、現時点では予測がつかないと思われます。時限的、特例的措置とされても、かなりの長期間にわたり

児童について一緒に考えることが解決への糸口 になるのではないか。④保護者への対応も難し

いしかわ医療的 ケア 児支援 センターで たいせつにしていること.

【こだわり】 ある わからない ない 留意点 道順にこだわる.

 医療的ケアが必要な子どもやそのきょうだいたちは、いろんな