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新刊紹介 友野清文著『ジェンダーから教育を考える 共学と別学/性差と平等』

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Academic year: 2021

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本書は、 「教育とジェンダー」 について、 著者 がここ十年の間に発表した論文をまとめた論文集 である。論文はおもに、かつて勤務していた財団 法人日本私学教育研究所 (現一般財団法人日本私学 教育研究所) の紀要、 青山学院大学の兼任講師と して担当している全学共通教育システム「青山ス タンダード」 の紀要 「青山スタンダード教育論集」 、 そして現職の本紀要に掲載されたもので、本書の 出版に際して、新たな注を加えて再掲された。 第 1 部 「 ジェンダーと教育を考える 男女共学  別学論をめぐって 」では、ジェンダーの視点か ら、 「共学と別学」 を切り口にこれまでの学校教 育、特に女子校の問題点と課題について論じてい る。第 1 章「戦後の教育と現在の課題」では、戦 後の教育改革から「ジェンダー」の視点が登場す るまでの経緯を整理し、学校教育におけるこの問 題についての課題を示している。第 2 章「私学に おける男女 共学 と 別学 をめぐって」と第 3 章「男女 共学 と 別学 をめぐる諸問題」 では、男女共学と別学について検討する。第 2 章 では、特に私学で共学と別学が共存したのは、旧 教育基本法第五条で「男女の共学は、認められな ければならない」と定めた一方、文部省が別学を 承認したためだと指摘する。第 3 章では、米国が 男女平等政策の一環として推進した七○年代の男 女共学化が、男女平等に十分に貢献できず、改め て別学の意義が再評価されたと述べ、日米で女子 教育の必要性に関する主張と別学の存在意義の模 索がみられた。著者は、男女共学の教育が男女平 等を実現するとはいえないとし、結婚 育児と職 業をめぐる問題など別学によって実現できる教育 の可能性を指摘する。第 4 章「ジェンダーに敏感 な教育のあり方を求めて」は、著者が最重視する 「ジェンダーに敏感な教育」 の検討である。 著者 は、男女同等の教育を保障することは男女平等の 教育の必要条件にすぎず、 「ジェンダーの平等」 なしに 「 教育の機会均等」 「個に応じた指導」 は あり得ないとする。そこで「性差」ではなく「個 人差」を尊重して性の非対称性を自覚させ、 「差」 を明示化することで偏りを正す「ジェンダーに敏 感な教育」が必要であると述べる。 第 2 部「ジェンダーから見た教育の諸問題 両 性の自立へ向けて 」 では、 「子育て」 や 「仕事 と家庭の両立」のテーマを中心に、ジェンダーの 視点から捉えた教育の課題を述べる。第 5 章「教 育における ジェンダー問題 の再考」では「ワ ーク ライフ バランス (WLB) 」の問題を取り 上げ、第 7 章「ワーク ライフ バランスとジェ ンダー」では、WLBの課題が人の働き方 生き 方の基礎的条件に関する問題を提起し、教育にお ける人間形成の問題と 深 く関 連 すると捉える。 「職業的自立」 と 同 時 に「 生 活 的自立」 の実現が WLBを導 入 する条件として 不 可 欠 であり、その 鍵 が「 ケア ワーク (育児や 介 護 看護 等の 労 働) 」 力 の育成だと考える。第 6 章「学校評価とジェンダ ー」では、 二 ○○七年に義務 づ けられた学校の自 己 評価の 項目 に男女平等やジェンダーの関 連 項目 ― 86― 2013年 4月 30日発行 丸善プラネット A5判 352頁 定価 本体 3800円+税

ジェンダーから教育を考える

共学と別学

性差と平等

友野清

文著

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がないことに触れ、 イ ングランド教育水準局の 「ジェンダー指針」 、ユネスコの「ジェンダーに敏 感な指標」などを手がかりに「ジェンダーに敏感 な教育」を学校評価に位置づける必要性を指摘す る。第 8 章「キャリア教育とジェンダー」では、 労働と子育て環境が大きく変化するなかで、 「職 業教育」 重視の 「キャリア教育」 において、 「働 く」ことそのものの問い直しが必要だと主張する。 第 3 部「授業実践報告と構想 学生とともに考 え学ぶ 」は、おもに大学の授業実践報告で構成 され、学生のジェンダー意識を分析しながら「ジ ェンダーと教育」における課題を指摘する。第 9 章と第 11章は、 冒 頭で触れた 「 青山スタンダード」 の講座「自己理解」に関する章で、第 9 章「ジェ ンダーの視点から自分を振り返る」では、著者が 授業で「ジェンダーと教育」に関する課題をもと に学生の省察と自己理解を促し、第 11章「学生の ジェンダー意識と自己理解」では、学生にはジェ ンダー意識が内在するものの、授業を通して「ジ ェンダーの視点」を持つことで自身の人生を主体 的に選択する端緒の獲得を期待する。第 10章「学 生は現代の教育問題をどのように捉えているのか」 では、 「教育学」 を受講する学生の教育問題に対 する意識を分析する。第 12章「ジェンダーの視点 に立つ教育原理の構想」では、教職課程科目全体 でのジェンダーの視点の重要性 必要性について 言及する。学校教育の現場に内在するジェンダー 問題が「潜在的カリキュラム」として子どもたち に提示されていることに対して、 「ジェンダーの 視点に立つ教師教育 (養成と現職教育) 」 が 必要で あり、教職課程の必修科目である「教育原理」に この視点を導入すべきだと述べる。 第 4 部「 ジェンダーと教育 問題のこれから  性差 と 平等 をめぐって 」 で は、 再度 「特性」 をキーワードに今後の 「ジェンダーと教 育」の問題について議論する。第 13章「男女別学 論の現在」では、政府による「特性」とは「生物 的 本来的」な違いを前提とするジェンダー役割 であり、また「ジェンダーフリー」の解釈も男女 を「中性化」し、機械的、一律的であると指摘し た上で、性差 特性差を踏まえた議論は従来の男 女特性論とは一線を画し、 「ジェンダー平等」 と いう価値基準を明確に掲げ、性差に対応する教育 を議論することは可能だと述べる。第 14章「教育 基本法におけるジェンダー問題」では、二○○六 年に改定された教育基本法におけるジェンダー問 題を旧法第五条 (男女共学) の削除、第二条 (教育 の目的) に焦点を当てて検討する。 旧法第五条の 廃止は中教審などで議論され、二○○四年の中教 審最終答申で「男女共学」が削除されるが、国 会 での議論により「男女平等」が「教育の目標」の 一つとして第二条に 謳わ れることになる。著者は この「男女平等」が教育基本法で 謳わ れ、第二条 を教育 担 当者の教育目標と解釈すれ ば その意 義 は 大きいと捉え、最後に男女の特性の理解と男女別 学論の 新 しい 形 をどう考えるか、今後より 突 っ 込 ん だ議論が必要であると 結 ぶ。 近 年、 日 本 社 会 が 保守 化するなかで、 誤 解と 偏 見 が 隣 り 合 わ せ のジェンダーをめぐる議論、特に 「特性」 論はいっそうア ポ リア化し、 まさに セ ン シティブ な問題であると感 じ るが、 第 13章での 「ジェンダー平等」 に もとづく特性の問い直しの 議論については著者に大いに共感する。著者はタ イムリーな 話 題 や時事 的な問題、課題を 取 り上げ てジェンダーの問題を デッサ ンし、 「教育」 とい う構 図 の中でこれまでの課題と今後のあり 方 につ いて デザ インすることに 努 め、 「ジェンダーに敏 感な教育」の意 義 をぶれることなく一 貫 して主張 する。本 書 は 近 年のジェンダーと教育に関する問 題を 時 系列 的に理解し 把握 する上で最 適 の 書 であ り、学校教育そして 日 本 社 会 におけるジェンダー の問題の 核心 を理解する上で必 読 の 書 である。 (にった つかさ 千葉敬愛 短 期大学現代子ども学科 准 教授) ― 87―

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