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表音法と言語学的説明--英語教育の改善へのステップ

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Academic year: 2021

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(1)表音法 と言語学 的説 明 一 英 語 教 育 の 改 善 へ の ス テ ップー. 薫. 眞 砂. 1序. この 論 考 の 目的 は,外 国 語 教 育 の 発 音 指 導 と言 語 学 的 研 究 の 役 割 との 関係 を明 らか にす る と と も に,そ の 役 割 で ない もの との 区 別 を明 確 にす る こ とで あ る。 こ の論 考 は言 語 学 の教 育 にお け る 無 効 を証 明 す る もの で は ない 。 言 語 学 と教 育 の 領 域 的 区別 を明 らか にす る と同時 に,言 語 学 と教 育 の 境 界 領 域 の 検 討 を 目指 した い 。 この 論 考 の 主 張 を簡 単 に紹 介 す る。 外 国 語 学 習 にお い て,聞. く,話 す,読. む,書. く,の4技. 能. に つ い て 重 要 な こ と は,そ の 区 別 の み な らず,そ の 関 連 性 を明 らか に し,新 しい 視 点 を導 入 す る こ とで あ る 。(以下,聞 力,SPとWRが RDとWRの. くLS,話. すSP,読. むRD,書. くWRと. 記 す)。 従 来LSとRDが. 受信的能. 発 信 的 能 力 と して 一 対 に 考 え られ て きた 。 しか し学 習 過 程 にお い て はLSとSP, 組 み 合 わ せ も重 要 で あ る。 つ ま りよ く聞 くこ とが う ま く話 す こ との 前 提 にあ り,よ. く読 む こ とが う ま く書 くこ との 前提 にあ る 。 この 関 係 は必 ず しも前 者 が 後 者 に先 行 し優 先 す る だ け の もの で は な く,表 裏 一 体 の 関 係 で あ る と言 え る。 た と え ば う ま く聞 くた め に は,自 身 の 発 声 器 官 を使 っ て,ど. うす れ ば 「聞 い た とお りに発 音 を再 現 」 で き るの か を,学 習 者 が 理 解 し実 践 で. きな け れ ば な らな い 。 そ こ で 最 大 の 問 題 は次 の とお りで あ る。 外 国語 学 習 に お い て,学 習 者 の 母 語(以 下L1と 記 す) と学 習対 象 言 語(以 下L2と 記 す)の 音 韻 体 系 の 差 が,聞. い た音 の模 倣 ・再 現 を妨 げ る の で あ る。. 学 習 者 に と っ て この 差 を埋 め る 簡 単 で 有 効 な方 法 は,L2に. 対 応 す るLユ の 「近 似 音 」 を利 用 す る. こ とで あ る。L1を 捨 て る の で は な く,利 用 す る の で あ る。 本 論 考 で は近 似 音 の 概 念 を上 記 の 境 界 領 域 の 問題 と して 重 点 的 に 考 察 した い 。. 一37一.

(2) 近畿大学語学教育部紀要3巻2号(2004・3) 2理. 論 的 背 景 か らの 諸 間 題 の 概 括. 音 声 学 の 研 究 対 象 と そ の 分 類 と い う観 点 か ら 考 え る と,発 え る こ と が で き る 。 言 語 音(speechsound)の 音 の 特 性(acousticfeature)の 発 音 とは. 音 と い う 問 題 は 次 の3つ. 発 音 ・発 生,言. 記 述 で あ る 。 一 方,教. 「通 じ る よ う に 発 音 」 で き るSPの. 語 音 の 知 覚(perception),言. 育 実 践 の4技. 技 能 が 学 習 者 の もっ. 語 音 の連 鎖 が 音 波 とな る過 程 は. よ び 生 理 音 声 学(physiologicalphonetics)が. 音 波 の 伝 達 は 音 響 音 声 学(acousticphonetics)が,ま 知 覚 音 声 学(perceptualphonetics)が. 点 か ら 重 要 な こ と は,通. じ る よ う に 発 音 で き る こ と と,聞. い 理 論 構 成 と し て は 実 践 音 声 学(practicalphonetics)や. 受 け持 つ 。 そ して 教 育 実 践 の 観 け ば わ か る こ と な の で,教. 育 に よ り近. 主 観 的 音 声 学(subjectivephonetics). が 重 要 で あ る 。 こ れ ら の 音 声 学 が 外 国 語 教 育 で 重 要 だ と 思 わ れ る 理 由 は,母 た 他 者 の 発 音 を 聞 き 分 け,自. 受 け 持 ち,. た 音 波 の 脳 で の理 解 は 聴 覚 音 声 学. (auditoryphonetics)や. 言 語 音 を 発 音 し,ま. 語. 能 の 観 点 か ら 整 理 す る と,. 技 能 と,「 聞 け ば わ か る 」LSの. と も 切 実 な 問 題 と い え る 。 ま た 言 語 研 究 の 領 域 か ら考 え れ ば,言 調 音 音 声 学(articulatoryphonetics)お. の段 階 で捉. 語 の 制 約 を受 けず に. 分 で 発 音 し な が ら 筋 肉 運 動 を 知 覚 ・確 認 し,自. 分 の主 観 的判 断 で 言語 音 の 差異 を聞 き分 け る こ と を重 視 した 音 声 学 的研 究 だ か らで あ る。 主 観 的 実 践 が 正 し い か ど う か を 判 断 す る ガ イ ド ラ イ ン に は,実 客 観 的 音 声 の 研 究 と記 述 が 必 要 で あ る が,教. 験 音 声 学(objectivephonetics)つ. 育 実 践 で は そ れ に 先 行 し て,主. ま り. 観的音声判断が重要. で あ る と思 わ れ る 。 そ れ ら を 考 慮 に 入 れ た 上 で,本 声 学 は,教. 論 考 で 議 論 し た い 対 象 は,音. 声 表 記 方 法 とい う問 題 で あ る。 音. 育 で の 学 生 の 試 行 錯 誤 的 実 践 と い う よ り記 述 言 語 学 の 問 題 を 扱 う こ と を 主 と す る 。 音. 声 の 表 記 と い う 場 合,日. 本 で は ひ らが な,カ. で 英 語 を 学 び 始 め る こ とが,外. タカ ナ に加 え ロ ー マ字 を小 学 校 で学 習 した後 に中学. 国 語 と し て の 英 語 学 習 に 障 害 を 与 え る と思 わ れ る 。 さ ら に 辞 書 の. 音 声 表 記 の 問題 もあ る。 一 般 に は英 語 の 入 門 と と も に多 くの 学 習 者 が 英 和 辞 書 で 国 際 音 標 文 字 (lnternationalPhoneticAlphabet(以. 下IPAと. 記 す))を. 目 に す る が,は. た して 学 習 者 の 何 パ ー. セ ン トが そ の 読 み 方 を マ ス タ ー す る に い た る の か 問 題 で あ る 。 ま た ア メ リ カ 系 英 英 辞 典 で は 独 自 の 音 声 表 記 を 用 い る が,日. 本 の 一 般 学 習 者 は そ れ らの 発 音 の 仕 方 を 理 解 して い る の だ ろ うか 。. 国 際 音 標 文 字 と 音 声 の 構 造(言 試 み は,H.Sweet(1877)')に れ る が,IPAの. 語 学)的. 記 述 に つ い て 概 括 す る と,英. よ る 改 良 し た ロ ー マ 字 を 用 い た ロ ー ミ ッ ク 表 記 の 提 案 な ど に も遡. 直 接 の 起 源 と し て は,D.Jones(ユ917)21が0.Jespersenら. 協 会 を つ く り,1888年. 語 音 声 を記 号 で 表 記 す る. のPrinciplesoftheInternationalPhoneticAssociationの1版. 一38一. とともに国際音声学 の 提 供 以 来,現.

(3) 表音法 と言語学的説明 在 に 至 る もの で あ る。IPA以. 外 に も,音 声 の 言 語 学 的 記 述 の 試 み は 続 き,A。M.Bel1(ユ867)31. を 経 て,構 造 主 義 言 語 学 か ら生 成 文 法 に い た る 過 程(Jackobson(ユ952)4)やChomsky&Halle (1968)5り で も音 声 ・特 定 音 を対 象 と した客 観 的記 述 の 試 み が な され,言 語 学 的探 求 が 行 わ れ た 。 そ れ らの共 通 点 は,調 音 点 と調音 様式 の記 述,単. 音 の 調 音 要 素 を文 字 や 数 字 の 組 み 合 わ せ で 効 率. 的 に記 述 し明示 す る た め の工 夫,調 音 点 と調音 の た め の 器 官 呼 吸 器 の 関 連 を記 述 す る こ と な どで あ っ た。 しか し今 回 の論 点 か ら見 れ ば,言 語 表 記 方 法,構 造 主 義 言語 学 的 な 言 語 記述 の 方 法 論 に 対 して, 教 育 実 践 か らの 問 い直 しは,学 習 者 が 音 声 表 記 を み て 自分 で発 音 で きる か ど うか,と い う こ とが 重 要 なの で あ り,新 し く聞 い た外 国語 を文 字 言 語 の み な らず,必. 要 に応 じて,な ん らか の 音 声 表. 記 で 書 き取 れ,自 分 の 書 き取 っ た音 声 表 記 を手 が か りに,学 習 者 自身 が 原音 に 近 く再 生 ・発 音 で き る か ど うか,が. 問 題 の 中 心 とな る。(な お 表 記 の 簡 便 化 の た め に,本 論 考 で 「言 語 学 」 と い う. 場 合,広 義 の 生 成 文 法 を含 む現 代 言 語 学 を指 し,さ らに そ の 中 の音 韻 部 門 あ る い は,各 種 「音 声 学 」 を含 む こ と を原 則 とす る。). 3発. 音 と発音表記. 言 語 学 か ら外 国 語 教 育へ の 道 筋 は,次. の よ うに整 理 され る。 言語 学 の発 音 へ の ア プ ロー チ は,. 音 韻 体 系 の規 定 と深 くつ な が っ て い る 。 音 韻 と は言 語 音 声 の 規 範 的 側 面 で あ る。 ま た発 音 方 法 の 規 定 は,口 内諸 器 官 の位 置 や動 か し方 に 関 す る 規 定 で あ る。 母 音 の発 音 を例 に とる と,言 語 学 的 に は,発 音 には まず 肺 か らの 呼 気 が あ り,呼 気 の 動 きや 通 過 に つ い て,(1)口. の 開 きの 大 きさ(下 顎 の 下 が り具 合),(2)舌. の 盛 り上 が りや そ ら し具 合),(3)口. 唇 の 丸 め 具 合,の3点. の 調 音 最 高 点 の 位 置(舌. 中央部. が 関 わ る。 こ の よ う に して,言 語 学. 的 ・理 論 的 側 面 か らは母 音 や子 音 な ど,そ の言 語 の特 定音 は 上 記 の よ うな項 目 を規 定 す る こ と に よ って 定 義 ・記 述 さ れ る こ とに な る。 人 間言 語 の全 て の発 音 に対 し,共 通 の記 述 方 法 が使 わ れ る こ と は有 意 義 で あ り,効 率 的 で あ る。 外 国語 教 育 に お い て 学 習 者 の 母 語Lユ と学 習 対 象 言 語L2に 共 通 の 科 学 的 ・客 観 的 説 明 が 得 られ るの で あ る。 残 され た 問 題 は,学 習 者 が 上 記 の よ う な メ カ ニ ズ ム を理 論 と して理 解 した と して も,そ れ を実 践 す る こ とが で き,実 践 す るた め の 方 法 を持 た な けれ ば,外 国語 の習 得 が 難 しい とい うこ とで あ る 。 発 音 実 践 にお い て 口 腔 内 の 位 置 や 舌 の 動 き を主 観 的 に確 認 で きな けれ ば な らな い。 さ らに外 国 語 の 運 用 の た め に は,口 内 の 発 音 メ カニ ズ ムの 主 観 的 意 識 は さ らに無 意 識 な ほ どに 自動 化 さ れ. _39.

(4) 近畿大学語学教育部紀要3巻2号(2004・3) な け れ ば な らな い。 自動 化 の た め の 方 法 と トレー ニ ン グが 必 要 で あ る 。 こ の 過 程 で 重 要 な こ と は学 習 者 のLユ に と っ て は発 音 行 為 は無 意 識 で あ って も,L2で. は意識的. に行 わ ね ば な らな い どこ ろ か,場 合 に よっ て は発 音 方 法 の 見 当 が つ か な い こ とが あ る とい う こ と で あ る。 こ れ は学 習 者 に とっ て最 初 の外 国語 学 習 で あ れ1ぎな お さ らで あ る 。 また そ の 場 合 音 声 学 的 説 明 が 十 分 習 得 で きな い ま ま教 育 が進 め られ た り,学 習 時 間 が不 足 す る な どの場 合 も考 え られ る。 日本 に お け る英 語 教 育 の場 合 で あ れ ば,上 記 の 事 情 に 加 え てIPAの クスPhonicsの. 学 習 の 不 徹 底,フ. ォニ. 導 入6}も 含 め て,音 声 指 導 方 法 が 多岐 に わ た る な どの状 況 が,外 国 語 の 正確 な 発. 音 習 得 を困 難 に して い る。 この よ うな 外 国 語 学 習 上,と. りわ け発 音 習 得 に 関 す る困 難 に対 す る方 法 論 的提 案 が 「近 似 音 」. の 発 想 で あ る。 まず こ こで 簡 単 に 「近 似 音 」 につ い て概 括 して み る。 上 記 の よ う に学 習 者 に と ってL2の 発 音 は,理 論 的 に 理 解 して もそ の 自動 化 は 難 し い。 理 論 的 理 解 が 不 十 分 で あ れ ば な お さ らで あ る。 そ の 場 合 学 習 者 に とっ て 簡 便 な 方 法 は,L1の. 発音か ら. の 類 推 で あ る。 類 推 と は近 似 的 要 素 を 介 在 させ て,不 完 全 な が ら言 語 行 為 を 行 う こ とで あ る。 「近 似 」 の発 想 は言 語 学 的 定 義 か ら い え ば,不 正 確 と同 義 で あ る.し か し外 国語 の 言 語 運 用 の側 面 か らみ れ ば ど うか 。 運 用 と は簡 単 に言 え ば 「最 低 限 通 じる,コ う意 味 で あ る 。NativeSpeakersofEnglish(以 50%を. 下NSEと. ミュニ ケー シ ョ ンで きる」 とい. 記 す)へ の 完壁 な伝 達 率 をユ00%と して,. 「最低 限 通 じる 」 と考 え れ ば 「近 似 」 と は 「最 低 限 通 じる ラ イ ン を超 え る もの 」 と定 義 で. きる7)。 この よ う な こ とか ら,ま ず こ こで 言 語 学 と教 育 の 架橋 的 理 論 と して,「 近 似 音 」 の 概 念 を 中心 と した外 国 語 学 習 上 の 手段 の提 案 を以 下 で 検 討 した い 。 外 国 語 学 習 に関 して,特. に発 音 の. 習 得 につ い て は,学 習 者 のL1を 利 用 し援 用 した 補 助 手 段 が 有 効 で あ る と思 わ れ る が,そ の 具 体 的 な 方法 に つ い て は,さ. ま ざ まな提 案 が な され て い る の で,そ れ らの 検 討 を行 い,ま た 言 語 学 の. 側 か らの 同様 の 問 題 の指 摘 に つ い て 考 え た い 。. 4斉. 藤厚見のカナ表記理論 とさまざまなカナ表記理論 と方法. 斉 藤(2000)8)の. 英 語 発 音 習 得 に関 す る理 論 的骨 子 は次 の よ うで あ る 。 日本 人 学 習 者 の英 語 リ. ス ニ ング の 問 題 点 は,Llた 本 語 特 定 音 は,5母. 音,14子. る 日本 語 とL2た る 英 語 の特 定音 の 数 の 問 題 で あ る よ う に見 え る 。 日 音 で そ の組 み 合 わせ か ら特 定音 は(5+5×14=)75音. 方,英 語 特 定 音 は12母 音,24子. 音 で そ の組 み 合 わせ か ら(ユ2+12×24+24=)324音. 語 の 特 定 音 数 の 圧 倒 的 な不 足 が 英 語 学 習 の 障 害 に な る の だ ろ う か。. 一40一. である。一 で あ る。 日本.

(5) 表音法 と言語学 的説 明 斉 藤 の 主張 は こ の 日本語 特 定音 と英語 特 定 音 の 計 算 に 疑 義 を呈 す る こ とか ら始 ま る。 斉 藤 の 指 摘 で興 味 深 い点 の 一 つ は,日 本語 単独 特 定音 に は 「な い 」 が,英 語 単独 特 定 音 に は 「あ る」 と さ れ る音 の い くつ か は,「 日本 語 の 会 話 な ど言 語 運 用 の 場 で は,存 在 す る 」 とい う指 摘 で あ る。 そ れ らは文 脈,表 現 環 境 に よ っ て は,存 在 して お り,問 題 は特 定音 の存 在 の 有 無 で は な く,ま ず 日 本 語 使 用 者(学 習 者)が. そ の事 実 に気 づ かず,ま. た 日本 語 の現 行 カナ 表 記 で,そ れ らい わ ば 特 殊. な 日本 語 特 定 音 に相 当す る文 字 表 現 が存 在 しな い,と い うこ とが 重 要 な の で あ る 。 そ の 例 を挙 げ れ ば,「価 値 観 」(か 「ち」 か ん)の 達 率50%を. 「ち」 はcatch/k謝. ∫/の/t∫/と 同 じ(あ る い はNSEへ. の伝. 超 え る)と 考 え られ る。 同例 は 「調 べ る よ」(し 「ら」 べ る よ)と,bell/bel/の/1/,. 「 真 っ 昼 間」(ま 「っ ぴ」 る ま)の 「し」 とmush/maeS/の/∫/な. 「っ ぴ 」 とmap/map/の/p/,「. 真 四 角」(ま 「し」 か く)の. どで あ る。. 斎 藤 の 主 張 ・論 点 は次 の よ う に ま とめ られ る。 日本 語 の実 際 の 日常 会 話 で の運 用 で は英 語 の特 定 音 と同 じ特 定 音 が 存 在 す る。 したが っ て,特 定 音 の数 の不 足 の 問題 で は な く,表 記 方 法 の 問題 で あ る。 日本 語 の 現 行 の カ ナ 文 字 表 記 方 法 が,学 で は,カ ナ 表 記,カ. 習 者 の 発 音 を制 限 して い る。(便 宜 上,本 論 考. ナ とい う場 合,狭 義 で は カ タ カ ナ 表 記,広. 義 で は母 語 表 記 を指 す もの とす. る。)結 論 と して,母 語 の文 字 表 記 法 の改 良工 夫 が効 果 的 で あ る,と い う こ と にな る 。 斉 藤 の カナ 表 記 シス テ ム も含 め て,「 近 似 音 」 のLユ 表 記 利 用 は,日 本 で は新 規 の もの で は な い。 英 語 の 学 習 に限 って も,カ ナ 表 記 の 利 用 とそ の 提 案 は な され て き た。 日本 で 試 行 さ れ る,英 語 学 習 上 の カ タ カナ 表 記 方 法 の 整 理 分 類 の 試 案 は次 の よ う に な る。A.現 カ タ カナ 表 記,C.現. 行 カ タ カ ナ表 記,B.改. 良. 行 カ タ カナ+記 号 付 加,で あ る。 また 日本 の 英 語 学 習 上 の さ ま ざ ま な英 語. 発 音 表 記 につ い て の 分 類 を簡 単 に,特 殊 記 号 化 の 側 か ら母 語 カナ 利 用 の 方 向 に向 か っ て配 列 す れ ば次 の とお りで あ る。 これ は また,「 正 確 だが 習 得 が 困難 」 な側 か ら,「 習 得 が 容 易 だか 正 確 さ に 欠 け る」 側 へ の 配 列 と同 じで あ る。(1)IPA,(2)ウ (ほか)方 式,(4)三 ナ表 記,で. 省 堂 ヴ ィ ス タ英 和 辞 典 方 式,(5)市. ェ ブ ス タ ー 等 ア メ リ カ辞 書 方 式,(3)斎. 藤. 販英語教材 に見 られる さまざまな カタカ. あ る。. こ の うち(3),(4),(5)は. カ タカ ナ 表 記 に よ る英 語 発 音 の 試 み で あ るが,こ. れ らは さ ら に,次 の. 3種 類 に大 別 さ れ る 。 そ れ ぞ れ を表 記 例,使 用 著 書 や 辞 書 の 例,利 点,欠 点 の 順 で 列 挙 して ゆ く。 第1に,現. 行 カ タ カ ナ活 用 に よ る英 語 発 音 カ ナ 表 記 は次 の よ う な表 記 を 行 う。 具 体 的 に は. (5)の 表 記 法 が そ れ で あ り,comeonin→ 表 記 す る 。9)その利 点 は,新. カマ ニ ン,takeiteasy→. テ イケ リー ズ ィー,の. しい 記 号,表 記 法 を 覚 え る必 要 が な い の で,す. よ うに. ぐ使 え る し,視 覚 的. に印 象 的 な表 記 で あ る。liaisonな ど もラ行 の カ ナ で表 現 可 能 で あ る。 そ の 欠点 は,発 音 の 「は ず. 一41一.

(6) 近畿大学語学教育部紀要3巻2号(2004・3) し,無 視 」 が あ る こ とで,getbackを. 「ゲ ッ. バ ッ」 の よ う に促 音 終 止 の 形 を と り,/t/,/k/. の 子 音 の 存 在 は無 視 さ れ る。 つ ま りい くつ か の英 語 特 定音 に 相 当 す る カナ 表 記 は 存 在 しな い 。 第 2に,独. 自 カ タ カナ 表 記 活 用 が あ る。 具体 例 は上 記(4)の 方 式 で あ る。 そ の 表 記 例 は,Japan→. ヂ ュペ ア ンヌ,computer→. ク ム ピュ ー ラ ァ,dream→. ヂ ュ イー ム の よ うで あ る。 ま た 同様 の 表. 記 法 の 試 み は,島 岡 丘 の 近 似 カナ 表 記 シス テ ム1°)に見 られ る。 そ の 利 点 は,カ ナ を た ど る こ と に よ って,調 音 の しか た,舌 の 位 置,動 か し方 が わ か る こ とで あ る。 また新 しい 記号,表 覚 え る必 要 が な い こ と も利 点 と な るだ ろ う。 欠 点 は,「NSEの. 記法を. 発 音 例 を聞 い て 自分 で 発 音 を英 語. ら し く調 整 ・修 正 」 す る 必 要 が あ り,そ の ま ま 「素 直 に カ ナ を読 む と よけ い に発 音 が は ず れ る」 と い う欠 点 は,斉 藤(2000)11)に. よ っ て も指 摘 さ れ て い る。 第3の. 方 法 は,カ. 記 号 に よ る表 記 法(上 記(3))で. あ る。 例 と して カ タ カナ に4種 類 の 表 示(付 属 記 号. 「一」「_」)を つ け る の が,斉 藤 の 表 記 法 で あ る。 ま た 斉 藤 の み な らず,例. タ カ ナ+(独. 自). 「・」「`」. え ば 田 尻 伍 郎12)は,. 漢 字 入 力 ソ フ トを十 全 に活 用 して,従 来 の 日本 語 の カナ や 漢 字 を組 み 合 わせ て,新. しい発 音 用 文. 字 を作 り出 した 。 これ らの利 点 は,付 属 記 号 も簡 単 で,し か も 「発 音 の は ず し」 が な い。1iaison やelisionな ど も表 記 で き,音 変 化 が 起 こ る 理 由 や 過 程 も そ の 表 記 をみ る と理 解 しや す い 。 そ の 欠点 は,付 属 記 号 の 意 味 を 理解 し,使 い 方 に な れ る 「訓 練 」 が 必 要 な こ とで あ る。 そ の 点 で は, IPAも. ウ ェ ブス ター 等 ア メ リ カ辞 書 方 式 も 同様 で あ り,英 語 特 定 音 を表 記 で きる範 囲 は 大 きい が,. 学 習 者 が発 音 表 記 の た め に,書. き言 葉 の 文 字 とは 別 に,発 音 の た め の 記 号 体 系 を習 得 す る こ と は. 容 易 で は な い。 余 分 な労 力 を発 音 習得 の た め に 要 す る 点 で は,IPAと 一 致 す る の で あ る。 そ こ で 中 間 の 方 法,つ. 記 号 付 カナ 表 記 は,欠 点 が. ま り英 語特 定 音 を無 視 す る わ け で は な い が,補 助 手 段. と して,現 行 カ タカ ナ文 字 を使 用 す る カ ナ 表 記 方 法 の 可 能性 に 期 待 が か か る の で あ る 。. 5平. 澤正夫のカナ表記理論. 平 澤(2003)は,カ が 第 一 と主 張 し,IPAの. ナ表 記 シ ス テ ム の最 新 の提 案 者 で あ る。 斉藤 方式 に比 べ る と,IPAの 発 音 表 記 の正 確 さ を認 め る の だが,そ. 習得. の習 得 の便 宜 的手 段 と して現 行 カ. ナ 表 記 利 用 を平 行 して 使 用 して い る。 そ の 主 張 の 独 自 な点 は,カ ナ表 記 につ い て は次 の とお りで あ る。(1)あ い まい 母 音/a/を. す べ て 近 似 音 「ウ」 で代 表 させ る,(2)ゼ. ロ近 似 音 の発 想,(3)促. 音 は 英 語特 定 音 に は存 在 し ない とい う主 張(そ れ に基 づ き平 澤 の カ ナ表 記 に は促 音 表 記 は ま っ た く ない),で. あ る。 これ らの特 徴 を 考 慮 しつ つ,原 則 的 に現 行 カ ナ 文 字 表 記 で 英 語 発 音 の 記 述 を. 行 うの で あ る 。. 一42一.

(7) 表音 法 と言語学的説明 平 澤 は,言 語 運 用(「 通 じる」)と い う観 点 か ら は,ア クセ ン トの 存 在 の 重 要 性 を説 く。 この た め に は,ア. ク セ ン ト記 号 を使 用 す る 。 また1iaisonやelisionの 存 在 を 学 習 者 が 認 識 し,発 音 実 践. す る こ とや,句. ・節 ・文 レベ ル で の 強 弱 リズ ム を学 習 者 が 認 識 し,発 音 実 践 す る こ との 重 要 性 を. 説 く。 そ の 点 で は 平 澤 の 表 記 も独 自補 助 記 号 併 用 表 記 で あ り,リ ズ ム は英 語 表 現 の 下 に,大 小 の 丸. ○. ○. で 表 記 す る。 この よ うな 補 助 記 号 の 利 用 や,英 文 の 「加 工 」 は,発 音 学 習 で は 学 習. 者 に こ れ らの発 音 の 変化 や音 調 の存 在 を 気 づ か せ る こ とに お い て 有 用 で あ る 。 一 方 で ,言 語 学 的 に み る と,た とえ ば 上 記 の うち,/g/の. 「近 似 音 」 をす べ て 「ウ」 で 代 表 さ. せ る こ とは,言 語 特 定音 記 述 と して は 不正 確 で あ る 。 しか し これ は 言 語 運 用 の 観 点 か らみ れ ば, 日本 語 話 者 の場 合,ロ. ー マ字 の学 習 が英 語 学 習 に 先 行 し,ロ ー マ 字 を(促 音 を含 め)介 在 させ て,. 日本 語 特 定 音 の み で英 語 発 音 を しよ う とす る 学 習 者 が 多 い 日本 の 現 状 を考 え れ ば,「 正 確 か 不 正 確 か」 の 問 題 で は な く,「 不 正 確 で も通 じ るか,ま 評 価 され な け れ ば な らな い。continue,computerを. っ た く通 じない か」 の 問 題 と して議 論 され, 「こ ん て い に ゅ う」「こ ん ぴ ゅ うた あ」 と発 音. し(そ の 根 底 に は,ロ ーマ 字 表 記 意 識 が あ り),そ れ がNSEに. は通 じな い とい う リス クを持 つ の. で あ れ ば,「 ク ン テ ィニ ュ ー」「ク ン ピ ュ ー ル 」 とい う発 音 表 記 を 手 が か りに した 近 似 的 発 音 で, NSEに. も最 低 限通 じ る と い う メ リ ッ トを 選 択 す べ きで は な い か,と い う議 論 で あ る。 同 様 に し. て,発 音 と して 通 じな い こ との リス ク を避 け る 意 味 で は,「 近 似 音 」 と して は,あ (具体 的 に は/r/)に 音 」 と して/1/は. る英 語 特 定音. は カ ナ 表 記 を与 え ず,発 音 しな い とい う発 想 も重 要 で あ る 。 これ は 「近 似 ラ行 音 また は ラ行 カナ 文 字 を相 当 させ る とす れ ば,/r/に. は ゼ ロ 「近 似 音 」 を. 相 当 させ る,と 発 想 して も よい 。 平 澤 は 日本 語 の 促 音 は英 語 特 定 音 に は 「な い」 と考 え る の だ が, 認 識 と して は/r/は あ る の だ が,実 態 と して は 「ない 」 つ ま り 「零 が あ る」 と い う考 え方 が,よ り正 確 で は ない か と本 論 考 で は考 え る。 これ は国 語 学 者 時 枝 誠 記 の い う 「零 記 号 」 の発 想 に基 づ く もの で あ る。13)言語 を表 現 過 程 か ら捉 え れ ば,表 現 者 の 認 識 は あ る の だ が,実 体 は な い,つ ま り発 音 の 意 思 は あ るが,音 声 と して は ほ とん ど発 音 し ない,あ. るい は聞 き取 れ な いの で あ る。. 平 澤 式 の カナ 表 記 に よれ ば,カ ナ 表 記 は英 語 つ づ り字 を ロー マ 字 読 み す る学 習 者 に と っ て は, 大 い に違 和 感 をお ぼ え る もの か も しれ な い が,発 音 す れ ば,結 果 と して 英 語 特 定 音 か ら な る正 確 な発 音 に近 い発 音 が 実践 で きる 。特 徴 的 な カナ 表 記 例 を挙 げ て み る。 また ロー マ 字 読 み を基 本 に した,日 本 で 行 わ れ や す い カ タカ ナ 表 記 を(×. 「 」)で 示 した の で,比 較 され た い。 また そ れ. らに含 まれ る促 音 表 記 の 多 さ に も注 目 した い 。 特 に/r/は. ラ行 で 表記 せ ず,基 本 的 にゼ ロ近 似 音. で あ っ て,相 当す る表 記 文字 が な い。 そ こで/r/が 語 頭 な ら,rat/rat/「 似 音 」 の た め)(×. 「ラ ッ ト」),room/ru:m/「. エ ア」(/t/も ゼ ロ 「近. ウ ー ム 」(× 「ル ー ム」),子 音 の 後 な ら,profit. 一43一.

(8) 近畿大学語学教育部紀要3巻2号(2004・3) /prdfit/「 プ ア フェ 」(語末 のtも ゼ ロ 「近 似 音 」 で 抜 け る)(× carrot/k謝gt/「. 「プ ロ フ ィ ッ ト」),母 音 の 後 だ と,. ケ ァ ウ」(× 「キ ャ ロ ッ ト」)と な る。 平 澤 の 考 えで は,英 語 特 定 音 に促 音 は な. い の で あ る か ら,ロ ー マ字 起 源 の カ タ カナ 表 記 は 「通 じな い発 音 」 に な る。 島 岡式 表 記 との相 違 で議 論 の論 点 に な る の は,カ ナ 表 記 に促 音 表 記 を使 うか ど うか,で あ る。 島 岡式 の み な らず,日 本 にお け る カナ 表 記 の 多 く は促 音 表 記 を取 り入 れ て い る。 例 え ばagood cookbookの と 「ウ. カ ナ 表 記 は 「ア. グッド. ク ッ クブ ッ ク」「ア. グッ. ク ッブ ッ」 で あ り,平 澤 式 だ. グ ク ブ」 とな る。 カ ナ表 記 に お け る促 音 表 記 の 問題 につ い て は,言 語 学 か らは 別 の 見解. が あ ろ う。 日本 語 は 開音 節 言 語 で あ り,音 節 は通 常,母 音 で終 わ る。 しか し促 音 便,擾 音 便 な ど 音 便 変 化 は音 節 末 子 音 と して機 能 す る と考 え られ る。 日本 語 表 記 法 で音 節 末子 音 とい う,あ る種 の 特 定 音 の 存 在 を認 め る な らば,ゼ ロ 「近 似 音 」 の発 想 と合 わせ て,促 音 便 で終 わ る 表記 が可 能 で あ る。goodは. 「グ」 で は な く 「グ ッ」 と な る が,後 者 の ほ うが 社 会 的普 及 度 は 高 い か も知 れ. ない 。 また 日本 語 特 定 音 表 記 で は,促 音 は/Q/で. あ り,声 門破 裂 音 で あ る。 た だ し実 際 は次 に くる. 子 音 に完 全 同化 し,次 の子 音 を1拍 分 前 に伸 ばす よ うに発 音 され る。ユ4)さらに 日本 語 で は子 音 連 続 が,促 音 便 にお い て 実 現 され て い る とみ る こ とが で き る。 語 中 にお い て は 日本 語 は,異 種 子 音 連 続 は 許 され て い ない が,英 語 は逆 に 同種 子 音 連 続 つ ま り重 複 子 音(geminateconsonant)が. 許. され な い こ とは 興 味 深 い と と も に,こ こ に も学 習 者 に と って の 母 語 カナ 表 記 の 難 しさが 見 い 出 さ れる。. 6言. 語学 とカナ表記聞題. 生 成 文 法 で は,聞 (2)音 韻 的解 釈,(3)文. き取 りは5つ の レベ ル に分 け て 設 定,説 法 的 解 釈,(4)文. しか し言 語 心 理 学 者 のGMiller15)は. 明 され る。(1)音 波 と して の 受 容,. の 意 味 内 容 と しての 解 釈,(5)脈. 絡 的 意 義 の 解 釈,で あ る。. 口 と耳 とい う器 官 的 レベ ル で は,聞. 次 の よ うな見 解 を述 べ て い る。 き取 り と発 音(発. 話)は 別 で あ る 。 しか し解 釈 の レベ ル が. 上 が る に した が っ て,「 聞 く」 と 「発 音 」 の能 力 は重 な り合 う。 した が っ て 自分 自身 の 音 声 が 話 し手 に と って 重 要 な の で あ る。 自分 の声 の 自分 の耳 へ の フ ィ ー ドバ ッ クの み な らず,声 異 時性(asynchrony)が,正. と耳 の. 確 な 発 音 や 発 話 の 運 動 技 能 を破 壊 す る こ と も あ る と,Millerは. べ て い る。 こ の こ とか ら引 き 出せ る 問題 は,LSとSPは と い う こ とで あ る。 平 易 に い う と,LSは. 述. 対 立 項 目で は な く,表 裏 一 体 構 造 で あ る,. 学 習 者 の発 音 に よ っ て 養 わ れ る とい う こ とで あ る。 正. /1.

(9) 表音法 と言語学 的説明 確 なLS能 力 は 正確 なSP能 力 に正 比 例 し,SP能. 力 の 向 上 がLS能. 力 の 向 上 を助 け る との 仮 説 が 考. え られ る の で あ る。 言 語 の 音 声 と 文 字 の 相 関 関 係 を考 え る と き,伝 統 的 な 言 語 学 の 見 解 は,「音 声 が 言 語 で あ る」 とい う もの で あ り,文 字 は音 声 を極 め て不 完 全 に 写 した もの で あ る,と い う もの で あ る。 この 見 地 か らす れ ば,読 み方 教 育 の 第1歩 は,音 素 と書 記 素 の対 応 を確 立 させ る こ と に よっ て,正 字 法 に よ る表 示 を話 され る形 に結 びつ け る とい うこ とで,そ れ が母 語 学 習 中 の子 供 に は重 要 な 事 で あ る。 しか しそ の よ う な 問 題 の検 討 に お い て さえ,D.W.Reed16は,音. 声 の 方 が 歴 史 的,社 会 的. な意 味 にお い て,文 字 に先 行 し優 位 で あ る とい う考 え に疑 問 を呈 して い る。 個 人 の場 合 は,音 声 が 年 代 的 に先 行 す る こ とが,音 声 と文 字 の 関係 にお け る必 要 条 件 で は な い,と の考 え方 で あ る。 これ は外 国 語 と して 言 語 を学 習 す る者 に とっ ての,音 声 理 解 の 困難 と関係 して い る よ うに思 え る。 L2の 音 声 を直 接 教 授 法 な どで,文 字 に先 行 して学 ばせ た と して も,学 習 者 の母 語Llに お い て は, 文 字 はす で に学 習 者 の 内 部 にあ って,音 声 が 文 字 に先 行 す る とい う歴 史 的,社 会 的 前 提 は通 用 し な い の で あ る。 こ こ に も母 語 カナ 表 記 の 意 義 付 けや 根 拠 の 一 端 が あ る よ う にみ え る。 また 言 語 学 の 考 察 が 別 の 角 度 か ら,外 国 語 学 習 の 発 音 と聞 き取 りの 問 題 に示 唆 を与 え て くれ る こ とが あ る 。 現 代 の 言 語 理 論,特. に生 成 文 法 は,子 供 の 言 語 習 得 能 力 か ら始 め て 人 間の 生 得 的 言. 語 能 力 の 解 明 を 目指 して い る 。 そ こで,子 供 は 成 人 よ りも は るか に音 声 的 な細 か な差 異 に敏 感 で あ る こ と を,生 成 文 法 研 究 の ひ とつ でNChomsky'7)は よ りむ しろ 音声 的 に 聞 くの で,書. 指摘 す る 。 子供 は 言 葉 を音 形 的 に とい う. き言 葉 に 十 分 な 能 力 を持 た な い 子 供 が,音 声 的 な微 細 な違 い を. 指 摘 で きる とい う。 子 供 は 成 人 よ り鋭 く聞 き,も の まね が う まい の で,新. しい 発 音 の 習 得 が で き. る の で あ る。 逆 に 成 人 で,外 国語 と して 言語 を 学 ぶ 者 の 耳 は,母 語 音 韻 体 系 とい う障 害(外 国 語 音 韻 体 系 獲 得 の干 渉 阻 害 因子)を 持 つ,と い う考 え が 成 り立 つ 。 だ か ら こそ 学 習 方 略 的 に は,母 語 の書 き言 葉 を逆 に利 用 して,つ ま り母 語 カ ナ 表記 を あ え て補 助 手段 に援 用 す る こ とは,む. しろ. 有 効 で あ る よ う に思 わ れ る。 L.Newmark18'は. 言 語 干 渉 とい う言 語 学 的課 題 を 言 語 学 習 と結 び つ けて,次 の よ う に論 じて い. る。 母 語Lユ の 及 ぼ す 干 渉 は,L2を. 学 習 す る者 が 外 国語 な ま りを持 つ 原 因 と な る。 学 習 者 はL2を. 使 い こ な す まで に至 らな い段 階 で,L2の. 使 用 を強 制 さ れ る と,自 分 が す で に知 っ て い るLlの 中. か ら材 料 を使 い,代 用 す る,と い うの で あ る。 しか しこ の こ と を別 の角 度 か ら見 直 す と,次 の よ う に考 え られ る 。L2学 習 者 がLlを 利 用 し援 用 す るの は 自然 な こ とで あ り,し た が ってLlを 組 み 込 ん だL2学 習 方 略 は,言 語 学 的 に はあ りう る方 略 で あ る。 そ れ が 母 語 カ ナ表 記 で あ る。 む ろ んL2母 語 話 者(nativespeakers)と. 一45一. 同 じ レベ.

(10) 近 畿 大 学 語 学 教 育 部 紀 要3巻2号(2004・3) ル で は な く,近. 7「. 似 レ ベ ル を 到 達 目標 とす る の で あ れ ば な お さ ら で あ る 。. 近似音 」 をめ ぐって. 以 上 に述 べ て き た よ う に,「 近 似 音 」 を特 定 して,Lユ に と っ て も,L2に じる」)率50%以. と っ て も,伝 達(「 通. 上 の 発 音 を可 能 にす る た め に,ど の よ うなL1母 語 表 記 つ ま り 日本 に お い て は カ. ナ表 記 が 有 効 か つ 効 果 的 な の か。 斉 藤 の言 う よ うに,問 題 は か な らず し も2言 語 間 の特 定音 数 の 差 だ け に原 因 を求 め る こ とは で きな い。 斉 藤 の指 摘 で興 味 深 い点 の一 つ は,日 本 語 単 独 特 定音 で は 「な い」 が,英 語 単 独 特 定 音 に は 「あ る」 とさ れ る音 の い くつ か は,日 本 語 の会 話 な ど言 語 運 用 の 場 で は,「あ る」 とい う指 摘 で あ っ た。 そ れ らは 文脈,表 現 環 境 に よっ て は,存 在 して お り, 問 題 は特 定 音 の 存 在 の 有 無 で は な く,日 本 語 の現 行 カ ナ表 記 で,特 定 音 に相 当す る文 字 表 現 が 存 在 しない,と い う こ とが 重 要 なの で あ っ た。 「カ ナ 表 記 」 と区 別 して,一 般 に使 用 さ れ て い る 和 製 英 語 を含 め た 日本 語 カ ナ 表 記 を 「カ タカ ナ 表 記 」 と す れ ば,「 カ タ カ ナ 表 記 」 の 問 題 は,ロ ー マ 字 読 み を経 由 し,英 語 で は な く,一 度 ロー マ 字 化 さ れ た もの を,そ の ま ま 日本 語 単 独 音 に 直 す 点 に あ る と思 わ れ る。map→mappu→ マ ップ,の. よ う にで あ る。 した が って,文 字 表 記 を もた ない,英 語(に 近 い)特 定 音 が 日本 語 会. 話 の な か に存 在 し発 音 実 践 され て い る にせ よ,そ れ は無 意 識 で あ り,存 在 を言 語 学 的 に指 摘 す る だ け で は無 意 味 なの で あ る。 話 者 で あ る学 習 者 の 意 識 に英 語 特 定 音 を浮 か び上 が らせ る に は,何 らか の 文 字 表 記 つ ま りカナ 表 記 シス テ ム の 導 入 が 必 要 なの で あ る。 この よ うな 視 点 に立 っ て 見 直 せ ば,IPAは そ の 文 字 た るIPA記. 一 つ の文 字 は一 つ の英 語 特 定 音 に対 応 して い る が,. 号 と,例 え ば 日本 語 会 話 で無 意 識 に実 行 して い る英 語特 定 音 発 音 とが,「学. 習 者 の 頭 の なか で 結 びつ か な い」 こ と こそ が 問 題 で あ る.し た が って そ の 結 びつ きを 実 現 させ る た め に は,学 習 者 は 英 語 書 き言 葉(文 字)と は 別 に,か な りの 労 力 を 「も うひ とつ の 文 字 」 た る IPA記. 号 の習 得 に使 わ な けれ ば な らな い。. そ うで あ る にせ よ,「 近 似 音 」 とい う概 念 を介 在 させ た 外 国 語 学 習 の興 味 深 い 点 は あ る 。 英 語 を母 国語 とす る話 者 が,日 本 語 を 「近似 音 」 で 表現 す る場 合 が そ うで あ る 。 実 例 は 次 の とお りで あ る。 「大 丈 夫 」(ダ イ ジ ョウ ブ)→diejob/daid3ab/,「 「喫 茶 店 」(キ ッサ テ ン)→kisssatten/kissatten/な. 私」(ワ タ シ)→whatash/hwdt鵡/, どで あ る。 この こ とが 示 す の は,「 外 国 語. 学 習 に お け る母 語 表 記 」 の意 味 で あ る.英 語 の 日本 語 母 語 表記 も,日 本語 の英 語 母 語 表 記 も同 様 に,そ れ らは近 似 で あ り,不 正 確 で あ る。 しか しそ れ らは運 用 上 の あ る レベ ル,つ. 一46一. ま り最低 限,.

(11) 表音法 と言語学 的説 明 通 じる レベ ル で あ れ ば,「 近 似 音 」 表 記 の 意 味 は あ る。 また 表 記 方 法 は1種 類 に限 定 さ れ る もの で は な く,意 味 を 無 視 す れ ば,意 外 な 母語 表 記 が,音 声 的 に は,原 音 に よ り近 く,ま た 「通 じゃ す い」 こ とが あ る,と い うこ とを,以 上 の よ うな 例 は 意 味 す る もの と考 え られ る 。 「近 似 音 」 をめ ぐる最 終 合 意 点 で あ り,本 論 考 の 結 論 を示 せ ば,次 の よ う に な る。 「近 似 音 」 は 音 声 的 に は,つ. ま り言語 学 的説 明 に 基づ け ば 文 字 どお り,近 似 で あ り,正 確 な もの で は な い 。 し. か し言 語 運 用 の 観 点 か らす れ ば,近 似 と は 受 容 可 能 範 囲 内 で の 有 効 性 を 意 味 し,コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と して の外 国 語 運 用 の 一 つ の 基 準 とな りう る。 ま た学 習 とい う観 点 か らす れ ば,発 音 の た め の特 殊 記 号 の利 用 は,学 習 者 の負 担 を増 す こ とに な る 。学 習 者 の 負担 と言 語 運 用 最低 限 度 の 基 準 を考 え合 わせ る と,学 習 者 の母 語 表記(文 字)を 使 っ た 表 記 シス テ ム の 存 在 意 義 が あ る と考 え られ る。 た だ し現 時点 で は,提 案 さ れ た カ ナ 表記 方式 の どれ か 一 つ に 限 定 す る こ とは で きな い 。 今 後,そ. 8結. れ らを統 合 した最 適 の カ ナ表 記 方 式 が 考案 され る 可 能性 が あ り,そ れ を期 待 した い 。. び にか えて. 言 語 学 の研 究 と,教 育 実 践 の違 いが 明 らか な の は,そ の 目的 に お い て で あ る。 言語 研 究 は 言語 に 関す る諸 現 象 の客 観 的か つ 科 学 的記 述 を 目的 とす る。 したが っ て,発 音 とい う項 目につ い て は, そ の説 明 的 記 述 は,外 国語 学 習 者 の言 語 運 用 に とっ て,理 想 的 な形 を示 す もの で あ る。 しか し重 要 な こ と は,発 音 に 関す る説 明 や 記 述,規 定 や 定 義 の 内容 が,そ. の ま ま外 国語 学 習 の到 達 目標 に. は な りえ な い と い う こ とで あ る。 そ の 理 由 は言 語 研 究 にお け る言 語 と話 者 と の 関係 を考 え れ ば よ い。 言 語 研 究 に お け る話 者 とは, 母 国語 話 者 を指 す 。 一 方,外 国 語 教 育 に お い て は,当 然 の こ とな が ら,学 習 者 とは,母 語Llと は異 な るL2を 学 ぶ 者 で あ る。 そ こで 必 ずL2を 獲 得 す る 過 程 で,Lユ の 干 渉 を受 け る こ と とな る。 L2の 伝 達 率100%が. 理 想 で あ る が,現 実 の 言 語 運 用 に お い て は,最 低 限 の伝 達 率 と して50%を. えれ ば よい 。 た だ し,50%の. 超. 内 容 決 定 にお い て は,言 語 学 の資 料 や 規 定 が 役 立 つ 。 そ の概 要 は,. 例 え ば1950年 代 初 頭,RomanJakobsonが. 提 案 した よ う な,弁 別 素 性 の項 目 ご との+/一. の二項. 対 立 的 な 記 述 の 形 が 参 考 に な るか も しれ な い 。 この 方 法 は,音 響 的 特 徴(acousticfeature)に 基 づ き二 値 的対 立(binaryopposition)の の 素 性 を持 つ(+)か,持 は+か. 計 ユ2種類 の 「弁 別 的 」 素 性 の項 目 ご と に,特 定 音 が そ. た な い(一)か,の. 一か,「 口音 性 」 は+か. 一か,な. 定 義 を 重 ね て い くの で あ る 。(例 え ば 「鼻 音 性 」. どで あ る。)た だ し,特 定 音 を定 義 す る項 目す べ て を学 習. 者 が 直 ち に ク リ アで き る と は考 え られ ない 。 そ こで,通. 一47一. じる発 音 の た め の,素 性 間の 優 先 順 位 の.

(12) 近 畿 大 学 語 学 教 育 部 紀 要3巻2号(2004・3). 決 定 が 必 要 で あ ろ う。 文 法 の音 韻 部 門 で は 各特 定 音 の 定 義 は 階 層 化 され た 素性 に よっ て 決 定 され て い るが,外. 国語 と して の学 習 者 に必 須 の 要 素 の 選 定 が,さ. らに 必 要 とな ろ う。. 新 しい発 音 表 記 の た め の記 号 体 系 が 出 来 上 が っ た と して も,そ の 習 得 の 簡便 性 が,学 習 上 で は 重 要 な意 味 を持 つ 。 簡 便 性 で は,母 語 が 日本 語 で あ る 英 語学 習 者 に とっ て,現 行(カ 記 が もっ と も優 れ て い る。 そ して,英 語 発 音(特. 定音)の 発 音 の正 確 さや,句. タ)カ ナ 表. ・節 ・文 レベ ル に. 限 っ て は,ア ク セ ン ト ・イ ン トネ ー シ ョ ン ・リズ ム 表記 の た め に,補 助 記号 が カ ナ 表 記 に付 加 さ れ る こ とが 望 ま しい か も しれ な い。 簡 便 性 と発 音 表 記 の正 確 さが正 比 例 す る可 能性 は 少 な い 。 し か し,た とえそ う で あ っ て も,最 低 限度 の伝 達 を め ざ し,特 定音 の再 現 の た め の発 音 表 記 の み な らず,単 語 か ら,句 → 節 → 文 → 文 章 の レベ ル に も応 用 し うる可 能性 を もつ の は カ ナ 表記 で あ る 。 今 後 は カ ナ表 記 学 習 者 と,IPAな. ど他 の発 音 記 号 で の学 習 者 や,フ. ォニ ク ス な どの発 音 学 習 方 法. で の 学 習 者 が,聴 解 能 力 な どの 言 語 運 用 能 力 で そ れ ぞ れ どの よ う な差 異 を みせ る の か,な. ど外 国. 語 学 習 で の 音 声 表 記 と教 育 効 果 の 関連 の 検 証 へ と考 察 を展 開 して い きた い。. 注 1)H.Sweet,AHezndbookofPhonetics(London:OxfordU.P.,1$77). 2)D.Jones,Everyman'sEnglishPronouncingDictionary(London:Dent,1917). 3)A.M.Bell,VisibleSpeech(London:Simpkin,1$67). 4)R.Jackobson,C.G.M.Fant&M.Halle,PreliminariestoSpeechAnalysis(Cambridge,Mass. MIT,1952). 5)N.Chomsky&M.Halle,TheSoaanclPatternofEnglish(NewYork:Harper&Row,ユ968). 6)Phonicsは1980年. 代 か ら積 極 的 に展 開 さ れ た 発 音 指 導 法 で あ り,日 本 の 英 語 教 育 に も普 及 しつ つ. あ る 。 簡 単 に 本 論 考 の 立 場 か ら言 及 す る と次 の とお りで あ る 。 音 声 表 記 と 書 き言 葉 の つ づ り字 の 問 題 は,母 の で,機. 語 と し て そ の 言 語 を 学 習 す る 者 に と っ て は,音. 械 的 に 文 字 と 音 声 を 結 び つ け る だ け で よ く,そ. 声 は す で に幼 児 期 か ら獲 得 さ れ て い る の 補 助 手 段 と して のPhonicsは. る。 しか し外 国 語 と し て そ の 言 語 を 学 習 す る者 に とっ て は,前 提 条 件 が 異 な る.学 L2以 前 に 母 語L1の の に,そ. 音 声 と文 字 の シ ス テ ム が 習 得 され,さ. ら にL2の 音 声 を こ れ か ら学 習 す る とい う. の 不 完 全 な 音 声 を 文 字 シ ス テ ム と結 ぶ の がPhonicsで. はい え な い 。 そ の 点 で は,以 下,本 7)平. 有効であ. 習者 に とって は. あ る。 これで学 習者 が混乱 しない と. 論 考 で 引 用 した 平 澤 も斉 藤 もPhonicsに. 澤 正 夫 『手 づ く り英 語 発 音 道 場 』(平 凡 社 新 書,2003)は,こ. は批判 的で あった。. の 考 え を ネ イ テ ィ ブ 指 数 と上 記 自. 著 で 呼 ん で い る。 今 日,発 音 指 導 と使 え る 外 国 語 能 力(実. 用 的 言 語 運 用 能 力)を. 要 な 案 件 で あ る。 こ れ は ま た 日 本 に お け る 英 語 教 育 が,日. 常 で 必 要 で あ り運 用 時 間 が 長 い 第 二 言. 語 と して の 英 語(ESL)な. の か,単. に外 国 語 と し て の 語 学 学 習(EFL)な. 考 える と きの重. の か と い う議 論 と,発. 音 指 導 や 発 音 能 力 と い う 問 題 を 繋 ぐ重 要 な 問 題 を提 示 して い る 。 8)斉. 藤厚見 『 英 語 発 音 は 日 本 語 で で き る 』(ち くま 新 書,2000)。. 9)こ. の 形 の 表 記 は,岩. 田 一 男 『英 語 に 強 く な る 本 』(カ ッパ ブ ッ ク ス,1992)他. i・. 多 数 に 見 られ る 。.

(13) 表音法 と言語学的説明 10)島. 岡丘. 11)同. 上,斉. 『カ ナ 表 記 で 通 じ る 英 語 の 発 音 』(日 本 能 率 協 会,1999)。. 12)田. 尻 伍 郎. 「発 音 記 号 と フ ォ ニ ッ ク ス 」 『英 語 教 育2003年1月. 13)時. 枝 誠 記. 『國 語 學 原 論 』(岩 波 書 店,1941)。. 14)榎. 本正 嗣. 『PhoneticsofEnglishandJapaneseSpeechSoLCnds(日. 藤厚 見. 『英 語 発 音 は 日 本 語 で で き る 』。 号』所 収 。. 学 出 版 局,2000),p.31. 15)G.Miller,ThePsycholinguistics,inM.Lester(ed.),ReadingsinAppliedTransformational Grammar(NewYork:Holt,RinehartandWinston,1970). 16)D.W.Reed,ATheoryofLanguage,Speech,andWriting,(ibicl). 17)N.Chomsky,CommentsforProjectLiteraryMeeting,(ibid). 18)L.Newmark,HowNottoInterferewithLanguageLearning,(ibid).. 一49一. 英 語 話 し 言 葉 の 音 声 学)』(玉. 川大.

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