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下山晴彦 監修/中野美奈 著『ストレスチェック時代の職場の「新型うつ」対策─理解・予防・支援のために』(PDF:629KB)

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No. 702/January 2019 75

読書ノート

職場におけるメンタルヘルス対策が喫緊の課題とな る中で,正式な疾患名ではないが,近年よく耳にする のが「新型うつ」と呼ばれる症状である。本書では, 「新型うつ」の特徴,発症の原因,上司など周囲の人 間関係から見た「新型うつ」患者の見え方,対峙する セラピストの症状理解や想起する感情等を,多面的な インタヴュー調査を丁寧にまとめた研究成果を通じて 解説を試みている。著者は産業領域での臨床心理士の 経験を踏まえて「新型うつ」の研究を行っており,本 書を産業領域での実践に資することを目的としてとり まとめている。 本書は四部から構成される。第Ⅰ部では,我が国の メンタルヘルス問題の増加と対策についての現状を述 べた上で,「新型うつ」が注目されてきた背景や,「新 型うつ」に類似した症状で過去の文献にみられるもの や,「新型うつ」と混同されがちな従来型のうつ病等 の疾病や障害についての整理がなされている。本書に よると「新型うつ」とは,医療現場での明確な定義や 診断基準はないものの,従来型のうつ病と明らかに異 なる特徴をもつ一連の事例の総称である。産業領域や 医療現場では以前からその存在が知られてきたが,近 年,マスメディアの報道等を通じて広く知られる現象 となった。一般的な特徴としては,若者に多く,仕事 や勉強の場面に限って調子が悪くなり,休むことに抵 抗がなく,他責的・他罰的な傾向を示すことが多いと いう。ただ,日本国内でしか報告されない現象である ことや,専門家である医師の間でも「単なる怠けでは ないか」というように,見解の不一致がみられる現象 でもある。しかし著者は,心理臨床現場での支援経験 を踏まえ,「新型うつ」に罹る人は決して「怠け」て いるわけではなく,自身の世界の中で大きな悩みや苦 しみを持っていることは事実だと述べている。しかし ながら,問題の原因を他者や環境のせいにしがちな他 責的・他罰的思考は,周囲の人間関係をぎくしゃくさ せやすく,様々な誤解を招くことにもなろう。このよ うな周囲からの誤解の招きやすさも「新型うつ」を特 徴づけるものの一つと考えてよさそうである。 第Ⅱ部では,上司という視点に着目し,「新型うつ」 の部下への対応過程や,従来型うつ病での経過の違い を比較している。著者によると,うつ病に罹患した社 員への対応に関する研修の多くは従来型うつ病を想定 しているため,「新型うつ」の部下には有効に作用し ないケースがあると指摘している。例えば,うつ病の 部下には叱咤激励をしてはいけないという,常識とさ れる方策があるが,「新型うつ」の場合はむしろ逆で, 上司による積極的な成長支援が症状の緩和につながる という結果が報告されている。また,うつ病という診 断書に接した時に,上司としてことさらに重圧を感じ る必要はなく,むしろ「病気」よりも「人」をみて成 長を後押しすることが有効だと報告されており,大変 興味深い。部下の診断書を目にして,上司が無力感に 襲われ,対応を手控えてしまうことの方が,かえって 状況の悪化と停滞を招くとしている。 第Ⅲ部は,「新型うつ」を理解するというテーマで, 「新型うつ」になる人の特徴や,周囲から見えない小 さな傷つき体験が蓄積することによる発症のメカニズ ムが説明されている。それとともに,著者自身の研究 ●ミネルヴァ書房  2018 年 4 月刊  A5 版・296 頁  本体 2800 円+税 ●しもやま・はるひこ   東京大学大学院教 授。 ●なかの・みな   臨床心理士,産業カウン セラー。 下山 晴彦 監修 中野 美奈 著

『ストレスチェック時代の

職場の「新型うつ」対策』

─理解・予防・支援のために

深町 珠由 (労働政策研究・研修機構 主任研究員)

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76 日本労働研究雑誌 による,本人用と他者用の「新型うつ」傾向チェック リストの説明がある。 最後の第Ⅳ部では,「新型うつ」の人に心理支援や 介入を行うセラピスト(臨床心理士・産業カウンセ ラー)の視点から,「新型うつ」の問題に迫っている。 特に興味深いのは,セラピストが「新型うつ」の人へ 支援を行うにあたっての心的プロセスにも着目してい る点である。怠けではないとわかってはいても,「怠 け」のように見えてしまう現象に対し,セラピストも 一人の人間として負の感情(陰性感情)を抱き得る。 その現実的な対処法が紹介されている点はなかなか窺 い知ることのできない貴重な視点である。最終章で は,職場における「新型うつ」への対処として,上司 が部下の成長を積極的に後押しする態度が望ましいこ とや,復職の理想的なあり方として,対人関係を全く 含まない業務に限定するよりも,対人関係が多少含ま れる業務の方が良好な結果につながるという研究結果 が示されている。 本書では全般を通じて,「新型うつ」と,過去の研究 にみられる類似現象との関係を丁寧に整理して読者の 理解を促し,さらに,「新型うつ」が社内の人間関係や セラピストからどのように見えるかという多面的な視 点を示すことで,「新型うつ」対策への実用的な解を 提示している。この点は大いに評価すべき点だと思わ れる。一方で,第Ⅲ部で著者の研究成果として紹介さ れているチェックリストは,産業領域の現場でどのよ うに用いればよいのか,さらに踏み込んだ使い道を示 して欲しかったと思う。特に,他者用「新型うつ」尺 度については,補章の研究結果を読み取る限りは,著 者が当初想定していた構成概念と実際の因子分析の結 果が必ずしも整合的に結びついていない感があり,さ らなる研究の蓄積が俟たれるのではないかという印象 を持った。それでも,「新型うつ」現象に関する丁寧な 質的研究が少ない中で本書の価値が減じられることは なく,今後の蓄積が期待される「新型うつ」支援研究 の中で重要なマイルストーンの一つとなることだろう。

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