ヘリウムリサイクルへの取り組み ―東京大学物性研究所の活動―
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(2) すなわち,所内への供給は,全国へのヘリウム供給を意味 する.1960 年には研究部門の拡充と発展に伴い,東大内 初の寒剤専門供給施設「低温液化室」が発足した.1980 年には極限物性部門超低温グループが発足し,1983 年に は二段核断熱装置で白金線を 27 μK まで冷却し,当時の 最低到達格子温度の世界記録を達成している 1). 2000 年には研究所全体が千葉県柏市の新設東大柏キャ ンパスに移転し,低温液化室もやや広い敷地を得,また キャンパスの拡充に伴い,キャンパス内他部局にも液体ヘ リウムを供給している.現在は,技術職員 3 名,技術補佐 員 1 名,事務補佐員 1 名の計 5 名で運営され,所内の低温 委員会(委員 4 名,オブザーバー1 名)がステアリングに当 たっている.2019 年度の液体ヘリウムの年間供給量は約 21 万 L で,日本国内における同様の機関の中では最大級 の供給量である.柏キャンパス環境安全管理委員会より キャンパス内の高圧ガス管理も委託され,様々な寒剤やガ スの取り扱いや安全指導も行っている.ヘリウムの回収率 は全体として 90%を超えている. 2.2. Fig.1 Breakdown of the sales volume of helium in Japan for FY2018. Data are from the Japan Industrial and Medical Gas Association (JIMGA). For science other than space and balloon applications, it is classified as "low temperature engineering." リウムを利用している立場から,供給の状況や問題点につ. 2019 年以前に経験したヘリウム危機. いて述べたい.. 物性研は,2019 年以前にも単発的なヘリウム危機を経. 2019 年に顕在化した本格的なヘリウム危機であるが,. 験 し て い る . 2006 年 に 米 国 で 生 産 地 か ら 土 地 管 理 局. その危険性については少し以前より問題となっていた.す. (Bureau of Land Management, BLM)まで引かれていた 600 km. なわち,アジア諸国を中心とするヘリウム需要の急増に対. のパイプラインが故障,エクソン・モービルの精製プラン. して,米国を始めとする生産国での生産量が頭打ちに近い. ト故障も重なり,世界的なヘリウム危機が発生した.折悪. 状態で遠からず供給不足に陥るということが,数年前に指. しく物性研では当時 1 機しかなかった液化機が夏季に故障. 摘されていた.これに BLM の備蓄ヘリウムの早期国内向. するという事態も発生し,大幅な供給制限を行わざるを得. け売却が重なって,特に輸入国でヘリウム不足が加速した. なくなった.単発的とは言っても,液体ヘリウムがなく. ものである.. なってしまう事態は,これを常用していた実験研究者に. ただ,貿易統計などを調べる限りでは,2019 年に入っ. とっては暇を出されたに等しく,供給側は針のむしろ状態. ても,輸入企業の努力もあってか輸入量,価格ともさほど. であった.この時,学内他部局,および他機関へ,物性研. 大きな変化は見られなかった.Fig. 1 はしばしば引用され. より気体ヘリウムを送り,液体ヘリウムとして戻していた. る,販売量で見た日本のヘリウムの使途割合である.ここ. だく,というご支援をいただいた. 2).この経験が後述のヘ. リウム再液化事業を開始する動機の一つとなっている.. で研究現場と呼んでいる使途は,このグラフでは「低温工 学」に分類されている.研究では随分たくさん使っている. 2012 年には,BLM,エクソン・モービルが定期修理後. 印象であるが,供給側から見ると,全体のごく一部に過ぎ. いずれもトラブルが発生して再起動できない状態になり,. ない.したがって,全体の流通を見ていても,この中でど. 加えてロサンゼルス港で港湾ストライキも発生して大きな. のような状況が生じているのか把握しにくい.. ヘリウム危機となった.ディズニーランドのヘリウム風船. 3.2. がなくなり,マスコミでも話題となったが,幸い物性研で. しかし,次章の物性研による全国アンケートの節で示す. は備蓄を含めた設備増強を行っており,供給に大きな影響. ように,研究現場は非常な困窮状態に陥っており,宇宙航. が出ず,前回とは逆に学内他部局や他機関にヘリウム再液. 空研究開発機構の観測用バルーンが上げられない事態など. 化支援を行うこともできた.. が生じていた.最も困窮・混乱が広がったのが 2019 年春. 研究現場の実態. より夏にかけてである.この頃は,研究現場に限らず,半. 3. 2019 年ヘリウム危機から 2020 年末現況. 導体集積回路の製造現場でもヘリウムが不足し製造に影響 3.1. 見えにくかったヘリウム危機. が出かねない状況であった.リーク検査用のヘリウムも不. 1903 年に米国でヘリウムの採掘が始まって以来のヘリ ウム供給,2019 年のヘリウム危機に至る経緯については,. 足で気密を要する装置の納品が相当遅延している,という 話も聞いた.. 他稿で説明されていると思うので,ここでは科学研究でヘ. 120. TEION Cryo. Super. TEIONKOGAKU(J. KOGAKU (J.Cryo. Super.Soc. Soc.Jpn.)Vol. Jpn.) Vol.5656No. No.3(2021) 3 (2021).
(3) ヨーロッパでは 6 月にスイスとフランスにまたがる CERN(欧州原子核研究機構)の大型円形加速器を冷却し ているヘリウムの調達状況について問い合わせたところ,. 購入できていな いのでわからな い, 3%. 機関購入価格. こちらは特に影響がない,とのことであった.一方,9 月. 大幅上昇 (2倍以上), 27%. に行われた強相関電子系国際会議での研究者の話では,ド イツでは日本と同様,液化設備を持たず長期契約をしてい ない研究者へのヘリウム供給が不足し,一部は隣国のポー ランドへ出かけて実験している,また全体的に価格も上. 上昇(1~2倍未満), 70%. がっている,ということであった.英国でも価格の上昇が 報告されている.このように,アルジェリアやポーランド からの供給があるヨーロッパでもヘリウム不足は研究現場 では相当深刻であった(2019 年ヘリウム危機の詳細につ いては,解説論文 3,4)を参照). 3.3. 2020 年コロナ危機 個別ユーザー価格. 2020 年に入るとまず中国でコロナ危機が勃発.武漢の ような大都市で猛威を振るった結果,中国での半導体集積. 大幅上昇 (2倍以上), 7%. 回路を始めとする工業用のヘリウム需要が急減した.この 結果,長く続くと予想されていたヘリウム不足が突然小康 状態を得た. 5).また,6. 購入できていない のでわからない, 35%. 月には小規模ながら中国塩池県宁. 夏回族自治区の天然ガス田でヘリウムの生産が開始され. 6),. 中国でも高価なヘリウムを買い続けることから脱却するた. 上昇 (1~2倍未満), 55%. め自国内でのヘリウム生産に乗り出していることが考えら れた.コロナ禍で供給が安定している間に,新しいヘリウ 微減, 3%. ムソース,例えばロシアのシベリア・イルクーツク両プロ ジェクトなどが予定通り稼働すれば,逆に供給過剰になる ことも予想される. しかし,現状ヘリウム価格は,一時ほどではないが高止 まったままである.これは,BLM オークションをエアプ. Fig. 2 Survey results on the helium prices for researchers in Japan.. ロダクツ社がほぼ全量高値(35%増し)で落札して米国国内 供給に回したことや,新しいヘリウム源開発費用の上乗せ. おり,網羅的な調査とは言えなかったが,ヘリウム危機の. など,ヘリウム市場の特殊事情によるもののようである.. 特徴を捉えることができた.. 4. 全国アンケートと学会-研究機関声明 4.1. ヘリウム問題全国アンケート. 東京大学自身のヘリウム調達価格も 2019 年度より大幅. Fig. 2 がその回答集計の一例で,ヘリウムの購入価格に ついて聞いたものである.年度契約で購入している機関関 係者と,必要に応じてスポット契約で個別購入している研 究者とで明瞭な違いがあり,前者の大部分では価格は高騰. に跳ね上がり,ヘリウム供給に問題が生じていることは明. しているものの購入は行えているが,後者では 35%が購入. らかであった.前述のように,物性研は共同利用のために. 不可となっている,ということであった.その他,アン. 全国の研究者と連絡があり,研究所長(森 初果氏)のも. ケートの結果詳細については,web サイト 3)に公開されて. とにも,危機を訴える多くの声が寄せられてきた.そこで,. いる.. 森所長による陣頭指揮の下,危機を打開する方策を模索す ることとなった.. 価格の高騰問題も非常に困ることではあるが,入手でき ない事態は研究を決定的に困難にする.一部の機関のみで. 時期的には前後するが, 7 月に実施したヘリウム問題. 研究が可能という格差の発生は,学問全体の発展にとって. 全国アンケートについて述べておく.これは,2019 年に. も問題である.物性研としては極力これらの研究者を共同. 入ってのヘリウムの価格や供給状況についての簡単な設問. 利用を通じて救済する必要があるが,直接の救済策は限度. に答えてもらうもので,アンケート対象として全国のヘリ. があり,より根本的な解決策が望まれた.. ウム液化施設を持つ研究機関の関係者,更に主に日本物理. 4.2. 学会でも特に「物性領域」と呼ばれている分野の会員に周. 筆者の一人(勝本)は日本物理学会で当時副会長を務め. 知を行い,回答をお願いした.かなり調査対象が限られて. ており,アンケートの結果を 7 月の理事会席上で示し,こ. 低温工学 56 巻 3 号 2021 号 2021 年 低温工学 56. 学会-研究機関共同声明. 121.
(4) の問題に対して学会として何らかの対応を取るべきか否か,. 連絡があった.上記の「連絡網的なもの」を使って呼びか. 検討した.その結果,一般社会や行政機関の目が十分に届. けたところ,関係者から引き取り希望の連絡があり,数機. いているとは思われないこのヘリウム危機問題について,. 関の協力によって 4 月に半ば以上のヘリウムを回収再利用. ヘリウムユーザーを代表する形で関連学会や関係研究機関. することができた.連絡網の件については触れられていな. が合同で声明を発することには意義があるだろう,という. いが,文献 10 に報告がある.. 結論となった.. これは学会声明がもたらした思わぬ副産物であったが,. 日本学術会議から声明を出すことも検討したが,学術会. この際の参加者より,ヘリウム危機が構造的問題であり長. 議会員の知り合いに問い合わせ,手続き等について調べて. 期の取り組みが必要であることから,折角の「連絡網」を. みると,政治色の強い問題を除けば,声明発表に早くても. 今後も何らかの形で維持することが提案された.これを受. 2 年程度は必要ということで,ヘリウム問題について緊急. け,筆者の一人である山下により,Facebook 上にヘリウ. 声明が出せるような組織ではないことが明らかになった.. ムリサイクルフォーラムが創設された 11).平常時はヘリウ. そこで,物理学会としては,上記のように学会・機関の共. ム関連の話題提供が主であるが,上記のような突発的イベ. 同声明発表を目指すことになった.理事会からは勝本が主. ントの際の情報拡散,更に,今後恐らくまた到来する危機. に推進することになり,アンケートを実施した物性研メン. の際には,備蓄・入手経路・リサイクル情報などで機能を. バーに協力を求めることとなった.. 発揮すると予想している.本稿読者からも多数のご参加を. 本稿の著者および森所長で数回の会合を持ち,物性研に おいてヘリウム問題に関するワークショップを開催してこ れを一種の決起として声明発表に持ち込むこと,声明の骨 子として,後述するヘリウムリサイクルの推進を打ち出す. 期待している.. 5. 物性研のヘリウムリサイクルへの取り組み 以下,ヘリウムリサイクル事業の中身,問題点等につい て述べる.. ことにした. その他,声明の経緯については,文献 7 に記した.声明. 5.1. ヘリウムリサイクルの考え. 発表をできるだけ効果的にするため,物理学会から,ある. 日本ではヘリウムは全量を輸入し高価であるため,液体. いはその他のチャネルを通してプレス,TV,ネット情報. として低温研究に大量に消費する研究機関では,気化した. 誌にも働きかけ,極力ヘリウム危機問題を一般社会にも. ヘリウムを回収再液化してリサイクルすることはほぼ常識. 知っていただくことに努めた.こういった広報活動には物. であった.Fig. 1 の「低温工学」分類の中で相当程度はこ. 性研広報室に強力にバックアップいただいた.11 月 6 日に. のリサイクルを行っている.これに対して最大産出国であ. 「ヘリウム危機の現状と今後の課題」と題するワーク. る米国では,かつてヘリウムは圧倒的に安価であり,研究. ショップを開催し,関連研究者,プレスなど多数の参加者. 用途であっても気化したヘリウムはほとんど大気開放して. 8).その後低温工学・超電導学会始め関係諸学会,. いた.危機に臨んで米国物理学会を始め 4 つの関連学会に. を得た. 研究機関のご参加をいただき,12 月 20 日に声明発表に 至った. 9).. よるヘリウム問題レポート. 12) では,研究用途でのヘリウ. ムリサイクルを推奨している.すでに相当程度のリサイク. 声明の直接的効用として考えていたのは,ヘリウム危機 問題を一般社会に周知し,研究用途においてリサイクル機 器の更新や導入に必要な予算獲得につなげることであった.. ルを行っている日本では,現状維持及び拡張は重要ではあ るが,大きな効果は考えにくい. Fig. 1 より,ヘリウム危機を緩和できるほどのリサイク. これまでに,獲得成功・失敗の両例の情報を得ていてまだ. ルを行うには,消費上位を占める,MRI (磁気共鳴画像診. 情勢を見守っている段階だが,それ以外にヘリウムの供給. 断),半導体,光ファイバーなどの用途からのリサイクル. 契約の際に効果があった,という報告もいただいている.. が有効と考えられる.MRI は無論,超電導マグネットの. 4.3. ヘリウムリサイクルフォーラム. 冷却に使用され,蒸発気体の純度も高く,リサイクルに対. 声明の発表に際しては,多くの研究機関,学会の関係者. する物理的な問題は少ない.半導体用途においては,基板. の方々にお世話になった.大変急な依頼であったこともあ. アニールや冷却時の雰囲気・熱媒体ガス,薄膜成長時の. り,日々多数のメールをこなし,不躾な電話も相当数かけ. キャリアガスなど様々に使用され,排出ガスには不純物が. ることになった.結果,全国のヘリウムユーザー代表のよ. 極めて多いが,毒物などはスクラバーを通すなどして取り. うな方々とはちょっとした連絡網のようなものが自然にで. 除かれているため,精製再利用も不可能ではない.光ファ. きることになった.. イ バ ー 製 造 に お い て は , 気 相 軸 付 け 法 で 作 製 し たプ リ. 声明の発表翌年の 2020 年 2 月に核融合科学研究所の平. フォームをアニールして透明化する際,およびこれを加熱. 野直樹教授より,シャープ亀山工場内にある中部電力の超. 線引きする際の雰囲気・熱媒体として使用され,やはり再. 電導電力貯蔵装置の休止に伴い,6,000 L 以上の余剰液体. 利用は十分可能と思われる.. ヘリウムが生じるので,引き取り手を探している,という. 122. TEION Cryo. Super. TEIONKOGAKU(J. KOGAKU (J.Cryo. Super.Soc. Soc.Jpn.)Vol. Jpn.) Vol.5656No. No.3(2021) 3 (2021).
(5) Fig. 3. Schematics of helium recycling between remote sites.. 光ファイバー製造企業の一部では再利用の試みが行われ,. 多くの読者になじみのある法令であろう.少しの圧縮でも. また,東京大学低温科学研究センターの「ヘリウムゼロロ. 規制対象基準を超えてしまい,製造所や貯蔵所の届け出・. スプロジェクト」においては,附属病院にまで回収配管が. 有資格者の立ち合いなど,かなり大がかりな準備をしなく. 整備され,医療用ヘリウムの回収準備を行っている.物性. てはならなくなる可能性がある.. 研で考えているヘリウムリサイクルは,これらとは異なり,. このような問題は,ヘリウム以外でも様々に生じる可能. トラックのような移動輸送体を用いて気化ヘリウムを液化. 性があり,運用に携わる経済産業省でも本法令の「スマー. 拠点まで運搬し,精製,再液化して戻そう,というもので. ト化」問題として,安全性と利便性を同時に高めることを. ある.. 目指して継続的な検討が行われている. 5.2. リサイクルスキームの諸問題. 13).物性研でもここ. をクリアするための方策を検討してきた.2019 年 12 月に. 以上のリサイクルスキームは 2.2 節で触れ,文献 2 で述. は筆者らと低温工学・超電導学会冷凍部会の吉田茂部会長. べた 2006 年のヘリウム危機における経験に立脚するもので. と同行で経済産業省に足を運び,高圧ガス保安室メンバー. ある.遠隔の病院や工場へのヘリウム回収配管の配備は実. との意見交換を行った.その後も継続していく予定であっ. 現不可能であるから,本稿のテーマである「ヘリウムリサ. たが,コロナ禍のために現状はストップしてしまっている.. イクル社会」の実現のためにも,このスキームが実現可能. 5.3. なように整備しておくことは重要である.しかし,これが. 前節で述べた問題点に対して物性研で検討している方策. 可搬小型圧縮回収機. 成立するためには意外に様々な問題をクリアする必要があ. の一つは,可搬な小型圧縮回収機を用意する,というもの. る. Fig. 3 のイラストのように,まず使用済みヘリウムを. である.現状の圧縮回収機は容積も大きく設置費用も高額. 透過の小さな膜状の貯留装置(ガスバッグ)に回収する必要. である.ガスバッグだけで済むような場合もあると考えら. がある.液体ヘリウムは蒸発気化で 800 倍程度に膨張する. れ,圧縮回収機を常設する場合でも,ヘリウム消費拠点の. し,高圧ボンベのガスも 150 倍程度となり,回収に大きな. 多くでは,それほど大容量の設備を要するわけではない.. 体積を要する.ヘリウムを利用する企業としては,危機の. 安全性条件を満たし,高圧ガス保安室の許可を得た機種で. 最中であれば別かもしれないが,平時において緊急時のた. ヘリウムを圧縮する場合に関しては,高保法第 3 条の適用. めにそこまでの準備をするインセンティブはないであろう.. 除外あるいはそれに準ずる法的取り扱いになれば,高圧ガ. 更に,気化ヘリウムの運搬の問題がある.上記のように. ス製造保安責任者のような有資格者でなくても,一定の教. 膨張したヘリウムをそのままトラック等で運搬するのは非. 育を受けた人間であれば回収業務を行うことが可能になる. 効率的すぎ,いかにヘリウムが高価であっても事業として. であろう.. 成立しない.そこで,使用現場においてヘリウムを圧縮し てボンベに充填し高密度で運搬することが必要になる.. この考えに基づき,低価格でかつ機動性に富む小型回収 用ヘリウム圧縮機の探索・開発を行っている.「開発」と. この時に問題となるのが,ヘリウムが第一種ガスとして. 言っても,設計製作を行っているわけではなく,他用途の. 高圧ガス保安法(高保法)の規制対象になっていることであ. 圧縮機について,多少の改造でヘリウムに使用可能になる. る.高圧ガス保安法は,高圧ガスによる災害防止のための. 可能性を調べている.2020 年初頭までは順調に進み,安全. 法令であり,高圧ガスの製造から廃棄までを規制している.. 低温工学 56 巻 3 号 2021 号 2021 年 低温工学 56. 123.
(6) https://yamashita.issp.u-tokyo.ac.jp/ISSPWS191106/pawapo.html. 性データを蓄積する実験に着手しかかっていたが,これも. (参照 2021-2-24). コロナ禍で中断の止むなきに至っている.. 9). 5.4 外部機関向けヘリウム再液化事業. 日本物理学会「ヘリウムリサイクル社会を目指して」 https://www.jps.or.jp/information/2019/12/helium.php. 物性研では,外部機関(学術機関,および学術機関にヘ. (参照 2021-2-24). リウムを供給する機関)に対する物性研ヘリウム液化施設. 10) 中村. 亘:「液体ヘリウム回収記」, 低温工学 55 (2020) 367. の運用事業を 2019 年 10 月 1 日,多くの折衝の末,ようや. 11) 山下. 穣:「ヘリウムリサイクルフォーラム」,. https://www.facebook.com/groups/545896166101917/ (参照. く事業化し開始した.これまで述べてきたように,本格的 なヘリウムリサイクルのためには,ハード的にも制度的に もまだまだ整備が必要であるが,一方 2019 年当時,危機. 2021-02-24) 12) 米国物理学会:“Responding to the U.S. Research Community’s Liquid Helium Crisis,” https://www.aps.org/policy/reports/popa-. は待ったなしであったし,まず現状で可能な範囲で事業を 始めて,実務の中から問題点を抽出し改善していこうとい. reports/helium-crisis.cfm (参照 2021-2-24) 13) 経済産業省:「スマート化に向けた規制対象の再整理につい て」 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/. う意図もあった. 物性研には外部から多くの利用者が来所するため,液体 ヘリウム利用の作法は一定ではなく,また,回収純度維持. koatsu_gas/pdf/008_02_00.pdf (参照 2021-2-24) 14) 物性研究所液化室:「ヘリウムガスの再液化事業開始のお知 らせ」http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html. の為にユーザーに細かく指導する時間は割けない.従って,. ?pid=8819 (参照 2021-2-24). ヘリウム液化システムは,一時的に 50%程度の不純物(主 に空気成分)を含むガスを回収しても液化が継続できる様 に設計されている.その利点を活用し,外部から使用済み. 勝. 本. 信. 吾. 1957 年 11 月 15 日生.1981 年東京大学理学部 物理学科卒業.1983 年同大学院理学系研究科. のヘリウムガスを受け入れ再液化することで,この危機が. 博士前期課程(物理学専攻)修了.2004 年東. 多少なりとも緩和される事を期待した.ルールの詳細など. 京大学物性研究所教授.主に低温量子輸送現. については,web ページ 14)をご覧いただきたい.. 象研究に従事.日本物理学会,応用物理学会,. 事業開始以来,関連機関・企業から多数のお問い合わせ. 日本磁気学会会員.理学博士.. をいただいている.が,諸条件あってなかなか最終的に再 液化までは至らず,その内に 3.3 節のコロナ危機が始まっ てしまい,2020 年までに行った再液化事業実績は 1 件のみ に止まっている.やはりヘリウムにとって「平時」になっ. 鷺. 山. 玲. 子. 1975 年 11 月 27 日生.1998 年木更津工業高等 専門学校電子制工学科卒業.1999 年東京大学. てしまうと,現在のように制約の多い状況では,リサイク. 文部技官補.2011 年東京大学物性研究所技術. ルの仕組みを十分に発展させて危機が訪れた際の下支え,. 専門職員.主に液化ヘリウム製造設備等の維. 緩衝となる制度には発展させにくい.平時であっても何と. 持管理・寒剤供給に従事.低温工学・超電導 学会会員.. かリサイクルがトータルとして利益を生む形式を今後模索 していきたいと考えている. 参 考 文 献 土 1). 2). 屋. 光. 部電気通信工学科卒業.1991 年東京大学文部. Y. Miura and K. Ôno: “Two-stage nuclear demagnetization. 技術官.2006 年東京大学物性研究所技術専門. refrigerator reaching 27 µK,” J. Low Temp. Phys. 55 (1984) 17-31. 職員.主に液化ヘリウム製造設備等の維持管. 土屋. 理・寒剤供給に従事.低温工学・超電導学会. 光,鷺山玲子,阿部美玲:「ヘリウム液化機のトラブ. ルとその対処」,低温工学 43 (2008) 55-56 3). 1971 年 4 月 6 日生.1994 年東京電機大学第Ⅱ. H. Ishimoto, N. Nishida, T. Furubayashi, M. Shinohara, Y. Takano,. 会員.. 勝本信吾:「2019 年 日本における「ヘリウム危機」問題」 https://www.jps.or.jp/information/docs/seimeishiryo20191220.pdf (参照 2021-2-24). 4). 山下. 穣:「ヘリウム危機の現状と今後の課題について」,固. 体物理 55 (2020) 215-223 5). D. Kramer: “Helium shortage has ended, at least for now,” Physics Today, 5 June 2020. DOI:10.1063/PT.6.2.20200605a. 6). M. Burgess: “Large-scale helium plant now operational in China,”. 山. 下. 穣. 1977 年 10 月生.2005 年京都大学理学研究科 博士後期課程修了.2013 年東京大学物性研究 所准教授.極低温における量子凝縮現象の研 究に従事.物理学会会員.理学博士.. Gas World, 28 July 2020. https://www.gasworld.com/large-scalehelium-plant-now-operational-in-china/2019572.article 7). 勝本信吾:「「ヘリウム危機」に臨んでの緊急声明発表経緯」, 日本物理学会誌 75 (2020) 232-233. 8). ISSP ワークショップ「ヘリウム危機の現状と今後の課題」. 124. TEION Cryo. Super. TEIONKOGAKU(J. KOGAKU (J.Cryo. Super.Soc. Soc.Jpn.)Vol. Jpn.) Vol.5656No. No.3(2021) 3 (2021).
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