偽装カシミヤ製品の根絶に向けた獣毛鑑別法
(熊本大学1・一般財団法人ニッセンケン品質評価センター2)
増田ま す だたけし豪1,2
Identification of Fake Cashmere Products by using Electrophoresis
(Nissenken Quality Evaluation Center 1, Kumamoto University 2) T. Masuda
Short Abstract: Cashmere is made from the hair of cashmere goat. The cashmere hair products, such as
sweater and stole, are typically expensive due to much warm, light and soft than other animal hair products. Fake cashmere products have been distributed in recent years. We have developed a new identification method for animal hair fibers based on SDS-PAGE and principal component analysis.
Keywords: Cashmere, SDS-PAGE, Principal component analysis, Animal hair fiber
【緒論】 高級獣毛繊維として知られるカシミヤには近年、偽装品が流通している。その被害額は年間で約40 億円と推定される。2014 年には 18 事業者が偽装カシミヤ製品を販売したとして消費者庁に行政処分 を受けている。偽装カシミヤ製品はウールなどの安価な獣毛繊維と混合して嵩を増やすなどして作ら れる。偽装カシミヤ製品の市場流入を防ぐために、第三者検査機関では獣毛の鑑別を行っている。試 験者は顕微鏡下で獣毛の種類を1 本ずつ目視で鑑別している。しかしながら近年、獣毛偽装技術の向 上に伴い目視鑑別が困難となってきた。繊維検査業界において、顕微鏡法に代わる獣毛の形態に依存 しない新しい鑑別法の開発が喫緊の課題である。我々は獣毛の構成タンパク質が動物種ごとに異なる 点に着目し、電気泳動パターンの違いで客観的、安価かつ簡易的な鑑別システムを構築してきた。 【材料および方法】 獣毛として、カシミヤ、ウールやヤクなど19 種類の動物から、合計 205 種類の獣毛を鑑別に使用し た。獣毛タンパク質はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびジチオスレイトールを用いて抽出し、アセ トン沈殿後にヨードアセトアミドでシステイン側鎖をアルキル化した。ドデシル硫酸ナトリウム-ポリ アクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)でタンパク質を分離し、タンパク質を蛍光染色剤で検出し た。得られた電気泳動パターンについて、バンドの移動度を補正した後、SIMCA を用いた主成分解析 およびクラスター解析を用いて動物種を鑑別した。 【結果および考察】 獣毛タンパク質の電気泳動パターンから獣毛種を鑑別す るには、再現性高く電気泳動パターンを得る必要がある。獣 毛を構成するタンパク質にはシステインが多く存在するた め、SDS-PAGE で一般的に用いられている抽出方法では、抽 出効率が低くシステインの再架橋により電気泳動パターン は不明瞭となる。そこで我々は、抽出条件、抽出液のpH お よびシステインのアルキル化など、獣毛タンパク質に適した 抽出方法を確立することで、明瞭かつ再現性高く電気泳動パ ターンを得ることができた (Fig.)。本前処理方法を用いて獣 毛種の鑑別を行ったところ、未混用の獣毛であれば、いずれ の獣毛でもカシミヤとの違いを100%の正解率で鑑別できた。 また、本方法で得られる電気泳動パターンは、獣毛の産地や 染色加工手法に依存せず獣毛種固有のパターンが得られた。 このことから、獣毛種既知の電気泳動パターンを蓄積してお き、未知試料の電気泳動パターンと照らし合わせることで、 顕微鏡法に代わる客観的な鑑別が可能となった。 本技術を基盤として現在、我々が取り組んでいる毛皮の鑑 別についても紹介する。
Fig. Protein components of several animal hair fibers