Research Note
/研究ノート向井 智哉・金 信遇・松木 祐馬・
木村 真利子・近藤 文哉
This study aimed to investigate how the factor structure of Muslim images differs between Japan and Korea. In terms of the circumstances surrounding Muslims, Japan
ムスリムイメージの因子構造の日
韓比較
質問紙法を用いた実証研究
(1)Comparing the Factor Structure of
Muslim Images between Japan and
Korea
An Empirical Study
MUKAI Tomoya, KIM Shinwoo, MATSUKI Yuma,
KIMURA Mariko, and KONDO Fumiya
Ⅰ . 問題の設定 Ⅱ . 先行研究の検討 Ⅲ . 研究の目的と方法 Ⅳ . 分析 Ⅴ . 本研究で得られた知見と今後の方 向性
and Korea have both similarities and differences. Both Japan and Korea have relatively small Muslim populations; the numbers are estimated to be approximately 130,000 in Japan and 135,000 in Korea. These amount to approximately 0.1% and 0.3% of gross national populations, respectively. A second similarity is the growing social and scholarly interest in Muslims. Since the September 11th attacks in the U.S., the public
and scholars have shown greater interest in Muslims. As for differences, the degree of social interest differs between Japan and Korea. In particular, considering social events such as responses to Yemeni refugees coming to Jeju island, it seems that the Korean public shows greater interest in Muslims compared to the Japanese public. This study explores how these similarities and differences are reflected in Muslim images at an individual level.
A questionnaire was distributed to 330 Japanese and 339 Korean participants via a web survey company. The questionnaire included the Muslim images scale, which was developed in a previous study. This scale consisted of three factors: “negative image,” “positive image,” and “piety image.”
First, we conducted an exploratory factor analysis to identify the factor structure of Muslim images in Japan and Korea. This analysis showed that three items were loaded to different factors in Japan and Korea, and one item was loaded differently from the previous study. Therefore, these four items were excluded from the analysis.
Second, we conducted structural equation modeling to examine how the factor structure of Muslim images differs between Japan and Korea. In particular, three models with different constraints were compared in terms of fit (CFI). The comparison indicated that the model constraining factor loadings and intercepts to be equal in both countries showed the best fits. Therefore, we adopted this model and investigated the factor structure. As a result, it was shown that while the relation between “positive image” and “piety image” was negative in Korea, this relation did not reach a significant level in Japan.
Third, the scores of Muslim images factors were compared. While “negative image” and “positive image” did not show a significant difference, “piety image” had a significantly higher score among Koreans compared to Japanese participants, suggesting that the Korean participants were more likely to have an image emphasizing Muslim’s religiosity.
In conclusion, our analysis indicated two similarities and two differences in Muslim images in Japan and Korea. As for similarities, this study showed that 1) the
same three-factor structure could be observed in both Japan and Korea, and 2) “negative image” and “positive image” did not show a significant difference. As for differences, it was shown that 1) the score of “piety image” was higher in Korea compared to Japan, and 2) while the relation between “positive image” and “piety image” was negative in Korea, this relation was insignificant in Japan. As mentioned above, social circumstances surrounding Muslims are different in the two countries. The similarities and differences in Muslim images at an individual level could be attributed to these social circumstances.
I. 問題の設定
本研究の目的は、ムスリムに対するイメージの構造を、日本および韓国の一般市民 を対象として検討することである。 2016年末の日本のムスリム人口は13万人弱と推定されている[店田 2018]。これは、 日本の全人口の約0.1%であり決して大きな数字とは言えない。それにもかかわらず、 日本におけるムスリムに関する研究は着々と蓄積されつつある。そのような研究としては、 店田らの一連の研究[店田・岡井 2011; 店田・石川・岡井 2012; 2013]をはじめとして、 高校生におけるムスリムイメージを検討した松本[2006]や日本に居住するムスリムの 状況を記述した桜井[2003]などがある。 これらの研究の中でも、非ムスリムが持つイメージの検討はとりわけ重要である。 そもそもマイノリティであるムスリムはマジョリティである非ムスリムと日常的に接触し、 彼らとの関係を生活において日々考えざるを得ない[近藤・向井 2017]。そうである とすれば、仮に非ムスリムがムスリムに対して持つイメージが概して否定的なもので ある場合には、そのようなイメージに日々接さざるを得ないムスリムは日常生活にお いて大きな困難を抱えることになる。非ムスリムはムスリムをどのようなものとして イメージしているのか、それにムスリムはどのように対応すべきなのか、両者の関係 改善のために何をなすべきなのか。マジョリティたる非ムスリムが持つイメージを検討 することは、このような問題に示唆を与えるという点で、ムスリムにとっても非ムス リムにとっても重要な課題である。 このような課題に対するアプローチはいくつか考えられるが、本研究では、計量的 な手法を用いて国家間の比較を行う。計量的な手法を用いる理由は、今現在の傾向を 把握することが可能なうえ、調査結果を数値化することで、ムスリムについて一般に どのようなイメージが持たれているかについて詳細な比較が可能となることである。また、国家間の比較を行うのは、一国の比較ではどのような知見が得られるにせよ、その知 見が一般的なものなのか、あるいはその国独自なものであるのかが把握できないのに 対して、国家間の比較には、この点に関して示唆を与えることができるという利点が あるという理由に基づく[田崎 2008]。 そこで問題となるのはどの国を比較対象として取り上げるかということであるが、 本研究では比較対象として隣国の韓国を取り上げる。日韓のムスリムを取り巻く社会 的状況には類似点と同時に相違点も見られる。類似点としては、第一に、全人口に対 するムスリムの相対的な少なさが挙げられる。日韓両国に居住するムスリムの数は、 ムスリムに関する研究が盛んに行われてきた欧米諸国と比べて少数にとどまり、その 具体的な数は、日本では13万人弱(総人口の約0.1%)[店田 2018]、韓国では14万人弱(総 人口の約0.3%)と推定されている[Jeong 2018; Park 2017]。第二に、社会的・学術的 関心の高まりが挙げられる。両国での全人口に占めるムスリム人口は少数にとどまる 反面、どちらの国においても、アメリカの同時多発テロ以降、ムスリム(あるいはイスラー ム)に対しては、社会的にも学術的にも関心が集まるようになっている[Park 2017]。 相違点については、社会的関心の高まりの程度が挙げられる。たとえば、韓国にお いては、済州島にイエメン人が難民として流入するという出来事が2018年に発生し た[Lee and Jeon 2018]。この出来事は広い社会的関心を集め、イエメン人の入国が確 認されてからわずか5日後には彼らの難民申請許可を取り下げるよう求める嘆願に22 万人以上の署名が集まり[Park 2018]、最終的に署名の数は70万人を越えることになっ た[Daehanmingug Cheongwadae n.d.]。このような韓国の状況とは対照的に、日本に おいては、学校教育における諸問題[桜井 2003]などが報告されているとはいえ、ム スリムをめぐる問題が韓国におけるような規模で生じていることは確認できない。つ まり、韓国ではムスリムは相対的に高い社会的顕在性を有しているのに対し、日本に おけるその顕在性は比較的低度にとどまるという点で、両国間には相違が認められる。 以上のように、韓国と日本両国のムスリムをめぐる状況には、類似する側面と相違 する側面とがある。このような類似と相違を考慮に入れつつ、非ムスリムがムスリム に対して持つイメージがどのようなものであるかを検討することには、今後の研究に 利用可能なデータを日韓両国で提供するという点で学術的な価値がある。また、それ を通じて検討を進めていくことはムスリムと非ムスリムの関係性を改善する方途を示 唆することにつながり得るため、社会的にも有益であろう。以上が韓国を比較対象と して取り上げる理由である。 以下では、このような基本的観点から、日韓両国の非ムスリムがムスリムに対して 持つイメージについて行われた先行研究を検討する(第2節)。その後、先行研究の概 観を踏まえた上で、改めて本研究の目的を述べ、それに際して用いる手法を詳述する
(第3節)。第4節では実際に分析を行い、第5節では、得られた結果を考察し、どのよ うな意義が見出せるか、どのような今後の研究の方向性が導かれるかを論じる。
II. 先行研究の検討
1. ムスリムイメージに関する先行研究の概観 ムスリムに対するイメージに関しては、日本でも2000年以降、複数の研究が行われ ている。この分野における先駆的な研究としては高木[2004]や松本[2006]がある。 前者の調査では、イスラームのイメージとして最も肯定率が高かったのは「闘争」(45.0%) であり、逆に最も低かったのは「平和」(9.7%)であったことが示されている。後者の調 査は、高校生を対象に調査を行い、「教えを厳格に守る」(57.5%)、「奇妙な習慣を持つ」 (54.8%)、「砂漠の宗教」(46.7%)、「理解しにくい」(46.2%)などの回答が多く見られ たことを報告している(2)。また、店田らの研究チームが行った一連の調査の一つでは、 岐阜市市民が調査対象とされている。この調査では、「イスラム教は平和を重んじる 宗教である」という質問項目に肯定的に回答した人が26.7%であったのに対し、「イス ラム教は攻撃的な宗教である」に肯定的に回答した人が40.8%であったことが示され ている[店田・岡井 2011]。 このような初期の研究は、主として自由記述あるいは質問項目への回答を単純に集 計することを通じて日本人が持つムスリムに対するイメージの現状を把握することを 目的としたものが多かった。これらの調査は、日本人が持つイメージをより正確に把 握できるようにしたという点で意義深いものであるものの、より近年の研究は、この ようなイメージがどのような構造を有しているのか、またどのような要因に影響を与 えるのかといったことを明らかにするため、方法論的により洗練された手法を用いて 検討を行っている。 たとえば近藤・向井[2017]は、ムスリムに対するイメージがどのような構造を有し ているのかを統計的に検討している。この研究では、店田[2015]による自由記述の集 計をもとに、ムスリムに対するイメージを測定する項目を作成し、因子分析という手 法によって、そのイメージが「肯定的イメージ」(例:「自由」、「カッコイイ」、「寛大」)、 「否定的イメージ」(例:「過激」、「危険」、「こわい」)、「信心深さイメージ」(例:「忠実」、 「信心深い」、「まじめ」)の3つのカテゴリーに分けられることを明らかにしている。ム スリムに対するイメージが、これら3つのカテゴリーによって構成されることは、異な る調査対象を用いて行われたその後の研究でも確認されている[近藤ほか 2019]。 また、一方の韓国では、韓国人がムスリムに対して持つイメージを定性的・定量的に把握することを目的とした調査が行われている[Kim 2016]。以下に述べる本研究 のイメージの定義とは部分的に異なるものの、この研究では、ムスリムに対するイメー ジの自由記述を、①「テロ、戦争、紛争」、②「イスラーム、忠実な宗教的生活」、③「石 油会社」、④「荒廃した自然環境」、⑤「経済再建」、⑥「性差別と封建的な社会制度」に 細分化した上で、これらを肯定的回答と否定的回答に分けて質問紙を作成し、回答を 収集している。そして分析の結果、「性差別」や「戦争・紛争」といった「否定的回答」だ けではなく、「忠実なイスラム宗教生活」や「敬虔で深い信仰心」といった「肯定的回答」 も多く見られたとまとめている。 くわえて、韓国人と日本人のムスリムに対するイメージを比較した調査も行われて いる[アジアのなかの中東 n.d.]。加藤博らを中心に行われたこの調査(以下、同調査 とする)では、上述の松本[2006]の調査で使用された19の項目を用いて、韓国の6つ の中学・高校の生徒289名のムスリムに対するイメージを検討している。その結果、 韓国で最も多かった回答は、「教えを厳格に守る」(48.4%)であり、「後進的」(43.6%)、 「砂漠の宗教」(42.9%)がその後に続いた。日本との差が大きかった項目は、「後進的」(韓 国: 43.6% vs.日本:22.0%)、「奇妙な習慣を持つ」(韓国:38.1% vs.日本:54.8%)、「異 質な考えを認めない」(韓国:28.4% vs.日本:39.9%)、「結束力が強い」(韓国:33.6% vs.日本:45.1%)などであった。一方、大きな差が見られなかった項目は、「攻撃的 で恐い」(韓国:40.5% vs.日本:36.1%)、「得体が知れない」(韓国:40.1% vs.日本: 36.1%)、「理解しにくい」(韓国:42.6% vs.日本:46.2%)などであった。これらの結果は、 日韓両国でのムスリムに対するイメージには、類似性が見られると同時に相違も見ら れることを示唆している。 2. 先行研究の課題 同調査は、日本と韓国のムスリムに対するイメージを比較したおそらく唯一の調査 であり、その意味で極めて意義深い研究である。しかし一方で、この研究にも補われ るべき点が少なくとも三つ存在する。第一に、同調査では、ムスリムに対するイメー ジが持つ構造についての検討が行われていない。つまり、同調査は、各質問項目の回 答の割合のみを単純に算出するにとどまり、そのような質問項目が相互にどのような 関係性を有しているのかについては全く検討がなされていない。具体的には、ムスリ ムに対するイメージは日本において上述のように、「否定的イメージ」、「肯定的イメー ジ」、「信心深さイメージ」という三因子構造を持つことが確認されているが[近藤・向 井 2017; 近藤ほか 2019]、韓国においてはこれとは異なる因子構造が見られる可能性 が考えられる。また仮に韓日で同じ三因子が抽出されたとしても、それらの因子間の 相関は異なる可能性もある。たとえば、日本においては「信心深さイメージ」は「肯定
的イメージ」と結びつくが、韓国においては「信心深さイメージ」は「否定的イメージ」 と結びつくといったように、国家によって因子間の関係性が異なる可能性も考えられる。 日韓のイメージの差を把握するためには、特定の質問項目に回答した人の割合の差だ けではなく、このような構造の差も検討する必要がある。第二に、同調査は日本にお いても韓国においても、中学・高校の生徒という限られたサンプルのみを対象として いる。回答者の属性(性別や年齢)によって、ムスリムに対して抱くイメージが異なる 可能性は十分に考えられる。したがって、より広いサンプルを用いて検討を行うこと が有益であろう。 また、同調査のみではなく関連する他の研究[Kim 2016; 近藤・向井 2017; 高木 2004; 店田・岡井 2011; 松本 2006]も抱える課題であるが、先行研究のさらなる問題 点として、イメージの定義ないし測定法が研究間で一貫していないことが挙げられる。 このような非一貫性は研究間の比較を困難にするという点で望ましくないと思われる。 そのような相違の中で最も目立つものは、具体的な事物を「ムスリムイメージ」に含め るかどうかである。つまり、先に触れたKim[2016]は、国家イメージを「国家あるい は国民に関する多様な情報を土台にして形成される一般的な認識または信念(믿음)」 と定義しているが、この定義には、「石油会社」や「荒廃した自然環境」といったような 具体的な事物が含まれている。それに対して、近藤・向井[2017]は、「自由」、「こわ い」、「信心深い」など、より抽象的な項目のみを用いてムスリムイメージを測定している。 松本[2006]は、「砂漠の宗教」や「奇妙な習慣を持つ」などの項目が含まれていること から、上の二者の中間型と考えられる。このようにムスリムイメージの定義ないし測 定法には相違が存在する。 そこで問題となるのは、本研究においてどちらの定義ないし測定法を採用するべき かであるが、以下に述べる理由から、後者の抽象的なイメージに限定した定義ないし 測定法を採用する。まず、現在の世界各国ではイスラモフォビア的な態度が広まって いる[e.g. Pratt and Woodlock 2016]。日本や韓国においてもムスリムに対する受容的 態度は概して低い[Jeong 2018]。したがって、ムスリムに対する行動や態度を改善す るための働きかけの方法を探ることは社会的に見ても学術的に見ても大きな意義を有 する。そのような社会的・学術的要請の中に本研究を位置づけた場合、より抽象的な ムスリムイメージに焦点を当てることが有益である。なぜなら、具体的なイメージよ り抽象的なイメージの方がムスリムに対する行動や態度との関連が強いことが予想さ れるからである。つまり、たとえばKim[2016]や松本[2006]で示された「石油会社」 や「砂漠の宗教」といった具体的なイメージを持つことが、ムスリムに対する直接的な 態度や行動に影響することは考えにくい。それに対し、「こわい」や「自由」といったよ り抽象的なムスリムイメージはそのような態度や行動に影響を及ぼすことが容易に想
像できる。したがって、ムスリムに対する実際の行動や態度を予測し統制する方途を 探るという研究の将来的発展性を鑑みると、抽象的イメージに焦点を当てることがよ り有益であると考えられる。以上のような理由から、本研究では、ムスリムイメージ を具体的な項目ではなく抽象的な項目によって測定することを試みる。そこで、久原 ほか[2016]を参照し、ムスリムイメージを「抽象的、一般的な形容語句で測定され、 ムスリムに関して抱かれる行動の準備状態」と操作的に定義した上で、検討を進める。
III. 研究の目的と方法
1. 研究の目的 ここまで見てきたように、ムスリムに対して日本人がどのようなイメージを有して いるかについては、これまで複数の研究が行われてきた。また、韓国と日本のイメー ジの差を検討した調査も行われてきた[アジアのなかの中東 n.d.]。しかし、同調査は、 ムスリムに対するイメージを日韓両国で集計し、それらのイメージには類似する項目 もあれば相違する項目もあることを示している点で有益であるが、一方でムスリムに 対するイメージを測定する質問項目の構造に関する検討が行われていない点、および 調査のサンプルが中学・高校の生徒のみであるという点で、限界も抱えていた。また、 先行研究には、ムスリムイメージの定義ないし測定法が一貫していないという問題点 も見られた。このような観点から本研究は、同調査を土台としつつも、より洗練され た統計的手法を用いて分析を行うこと、生徒・学生だけでなく広く一般の人々に回答 を求めること、イメージを抽象的なイメージに限定した形で測定することによって、こ れら三つの不足点を補うことを試みる。より具体的には、日本人と韓国人がムスリム に対して持つイメージがどのような構造を有するのか、そしてその構造にはどのよう な点で類似・相違が見られるのかを検討することを目的とする。 2. 分析の方針 上記の目的を検討するにあたって、以下では、まず探索的因子分析(3)を行い、その 後抽出された因子が日韓でどの程度あるいはどのように異なっているのかを共分散構 造分析によって検討する。国家間の比較を行う際には、一国内で調査を行う際と比べ てより多くの点に留意しなければならない[真鍋 2004a; 2004b]。第一に、本研究のよ うに、異なる言語圏で調査を行う際にはそれぞれの言語の質問項目が等価の概念を測 定しているかといったことにまず留意する必要がある。第二に、質問項目の等価性が 確保されていたとしても、異なる文化では人々の回答傾向が異なってくる可能性もある[Harzing 2006]。たとえば、日本人はアメリカ人と比べて、中間回答(「どちらとも 言えない」やそれに類する回答)を選択しやすい傾向にあることが知られている[Chen, Lee and Stevenson 1995]。ある変数に国家間で差があるのかを検討する際には、その ような回答傾向の相違も考慮に入れた上で検討を行う必要がある。 これら二つの留意事項に対処するため、第一に、韓国語版の作成に際しては、両国 間における質問項目の等価性を確保するべく、バックトランスレーションと呼ばれる手 続きを踏んだ[Brislin 1970](4)。これは具体的には以下の手順で行われた。まず韓国語 のネイティヴ・スピーカーであり極めて高い日本語能力を有する第二著者が、日本語の 質問項目(J)を韓国語版の下案(K’)へと翻訳した(J⇒K’)。つづいて、韓国語と日本 語のネイティヴ・スピーカーである研究協力者が、この韓国語版の下案を日本語へと再 翻訳した(K’⇒J’)(5)。こうして再翻訳された日本語版を共著者全員が検討し、意味が 極端に異なっている項目はないかを議論した(J’⇔J)。この議論を韓国語版の下案の項 目に反映した上で、最終的な韓国語版の項目を確定した(J’⇒K)。 第二に、回答傾向の相違を踏まえて日韓間のイメージの相違を検討するため、共分 散構造分析と呼ばれる手法を用いた[田崎 2008](6)。この共分散構造分析の利点の一つ は、任意に想定された仮説モデルが調査によって実際に得られたデータにどの程度適 合しているのかを示す指標(適合度)を算出でき[狩野 1997]、自由にモデルを設定で きるところにある[豊田 1992; 豊田・前田・柳井 1992]。共分散構造分析を用いて群 間の異同を検証する際には、この適合度を用いる。具体的には、モデルに含まれる数 値(たとえば項目の平均値など)が群間で等価であるという制約を順番に置いていく。 このような制約は等値制約と呼ばれる。この等値制約によってモデルの適合度が極端 に下がった場合には、追加された等値制約は実際のデータに適合しない想定であったと いうことであり、その数値は群間で異なると判断される[Meredith 1993; 田崎 2008]。 3. 調査対象 調査対象とされたのは、日本人330名(女性132名、男性198名、平均年齢48.4歳、 SD = 13.85)、韓国人339名(女性168名、男性171名、平均年齢43.8歳、SD = 12.35) であった。調査は2018年10月に実施され、回答者はウェブ調査会社を通じて募集され た。具体的には、回答募集の案内がそれぞれの会社のページに掲載され、それを見た 登録モニターのうち回答に同意した者が回答を行った。用いられた会社はそれぞれの 国で異なる会社であったが、どちらの国の場合でも手続きはほぼ同様であった(7)。 4. 質問票の内容 調査には、ムスリムに対するイメージ尺度が含まれた。この尺度は、上述のように近藤・
向井[2017]によって作成されたものであり、「肯定的イメージ」(10項目)、「否定的イメージ」 (8項目)、「信心深さイメージ」(8項目)の3因子26項目から構成されている。「あなた がイスラム教徒について持つイメージは以下の言葉にどれくらい合致しますか。最も 当てはまる選択肢を選んでください。なお、以下の質問に答える際には、日本に住ん でいるイスラム教徒を想定してお答えください」(8)と教示した上で、それぞれの言葉 が自分の持つイメージにどの程度当てはまるかを、「当てはまる」、「どちらかと言えば 当てはまる」、「どちらとも言えない」、「どちらかと言えば当てはまらない」、「当ては まらない」の5件法で尋ねた。得点が高い方が当該のイメージをより強く持つことを示す。
IV. 分析
1. 基礎的検討 まず回答者の属性を検討するため、記述統計を算出した。両国の回答者の属性を表 1に示す。 つづいて、ムスリムに対するイメージ尺度の因子構造を把握するために、ムスリム に対するイメージ尺度26項目を対象に探索的因子分析を行った(付録参照)。固有値の 減衰状況は、日本では8.25, 5.27, 2.29, 0.90, 0.87……、韓国では8.49, 3.84, 2.21, 1.05, 0.88……であったため、3因子解を想定した上で、探索的因子分析(最尤法・プロマッ クス回転)を行った。その結果、「まじめ」、「礼儀正しい」、「排他的」の3項目が日韓 で異なる因子に負荷していた。また、「なじみがない」という項目は先行研究[近藤・ 向井 2017]と異なる因子に負荷していた。これらの4項目は安定性が低いと考えたため、 除外した上で22項目を対象に再度因子分析を行ったところ、日韓共に全ての項目が近 藤・向井[2017]と同じ因子に負荷することが示された。 2. イメージの構造の相違の検討 日韓両国におけるイメージの構造の相違を検討するため、多母集団の共分散構造分 析を行った。具体的には、日韓で異なる因子に負荷していた「まじめ」、「礼儀正しい」、「排 他的」という項目、および先行研究[近藤・向井 2017]と異なる因子に負荷していた「な じみがない」という項目の4項目を除外した上で、合計22項目を対象として分析を行った。 比較したモデルは以下の3つである。まずモデル1として、何の制約も置かないモ デルをベースラインとして設定した。モデル2として、因子負荷量が日韓で等しいと いう制約を置いたモデルを設定した。つまりこのモデルでは、各項目と因子の関係の 強さが日韓で等価であるという想定が置かれている。モデル3として、モデル2の制表1 回答者の属性(N = 669) 変数 日本(n = 330) 韓国(n = 339) n % n % 性別 男性 198 60.0 171 50.4 女性 132 40.0 168 49.6 年齢 10代 3 0.9 0 0.0 20代 25 7.6 50 14.7 30代 59 17.9 83 24.5 40代 93 28.2 87 25.7 50代 72 21.8 73 21.5 60代 56 17.0 46 13.6 70代以上 22 6.7 0 0.0 教育水準 中等学校 9 2.7 3 0.9 高等学校 99 30.0 69 20.4 短大・専門学校 55 16.7 44 13.0 四年制大学 149 45.2 194 57.2 大学院 18 5.5 29 8.6 職業 会社員 142 43.0 195 57.5 自営業 26 7.9 38 11.2 主婦 54 16.4 41 12.1 公務員 12 3.6 10 2.9 パート・アルバイト 23 7.0 13 3.8 無職 57 17.3 23 6.8 その他 16 4.8 19 5.6 信仰宗教 仏教 - - 51 15.0 プロテスタント - - 61 18.0 カトリック - - 35 10.3 無宗教 - - 189 55.8 その他 - - 3 0.9 (注) 日本で用いたウェブ調査会社のサービスでは、回答者の宗教を尋ねることが約款によって禁止さ れていたため、日本人回答者の信仰宗教は把握できなかった。 (出所)筆者作成。
約に加え、日韓で切片が等しいという制約を置いたモデルを設定した。つまりこのモ デルでは、因子の影響を除いた各項目の平均値が日韓で等価であるという制約が置か れている。これら3つのモデルの適合度を表2に示す。
モデルの選択を行う際には、一つ前のモデルと対象のモデルのCFIの差(ΔCFI)が
< .01である場合には、対象のモデルを選択するという基準が用いられる[Hirschfeld and von Brachel 2014]。この基準に従い、モデル3を採用した(9)。このモデルで得ら
れた日韓両国における因子負荷量を図1に示す(10)。先行研究[近藤・向井 2017]に従い、 この図の左側に示される因子は「否定的イメージ」、右側に示される因子は「肯定的イメー ジ」、上側に示される因子は「信心深さイメージ」とする。 因子間の関係性を見ると、日韓両国において否定的イメージと肯定的イメージの間 には負の関連(ps < .01)、否定的イメージと信心深さイメージの間には正の関連(ps < .01) 、が見られた。しかし肯定的イメージと信心深さイメージの関連については、日 本では有意な関連が見られなかったのに対し(p = .70)、韓国では有意な負の関連が見 られた(p < .01)。つまりこの結果は、日本においては信心深いというイメージを持つ からといってポジティヴなイメージを持つ(あるいは持たない)といったことはないの に対し、韓国においては信心深いというイメージを持つ回答者ほど肯定的なイメージ を持ちにくいという関係性が見られることを示している。 3. イメージの量的な差の検討 採用されたモデルは、国家間の因子平均の比較を行う際に必要とされる制約(因子 負荷量と切片が等しいという制約:モデル3)を満たしていた[Meredith 1993]。その ため、引き続いて因子平均の日韓差の比較を行った。日本の因子平均を0に固定した 上で、韓国の因子平均が日本のそれからどの程度離れているのかを検討した。その結 果を示したのが表3である。この表に示される通り、信心深さイメージの値は日本よ り韓国で有意に高かった(p < .01)。つまりこの結果は、日本人と比べて韓国人はムス 表2 適合度指標のモデル間比較
χ2 df Δχ2 Δdf CFI ΔCFI RMSEA
モデル1:配置不変 1279.88 412 .893 .079 モデル2:弱測定不変 (因子負荷量に等値制約) 1344.89 431 65.01 19 .888 .006 .080 モデル3:強測定不変 (因子負荷量と切片に等値制約) 1394.20 450 49.31 19 .884 .004 .079 (出所)筆者作成。 図 1 共 分 散 構 造 分 析 の 結 果 ( 注 ) 図 中 左 側 の 数 値 は 日 本 の 値 を 、 右 側 の 数 値 は 韓 国 の 値 を 表 す 。 ( 出 所 ) 筆 者 作 成 。
図 1 共 分 散 構 造 分 析 の 結 果 .88 / .86 .83 / .83 .84 / .74 .83 / .83 .73 / .66 .75 / .74 .76 / .70 .70 / .72 .65 / .62 .71 / .62 .63 / .64 .81 / .74 .69 / .69 .73 / .77 .74 / .77 .52 / .52 F 2: 肯定的 イメージ -.28** / -.29** .24** / .34** -.01 / -.13* F 1: 否定的 イメージ F 3: 信心深さ イメージ 危険 過激 攻撃的 こわい 得体が知れない 復讐心が強い 近寄りがたい 奇妙な習慣を持つ 教えを厳格に守る 信心深い 伝統的 忠実 結束力が強い 厳しい 寛大 カッコイイ 自由 理解しやすい 先進的 平和 穏やか 素朴 .8 8 / .7 9 .80 / .74 .72 / .68 .57 / .48 .73 / .77 .71 / .64 㥚䠮䞾 ὒỿ䞾 㩫㼊⯒G㞢₆G䧮✼ ⽋㑮㕂㧊Gṫ䞾 ┺ṖṖ₆G䧮✼ ₆䞲G㔋ὖ㦚G㰖┞ἶG㧞㦢 Ὃỿ㩗 ⶊ㍲㤖 ᾦⰂ⯒G㠚ỿ䞮ỢG㰖䌊 㔶㞯㕂㧊G₠㦢 㩚䐋㩗 㿿㔺䞾 ἆ㏣⩻㧊Gṫ䞾 㠚ỿ䞾 ὖ╖䞾 ⲡ㧞㦢 㧦㥶⪲㤖 㧊䟊䞮₆G㓂㤖 ㍶㰚㩗 䘟䢪⪲㤖 㡾䢪䞾 ㏢䞾 ( 注 ) 図 中 左 側 の 数 値 は 日 本 の 値 を 、 右 側 の 数 値 は 韓 国 の 値 を 表 す 。 ( 出 所 ) 筆 者 作 成 。
リムが信心深いというイメージを持ちやすいということを示唆している。
V. 本研究で得られた知見と今後の方向性
本研究では、日本人と韓国人がムスリムに対して持つイメージがどのような構造を 有するのか、そしてその構造にはどのような点で類似・相違が見られるのかを検討す ることを目的とした。分析の結果、日韓両国におけるムスリムイメージには、類似点 と相違点がともに見られることが示された。以下では、類似点と相違点を個別に検討 した後、本研究の意義と今後の方向性について論じる。 1. 日韓におけるムスリムイメージの類似点 まず類似点として見出されたのは、以下の二点である。第一に、日韓におけるムス リムイメージはおおむね同じ構造を持つことがわかった。つまり、ムスリムイメージは 日韓両国において「肯定的」、「否定的」に加え、「信心深さ」という三因子にまとめられる。 この結果は、ムスリムは、日韓において、ムスリムに対して否定的か肯定的かという 軸だけではなく、信心深さという宗教的ないし信仰的な面からも理解されていること を示唆している。ムスリムを信心深さからイメージするという点については、ムスリ ムという枠組みが宗教ないし信仰という基準に依ることを考慮に入れれば当然の結果 とも言える。しかし、信心深さイメージに含まれる項目を詳しく検討すると、「厳しい」 といった項目が含まれていることから、日韓での信心深さには、「原理主義的な」イメー ジが含まれていることが分かる。この結果は、ムスリムの「原理主義的」イメージが両 国で浸透していることを示唆するものと解釈できよう。 第二の類似点として、否定的イメージと肯定的イメージの程度には日韓で有意差が 見られなかった。上述のように、日本と比べ韓国ではムスリムはより高い社会的顕在 性を有していると考えられる。そしてその顕在性の高さは上述のイエメン難民の例が 表3 韓国の因子平均 (日本を0に固定) と両国の尺度得点 (SD) 因子 因子平均 p-value 尺度得点 日本人 韓国人 F1:否定的イメージ .156 0.051 3.45 (1.03) 3.58 (1.07) F2:肯定的イメージ .105 0.189 2.47 (0.92) 2.56 (1.01) F3:信心深さイメージ .323 <.000 3.80 (1.02) 3.99 (0.96) (出所)筆者作成。示唆するように[Park 2018; Lee and Jeon 2018]、必ずしも肯定的なイメージと結びつ いているわけではない[Eum 2017; Park 2017]。しかし本研究の結果から判断する限り、 このような否定的な顕在性における相違は、個人が持つイメージには直結しないよう である。近藤ほか[2019]では、ムスリムについてどのような情報を提示されるかより、 その情報をどのように解釈するかがムスリムイメージにより大きな影響を及ぼすこと が示されている。このような知見と本研究の知見を併せて考えれば、ムスリムイメー ジの形成にあたっては、個人が属する社会でどのような情報が流布しているかだけで はなく、その情報をどのように解釈するかが重要な役割を果たすのであろう。 2. 日韓におけるムスリムイメージの相違点 このように、ムスリムイメージは日韓で同じ三因子構造を有しており、否定的イメー ジおよび肯定的イメージにおいてはその程度もおおよそ同等であったが、一方では相 違点も見られた。第一の相違点は、信心深さイメージの程度に差が見られたことである。 つまり、韓国人の方がムスリムを信心深いと見なす傾向にあることがわかった。第二 の相違点は、因子間の関連に相違が見られたことである。具体的には、日本では信心 深さイメージと肯定的イメージの間に有意な関連は見出されなかったのに対し、韓国で は有意な負の関連が見出された。この結果は、韓国においてはムスリムを信心深いも のとしてイメージする回答者ほど肯定的なイメージを持ちにくいのに対し、日本にお いてはそのような関係性は見出されなかったことを示している(11)。 これらの相違点はどのように解釈することができるだろうか。まず信心深さイメー ジの程度に差が見られたことについては、日韓両国における宗教状況の相違を反映し たものである可能性が考えられる。日韓の宗教状況の最大の相違はキリスト教徒人口 の相違であると思われる[浅見・安 2012; 鈴木 2012]。韓国統計局の国勢調査によれば、 韓国におけるキリスト教徒の人口は2015年の時点で、約1356万6千人(プロテスタン ト967万6千人、カトリック389万人)であり、調査人口の約27.6%(プロテスタント 19.7%、カトリック7.9%)を占めている[Tonggyecheong 2016]。それに対して2017 年時点での日本のキリスト教人口は約192万2千人であり(12)、総信者数の約1.1%にす ぎない[文化庁 2018]。このような人口の規模に比例して、韓国ではキリスト教が日 本と比べて相対的に大きな影響力を有していることが推測される。そして、近年のキ リスト教系の政党から出された宣伝用冊子には、ムスリムを非難するあからさまな(イ スラモフォビア的な)言説が見られることが指摘されている[Koo 2018](13)。このように、 それ自体宗教的であり、かつ韓国社会において一定の影響力を有するキリスト教会が ムスリムないしイスラームに対する批判を展開したことによって、韓国においては宗 教的なものとムスリムないしイスラームがより強く結びつけられ、その結果として韓
国においては日本より高い信心深さイメージが見られた可能性が考えられる。 第二の相違点である因子間の関連については、日韓における調査が限られている現 状では、解釈が困難である。一つの可能性としては、ここまで述べてきた社会的顕在 性や宗教状況の相違による解釈が考えられるが、どちらの変数を用いるにせよ、韓国 でのみ信心深さイメージと肯定的イメージの間に負の相関が見られたこと、あるいは 逆に信心深さイメージと否定的イメージの間に正の関連が見られなかったことが十分に 解釈できるとは思われない。また、上述の近藤ほか[2019]の知見を考慮に入れれば、 社会的顕在性や宗教状況それ自体だけでなく、それらをどのように解釈するかについ ての個人差もムスリムイメージを形成するにあたって大きな役割を果たすことも考え られる。 以上述べてきたように、本研究の主眼は日韓におけるムスリムイメージの現状を把 握することにあったため、その結果が明らかになったムスリムイメージの日韓差がどの ような要因に起因するのかについての検討は必ずしも十分ではない。今後は本研究で 指摘したムスリムないしイスラームの社会的顕在性や宗教状況の相違、あるいはそれ らの社会的事象を解釈するにあたっての個人差などに着目しつつ、ムスリムイメージ の相違が何に起因するのかを検討していく必要があろう。 3. 本研究の意義 以上述べてきたように、本研究は、日韓におけるムスリムイメージが類似点ととも に相違点を有することを明らかにした。より具体的に言えば、類似点として示された ことは、ムスリムのイメージの構造が日韓両国で類似していること、そして否定的イ メージおよび肯定的イメージの程度に有意差が見られなかったことの二点であり、相違 点として示されたことは、信心深さイメージの値が日本より韓国で高かったこと、そ して韓国では信心深さイメージと肯定的イメージの間に負の関連が見られたことの二 点である。 今後日韓両国における非ムスリムがムスリムに対して持つイメージを検討する際に は、これらの類似点と相違点に着目しつつ検討を進めることが有益であろう。具体的 には、本研究は「関係性の研究」の観点からムスリムイメージに焦点を絞って調査を行っ たが、ムスリムイメージがムスリムに対する直接的な態度や行動とどのような関連を 示すのか、また上述のように、ムスリムイメージがどのような要因によって規定され るのかは検討されていない。今後は、このような変数間の関連には日韓あるいは日本 と他国の間でどのような相違が見られるのかも含めて、より多くの変数を対象とした 研究を行う必要がある。また、本研究ではムスリム全般に対するイメージを検討したが、 その国籍や性別、年齢などの属性ごとにイメージが異なってくる可能性も考えられる。
今後は社会的な状況を考慮に入れつつ、対象を細分化した検討を行う必要もあるかも しれない。 以上のように本研究はいくつかの課題を抱えているとはいえ、ムスリムイメージが 日本と他国でどのように異なるかを示した数少ない研究であり、ここで得られた知見 は今後の研究における仮説や問題の設定で有益な役割を果たすであろう。この点から して、本研究の意義は、今後の研究に利用可能な予備的知見を提示したことにあると 思われる。 また、より実践的な意義としては次のようなことが考えられる。つまり本研究で日 韓におけるムスリムイメージの構造の類似性が示されたことは、ムスリムイメージを 改善することを目的として日本あるいは韓国で考案された教育法ないし教育プログラ ムは、他方の国においても活用できる可能性があることを示唆していると思われる。 そのような目的のために日本側で作成された教育プログラムとしては文化アシミレーター と名付けられたものがある[中野・田中 2015; 2016]。これは、非ムスリムが、エピソー ドを通じてムスリム(ないしイスラーム)についての実践的な文化学習や原因帰属を柔 軟にする訓練を行うためのものである。このような教育プログラムを韓国でも用いる ことができるとすれば、あるいは逆に韓国で今後作成される教育プログラムを日本で も用いることができるとすれば、日韓両国において非ムスリムとムスリムの関係性を より良いものにしていくためにも、そして日韓の学術的交流を活発にするという点で も非常に有益だと思われる。本研究はこのような応用の可能性を示唆し補強したとい う点でも意義があると考えられる。 いずれにしても、研究は増加しつつあるとはいえ、ムスリムと非ムスリムの関係性 をより良いものにしていくためには今後も研究の蓄積が必要である。本研究が今後の 研究を促進することを期待したい。 謝辞:本研究は、2018年度松下幸之助記念志財団助成顕彰プログラム研究助成を受けて行われた(研 究代表者・近藤文哉)。
付録 日韓におけるムスリムイメージの探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転) 項目 日本 韓国 F1 F2 F3 F1 F2 F3 危険(위험함) .93 .04 -.12 .95 .04 -.11 過激(과격함) .91 .13 -.04 .84 .03 .02 攻撃的(공격적) .90 .05 -.06 .66 .01 .13 こわい(무서움) .80 -.01 .00 .88 .02 -.04 得体が知れない(정체를 알기 힘듦) .78 .02 .01 .55 -.02 .08 復讐心が強い(복수심이 강함) .74 .05 -.01 .79 .04 .04 近寄りがたい(다가가기 힘듦) .70 -.05 .22 .52 -.07 .24 奇妙な習慣を持つ(기묘한 습관을 지니고 있음) .62 -.06 .21 .66 .02 .16 排他的(배타적) .55 -.05 .26 .22 -.13 .38 先進的(선진적) .24 .78 -.10 .09 .67 -.17 理解しやすい(이해하기 쉬움) -.01 .76 -.09 .17 .63 -.19 自由(자유로움) .18 .75 -.32 .19 .72 -.22 寛大(관대함) -.05 .75 .05 .04 .76 -.04 カッコイイ(멋있음) -.02 .70 -.10 .04 .64 -.19 平和(평화로움) -.18 .60 .20 -.19 .69 .09 穏やか(온화함) -.25 .58 .17 -.11 .70 -.02 素朴(소박함) .01 .52 .34 -.04 .59 .27 教えを厳格に守る(교리를 엄격하게 지킴) .00 -.13 .85 .03 -.07 .71 信心深い(신앙심이 깊음) .02 -.14 .80 -.04 -.09 .70 伝統的(전통적) -.08 -.06 .75 .04 .11 .70 まじめ(착실함) -.05 .22 .68 -.09 .63 .30 忠実(충실함) -.03 .08 .67 -.04 .27 .58 結束力が強い(결속력이 강함) .18 -.09 .64 .06 -.04 .75 厳しい(엄격함) .20 -.04 .64 .22 -.06 .58 礼儀正しい(예의 바름) -.12 .41 .53 -.18 .54 .32 なじみがない(낯섦) .24 -.05 .41 .17 -.05 .43 (出所)筆者作成。
注 (1) 本研究の一部は、第86回応用心理学会(2019年、日本大学)で発表された。 (2) 松本[2006]では、割合は示されていなかったため、回答者数と回答数をもとに独自に算出した。 (3) 因子分析とは、極めて単純化して言えば、複数の項目をより少数の因子にまとめる統計的 手法である(具体的な手法については南風原[2002]などを参照)。その中でも、抽出される 因子がどのようなものになるかについて仮説を立てずに行う因子分析を、仮説を立てて行 う「確認的因子分析」に対して、「探索的因子分析」と呼ぶ。本研究の場合では、どのような 因子が韓国で抽出されるかは不明であるため、日韓両国であらかじめ探索的因子分析を行い、 そこで得られた因子を共分散構造分析(確認的因子分析)によって検討している。 (4) バックトランスレーションは心理学をはじめとした多くの分野で用いられている[e.g. 趙・松 本・木村 2011]。 (5) 客観性を担保するため、翻訳に際して研究協力者には研究の具体的な目的は告げられなかっ た。なお研究協力者には謝礼として7,000円が支払われた。 (6) この手法は、ムスリム研究[岡井・石川 2011; 近藤・向井 2017]だけではなく、たとえばナショ ナル・アイデンティティに関する社会学[e.g. 田辺 2011]や健康行動に関する心理学[e.g. 富塚・ 藤 2017]など多くの分野でも用いられている。 (7) 調査の実施に際しては、倫理的配慮として、本調査がムスリムに関するものであること、 回答は任意であり何らかの理由で回答を辞めたくなった場合にはいつでも辞めて構わないこ となどを回答ページの冒頭に記載した。 (8) 韓国での調査では「韓国に住んでいる」とした。 (9) つまり、この場合では、モデル2とモデル3のCFIの差(ΔCFA)は.004であり、.01以下であっ たため、モデル3が採用された。もし仮にモデル2とモデル3の差が、たとえば.012などであっ た場合には、これは.01以下ではないため、モデル2が採用されることになる。 (10) 実際に質問紙に含まれた項目(観測変数)は四角形で、それらの項目をまとめた因子(潜在変 数)は円形で表示されている。また矢印は変数間の関連を示す。 (11) 先行研究[近藤・向井 2017; 近藤ほか 2019]においても、日本では信心深さイメージと肯定 的イメージの間に関連が見出されていないため、この知見は頑健性の高いものであると思わ れる。 (12) 日本の宗教人口の統計は複数の宗教を信仰する人は重複して計上しているため[渡辺 2011]、 実際の信者数はこれよりさらに少ないと思われる。 (13) このようなキリスト教の教会から発された露骨なイスラモフォビア的言説には、アフガニス タンでの宣教の失敗と停止に対する批判を逸らすための戦略的な意図があったことが指摘さ れている[Koo 2018]。
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ABSTRACT
MUKAI Tomoya, KIM Shinwoo, MATSUKI Yuma, KIMURA Mariko, and KONDO Fumiya
Comparing the Factor Structure of Muslim Images between Japan and Korea: An Empirical Study
This study aimed to explore how Muslim images differ in Japan and Korea. These two countries have similarities and differences in terms of the social circumstances surrounding Muslims. In this context, we aimed to investigate how these similarities and differences at the social level are reflected in Muslim images at the individual level. The data collected from 330 Japanese and 339 Korean participants were analyzed with a statistical method called structural equation modeling. The analysis revealed two similarities and two differences in Muslim images in Japan and Korea. As for similarities, this study showed that 1) an equivalent three-factor structure (“negative image,” “positive image,” and “piety image”) could be observed in both Japan and Korea, and 2) “negative image” and “positive image” did not show a significant difference. As for differences, it was shown that 1) the score of “piety image” was higher in Korea compared to Japan, and 2) while the relation between “positive image” and “piety image” was negative in Korea, this relation was insignificant in Japan. Possible reasons for these similarities and
differences and how these findings facilitate future research were further discussed.
Juris Doctor Student, Graduate Schools for Law and Politics, The University of Tokyo
東京大学大学院法学政治学研究科専門職学位課程
Research Operations Department, Institute of Developing Economies (IDE-JETRO)
日本貿易振興機構アジア経済研究所研究推進部
Ph.D. Student, Graduate School of Letters, Arts and Sciences, Waseda University
早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程
Ph.D. Student, Graduate School of Psychology, Rissho University
立正大学大学院心理学研究科博士後期課程
Ph.D. Student, Graduate School of Global Studies, Sophia University