著者
佐藤 創
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジアの出来事
ページ
1-10
発行年
2017-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00049521
インドにおける高額紙幣の切り替えについて(1)
地域研究センター 佐藤創 2017 年 3 月 は じ め に 周知のとおり、2016 年 11 月 8 日 20 時にモディ首相は、500 ルピー紙幣と 1000 ル ピー紙幣(以下、旧紙幣)について翌 11 月 9 日からそれらは通用力を失い、新しい 500 ルピー紙幣と 2000 ルピー紙幣(以下、新紙幣)が順次市中に提供されると発表 した 1。この紙幣切り替え措置が実施されてより4 カ月余りがたち、2017 年 3 月 13日にインド準備銀行(Reserve Bank of India: RBI)は新紙幣の引出しに課されてい た制限のうち残されていた規制を撤廃し、これにより基本的に経過措置は完了した。 そこで、今回の措置の経緯と現時点で把握できる範囲での影響や意義についてまとめ ておきたい。 事 実 インドの紙幣において、1000 ルピー紙幣がもっとも高額な紙幣であり、500 ルピー 紙幣がこれに次ぐ。政府は 2016 年 11 月 8 日に、この二種類の紙幣について法定の 強制通用力を失わせ、これにかわって強制通用力をもつ新たな RBI 発行の銀行券と して、新しい 500 ルピー紙幣(数週間以内に発行流通)と 2000 ルピー紙幣(11 月 10 日以降に発行流通)を供給すると発表した。発表から旧紙幣の廃貨までわずか 4 時間という突然の措置である。その狙いは、汚職・腐敗及び脱税などの疑われるブラ ックマネー、テロ活動のための高額紙幣使用、偽札、を抑止することにあると政府側 は説明した。 経過措置も同時に発表され、2016 年 12 月 30 日までは旧紙幣を限度額なく銀行口座 等へ預け入れることは可能であるが、銀行窓口等で旧紙幣を新紙幣に交換することに ついては11 月 24 日までのみ可能とし、また交換の限度額も一回の交換につき 4000 ルピーと低く設定された。さらに、銀行口座等からの引出しについても銀行窓口では 11 月 24 日までは 1 日 10000 ルピーまで、1 週間に 20000 ルピーまで、ATM では 1 日2000 ルピーまでとする限度額が設けられた。なお旧紙幣は一般には強制通用力を 失うこととされたが、病院、鉄道、飛行機、ガソリンスタンドなど一定の財サービス の購入については旧紙幣の使用を継続して認めるものとした。これらを含め、政府及 びRBI が高額紙幣切り替えに関連して取った措置をまず日時順に整理する。
1 以下、本稿では、事実関係については、別に断りのない限り、現地有力英字日刊紙(The Hindu, The
Indian Express, The Economic Times)に基づいている。また政府が公示・施行した法令や告示、プレ ス・リリースなどについての出典はそれぞれ注に示している。
高 額 紙 幣 の 切 り 替 え に 関 わ る 主 な 法 令 ・ 告 示 の 概 要 2016 年 11 月 8 日からこの高額紙幣切り替え措置に関連して 100 を優に超える告示や プレス・リリースが政府(財務省)と RBI から発されており、必ずしも網羅的なも のではないが、主だった事項を法令ないし告示ごとにまとめると以下の通りである。 2016 年 11 月 8 日 政府は500 ルピー紙幣、1000 ルピー紙幣の強制通用力を 11 月 9 日より失効させ る2。 なお旧紙幣による銀行口座等への預入れについては一定の口座を除いて限度 額なく2016 年 12 月 30 日まで認める。 旧紙幣と新紙幣の銀行窓口での交換限度は一回4000 ルピーとする(15 日後 に限度額は見直す)。 銀行窓口での口座からの引出しは11 月 24 日まで一日 10000 ルピー、一週間 に20000 ルピーまでとする。 ATM での1カード当たりの引出しの限度額は一日 2000 ルピー、11 月 19 日 以降は4000 ルピーとする。 2016 年 12 月 30 日までに旧紙幣の銀行口座への預入れができない者は、RBI の支店または他の方法によりその後も預入れをする機会を与えられる。 銀行は11 月 9 日は臨時休業。 ATM 等の機械は 11 月 9 日、10 日は休止。 銀行は11 月 10 日の営業再開より、毎日 RBI に交換された旧紙幣の詳細を報 告する。 ただし、①ガソリン、②政府医療機関、③鉄道、公営バス、飛行機予約、④州政 府公認の食料店、⑤葬儀、⑥国際空港での両替及び外国人観光客による両替につ いては(5000 ルピーまで)、11 月 11 日まで旧紙幣の使用を認める3。 11 月 9 日 政府は旧紙幣の使用が認められる対象について、①州および国営の高速道路の使 用料金、②ガス・シリンダーの購入、③地下鉄のチケット、④インド考古調査局 の管理するモニュメントのチケット、を追加して含める4。 RBIは 12 日土曜、13 日日曜は通常営業するよう銀行に要請5。 RBIは旧紙幣がATMで引き出されないようガイドラインを発する6。
2 Ministry of Finance, Notification (the 8th November 2016) S.O.3407 (E), The Gazette of India. 官
報に公示された文書は、http://egazette.nic.in/(S(pemncukbknanxarawcvwqhut))/Aboutus.aspx、に
て取得可能(以下同じ、最終アクセス2017 年 3 月 23 日)。また、この財務省告示を受けてその詳細
を諸銀行に指示したReserve Bank of India, Notification (November 8, 2016) RBI/2016-17/111,
Closure of ATM Operation, および Notification (November 8, 2016) RBI/2016-17/112. RBI Instructions to Banks も参照。RBI の Notification は、
https://www.rbi.org.in/Scripts/NotificationUser.aspx 、にて取得可能(以下同じ、最終アクセス 2017
年3 月 23 日)。
3 Ministry of Finance, Notification (the 8th November 2016) S.O.3408 (E), The Gazette of India.
4 Ministry of Finance, Notification (the 9th November 2016) S.O.3416 (E), The Gazette of India.
5 Reserve Bank of India, Notification (November 9, 2016) RBI/2016-17/114, Banks to remain open
for Public on Saturday, November 12 and Sunday, November 13, 2016.
6 Reserve Bank of India, Notification (November 9, 2016) RBI/2016-17/115, RBI Instruction to
11 月 10 日 政府は旧紙幣の使用が認められる対象について、①中央および州、地方政府に対 してなされる手数料、税金または罰金の支払い、②電気および水を含むユティリ ティの支払い、を追加して含める 7。 11 月 11 日 政府は旧紙幣の使用が認められる対象について、その期限を 11 日から 11 月 14 日まで延長する8。 RBIは銀行に預け入れられた金額等の報告に加えて偽札についても報告を行うよ う銀行に求める9。 RBIは政府機関については書面での要請に基づき支店長の許可があれば、銀行窓 口で10000 ルピー以上引き出すことを認める10。 11 月 12 日 RBIはプレス・リリースにて、今回の高額紙幣切り替え措置に関して、支払方法 をRupay/Credit/Debitカード、携帯バンキング、インターネットバンキングなど
の現金以外の他の方法に切り替え、Jan Dhan Yojanaにより銀行口座を開いた者
はそれらを使う絶好の機会であり、そのことにより、現金需要を減らすことがで き、デジタル・ワールドの生活経験を高めることができる、とアナウンス11。 11 月 13 日 政府は銀行窓口での旧紙幣と新紙幣の交換限度を4000 ルピーから 4500 ルピーへ 増額12。 新紙幣の銀行窓口での引出しの一日当たり10000 ルピーの限度額を撤廃し、 一週間当たりの限度額は20000 ルピーから 24000 ルピーに引き上げる。 ATM による引き出しにつき、1 カード一日当たり 2000 ルピーから 2500 ルピ ーに限度額を引き上げる。 11 月 14 日 政府は旧紙幣の使用が認められる対象について、その期限を 14 日から 11 月 24 日までに再延長する13。 RBIは 11 月 10 日から 12 月 30 日までのATMを用いた取引に関する手数料を無料 とするよう銀行に命じる14。 RBIはATMの調整や再稼働に関してこれを監督する委員会を設置する15。
7 Ministry of Finance, Notification (the 10th November 2016) S.O.3429 (E), The Gazette of India.
8 Ministry of Finance, Notification (the 11th November 2016) S.O.3445 (E), The Gazette of India.
9 Reserve Bank of India, Notification (November 11, 2016) RBI/2016-17/125, Reporting and
Monitoring.
10 Reserve Bank of India, Notification (November 11, 2016) RBI/2016-17/124, Relaxation for
Government Departments.
11 RBI Press Release 2016-17/1190 (Nov. 12 2016), Withdrawal of Legal Tender Character of ₹ 500
and ₹ 1,000: RBI Statement.
12 Ministry of Finance, Notification (the 13th November 2016) S.O.3446 (E), The Gazette of India,
及びReserve Bank of India, Notification (November 13, 2016) RBI/2016-17/129, Revision in Limits
for Cash.
13 Ministry of Finance, Notification (the 14th November 2016) S.O.3448 (E) , The Gazette of India.
14 Reserve Bank of India, Notification (November 14, 2016) RBI/2016-17/132, Usage of ATMs –
Waiver of Customer Charges.
15 RBI Press Release 2016-2017/1197 (Nov 14, 2016), Constitution of Task Force for enabling
dispensation of Mahatma Gandhi (New) Series Banknotes - Recalibration and reactivation of ATMs.
RBIは当座預金については一週間当たり 50000 ルピーまでの引出しを認める16
RBI はプランテーション、砂糖組合、乳業などの労働者のために銀行口座を
開設するよう銀行に指示。
RBI は銀行のない地域に、移動銀行(mobile van)を用いて交換、預入れ、
引出しができるように努力するよう銀行に指示。 11 月 15 日 RBIは一度窓口にて旧紙幣と新紙幣を交換した者が二度交換できないよう消せな いインクを右手人差し指に用いるよう銀行に要請17。 旧紙幣の預金についてJan Dhan口座については 50000 ルピーまでとする18。 11 月 16 日 RBIは 50000 ルピー以上を旧紙幣にて銀行に預入れしようとする顧客については、 その口座が納税者番号(PAN)に基づき開設されたものでない場合には、納税者番 号カードのコピーを同時に提出させるよう銀行に指示19。 11 月 17 日 RBIは銀行窓口での紙幣交換につき、一人一回のみ、2000 ルピーまでとする20。 政府は農民(穀物ローンの利用者又は農民クレジットカード保持者)につき一週 間あたり25000 ルピーの引出しを認める21。 結婚式については家族が25 万ルピーまで引き出すことを認める。 11 月 20 日 政府は旧500 ルピー紙幣を用いて種を購入することを農民に認める22。 11 月 24 日 銀行窓口での旧紙幣と新紙幣の交換は終了し、RBIの窓口のみとする23。 政府は旧紙幣の使用が認められる対象について、その期限を 24 日から 12 月 15 日までに再々延長する24 この対象に公営学校の授業料(一人2000 ルピーまで)の支払い、プリペイド 式携帯のトップアップ(500 ルピーまで)を含める。これらは旧 500 ルピー 紙幣のみ使用可能。 国際空港での外貨両替のための旧紙幣使用および外国人観光客の旧紙幣の交 換は終了。 RBIは銀行に年金生活者と軍人に対して十分に紙幣が供給されるよう要請25。
16 Reserve Bank of India, Notification (November 14, 2016) RBI/2016-17/131, Expanding the
Distribution Locations for Deposit and Withdrawal of Cash.
17 Reserve Bank of India, Notification (November 15, 2016) RBI/2016-17/133, Standard Operating
Procedure (SOP) for putting indelible ink on the finger of the customers coming to a bank branch for Specified Bank Notes (SBNs).
18 Ministry of Finance, Notification (the 15th November 2016) G.S.R. 1068 (E), The Gazette of
India.
19 Reserve Bank of India, Notification (November 16, 2016) RBI/2016-17/135, Compliance with
Provisions of 114B of the Income Tax Rules, 1962.
20 Ministry of Finance, Notification (the 17th November 2016) S.O.3479 (E), The Gazette of India.
21 Ministry of Finance, Notification (the 17th November 2016) S.O.3480 (E), The Gazette of India.
22 Ministry of Finance, Notification (the 20th November 2016) S.O.3490 (E), The Gazette of India.
23 Ministry of Finance, Notification (the 24th November 2016) S.O.3543 (E), The Gazette of India.
11 月 25 日
RBIはインドを訪れる外国人観光客について外貨によるルピーへの両替に限度額
を設定し、12 月 15 日まで週当たり 5000 ルピーまでとする26。
11 月 26 日
RBIは 9 月 16 日から 11 月 11 日の間に銀行に預け入れられた預金について 100% の現金準備率(cash reserve ratio)を維持するよう銀行に指示27。
11 月 28 日
RBIは新紙幣により 11 月 29 日以降に預け入れられた預金については、週当たり
24000 ルピーの引出し限度を撤廃28。
11 月 29 日
Taxation Laws (Second Amendment) Bill, 2016 が下院にて財政法案として可決。 同法はPradhan Mantri Garib Kalyan Yojana 2016 の根拠法令であり、このスキ ームは無申告の所得に関する期限後申告について定めるもの。定められた期日ま でに自ら申告した場合には、申告額の 49.9%(総額の 30%の課税、税額の 33% のcess、総額の 10%の罰金)の支払いが課され、25%については利子のつかない 銀行口座にて4 年間据え置かれねばならない、などを定める 29。なお、自己申告 ではなく調査の結果無申告の所得が判明した場合には、現行の総額の30%の罰金 ではなく、90%の罰金を適用するとの改革を含む。 Jan Dhan口座については一月当たり 10000 ルピーまでの引出しに原則として限
定。そのうち非顧客本人確認順守口座(non-Know Your Customer compliant accounts)については原則として 5000 ルピーに限定 30。 12 月 1 日 RBIは、ソーシャルメディアなどでRBIの指示であると騙る指示には従わないよ うにとの警告を銀行に対して発する31。 12 月 7 日 政府は旧紙幣の使用を認めていた鉄道、バス、飛行機、都市近郊鉄道・地下鉄の チケット購入につき、旧紙幣の使用を12 月 10 日から認めないこととする 32。 RBIは 9 月 16 日から 11 月 11 日に預け入れられた預金について現金準備率を 100%とする要件を撤廃33。 12 月 15 日
25 Reserve Bank of India, Notification (November 24, 2016) RBI/2016-17/154, Withdrawal of
Specified Banknotes: Cash requirements of pensioners and Armed Forces Personnel.
26 Reserve Bank of India, Notification (November 25, 2016) RBI/2016-17/157, Exchange facility to
foreign citizens.
27 Reserve Bank of India, Notification (November 26, 2016) RBI/2016-17/159, Reserve Bank of
India Act, 1934 – Section 42(1A) Requirement for maintaining additional CRR.
28 Reserve Bank of India, Notification (November 28, 2016) RBI/2016-17/163, Withdrawal of cash
from bank deposit accounts – Relaxation.
29 Taxation Laws (Second Amendment) Bill, 2016. インドの制定法や規則は、
http://indiacode.nic.in/、あるいは http://www.prsindia.org/downloads/recent-acts/、などにて取得可
能である(以下同じ、2017 年 3 月 23 日最終アクセス)
30 Reserve Bank of India, Notification (November 29, 2016) RBI/2016-17/165, Accounts under
PMJDY – Precautions.
31 Reserve Bank of India, Notification (December 1, 2016) RBI/2016-17/166, Information from
Unauthenticated Sources – Advisory to banks.
32 Ministry of Finance, Notification (the 7th December 2016) S.O.3678 (E), The Gazette of India.
33 Reserve Bank of India, Notification (November 29, 2016) RBI/2016-17/165, Accounts under
Taxation Laws (Second Amendment) Act, 2016 が公布・施行される。 12 月 16 日
政府はPradhan Mantri Garib Kalyan Yojana 2016 を公示34。
外国人観光客による外貨両替の週当たり5000 ルピーの上限を 12 月 31 日まで延
長する35。
12 月 17 日
政府は 5000 ルピー以上の銀行への旧紙幣による預入れはRBIの定める条件をみ
たさねばならないとし、また12 月 30 日までに預け入れる回数を一口座あたり一
度のみに制限。なおPradhan Mantri Garib Kalyan Yojana, 2016 に基づく旧紙幣
による預入れについては制限なし36。 12 月 19 日 RBIは 5000 ルピー以上の旧紙幣による預入れについて、二名の職員がなぜより 早期に預入れを行わなかったのか質問を行い納得できる回答をえた場合に一度の み顧客本人確認順守口座に預け入れることができると制限、また非顧客本人確認 順守口座に預け入れる場合には原則として上限を50000 ルピーまでに制限37。 12 月 21 日 RBIは、12 月 19 日に導入した顧客本人確認遵守口座に関する旧紙幣の預入れ回 数の制限、関連する質問要件、を撤回38。 12 月 30 日 旧紙幣による銀行等への預入れが認められる期間が終了39。
政府はThe Specified Bank Notes (Cessation of Liabilities) Ordinance, 2016 を
公布、翌日31 日施行40。これにより旧紙幣はRBIの負債から除去され、政府によ る保証の対象ではなくなる。また、旧紙幣の保持は原則として処罰の対象となる。 RBIはATMによる一カード一度当たりの引出し上限を 2500 ルピーから 4500 ル ピーに2017 年 1 月 1 日から引き上げると発表41。 12 月 31 日 施行された大統領令に基づき、猶予期間(Grace Period)をRBIは発表。11 月 10 日 から 12 月 30 日の間にインドに不在であった国民(住民および非居住インド人) については、顧客本人確認順守口座を保持している者のみ、住民は2017 年 1 月 2
34 Ministry of Finance, Notification (the 16th December 2016) S.O.4058 (E), S.O.4059 (E),
S.O.4061(E), The Gazette of India.
35 Reserve Bank of India, Notification (December 16, 2016) RBI/2016-17/186, Exchange facility to
foreign citizens.
36 Ministry of Finance, Notification (the 17th December 2016) S.O.4086 (E), The Gazette of India.
37 Reserve Bank of India, Notification (December 19, 2016) RBI/2016-17/189, Withdrawal of Legal
Tender Character of existing ₹ 500/- and ₹ 1000/- Bank Notes (Specified Bank Notes) - Deposit of Specified Bank Notes (SBNs) into bank accounts.
38 Reserve Bank of India, Notification (December 21, 2016) RBI/2016-17/191, Withdrawal of Legal
Tender Character of existing ₹ 500/- and ₹ 1000/- Bank Notes (Specified Bank Notes) - Deposit of Specified Bank Notes (SBNs) into bank accounts-Modification.
39 Reserve Bank of India, Notification (December 30, 2016) RBI/2016-17/201, Closure of the
scheme of exchange of Specified Bank Notes (SBNs) at banks on December 30th 2016- Accounting.
40 国会が閉会中のために大統領令として同法令はまず施行され、同大統領令を置き換える全く同じ内
容をもつ法案(The Specified Bank Notes (Cessation of Liabilities) Bill, 2017 が 2017 年 2 月 3 日に下
院に上程された。
41 Reserve Bank of India, Notification (December 30, 2016) RBI/2016-17/204, Cash withdrawal
日から3 月 31 日まで、非居住インド人は 6 月 30 日まで、RBI支店にて、旧紙幣 の交換が一度のみ可能とする42。 2017 年 1 月 16 日 RBIはATMによる新紙幣引出しの一日当たりの上限を 4500 ルピーから 10000 ル ピーに引き上げ、当座預金(current account)に関する週当たりの引出し制限を 50000 ルピーから 100000 ルピーに引き上げる43。 1 月 30 日 RBIは当座預金からの引出しの制限を撤廃し、ATMからの引出しの制限を翌 2 月 1 日より撤廃(銀行独自の制限に戻してよい)44。 2 月 8 日
RBIは貯蓄預金口座(Savings Bank account)からの引出しについて、2 月 20
日より週当たり24000 ルピーの制限を 50000 ルピーに引き上げ、3 月 13 日に制
限を撤廃すると発表45。
2 月 28 日
The Specified Bank Notes (Cessation of Liabilities) Ordinance, 2016 を置き換 えるThe Specified Bank Notes (Cessation of Liabilities) Act, 2017 が公布され る。 3 月 13 日 貯蓄預金口座からの引出し制限が撤廃される。 このように整理してみると、政府と RBI の告示類がかくも多数に上ること自体、準 備不足の証左であろうことが伺える。いずれにしても、今回の措置は、全流通貨幣総 額の86%を占める紙幣を流通から回収しようとするものであり、また、1000 ルピー 紙幣を支払いに用いることができず、新2000 ルピー紙幣が入手できないとなると、 現金決済による商取引がほとんど不可能となるのみならず、日常生活の不便も甚だし い。したがって、これらの紙幣を流通から引き揚げるからには、それに代わる他の既 存の紙幣(100 ルピー札など)と新紙幣とを遅滞なく供給する必要があった。しかし、 日本でも報道されたように、準備不足ゆえか、あるいは意図的にか、紙幣不足はすぐ さま深刻となり、銀行には長蛇の列ができて旧紙幣の交換や新紙幣の入手に市民は苦 労し、また、現金決済が主流である業種(インフォーマル・セクター、消費財産業、 小売業、農業など)の取引が困難となり、労働者への賃金支払いも滞るなど、経済に おける各種の混乱は小さくなかった。
42 Reserve Bank of India, Notification (December 31, 2016) RBI/2016-17/205, Facility for exchange
of Specified Bank Notes (SBNs) during Grace Period – Verification of KYC and Account details.
43 Reserve Bank of India, Notification (January 16, 2017) RBI/2016-17/213, Enhancement of
withdrawal limits from ATMs and Current Accounts.
44 Reserve Bank of India, Notification (January 30, 2017) RBI/2016-17/217, Limits on Cash
withdrawals from Bank accounts and ATMs - Restoration of status quo ante.
45 Reserve Bank of India, Notification (February 8, 2017) RBI/2016-17/224, Removal of limits on
政府は、繰り返ししばらく忍耐してほしいと国民に訴え続けた。はたして、措置の実 施から4 カ月余りが経った現在では、新紙幣の流通も徐々に普及し、一時期の混乱は 収まっているようにみえる。また、生活上の不便、さらには商取引機会の喪失、失業 などによる市民の怒りや不満は小さくなかったと思われるにもかかわらず、政権の支 持率はさほど落ちておらず、さらには2017 年 2 月に実施された重要州での選挙に与 党は大勝した。もちろんGDP の成長率は、紙幣不足による経済の混乱(需要減、生 産減、雇用減)というこの措置のいわばマイナスの影響で一時的には落ちることが予 想されている。短期的な経済への悪影響を辞さずに実施された今回の措置は、どのよ うな思惑に基づき、中長期的にはインドの経済社会にどのような影響があるのだろう か。 今 回 の 政 府 ・ RBI に よ る 措 置 の 法 的 根 拠 と 最 高 裁 の 対 応 まず、そもそも政府には今回の措置を行うような権限が法令により授権されているの だろうか。この点に疑義はないのか確認したい。 基本的には、今回の措置を政府が実施できるその法的根拠は、1934 年インド準備銀
行法(Reserve Bank of India Act, 1934)の第 26 条第 2 項にある。
「(インド準備銀行)中央理事会の勧告にしたがって、中央政府は、インド官報に公 示することにより、当該公示に特定された日から、いかなる額面のいかなる銀行券の シリーズについても支払い手段として無効となると宣言することができる。ただし、 公示に特定されたオフィスまたはインド準備銀行の代理機関、及び公示に特定された 範囲は除く」。 したがって、今回のモディ政権による紙幣の切り替え措置はRBIの勧告に基づく。こ の点については、勧告の存在は直接には確認できなかったものの、財務省の 11 月 8 日付の告示にはRBI中央理事会の勧告に従ってこの措置を実施すると明記されてい る 46。 紙幣の切り替えはRBIが 1934 年に設立されてよりこれが三度目となる。一度目は 1946 年であり、イギリスからインド・パキスタンが分離独立する前である。第二次 世界大戦におもに由来する財政難に直面して、ブラックマーケットでの取引を捕捉し 46 それゆえに、こうした強引な紙幣切り替えに賛成するとは考えにくいラジャン前 RBI 総裁が 2017 年9 月に任期満了で在任一期のみにて退任したこととの関係が取りざたされてもいる。ラジャンの退 任がこの措置をめぐるものであったかどうかは不明であるが、少なくとも準備は彼の在任中にはじま
っていたと考えることが妥当であろう。ラジャンは2014 年 8 月 11 日の 20th Lalit Doshi Memorial
Lecture における質疑応答で、ブラックマネー対策としての紙幣の切り替えの有効性には懐疑的な考え を示している。
http://www.huffingtonpost.in/2016/11/09/heres-what-raghuram-rajan-thinks-of-currency-demonet isation/(最終アクセス 2017 年 3 月 23 日)。
税収入を増やす目的で、RBIが流通させていた高額紙幣(500, 1000, 10000 ルピー) の強制通用力を失効させた 47。1946 年 1 月 11 日に発表して 1 月 12 日には強制通用 力を失わせている。当時のRBI総裁(C.D. Deshmukh)は効果に懐疑的であったとい う。二度目は 1978 年である。1971 年に、Wanchoo委員会(直接税調査委員会)が 紙幣切り替えをブラックマネー対策として当時のインディラ・ガンディー率いる会議 派政権に対して提言したが、政権はこの措置を採用せず、後にジャナタ党が1977 年 に政権につくと、翌 1978 年 1 月 16 日に、高額紙幣(1000、5000、10000 ルピー) の通用力を政府は廃止し、一週間の交換期限が設けられた48。当時の高額紙幣は一般 市民が手にすることはほとんどなく、流通紙幣に占める割合も10%に満たなかった。 このときのRBI総裁(I.G. Patel)もまた政府の措置に懐疑的であったという。いず れもブラックマネー対策として有効であったか、あるいは税収を増やす効果があった かというと議論のあるところで、仮にあったと議論するとしても少なくとも一時的な ものであったといわざるをえないだろう。 なお、1978 年の措置については、憲法に認められた基本権である取引及び商業を行 う権利を損なっていないか、さらに補償なくして財産を強制的に収用する結果となり うるため当時は基本権に含まれていた財産権を侵害してはいないかという観点から 訴訟が提起され、18 年後の 1996 年に最高裁の判断がでている49。政府の措置は、そ の目的をみれば公益にかなっており、原告の権利を損なうものでもないとの判決であ る。 2016 年 11 月 8 日に発表された今回の高額紙幣の切り替えに対しても、はやくも 11 月中には数件の公益訴訟が高裁および最高裁に提起され、最高裁はタクール最高裁長 官を裁判長とする三人からなる小法廷で2016 年 12 月 16 日に本件を大法廷に付する との決定を下している 50。訴えのポイントは、今回の高額紙幣切り替えに伴う経過措 置が十分に市民の生活を考慮しておらず、憲法 21 条に保障された基本権である生命 に対する権利を損なうものではないかという主張である。最高裁は、政府に対して一 般市民の苦境によく注意して定期的に経過措置を見直すよう要求しつつ、今回の高額 紙幣切り替え自体は財政政策に関わる事項であり、原則としては政府の執行(行政) 部門に委ねられるもので、この時点での介入は控え、いかなる中間命令を与えること もしないとの判断を示した。同時に、各地の高裁に係属している同種の訴えを一つの 訴訟にまとめ、最高裁に5 人からなる憲法法廷を設置してその法廷に移し審理するこ とを決め、またこの憲法法廷にて議論されるべき9 つの憲法上の論点をまとめている。 たとえば、11 月 8 日付けの政府告示はインド準備銀行法第 26 条第 2 項による授権の
47 An Ordinance to Provide for the Demonetisation of Certain High Denomination Bank Notes
(Ordinance No.III of 1946, 12th January).
48 The High Denomination Bank Notes (Demonetisation) Act, 1978.
49 Jayantilal Ratanchand Shah v. Reserve Bank of India and Others (1996 SCALE (5) 741).
範囲を超えており権限踰越で違法ではないか、銀行口座からの引出しに関する諸制限 には法的根拠があるのか、またそれらの措置は憲法第14 条(平等)、第 19 条(各種 自由権)、第21 条(生命に対する権利)に抵触していないか、財政・経済政策に関す る司法審査の範囲はどうあるべきか、などである。インド最高裁は、司法積極主義の 長い伝統を誇り、モディ政権下で行われた裁判官任命方法の改革に関わる憲法第 99 次改正を 2015 年 10 月に違憲無効としている 51。今回の高額紙幣切り替え措置を最 高裁が今さらながら違憲無効とするとは考えにくいが、その合憲性、適法性を最高裁 がどう判断するのか(あるいは判断を回避するのかも含めて)、興味深いところであ る。 続く。 51 憲法第 99 次改正違憲判決の詳細は、佐藤創(2016)「インド:岐路に立つ司法積極主義(1),(2), (3)」http://www.ide.go.jp/Japanese/Research/Region/Asia/Radar/index.html。