手術療法を受けたがん患者に対するリンパ浮腫ケアの課題
口 友 紀, 中 西 陽 子, 廣 瀬 規代美
櫻 井 通 恵, 堀 越 政 孝, 神 田 清 子
二 渡 玉 江
要旨 【目 的】 手術療法を受けたがん患者のリンパ浮腫ケアに対して看護師が認識している課題を明らかにす る. 【対象と方法】 全国 136施設でリンパ浮腫ケアに最も関係する看護師が回答したケアに関する質問紙 のうち, 自由記述項目に記載のあった 77名の記述内容を 析の対象とした. 析は, 内容 析の手法を参 に質的記述的に行った. 【結 果】 手術療法を受けたがん患者のリンパ浮腫ケアにおける課題は『ケア提供 者および当事者に対する教育的支援の不足』,『施設におけるケア環境整備の不足』,『地域におけるケアを推 進する社会資源・地域連携の不足』, 『予防から発症後のケア方法の未確立』の 4カテゴリーが形成された. 【結 語】 看護師が認識しているリンパ浮腫ケアの課題から, 施設, 地域, 社会が相互に連携し, ケア環境整 備に向けて協働する必要性が示唆された.(Kitakanto Med J 2009;59:43∼50) キーワード:がん, 手術療法, リンパ浮腫ケア, 看護師, 課題 .は じ め に がん治療後に発症するリンパ浮腫は, 治療による後遺 症のひとつであり, 主に乳がんや婦人科がんなど女性特 有のがん治療後に起こることが多い. またその多くは, リンパ節郭清を含むがんの根治術, 放射線療法後の組織 の繊維化に起因しており, 一度発症すると完治は難し く, 一生涯付き合っていかなければならない症状でもあ る. 現在, リンパ浮腫を抱える患者は全国で 10万人以上 と推定されているが, 今後がんサバイバーの増加に伴い, さらにリンパ浮腫を抱える患者数の増加が予想される. リンパ浮腫を発症した患者は, 上下肢が浮腫む状態だ けでなく, 長期にわたる日常生活上の困難を体験し, ボ ディイメージの変化やそれに伴う心理的負担から著しく QOL が低下する可能性がある. 特に, 女性に多く発症す るという特徴から, 家事などの生活制限はもちろん, 自 己価値や仕事, 趣味の活動など幅広い生活上の困難を体 験することになる. そのため, がん治療後のリンパ浮腫 を予防するとともに, 発症したリンパ浮腫に対するケア 体制を整備し,患者の QOL を維持・向上させる方策を検 討する必要がある. 2008年 4月から,医療保険に「リンパ浮腫指導管理料」 が新設され, また, 弾性着衣が療養費支給対象になった. さらに, 社会的関心の高まりがケア専門外来の設置や専 門書の普及などを後押しし, リンパ浮腫ケアを取り巻く 環境が変化してきている. しかし, 実際に患者に提供さ れるケア技術には保険適用はなく, 多くの施設ではリン パ浮腫ケアが十 実施されていない現状もある. また, リンパ浮腫指導管理料」に相当するケア内容について, ケアを担う医療者は試行錯誤の状況にあり, リンパ浮腫 を取り巻く環境は多くの課題を抱えているといえる. 看護師のリンパ浮腫に対する認識とケア内容を調査し た熊谷ら は, 70%の看護師がリンパ浮腫による苦痛を 何とかしたいと えているものの, その半数以上は専門 家がいないために放置しても仕方がないと えているこ とを報告している. また, がん診療連携拠点病院のリン パ浮腫ケアの現状を調査した河村 は, がん診療連携拠 点病院に指定されている施設であっても, リンパ浮腫の 1 群馬県前橋市上沖町323-1 群馬県立県民 康科学大学看護学部 2 群馬県太田市高林西町617-1 群馬県立がんセンター 3 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 平成20年12月4日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 二渡玉江外来診療および専門外来の設置が少ないことを明らかに している. しかし, がん治療に伴うリンパ浮腫に対する ケアに関する研究は希少であり, ケア提供者である医療 者の視点からケアの課題を明らかにした研究はほとんど ない. また, リンパ浮腫ケアに関わる複数の職種のうち, がん治療前から患者に継続的に関わり, 身近な支援者と してケア提供をしている看護師の担う役割は大きいと えられるが, 実際にリンパ浮腫ケアを提供している看護 師が, ケアに対してどのような課題を認識しているのか については明らかにされていない. そこで本研究では, 主に乳がん, 婦人科がんの治療で 手術療法を受けた患者に対して, リンパ浮腫ケアを担う 看護師が認識しているケアの課題を明らかにすることを 目的とした. この結果は, がん治療に伴うリンパ浮腫患 者に対するケアを発展させ, 患者の QOL 維持向上に向 けた方策を検討する際の具体的な示唆を与えるものであ る. .目 的 手術療法を受けたがん患者に対するリンパ浮腫ケアに ついて, ケアに関わる看護師が認識している課題を明ら かにする. .用 語 の 定 義 課題とは, 解決しなければならない問題, 果たすべき 仕事」を示す言葉である. このうち, 解決しなければな らない問題」は,困った事柄や関心事を示し,また, 果た すべき仕事」は,期待され,あるいは遂行している働きを 示す言葉である. よって本研究では, リンパ浮腫ケアに 対する課題を, 看護師が認識しているリンパ浮腫ケア に関する問題およびリンパ浮腫ケアに対する看護師の期 待や要望を含めた果たすべき仕事」と定義する. .対 象 ・ 方 法 1.対象およびデータ収集 47都道府県の特定機能病院, がん専門病院, がん診療 連携拠点病院および 200床以上でかつ一般外科・婦人科 等を有する施設を無作為に抽出した. 該当施設の看護部 長宛に研究協力依頼を送付し, 承諾が得られた 197施設 に対し質問紙を送付した. 質問紙への回答は, リンパ浮 腫ケアに最も関わっている看護師 1名とし,136施設 (回 収率 69.0%) から回答を得た. このうち, リンパ浮腫ケア に関する自由記述に記載のあった 77施設の看護師の記 述内容を 析の対象とした. 2.データ 析方法 対象者の所属施設の背景は, 所在地, 設置主体, 施設の 種類について記述統計量を算出した. また, 手術療法を 受けたがん患者に対するリンパ浮腫ケアの課題に関する 自由記述の 析には, Berelson, B. の内容 析の手法 を 参 に以下の手順で行った. まず, 看護師の自由記述内 容を精読し, リンパ浮腫ケアの課題について表現された 文脈を抽出し, これを記録単位とした. 一つの文脈の中 に異なる課題を示す表現があった場合には, 複数の記録 単位とした. 次に, 同じ内容を示す記録単位を集め, 意味 内容を変えない一文にする作業を行い, これをコードと した. さらに, 各コードを意味内容の類似性に基づき 類し, 命名した. また, 各カテゴリーおよびサブカテゴリーについて, 構成する記録単位数を基に記述統計量を算出し, 検討し た. カテゴリー化の過程では, がん看護および質的研究に 精通した研究者にスーパーバイズを受け, 信頼性の確保 に努めた. さらに, カテゴリーの信頼性は, がん看護およ び質的研究の経験のある研究者 2名によるカテゴリー 類の一致率をスコットの式 に基づき算出し, 検討した. 3.倫理的配慮 研究協力依頼に際しては, 研究の主旨と調査内容の概 要を示すと共に, 個人や施設に関する情報の保護, デー タ管理, 学会発表等について往復葉書の往信面で説明し, 返信葉書に記載された承諾により同意を得た. また, 同 意を得た後に質問紙を配布し, 返信用封筒による個別投 函での回収により対象者の任意の参加を保証した. また, 析の全過程において, 個人や施設が特定されないよう にデータの記号化し, 匿名性の厳守に努めた. .結 果 1.対象者の所属施設の背景 対象者の所属施設の背景を表 1に示した. 所属施設の 所在地は, 全国に及んでおり, そのうち関東地方が 29 施 設と最も多かった. 施設の種類では, 地域がん診療連携 拠点病院に指定された施設が全体の 37.3%と最も多かっ た. 2.手術療法を受けたがん患者に対するリンパ浮腫ケア の課題 77施設の看護師が記述したリンパ浮腫ケアの課題は, 191記録単位が抽出された. 対象者 1人あたりの記録単 位数は最大 7から最小 1であり, 平 2.5±1.5であった. これらの記録単位から 52コードが生成され, 内容の類 似性に従い 類した結果, 17サブカテゴリー, 4カテゴ リーが形成された (表 2).形成されたカテゴリーは,記録 単位数の多い順に『ケア提供者および当事者に対する教
育的支援の不足』,『施設におけるケア環境整備の不足』, 『地域におけるケアを推進する社会資源・地域連携の不 足』,『予防から発症後のケア方法の未確立』と命名した. なお,以下カテゴリーは『 』,サブカテゴリーは >, コードは[ ]で示し, カテゴリー毎に結果を説明する. 1)『ケア提供者および当事者に対する教育的支援の 不足』 このカテゴリーは, ケア提供者が, ケアの知識・技術 習得に向けて教育を受ける機会が少ない> ケア提供者の 専門的知識・技術が不足している> 医療従事者のケアに 対する認識が不足している> ケア提供者に対する支援体 制が不十 である> 患者自身のケアに対する認識が不足 している> という課題から形成され, 19 コード, 77記録 単位で構成された. このカテゴリーの記録単位の割合は 全体の 40.3%であった. これらは,[ケアに関する専門的な知識・技術を学ぶ機 会が少ない]など, 教育の場の確保や機会の設定に関す る課題や,[実際にケアを提供する看護師の専門的な知 識や技術が未熟である]などの看護師の能力や質に関す る課題,[看護師や医療スタッフのケアに対する意識が 低い]など, ケアに携わる医療者の認識や姿勢に関する 課題であった. また,[ケアについて困った時に相談相手 表1 対象者の所属施設の背景 (n=77) 項 目 人数(割合%) 所在地 北海道 5 (6.5%) 東北地方 7 (9.0%) 関東地方 29 (37.7%) 中部地方 10(13.0%) 近畿地方 8(10.4%) 中国・四国地方 8(10.4%) 九州・沖縄地方 10(13.0%) 施設の種類 (複数回答) がん専門病院 10(13.3%) 都道府県がん診療連携拠点病院 8(10.7%) 地域がん診療連携拠点病院 28(37.3%) 特定機能病院 18(24.0%) 地域医療支援病院 10(13.3%) 一般病院 26(34.7%) その他 3 (4.0%) 未回答 2 (2.6%) 病床数 平 値±標準偏差 550.6±217.9 床 範囲 200∼1200床 表2 手術療法を受けたがん患者に対するリンパ浮腫ケアの課題 『カテゴリー』 サブカテゴリー> 単位数記録 1 ケア提供者および当事者に 対する教育的支援の不足 1) ケア提供者が,ケアの知識・技術習得に向けて教育を受ける機会が少な い 21 2) ケア提供者の専門的知識・技術が不足している 20 3) 医療従事者のケアに対する認識が不足している 17 4) ケア提供者に対する支援体制が不十 である 15 5) 患者自身のケアに対する認識が不足している 4 2 施設におけるケア環境整備 の不足 6) 院内に患者のケアニーズに対応できるだけのセラピスト数が確保でき ていない 18 7) 業務内でケア実践の時間を確保することが困難である 12 8) 院内の系統的なケアシステムが整備されていない 10 9 ) 院内のケアに関する連携体制が整備されていない 6 10) ケアに必要な物品や指導媒体の整備が不十 である 3 3 地域におけるケアを推進す る社会資源・地域連携の不 11) ケアが医療保険制度の対象外であるため, ケア環境の充実や発展につ ながらない 21 足 12) 地域におけるケアに対する連携体制が整備されていない 6 13) 地域においてケア提供できる場の確保が必要である 4 14) ケア提供を受ける患者の経済的負担が大きい 3 15) 患者が受けられる社会資源が充実していない 2 4 予防から発症後のケア方法 16) 患者の症状やニーズに対応した具体的なケアが実践出来ていない 16 の未確立 17) 術前からの継続した予防的ケアが必要である 13 記録単位数 191
がいない],[実践しているケアに自信が持てない]など, ケア提供者である看護師に対するサポートシステムに関 する課題や,[患者自身の浮腫やケアに対する意識が薄 い]といった, ケアの当事者である患者の認識や姿勢に 関する課題であった. 2)『施設におけるケア環境整備の不足』 このカテゴリーは, 院内に患者のケアニーズに対応 できるだけのセラピスト数が確保できていない> 業務内 でケア実践の時間を確保することが困難である> 院内の 系統的なケアシステムが整備されていない> 院内のケア に関する連携体制が整備されていない> ケアに必要な物 品や指導媒体の整備が不十 である> などの課題から形 成され, 13コード, 49 記録単位で構成された. このカテ ゴリーの記録単位の割合は全体の 25.7%であった. これらは,[院内に専門的な知識・技術を持ったセラピ ストが少ない]など, ケアを担う人材の確保に関する課 題や,[患者 1人あたりに要するケア時間が長い][業務 が多忙で, ケアを実践する時間がない]などケア時間の 確保に関する課題,[ケア実践は, 看護師個人や病棟レベ ルに任されている]など, 院内のケア体制に関する課題 であった. また,[病棟と外来のケア連携が充実していな い]など,ケアに関連する他職種,他部門との連携に関す る課題や,[ケアに必要な物品が充実していない]など, ケアに必要な物品や資料の整備に関する課題であった. 3)『地域におけるケアを推進する社会資源・地域連携 の不足』 このカテゴリーは, ケアが医療保険制度の対象外で あるため,ケア環境の充実や発展につながらない> 地域 におけるケアに対する連携体制が整備されていない> 地 域においてケア提供できる場の確保が必要である> ケア 提供を受ける患者の経済的負担が大きい> 患者が受けら れる社会資源が充実していない> などの課題から形成さ れ, 11コード, 36記録単位で構成された. このカテゴ リーの記録単位の割合は全体の 18.8%であった. これらは,[ケアを実施しても診療報酬がとれないた め利益につながらない]など, ケアに医療保険が適応さ れないことに伴う課題や,[ケアについて地域との連携 が不十 である]など, ケアに対する地域社会との連携 に関する課題,[ケアの専門外来やリンパドレナージの 治療院の増設が必要である]など, 地域において患者が いつでもケアを受けられる窓口や機関の整備に関する課 題であった.また,[ケアは保険適用外であり,患者・家族 の負担が大きい]という, ケアを受ける患者や家族の費 用負担に関する課題や,[ケアが医療保険適用外である ため, 患者は浮腫が強くてもマッサージを受けられな い]など, いつでも必要時にケアが受けられる社会資源 の整備に関する課題であった. 4)『予防から発症後のケア方法の未確立』 このカテゴリーは, 患者の症状やニーズに対応した 具体的なケアが実践できていない> 術前からの継続した 予防的ケアが必要である> などの課題から形成され, 9 コード, 29 記録単位で構成された. このカテゴリーの記 録単位の割合は全体の 15.2%であった. これらは,[病院でのケアは, 圧迫療法や生活指導など に限定しており,充 なケア実践ができていない]や[日 本におけるスタンダードなケア方法の確立が必要であ る]など, 患者の状態に合ったケア提供や方法に関する 課題や,[術前術後を通して, 予防や早期対処のための知 識の普及が必要である]など, 予防的な視点からのケア 内容に関する課題であった. 3.カテゴリーの信頼性 カテゴリー 類の一致率は 88.0%であり, 信頼性を確 保していることを示した. . 察 本研究の結果から, 手術療法を受けたがん患者に対す るリンパ浮腫ケアに関わる看護師は, 4カテゴリーで表 される課題を認識していることが明らかになった. 以下に, 形成されたカテゴリーについて 察する. 1.各カテゴリーにみるリンパ浮腫ケアの課題 1)『ケア提供者および当事者に対する教育的支援の 不足』 これは, ケア提供者および当事者である患者のリンパ 浮腫に対する認識や姿勢に関する課題と, ケア提供者の リンパ浮腫ケアに関する知識や技術の習得やケアの質, サポート体制に関する課題であった. ケアは, 提供者と患者の相互行為である. そのため, 提 供者のリンパ浮腫に対する認識や姿勢は, 提供するケア の質に影響し, また患者のリンパ浮腫に対する認識や姿 勢は提供されるケアの意識化や実践に大きく影響する. つまり, 両者が互いにリンパ浮腫に向き合うことがケア リングの前提条件である. 本研究では看護師は, 両者の 視点からリンパ浮腫に対する認識不足を課題として認識 していた.森ら は,術後の退院指導としてリンパ浮腫発 症の可能性や日常生活上の注意点について医療者から説 明を受けなかった患者は 74%であったとし, 医療者のリ ンパ浮腫に対する認識の低さを指摘している. また, 乳 がん治療後のリンパ浮腫患者の苦悩には, 浮腫の情報提 供が不十 な医療者に対する不信感など「専門的支援の 欠落」が挙げられている. こうしたことからも, ケア提 供者のリンパ浮腫に対する認識を高めるとともに, 患者 とともに症状に向き合えるような支援が必要である.
また, ケアの質はケア提供者の知識や技術により支え られている. 本研究では, ケア提供者の知識や技術, それ を支える教育的支援に関する記録単位数が最も多く, 看 護師は, 知識や技術の不足を自覚してはいるものの, 具 体的な解決の方策を見出せず, 迷い, 悩みながら実践し ていることが推察された. 木村は, 複合的物理疎泄療法 の学習環境は, 主催や講師, 研修会の規模が多岐に渡っ ており, 看護師は具体的な手技を含めた研修を望んでい ることを明らかにしている. また, 学習の頻度と習得し た知識と援助の程度には相関関係がある ため, ケア技 術までを含めた系統的で継続的な教育的支援により, ケ アを担う人材の質向上を図る必要がある. 以上のことから, リンパ浮腫ケアを担う人材の質の てん化を図るためにも, ケア提供者や患者のリンパ浮腫 に対する認識を高め, ケアに関する知識や技術を習得で きる教育的支援体制の整備の必要性が示唆された. また, ケアの地域格差を是正するためにも教育の場の確保・充 実が急務である. 2)『施設におけるケア環境整備の不足』 これは, 施設においてリンパ浮腫ケアに関わる人材や 時間, 必要物品の確保およびケアシステムの整備や他部 門との連携に関する課題であった. 患者に提供するケアの質を高めるためには, 人材の質 を高めるだけでなく, ケアを提供する環境も重要である. ケア環境とは, ケアを支えるマンパワー, 場所, 時間, シ ステムなどが含まれ, その充実の度合いがケアの質や量 を左右する. 看護師は, こうしたケア環境の整備を課題 と認識していることから, ケア提供者がその実力を発揮 するための環境として, 場所や時間, 物品などの充実を 図るとともに, ケアシステムを構築していく必要性が示 唆された. また, リンパ浮腫発症後のケアでは, 弾性着衣 による圧迫と運動, リンパ液の排出を助けるリンパドレ ナージなどを組み合わせた複合的理学療法が効果的とさ れている. しかし, 圧迫やリンパドレナージは高度な技 術を要するケアでもある. こうした高度な技術を習得し たセラピストの育成は, 時間や費用がかかるため, 患者 のニーズに対応できる人数の確保には限界がある. 増 島 は,リンパ浮腫ケアでは,誰もが標準的に行えるケア と高度な専門的知識と技術を有するスペシャリストナー スによるケアの協働により, 安全で的確なケアを患者に 提供することが重要だと述べている. つまり, 誰もが標 準的に行えるケアを明確化し, セラピストの育成と並行 して施設のケアレベルを上げる取り組みとともに, 組織 全体を巻き込んだケアシステムの構築などを通して, ケ ア環境を整備する必要がある. 3)『地域におけるケアを推進する社会資源・地域連携 の不足』 これは, ケアに対する医療保険の適用やケア施設の充 実など, 社会資源および地域社会におけるケア連携に関 する課題であった. 2008年 4月の「リンパ浮腫指導管理料」が新設により, 特定がん手術前後のリンパ浮腫発症予防に向けた指導 が, 医療保険で評価されるようになった. また, 弾性着衣 が療養費支給の対象となり, 今まで全額自己負担だった 弾性着衣は年 2回, 4セットの支給が認められた. これ は, 患者の経済的負担の軽減とともに, ケア提供者のモ チベーション維持, ケア環境の整備を推進する原動力と なる大きな成果といえる. しかし, 複合的理学療法のリ ンパドレナージやバンデージ, 圧迫下での運動療法など の技術提供は保険適用外であり, 本カテゴリーでは, ケ アが医療保険適用外であることに起因した課題が抽出さ れた. 増島ら は, リンパ浮腫が患者にもたらす苦悩に 「経費」の側面を挙げ, マッサージなどが保険適用外で あることに起因する経済的負担が患者の苦悩となってい ることを明らかにしている. また, ケア提供者の立場で 大西 は,外来受診患者から費用を取ることができず,セ ラピストとしてケアを提供しても診療報酬につながらな いことにジレンマを感じていると述べている. 以上のこ とから, リンパ浮腫ケアを推進するためには, 患者に対 するケア提供を保証する医療保険制度の整備が不可欠で あり, 特に, リンパ浮腫を発症した患者に対する複合的 理学療法など, ケアの保険適用化に向けた活動が望まれ る. また, 本カテゴリーでは, ケアに対する地域連携の不 備が課題として認識されていた. これは, 地域で生活す る患者を地域や社会全体で支えるための地域連携の必要 性を示唆している. そのため, 地域におけるリンパ浮腫 ケアの てん化を図るためにも, 地域の医療機関や通院 治療院, 相談支援センターや外来, 病棟などが相互に関 係し, 協働できる体制作りが必要といえる. 4)『予防から発症後のケア方法の未確立』 これは, 患者のニーズに合わせたケアを提供するため の具体的方法や, 予防的視点からのケア内容に関する課 題であった. リンパ浮腫は一度発症すると難治性で, 日常生活に大 きな影響を与える. そのため, 予防や早期発見が重要で ある. 本カテゴリーでは, 予防的視点からのケアが課題 に挙げられており, 術前の説明や術後の退院指導の中で リンパ浮腫発症の可能性や予防・浮腫発症時の対処方法 について指導する必要性が示唆された.作田 は,乳がん 術後患者におけるリンパ浮腫の知識の獲得と活用に関す る研究で, 患者の予防行動に関する知識の獲得と活用は,
リンパ浮腫の予防に貢献することを明らかにした. さら に作田は, 看護師は, 入院中の患者にリンパ浮腫発症の 危険性や予防のための知識, リンパ浮腫を発症した際の 対処方法を指導する必要性を述べている. つまり, 入院 から一貫したリンパ浮腫予防に対する指導を実施すると ともに, 患者の退院後の生活までを意識したケア提供が 必要といえる. 以上に加えて, リンパ浮腫指導管理料が 認められたことで, リンパ浮腫予防のための指導内容や 方法を検討し, より患者の生活に即したケアの提供が望 まれる. また, リンパ浮腫を発症した患者ケアには, 複合的理 学療法など患者の症状に合わせたケアプログラムが必要 であるが, 多くの施設では, 人材不足やケア環境の未整 備のために, 患者の個別性に合わせたケア提供が困難な 状況にある. こうした背景が, 看護師の[患者の症状や ニーズに対応したケアが実践できていない]という認識 につながったと えられる. よって, リンパ浮腫ケア環 境の整備を進めるとともに, 適切なアセスメントに基づ くケア方法の選択と実践が必要である. 2.リンパ浮腫ケア促進に向けた今後の取り組み (図 1) 本研究で得られたリンパ浮腫ケアの課題は,『ケア提 供者および当事者に対する教育的支援の不足』,『施設に おけるケア環境整備の不足』,『地域におけるケアを推進 する社会資源・地域連携の不足』,『予防から発症後のケ ア方法の未確立』の 4カテゴリーであった.これらは,看 護師が認識しているケアの課題であるとともに, ケアを 促進するための具体的な方向性を示唆していた. さらに, それぞれの課題内容は, 個々に独立した課題ではなく, 相互に関係し合うなかで生じた課題であることが推察さ れた. つまり, 一つの課題が連鎖して, 側面を変えた課題 として看護師に認識された可能性が えられた. そのた め, ある特定の課題に対しての取り組みが, 他の課題に 肯定的な影響を与え, 結果的にリンパ浮腫ケアを促進す る力になることが期待される. 具体的には,『ケア提供者および当事者に対する教育 的支援の不足』に対して, 教育環境や教育的支援体制の 整備に向けた取り組みを実施することにより, ケアを担 う人材の質の向上だけでなく,『施設におけるケア環境 整備の不足』のマンパワーの確保に尽力し,『地域におけ るケアを推進する社会資源・地域連携の不足』の,複合的 理学療法を中心としたケアの保険適用を実現するための 原動力になることも期待できる.また,『予防から発症後 のケア方法の未確立』のケア内容の充実をもたらす要素 図1 リンパ浮腫ケアを促進する取り組み
となることが えられる. そして, リンパ浮腫ケアを促 進するためには,施設や地域・社会が相互に連携し,目標 を共有しながら協働する体制整備が必要である. こうし た取り組みが, 手術療法を受けたがん患者のリンパ浮腫 予防と早期対処を促し, 発症後も適切な症状コントロー ルの継続を可能にすることで, 患者の OQL を高めるこ とにつながると える. 謝 辞 研究を実施するにあたり, 協力いたただきました病院 施設の看護部長様および回答いただきました看護師の皆 様に感謝いたします. なお, 本研究は科学研究費補助金 (基盤研究 (C)) の研 究助成を受けて行った一部である. 文 献 1. 小川佳宏 : リンパ浮腫の疫学および診断.加藤逸夫 (監): リンパ浮腫診療の実 際−現 状 と 展 望. 東京 : 文光堂, 2003: 31-45. 2. 廣田彰男 :「リンパ浮腫」知って.東京 : 芳賀書店,2004: 18-21. 3. 小川佳宏.リンパ浮腫に対する治療 ケアの選択,ターミ ナルケア. 2004; 14(2): 87-93. 4. 増島麻里子,佐藤禮子.乳がん治療後のリンパ浮腫が患者 にもたらす苦悩. 千葉看護学会誌, 2007; 13(1): 85-93. 5. 熊谷靖代, 垣本看子, 長前キミ子. リンパ浮腫に対する看 護師の認識とケアの実際に関する研究. 日本がん看護学 会誌, 2004; 18: 149. 6. 河村 進, 横山 隆, 谷水正人ら. リンパ浮腫診療の地域 連携とその必要性. 治療, 2008; 90(3): 793-799. 7. 村 明 (監): 大辞泉. 東京 : 小学館, 1995: 509 8. Berelson, B. 稲葉三千男ら訳 : 内容 析. 東京 : みすず 書房, 1957. 9. 舟島なをみ : 質的研究への挑戦. 東京 : 医学書院, 1999 : 42-47. 10. 森 洋子, 東 厚子 : リンパ浮腫患者の現状. 加藤逸夫 (監): リンパ浮腫診療の実際−現状と展望. 東京 : 文光 堂, 2003: 119-128. 11. 前掲 4. 12. 木村恵美子,河内香久子.がん患者のリンパ浮腫に対する complex decongestive physiotherapyの実践状況. 日本が ん看護学会誌, 2006; 20(1): 33-40. 13. 前掲 5. 14. 増島麻里子. リンパ浮腫ケア∼がん患者のリンパ浮腫の 理解と看護の役割∼がん患者のリンパ浮腫ケアにおける 看護の重要性. がん看護, 2008; 13(7): 689-691. 15. 前掲 4. 16. 大西ゆかり : リンパ浮腫ケア∼がん患者のリンパ浮腫の 理解と看護の役割∼リンパ浮腫に専門的にかかわる看護 師の取り組みと課題. がん看護, 2008; 13(7), 733-738. 17. 作田裕美, 宮腰由紀子, 坂口桃子ら. 乳がん術後患者にお けるリンパ浮腫発症予防行動に関連した知識の獲得と活 用. がん看護, 2005; 19(4): 357-362.
Issues Concerning Lymphedema Care
for Post-Operative Cancer Patients
Yuki Higuchi,
Yoko Nakanishi,
Kiyomi Hirose,
Michie Sakurai,
Masataka Horikoshi,
Kiyoko Kanda
and Tamae Futawatari
1 Gunma Prefectural College of Health Sciences 2 Gunma Cancer Center
3 Gunma University School of Health Sciences
Purpose: To elucidate the problems recognized by nurses while engaged in the care of lymphedema for postoperative cancer patients. Subjects and method: A survey was conducted among nurses who were most closely related to lymphedema care of cancer patients in 136 facilities throughout the country. The subject of the current analysis was the responses submitted by 77 nurses who gave their opinions in a narrative form in the designated column.Referring to the method of content analysis,these responses were analyzed qualitatively and descriptively. Results: Through the analysis noted above,4 categories that concern the issues related to lymphedema care of postoperative cancer patients emerged. These were: a lack of educational support for those providing or involved in the care ; inadequacy in organizing the environment providing care ; a lack of social resources and regional cooperation in promoting care in the community and absence of an established method for care ranging from prevention to the period after onset. Conclusion : This analysis of the problems related to lymphedema care that are recognized by nurses led to a recognition of the need for cooperation of facilities,communities and society in their efforts to organize a better care environment.(Kitakanto Med J 2009;59:43∼50)