経済連携協定に基づいた
インドネシア人看護師に望ましい指導
石 井 千 晴, 森
淑 江
要 旨 【背景・目的】 EPA に基づいて来日し, 看護師資格を取得した EPA インドネシア人看護師への望ましい指 導について示唆を得ることを目的とする. 【対象と方法】 インドネシアの一地域の保 所看護師の仕事内 容と, EPA 看護師を対象として行われた「EPA 看護師に関する調査」結果の一部を, 日本の新人看護職員研 修ガイドラインと比較し 察する. 【結 果】 インドネシアの保 所では, 入院患者の排泄や食事の世話は 家族がしていた.防災訓練は行われていなかった.EPA 看護師の 27.3%が食事介助は未経験であった.日本で は一年目でできる事が目標とされるインシデントの報告は, インドネシアでは未実施率が 24.2%であり, 防 災管理では, 未実施率が 69.7%であった. 【結 語】 療養上の世話に関する業務」, インシデント報告」, 防災管理」について, 特に指導する必要があると えられた.(Kitakanto Med J 2014;64:205∼213) キーワード:インドネシア, 外国人看護師, EPA 目 的 日本では 2008年から経済連携協定 (EPA) に基づい て, インドネシア人及びフィリピン人看護師を日本の国 家資格取得を目指す看護師候補者として受け入れを開始 した. 2013年 6月現在では累計 71名の日本の国家資格 を持つ EPA に基づいて来日したインドネシア人看護師 (以下 EPA インドネシア人看護師とする) が 生してい る. しかし,現場で EPA 看護師を指導する看護師らから は母国の業務内容や教育を知らないため, いつ何を教え たらよいかわからないという声も聞こえている. 筆者の一人は 2010年 1月から 2012年 1月までの 2年 間, 独立行政法人国際協力機構 (JICA) が派遣する青年 海外協力隊としてインドネシア共和国に赴き, 看護師と して活動を行った. 保 所を巡回して地域看護の現状を 調査したり, 一定期間とどまり看護師などと連携して家 訪問や保 集会を開くなど, 地域看護に従事した. 本 研究ではインドネシアの看護現場で活動した経験と, EPA インドネシア人看護師についての調査結果からイ ンドネシアの看護について報告するとともに, 日本の看 護との違いについて 察し, EPA インドネシア人看護師 への望ましい指導について示唆を得ることを目的とす る. 調 査 方 法 筆者が青年海外協力隊看護師隊員としてインドネシア A 県 B郡内 B保 所に派遣されていた 2010年 1月から の 2年間に, JICA に提出した活動報告書第 1号から第 5 号, および隊員活動時のフィールドノートからインドネ シアの一地域の保 所看護師の仕事内容や様子に関する 部 と, 2013年に第 99 回から第 101回看護師国家試験 に合格した EPA 看護師 (インドネシア人とフィリピン 人) を対象として国際厚生事業団によって行われた 「EPA 看護師に関する調査」 の中からインドネシアで 経験しなかった業務や看護師の仕事ではないとされる業 務に関する情報を質的に 析し厚生労働省作成による新 人看護職員研修ガイドライン と比較し 察した. 結 果 1.インドネシアと日本,インドネシアA県の保 医療 概要 インドネシアと日本の医療を取り巻く概要の一部を表 1 元独立行政法人国際協力機構青年海外協力隊 2 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科 平成26年2月18日 受付 論文別刷請求先 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科 森 淑江1に示した. インドネシアは, 東南アジア南部に位置する国で, 人 口は 2億 3,000万人を超える世界第 4位の規模である. その内の 88.1% (2010年) はイスラム教徒である. インドネシアの保 医療サービスシステム概要は図 1 の通りである. 日本の場合, 第一次の保 サービスは市 町村の保 センター, 医療サービスは開業医などの診療 所で提供され, 保 と医療が別の施設で提供されるが, インドネシアでは地域にある保 所や保 所支所では保 と医療の両方のサービスを提供している. 国レベルで は日本の厚生労働省にあたる保 省があり, 州は日本の 県レベルに相当し, 第 3次の保 医療機関としては州衛 生部と州立病院がある. 県は日本の市や郡レベルに相当 し, 第 2次保 医療機関としての県衛生部と県立病院が 各県に 1カ所あり, 県立病院は 50床前後の入院施設を 持ち, 内科, 外科, 産科, 小児科の基本 4診療科があると ころが多い. 日本の町や村に相当する郡には 1カ所か ら数カ所の保 所があり, 診療も含めた第一次保 サー ビスを提供している. 看護師は, S3 (博士), S2 (修士),S1 (学士),D3 (高等学 卒業後 3年課程の看護学 を卒業), SPK (中学卒業後 3年課程の看護学 を卒業) などに 類される. 日本の 表1 インドネシアと日本の概要 日本 インドネシア 人 口 (2010) 約 1.28億人 約 2.38億人 65歳以上の割合 (2010) 23.0% 5.6% 平 寿命 (2009) 男 79.6歳 女 86.4歳 男 69.2歳 女 73.7歳 5歳未満児死亡率 (2010) 3 35 病 床 数 (人口 10万対,2010) 1,244.3床 70.7床 医 師 数 (2006) 277,927人 56,938人 医 師 数 (人口 10万対) 217.5 人 25.5人 看護師数 (2006) (看護師)(准看護師) 811,972人 382,149 人 308,306人 看護師数 (人口 10万対) (看護師) 635.5人 (准看護師) 299.1人 137.9 人 注 1) 平成 23年度版高齢社会白書 による. 2) インドネシア共和国基礎データ による. 3) 2010∼2011海外情勢報告 による. 4) 平成 21年簡易生命表 による. 5) 世界子供白書 2012 による. 6) 平成 22年度医療施設 (動態) 調査・病院報告 による. 7) 施設・業務の種別に見た医師数 による. 8) 平成 18年度保 ・衛生行政業務報告結果 による. 図1 インドネシアの保 医療システム 国際看護・国際保 59 頁 図 4を転載 データは 2012年
保 師に当たる資格はなく, 保 所に該当する外来診療 や入院施設もあるが地域保 も担っている 立の一次医 療の場である保 施設では, 看護師や助産師が地域看護 師, 地域助産師として多く働いている. 西ヌサ・トゥンガラ州に位置する A 県には県立病院が 1施設で, 保 所は 15施設ある. 2.B保 所の概要 2010年現在, A 県内には 10の郡がある. その内 A 県 の県庁がある B郡の面積は 62.3km , 人口は約 75,000人, 11の村落に かれている. 困層のための 康保険を申 請している人の割合は 58%である. B郡内には保 所が 1カ所あり, B保 所とする. B保 所は保 所支所 10 か所を管轄しており, それぞれに看護師が 1名程度駐在 している. さらに保 所の管轄内でもっとも小さい行政 区画の地区で, 合保 ポストが毎月開催されている. 合保 ポストとは, いわば移動簡易保 所のようなも のであり, 地区ごとに毎月 1回, 乳幼児の体重測定や妊 婦 診, 栄養指導などを行っている. 地区の保 ボラン ティアを中心に運営されるが, 合保 ポストの開催に 合わせて, 保 所職員が巡回し予防接種も行う. 対象は 乳幼児やその母親, 妊産婦などであるが, 場所によって は一般住民の診療を併せて行う場合もある (巡回診療). B保 所では 75か所で 合保 ポストは開かれている. 保 所の当時の医療スタッフは, 医師 1人, 看護師 13 人, 歯科衛生士 2人, 助産師 4人, 栄養士 3人, 衆衛生 士 1人, 薬剤助手 1人, 検査技師 2人で構成されている. ただし医療スタッフの他にも事務担当者, 予防注射専門 の担当者などがいるが, 人数は不明である. また予防注 射専門の担当者の資格の有無や学歴なども不明である. 保 所内の施設は 検査室, 薬局, 入院施設 (10床), 急 患室 (3床, 24時間), 栄養科室, 結核プログラム室などが ある. 保 所を訪れる患者の上位 5疾患は, 上気道感染症, 皮膚感染症, 筋・関節疾患, 胃炎, 肺炎である (2009 年). B保 所はインドネシアの中で特異的なものはなく, 平 的な保 所である. 3.B保 所で働く看護師の主な業務内容と仕事の様子 看護師 13名は 6部門に かれて勤務していた. 表 2 に主な業務内容を示す. 1) 入院・急患室担当看護師 : 急患室とは, けがをして 処置が必要な患者や, 外来にかかったが内服治療以外 の治療が必要な患者, および時間外の患者を受け付け, 処置する部屋である. 急患室は入院施設に併設してあ る. ここで働く看護師は急患室と入院患者の看護にあ たる. 夜勤の看護師は 2名で担当していた. 仕事内容 としては, 既往歴聴取, バイタルサイン測定, 与薬また は傷の処置, 記録などである. 入院施設であっても清 拭や排泄の介助, 食事の介助などを行っている様子は 見られなかった. 代わりに, 患者家族が泊まり込みで 患者に付き添っていた. 看護計画は 用されていない. バイタルサイン (血圧, 脈拍, 体温) と処方した薬の記 録はされていた. ここで働く看護師は, 地域の疾患に 関するデータ収集と県の保 衛生事務所への報告も担 当していた. そのうち 2人の看護師は月に 4回の家 訪問も担当していた. ここでの医療機器の滅菌は簡易 なオートクレーブを 用しており, 看護師が滅菌の作 業を行っていた. 長いガーゼを適当な大きさに切り, いやすい大きさにたたんで滅菌したり, 綿を丸めて 消毒用の綿球を作るなどもしていた. また, 薬剤の処 方は基本的には薬剤助手が行うが, 必要に応じて看護 師も行っていた. 子供用の薬は, 大人用の薬を砕いて 状にし, わら半紙に少量ずつ目 量で けて包んだ ものを渡していた. 2) 合保 ポスト担当看護師 : 合保 ポストでの看 護師の仕事は予防注射の施行である. また予防注射に ついての記録, データ収集及び保 事務所への報告も 表2 B保 所における看護師の業務 担当部署 B保 所の仕事内容 入 院 ・ 急 患 室 既往歴聴取 バイタルサイン測定 処方・与薬 傷の処置 (縫合含む) 記録 用物品を洗浄し, 滅菌する ガーゼを切って畳み, 滅菌する 合 保 ポ ス ト 予防注射 記録・報告 巡 回 診 療 バイタルサイン測定 診察 情報提供・生活指導 内服処方 小児用の薬を 包する 結核プログラム室 与薬 薬の飲み方を指導 検査依頼 薬の管理 家 訪問 データ収集 検体の収集 予防普及活動 外 来 バイタルサイン測定 診察 内服処方 入院施設, 病院への紹介 家 訪 問 情報収集・観察 記録 薬 局 薬の処方 小児用の薬を 包する
行っている. ただし, 保 所の管轄地域内では一日の うちに数か所で 合保 ポストが開かれるため, すべ てに看護師が行けるわけではなく, 予防注射のみ担当 している保 所の担当職員が施行と記録を行っていた 場所もあった. 3) 巡回診療担当看護師 : 保 所から離れた地域など, 住民の医療へのアクセスが困難であると思われる地域 で 合保 ポストが開催される場合, 看護師は巡回診 療として予防接種とは別に診療も行っている場合が あった. そこでは看護師がバイタルサイン測定, 問診, 情報提供, 及び指導, 内服処方を行っていた. ただし, 患者情報や指導したことなどの細かい記録はされてい なかった. 4) 結核プログラム室担当看護師 : 結核が陽性と診断さ れた患者に, 国で指定された結核薬を定期的に渡すこ とを主な仕事としていた. 必要に応じて結核の新患者 に内服の説明や, 対象患者への家 訪問, 必要な時期 に検査の依頼, 薬の管理, およびデータ収集などを 行っていた. 結核の予防および早期発見のための集会 などで, 検体の収集や結核予防の普及などの仕事も 行っていた. 5) 外来診療担当看護師 : 保 所の外来にてバイタルサ イン測定や診断, 内服の処方を行う. 重症患者は入院 施設または病院へ紹介していた. 医師は勤務している が, 保 所長も兼ねているため, 会議や出張で不在の こともある. 重症の外来患者と入院患者の回診以外は, 診断, 処方, 傷の処置 (縫合含む), 検査依頼などは主に 看護師が行っていた. インドネシアでは決められた数 種類の薬は医師の指示なしに看護師の診断で処方して もよいことになっている. 6) 家 訪問担当看護師 : 精神科外来の看護師 2人の家 訪問に同行した. 外来にしばらく来ていない患者の 現状把握のために訪問を行っていた. 特定の地域で, 歩いて数件の家 を訪問し, 患者や家族の話を聞いて いた. 独自の記録様式を 用していた. また, 現在治療 中の結核患者の家 訪問に同行した. 家の環境を観察 し, 患者や家族に話を聞き, 症状と服薬継続の有無を 確認した. また, 途中で結核薬を中断している患者の 家 を訪問した際は, 薬を渡して, 保 所を訪問する ようアドバイスしていた. しかし, せっかく訪問を 行ったにも関わらず, 何にも記録されていなかった. 入院患者のフォローアップ訪問に関しては, 同行でき なかった. この担当者は, 保 事務所から指定された 記録用紙を 用していた.SOAP (問題志向型記録方式 の一つ) で患者の状態は記録されているが, 看護計画 は立てられていなかった. 必要に応じて繰り返して訪 問が行われているようであった. 4.B保 所内の様子 次のような点が観察された. [物品] ・酸素ボンベ, 酸素マスク ( い回し) は置いてあるが, パルスオキシメーターはなかった. ・氷枕用の氷やアイスノンはなかった. ・3誘導の心電図モニターはあるが 用されていなかっ た. ・ゴム手袋は 用したものを洗って干し, パウダーをは たき, 再利用していた. ・点滴ボトル,点滴のルート,針はディスポーザブルを 用していた. ・縫合用の針は滅菌して再利用していた. ・消毒液はビンに綿球を入れて 用していた. 消毒用の ビンがいつ滅菌にかけられているかは不明であった. 何度も消毒液を継ぎ足して 用していた. [部屋環境] ・6床ある部屋と 4床ある部屋の 2部屋であった. ・ベッドごとにカーテンは取り付けられていなかった. ・急患室の部 には衝立はあるが, あまり 用されてい なかった. 室のほうには敷居や窓に布がかかって いた. ・ベッドにシーツは掛けられておらず, 患者はそのまま 横になったり, 必要に応じて患者が個人で布を敷いた りしていた. [処置] ・傷の消毒は水で洗い流すのではなく, 生理食塩水を浸 したガーゼでこすっていた. ・傷の縫合は主に看護師によって行われていた. [入院生活] ・入院患者にご飯と少量の副菜が出されるが, 家族の持 ち込んだものを食している人が多かった. ・入院の際は家族が 1から数人付き添っていることが多 かった. 清拭や排泄の介助, 食事介助などは家族がし ていた. ・家族の寝泊まりが保 所の軒下の場合もあった. [検査] ・検査は尿検査,細菌検査,血液検査の一部などが可能で あった. レントゲン, エコーなどの機器はなかった. [救急車] ・救急車と呼ばれる乗用車が一台あったが, へき地に巡 回診療に行く際や, 保 所では処置が困難と判断され た患者を県病院に搬送する際に 用されていた. 日本 のような緊急で呼び出せる救急医療制度はなかった. [防災訓練] ・防災訓練は行われていなかった.
表3 EPA インドネシア人看護師の母国での未経験率が高い業務 新人看護職員研修 ガイドライン項目 (2) 母国では実践する機会 がなかった (3) 母国では 看護師の実施 す る 技 術/業 務ではない (2)+(3) 母国 で経験なし ①自己評価及び他者評価を踏まえた自己の学習課題を みつける 15.2% 0.0% 15.2% 1 看護職員とし て必要な基本姿 勢と態度 生涯にわたる主体的な自 己学習の継続> ③学習の成果を自らの看護実践に活用する 15.2% 0.0% 15.2% 環境調整技術> ①温度,湿度,換気,採光,臭気,騒音,病室整備の療養生 活環境調整 9.1% 9.1% 18.2% ①食生活支援 12.1% 0.0% 12.1% 食事援助技術> ②食事介助 21.2% 6.1% 27.3% ④摘 12.1% 3.0% 15.2% 排泄援助技術> ⑤導尿 12.1% 0.0% 12.1% ①歩行介助・移動の介助・移送 12.1% 0.0% 12.1% 活動・休息援助技術> ③関節可動域訓練・廃用性症候群予防 18.2% 3.0% 21.2% ②洗髪 15.2% 0.0% 15.2% 清潔・衣生活援助技術> ④入浴介助 45.5% 15.2% 60.6% 呼吸・循環を整える技術> ⑥人工呼吸器の管理 45.5% 0.0% 45.5% ④中心静脈内注射の準備・介助・管理 42.4% 0.0% 42.4% 与薬の技術> ⑨麻薬の主作用・副作用の観察 15.2% 0.0% 15.2% 2 看護技術 ⑩薬剤等の管理 (毒薬・劇薬・麻薬, 血液製剤を含む) 15.2% 0.0% 15.2% ②気道確保 18.2% 0.0% 18.2% ③人工呼吸 36.4% 3.0% 39.4% ④閉鎖式心臓マッサージ 21.2% 0.0% 21.2% 救命救急/処置技術> ⑤気管挿管の準備と介助 27.3% 0.0% 27.3% ⑥止血 18.2% 0.0% 18.2% ⑦チームメンバーへの応援要請 15.2% 0.0% 15.2% 症状・生体機能管理技術> ④動脈血採血の準備と検体の取り扱い症状・生体機能管理技術> 15.2% 0.0% 15.2% ③リラクゼーション 12.1% 0.0% 12.1% 苦痛の緩和・安楽確保の 技術> ④精神的安寧を保つための看護ケア 15.2% 0.0% 15.2% 感染予防技術> ⑤針刺し事故防止対策の実施と針刺し事故後の 12.1% 0.0% 12.1% ③転倒転落防止策の実施 15.2% 0.0% 15.2% 安全確保の技術> ④薬剤・放射線暴露防止策の実施 15.2% 0.0% 15.2% 安全管理> ②インシデント (ヒヤリ・ハット)事例や事故事例の報 告を速やかに行う 24.2% 0.0% 24.2% 薬剤等の管理> ①薬剤を適切に請求・受領・保管する (含,毒薬・劇薬・ 麻薬) 3.0% 3.0% 15.2% ①定期的な防災訓練に参加し, 災害発生時には決めら れた初期行動を円滑に実施する 63.6% 6.1% 69.7% 3 管理的側面 災害・防災管理> ②施設内の消火設備の定位置と避難ルートを把握し患 者に説明する 66.7% 3.0% 69.7% 物品管理> ②看護用品・衛生材料の整備・点検を行う 3.0% 9.1% 12.1% コスト管理> ②費用対効果を 慮して衛生材料の物品を適切に選択する 15.2% 0.0% 15.2% (EPA 看護師に関する調査事業報告書 表 2. 1. 5∼表 2. 1. 8を改変して転載)
5.インドネシアと日本の違い 「EPA 看護師に関する調査事業報告書」 の EPA 看護 師調査票別紙集計結果の中から, 厚生労働省の作成した 新人看護職員研修ガイドラインに示された臨床実践能力 の構造から看護職員として必要な「基本姿勢」, 看護技 術」, 管理的側面」の 103項目をインドネシアでの経験 と比較し 析した. (1) 母国で実践していた」「(2) 母国 では実践する機会がなかった」「(3)母国では看護師の実 践する技術/業務ではない」の三 類で回答した結果の うち,(2)と (3)を足した結果である「インドネシアでは 未経験」と回答した割合が 10%以上の項目を抽出し, 表 3に示した. 「環境調整技術」の「療養生活環境調整技術」におい ては, 18.2%の人が未経験であり, そのうち「母国では看 護師の業務ではない」としている人が 9.1%であった. 食事援助技術」の中の「食事介助」に関しては, 27.3% の人が未経験で, そのうち 6.1%は母国では看護師の業 務ではないと えていた. 清潔・衣生活援助技術」の「入 浴介助」に関しては 60%以上が未経験であった. 「人工呼吸器の管理」や「中心静脈注射の準備・介助・ 管理」の未経験率が 40%を超えており,また, 救命救急/ 処置」の中の「人工呼吸」が 39%, 心臓マッサージ」や 「気管内挿管の準備と介助」が 20%を超える未経験率で あった. 「安全管理」の「インシデント事例や事故事例の報告 を速やかに行う」の項目に関して,日本においては,猪俣 の報告 では 1年後に「(インシデント事例や事故事例の 報告を速やかに行うことが) できる」率が 93.2%である のに対し, 2年以上の看護経験があるインドネシア人看 護師らは「母国では実践する機会がなかった」という未 実施率が 24.2%となっていた. 「防災管理」の「定期的な防災訓練に参加し,災害発生 時には決められた初期行動を円滑に実施する」と「施設 内の消火設備の定位置と避難ルートを把握し患者に説明 する」という項目では, 未実施率がともに 69.7%であり, 看護師の業務ではないと えている看護師が 6.1%いた. 「物品管理」の「看護用品・衛生材料の整備・点検を 行う」では,12.1%の人が母国では未経験で,9.1%が看護 師の行う業務ではないとしていた. 察 筆者の保 所での記録からは, 日本では看護師の業務 とされる「療養上の世話」業務が,インドネシアでは看護 師の業務としてあまり行われていない様子がわかった. EPA 看護師に関する調査報告書」でも,療養生活環境調 整技術や食事介助などは, 看護師の仕事ではないと認識 しているインドネシア人看護師がいることからその傾向 が見られた.奥島 は「看護師が関わる業務として清掃や 消毒,シーツ 換などは当然であるが ∼中略∼ 排泄・入 浴介助や日々のコミュニケーションは意外に少ない. 必 要であれば患者の親族・友人が付き添い, 代で泊まり 込む」としている. 日本では看護師の業務が保 師助産 師看護師法の第 1章第 5条で「傷病者若しくはじょく婦 に対する療養上の世話または診療の補助」と定められて いることや, 1994年の新看護体系による付添看護の廃 止 によって家族の付き添いがほとんどないことで, 療 養上の世話業務は看護師が中心に行っていることが推測 できる. また戸崎 は, インドネシアの病床数 30に対し て看護師数が 22名という日本の病院に近い病棟を対象 とした調査であっても, 生活援助が含まれる「療養上の 世話」の項目は「家族が行っていることが多く看護師は それを補佐する程度である」と述べている. 患者の日常 生活援助を看護師が行わず患者家族が行っている理由と しては, イスラム教徒の女性が夫以外の男性から全身を 見ることも触れることも許されていないため, 清拭や 排泄の介助など肌を露出したり触れたりする必要のある 身の回りの介助は身内によって行われる場合が多いとい う文化習慣的は背景も えられる. このような理由から, 日本の看護現場では身の回りの世話に相当する療養上の 世話業務は, インドネシアよりも多く行われていること が えられる. ただし, EPA 看護師に関する調査」の結果では,清拭 や口腔ケア, おむつ 換や寝衣 換といった清潔・衣生 活援助技術の項目では未経験率が 10%を超えることは なく, それらは看護師の業務として認識されていると えられた. しかし戸崎 によると, 行われていた業務は 「手術後初めての食事や排泄時の介助を家族と一緒に行 う援助であり, いわば家族だけで介助ができるようにす るための援助であった」場合もあるため, 必ずしも経験 の有無が毎日の業務とはならないことを示している. 一 方で,清潔・衣生活援助技術の中でも,入浴の介助は 60% 以上が未経験と特異的であるのは, インドネシアでは入 浴の習慣がないことに関連していると思われた. B保 所においての看護師の仕事が, 傷の縫合や薬の 処方など「診療の補助」業務が多い理由としては,医師や 薬剤師の数が少ないことも関連していると思われる. B 保 所では医師は一人しかいなかったため, 入院, 救急, 外来, 巡回診療などのすべてを行うことはできなかった. そのため看護師らが医師に代わり薬の処方や傷の縫合な ど, 診療の補助」として業務を行っていたと えられる. 日本では薬の処方や傷の縫合は看護師の業務に規定され ていないため, 行うことができない. また, 安全管理の「インシデント事例や事故事例の報 告を速やかに行うこと」の未経験率が高い理由も, 家族
の付き添いの違いによるものと えられる.戸崎 は「イ ンドネシアではナースコールや手すりがなくても家族の 存在によって患者の安全は確保されている.」と述べてお り, B保 所の患者のように家族が 24時間付き添ってい る場合, 例えばベッドからの転落や点滴の自己抜去など のインシデントは少ないか, あるいはあったとしても第 一発見者は家族となるため, 看護師が責任を持って報告 するという状況が少ないと えられる. しかし日本にお いては看護師が患者を一番近くで見ている医療者であ る. また, 厚生労働省によって出された新人看護職員研 修ガイドラインによれば 「インシデント (ヒヤリ・ハッ ト) 事例や事故事例の報告を速やかに行う」ことは一年 以内に経験し, 習得を目指す項目とされているため, き ちんと報告が行われるよう指導する必要があると えら れる. また, それ以外の理由として, インドネシアでは日 本と比べてチーム医療の えが薄く, 自己責任において 業務をこなすため, 同僚に報告する習慣がない可能性も えられるが, 今回は背景をそこまで把握していないた め, 析を行うことができなかった. 「人工呼吸器の管理」や「中心静脈注射の準備・介助・ 管理」, 救命救急/処置」の中の「人工呼吸」や「心臓マッ サージ」, 気管内挿管の準備と介助」が 20%を超える未 経験率となっているが, 日本においても人工呼吸器や中 心静脈注射を取り扱う率は所属する病棟によって偏りが あると えられるため, インドネシア人看護師らの未経 験率が特異的に低いとは えられなかった. 防災訓練がないことや防災管理を看護師の仕事ではな いと えているインドネシア人看護師がいたことから, インドネシアでは防災に対する意識が日本よりも低いこ とが えられた. 日本では消防法の第 8条において, 病 院での避難訓練の実施が義務づけられており, 防災に 対する意識が高いと えられる. 少なくとも「施設内の 消火設備の定位置と避難ルートを把握し患者に説明す る」ことは一年目でできることが目標とされている項目 であるため, インドネシア人看護師らに対して, 日本に おいては「防災管理」も看護師の業務の一つであること を認識させ, 災害時に円滑な行動がとれるよう指導をす る必要があると える. その他に, B保 所の外来や入院施設に置いてある物 品や機器の少なさ, 滅菌作業やガーゼ作りなども看護師 がしなければならない不 さ, 消毒液や滅菌物の取り扱 いに関して知識が普及していないことなどを感じたが, EPA 看護師に関する調査との比較ではそれらの違いを 析することはできなかった. インドネシアの保 所では, 入院患者の排泄や食事の 世話は家族によってなされており, 防災訓練は行われて おらず, 日本では一年目でできる事が目標とされるイン シデントの報告は, インドネシアでは実践する機会がな かった率が日本より高くなっていることがわかった. そ のため,EPA インドネシア人看護師に対しては, 療養上 の世話に関する業務」, インシデント報告」, 防災管理」 について, 特に指導する必要があると えられた. 本論文を作成するにあたり, 隊員期間中に大変お世話 になりましたインドネシア A 県の関係者の皆様, および JICA インドネシア事務所の皆様には心より感謝申し上 げます. 文 献 1. 益社団法人国際厚生事業団. 平成 26年度版 EPA に基 づく外国人看護師・介護福祉士受け入れパンフレット.東 京 : 益社団法人国際 正事業団, 2013: 35. 2. 社団法人国際厚生事業団.平成 24年度厚生労働省看護職 員確保対策特別事業 EPA 看護師に関する調査事業報告 書. 社団法人国際 正事業団, 2013: 181. 3. 厚生労働省. 新人看護職員研修ガイドライン. http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/oshirase/dl/ 130308-1.pdf(2013年 8月 28日閲覧) 4. 外務省. インドネシア共和国 (Republic of Indonesia) 基 礎データ. http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/data.html (2013年 7月 16日閲覧) 5. 内閣府. 平成 23年度版高齢社会白書. http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2011/ gaiyou/html/s1-1-1.html (2013年 7月 16日閲覧) 6. 厚生労働省. 2010∼2011海外情勢報告. 2012; 3: 369-374. http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/12/pdf/ teirei/t369-374.pdf 7. 厚生労働省. 平成 21年簡易生命表の概要について. http : //www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life09/ index.html (2013年 7月 16日閲覧) 8. 日本ユニセフ協会. 世界子供白書 2012. 日本ユニセフ協 会, 2013; 88-93 http://www.unicef.or.jp/library/pdf/haku12-07.pdf (2013年 7月 16日閲覧) 9. 厚生労働省. 平成 22年医療施設 (動態) 調査・病院報告 の概況. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/10/ dl/shisetsu.pdf(2013年 7月 16日閲覧) 10. 厚生労働省. 施設・業務の種別にみた医師数. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/06/ kekka1-1.html (2013年 7月 16日閲覧) 11. 厚生労働省.平成 18年度保 ・衛生行政業務報告結果の 概要. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/06/ kekka1.html (2013年 7月 16日閲覧) 12. 森口育子.国際看護・国際保 .丸井英二,森口育子,李節 子 (編).海外における国際看護活動.東京 : 弘文堂,2012:
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Desirable Guidance for Indonesian Nurses under
the Economic Partnership Agreement
Chiharu Ishii
and Yoshie Mori
1 Former Member of Japan Overseas Cooperation Volunteers JICA
2 Gunma University Graduate School of Health Sciences, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8514, Japan
Objectives: This is to study how we can provide desirable guidance to Indonesian nurses who came to Japan and acquired the certificate based on the EPA. Subject & M ethod: We review the job descrip-tions of nurses working at public health centers in a certain region of Indonesia and some findings of a survey conducted on EPA nurses in comparison with Japan s guideline for training new graduate nurses. Results: At health centers in Indonesia, care services such as assistance with eating and toileting for hospitalized patients are left to their family members. Emergency drills are not incorporated. Of the EPA nurses,27.3% have no experience of meal assistance. As for incident reporting which is one of the first year goals in Japan, 24.2% EPA nurses have had no such opportunities in Indonesia. As far as disaster prevention is concerned,69.7% of them have no experience at all. Conclusion : It is apparently necessary to give guidance particularly on rehabilitation assistance, incident reporting and disaster control.(Kitakanto Med J 2014;64:205∼213)