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東日本大震災と結核:大規模災害の疫学研究

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Academic year: 2021

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東日本大震災と結核:大規模災害の疫学研究

著者

櫻井 雅浩

雑誌名

東北医学雑誌

131

2

ページ

151-153

発行年

2019-12

URL

http://hdl.handle.net/10097/00130731

(2)

髙橋記念賞受賞記念講演

― 2019年 5 月 18 日 : 勝山館

東日本大震災と結核 : 大規模災害の疫学研究

宮城県保健福祉部技術参事兼塩釜保健所長 櫻  井  雅  浩 略 歴 平成 元 年 3 月  東北大学医学部卒業 平成 元 年 6 月  仙台社会保険病院外科研修 平成 4 年 4 月  東北大学医学部胸部外科医員 平成 11 年 1 月  平成 10 年度東北大学医学部奨学賞銀賞受賞 平成 14 年 4 月  東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座心臓血管外科分野助手 平成 16 年 2 月  東北大学病院心臓血管外科講師 平成 16 年 4 月  独立行政法人国立病院機構仙台医療センター心臓血管外科医師 平成 18 年 4 月  独立行政法人国立病院機構仙台医療センター心臓血管外科医長 平成 24 年 9 月  宮城県栗原保健所保健医療監兼技術次長 平成 25 年 8 月  宮城県栗原保健所保健医療監兼保健所長 平成 26 年 4 月  宮城県石巻保健所保健医療監兼保健所長 平成 29 年 4 月  宮城県塩釜保健所保健医療監兼保健所長 平成 30 年 4 月  宮城県保健福祉部技術参事兼塩釜保健所保健医療監兼保健所長 現在に至る 東北医誌 131 : 151-153, 2019

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152 櫻井 ─ 東日本大震災と結核 : 大規模災害の疫学研究 東北医誌 130 : 000-000, 2018

髙橋記念賞受賞記念講演

東日本大震災と結核 : 大規模災害の疫学研究

Tuberculosis Infection after the Great East Japan Earthquake : Epidemiological Study 櫻  井  雅  浩 宮城県保健福祉部技術参事兼塩釜保健所長 背   景 2011年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は東北地 方に甚大な被害をもたらした.死者・行方不明者約 20,000人, 避 難 所 生 活 を 余 儀 な く さ れ た 住 民 約 400,000人であった.現在まで自然災害地域で結核が 蔓延した報告は極めて少ない.そこで,東日本大震災 発災前後の宮城県の結核患者数動向を調査し自然災害 と結核の関係を明らかにした. 対象と方法 2009∼2016 年の宮城県登録の全結核患者(肺結核, 肺外結核,潜在性結核菌感染症 : LTBI)を年度ごと に集計した.2009+2010 年を前震災期,2011+2012 年を震災後早期,2013+2014 年を震災後中期,2015+ 2016年を震災後後期とした.さらに仙台市を含む宮 城県南部地域を宮城県南部,それ以北を宮城県北部と し,それぞれを内陸部と沿岸部に分けて調査した.ま た LTBI 患者は避難所内接触感染の有無を調査した. 罹患率は人口 10 万人あたりとした. 結   果 宮城県南部では内陸部,沿岸部共に東日本大震災前 後で全結核罹患率に有意な変化は認められなかった. 一方,宮城県北部では全結核罹患率は震災後早期で有 意に増加していた (11.6 vs 16.4 p<0.001).また宮城 県北部内陸部では震災前後で全結核罹患率に有意な変 化は認められなかったが宮城県北部沿岸部で全結核罹 患 率 は 震 災 後 早 期 に 有 意 に 増 加 し た (9.6 vs 19.1 p<0.001).その中で肺外結核(1.0 vs 2.9 p<0.003), LTBI (1.8 vs 8.2 p<0.001)の 罹患率が有意に増加して いた.10 歳ごとの年齢層別検討ではどの年齢層にも 罹患率に有意差は認められなかった.LTBI と診断さ れた全患者のうち避難所内接触感染患者は北部沿岸部 で は 11 人 で あ り, 北 部 内 陸 部 で は 0 人 で あ っ た (OR : 19.31, 95% CI 1.11∼334.80). 接触者検診では 内陸・沿岸部共に患者一人あたりの検診者数に有意差 はなかった. 震災後中期,宮城県北部沿岸部の全結核罹患率は震 災後早期罹患率と有意差を認めず LTBI 罹患率のみが 有意に減少していた (8.2 vs 6.8 p=0.032) .前震災期 と比較すると全結核 (9.6 vs 15.7 p<0.001),肺外結核 (1.0 vs 3.2 p<0.003),LTBI (1.8 vs 6.8 p<0.001)の罹 患率は有意に多かった.10 歳ごとの年齢層別検討で はどの年齢層にも罹患率に有意差は認められなかっ た.接触者検診では震災後早期と中期での患者一人あ たりの検診者数に有意差はなかった. 震災後後期,宮城県北部沿岸部の全結核罹患率は震 災後早期より有意に減少した (19.1 vs 13.6 p=0.003). また肺外結核(2.9 vs 1.5 p=0.018),LTBI (8.2 vs 4.6 p=0.001)の罹患率も有意に減少した.一方,前震災 期と比較すると全結核(9.6 vs 13.6 p<0.001), LTBI (1.8 vs 4.6 p=0.001)の 罹患率が有意に多かった.10 歳ごとの年齢層別検討ではどの年齢層にも罹患率に有 意差は認められなかった.接触者検診では震災後早期・ 中期と震災後後期での患者一人あたりの検診者数に有 意差はなかった.訪問 DOTS(服薬確認)では震災後 早期・中期と震災後後期での患者一人あたりの訪問数 に有意差はなかった. 考   察 世界の先進国の結核罹患率は人口 10 万人あたり概 ね 10 人未満だが,日本では 17.7 人(2011 年)であっ た.一方宮城県の結核罹患率は 9.8 人(2011 年)で結 核対策が進んだ地域と考えられていたが,東日本大震 災後宮城県北部沿岸部で結核の蔓延が起こった.これ まで軍事紛争地域では結核の蔓延が起こることは度々

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櫻井 ─ 東日本大震災と結核 : 大規模災害の疫学研究 153 報告されているが,自然災害地域で結核が蔓延した報 告は極めて少ない.Kimbrough らは,紛争地域の難民 キャンプは同時的多発的避難による人口過密状態と軍 事紛争地域のための医療からの孤立によって結核の蔓 延が起こる,と報告した1).一方,自然災害では所謂「過 密と孤立」が成立しにくいため結核の蔓延は起こらな いとされてきた1).本研究では北部沿岸部において, 避難所内住民が内陸部に比べ 6 ヶ月以上有意に多かっ たこと,避難所での一人あたりの専有面積が UNHCR の推奨する3.5 m2より少ない2 m2であったこと,鉄道・ 道路が長期間寸断されたこと等から「過密と孤立」が 成立し結核が蔓延したと考えられた.さらに避難所で の LTBI 罹患率が有意に高かったことから,震災直後 の避難所入所は結核感染の危険因子の一つであること が証明され,東日本大震災直後は結核が蔓延しやすい 環境にあったと推定された2).東日本大震災の様な広 範囲で長期間にわたる自然災害の場合,結核の蔓延を 考慮するべきである. 震災後中期では北部沿岸部の医療機関の再建は進 み,物流は再開され,ほとんどの住民が避難所を退去 したが結核罹患率は震災後早期に比べ有意な減少を認 めなかった.Tigani らはコソボ紛争(1998∼1999 年)後, 結核罹患率が減少するまで数年を要した事から,戦争 による結核感染への影響は停戦後直ちに減少するもの では無いと報告した3).本研究でも東日本大震災の様 な災害後は,結核感染の影響から脱するには数年を要 すると考えられた4) 震災後後期では宮城県北部沿岸部の全結核罹患率は 震災後早期より有意に減少したが,前震災期に比べ有 意に多かった.Hill らは交通網整備による医療機関へ のアクセス向上が結核治療を促し,罹患率を低下させ る可能性があると報告した5).2015 年は三陸道が桃生 まで片側二車線化され交通量が 20% 増加した.さら に同年仙石東北ライン開業で JR 石巻駅の利用客数は 前震災期まで回復した6).これらの結果から交通網の 拡充整備が結核罹患率を震災後早期に比べ減少させた と考えられた.さらに接触者検診や訪問 DOTS は前 震災期と同様に行われており宮城県の継続的な結核対 策が効奏したと考えられた6).しかしながら宮城県北 部沿岸部の結核罹患率は未だ前震災期まで回復してお らず,引き続き観察が必要であると考えられた. 謝   辞 高橋記念賞受賞にあたり御推薦いただいた東北大学 総合地域医療教育支援部教授 石井 正先生,結核全 般について御指導いただいた宮城県保健所長会,宮城 県結核審査会,各医師会の諸先生方,並びに関係各位 に深く感謝の意を表します. 文   献

1) Kimbrough, W., Saliba, V., Dahab, M., et al. (2012)  The burden of tuberculosis in crisis-affected

popula-tions : a systematic review. Lancet Infect. Dis., 12, 950-965.

2) Sakurai, M., Takahashi, T., Ohuchi, M., et al. (2016)  Increasing incidence of tuberculosis infection in the coastal region of northern Miyagi after the Great East Japan Earthquake. Tohoku J. Exp. Med., 238, 178-195.

3) Tigani, B., Kurhasani, X., Adams, L.V., et al. (2008)  Dots implementation in apost-war United Nations

-administered territory : Lessons from Kosovo. Respr.

Med., 102, 121-127.

4) Sakurai, M., Takahashi, T., Ohuchi, M., et al. (2017)  Midterm-stage follow-up for tuberculosis infection

along the coastal region of Norther Miyagi Dier the Great East Japan Earthquake.  J. Infect. Dis. Ther., 5, 342.

5) Hill, L., Blumberg, E., Sipan, C., et al. (2010) Multi

-level barriers to LTBI treatment : a research note. J.

Immigr. Minor. Health, 12, 544-550.

6) Sakurai, M., Takahashi, T., Ohuchi, M., et al. (2018)  Prevalence of tuberculosis after the Great East Japan Earthquake : Late-Stage Follow-Up in the Coastal

Region of Northern Miyagi. J. Infect. Dis. Ther., 6, 368.

参照

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