• 検索結果がありません。

治水安全度を考慮した洪水・高潮リスク評価

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "治水安全度を考慮した洪水・高潮リスク評価"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

治水安全度を考慮した洪水・高潮リスク評価

著者

田中 裕夏子, 風間 聡, 多田 毅, 山下 毅, 小森

大輔

雑誌名

水工学論文集 = Annual journal of hydraulic

engineering, JSCE

75

2

ページ

I_109-I_114

発行年

2019-11

URL

http://hdl.handle.net/10097/00130922

doi: 10.2208/jscejhe.75.2_I_109

(2)

治水安全度を考慮した洪水・高潮リスク評価

田中 裕夏子

1

・風間 聡

2

・多田 毅

3

・山下 毅

4

・小森 大輔

2 1正会員 日本工営株式会社 海外事業本部交通・都市事業部上下水道部 (〒102-0073 東京都千代田区九段北1-14-6)E-mail: [email protected] 2正会員 東北大学大学院 工学研究科土木工学専攻(〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-06) 3正会員 防衛大学校 建設環境工学科(〒239-8686 神奈川県横須賀市走水1-10-20) 4非会員 東北大学情報部情報基盤課(〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3) 洪水,高潮それぞれの単独災害ならびに洪水と高潮の複合災害に着目し,被害額の分布を定量的に地図 の形に示した.洪水・高潮複合災害の要因を低気圧と仮定し,年最小気圧と日降水量,年最小気圧と潮位 偏差の関係性から複合災害を引き起こす日降水量と潮位を求めた.日降水量を入力値,潮位を境界条件と して二次元不定流モデルに与え浸水深を算出し,浸水深をもとに被害額を算定した.日本全土における洪 水の年平均期待被害額は4 兆402 億円/年,高潮の年平均期待被害額は4 兆431 億円/年,洪水・高潮複合災 害の年平均期待被害額は3 兆8854 億円/年となった.洪水,高潮の単独災害と洪水・高潮複合災害の被害 額を県別に比較すると,沖縄を除く46都道府県のうち31都道府県において洪水単独災害による被害額が最 大となった.

Key Words : flood, storm surge, tide level deviation, flood control facilities

1. 序論

近年,地球温暖化に伴う気候変動及びその緩和策・適 応策に社会の関心が寄せられている.IPCCの第5次評価 報告書によると,温室効果ガスの継続的な排出は更なる 温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化 をもたらし,人々や生態系に対して不可逆的な影響を生 じる可能性が高まると評されている1).また,IPCC の第 4 次評価報告書は,温暖化の緩和策には限界があり,適 切な緩和策を構築・実行したとしても,気温の上昇は数 世紀続くと指摘している2) イギリスにおいて現在の治水整備レベルが維持される 場合に,将来の気候変動により洪水による年期待被害額 が 50%~150%増加すると予測されている 3).これに対

しイギリス環境庁は Adapting to Climate Change: Advice for Flood and Coastal Erosion Risk Management Authorities を発出し, 河川流域別の将来(2099年まで)の洪水流量変化等の考 慮手法を定量的に提示した 4).またオランダは,気候変

動の影響によるライン川の河川流量の増大に対し,堤防 の嵩上げに加え河道を拡大するための施策である Room for the River を実施した.さらに Flooding Defence Act により 護岸構造に関する安全基準を 5 年毎に改定することとな っており,結果的に 5 年毎に気候変動に関する最新の見 識を洪水護岸構造の設計に反映できる仕組みとなってい る5) 日本においても地球温暖化の影響による水災害リスク の増加が示唆されている.気象庁・気象研究所の地域気 候モデルによると,21 世紀末における超過確率 1/100 の 日降水量は,現在に比べ全国的に 20%程増加すると展望 されている6).また有働らは,21 世紀末における日本沿 岸部の平均水位は,最悪のシナリオにおいて 0.3 m 上昇 すると推定した7).さらに Oouchi らは,温暖化実験にお いて,最大風速が 45 m/s を超える台風の頻度は現在気候 より増加すると推定した 8).規模の大きい台風頻度の増 加により,将来的に台風に伴う洪水や高潮,あるいはそ れらの複合水災害が増加すると予測される. 今後,日本の国全体の治水レベルを上げるため,日 本全土を対象としたあらゆる適応策に関する考察が必要 となる.その考察にあたり日本全土を対象とした洪水, 高潮,ならびに複合水災害の被害額推定とそれらのリス ク比較が必要である.既往研究として,秋間らは洪水, 高潮,ならびに洪水・高潮複合災害の被害額を日本全土 において推定し3つのリスクの比較を行った9).しかし, この研究は潮位の時間変動を考慮しておらず,氾濫計算 に構造物による治水効果を反映させていない.本研究は, より実現象に即した洪水,高潮,ならびに洪水・高潮複

(3)

合災害の被害額を定量的かつ都道府県別に評価し比較す ることを目的とする.

2. データセット

(1) 洪水単独災害における日降水量データ 洪水の単独的に発生する災害を引き起こす要因となる 降水量のデータとして,手塚らにより集水面積と流出係 数の関係から算出された超過確率1/200~1/5の洪水を生 じる降雨分布を使用した10).集水面積と流出係数の関係 は,全国109の一級水系における集水面積,超過確率ご との降雨,ならびに過去40年にわたり観測された年最大 日流量のデータを用いて導かれた.この降雨分布は,全 国の任意の地点において各超過確率の洪水が生じるよう に作成された. (2) 高潮単独災害における潮位データ 高潮の単独的に発生する災害を引き起こす要因となる 潮位のデータとして,秋間らにより作成された超過確率 1/200~1/10の潮位偏差のデータを使用した9).各超過確 率の潮位偏差の算出にあたり,全国59の観測地点におい て,1997年から2012年にわたり観測された潮位偏差デー タを用いた.また,この解析にあたり,確率分布型とし てGEV (Generalized Extreme Value)分布,母数推定法と してPWM(Probability Weight Moment)法を用いた.高潮 氾濫モデル上において潮位の時系列変化を考慮できるよ うに,時間的に変動する潮位データを作成した.まず初 めに,近年において被害の報告された高潮のうち最も被 害の大きい不知火台風(台風第18号 平成11年(1999年) 9月21日~9月25日)をモデルとして,潮位偏差の変動パ ターンを作成した.このパターンは,被災地域に最も近 い観測地点である三角において観測された毎時偏差デー タについて,偏差過高を観測した1999年9月24日午前6時 の前後12時間分を抽出し,ピーク値に対する各時間の値 の割合を算出することより作成された.続いて,全国の 59の各観測地点における超過確率1/200~1/10の潮位偏差 データを,上記の潮位偏差の変動パターンの最大値にそ れぞれ代入し,各超過確率における潮位偏差の時系列デ ータを作成した.次に,全国各地のデータについて,時 間変動する潮位偏差と年平均潮位の和により,時系列変 化を考慮した高潮の潮位を得た.なお本研究は,潮汐の 影響を排除するために年平均潮位と潮位偏差の和を潮位 として使用することとした.最後に,この観測地点ごと の潮位データを逆距離荷重法を用いた内挿により日本全 土に分布させ,氾濫計算の際に入力する潮位のデータと した. (3) 洪水・高潮複合災害における入力データ 沿岸域において,洪水と高潮は複合的に発生する可能 性がある.以下,洪水と高潮が同時刻に生起した災害を 複合災害と定義する.この複合災害は台風や爆弾低気圧 などにより発生することが多いことから,洪水・高潮複 合災害を引き起こす原因を低気圧とした.そしてその低 気圧を原因とした降雨による洪水と海面の上昇による高 潮の発生によって被害が生じるとした.この仮定に基づ き,複合災害の発生確率を,その複合災害を引き起こす 降水量と潮位を求めるもととなった気圧の超過確率によ り表現した.なお実際に,気圧と降水量の間には関係が あることが示されており11),また低気圧には,周囲との 気圧の差により海水を吸い上げる効果と強風によって海 水を海岸に吹き寄せる効果があり,それによって潮位が 上昇することも知られている12) a) 気圧の超過確率における日降水量データ 複合災害を引き起こす要因となる降水量のデータとし て,秋間らにより年最小気圧と日降水量の関係から算出 された超過確率1/200~1/10の日降水量のデータを使用し た9).気圧と降水量の関係は,全国143の気象観測地点に おいて1961年から2012年にわたり観測された計52年分の 年最小気圧および年最小気圧観測日の前後一日の最大日 降水量に関する最小二乗法を用いた単回帰分析により求 められた.年最小気圧―日降水量の決定係数は0.00~ 0.65と算出された.また,確率分布として一般化極値分 布であるGEV分布,その母数推定法としてPWM法を用 いた頻度解析により各超過確率における気圧極値を求め た.続いてこの気圧極値を上記の気圧と日降水量の関係 式に代入することにより複合災害の各超過確率に対応す る降水量を求めた.最後に,この観測地点ごとの日降水 量データを逆距離荷重法を用いた内挿により日本全土に 分布させ,氾濫計算の際に入力する降水量のデータとし た. b) 気圧の超過確率における潮位データ 複合災害を引き起こす要因となる潮位のデータとして, 秋間らにより年最小気圧と潮位偏差の関係から算出され た超過確率1/200~1/10の潮位偏差のデータを使用した9) 気圧と潮位偏差の関係は,全国59の潮位観測地点におい て1997年から2012年にわたり観測された計16年分の年最 小気圧および年最小気圧観測日の前後一日の最大潮位偏 差に関する最小二乗法を用いた単回帰分析により求めら れた.年最小気圧―潮位偏差の決定係数は0.01~0.79と 算出された.また,日降水量データと同様に頻度解析に より求められた気圧極値を上記の気圧と潮位偏差の関係 式に代入することにより複合災害の各超過確率に対応す る潮位偏差を求めた. 洪水・高潮氾濫モデル上において潮位の時系列変化を

(4)

考慮できるように,時間的に変動する潮位データを作成 した.高潮単独災害における潮位データと同様に,不知 火台風をモデルとした潮位偏差の変動パターンの最大値 に全国の59の各観測地点における超過確率1/200~1/10の 潮位偏差データをそれぞれ代入し,各超過確率における 潮位偏差の時系列データを作成した.次に,全国各地の データについて,時間変動する潮位偏差と年平均潮位の 和により,時系列変化を考慮した洪水・高潮複合災害の 要因となる潮位を得た.高潮単独災害における潮位デー タと同様に,潮汐の影響を排除するために年平均潮位と 潮位偏差の和を潮位として使用することとした.最後に, この観測地点ごとの潮位データを逆距離荷重法を用いた 内挿により日本全土に分布させ,氾濫計算の際に入力す る潮位のデータとした.図-1に,複合災害の入力値とし た潮位のデータの作成方法の概略を示す. (4) 水系の計画規模データ 氾濫解析における河川構造物の治水効果の考慮に利用 する水系別計画規模データとして,全国109の一級水系 において作成された河川整備基本方針の計画規模を使用 した13) (5) 河川の区間種別データ 氾濫解析における河川構造物の治水効果の考慮に利用 する河川の区間種別データとして,国土数値情報のKS-META-W05-06~09データに格納された線状の区間種別 (平成18~21年度版)を使用した14) (6) 海岸構造物データ 氾濫解析における海岸構造物の治水効果の考慮に利用 する海岸構造物データとして,国土数値情報のKS-META-P23-12データに格納された点および線状の天端高 最大(現況)(平成24年度版)を使用した14)

3. 解析手法

(1) 洪水・高潮氾濫解析 洪水,高潮ならびに洪水・高潮氾濫計算において,浸 水深算出のために二次元不定流モデルを用いた15).なお 本研究は,この二次元不定流モデルにおける運動方程式 を直交する二方向において立て,また,家屋を流体が進 入しない領域と仮定し,運動方程式において家屋の抵抗 を考慮することとした. マニングの粗度係数は,水理公式集16)を参考に,土地利 用に応じて異なる値を設定した.また,土地利用が建物 用地の場合,家屋占有率0.411,家屋の平均寸法14.941m とし運動方程式において家屋の抵抗を考慮した17).また, 家屋を正方形と想定し 家屋の付加質量係数 2.0,家屋 の抗力係数1.0とした17) 洪水単独災害において日降水量を入力値とした氾濫計 算により浸水深を算出した.降雨は計算開始から24時間 後まで一定量続き,それ以降に降雨はないとする条件に おいて洪水単独災害による浸水深の算出を行った. 高潮単独災害において潮位の時系列変化を境界条件と した氾濫計算により浸水深を算出した.このモデルは, 1時間間隔の潮位データを線形補間して1秒間隔の潮位デ ータにし,境界条件として潮位を与えることができる. 潮位に計算開始から24時間後まで低気圧による潮位偏差 の変動があり,それ以降に年平均潮位が続くとする条件 において高潮単独災害による浸水深の算出を行った. 洪水・高潮複合災害において日降水量を入力値,潮位 の時系列変化を境界条件とした氾濫計算により浸水深を 算出した.降雨は洪水単独災害と同様の条件,潮位は高 潮単独災害と同様の条件において洪水・高潮複合災害に よる浸水深の算出を行った. (2) 被害額推定 治水経済調査マニュアル(案)18)を参考に,土地利用 に応じた被害額単価や浸水深に対応した被害率の設定を 行った.各災害の被害額を氾濫解析により算出された浸 水深と土地利用ごとに設定した被害率と被害額単価をも とに推定した.浸水深ならびに被害額の計算の空間解像 度を5次メッシュ(約250 m 四方)とした. (4) 治水構造物の考慮 河川構造物の治水効果を疑似的に氾濫計算に反映させ るため,まず初めに水系毎の計画規模13)と河川の区間種 別のデータ14)を用いて区間毎の治水安全度を設定した. 日本における治水構造物は未だ整備途中であることを加 味し整備率50 %と仮定して,治水安全度を一級河川直轄 区間において計画規模の半分,一級河川指定区間におい 図-1 複合災害における潮位のデータの作成方法

(5)

て一級河川直轄区間の半分,一級水系の一級河川以外の 区間において一級河川指定区間の半分,二級河川におい て1/10,二級水系の二級河川以外の区間において1/5と設 定した.次に,超過確率1/5~1/100の洪水を安全に流下 させるために必要な河道の掘り下げ深さを算出した.河 道を深く掘り下げた条件において各超過確率の洪水単独 災害の氾濫計算を行い,その結果から得られた河道にお ける浸水深を各超過確率の洪水を安全に流下させるため に必要な河道の掘り下げ深さとした.続いて,区間毎に 設定した治水安全度に応じて,上記で求めた各超過確率 の洪水を安全に流下させるために必要な河道の掘り下げ 深さを振り分けた.一方,海岸構造物の治水効果を疑似 的に氾濫計算に反映させるため海岸保全施設の天端高デ ータを使用した.最後に,河道の標高を区間別の治水安 全度の洪水を安全に流下させる掘り下げ深さに応じて下 げ,海岸の標高を天端高の値に応じて下げた条件におい て氾濫計算を行った.これにより,区間により治水安全 度の異なる現状を反映したうえで河川構造物による洪水 調節効果を考慮し,同時に海岸構造物による高潮防御効 果も加味した氾濫計算が可能となる.図-2に,治水構造 物の考慮方法の概念図を示す. (5) 複合災害推定被害額の検証 以上の洪水・高潮複合災害の被害額推定手法の実現象 の再現性について検証した.検証に用いた事例は,1959 年に潮岬に上陸し,愛知県,三重県を中心に甚大な被害 を及ぼした伊勢湾台風である.伊勢湾台風発生当時の愛 知県と三重県における被害額は5050億円,潮岬上陸時の 気圧は930hPa,名古屋における降水量は131mm/day,潮 位偏差は350cmとされている19).被害額の比較にあたり, 1959年の被害額の価値を現在の価値に補正する必要があ る.両者の名目GDPを用いて,以下の式 (2) により1959 年の被害額を現在の価値に補正した.

𝐴𝐷 = 𝐵𝐷 ×

𝐺𝐷𝑃𝐶 𝐺𝐷𝑃𝑃 (2) ここで,𝐴𝐷:補正後の被害額,𝐵𝐷:補正前の被害額 (1959年当時の被害額),𝐺𝐷𝑃𝑃:1955年から1964年の 名目GDPの平均値,𝐺𝐷𝑃𝐶:2003年から2012年の名目 GDPの平均値である.内閣府国民経済計算によると, 𝐺𝐷𝑃𝑃は,17兆円,𝐺𝐷𝑃𝐶は,492兆円と算出された.

4. 結果・考察

(1) 洪水単独災害 治水構造物による効果を考慮し超過確率1/200~1/10の 洪水単独災害の氾濫解析を行い,被害額を推定した.そ の結果から超過確率と被害額の関係,すなわちリスクカ ーブを構築した.リスクカーブの下の面積の積分により 得られる洪水単独災害の年期待被害額の日本総計値は4 兆402 億円/年と推定された.洪水単独災害被害額の日 本総計値に関するリスクカーブを図-3に,リスクカーブ の積分から得られる都道府県別の年期待被害額のうち主 要5都道府県のものを表-1に示す. (2) 高潮単独災害 治水構造物による効果を考慮し超過確率1/200~1/10の 高潮単独災害の氾濫解析からリスクカーブを構築した. リスクカーブの下の面積の積分により得られる高潮単独 災害の年期待被害額の日本総計値は4 兆431 億円/年と 推定された.高潮単独災害被害額の日本総計値に関する リスクカーブを図-3に,リスクカーブの積分から得られ る都道府県別の年期待被害額のうち主要5都道府県のも のを表-1に示す. 図-2 治水構造物の考慮方法 図-3 各災害の超過確率と被害額の関係 表-1 各災害の年期待被害額 都道府県 北海道 1,810 179 336 東京都 2,026 3,358 2,957 神奈川県 2,240 1,746 2,175 愛知県 3,600 8,388 7,078 大阪府 3,333 5,347 4,937 全国計 40,402 40,431 38,854 年期待被害額 (億円) 洪水単独 高潮単独 洪水・高潮複合

(6)

(3) 洪水・高潮複合災害 治水構造物による効果を考慮し超過確率1/200~1/10の 複合災害の氾濫解析からリスクカーブを構築した.リス クカーブの下の面積の積分により得られる洪水・高潮複 合災害の年期待被害額の日本総計値は3 兆8854 億円/年 と推定された.複合災害被害額の日本総計値に関するリ スクカーブを図-3に,リスクカーブの積分から得られる 都道府県別の年期待被害額のうち主要5都道府県のもの を表-1に示す. 潮岬気象台における低気圧の頻度解析の結果,930 hPa の低気圧の超過確率は 1/500 から 1/200 であった.また, 本研究の手法により推定された名古屋において超過確率 1/200 と 1/500 の複合災害を引き起こしうる降水量は115 mm/dayと131 mm/day,潮位偏差は360 cmと384 cmであっ た.前述の伊勢湾台風発生時に観測された降水量と潮位 偏差との比較により本研究の複合災害を引き起こす外力 の推定手法の妥当性が示された. 愛知県と三重県における複合災害の被害額は超過確率 1/200で11.0 兆円,1/500で12.2 兆円と推定された.一方, 式(2)から伊勢湾台風の現在価値における被害額はおよ そ15.8 兆円と算出された.両者は同じオーダーであり, 本研究の複合災害被害額は,概ね実現象を再現している と考えられる. (4) 各種水災害リスクの比較 各災害の年平均期待被害額は洪水単独災害において4 兆402 億円/年,高潮単独災害において4 兆431 億円/年, 洪水・高潮複合災害において3 兆8854 億円/年と推定さ れた.日本全土の総被害額を評価すると,複合災害より 単独災害の被害リスクが大きくなると推定された.この 原因として,洪水や高潮の単独災害において入力データ として用いた降水量や潮位に比べ,複合災害を引き起こ す降水量と潮位は小さく推定されたことが挙げられる. 超過確率1/50の災害を例にとると,洪水単独災害におけ る日降水量の全国平均値は252 mm/day,高潮単独災害に おける潮位偏差の最大値の全国平均値は113 cmと算出さ れた.これに対し,複合災害における日降水量の全国平 均値は105 mm/day,潮位偏差の全国平均値は73 cmとなり, 単独災害と比べ,複合災害を引き起こす外力のほうが小 さく算出された. 洪水,高潮,複合災害の被害額を都道府県ごとに比 較し,他の2つと比べて大きいと算定された災害を抽出 し,日本地図にまとめたものを図-4に示す.シミュレー ション対象外の沖縄県を除いた46都道府県中,31都道府 県において洪水単独災害による被害が他の2災害と比べ て大きいと推定された.高潮単独災害による被害が他の 2災害と比べて大きいと推定されたのは14都府県であっ た.複合災害による被害が他の2災害と比べて大きいと 推定されたのは千葉県のみであった.この結果により単 独災害にのみ焦点を当て治水整備をする従来の治水計画 の方法の不十分さが示唆された.

5. 結論

本研究は洪水・高潮の複合災害被害をより詳細に算定 する手法を提案し,以下の結論を得た. 1) 年平均期待被害額の日本総計値は,洪水単独災害 に関して4 兆402 億円/年,高潮単独災害に関して4 兆431 億円/年,洪水・高潮複合災害に関して3 兆 8854 億円/年となる. 2) 伊勢湾台風の被害事例を用いて検証したところ, 複合災害被害額の推定手法は概ね実現象を再現し ている事が確認された. 3) 各災害の年平均期待被害額を都道府県ごとに比較 すると,31都道府県において洪水単独災害による 被害額が最大,14都府県において高潮単独災害に よる被害額が最大,千葉県のみにおいて複合災害 による被害額が最大となる. 洪水単独,高潮単独,洪水・高潮複合災害の年平均期 待被害額を推定し,3災害のうちリスクが最大となるも のを都道府県ごとに抽出した.図-4にみられるようにリ スクが最大となる災害は都道府県ごとに異なるため,各 地域に応じた治水整備方法の検討をするべきである.ま た,千葉県において複合災害によるリスクが最大となる ことから,河川整備と海岸保全について別個に対策をす る従来の治水対策の枠組みの限界が示唆される.地球温 暖化に伴う気候変動により水災害リスクの増加の懸念さ れる昨今の状況を鑑み,今後の更なる水防災関連の施策 の必要性に対する認識が広まりつつある.限りある物 的・人的資源を最大限に有効活用し今後の治水対策を効 率的に行うため,柔軟かつ横断的な取り組みが推進され ることを希望する. 図-4 最大の被害をもたらす災害の種類

(7)

謝辞:本研究は,(独)環境再生保全機構の環境研究総 合推進費(S-14)と気候変動適応技術社会実装プログラ ム(SI-CAT),およびSATREPSによるADAP-Tの支援に より実施された.また,本研究の公表について澤本正樹 研究発表奨励金の援助を受けた.加えて本研究の計算結 果の一部は,東北大学サイバーサイエンスセンター大規 模科学計算システムを利用して得られた.プログラムの 高速化および並列化にあたり,同センター関係各位に有 益なご指導とご協力をいただいた.ここに記して,感謝 の意を示す. 参考文献 1) 環境省,地球環境局:気候変動に関する政府間パネル (IPCC)第 5 次評価報告書統合報告書,政策決定者向け要 約,2014. 2) 経済産業省,気象庁,環境省:IPCC 第 4 次評価報告書統合 報告書政策決定者向け要約,pp.1-24,2007.

3) Sayers P.B, Horritt M, Penning-Rowsell E, McKenzie A: Climate Change Risk Assessment 2017: Projections of fu-ture flood risk in the UK. Research undertaken by Sayers and Partners on behalf of the Committee on Climate Change. Published by Committee on Climate Change, London, 2015. 4) 国土交通省 国土技術政策総合研究所 気候変動適応研究 本部:気候変動適応策に関する研究(中間報告),国総研 資料 第 749号,pp.II-168-II-172,2013. 5) 尾関敏久,三石真也,水草浩一:海外の水分野における気 候変動への適応策の動向,土木技術資料 51-10,2009. 6) 和田一範,村瀬勝彦,冨澤洋介:地球温暖化に伴う降雨特 性の変化と洪水・渇水リスクの評価に関する研究,土木学 会論文集,No.796/II-72,pp.23-37,2005. 7) 有働恵子,武田百合子,吉田惇,真野明:日本の干潟にお ける過去の長期面積変化特性と海面上昇による将来の浸食 予測,土木学会論文集,Vol.69,No.5,pp.239-247,2013.

8) Kazuyoshi OOUCHI, Jun YOSHIMURA, Hiromasa YOSHIMURA, Ryo MIZUTA, Shoji KUSUNOKI, Akira NODA : Tropical Cyclone Climatology in a Global-Warming Climate as Simulated in a 20 km-Mesh Global Atmospheric Model: Frequency and Wind Intensity Anal-yses, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 84, No. 2, pp.259--276, 2006. 9) 秋間将宏,風間聡,小森大輔:再現確率にもとづく洪水氾 濫・高潮複合災害潜在被害額推定,水工学論文集 B1(水工 学),Vol.72,No.4,pp.I_1267-I_1272,2016. 10) 手塚翔也,小野桂介,風間聡,小森大輔:極値降雨,流出 量に基づく洪水被害推定およびその将来変化,土木学会論 文集,Vol.70,No.4,pp.1501-1506,2014. 11) 佐久間理絵,加藤央之:気圧パターンの統計ダウンスケー リングから見た九州地方の降水出現率,日本大学文理学部 自然科学研究所研究紀要,No.54,pp.103-121,2019. 12) 国土交通省気象庁:台風に伴う高潮, http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/4-1.html. (2017 年 2月 6日アクセス) 13) 国土交通省,河川整備基本方針: http://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/index. html.(2018 年から継続的にアクセス) 14) 国 土 交 通 省 国 土 数 値 情 報 ダ ウ ン ロ ー ド サ ー ビ ス : http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/(2014 年から継続的にアクセス) 15) 町田宗一郎,川越清樹,風間聡,沢本正樹,横木裕宗,安 原一哉:地球温暖化に伴う全国の浸水被害額評価,地球環 境シンポジウム講演論文集,vol.15,pp.155-160,2007. 16) 土木学会:水理公式集[平成 11 年度版],丸善,89p,1999. 17) 風間聡,長尾昌朋,武藤裕則,多田毅:土地利用を考慮し た氾濫水理解析と予測,平成 16 年度河川懇談会共同研究資 料,117p,2005. 18) 国土交通省河川局:治水経済調査マニュアル(案),2005. 19) 日本建築学会:伊勢湾台風災害調査報告,20p,1961.

ASSESSMENT OF THE RISK ON FLOOD AND STORM SURGE

WITH FLOOD CONTROL FACILITIES

Yukako TANAKA, So KAZAMA, Tsuyoshi TADA, Takeshi YAMASHITA and

Daisuke KOMORI

This study makes the simulation of a compound disaster involving flood and storm surge and evaluates the damage cost for the disaster in Japan. The tide level and daily rainfall, which cause the compound disasters, are calculated by means of frequency analysis for annual minimum atmospheric pressure. 2D non-uniform flow model expressing the inundation depth is carried out using the tide level data on coastline and daily rainfall distribution interpolated as input data. Damage cost is estimated using the inundation depth by each land use. The annual expected damage cost of flood in whole Japan is 4.04 trillion JPY, that of storm surge is 4.04 trillion JPY, and that of compound disaster is 3.89 trillion JPY. In 31 prefectures out of 46 prefectures except for Okinawa prefecture of Japan, the damage cost of only flood is larger than that of only storm surge and the compound disasters.

(Received May 31, 2019) (Accepted August 7, 2019)

参照

関連したドキュメント

断面が変化する個所には伸縮継目を設けるとともに、斜面部においては、継目部受け台とすべり止め

レッドゾーン 災害危険区域(出水等) と 浸水ハザードエリア※等を除外。 地すべり防止区域

これらの実証試験等の結果を踏まえて改良を重ね、安全性評価の結果も考慮し、図 4.13 に示すプロ トタイプ タイプ B

過去に発生した災害および被害の実情,河床上昇等を加味した水位予想に,

1.水害対策 (1)水力発電設備

各事業所の特異性を考慮し,防水壁の設置,排水ポンプの設置,機器のかさ

6.大雪、地震、津波、台風、洪水等の自然 災害、火災、停電、新型インフルエンザを

防災 “災害を未然に防⽌し、災害が発⽣した場合における 被害の拡⼤を防ぎ、及び災害の復旧を図ることをい う”