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夜間の屋外環境におけるグレアの評価について [ PDF

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Academic year: 2021

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42-1

夜間の屋外環境におけるグレアの評価について

田中 宏和 1.はじめに 近年、LED 照明は急速な技術の進歩に伴い、高出力 化、価格の低下、長寿命化しており、屋内屋外に関わ らず多く普及してきた。特に屋外では、街路、道路、 建築外構など幅広く LED 照明が使用されるようになっ てきている。しかし、LED ランプはその指向性や分光 分布が蛍光ランプとは違い、グレアを感じやすいとさ れている。青色 LED 光と黄色の蛍光体の組み合わせで 作られる補色型白色 LED 光は特定の波長の青色成分が 高い分光分布を有しているが、青色波長成分を多く有 する白色 LED 等に対するグレア評価はまだ構築されて いない。さらに、屋内よりも多様な分光分布をもつ照 明器具が使用される 屋外照明のグレア評価方法につ いても分光の要素が加味されたものは規定されていな いのが現状である。 色光の違いに関するグレアは、謝らにより緑が最も 感じにくく、青が最もグレアを感じやすいと報告され ている 1)。また、明石らにより、短波長側に多くのエ ネルギーを持っている光源の方が眩しく感じやすいこ とを報告している 2)。さらに近年、分光分布が異なる 種々の光源を用いて不快グレアの評価が行われている。 Bullough らは、それぞれピーク波長の違う 3 種類の光 源による実験結果より、桿体は不快グレアに寄与して おらず、短波長側にピーク感度を持つ S 錐体が不快グ レアに寄与していることを示唆している3) グレアが発生する原因として、角膜、硝子体、水晶 体などによる散乱光のため、眼球内で光膜が形成され 視対象が見えにくくなること、高輝度の光刺激によっ て網膜内の光受容体の反応が飽和してしまうこと、高 輝度の刺激により瞳孔が過度に縮小し、制御系の応答 が乱れる等が挙げられるが、波長によるグレア感覚の 違いが現れる可能性があると考えられる。 網膜上の光受容器として長波長に反応する L 錐体、 中波長に反応する M 錐体、短波長に反応する S 錐体が あり、それぞれのピーク波長は図1に示しているとお り、565nm、535nm、440nm であり、桿体のピーク波長 は 507nm である。また、図2に示すように錐体と桿体 の分布は中心窩からの位置の変化により密度が大きく 図1 各錐体、桿体の分光感度 図2 桿体(実線)と錐体(点線)の分布4) 変わっている。 本研究では、分光スペクトルの違う光源について波 長依存性の観点からさらにグレアを分析することを目 的に、グレア感覚が波長によって異なるかどうかを調 査するために行った。 2.グレアの波長性に関する実験 2.1 実験条件 実験は九州大学の環境学研究室内を消灯した状態で 行った。 実験には図3と図4の示すグレア計を使用した。両 図が示すように、グレア計は半径 28cm の半球ドームと キセノンランプ、水銀ランプからファイバーを繋いだ ものから構成されている。なお、内面は黒く塗装して 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 350 400 450 500 550 600 650 700 750

相対感度

波長 [nm]

S錐体 桿体 M錐体 L錐体

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42-2 ある。実験の間、注視するよう指定した点を設け、そ の位置とそこから右側 10°の偏心角の位置に円形の穴 を開け、ファイバーを設置できるようにした。被験者 はグレア計を覗き正面の注視点を見つつ 2 箇所の点か ら暴露される光に対するグレアを評価した。 グレア光源は水銀ランプ、キセノンランプから放射 された光を干渉フィルターによって取り出したものと した。また、グレア光源は円形であり、直径は 8mm、 被験者から見た立体角は約 0.0007sr である。グレア光 源の波長条件は S 錐体、M 錐体、L 錐体、桿体の分好感 度のピーク波長を考慮して、460nm、480nm、510nm、540nm、 570nm、600nm の 6 種類とした。参考として、波長 540nm の分光分布を図 5 に示す。 順応状態の違いによるグレア感を検討するため、被 験者の順応状態を暗所視、薄明視状態とし、実験を行 った。暗所視状態でのグレア計内部の輝度は 0cd/m2 あり、薄明視状態のグレア計内部の輝度は 0.05 cd/m2 に設定した。グレア内部の輝度は図4の低輝度条件用 光源の位置に白熱電球を設置し、調節することで設定 した。 また、実験の主観評価には表1に示す de Bour のグ レア評価尺度を用いた。これはグレアを 1,3,5,7,9 の 5 段階で表し、数値が小さいほど眩しいことを意味し ている5) 2.2 実験方法 実験の被験者は健康な大学生 6 名で平均年齢 23.8 歳 である。自己申告により、色覚異常の有無を確認した ところ、色覚に異常のあるものはいなかった。被験者 はそれぞれ裸眼 1 名、コンタクトレンズ着用者が 3 名、 メガネ着用者が 2 名であった。 実験の時間帯は夜間のグレアを想定し、19 時から開 始した。被験者はまずアイマスクを付け、薄明視条件 の実験前に 10 分間、暗所視条件の前には 30 分間ほど 安静にさせた。そのあと 5 分間グレア計の中を覗き順 応させた後、 ①比較的高輝度の光刺激を与える。 ②グレア光源の輝度を段階的に落として行き、被験者 は De Bour のグレア評価尺度を用い、3 の邪魔になる から 5 の許容できるという評価に移行した点を申告さ せた。この点をグレア評価基準輝度とした。 これをグレア光源の位置ごとに 2 回ずつ交互に行っ た。その後、被験者に申告させた点での輝度を測定し た。 図3 グレア計平面図 図4 グレア計断面図 図5 波長 540nm の分光分布 表1 de Bour のグレア評価尺度 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 380 480 580 680 780 1 耐えられない unbearable 3 邪魔になる disturbing 5 許容できる just admissible 7 あまり気にならない satisfactory 9 気にならない unnoticeable 波長(nm)

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42-3 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 400 450 500 550 600 650 中心 10° 2.3 実験結果 6 名から得られた薄明視状態と暗所視状態のグレア評 価基準輝度を表2に、またそれを平均したものに感覚 値として対数値をとったものを以下の図6と図7に示 す。 図6に示した通り、薄明視状態の場合 540nm 以上で はグレア評価基準輝度値にあまり変化がなく、波長を 変化させてもグレアは変化しない。一方、540nm より 短波長側の範囲では、より短波長に移行するに連れグ レアを感じやすいという結果が得られた。薄明視状態 の場合、グレア光源を注視点から 0°の位置と 10°離 れている位置に設置したものと比べると、あまり違い は出ていなかった。 また、図7には暗所視状態の輝度感覚値を示したが、 こちらは、図6の薄明視状態とほぼ一定だったのと同 様の傾向が出ている。薄明視状態での結果と比べると、 暗所視状態の方が、視点から 10°変化させたとき、よ りまぶしさを感じやすいという結果が示唆された。 また、薄明視、暗所視状態をそれぞれ中心、10°視 野ごとに比較したものを図8、図9に示す。 これらの実験結果では、どちらも暗所視状態の時、 薄明視状態の時よりもグレアを感じやすくなっている といった結果が出ている。これは暗所視になっている 状態では感度が上がっているためだと考えられる。 図 6 薄明視時のグレア評価基準輝度値 表2 それぞれのグレア評価基準輝度値(cd/m2 図7 暗所視時のグレア評価基準輝度 図8 グレア光源が視線上にある場合での グレア評価基準輝度 図9 グレア光源が視線から 10°の位置 でのグレア評価基準輝度 2.4 考察 図1に示すとおり、S 錐体、M 錐体、L 錐体それ ぞれのピーク波長は 440nm 付近、530nm 付近、560nm 付近である。また、桿体のピーク波長は 500nm 付 近である。実験結果では、短波長側で最もグレア 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 400 450 500 550 600 650 中心 10° 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 400 450 500 550 600 650 薄明視 暗所視 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 400 450 500 550 600 650 薄明視 暗所視 波長 460nm 480nm 510nm 540nm 570nm 600nm 薄 明 視 0° 1083 3307 9438 23632 13573 15753 10° 363 1578 5878 15758 9188 10658 暗 所 視 0° 560 1005 2204 5629 4140 6923 10° 45 228 1078 1498 886 2739 波長(nm) 波長(nm) 波長(nm) 波長(nm)

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42-4 感が高い結果が出ている。これらのことから S 錐体の グレアへの影響の可能性が考えられる。 既往研究の中で Fekete らは、注視点から上部に 5° 水平 0°、上部 5°水平 10°においてグレア感を調査 していたが6)、視線から上部 5°にグレア光源を設置し た場合では 510nm に最もグレアを感じにくい、視線か ら上部 5°水平 10°の場合 520nm~600nm 付近で最もグ レアを感じにくいという結果が示されていたが、今回 の場合、その結果と比べると、短波長側に行くに連れ、 グレアを感じるという結果は同様であるが、グレア評 価基準輝度が最も高くなった波長は異なっている。ま た、今回のグレア光源が視線から 10°離れた位置にあ る場合の実験結果では 600nm がグレアを感じにくいと いう結果が出ているが、これも Fekete らの実験結果と 傾向が異なっている。これは、グレアを感じにくい波 長がグレア光源の位置によって異なり、標準化できな いということが Fekete らにより示唆されていた。これ と同様に上部 5°移動することによって、グレアに関 する心理的要因や、光の散乱の仕方が変わり、グレア の感じ方が変わる可能性があると考えられる。 また、明石らは被験者を薄明視状態にさせ、ホワイ ト、アンバー、シアンの光源を用いて実験を行い、短 波長側に多くのエネルギーを持っている光源が最も不 快グレアに影響を与えることを示唆した。平手らは、 光色とグレア感に関する実験によって、被験者が明所 視状態の時、青色が最もグレア感が高く、次に高色温 度の白色光、黄色や赤の光や低色温度の白色光、最後 に緑といった順番でグレアの感じやすさを示した。明 石らの実験と今回の結果とほぼ同様の値が出ている。 これらのことから、順応状態に関わらず、540nm から 600nm 付近の緑、黄色といった光がグレアと感じにく くなり、短波長側の光はグレアを最も感じやすいとい う可能性が考えられる。 中心窩から 0°の位置では桿体がほとんど存在して おらず、M 錐体 L 錐体が分布している。一方、10°に なると M 錐体、L 錐体はほぼなくなり、桿体が大幅に 増加し S 錐体も点在している。今回視点から 10°離れ た位置においてすべて中心よりもグレアを感じやすい という結果が得られたのは、S 錐体がグレアに視点の 中心にグレアがある場合よりも視点から 10°離れた位 置からグレア光源を照射された場合の方が、光の散乱 が起こりやすくなっているため、目の中で散乱が起き たため、よりグレアを感じやすくったことが考えられ る。また、錐体よりも桿体がグレアに寄与しているこ とが考えられる。 グレアが起こる原因として、角膜、水晶体、硝子体 等による散乱光によって眼球の中で光幕が形成される ということが挙げられる。短波長成分においてグレア を感じやすい原因として、短波長成分は散乱をしやす いことも原因の 1 つとして考えられる。 3.まとめ 本研究で得られた知見を以下にまとめる。 薄明視状態、暗所視状態ともに、短波長の光がグレ アに影響を与えるということが示された。 また、540nm 以上の波長については、薄明視状態、 暗所視状態ともにグレアに関してあまり変化はしない ことが分かった。 暗所視時には、桿体の影響が大きく感度が高まるた め、グレアを感じやすくなり、視線から離れた位置で は、桿体の分布が増えるため、よりその傾向が顕著に なることが示唆された。 今回の実験は、単波長光について行ったが、白色 LED ランプ等の光源は多くの光が混ざり合った分光を持っ ているため、今後はいくつかの波長の光を混ぜた混色 光についての実験を行っていく必要があると考える。 謝辞 本研究は科学研究費補助金の基盤研究(B)(課題番 号 24360237)によった。記して謝意を表する。 参考文献 1) 謝 明 ,宗方 淳,平手 小太郎;光色の違いがグ レア感の評価と許容度に与える影響に関する研究、照 明学会誌89(11), 788-793, 2005-11-01 2) 明石行生;LED の不快グレア軽減のための機構モデ ルの構築、日本建築学会大会学術講演梗概集 2011,8 3)Bullough,J.,Fu,Z.,andJ.Van,Derlofske.Discomfor t and disability glare from halogen and HID headlanp systems,Advanced Lighting Technology for Vehicles,pp.1-5,(SAE paper 2002-01-0010)

4) 色彩工学第 2 版;大田 登

5)De Bour, J.B.1976.Transactions of the illuminating Society (London) 32:117

6)Judit Fekete ,Cecilia Sik-Lanyi and Janos Scheanda.Spectral discomfort glare sensitivity investigations,Ophthal.Physiol.Opt.2010 30:182- 187

参照

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