日 本 管 理 会 計学 会 誌
管埋会 計 学2000 年 第9巻 第1号
論 文
カ テ ゴ リー ・ マ ネ ジ メ ン トの 収益性 管理
小売店における陳列在庫管理 を支援する収益性管理モ デル の構築
三 田 洋 幸 *
〈論文要旨〉
近年の 小売業の経営は,置けば売れ る とい う売り手本位の発 想か ら脱 皮し,多様 化 し た消 費
ニ ーズ に応 じた買い 手 本 位の発 想へ 明確に転 換 すべ きである と言われ続 けてい る.た とえ ば,
い ち 早 く変 革の必 要 性に気づい たイ トーヨーカ堂は
,業 務 改 革の コ ンセ プ トを鮮明に打ち 出 し, 店 舗 運営の生産性向上 に成功し た と言わ れてい る.米 国に おい て も,ECR やカテゴ リー ・マ
ネジメ ン ト とい う方 法 論が提 唱さ れ, 消費者ニ ーズを満 足 する商 品陳列と流通/ 生産の生産性 向上 を同時に達成することの重要性が説か れ てい る.
構造転換に成 功 した小 売 業 者 もある一方で,依然として,低収 益に喘い でい る小売業者も多 く,全般 的に は,小売業者の収益 性は低 下の一路を辿っ てい る ようである.本 稿は, こ の よう な背 景の もとで,小 売 業 者の収 益 性の低 下 が,商 品の陳列在庫 管 理の不適 切さ に基因する所が 大きい 点に着目し,小売店に おける陳 列在庫管理を支援する収益性管理モ デ ル を構 築 しようと するものである.まず, 店頭に おける陳列在庫管理の理論研究を行 う.当該 品の在庫を保有す る こ とで他品の販売機会損失が発生する こ と を考慮し,小売業者の在庫 効 率とスペ ース効 率を 一斉に高 めるこ との で きる在庫管理技法を開発 する.さらに,商 品陳列の優先順位を評価する 指 標 と してマ ージナル ・ス ループッ ト(MT )を導入 し, 死に筋 商 品の排除 と新商品投入 を行い
なが ら, 新たな陳 列 編 成 を作 成 する際の 意思 決 定 を支 援 しようとするもの である.
本稿で開発し た方法論は, 以 下の ような特徴を有する こ と で店 舗の生 産 性に資するこ とがで きる.まず,小 売 業 者にとっ て のSKU 最 適所要量は,従来の在庫管理 手 法で計算さ れ た個 別 最 適 所 要 量より全般 的に小 さ くなること が明ら かになっ た.各SKU の在庫効率とスペ ース効 率が一斉に高 まるの で
, 従 来 と比 較 すると, 商 品の品揃え を豊富に しつ つ 陳 列 効 率を高め る こ とが 可能になると考え られ る.さ ら に,MT 指標を用い ることで ,死に筋 排 除の意 思 決 定を客 観的に行 うことが 可能に な る.こ れ ら を実 施 する こ とで,店 舗 運 営のマ ネ ジメ ン ト・サ イクル
におい て, カテゴ リーの 新陳代謝 (カテゴリーの活性化)を高め る効 果 が 生 じる と考えら れ.
る.
〈 キ ー ワ ー ド〉
カテ ゴ リー ・マ ネジメ ン ン ト
, 収 益 性 管 理, 陳 列 管 理, フ ェ ース 管理 ,多 品目,在庫 管理 ,最 適 所 要 量, 適 正在庫,基 準在庫,店舗 管理,業革
2000年 1月18日受 付 2000 年 4月 5日受理
* プライス ウォ ーターハ ウス クーパ ース コ ンサル タント (株 ),東 京 理 科 大 非 常 勤 講 師
1. は じ めに
日本の経 済 ・経 営は, 成熟 化の 時代を迎 えた と言 わ れて 久 しい .特に, バ ブ ル崩壊以降は 多 くの 小売業者は減収減益に追い 込 まれて お り, 小売業 者 間の業 績に格 差が拡が りつ つ ある.こ
れ は不 況の影 響だ けで な く, 経営再構 築を な しえた か否か とい う構 造 的問題に よ る もの と考え ら れる.い ち早 く環境 変 化に対応 して構造 改革 を な しえた小売 業 者は比較 的堅 調 な業績 を持 続 してい るが,一方で ,構造 改革に遅 れ存続の危機に瀕してい る 小売業 者 も少 な くない .
我国で は,イ トーヨーカ堂が構 造 改 革を成 功 させ た 企業と して よ く紹介さ れる .イ トーヨー
カ堂の 「業 務 改 革」は, 理念 的な取 り組みで あ る が,売上 至 上主義か ら 生産性 向上 に 発想 を転 換 した こ とに大 きな特 徴が ある. その実 施ス テ ッ プ は, 「死に筋 商 品」を な くすこ と か ら在 庫 を減ら し, U ス を少 な くする, 「売れ筋 商 品」 ・「見せ筋商 品 」の投入 とフェ ース管理 か ら 売上 増進, 資 本 ・労働 性 改善, 「川 上 の利 益 吸 収1,「契 約シ ステム の確 立お よ び販 促 革命 」,
ス トアの 自主性の 確立 お よ び 理想的 な チーム プレイ, ス タ ッ フ部門の 業 務 改善, 「基礎
工 事の 成果を見極め本格攻勢」の 7 つ か ら構成され てい る.損 失の もとになる死に筋商 品を排 除 して在庫を削 減 し, 売れ筋商 品 を中心に し た フ ェ ース 管理を行い, 売上 が増 えな くて も高い 収益性を確 保で き る ように業務 管理の 方 針を変更し た わ けで あ る.
米 国で は, ブライア ンハ リス他[1]に よっ て 1990 年代初頭にカ テ ゴ リー ・マ ネ ジメ ン トが提 唱さ れ,我 国におい て も 盛ん にその 取 り組み が行わ れ始め て い る .カ テ ゴ リー ・マ ネ ジメ ン ト
と は, 商 品カテ ゴ リーを戦略 事 業 単位 と捉 えて ,陳列編成 や 販 売促進 を含む すべ て の戦略 ・戦 術 を統一的に実 施 し ようとする取 り組みで あ る.組織的 には小 売業 者の カテ ゴ リー ・マ ネ ジ ャ ーが メ ーカー と共 同して担 当カ テ ゴ リーを 管 理 す る.実 施 方 法 は,FMI (Food Marketing Institute)がノース ウ ェ ス タ ン大 学Center fbr Retail Management に依 頼 して作成 し た方法 論
[4]〜[8】が良く知 ら れて お り, カ テ ゴ リーの 定義, カテ ゴ リーの役割設定, カ テ ゴ リー 評価, ス コ ア カー ドの作成, 戦 略策定, 戦 術 立案, 財務 計画, 実行 計画の 作成,
モ ニ ターとレ ビュ ーとい う9つ の ス テ ッ プ か ら構成さ れ てい る.
この ような取 り組み は, 広 く知ら れてい るに も関わ らず, どの小売 業者におい て も一様に機 能して い る と は言 えない ようで あ る.イ トーヨーカ堂の業務改革は,概念的には賛 同で きて も,
そ れ を実行す るには, トッ プの 強力 な リーダーシ ッ プと従業員の資質を高め る た めの長期 的 な 取 り組み が不可欠であ り,実 行す るの は 至難の業で あ る と言わ れてい る.米 国の カ テゴ リー ・
マ ネ ジメ ン トに し て も, 実態 的には, 従来の勘 と経 験 に基づ い た 陳列構成の 決定と,プロ モ ー
シ ョ ン に よ る来店 顧 客 数の拡 大戦 術に終始 し て い る面が 少な く な く, 手 間のか かる割には新た な効 果が少 ない ともい わ れて い る.
本 稿が着目するの は, 上記の 方 法 論は, い ずれ も収益 性管理 に関する理論研 究に基づ い た実 行 支 援ッ ールが 十 分 に 整 備 さ れて い ない た め に, 抽象度の 高い 概 念と具体 的 な実 務 との 間 が乖 離 して,実 践す る に当た り実 際に収 益 改善効果 が どの ように 生 じるか 理解 を困難に し でい るこ
とである.小売 業者は, 消費 者ニ ーズ にマ ッ チ し た商品 陳 列を行 うとい う定性的取 組み も 重要 な こ と は然る こ と なが ら,限られ た在庫資金 と陳 列ス ペ ース の使用 効率 を高め, 利益 を最 大 化 す る陳 列方 法を考え る とい っ た経済性 分析の手法 も同様に重 要で ある.地域密着型で フ ラグメ
ン トな構造を持つ 日本の小 売 業界 におい て持 続 的成 長 を維 持 する に は, 店舗の生産 性向上につ
い て特に注 意 を向け る 必 要 がある と考 えら れる.
カ テ ゴリー ・マ ネジ メン トの収益性管理
率を高め る商 品陳列の方 法を理 論 化 する. 店舗 運 営 者は , 本稿の陳列在庫 管理シス テ ム を 用い
る こ と に よっ て , 商 品の 需要分 布さえ的確に予 測 す る こ とがで きれ ば, 陳 列在庫 管 理 につ い て
は, 業務 経験に頼 ら な くて も, 適切に実 施で きる ようになる.本 稿は, その よ うな陳列在庫 管 理を運営 する た めの マ ネ ジメ ン ト・シス テ ム を提 供 し ようとする もの である.
2. 小 売 業 者の 最 適 所 要量
小 売業 者に とっ て 陳列 在 庫管理 は重 要 な成 功 要 因の 一つ で ある.余分 な在庫や売れ ない 商品 を置 かずに, 売れ る商 品を今以上にい ろ い ろ と置 きた い わ けで あ る.本 節で は,その ような 陳 列在庫管理 を 実現す るた めの 理論的検討 を行 う.
2.1 小売業者の収益構造
(1) 儲 け筋の 陳列と 死 に筋の排 除
小売 業者は,有限の在 庫 資金 を用い て い ろい ろ な商 品を仕入れ ,それ を有限の スペ ース に陳 列 し,商 品の販 売 を通 じて利益 を得てい る .売れ ない 商 品は, 特別 の政策 的 意味が ない 限 り陳 列 し て も仕 方が ない し,売れて い て も必 要以 上に 陳列して フ ェ ース を占有 して し まうと, 他品
を陳 列する こ と がで き なくなり, 儲 けを減 ら して しまう.
商 品 陳列の観 点か ら小 売 業者の収益 を経 済 性の原 則に基づ い て考 えて み る と, 商 品の 在 庫 資 金当たり限界利益 (GMROI )お よ びスペ ース当た り限界 利益(GMROS )が ともに大 きな もの を優 先 的に取 り扱え ば儲 けが増え る はずで ある.
こ の 原 則を徹 底 的に追 求し て い るの が , コ ン ビニ エ ン ス ・ス ト ア(CVS )で ある.わずか30坪 前後の 店 舗で は, ス ペ ース 制約が厳 しい た め, バ ッ クヤー ドに商 品を在 庫 して お くこ と はほ と ん ど 不 可能で ある. したが っ て ,過 剰仕入 は他 品の陳 列スペ ース を圧 迫 する と同時に, 在 庫 効 率 も低下 させ る ことに なる.店 舗オーナーは 自ら店舗 運 営を行 うこ と が普通であ り, 限 ら れた 自己資金 と陳列ス ペ ース を有 効利 用 す る た めに,POS 情 報や棚 在 庫量に常に注意 を払い な が ら,
売れ 筋の 把握と死に筋の排 除に取 り組ん でい る.CVS の 業績が ス ーパ ーな どの 他 業態に比べ て 顕 著に高い のは,この ような陳列 管理 を店 舗オー
ナーが徹 底 して い るこ と に も 拠 る所が 大 きい と考え ら れる.
ス ーパ ーな どの他 業 態の小 売 業者に おい て も, この よ うな 陳列在庫管理 を行っ て い れ ば,収 益 性を向上 させ ら れる はずである.し か し. 実 際に は , CVS は オーナー自らが き め細かい 目 配 り を行 うこ との で きる 30坪 とい う狭い 店舗で の み実現で きるの で あ り, CVS 固有の 経営形態
が な せ る 業 なの で あ る. ところが,広い 店舗 と当事 者 意 識の 薄い従 業 員 に依 存するス ーパ ーな どで は, すべ て の SKU に対 して高い 管理水 準 を保つ こ と は至 難の 業で あ り, 高度 な経 験 に依 存 し なくて も実施で きる よ うな よ りシ ス テマ チ ッ クな管 理 手法が 要求さ れ るの で あ る.
(2)在庫管理
在 庫管理 は,商 品の 陳列 数を決め るこ とにつ な が るの で,商 品の フ ェ ース 構 成 と密 接に関連 してい る.我 国の小売 店の 多 く は, 店 舗の ス ペ ース効率を高め,余 剰 在 庫を厳 し く管理するた め に, バ ッ ク ヤ ー ドに商品を山積み して お くこ と は ほ とん ど ない ,バ ッ ク ヤー
ドに は特 売 品な ど一時 的に大 き な需 要が予 想 さ れ る商 品の保 管 場 所に使用 し, それ 以外の商 品は基本 的に は す
べ て棚に 陳列 する こ とが普 通である.棚在 庫だ けに注意 を払え ば良い ので , 在 庫 管理 も容 易に