• 検索結果がありません。

〈問い〉作りの学習が読みを深める要件の考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "〈問い〉作りの学習が読みを深める要件の考察"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

〈問い〉作りの学習が読みを深める要件の考察

相模原市立富士見小学校 鈴 木 真 樹

1 問題の所在と研究の目的

山元(2014:4)は「読解力」とは「作品に対する自身の反応を「核」としながら、作品 との対話、読者相互の対話を通して、各自の作り出した意味を絶え間なく更新していく営み を可能にする力」と述べている。学習者が読者として自立し、自分自身で作品と対話したり、

作り出した意味を更新したりしていくためには、自分で〈問い〉を作ることが必要である。

しかし、現在行われている多くの授業では、教師が〈問い〉を提示してそれに答えていく形 が多く、自分で〈問い〉を作る力が養われていない。作品や他者と対話するための〈問い〉

を自らが作ることで、作品を読む意欲の向上にも繋がるといった意味においても〈問い〉作 りの学習は重要であると考える。

西田(2018:29)は小学生を対象に〈問い〉作りの研究を行い、その過程で〈問い〉作り の学習が学習者の〈要点駆動〉の読みを生み出すかについても分析を行っている。そして「学 習者における価値ある〈問い〉の要件から想起される読みが、〈要点駆動〉の読みを内包して いるという側面は、文学テクストを読む学習者において〈問い〉作りという学習活動が有効 であることを示している」としている。学習者が〈問い〉を作ることで、読みを深めること もできるのであれば、〈問い〉作りの重要性はますます高まってくる。しかし西田の研究では、

学習者が提出した要件を学級の総体としてまとめて分析しているため、個々の学習者につい ての分析はされていない。

そこで本研究では、〈問い〉作りの学習における学習者の読みの深まりの様相を分析し、

その深まりを生む要件を考察することを目的とする。その要件が明らかになれば、学年等 に応じて、教師が行わなければいけない支援を探る契機となる。そして〈問い〉作りの学 習における読みを深める機能を、より効果的にする学習デザインの検討にも繋がると考える。

2 研究方法

2.1 読みの深まりの分析

どのような状態になれば読みが深まったと判断するかは難しい問題である。解釈の変容 があったからと言って、読みが深まったとは言い切れない。松本(2015b:13)は「『読み の変容』をそのまま『読みの向上』と捉える傾向もいまだに強く、『読みの変容』がどのよ うな内実を持つべきものなのかについては十分な議論がなされていない。」と警鐘を鳴らし、

学習者のメタ認知的変容を見ることの重要性を述べている。

また、山元(2014:72)は「要点に駆動された読みを促していくことが、『読解力』養 成のための基本的な働きかけである」とし、この〈要点駆動〉の読みは①「結束性を求め て読む」方法、②「物語の表層に注目する」方法、③「作品を、作者・語り手・登場人物 のあいだのやりとりとして読む」方法の3つの方法から生まれるとしている。

学習者が活用する読みの方法のうち、上記の①②③に関するメタ認知的変容を分析する ことで、〈問い〉作りの学習が学習者の読みを〈要点駆動〉のものへと促す様相はどの程度 か、そしてそこにはどのような要件があるのかを明らかにすることができると考える。

(2)

2.2 読みの交流を促す〈問い〉の要件についての分析

松本(2015b:43)は「読みの交流活動には、それを可能にするための学習課題や〈問 い〉に関わる要件がある」として、その要件を以下の5つに整理している。

a 表層への着目:テクストの表層的特徴に着目する〈問い〉であること

b 部分テクストへの着目:部分テクストが指定されていることによって、読みのリソ ースの共有がなされていること

c 一貫性方略の共有:部分テクストが他の部分テクストや全体構造との関係の中で説 明されるという解釈の一貫性方略(結束性方略)が共有されていること

d 読みの多様性の保障:読み手によって解釈が異なるという読みの多様性に開かれて いること

e テクストの本質への着目:想定される作者との対話を可能にするようなテクストの 勘所にかかわるものであること

〈問い〉作りの学習において、学習者が提出する〈問い〉が初めから質の高いものであ るとは限らない。複数の〈問い〉の候補を挙げながら議論していく過程で〈問い〉は精選 されたり、変化したりしていく。また、松本(2015b:79)は交流方略にかかわる読みの 実現は、一つの〈問い〉で必ずしも満たされるわけではなく、ときには複数の〈問い〉の かかわりによって満たさせる可能性がある」としている。〈問い〉作りの学習では、複数の

〈問い〉の比較によって学習が進む場合が多いため、「複数の〈問い〉のかかわり」が生ま れることも考えられる。よって、取り上げられた〈問い〉が、松本が示す「読みの交流を 促す〈問い〉の要件」を全て満たしていなくとも、交流学習が促され、読みが深まってい く可能性がある。

いずれにせよ、〈問い〉作りの学習において、問いの質がどのようにかかわり合って読み を深めていくかを検討する必要があると考え、学習者の提出した〈問い〉について「読み の交流を促す〈問い〉の要件」に当てはめて分析を行う。

2.3 教材について

作品によって主に活用しやすい読みの方法が違うことが予想される。そこで本研究では、

タイプの違う2つの作品を取り扱い、その違いについて分析を行う。

1つ目の教材は「大造じいさんとガン」である。この作品は大造じいさんに近い視点で 物語が進むため、大造じいさんの行動や心情に着目しながら読んでいく学習者が多いと考 えられる。1場面と4場面の大造じいさんの心情は大きく異なるため、そこを解くべき謎 であると捉えやすく、様々な根拠を集めて考えていくことになる。そのため、①「結束性 を求めて読む」方法を活用しやすい。また、様々な情景描写や大造じいさんの心情を表す 台詞や擬音語など、豊かな表現が多く、②「物語の表層に注目する」方法も活用すること ができる。しかし、大造じいさんに寄り沿いながら読んでいくため、普段から作品を俯瞰 して読むことに慣れている学習者でなければ、③「作品を、作者・語り手・登場人物のあ いだのやりとりとして読む」方法を活用しにくいことも考えられる。

2つ目は「やまなし」である。この作品は、詩的な要素もあり、話の流れを捉えること は簡単ではない。「かに」の成長を描いているという読みも存在するが、基本的に登場人物 である「かに」に感情移入して読む読者は少なく、それぞれの事柄に単一の結束性を求め

(3)

ていくことは難しい。従って、小学生にとって①「結束性を求めて読む」方法を活用しづ らい作品と言える。そうであるからこそ、逆に作品を一歩外から捉え、全体の構造や作者 の意図を考えようとすることに繋がると推測される。作者が小さな谷川を覗いているイメ ージを持てば、全体を俯瞰していくことに繋がるだろう。かにの父親の存在意義やその台 詞からやまなしの重要性を見いだすなど、③「作品を、作者・語り手・登場人物のあいだ のやりとりとして読む」方法を活用しやすい作品と言える。また、作者の作った言葉や様 々な色彩表現など、表現が豊かであり、②「物語の表層に注目する」方法も活用しやすい。

2.4 授業の概要

教材① :「大造じいさんとガン」(光村図書『小学校国語5』平成27年度版)

対象 :相模原市立富士見小学校5年生36名 授業実施日:平成30年10月6日~10月24日

(この授業については、鈴木(2019)で一部検討済み)

教材② :「やまなし」(光村図書『小学校国語6』平成27年度版)

対象 :相模原市立富士見小学校6年生37名

(半数は前年度、「大造じいさんとガン」で同じ流れで学習を行っている)

授業実施日:令和1年9月17日~9月30日

授業の流れ:範読と感想1時間、〈問い〉作り3時間、読みの交流3時間、振り返り1時 間(計8時間)(教材①②共に同じ流れ)

2.5 〈問い〉作りの流れ

鈴木(2019)が行った〈問い〉作りの流れに拠った。その概要は、学習者と教師で「良い

〈問い〉の条件作り」を行い、その条件を基に「〈問い〉の交流」を行うというものである。

良い〈問い〉の条件については、「大造じいさんとガン」の学習では「①根拠が多い ②答え が色々出る ③中心人物の変化に関わる」、「やまなし」の学習では「①根拠が多い ②答え が色々出る ③作品の中心に繋がる」という条件を作り、その後の〈問い〉の交流を行った。

いずれの交流においても、「無理に絞ろうとせず、良いと思う〈問い〉は全て残す。」「自 分が納得した場合に限り、〈問い〉を変えたり、取り下げたりする。」というルールで授業 を行った。〈問い〉の交流の流れについては表1に示す。

表1:〈問い〉の交流の種類と主な目的

交流の種類 交流の主な目的 時間

感想の交流(ペア) 簡単な疑問の解決、感想の相違による〈問い〉の生成 第2時

〈問い〉の交流①(ペア) 条件なしの個人の〈問い〉作り 第2時

〈問い〉の交流②(ペア) 条件を基にした個人の〈問い〉作り 第3時

〈問い〉の交流③(班) 〈問い〉の精選 第3時

〈問い〉の交流④(ペア) 〈問い〉選択の根拠の深まり 第4時

〈問い〉の交流⑤(班) 〈問い〉選択の根拠の深まり 第4時

全体での話し合い 〈問い〉の決定 第4時

3 「大造じいさんとガン」における事例 3.1 学習者が作った〈問い〉の分析

(4)

「大造じいさんとガン」では、多くが大造じいさんの行動や心情についての〈問い〉で あった。読み間違えを含むものや、設定を問うものも多く含まれたが、交流が進むにつれ て、そういった〈問い〉は減っていった。初めから読みの交流を促す〈問い〉の要件の全 てに当てはまる〈問い〉も3割あった。最終候補に残った〈問い〉を表2に示す。

表2:最終候補に残った〈問い〉とその分析(大造じいさんとガン)

最終候補に残った〈問い〉 要件a 要件b 要件c 要件d 要件e

Ⅰ大造じいさんはいい人か、悪い人か × × △ 〇 △

Ⅱ残雪はなぜおとりのガンを助けたか × △ 〇 × △

Ⅲ大造じいさんはなぜじゅうを下ろしたのか 〇 △ 〇 〇 〇

Ⅳ残雪はなぜ逃げなかったのか × × △ × ×

残雪はなぜ逃げずに首を持ち上げたのか 〇 △ 〇 〇 △

なぜ大造じいさんはぐったりしている残雪をうたなかったのか 〇 △ 〇 〇 〇

Ⅵ大造じいさんはなぜ最後に残雪を逃がしたのか △ × 〇 〇 〇 3.2 TYの事例

【〈問い〉の交流④ TYとSHの交流】(後半部分)

1TY え(.)僕はⅣ番を選んだ理由は、えっと(3)あ(.)Ⅳ番は、残雪は、最後 になんで逃げないのかという疑問で、今まで知らないものがあればすぐに場所 を変えるくらい、あれ(.)敏感で、気をつけていたのに、最後逃げないのが 不思議だなと思ったので、Ⅳ番にしました。

2SH え、ぼ(.)くは、そうは思いません:。え(.)あ(.)あの:TYさんの問い にそうは思いませんでした。なぜかというと、え:普通に、もうハヤブサと戦 って、疲れて、もう(2)え:お腹に、ああ、お腹に傷をああやって、もうぜ んぜん:た倒れちゃうくらいの状態で、疲れていたから、きっと(.)もう、

逃げなかっただけで、本来なら逃げたかったんじゃないかなって思いました。

3TY え(.)だけど(3)もう(.)あれ:、じいさんは、あれ:最初に、飼ってい た、あ:ガンも飼っていたし、捕まえた(2)と:それで(7)゜あ゜(2)あ の(.)その時に、たぶん、あまあ僕:の予想なんですけど、じいさんを信用 したんじゃないかな//と思いました。

TYが、多くの読者は「残雪が逃げられない状況だから逃げないと考える」ということ を考慮してこの〈問い〉を推奨しているかどうかははっきりしないが、3TYの発話は、言 いよどみや沈黙が多く、2SHの反論にうろたえている、もしくは必死に答えようとして いる様にうかがえる。仮に上記のような認識が元々あったとすれば、SHの反論は予測し うるものであるだろうから、反論に対する応答をある程度考えているはずである。したが って、この時点では「残雪が逃げられない状況」だとは感じていなかった可能性が高く、

いずれにしても、SHの反論に論理的に答えているとは言えない。

TYはこの後何人かとのペア交流や、〈問い〉の交流⑤の班での交流を経て全体の交流に 臨んでいる。Ⅳの〈問い〉を選んだのはTY一人であり、TYとの交流を経て〈問い〉を変 容させた学習者もいなかった。全体の交流でもⅣの〈問い〉は2SHと同じような趣旨で 多くの学習者に反論されたが、TYは〈問い〉を取り下げなかった。そのやりとりの中でTY は「逃げる力がなかったのなら、首を持ち上げる力もなかったはず。」であるとか、「頭領 として責任を果たすなら、最期の力を、首を持ち上げる力に使うのでなく、逃げる力に使

(5)

うべき。」などと反論し、〈問い〉を「残雪はなぜ逃げずに首を持ち上げたのか」に変更し、

数人の支持者を得た。後者の反論では、一般的な頭領のイメージや残雪の人物像から、そ の行動に疑問を感じ、そこに一貫性を持たせるのであれば、残雪の心情や意図を考える必 要があると考えている。まだ、完全な結束性を求めているとは言えないものの、交流④で は見られなかった①「結束性を求めて読む」方法に繋がる読みができていると判断できる。

また、「首を持ち上げた」という表現に着目し、その普通ではない仕草を強調することで 読みの多様性を確保しようと〈問い〉の表現を変更したことからも、②「物語の表層に注 目する」方法の活用が見て取れる。他の学習者を納得させるため、①と②の方法を関連さ せて活用しているTYの読みは、〈要点駆動〉の読みに近づいていると判断できる。

3.3 AKの事例

AKは初発の感想に「なぜ、ガンを捕まえようとしているのか」という疑問を書き、そ の直後の感想の交流で「最後は心を打たれたので反省しているのではないか。」という趣 旨の意見を述べている。この時点AKは「かりゅうど」という職業に対する認識がなく、

残雪を捕まえることは悪いことであると捉えていることが分かる。しかし〈問い〉の交流

③では「私の、問いは、なぜガンを捕まえようとしているのか、で、り(.)ゆうは、こ れを話し合うことによって、大造じいさんがどうして根気よく捕まえようとしているかの 理由が分かるんじゃないかな(.)と思いました。」と発話し、その捉え方に変容が見られ た。また、ワークシートには「これを話し合うことによって、どうして大造じいさんが根 気よく残雪だけを捕まえようとしているのか分かる。」と書いてあり、「だけ」という言葉 からも、設定として「なぜガンを捕まえるのか」を問う〈問い〉ではなく、「根気よく」

捕まえようとしている大造じいさんの人物像に関わる〈問い〉に変容していることが分か る。作品全体の結束性を考えているとまでは言えないが、行動の一貫性を問うていると言 う意味において、①「結束性を求めて読む」方法に繋がる変容である。

しかし、この〈問い〉だけでは〈要点駆動〉の読みは生まれにくい。AKは交流③の後 に自分の〈問い〉を取り下げ、最終候補に残ったⅤ番の〈問い〉を選択している。どのよ うな判断で取り下げたのかは明確にされていないが、以下の議論からも分かるように、安 易な〈問い〉の乗り換えではないことが分かる。

【〈問い〉の交流⑤ 1班(WK、TK、AK、NY)の交流】(前半部分)

21TK 僕は、Ⅲ番がいいと思いました。その理由は、やっぱり最初残雪を撃とうと していなかったのに、撃たなかったから、変化したと思った(.)から、または 色々な答えが出そうだと思いました。それに対して何か意見はありますか?

(中略)

25AK え(.)あ:いいと思います。えっと://まあ、いいと、いいと思うんですけ ど:それは:あ:、なぜ、撃たなかったのか::ま(.)いいんですけど、な ぜ撃たなかったのか、だっ、たら、ま根拠も、いっぱいある(.)し、(2) 中心人物の変化だけど、えっと、(なんて言うんだろ)、中心、人物:、だけ ど:、まあちょっ、まあ深いけど、ちょっと浅いんじゃないかなって思いま した。

(中略)

28AK あ(.)で、私の意見(.)は、Ⅴ番が、いいと思いました。なぜかというと、

中心人物の変化に関わるし(2)ざん、ざん、なぜ動けない残雪を救ったの

(6)

かということで、まあ、だんだん尊敬する気持ちに変わってったってことだ から、それは、なんか、ちょっと深いんじゃないかな(笑)って思いました。

29WK あ::=

30TK =え?でもやっぱり、でもなぜ、動けない残雪を、撃たなかったのか(.)

それはやっぱり、動けないから別に撃たなくたって:いいんじゃないかなっ て思ったのかなって、僕は思いました。

31WK 強く撃たれたから、撃てなかったんじゃないかなって思います=

32TK =あ、ん、(2)あ:なるほどね::。

33AK 尊、敬する、する気持ちに変わったから(4)ま、なぜうとう、撃たなかっ たのかっていうよりは、う(.)助けようっていう思いがあったから、撃てな かった、んじゃないですか?//(1)TKさん?

交流③までは残雪にこだわる大造じいさんの心情を理解できていなかったか、もしくは その理解に揺らぎがあったからこそ、「なぜガンを捕まえようとしているのか」を〈問い〉

として考えていたAKであるが、28AK「だんだん尊敬する気持ちに変わったってこと」

の発話からも分かるように、前提としての大造じいさんの心情を理解した上で、山場の心 情を考えようとしている。具体的には語られていないものの「だんだん」という言葉の中 には、残雪がおとりのガンを助けようとして飛び出したところから、大造じいさんをにら みつけるところまでの一連の行動が関連していると思われる。そこにこだわったからこそ、

TKの主張するⅢ番とⅤ番を比較し、Ⅴ番を推しているのだと考えられる。この議論は物 語を俯瞰して行われ、様々な叙述を根拠にして中心人物の考え方の変容を捉えていること からも、①「結束性を求めて読む」方法の活用が認められる。

「やまなし」における事例

4.1 学習者が作った〈問い〉の分析

「やまなし」では、「よくわからない」という趣旨の感想が一番多く挙げられ、〈問い〉

としては「クラムボン」や「イサド」など、作者が作り出した言葉について問うものが多 かった。また、「作者は何を伝えたかったのか」など、物語全体から作者や作品の意図を問 うものも多く挙がった。読み間違えを含むものや、設定を問うものは少なかったが、初め から読みの交流を促す〈問い〉の要件の全てに当てはまる〈問い〉はなく、交流を経て新 たに〈問い〉が生まれたり、質の高いものに変容したりといったこともほとんど起こらな かった。

表3:最終候補に残った〈問い〉とその分析(「やまなし」) 最終候補に残った〈問い〉 要件a 要件b 要件c 要件d 要件e

Ⅰクラムボンとはなにか × × × 〇 ×

Ⅱクラムボンは何に殺されたのか × △ × 〇 ×

Ⅲ怖い場所とはどこか × 〇 × 〇 ×

Ⅳ泣きそうになった時のかにの気持ちを考えよう △ 〇 × × ×

かにの兄弟がやまなしに出会った時の気持ちを考えよう × × △ × ×

Ⅵ山場はどこか × × 〇 △ 〇

Ⅶなぜ題名が「やまなし」なのか × × 〇 〇 〇

Ⅷ作者は何を伝えたかったのか × × 〇 〇 〇

(7)

4.2 3班の事例

【〈問い〉の交流③ 3班(SH、AY、SA、YK、MJ)の交流】(後半部分)

(45)

61SH ね、ねえ。作者は何を伝えたかったと思いますか。

62AY たぶんね:2匹のかに(3)あ、あ、作者へ、あ、間違えた。みんなに、この 思いが伝わるように、しようと考えたんじゃないかなと、私は思いました。

63SH あ、クラムボンは何か分かりました。

64SA もうちょっと大きな声で言って下さい。

65SH はい、クラムボンは何か分かりました:

66AY 何だと思いますか?

67SH 魚、一匹の魚って書いてあるじゃないですか?この魚だと思います。

68SA なぜですか?=

69AY =不死身の魚はなんですか?いるんですか?

70SH はい、そうじゃなくて、はい最後まで話を聞きましょう。あの頭の上をわ、過 ぎていきましたっていうと、殺されたよ、死んだよと言いましたと書いてありま すよね?でも逆にこっちは:

71SA ここに書いてあるんじゃん。

72SH 最初の方。

(27)

(中略)

74SH まあ、いいや。何だと思いますか?

76YK あわ。

77SH あわ。

78SA あわ。

79MJ あれ、あれ、魚じゃないの?

80SH いや、変わった。

(中略)

85AY あ(.)ねえ、やまなしっていう題名にした意味分かったかも。

86SA 何?

87AY (あのさ)、117ページに(3)そうじゃないか、そうじゃない(.)あれはやま なしだ、流れていくぞ、ついていってみよう、ああいいにおいだ(笑い)のと ころがあ、

88YK どこ?

89AY ここ、ここ。のところで:あの:えさ?だから、有名な、魚とかにとっては豪 華な

ごちそうだから、魚たちはそれを題名にしたんじゃないかなって思います。

90SA でも:普通に考えてクラムボンの方が出てくるし:

91AY あ::でもかにたちにとってはそっちの方を大きくしたかったんじゃないです か:?

92YK でもあれだよ、子供たちはまだ:やまなしの存在知らなかったじゃん。

93SA う:ん。

この班では、初めに自分が良い〈問い〉だと考えているものを順番に伝え合い、「作者は何 を伝えたかったのか」「クラムボンとは何か」「なぜ題名がやまなしなのか」という3つの〈問

(8)

い〉が挙がった。その後、クラムボンには本当に色々な答えがあるかを考えて行き詰まり、45 秒の沈黙に入る。その他にも多くの沈黙が発生しているが、やる気がなく話し合いが成立し ていない分けではなく、自分の解釈を必死にもとうと考えていることが見て取れる。その証 拠に、沈黙の後、誰かが話題を切り出すと、闊達に話し合いが進んでいく。疑問や反論を交 えながら話し合いを行っていることからも、議論を進めていこうとする意思が感じられる。「色 々な答えがある」という良い〈問い〉の条件に当てはまるかどうかの議論するため、自分の 解釈をもとうとしているが、自信がもてないため、互いの考えを比較・検討するまでに至っ ていない。

70SHでは、教科書の叙述を必死に追いながら、クラムボンについての解釈を持とうとし ている姿が見て取れる。②「物語の表層に注目する」方法を活用に繋がるとも考えられるが、

そのメタ認知的変容は見て取れない。また、89AYは「ここ、ここ。のところで:あの:え さ?だから、有名な、魚とかにとっては豪華なごちそうだから、魚たちはそれを題名にした んじゃないかなって思います。」と、題名の意味を深めていくきっかけになり得る発話をして いる。これは、③「作品を、作者・語り手・登場人物のあいだのやりとりとして読む」方法 の活用に繋がる可能性がある。しかし、この場合もAYがこの議論の中でメタ認知的変容を起 こしたのか、もともと身につけていた方法を活用しただけなのかが判断できない。

その後、3班が議論した3つの〈問い〉は最終候補に残り、交流が進められた。以下は交 流⑤の3班の様子である。

【〈問い〉の交流⑤ 3班(SH、AY、SA、YK、MJ)の交流】(前半部分)

112AY 私は、Ⅰ番とⅦ番がいいと思いました。なぜかと言うと、クラムボンはあわ

とか、魚とか、たくさん疑問が出たし、Ⅶ番はかにの方が登場しているのに、

なぜタイトルをかにに、しなかった、のか不思議に思ったからです。

113SH あ:

114SA 一緒、一緒。私もⅦ番で、やまなしは最後に少ししかあ、出てこないのにタ

イトルにしたのはおかしいから、Ⅶ番。

115SH 僕もⅦ番がいいと思いました。えっと、題名というのは、作者が考えた色々

な意味が込められたものだと思ったから、です。

116AY (な、)

117SH え、なんかその理由があ、分かればあ、作品の中心に繋がるかなって。

118AY あ:そうかも。

題名が作者の意図に繋がるという考えには至っているが、やはりここでも自分なりの解釈 を誰も持つことができていないため、比較・検討が起きていない。先ほど、②「表層に注目 する」方法を活用していたようにみえたSHであるが、ここでは表層への注目が全くなくなっ てしまっている。また、AYも③「作品を、作者・語り手・登場人物のあいだのやりとりとし て読む」方法の活用が見られず、〈要点駆動〉に繋がる読みは確認できなかった。

「やまなし」の学習では、他の班でも同様の傾向が見られた。クラムボンについて、表層 に注目して読み取ろうとするが、そこに一貫性が見出せず、自分の解釈に自信が持てない 学習者が多かった。そのため比較・検討が深まらず、②「表層に注目する」方法の高まり が見られなかった。作者の意図に着目する学習者も多かったが、全く見当がついていない ため、議論が生まれなかった。AYのように、深まるきっかけになり得る発話は生まれる ものの、それを他の学習者が理解できないため、その後の議論は深まらず、③「作品を、

(9)

作者・語り手・登場人物のあいだのやりとりとして読む」方法の高まりは見られなかった。

読みを深める要件の考察

本研究において、「大造じいさんとガン」では、多くの場面で〈要点駆動〉の読みに繋 がる3つの方法の活用とその変容を確認することができた。しかし「やまなし」では、そ れらはほとんど確認することが出来なかった。この両者の違いを分析することで、〈問い〉

作りの学習が読みを深める要件の考察を試みる。

まず、確認できたことは、〈問い〉作りの学習には学習者が読みを深める様相が認めら れるということである。より質の高い〈問い〉を作ろうとする時、それぞれの〈問い〉の 比較が行われる。すると、その〈問い〉から生まれる様々な解釈を比較・検討する必然性 が生まれる。この時、読みの交流と同様に読みの方法についても交流が行われることで、

読みの方法が洗練されていく。〈問い〉作りにおいては、自分の解釈だけでなく、様々な 解釈を俯瞰して考えることで〈問い〉の有効性を検討する必要がある。その意味において、

〈問い〉作りは必然的にメタ認知的な行為であり、〈要点駆動〉の読みに繋がる3つの方 法の変容を引き起こす可能性が高い学習であると言える。よって、要件の一つ目は解釈の 比較・検討ができることだと言える。しかし、必ずしも初めから自分の解釈がもてなけれ ば〈問い〉作りの学習が行えないわけではない。TYAKのように、初めは読み間違えを していたり、深く理解していなかったりしても、他の学習者との交流を繰り返すことで、

解釈やその奥にあるメタ認知的な読みの方法を変容させ、〈問い〉の質も高めていくこと ができるからである。一つ目の要件として、少なくとも、他の学習者の解釈を聞いてそれ を理解できる学習者が多ければ、〈問い〉作りの学習が成立し、読みを深めていくことが できるだろう。

もう一つの要件は、意識的、無意識的に関わらず、作品の勘所につながる要素に着目で きることである。「大造じいさんとガン」において、疑問や〈問い〉の半数以上は3場面 後半から4場面に集中していた。また、多くの学習者が1場面と4場面の大造じいさんの 行動や心情の変化に気づき、そこに作品のおもしろさを感じていた。これは、作品の山場 や中心人物の大きな変化に気づいているということであり、この気づきが〈問い〉を作品 の勘所を考えるものへと変化させていったと考えられる。「やまなし」においては、山場 や作品のおもしろさが分からないという学習者が多く、そのため、気になる疑問は出すこ とができるが、それが作品の勘所に繋がるような〈問い〉には変化しなかった。作られる

〈問い〉の質が高まらなかったことで、学習者の読みも深まることがなかったと推測でき る。〈問い〉作りにおいては、読みの交流以上に複数の〈問い〉の検討による効果が期待 できると考えたが、そうはならなかった。これも作品の勘所への着目も有無が関連してい ると考えられる。「大造じいさんとガン」では、①「結束性を求めて読む」方法や②「物 語の表層に注目する」方法を主に活用していた学習者が多かったが、TYの事例のように、

この2つを相互に関連付けながら活用されている学習者が増えていった。それに伴い、そ の後の読みの交流の学習場面では③「作品を、作者・語り手・登場人物のあいだのやりと りとして読む」方法も活用できる学習者も現れた。作品の勘所に議論が集中していくこと で、互いの方法が補完し合う形で活用される様子が見られた。一方の「やまなし」では、〈問 い〉作りの段階で3つの方法の活用が見られたが、SHやAYの事例ように、それぞれがバ ラバラに活用される傾向が強く、相互の関連は生まれ難かった。「やまなし」の学習にお いて、「解釈がもてない」「勘所に着目できない」という学習者が多かった原因の一つは、

(10)

この作品の象徴性の高さにあると考えられる。そのため、それぞれの学習者のリソースの 共有がなされなかった。

まとめ

本研究において、〈問い〉作りという学習は、必然的にメタ認知的な読みを引き起こし、

〈要点駆動〉の読みを促す様相があることが確認できた。そして要件として少なくとも「他 の学習者の解釈が理解できる」ことと「勘所に繋がる要素に着目できること」が必要であ ることが分かった。その2つに課題があるとき、教師がフレームを与えるなど、〈問い〉

作りを行うための土台となる支援をすることで、様々な作品や様々な学年での〈問い〉作 りの学習が可能になるだろう。その具体的な支援についてはさらに検討が必要である。支 援があれば、読みの方法が定着していない学習者の場合にも〈問い〉作りが可能になる。

低学年など作品を俯瞰して読むことができない学習者の場合についてもさらなる検討が必 要である。

プロトコル記号

// 発話の重なり。直後の//の後の発話が重なっている。

=

途切れのない発話のつながり。直後の=の後の発話がつながっている。

( ) 聞き取り不能。中に記述がある場合は、聞き取りが不完全で確定できない内容。

(3)

3秒の沈黙。

(.) 「、」で表現できないごく短い沈黙。

:: 直前の音が伸びている。「:」がおよそ0.5秒の長さを示す。

直前の音が不完全なまま途切れている。

発話中の短い間。プロソディー上の区切りの表示を伴う。

__ 下線部の音の強調(音の大きさ)

(笑) 笑い声ないし笑いながらの発話。

(( )) 注記。

文献

鈴木真樹(2019)「学習者が質の高い〈問い〉を作るための学習デザイン 『大造じいさ んとガン』の授業を例にして」『国語科学習デザイン』第2巻第2号44-54

鶴田清司(1997)『「大造じいさんとガン」の〈解釈〉と〈分析〉』明治図書出版

西田太郎(2018)「文学テクストの読みにおいて学習者が提出する価値ある〈問い〉の要 件に関する考察」『国語科学習デザイン』第2巻第1号20-30

松本修(2015a)「読みの交流のための問いを学習者は作れるか-吉行淳之介「童謡」の 授業」『Groupe Bricolage紀要』No33 8-15

松本修(2015b)『読みの交流と言語活動 国語科学習デザインと実践』玉川大学出版部 三宅清(2002)「小学校国語教材の国語学的分析-「やまなし」の場合」『初等教育論集』

(3)15-25

山元隆春(2014)『読者反応を核とした「読解力」育成の足場づくり』溪水社

参照

関連したドキュメント

大学は職能人の育成と知の創成を責務とし ている。即ち,教育と研究が大学の両輪であ

大きな要因として働いていることが見えてくるように思われるので 1はじめに 大江健三郎とテクノロジー

仏像に対する知識は、これまでの学校教育では必

テキストマイニング は,大量の構 造化されていないテキスト情報を様々な観点から

実際, クラス C の多様体については, ここでは 詳細には述べないが, 代数 reduction をはじめ類似のいくつかの方法を 組み合わせてその構造を組織的に研究することができる

○本時のねらい これまでの学習を基に、ユニットテーマについて話し合い、自分の考えをまとめる 学習活動 時間 主な発問、予想される生徒の姿

ドリル教材 教材数:6 問題数:90 ひきざんのけいさん・けいさんれんしゅう ひきざんをつかうもんだいなどの問題を収録..

我が国においては、まだ食べることができる食品が、生産、製造、販売、消費 等の各段階において日常的に廃棄され、大量の食品ロス 1 が発生している。食品