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精神障がいのある親と暮らす子どもの支援

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Academic year: 2021

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(1)

*東洋英和女学院大学大学院 人間科学研究科 人間科学専攻 修士課程 2019 年3月修了生

M.A. in Human Sciences, Department of Human Sciences, The Graduate School of Toyo Eiwa University, March 2019

精神障がいのある親と暮らす子どもの支援

宮口 佳代 *

Support for Children Living with Parents with Mental Disabilities

MIYAGUCHI Kayo

    The  purpose  of  this  study  is  to  illuminate  the  current  situation  and  challenges  of  children  living  with  parents  with  mental  disabilities.    Therefore,  we  conducted  an  interview  survey  with  childcare workers working at daycares.  By discussing the feelings of the childcare workers, we  shed  light  on  the  current  situation,  responses,  and  issues  of  parents  with  disabilities  and  their  children.    Furthermore,  we  discuss  specific  support  measures  for  the  support  of  parents  with  mental  disabilities  and  their  children  based  on  the  results  derived  from  the  interviews  with  childcare workers. 

    In this study, we conducted an interview survey with six childcare workers and analyzed  them according to the KJ method and the grounded theory approach.  In the process, we made the  following three observations. 

    First,  childcare  workers  want  to  support  the  children's  parents.    It  is  difficult  for  the  childcare workers to build relationships with parents who have suffered so much and have mental  disabilities.    However,  childcare  workers  are  happy  to  share  the  children's  growth  with  the  parents and to see the parents think about their children.  Second, childcare workers believe that  parents' mental health affects the growth and development of children.  Under such circumstances,  childcare workers do as much as they can for children and work hard to support their growth.  In  addition,  childcare  workers  carefully  observe  each  child  every  day  so  as  not  to  miss  that  child's  SOS  and  protect  their  life.    Third,  children  have  the  potential  to  achieve  healthy  growth  and  development even under difficult conditions.  The children's growth leads to the joy of the childcare  worker.  Childcare facilities have an important role to play in securing what is best for the children. 

    This study also revealed the limitations of childcare settings.  Based on these considerations,  we  suggest  future  measures  such  as  continued  collaboration  with  specialized  institutions,  clarification of role assignment, ongoing learning opportunities for childcare workers, establishment  of an education system, and introduction of professionals at childcare sites.  Furthermore, setting  up an outreach business poses some challenges.  In the future, it will be necessary to construct a  way to support all families and nurseries.  At present, there are many problems in the childcare  field,  such  as  shortage  of  staff  and  overwork.    However,  it  is  important  that  we  consider  how  childcare  workers  can  work  in  various  ways  to  save  isolated  families  and  families  with  difficult  situations.    We  also  need  to  support  professional  development  of  childcare  workers,  as  it  will  ultimately help affected families. 

キーワード :

  精神障がい、親、子ども、支援、保育者

Keywords :

  mental disabilities, parents, children, support, childcare workers

(2)

はじめに

我が国では、精神障がいのある親と暮らす子 どもの生活について、長い間社会に認識されて はこなかった。精神障がいのある親の元で成長 発達を遂げる子どもは、心身ともに健やかな成 育環境の元にあるとは言いがたい。そのため、

子どもたちは親の症状に戸惑いながら、周囲に 助けを求めることができず、地域で隠された存 在となっている状況が推察される。

近年、家族会や自助グループなどにより、精 神障がいのある親と暮らす子どもの立場が語り 合う会が開催されるようになったが、対象者は 成人した子どもの立場である。即ち今現在、精 神障がいのある親と暮らす子どもの実態は明る みになっていない。先行研究の多くは、医療・

看護・保健からの取り組みであり、保育現場か らの発信は極めて少ない。

本研究では、保育現場における精神障がいの ある親と暮らす子どもに焦点を当てる。精神障 がいのある親と暮らす子どもに関する研究は、

子どもの周辺領域にある一つひとつの実情に目 を向ける必要がある。そのため、本研究におい ては先行研究で明らかにされていない保育現場 への質的な調査を実施する。保育現場に勤務す る保育者の思いにより導き出された結果から、

精神障がいのある親とその子どもの実態、現場 の対応や課題を明確化し、今後の具体的な支援 策を検討していく。

1.精神障がい者の現状と課題 1.1 精神障がい者の現状

厚 生 労 働 省(2014) に よ る と、1999 年 に 204 万 1000 人 で あ っ た 精 神 障 が い 者 数 は、

2014 年には 392 万 4000 人に増加している。中 でも、30 代(35 ~ 44 歳)に注目すると、1999 年に 29 万 1000 人であった精神障がい者数は 2014 年には 60 万 7000 人に増加している。こ の数値から、15 年の間に 30 代の精神障がい者 数が2倍も増えていることが読み取れる。内閣 府(2018)は 2014 年の精神障がい者数の性別 で、男性 159 万 2000 人、女性 233 万 6000 人と

している。これらの結果から2点のことが挙げ られる。1点目は精神障がい者数は年々男性 よりも女性に多く増加していること、2点目 は 30 代の精神障がい者数が増加傾向にあるこ とである。また、2018 年の厚生労働省の報告 によれば、2016 年の初産平均年齢は 30.7 歳と されている。この初産平均年齢を鑑みると、精 神障がい者数が増加傾向にある 30 代は、子育 て世代である母親の年齢と重なっていることが 読み取れる。更に、国立成育医療研究センター

(2018)は妊産婦の自殺について、メンタルヘ ルスの悪化を指摘している。これらのことから も、妊娠・出産・子育てへのライフサイクルの 変化に伴い、関連機関と連携した女性への支援 提供が課題となっている。

1.2 精神障がい者の子どもの現状

精神障がい者のライフサイクルにおける統計 は、非常に少ない。内閣府(2013)の障害者白 書によると、精神障がい者の住まいの状況、同 居者、配偶者の有無、就業の状況などに関する データはあるものの、家族構成までは明記され ていない。2002 年に川崎市が行った調査では、

精神障害者保健福祉手帳所持者の 24.9% に子ど もがいる。また、2004 年に精神障害者九州ネッ トワーク調査研究委員会が全国の患者会・当事 者会を対象に実施した調査によれば、回答者の 17.5% が子どもを有している。これらの結果報 告から、精神障がい者の子どもの数を読み取る ことは可能である。しかし、これらの報告は、

精神障害者保健福祉手帳を有している者、患者 会・当事者会に参加している者に限定される。

従って、精神障がい者の結婚や出産、子どもの 同居率などを表した全国規模の統計及び、定期 的な調査の実施は見られない。このことから、

精神障がいに関する数的なデータはいくつか抽

出されているが、精神障がいのある親の元で暮

らす子どもの実態は明らかになっていないと言

える。即ち、精神障がいのある親と暮らす子ど

もの存在は、闇に包まれている。

(3)

1.3 用語の定義

⑴ 精神障がい者

本研究では、精神障がいを生活のしづらさを 含む、広い概念で捉える。障がいの表記に関し ては、共に生きる意味を込め、ひらがなで表記 する。但し、行政用語、先行研究などを引用す る場合、原文をそのまま用いる。

⑵ 精神障がいとメンタルヘルス

本研究ではインタビュー調査において、精神 障がいのある親をメンタルヘルスが気がかりな 保護者と表記する。これは、調査対象者である 保育者の精神障がいへの受容、感覚を緩和する ためである。本研究における精神障がいのある 親とメンタルヘルスが気がかりな保護者は、保 育所の入園経緯において入園要件が精神疾患で ある親、もしくは入園後、精神疾患を発症した 親とする。従って、論文上は精神障がいのある 親とメンタルヘルスが気がかりな保護者の表記 が混在しているが、同意語として用いる。

⑶ 保育者

本研究における保育者とは、保育現場に勤務 する保育士を指す。本研究に関し同意を得るこ とができた保育園は、公立保育園、私立保育 園、幼保連携型認定こども園である。認定こど も園では幼稚園教諭も勤務しているため、保育 士と限定した表記は避け、保育現場に勤務する 者とし、保育者と表記する。

⑷ 保育現場

本研究における保育現場は、保育園とする。

論文上において、保育現場、保育園、保育所と 用いることがあるが、同意語とする。

⑸ 保護者と親

本研究における保護者と親は、子どもと同居 する父親または母親である。論文上は保護者と 親の表記が混在しているが、同意語として用い る。

2.精神障がいのある親と暮らす子どもの 現状と課題

2.1 保育現場における気になる保護者及び 気になる子どもに関する研究

保育現場における気になる保護者及び気にな る子どもに関する研究は、発達障がいに焦点を 当てた研究が多い。しかし、気になる子どもと 保護者の精神面に関連性がある研究を散見する ことができた。

気になる保護者に関しては、林・土田  他

(2010)が保護者の精神面の問題、久保山・齊 藤  他(2009)が保護者の病気や病的な状態を 挙げている。また、気になる子どもに関して は、黒川(2012)が母親の精神的不安定、大河 内・田高(2014)が親の精神疾患を挙げてい る。

これらの結果から、保育現場における気にな る子どもは、保護者の精神面と関連性があるこ とが考えられる。更には、保護者の精神面が子 どもの成長発達に影響を与えていることも危惧 される。即ち、気になる子どもの成育環境に は、保護者の不適切な関わりを含む複雑な家庭 の問題が隠されていることが示されている。し かし、これらの研究は保護者の精神障がいに焦 点を当てた研究ではなく、精神障がいを抱える 保護者の子どもに特化していない。これらのこ とからも、保育現場を対象にした精神障がいの ある親と暮らす子どもの研究は極めて少ないこ とが明らかである。

2.2 保育現場におけるメンタルヘルスに関 する研究

近年保育の分野において、本研究に強く関連 づけのある研究を検索することができた。そ れは、太田・臺  他(2018)の研究報告と青木

(2009)の研究報告書である。太田・臺  他はメ

ンタルヘルスに課題を抱える保護者の子ども

に関し、親の精神状態の影響を受けやすいこ

と、落ち着きのなさや不安定さがあることを指

摘している。一方、園生活を通し子どもが安定

した生活を習得できることを挙げ、保育現場に

(4)

おける役割の重要性を明らかにしている。青木 は保育者が保護者対応に関し負担を感じている 点で、保育現場の限界を指摘し、他機関との連 携、各関係機関との定期的な話し合い及び心理 職のサポートの必要性を示している。太田・臺  他も保護者支援に対する保育者の疲労感を挙 げ、支援方法の確立と手法を明確にする必要性 を示唆している。

太田・臺  他と青木により、保育現場におけ る保護者のメンタルヘルスに焦点を当てた量的 調査が実施されるようになった。しかし、これ らの報告は量的調査であり、保育現場における メンタルヘルスが気がかりな保護者の子どもに 焦点を当てた質的調査の実施は依然として少な い。このことからも明らかであるように、保育 現場におけるメンタルヘルスの研究は途上であ り、且つ未成熟な分野であると言える。精神障 がいのある親と暮らす子どもの実態を明らかに するために、保育現場に勤務する保育者の思い を明確化する質的研究の実施が求められる。

2.3 メンタルヘルスに関する医療・看護の 研究

医療現場では、患者の症状や生活のしづらさ に焦点を当てた診察を行う。そのため、患者の 家族に目が向けられることは少ない。佐々木

(2018)は、精神科ソーシャルワーカーが家族 支援を実施する必要性を述べる一方、医療現場 において家族を対象とした支援を行う困難な状 況を指摘している。更に、山田・田代(2017)

は精神障がいのある親と暮らす子どもに対する ケアの重要性を述べているが、短時間で親と子 どもの両方をケアする限界を指摘している。こ れらのことから、近年、精神障がい者の家族に 対する支援の必要性を訴える研究は散見されつ つあるが、精神障がい者の子どもに対する支援 は行き届かない現実が読み取れる。即ち精神障 がいのある親と暮らす子どもの存在は社会から 見落とされがちであり、支援につなぐことがで きない実情があると言える。地域に埋もれ隠さ れた存在であるからこそ、専門的なケアを実践

することができる第三者の介入及び、早急な支 援が求められている。

精神障がいのある親と暮らす子どもの支援に 関し、医療・看護の分野では、いくつかの支援 策が挙げられている。夏苅(2015)は、専門家 自身が広い視野をもつ必要性を挙げ、他業種 との交流を提言している。また、土田・宮越

(2016)は教育機関、医療機関、行政、地域の 支援者などが連携し、役割分担をしながら親と 子どもの双方に関わる重要性を指摘している。

更に、土田(2017)は子ども自身が支援を求め やすい環境を目指し、学校の教員、民生委員・

児童委員、医療・保健機関のスタッフを対象に 支援者研修を実施している。以上のように、医 療・看護の分野では、他機関・他職種の連携及 び、支援者を対象にした研修の必要性が示され ている。しかし、これらの地域の専門機関の輪 に、保育現場の連携が含まれていないことが多 い。今現在、精神障がいのある親と暮らす子ど もを救うためには、子どもを中心に見据えた支 援を確立する必要がある。従って、精神障がい のある親と暮らす子どもへの支援は、子どもを 直に支える保育現場の協力が鍵となる。しかし ながら、保育現場における精神障がいのある親 と暮らす子どもの実態は明らかにはされていな い現状がある。このことからも、保育現場にお ける精神障がいのある親と暮らす子どもに関す る研究の発展が急務であると言える。

3.インタビュー調査 3.1 研究の概要

⑴ インタビュー調査の目的

本研究におけるインタビュー調査の目的は、

保育現場におけるメンタルヘルスが気がかりな

保護者及び、その子どもについての現状を明ら

かにすることである。そのため、本研究では保

育現場に勤務する保育者の生の声をデータとし

て収集する。なお、研究の手法・分析方法は

KJ 法とグラウンデッド・セオリー・アプロー

チに準じて実施している。

(5)

3.2 研究の手法

⑴ 調査対象者

保育現場に勤務する保育者複数名。保育の実 務経験がある者であれば、性別、年齢、経験は 問わない。但し、メンタルヘルスが気がかりな 保護者とその子どもに関わる経験のある者とす る。

⑵ 研究期間

2016 年9月から 2018 年 11 月まで

⑶ データ収集方法

研究調査の同意が得られた保育者複数名に対 して、インタビューガイドに従い、半構造化面 接を実施した。面接内容は許可を得て録音し、

インタビュー場所はプライバシーに配慮し、個 室を使用した。

⑷ 分析方法

本研究における分析は3段階を経ている。1 段階目は、インタビュー内容を逐語録に起こ し、それを生データとしてデータの可視化を 行った。2段階目は、可視化されたデータにつ いて逐語録の精読を行い、類似するキーワード を大きく分けて4つの視点に分類した。それが

「保育者から見た親への思い」「保育者から見た 子どもに対する思い」「保育者自身の思い」「保 育者から見た親子関係への思い」である。3段 階目は、4つに分類した語りから、キーワー ドとして多く出された言葉をカテゴリー化し、

小・中・大へと収斂させていった。

⑸ 研究の妥当性の確保

インタビューガイドの作成にあたり、事前に 調査対象者を想定したプレテストを1名の保 育者に対して実施している。その後、インタ ビュー内容に過不足がないよう指導教官及び、

精神障がいを専門とする教官による助言の元、

再度吟味し洗練させた。本研究のデータ抽出や カテゴリー化、分析過程においては、分析を専 門に行う研究者より適宜指導を受けながら実施 した。

⑹ 倫理的配慮

本研究では、精神障がい専門の弁護士の見 解、助言を受けた上で、保育現場への調査を実

施した。本研究におけるメンタルヘルスが気が かりな保護者は、保育所の入園経緯において、

入園要件が精神疾患である親、もしくは入園 後、精神疾患を発症した親とする。また、保護 者の疾患が入園要件に含まれる点で、調査対象 者の施設は保育所及び、幼保連携型認定こども 園に限定する。

なお、本研究のデータ収集開始時において、

東洋英和女学院大学大学院の倫理審議会へ申請 書を提出している。そこで指摘を受けた箇所に 対し、加筆修正を行った。

3.3 調査対象者の属性

本研究における分析の調査対象者は6名の保 育者であった。4つの施設のうち、2つの保 育所は調査協力者が2人おり、同時にインタ ビュー調査を行った。調査対象者は、保育歴 25 年以上の保育者が5名、園長4名、主任1 名、クラス担任1名であった。調査対象者の性 別は女性5名、男性1名であり、年齢は 40 代 1名、50 代3名、60 代2名であった。平均イ ンタビュー時間は、約 70 分である。

3.4 調査対象者の所属園

本研究における調査対象となった施設は4園 であり、公立保育園が1園、私立保育園が3園 であり、うち1園は幼保連携型認定こども園で あった。私立保育園のうち、2園は母子生活支 援施設、乳児院、児童養護施設、児童家庭支援 センター、地域子育て支援センターが併設され ている。

3.5 保護者の属性

本調査では、調査対象者に対し保護者の属性

について口頭で聴取しているが、プライバシー

の開示を望まない保育者もいた。そのため、保

護者の属性について正確な状況は把握しきれて

いない。表1は、保育者の語りの中から得られ

た情報を参考にまとめたものである。1名の保

護者について語る保育者もいれば、複数の保護

者について語る保育者もいた。複数の保護者に

(6)

ついて語る場合、厳密な情報を得ることが難し く保護者を特定できなかったため、表1には記 述していない。本調査では、保護者一覧に記入 していないケースも含め、分析を行う。

表1 保護者の属性一覧

年   齢 20代:1名、30代:1名 40代:1名、不明:3名 別 女性:5名、男性:1名

入 園 経 緯

母親の疾患:3名

母親の就労だが、後に疾患を発症:

2名

父親の疾患:1名

疾 患 名

鬱  病:3名 アルコール依存症:1名 統合失調症:1名 自律神経失調症:1名 不  明:2名

※保護者が複数の疾患を発症する ケースを含む

通 院 状 況 通院:5名、不明:1名 服薬の有無 服薬:5名、不明:1名

家 族 構 成

父・母・子ども1人:3名 父・母・子ども2人:1名 父・母・子ども4人:1名 母・子ども3人:1名

3.6 子どもの属性

子どもの属性に関しても、保育者の語りの中 から得られた情報を参考にまとめた。子どもの 年齢と家族構成は把握することができたが、性 別に関しては全員に聴取できていない。また、

保育者が複数の子どもについて語る場合、厳密 な情報を特定できなかったため、表2には記述 していない。本調査では、表2の子どもの属性 一覧に記入していないケースも含め、分析を行 う。

表2 子どもの属性一覧

2歳児:1名、3歳児:1名 4歳児:2名、5歳児:2名 別 男児:4名、不明:2名 親 父・母:5名、母:1名 兄 弟 姉 妹 一人っ子:3名、兄1人:1名

兄2人:1名、兄3人:1名

3.7 結果

本研究の分析結果は以下の通りである。「保 育者から見た親への思い」からは、15 の小カ テゴリー、7つの中カテゴリー、3つの大カ テゴリーが抽出された。「保育者から見た子ど もに対する思い」からは、16 の小カテゴリー、

7つの中カテゴリー、3つの大カテゴリーが抽 出された。「保育者自身の思い」からは、21 の 小カテゴリー、10 の中カテゴリー、2つの大 カテゴリーが抽出された。「保育者から見た親 子関係への思い」からは、12 の小カテゴリー、

4つの中カテゴリー、2つの大カテゴリーが抽

出された。それぞれ抽象度を高めたものが表3

から表6までのコード・カテゴリー表である。

(7)

表3 コード・カテゴリー表「保育者から見た親への思い」

【大カテゴリー】 ≪中カテゴリー≫ <小カテゴリー> コード数

保護者と関わること への困難

a.保護者と関わりが難しい ①人と関わりをもつのが苦手 1

②保育園に依存する 4

③気持ちが不安定になる 6

b.生活することが苦しい ④生活に支障が出る程の苦しみを抱えている 31

保護者を支えたい

c.家族と協力したい ⑤母親以外の家族とつながり、育児を協力し

合う 11

d.保護者と関わりたい ⑥保育者が保護者と一緒に行う 6

⑦保護者が安心できるよう、肯定的な言葉を

掛ける 10

⑧保護者と信頼関係を築く 10

e.保護者のことも知りたい ⑨保護者を観察し、声を掛けるタイミングを

待つ 13

⑩保護者の変化を見逃さないようにする 5

⑪父親のメンタルヘルスも気にする 3

保護者と関わる喜び

f.親の変化が嬉しい ⑫母親が子どもを思う姿が嬉しい 4

⑬母親が子どものために動くことが嬉しい 2 g.子どもの成長を分かち合

いたい ⑭子どもの成長を伝えたい 2

⑮保育園が保護者に安心できる場になると嬉

しい 3

表4 コード・カテゴリー表「保育者から見た子どもに対する思い」

【大カテゴリー】 ≪中カテゴリー≫ <小カテゴリー> コード数

成長への影響

a.発達への影響 ①発達に遅れがある 2

b.心への影響 ②大人に対し、気を遣う 4

③心に傷が残る 1

④神経が細かく、繊細 3

⑤気持ちが不安定になる

 母のメンタルが子どもに影響する 3

⑥感情を抑えられない 3

⑦感情の表出ができない 3

c.生活への影響 ⑧生活習慣が乱れている 4

⑨家の事情で保育園を欠席する 2

d.人間関係への影響 ⑩友だちの輪に入れない 3

⑪友だちとの関わり方を知らない 7

子どもを支えたい

e.子どもにできる限りのこ

とをしたい ⑫保育者が子どもの安心につながるよう支える 10

⑬子どもを良く観察し、SOS を見逃さない 8 f.子どもの育ちを支えたい ⑭家庭でできないことを保育園で行う 4

⑮基本的生活習慣を支える 7

保育者の喜び g.子どもの成長発達の可能性 ⑯子どもと関わる中で喜びがある 5

(8)

表5 コード・カテゴリー表「保育者自身の思い」

【大カテゴリー】 ≪中カテゴリー≫ <小カテゴリー> コード数

保育現場のニーズに 応えたい

a.他者と協力して保育した

①地域の専門機関と継続した支援 47

②保育者の役割を明確にし、役割分担をする 12

③アドバイザー、臨床心理士の導入 6

④職員間の連携 10

⑤園長が若い先生を育て、守る 4

b.保育者は学びたい ⑥保育者は専門性を高めたい 17

c.メンタルヘルスに該当し ない家族への支援

⑦弱っている保護者と家族への支援

10 d.情報を提供していきたい ⑧保育園で保護者に支援の情報を伝える 2

⑨保育園で親支援を行う 4

e.子どもの最善の利益を守 りたい

⑩子どもを守るために母を支援する 4

⑪子どもの命を守る 2

⑫子どもの幸せを願い、保育園でできること

を追及する 14

保育現場の限界

f.保育者の負担が大きい ⑬保育園だけで抱えると苦しい 4

⑭人的な補助を増やしたい 3

⑮保育者の迷い、不安、心が折れる 5 g.閉ざされた家庭を救えな

⑯家庭での様子は見えない 6

⑰ SOS を発信できない家庭がある 2

⑱親が支援の場に足を運ぼうとしない 3

h.制度が不安 ⑲現場の実態と制度が合っていない 2

i.プライバシーに踏み込め ない

⑳私生活に介入できない

 線引きが難しい 7

j.子どもの障がいは保育者 には判断できない

母親のメンタルヘルスと子どもの発達障が

いとの混在 7

表6 コード・カテゴリー表「保育者から見た親子関係への思い」

【大カテゴリー】 ≪中カテゴリー≫ <小カテゴリー> コード数

保護者の迷い

a.子どもの世話をしたい ①気持ちはあるが行動できない 12

②育児をする気力がない 12

③子どもの成長が楽しみ 1

④子どもが好き 3

b.子育てへの戸惑い ⑤子育てをしながら気分転換をしたい 2

⑥保護者は支援を求めている 3

c.子育てが分からない ⑦子どもの対応の仕方が分からない 4

⑧育ちの中で困難な経験をしている 3

⑨負の連鎖 3

⑩子どもらしさが未経験 3

子どもの迷い d.母親のことが好き ⑪自分の親をかばう 4

⑫親に嫌われないようにする 3

(9)

4.考察

4.1 メンタルヘルスが気がかりな保護者に 関して

⑴ 保護者と関わることへの困難

保育者の語りにより、メンタルヘルスが気が かりな保護者は人と関わりをもつことが苦手で あること、生活に支障が出る程の苦しみを抱え ていることが示された。更に、メンタルヘルス が気がかりな保護者は自身の生活上の困難と子 育ての負担が重なり、子どもの世話に手が回ら ない状況である。そのような中、保育者はメン タルヘルスが気がかりな保護者と関わることに 難しさを覚えていることが明らかになった。

⑵ 保護者を支えたい

保育者は、メンタルヘルスが気がかりな保護 者との関わりに困難を抱えているものの、その 保護者を支えたいと考えている。保育者はメン タルヘルスが気がかりな保護者を支えるため に、保護者の変化を見逃さないよう注意深く観 察している。また、一方的に要求を押し付ける のではなく、保護者が安心できるよう肯定的な 言葉を掛けたり、保育者が保護者と一緒に行っ たりすることを積み重ね、信頼関係を築いてい る。更に、保護者以外の家族とつながり協力し 合う実態も示された。

⑶ 保護者と関わる喜び

保育者はメンタルヘルスが気がかりな保護者 との関わりに困難を感じながらも、その保護者 との関わりに喜びも感じていることが明らかに なった。メンタルヘルスが気がかりな保護者は 育児が困難な状況下にある。しかし、メンタル ヘルスに不調を抱えながらも子どものために動 こうとする保護者の姿も示されている。また、

子どもの成長を保護者と共に分かち合えること は保育者の力となり、大きな喜びとなってい る。本研究において、現場の保育者はメンタル ヘルスが気がかりな保護者に関し、関わりに難 しさを覚えながらも懸命に支え、喜びを感じて いる実態が明らかになった。

4.2 メンタルヘルスが気がかりな保護者の 子どもに関して

⑴ 成長への影響

本研究では、メンタルヘルスが気がかりな保 護者と暮らす子どもの成長発達への影響が示さ れた。保育者は、保護者のメンタルヘルスが子 どもの発達、心、生活、人間関係に影響を及ぼ すと考えている。保護者のメンタルヘルスの悪 化により、子どもの生活習慣は乱れ、虐待を疑 う深刻なケースも浮き彫りになった。保育現場 の実態から、メンタルヘルスが気がかりな保護 者と暮らす子どもに対する支援の必要性が示さ れている。

⑵ 子どもを支えたい

保育者はメンタルヘルスが気がかりな保護者 の子どもに対し、家庭では困難な育児を行い、

子どもの育ちを支えている。また、保育者は 日々の生活の中で、メンタルヘルスが気がかり な保護者と暮らす子どもを注意深く観察し、子 どもが発する SOS を見逃さないよう努めてい ることが明らかになった。保育現場において、

保育者は困難な状況で生きる子どもを養護し、

できる限りの支援を実践していることが示され た。

⑶ 保育者の喜び

保育者はメンタルヘルスが気がかりな保護者 と暮らす子どもとの関わりにおいて、喜びがあ ると考えていることが明らかになった。保育者 は、メンタルヘルスが気がかりな保護者の子ど もが成長する姿に喜びを感じている。保護者の メンタルヘルスの悪化により、子どもの成長へ の影響が懸念される一方、子どもが逞しく成長 発達を遂げる可能性も示された。困難な状況で 生きる子どもではあるが、子どもの成長発達を 喜ぶ保育者の語りを得られたことで、保育現場 の役割と可能性が示された。

4.3 保育者自身の思いに関して

⑴ 保育現場のニーズに応えたい

本研究により、保育者はメンタルヘルスが気

がかりな保護者とその子どもへの対応に関し、

(10)

他者と協力して保育していきたいと考えている ことが明らかになった。メンタルヘルスが気が かりな保護者とその子どもの支援において、地 域の専門機関との連携は欠かせない。更に、保 育現場と地域の専門機関の役割を明確に分担す る必要性も示された。

保育者は、メンタルヘルスに該当しない家庭 への支援も実施している。現代の保育現場で は、子どもと保護者に対する多様な支援が求め られている。また、様々な家庭のニーズに対応 していけるよう、保育者は専門性を高めたいと 考えている。今後は保育者が研修に参加し、継 続的な学びを習得していけるよう、体制を見直 す必要がある。保育現場で働く保育者は子ども の幸せを願い、子どもを守るために最善の利益 を追求している。

⑵ 保育現場の限界

保育者の語りから、保育現場に限界があるこ とが示されている。メンタルヘルスが気がかり な保護者とその子どもに対する支援は、保育園 だけで抱えると負担が大きいことが明らかに なった。保育者の負担や迷いを軽減していける よう、保育者を支えるアドバイザーや臨床心理 士などの専門職の導入が求められている。ま た、保護者と子どもへの支援だけでなく、困難 なケースを抱える保育者の心のケアもしていけ るよう、保育現場を含めた地域の連携が望まれ る。更に、閉ざされた家庭を救えない実態も明 らかになった。保育現場では、メンタルヘルス が気がかりな保護者に対し、必要な支援を提供 している。しかし、支援を受けるか否かの選択 は保護者に任されている。保護者が支援の場に 足を運ばない限り、支援は無いに等しい。メン タルヘルスが気がかりな家庭への支援は、プラ イバシーの壁があり、介入しづらい状況であ る。全ての家庭を救うため、懸命に親子を支援 する保育者を支える体制を整えていかなければ ならない。

4.4 メンタルヘルスが気がかりな保護者と 子どもの関係に関して

⑴ 保護者の迷い

本研究では、メンタルヘルスが気がかりな保 護者の迷いが明らかになった。メンタルヘルス が気がかりな保護者はメンタルヘルスに不調を 抱えながらも、子どもの世話をしたいと考えて いる。しかし、子育てに対する戸惑いがあり、

葛藤を抱いている。メンタルヘルスが気がかり な保護者は、子どもを愛し守りたいと思ってい るものの、病気の影響により子育てに困難な状 況にあることが示された。

⑵ 子どもの迷い

メンタルヘルスが気がかりな保護者の子ども も迷いを抱いていることが明らかになってい る。メンタルヘルスが気がかりな保護者の子ど もは、母親のことが大好きであるものの、保護 者の病気の症状に戸惑い、本来の子どもらしさ を表出することができない。子どもは親をかば い、嫌われないように振る舞っている。メンタ ルヘルスが気がかりな保護者とその子どもは互 いに相思相愛の関係であるものの、保護者のメ ンタルヘルスの影響で両者の歯車が噛み合わな い現状にある。閉ざされた家庭を見逃さず救え るよう、親子両者に介入した支援が必要であ る。

5.研究の限界・実践への提言・今後の 課題

5.1 研究の限界

⑴ 調査対象者の属性

本研究では保育者の経験年数を指定していな

いが、結果として園長・主任の管理職及び、25

年以上の経験豊富な保育者が調査対象者となっ

た。これは、メンタルヘルスに不調を抱える保

護者とその子どもを支える保育者は、現場で多

くの経験を積んでいることを意味する。裏を返

せば豊富な保育経験がなければ、語ることが困

難な状況にあると言える。今後は経験豊富な保

育者だけでなく、経験値の少ない若手の保育者

を対象にした調査が求められる。保育者の年

(11)

齢、性別、経験などの対象を広げることで、現 場の実態及び求められる支援を幅広く把握する ことができると考える。

⑵ 保護者の属性

本研究では保護者の疾患名を限定していな い。今後は疾患名により相違がみられるのか、

疾患ごとに分類した調査も必要である。また、

本研究では母親が精神疾患を患うケースが多 く、性別に偏りがある。今後は母親だけでな く、父親の疾患を対象にした研究も必要であ る。更に、本研究は入園要件が精神疾患、入園 後に精神疾患を発症した保護者を対象にしてお り、精神疾患に限定した調査となっている。保 育者の語りから、メンタルヘルスに該当しない 保護者も支援する実態が明らかになった。この ことから、今後は精神疾患を発症したケースだ けでなく、メンタルヘルスが気がかりな保護者 に対象を広げた調査も必要である。このような 研究を通し、精神疾患を発症した保護者とメン タルヘルスが気がかりな保護者の比較検討も可 能となる。

⑶ 子どもの属性

本研究におけるメンタルヘルスが気がかりな 保護者の子どもの年齢は2歳から5歳である。

乳幼児期は、年齢により成長発達が異なる。本 研究では子どもの年齢に統一性がないため、子 どもの成長発達と保護者のメンタルヘルスの関 係性を明らかにすることが困難であった。今後 は子どもの成長発達を加味し、年齢を統一した 調査が必要である。また、子どもの家族構成や 性別により差異があるのか、子どもの属性を変 えた調査も求められる。子どもの属性を考察、

吟味することで、子どもに寄り添った実践的な 支援が期待できる。

⑷ 先行研究

前述しているように、保育現場におけるメン タルヘルスが気がかりな保護者の子どもに関す る研究は、非常に少ない。既存の可視化できる データ不足により、本研究と比較した検証を行 うことは極めて困難であった。今後は、保育現 場におけるメンタルヘルスが気がかりな保護者

の子どもに関する実態を把握するためのデータ 収集及び、保育現場に即した調査の発展が求め られる。

⑸ 一般化の困難

本研究の調査対象者の抽出は極めて困難で あった。6名の保育者の語りは、保育現場にお ける子どもの実態を把握することができる貴重 なデータである。保育者の協力により、保育現 場におけるメンタルヘルスが気がかりな保護者 とその子どもに焦点を当てた質的研究が実現可 能となった。しかし、本研究は量的な側面で言 えば、不足を認識せざるを得ない。そのため、

6名の語りは飽和状態には至らず、本結果をそ のまま一般化することは困難である。今後は データの一般化を目指し、より多くの保育者か ら語りを得る質的研究が求められる。

5.2 実践への提言

⑴ 地域の専門機関との継続した連携   役割分担の明確化

本研究では、地域の専門機関と連携を図る保 育現場の実態が明らかになった。保育現場に勤 務する保育者は、関連機関と地域の連携の必要 性を切に感じ、協力を得たいと思っている。し かし、本研究ではメンタルヘルスが気がかりな 保護者とその子どもに対する支援に関し、保育 園だけで抱える苦しさが示された。このことか ら、保育現場を含めた地域の専門機関の連携、

役割分担を明確にする必要性が明らかになっ た。メンタルヘルスが気がかりな保護者とその 子どもへの支援は、領域を超えた多様な支援が 必要である。地域の専門機関との継続した連携 及び、各専門機関の役割分担を明確にしたシス テムの確立が望まれる。

以下は、本研究において保育者の語りから得

られた地域の連携をまとめた図である。地域の

支援は、子どもを中心に確立していかなければ

ならない。子どもの傍らには、保護者がおり家

庭がある。困難な状況下で生活する子どもを守

るために、子どもを核に保護者と家庭に対する

地域の支援を提供する必要がある。メンタルヘ

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ルスが気がかりな保護者の多くは、支援を求め ることができず地域で孤立している。そのた め、家庭に介入することができる専門職及び、

専門機関に橋渡しすることができる援助者な ど、多数の支援者が欠かせない。保育現場の保 育者、保健所・保健センターの保健師、医療現 場の医療者・看護師、精神保健福祉士、社会福 祉士、学校関係者、臨床心理士、警察、民生委 員・児童委員など、地域の専門機関の連携を強 化したネットワークを構築していかなければな らない。

⑵ 専門職の強化

前述にあるように、メンタルヘルスが気がか りな保護者とその子どもへの支援は、専門機関 や専門職の協力が欠かせない。中でも本研究に おいては、保育者がアドバイザーや臨床心理士 の導入を望んでいることが明らかになった。専 門的な助言は保育者の不安や負担を軽減するだ けでなく、保護者や子どもに対する必要な支援 を獲得できる近道でもある。保育者が安心して メンタルヘルスが気がかりな保護者とその子ど もへの支援を実施していけるよう、保育者を支

図1 地域の連携システム

・一時保育

・乳児院 地域・児童家庭支援センター

・母子生活支援施設 子ども家庭支援センター

・児童養護施設 ・地域子育て支援センター

・児童相談所 ・ファミリーサポートセンター

[・民生委員・児童委員] ・家庭訪問型子育て支援

こ/@へ濯;

i

・要保護児童対策 地域協謙会

放課後学童クラブ

・教員

・スクールカウンセラー

・スクールソーシャルワーカ―

・保健所

・保健センター

・訪問看護

・医療者

・看護師

・保健師

・精神保健福祉士

・ショートステイ

・一時預かり

(13)

えるアドバイザー・臨床心理士の存在が求めら れている。更にこれと並行して、メンタルヘル スの問題を抱えた保護者とその子どもに対し、

速やかに対応できる熟達した各専門職の養成も 必要である。これらのことからも、地域のネッ トワークを駆使しながら、多種多様な専門知識 を活用できる人材の強化が求められている。

⑶ 保育士養成校におけるカリキュラムの見直

本研究では、メンタルヘルスを抱える保護者 とその子どもへの支援に喜びを感じている保育 者の語りが得られている。一方、メンタルヘル スが気がかりな保護者とその子どもを支える保 育者の負担は大きく、保育現場の限界も明らか になっている。現場で働く保育者は子どもの成 長発達に関する学びは習得しているものの、保 護者対応は経験値に任されている。保育者は保 護者支援や子育て支援、保護者のメンタルヘル スに関する学びを獲得し、専門性を高めたいと 考えている。このような流れの中で、保育士養 成校では 2019 年度より、子ども家庭支援論の 科目が単位化されている現状がある。これらの ことから、今後は保育者の専門性の向上につい て検証する必要が示されている。その上で、保 育士養成におけるカリキュラムの見直しも求め られる。

⑷ 研修の充実・制度の見直し・支援の方策

前述にもあるように、保育者は専門性を高め たいと考えている。しかし、保育者が研修に参 加する場合、現場保育者の欠員状態を余儀なく されるという実情がある。更に、保育者の研修 費はほとんど自費である。これらのことから、

現場の保育者が研修に参加するには人的保障と 経済的保障の支援が求められる。保育現場の人 的配置に加え、研修費の補助など、国や行政の 支援及び制度の見直しへの働きかけが必要であ る。

⑸ 伝達者の人材の育成と確保

本研究ではメンタルヘルスが気がかりな保護 者とその子どもに対し、保育者の迷いや葛藤が 明らかになっている。また、メンタルヘルスが

気がかりな保護者とその子どもが SOS を発信 できない困難な状況も示されている。メンタル ヘルスに問題を抱える保護者とその子どもへの 支援は、熟達したスキルが求められる。保育者 がメンタルヘルスが気がかりな保護者とその子 どもに対する支援を実施するには、保育士養成 校における学びが欠かせない。従って、保育士 養成校では理論と経験に基づき教授できる教員 の育成が求められる。現場の熟達者の指導が実 現することで、保育現場に還元される働きかけ ができる。このことからも、保護者支援、子ど も支援、保護者のメンタルヘルス、地域との連 携、保育現場の役割分担など、保育現場に求め られる支援のあり方を教授できる専門職の育成 が急務である。

5.3 今後の課題

⑴ 困難な現状を抱える保育現場への調査

本研究では比較的、保育現場における成功体 験を語る保育者が多く見受けられた。メンタル ヘルスに関する調査に同意できる保育者は、支 援策が確立した保育園に勤務し、周囲に語るこ とのできる取り組みを実践していると言える。

成功体験の語りを得ることで、支援策のモデル を確立することは可能であるが、今後は第三者 に語ることができない困難な状況を抱える保育 園に踏み込んだ研究が求められる。保育現場で は、園の方針、形態、環境により子どもの支援 に差が生じている実情が否めない。苦しみや葛 藤を語ることができる保育者の抽出は難しい が、保育現場が抱える困難な実態を明らかにす ることで必要な支援策が確立できると考える。

今後は公立保育園や施設が併設された保育園だ けでなく、様々な保育形態の保育園を対象にし た調査が課題である。

⑵ 閉ざされた家庭への支援   アウトリーチ事業の活性化

本研究では、閉ざされた家庭を救えない保育

現場の実態を明らかにしている。保育現場では

メンタルヘルスが気がかりな保護者に対し、必

要な情報を提供している。しかし、保護者が支

(14)

援の場に足を運ばない限り、支援は行き届かな い。更に、地域には保育園に入所できない子ど も、社会から認知されていない家庭が存在す る。SOS を発信できない保護者は、地域で孤 立し支援を獲得することができない。これらの ことから、調査やデータが未知数であるところ に、問題の本質が隠されていると言える。今後 は、閉ざされた家庭を救う支援策を確立してい かなければならない。地域に埋もれている全て の家庭を救うために、社会福祉士や看護師に加 え保育者のアウトリーチ事業への積極的な参加 など、アウトリーチの活性化も課題である。保 育者は子どもを中心にした成長発達や日常生活 に関わる判断能力に長けている。そのため、子 どもの視点に立った支援を実践することが可能 である。このことからも、保育者が直接地域や 家庭に介入することで、子どもに対する専門性 をもった深い関わりが期待できる。

⑶ 支援の無償化への検討   支援の質の向上

本研究では、経済的な事情を抱える保護者の 実態を明らかにした。メンタルヘルスが気がか りな保護者が支援の場に足を運ぶことができな い理由には、病気の症状の他に経済的な負担が 挙げられている。メンタルヘルスが気がかりな 保護者とその子どもに対する支援は有料である ことが多いため、経済的に苦しい家庭への支援 は遠のく。支援の無償化を求める保育者の語り はあるものの、支援の質を下げることはできな い。支援の無償化の検討及び、支援の質の向上 は今後の課題である。居住地域や入所した保育 園によって支援の質に差が生じることのないよ う、全ての家庭に平等に行き渡る支援が求めら れる。

⑷ 親と子どもを対象にした調査

本研究では、保育者の語りから「保育者か ら見た親子関係への思い」の視点が得られた。

「保育者から見た親子関係への思い」は、保育 者が親子関係を客観的に捉えた視点である。今 後は親子関係の実態を明らかにするため、保育 者の思いだけでなく保護者や子どもに踏み込

み、対象者全ての思いを抽出する研究が必要で ある。しかし、保育現場において精神疾患を抱 える保護者とその子どもを対象に調査を実施す ることはプライバシーの問題があり、困難であ る。近年、家族会の形態は多様化し、精神障が いのある親、精神障がいのある親と暮らす子ど も、精神障がいのある人のきょうだい、精神障 がいのある人の配偶者など対象の幅が広がって いる。保育現場における精神障がいのある親と 暮らす子どもへの調査が困難な場合、精神障が いのある親や精神障がいのある親と暮らす子ど もを対象にした家族会を通して現状を明らかに することができる。更に、家族会で得た回答を 保育現場に結びつけることも可能である。今後 は、家族会と保育現場を関連させる取り組みも 必要である。成人した子どもの立場の経験が今 現在、精神障がいのある親と暮らす子どもへの 支援につながると考える。

⑸ 研究の発展への期待

前述にもあるように保育現場におけるメンタ ルヘルスに関する研究は、極めて少ない。ま た、保育現場におけるメンタルヘルスの定義も 曖昧であり、確立されていない。更に質的調査 の実施は少なく、保育現場におけるメンタルヘ ルスの研究は未成熟であると言える。メンタル ヘルスに関する研究はプライバシーの情報開示 が壁になり、調査対象者に迷いが生じる。調査 対象者の選出と抽出、情報開示の壁など、多く の困難が伴う研究であるが、メンタルヘルスが 気がかりな保護者の子どもを救うため、現場に 踏み込む必要のある研究である。今後は、本研 究で得たデータを発信すると共に、保育現場に おけるメンタルヘルスが気がかりな保護者の子 どもに関する研究の発展が望まれる。

おわりに

本研究は、精神障がいのある親とその子ども に関わる保育者の語りに焦点を当てることで、

子どもの支援のあり方を検討する研究である。

保育現場における精神障がいのある親と暮らす

子どもの支援は、子どもを取り巻く様々な環境

(15)

と関連している。そのため、子どもに対する支 援を確立するには、保護者・家庭・保育園・地 域・社会など、一つひとつの問題に目を向け、

改善していかなければならない。子どもは家 庭・保育園・地域・社会など様々な環境におけ る連続性の中で育っている。精神障がいのある 親と暮らす子どもの支援に関する研究は、子ど もの周辺領域にある一つひとつの実情に目を向 け解決に導くことで、子どもに還元されると言 える。

本研究では、保育現場と地域の専門機関との 連携の必要性が示された。保育者は精神障がい のある親とその子どもを支えるため、保育現場 の役割を明確にし、地域の専門機関と連携する ことを望んでいる。保育者は精神障がいのある 親とその子どもを懸命に支え、喜びを抱いて関 わっているが、保育現場の限界も明らかとなっ た。地域には保育園に入所できない子ども、保 護者の精神状態により登園が困難な子どもが存 在する。今後は地域に孤立している家庭を救え るよう、新たな支援を確立していかなければな らない。更に、居住地域や保育形態により支援 の質に差が生じる実態が明らかとなった。この ことから、全ての家庭、保育園に行き渡る支援 のあり方を構築する必要性が示された。今後 は、保護者と子どもの SOS を見逃さないよう、

アウトリーチ事業の活性化が望まれる。現在、

社会福祉士や看護師がアウトリーチ事業を実践 している。この実践現場に保育者が専門職の一 員として、保育者の視点でアウトリーチ事業を 展開することで、支援に対する裾野の広がりが 期待できる。施設内の勤務に留まらず、保育者 の多様な働き方を導入することで、支援の可能 性は広がる。現在の保育現場は人材の不足、多 重業務など、問題は山積している。しかし、保 育者の専門性の向上及びより良い働き方への改 善を実施することが求められる。それは延いて は子どもの保護につながり、子どもの福利に還 元できると考えられる。これらのことからも、

困難な状況下で暮らす精神障がいのある親とそ の子どもを救うため、家庭に介入し支援につな

げることができる専門職の強化、保育者の多様 な働き方への検討が求められる。今後も、精神 障がいのある親と暮らす子どもの支援に関し、

継続した研究を重ねていきたい。

謝辞

本研究において、インタビューへのご協力に 快く応じてくださいました調査対象者である保 育園の先生方に、心より厚くお礼申し上げま す。お忙しい中、大変貴重なお話を聴かせてい ただきまして、本当にありがとうございまし た。

論文の作成にあたりまして、指導教授・主査 である平田幸宏准教授、副指導教授・副査であ る甲斐仁子教授には、多くのご指導をいただき ましたことを心よりお礼申し上げます。また、

横倉聡教授、石渡和美教授には大変お世話にな りましたことを深く感謝致します。本学院非常 勤講師の永田陽子先生には、多くのご助言をい ただき、研究の方向性を定めることができまし たことを心より感謝致します。

同期であり本学院修了生の髙瀬利恵さんに は、質的研究の手法をご指導いただきましたこ とを心よりお礼申し上げます。髙瀬さんの研究 に対する姿勢から研究の意義、価値を学び取る ことができました。入学時から多くのお支えと 励ましをくださり、深く感謝致します。

最後に大学院生活を共に送りました同期入学

の皆様、幼児教育コースの皆様をはじめ、人間

科学研究科の皆様、国際協力研究科の皆様に心

よりお礼申し上げます。高い志を抱かれた皆様

と共に学び、議論を交わした日々は大変刺激に

なり、かけがえのない学びを得ることができま

した。本学院において、学びを共にした全ての

皆様との出会いに心より感謝致します。

(16)

参考文献

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夏苅郁子「家族として、当事者として、そして精神 科医として─日本精神神経学会の皆様へお伝え したいこと─」『精神神経学雑誌』117 ⑶,2015,

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林優子・土田玲子  他「尾道市の子育て地域支援シ ステム構築にむけての支援者側の意識調査」『人 間と科学  県立広島大学保健福祉学部誌』10 ⑴,

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参考 URL

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参照

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