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論文審査の結果の要旨

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Academic year: 2021

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論文審査の結果の要旨

氏名:落

博士の専攻分野の名称:博士(歯学)

論文題名:音声分析を応用した低位舌の識別に関する研究

審査委員: (主 査) 教授 近 信太郎 (副 査) 教授 葛 西 教授 河

矯正患者の中には,舌突出癖や低位舌などの口腔習癖を伴う者が多い。これらの習癖は不正咬合の原因 となり,また,矯正治療後の後戻りの原因ともなっている。そのため,不正咬合の予防には舌の位置を正し く評価し,異常な舌運動や舌位を改善する必要がある。臨床では視診による舌運動の評価に頼っているが,

客観性や統一性において不十分な部分がある。本講座では,これまで音声を用いた舌突出癖の評価が可能 であることを報告している。しかしながら,不正咬合の原因となる口腔習癖は舌突出癖だけではなく低位 舌も臨床上重要であるが,低位舌についての音響学的評価は行われていない。また,安静時低位舌の客観的 な診断基準がないのが現状である。そこで本研究は,まず安静時低位舌の診断基準について検討し,模擬低 位舌音声を用いて零交差数分析およびメル周波数ケプストラム係数(以下, MFCC)解析による低位舌識別の 可能性を検討した。さらに安静時低位舌と診断された被験者の音声を用いて零交差数分析およびMFCC解析 による低位舌識別の可能性を検討した。

低位舌の診断基準については,日本大学松戸歯学部4年次生225名の側面頭部エックス線規格写真(以 下,セファロ)を撮影し,分析した。選定条件は舌運動に影響を及ぼす歯や矯正装置がない者とした。セフ ァロは通法に従い頭部を固定し,咬頭嵌合位で舌を安静にした状態で撮影されたものである。セファロの トレースは通法により行い,トレースおよび計測は計測者の違いによる誤差をなくすために,すべて同一 の矯正歯科医が行った。計測項目はOzbekらの方法より舌-口蓋間距離(以下,TPD)とした。本研究では,

舌中央部であるTPD5を舌と口蓋の距離とし,低位舌の診断基準として90%tileを用いて設定した。

模擬低位舌音声の解析は,日本大学松戸歯学部歯科矯正学講座医局員9名(男性5名,女性4名,平均

28.3±1.2歳)に低位舌を模して発音させた。選定条件は舌突出癖がなく,石野らの舌運動の評価基準にお

いて16点満点であり,骨格や歯列に大きな不正の無いものとした。低位舌者を模擬するためトランスパラ タルアーチ(以下,TPA)を口腔内に装着した。TPAは矯正治療において大臼歯が近心に動いてこないよう にする補助的な装置である。これを上顎口蓋粘膜から離して設置することで舌中央部が低い位置をとり,

TPAより上に舌が挙がらないようになる。本研究では低位舌の診断基準として90%tile値に基づいて,口 蓋から舌が設定された距離を離れるようにTPAを装着した。9名の被験者にそれぞれ,通常の発音(以下,

正常舌位群), TPAを装着し発音する(以下,模擬低位舌群)の2つの条件で/rakuda/を9回発音させた。

正常舌位群および模擬低位舌群の収録した音声を零交差数分析および MFCC 解析を行った。統計解析には SPSS(SPSS Inc., Chicago, IL, USA)を用い,危険率5%を有意性の判断基準とした。正常舌位群と模擬低 位舌群の音声の比較はWilcoxonの符号付順位検定を行った。

低位舌音声の解析は,日本大学松戸歯学部付属病院矯正歯科来院患者および日本大学松戸歯学部学生の うち,セファロ分析にてTPDを計測し,低位舌の診断基準より低位舌と診断された16名(男性9名,女性

7名,平均21.7±5.1歳)を低位舌群とした。比較対象は上記で用いた正常舌位群とした。低位舌群および

正常舌位群に/rakuda/を 9 回発音させた。正常舌位群および低位舌群の収録した音声を零交差数分析およ MFCC解析を行った。統計解析にはSPSS(SPSS Inc., Chicago, IL, USA)を用い,危険率5%を有意性の 判断基準とした。正常舌位群と低位舌群の音声の比較はMann-WhitneyU検定を行った。

以上より以下の結果が得られた。

1)TPD5は中央値が2.5 mmであり,25~75%tile0.0~6.0 mm,90%tile9.5 mmであった。ま た,最頻値0 mmは全体の30%を占め,尖度が大きく右裾が長い分布を示した。

2)TPAなしとTPAありで,零交差数,MFCC2,MFCC4およびMFCC8に有意差を認めた。

(2)

3)正常舌位群と低位舌群で,MFCC2,MFCC4およびMFCC10に有意差を認めた。

低位舌の定義や診断基準を述べている論文は少なく,客観的な基準がない。本研究により,低位舌の診断 基準はTPD59.5 mm以上であることが示唆された。そこで,低位舌の診断基準を9.5 mmとし,模擬低位 舌の設定値は装置作製の誤差を考慮し口蓋粘膜から10 mm離してTPAを作製し装着した。

TPAなしとTPAありで,零交差数,MFCC2,MFCC4およびMFCC8に有意差を認めたことから,TPAによる舌 位の変化に伴い零交差数,MFCC2,MFCC4ならびにMFCC8に特徴が現れたと考えられる。また,正常舌位群 と低位舌群で,MFCC2,MFCC4およびMFCC10に有意差を認めたことから, MFCC2,MFCC4およびMFCC10 よる低位舌識別の可能性が示唆された。模擬低位舌群および低位舌群ともに有意差が認められたのはMFCC2,

MFCC4であったことから,発音音声の音響特徴量であるMFCC2,MFCC4を用いて,低位舌を識別できる可能

性が示唆された。

以上のことから以下のような結論を得た。

1)TPD5の計測から,90%tileである9.5 mm以上が低位舌の診断基準となる可能性が示唆された。

2)上記の基準による音声分析の結果,MFCC2,MFCC4を用いて,低位舌を識別できる可能性が示唆され

た。

従来の視診による低位舌の判定では,客観性や統一性において不十分な部分があった。そこで零交差数 分析およびMFCC解析を用いた音声分析により,客観的な低位舌の識別が可能であることから,舌位の非侵 襲的な早期診断が可能となり,不正咬合の予防に役立つことが考えられる。

本研究は発音時舌位の評価について音響分析を用いることの有効性について新たな知見を得たものであ り,歯科医学ならびに歯科矯正臨床に大きく寄与し,今後一層の発展が望めるものである。

よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。

令和元年12月19日

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