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知的障害児の文の統語・意味論的構造の自覚の発達 大 城 英 名

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知的障害児の文の統語・意味論的構造の自覚の発達

大 城 英 名

Development of linguistic awareness of syntactico-semantic structure of sentences in children with intellectual disabilities

Eimei OSHIRO Abstract

  The sentence, “Yesterday she gave him a ticket” has the syntactico-semantic structure of Time-Agent-Action- Partner–Object. Linguistic consciousness, with which we can identify the syntactico-semantic structure of sentences, is here defined as linguistic awareness of syntactico-semantic structure of sentences. The purpose of this study was to ascertain the level of development of linguistic awareness of syntactico-semantic structure of a sentence. 38 children in special support classes with intellectual disabilities served as subjects. The task of construct models of syntactico-semantic structure of 26 sentences using symbol plates (Agent, Partner, Object, Place, Time, Instrument, Purpose, Cause or Reason and Action) was given to the children. The results were follows: 1) With respect to the categories “Object”, “Agent” was comparatively easy for the children identify them.

2) On the other hand, concerning the categories “Purpose”, “Cause or Reason”, “Material”, “Place” and

“Instrument” it was difficult for the children to identify each category. Based on the results, teaching method to the children with insufficient linguistic awareness of syntactico-semantic structure of sentences was considered.

Key words : syntactico-semantic structure of sentences, linguistic awareness, children with intellectual disabilities

Ⅰ 問題と目的

 文の統語・意味論的構造(だれが,いつ,どこで,な にを,なぜ,どのように等)の自覚は,知的障害のある 児童生徒にとっても重要である。なぜなら,文の統語・

意味論的構造は,ものを言うときの枠組みであると同時 に,ものを考えるための枠組みでもあるからである。

 児童に,文の構造についての言語的自覚(linguistic

awareness)を形成させるためには,文の構造を一定の

枠組みやカテゴリーで分析できる文法的概念を形成させ る必要がある。今日の国語教育では,初歩的な文法的概 念を形成させるために,はじめに,文の主語,述語,修 飾語の概念の形成が必要であるとされている。

 ちなみに,小学校の学習指導要領(平成 20 年3月告示)

によると,第1〜2学年では,文の主語,述語との照応 関係に注意して,話すこと・聞くこと・読むこと・書く ことを指導すること。第3〜4学年になって,主語,述 語に加え,修飾語と被修飾語との関係を導入するととも に,「だれが」,「いつ」,「どこで」,「なにを」,「どのよ うに」,「なぜ」などの「文の構成について初歩的な理解」

を促す指導を行うこととされている。

 しかし,この「主語」,「述語」の概念は,形式文法上 の概念であるため,3学年の児童にとって難しく,場合 によっては,中・高学年の児童にとっても困難な場合が あると指摘されている(天野,1985a)。この学習の困難 さは,主語,述語,修飾語の概念が,本質的に文の形式 上の概念であるため,文や文の要素の意味内容を一切捨 象し,文の要素間の形式上の関係を抽出しなければなら ないことにある。

 これに対して,文の統語・意味論的構造の諸要素(カ テゴリー)は,文中での各語が荷っている具体的な統語 的意味を表しているため,低学年の児童にとっても,そ の基本的な諸カテゴリーについて学習することが可能で ある。

 例えば,日本語の特殊音節や格助詞の言語的自覚が未 発達であった低学年児童(1〜2学年児)に対して,行 為者(Agent),対象(Object),場所(Place),時間(Time),

相手(Partner),受け手(Patient),道具・手段(Instrument),

材料(Material),目的(Purpose),原因・理由(Cause

or Reason),行為(Action)等の諸カテゴリーを一定の

手続きで指導を行った場合,これらのカテゴリーの言語 的自覚が形成されると指摘されている(天野,1983a)。

(2)

また,これらの諸カテゴリーの言語的自覚が形成される と,日本語の個々の格助詞の意味がより明瞭に意識され るとのことである。

 知的障害児の構文の理解と産出に関しては,これまで にも種々の研究が行われている。例えば,一語文後期の 段階にある発達遅滞児に対して,一定の手続きにより動 詞述語構文の指導を行った場合,その文の産出能力の形 成が可能であること(天野,1983b),さらに,疑問詞を 用いる疑問文の産出・理解も可能であることが示されて いる(天野,1987)。また,行為の方向性と文の立場が 問題となる「やり・もらい」構文,あるいは「受動文」

の理解・産出についても,指導の工夫をおこなえば,こ れらの構文の理解と産出が可能であることが示されてい る(大城,1984)。

 しかし,知的障害児の構文の理解と産出能力の実態は さまざまであり,その指導にあたっては,それぞれの児 童の発達段階に応じたものでなければならない。

 本研究では,知的障害のある児童の構文の理解と産出 について,特に,文の統語・意味論的構造の自覚の発達 について検討すること意図している。

 本研究の目的は,次の2点である。

 (1)知的障害児を対象に,行為者,対象,場所,時間,

相手,受け手,道具・手段,材料,目的,原因・理 由,行為の 12 種の統語・意味論的カテゴリー及び,

それらのカテゴリーからなる動詞述語構文の構造 をモデル(シンボルマーク)を用いて分析する方法 について一定の教育を試み,その受容の程度と可能

性を明らかにする。

 (2)上記の構文のモデル構成課題において,今回の対 象児に特徴的に認められる誤反応のタイプ,カテゴ リー間の混同の特徴などについて分析・検討する。

Ⅱ 方 法

1.対象児童

 知的障害特別支援学級に在籍する児童 38 名(平均 4.3 学年,範囲2〜6学年)を対象とした。対象児は,日常 生活の中での簡単な話のやりとりのできることを条件と した。

2.調査期間

 平成 23 年 11 月〜 12 月 3.調査方法

(1)教育過程

 各児童は,上記のカテゴリーや分析方法をまつたく知 らないので,テストに入る前に,以下の3つの手続きで 教育を行った。

( i )カテゴリーの導入とモデルの説明:

 文の基本的なカテゴリー(行為者,対象,場所,時間,

相手,受け手,道具・手段,材料,目的,原因・理由,

行為等)を表すシンボルマークを使って文を作ることを 説明した後,各児童に,図1に示す説明図とシンボルマー ク(各カテゴリー2枚,サイズは4×4cm)を配布し,

各マークを説明図のシンボルマークのそばに置く。そし て,この説明図にもとづいて各カテゴリーの名称と機能

図1 文の統語・意味論的カテゴリーの説明図(サイズA 4 版)

(3)

(意味)について説明を行った。

(ii)モデル図式にもとづいた文の構成の練習とシンボル の意味の学習:

 次に,図2に示すように,絵の下に文の図式が描かれ た図版を用いて,そのマス目の下に統語・意味論的カテ ゴリーを表すシンボルマークを,左から1つずつ置きな がら,その語を発語し,それに該当するシンボルマーク を置くことを教示し,学習させる。最初,検査者がやり 方の見本を示し,児童は,それを模倣・学習する。その 後で,児童が自力で行う。

 以下の 8 つの文について練習・学習させた。

 (1)みかんを たべる

 (2)アヒルが かわで およぐ

 (3)たろうが ほんを テーブルに おく  (4)たろうが バットで ボールを うつ  (5)はなこが けいとで セータを つくる  (6)たろうが かぜで カサを とばされた  (7)はなこが おかあさんに はなを あげる  (8)おかあさんが はなこから はなを もらう

(ⅲ)モデル図式なしで文のモデルを構成する練習:

 先の(ii)の練習の後,文の下にモデル図式が描かれ ておらず,単に意味単位の数だけマス目が描かれている 図版(図3)を用いて,(ii)と同じ8つの文について,

モデル図式なしに文をつくる練習をおこなう。児童に8 枚の図版をとじた小冊子と,12 種類のシンボルマーク を配布する。児童は各自の机の上にある図1の説明図を 見ながら,各文のマス目の上に,該当するシンボルマー クを置きながら,文のモデルをつくることが求められる。

一問毎ごとに答え合わせをおこない,もし,児童が文の モデルを間違ってつくった場合は,そこで正しいシンボ ルマークを置かせ,訂正させた。

(2)テスト問題

 以上の練習のあと,練習(ⅲ)と全く同じ条件で文を

印刷したテスト用小冊子とシンボルマークを与え,(ⅲ)

とまったく同じ方法で以下の 26 の文についてモデル構 成することを求めた。この場合,児童の机の上にあるシ ンボルマークの説明図を見ることがゆるされた。

 (1)いぬが はしる

 (2)たろうが いすに すわる  (3)たろうが たいこを たたく  (4)おじいさんが カブを ひっぱる  (5)おかあさんは 6じに おきる

 (6)はなこが ジュースを コップに いれる  (7)たろうは 6じに テレビを みている  (8)おばあさんが 3じに こたつで おちゃを 

のむ

 (9)ねこが ねずみを おいかける  (10)きんたろうが くまを たおす

 (11)おかあさんが ベンチで あかちゃんを だい ている

 (12)たろうが いけで さかなを つる

 (13)おかあさんが ほうちょうで だいこんを き

 (14)おかあさんが ほうきで はっぱを はく  (15)かいがんで たろうが シャベルで やま(ト

ンネル)を つくる

 (16)おかあさんが たまごで めだまやきを つく

 (17)たろうが かみで ひこうきを つくる  (18)はなこは あめなので おとおさんに かさを

 もっていく

 (19)たろうは じてんしゃで かわに つりに い

 (20)8じに たろうは がっこうに べんきょうし に いく

 (21)くまが さるに りんごを あげる 図2 文の構造のモデル構成練習用図版

あげる

図3 文の構造のモデル構成の練習及びテスト用図版 ももたろうが いぬに きびだんごを あげる。

(4)

 (22)ももたろうが いぬに きびだんごを あげる  (23)さるが くまから りんごを もらう

 (24)いぬが ももたろうから きびだんごを もら

 (25)ねずみが ねこに おいかけられる  (26)くまが きんたろうに たおされる

Ⅲ 結果と考察

1.各構文の正反応率

表1には,各構文において,該当するシンボルマーク

を全て正しく配列したときの正反応率を示した。今回の 構文は 18 種類である。そのうち,(3),(8),(9),(10),

(12),(16),(17),(18)の8種類の構文については,

各 2 問ずつ実施したため,2問とも正反応を示した場合 の正反応率を求めた。

 その結果,二語文の(1) Agent – Action構文の正反応 率は 61%であった。三語文では,(4) Agent –Time – Action構文が 42.1%で,(2) Agent –Place – Action構文 と(3) Agent –Object –Action構文は共に 34.2%,そし て(8) Agent –Patient–Action構 文 が 18.4 % で,(18)

Patient –Agent – Action構文が 5.3%であった。

表 1 構文の種類における正反応率

問題 構文の種類 人数 正反応率

(1) Agent – Action構文

いぬが はしる 23/38 60.5%

(2) Agent –Place – Action構文

たろうが いすに すわる 13/38 34.2%

(3) Agent –Object –Action構文

たろうが たいこを たたく 13/38 34.2%

(4) Agent –Time –Action構文

おかさんは 6 じに おきる 16/38 42.1%

(5) Agent –Object –Place –Action構文

はなこが ジュースを コップに いれる 2/38 5.3%

(6) Agent –Time –Object – Action構文

たろうは 6 じに テレビを みる 13/38 34.2%

(7) Agent –Time –Place – Object – Action構文

おばあさんが 3 じに こたつで おちゃを のむ 5/38 13.2%

(8) Agent –Patient–Action構文

ねこが ねずみを おいかける 7/38 18.4%

(9) Agent –Place –Patient –Action構文

おかあさんが ベンチで あかちゃんを だいている 5/38 13.2%

(10) Agent –Instrument –Object – Action構文

おかあさんが ほうちょうで だいこんを きる 9/38 23.7%

(11) Place –Agent – Instrument –Object – Action構文

かいがんで たろうが シャベルで やまを つくる 6/38 15.8%

(12) Agent – Material –Object – Action構文

おかあさんが たまごで めだまやきを つくる 2/38 5.3%

(13) Agent –Reason – Patient –Object – Action構文

はなこは あめなので おとうさんに かさを もっていく 0/38 0.0%

(14) Agent –Instrument – Place –Purpose – Action構文

たろうは じてんしゃで かわに つりりに いく 2/38 5.3%

(15) Time –Agent –Place –Purpose – Action構文

8 じに たろうは がっこうへ べんきょうしに いく 2/38 5.3%

(16) Agent – Partner – Object – Action構文

くまが さるに りんごを あげる 13/38 34.2%

(17) Partner –Agent –Object – Action構文

さるが くまから りんごを もらう 4/38 10.5%

(18) Patient –Agent – Action構文

ねずみが ねこに おいかけられる 2/38 5.3%

(5)

 四語文では,(6) Agent –Time –Object – Action構文と

(16) Agent – Partner – Object – Action構文が共に 34.2% で,次いで(10Agent –Instrument –Object – Action 文が 23.7%,(9) Agent –Place –Patient –Action構文が 13.2%,(17) Partner –Agent –Object – Action構 文 が 10.5%,(12) Agent – Material –Object – Action構文が 5.3%であった。

 このことから,三語・四語文になると正反応率が一部 を除いて 34%,以下と低くなり,今回の対象児にとって,

統語・意味論的カテゴリーを示すシンボルマークを用い て文を作成することは難しい課題であったと認められ る。また,構文の種類によっても正反応率に違いがあり,

これも各カテゴリーの自覚の相違によるもと考えられ る。

2.カテゴリー毎の平均正反応率

 文のモデル構成にあたって,各カテゴリーを児童がど の程度正しく識別したのであろうか。また,どのカテゴ リーが児童にとって識別するのが困難であったのであろ うか。

表2に示したのは,カテゴリー毎の平均正反応率であ る。ここでは格助詞の使用が誤りでも,文の統語・意味 論的カテゴリーに応じたシンボルマークが正しく選択で きれば正反応とした。なお,各カテゴリーの平均正反応 率=正反応数/人数(38 名)×各カテゴリーを含む構文 数で算出した。

表2 カテゴリー毎の平均正反応率 カテゴリー 平均正反応率

行為者(Agent 72.6%

対象(Object 80.2%

場所(Place 45.1%

時間(Time 53.3%

受け手(Patient 63.2%

相手(Partner 57.9%

手段・道具( Instrument 48.0%

材料(Material 44.7%

目的(Purpose 26.3%

原因・理由(Cause, Reason 42.1%

行為(Action 63.5%

 その結果,「対象」(80.2%)のカテゴリーが最も高く,

次いで「行為者」(72.6%)のカテゴリーであった。そ れに対して,「手段・道具」(48.0%),「場所」(45.1%),

「材料」(44.7%),「原因・理由」(42.1%)のカテゴリー は 48 〜 42%で,「目的」(26.3%)のカテゴリーは最も 低かった。

 このことから,「対象」と「行為者」のカテゴリーは,

今回の対象児にとって識別しやすいカテゴリーであった と認められる。「行為者」と「対象」のカテゴリーは,

行為者が対象に働きかける,いわゆる行為者を中心にし た知覚のストラテジーが働きやすいので,その識別・同 定が容易であったのではないかと考えられる。それに対 して,「手段・道具」,「材料」,「目的」,「原因・理由」

等のカテゴリーは,絵を直接読み取るだけでは識別でき ず,絵に描かれた人物やものとの関係性,すなわち文の 統語・意味論的関係に立脚してカテゴリーを考えなけれ ばならないので,その難しさがあったと考えられる。「場 所」のカテゴリーは,4語文以上の構文において,その 欠落が多く,児童のメモリースパンも関係しているので はないかと考えられる。

3.児童の誤反応の分析

(1)各カテゴリーの欠落

 今回の誤反応で最も多くみられたのはカテゴリーの欠 落であった。表3は各構文におけるカテゴリーの欠落の 児童数を示してある。また,表4にはカテゴリー毎の平 均欠落率を示してある。なお,カテゴリー毎の平均誤反 応率=誤反応数/人数(38 名)×各カテゴリーを含む構 文数で算出した。

 その結果,構文によってカテゴリーの欠落に相違が認 められた。総じて,構文が長くなると,各種のカテゴリー の欠落が多くみられる傾向にある。例えば,テスト問題

(15),(18),(19),(20)は五語文であり,この場合,

5種類のカテゴリーの欠落がみられた。

 ここで,欠落の多かったカテゴリーを順にみると,最 も多かったのは「目的」(71.1%)で,次いで,「原因・

理由」(55.3%),「材料」(50%),「場所」(44.1%),「時 間」(44.1%),「手段・道具」(39.5%),「相手」(25.3%),

「行為者」(18.6%),「対象」(15.4%),「受け手」(15.4%),

「行為」(9.5%)であった。 

 このことから,特に「目的」,「原因・理由」,「材料」

等のカテゴリーは,識別・自覚しにくい統語 ・ 意味論的 カテゴリーであることが分かる。例えば,「目的」が含 まれる文の問題(20)「8じに たろうは がっこうに べんきょうしに いく」では,38 名中 34 名が下線部の「目 的」の要素を欠落させている。また,「原因・理由」が 含まれる文の問題(18)「はなこは あめなので おと うさんに かさを もっていく」では,38 名中 21 名が 下線部の「原因・理由」の要素を欠落させている。さら に,「材料」が含まれる文の問題(16)「おかあさんが  たまごで めだまやきを つくる」では,38 名中 20 名 が下線部の「材料」の要素を欠落させた。

(6)

表4 カテゴリー毎の平均欠落率 カテゴリー 平均欠落率

行為者 18.6%

対象 15.4%

場所 44.1%

時間 44.1%

受け手 15.4%

相手 25.3%

手段・道具 39.5%

材料 50.0%

目的 71.1%

原因・理由 55.3%

行為 9.5%

(2)各カテゴリー間の混乱における誤反応

表5は,各カテゴリー間の混乱による誤反応を示した 反応マトリックス(confusion matrix)である。

 その結果,児童が,文に含まれている語の統語・意味 論的カテゴリーについて,特に混乱を示したのは,「受

け 手 」 を「 行 為 者 」 と す る 誤 反 応(38 名 中 15 名:

38%)が最も高く,次いで「相手」を「行為者」とする 誤反応(36.8%),「行為者」を「相手」とする誤反応

(34.2%),「材料」を「手段・道具」とする誤反応(26.3%),

「行為者」を「受け手」とする誤反応(23.7%),「手段・

道具」を「材料」とする誤反応(18.4%),「目的」を「行 為」とする誤反応(18.4%)であった。

 このことから,「受け手」,「相手」,「行為者」,「材料」,

「手段」,「目的」は,文中において統語・意味論的にと らえるのが難しいカテゴリーであったと認められる。

 次に具体的な誤反応の例をみてみよう。

(a)「受け手」を「行為者」とする誤反応(38 名中 15 名)

 これらは,「受け手」を「行為者」ととらえ,その混 乱によって,波線部のように「行為者」を「受け手」と する誤反応である。

 問題(9) 「ねこが ねずみを おいかける」を「ね ずみが ねこを おいかける」(1名),「ね こと ねずみが はしってる」(1名),「ね こと ねずみが チューチュー ないて 表3 各構文におけるカテゴリーの欠落を示した児童数

カテゴリー 問 題 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

行為者(Agent 2 12 12 10 12 8 8 3 3 7 6 9 5

対象(Object 1 2 1 1

場所(Place 6 - 17 25 23 20

時間(Time - 13 17 17

受け手(Patient - 3 5 6 12

相手(Partner -

手段・道具(Instrument) ‐ - 13

材料(Material -

目的(Purpose -

原因・理由(Reason -

行為(Action 3 1 1 3 3 4 3 0 0 4 2 4 5

カテゴリー 問 題 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

行為者(Agent 6 9 8 9 9 8 11 4 3 3 6 3 8

対象(Object 11 16 8 5 20 3 9 3 8

場所(Place 15 25 3

時間(Time 20

受け手(Patient

相手(Partner 15 2 10 3 7 3 6

手段・道具(Instrument) 11 21 15

材料(Material 20 18

目的(Purpose 20 34

原因・理由(Reason 21

行為(Action 5 5 4 6 5 6 5 3 4 2 5 3 8

(7)

る」(1名),「ねこが ねずみが はしっ てる」(1名)にする誤反応。

 問題(11)「おかあさんが ベンチで あかちゃんを だいている」を「あかちゃんが ママを  だいてる」(1名),「あかちゃんが だっ こします」(1名)にする誤反応。

 問題(25)「ねずみが ねこに おいかけられる」

「ねずみが ねこを おいかける」(7名),

「きつねが ねこに むしをした」(1名)

にする誤反応。

 問題(26)「くまが きんたろうに たおされる」

「くまが きんたろうに かった」(1名)

にする誤反応。

 このことから,「行為者」と「受け手」の概念につい ての言語的自覚が不十分で,文中における「行為者」と

「受け手」の統語・意味論的カテゴリーに混乱を示して いることが認められる。

(b)「相手」を「行為者」とする誤反応(38 名中 16 名)

 これらは,「相手」を「行為者」ととらえ,その混乱 によって,波線部のように「行為者」を「相手」とする 誤反応である。

 問題(21)「くまが さるに りんごを あげる」

「さるが りんごを わたす」(2名),「さ るが くまに りんごを あげる」(1名),

「くまが りんごを もらう さるに」(1 名)にする誤反応。

 問題(22)「ももたろうが いぬに きびだんごを 

あげる」を「いぬが ももたろうに きび だんごを あげる」(1名),「ももたろう が いぬに きびだんごを もらってい る」(1名)にする誤反応。

 問題(23)「さるが くまに りんごを もらう」

「さるが くまに りんごを あげる」(4 名),にする誤反応。

 問題(24)「いぬが ももたろうから きびだんごを もらう」を「いぬが ももたろうに きび だんごを あげる」(5名),「いぬが き びだんごを あげる」(1名)にする誤反 応。

 この場合も「行為者」と「相手」の概念についての自 覚が不十分なため,文中における「行為者」と「相手」

の統語・意味論的カテゴリーに混乱を示していると認め られる。

(c)「行為者」を「相手」とする誤反応(38 名中 13 名)

 これらは,b)で述べたように「相手」を「行為者」

ととらえ,その混乱によって,波線部のように「相手」

を「行為者」とする誤反応である。

 問題(21)「くまが さるに りんごを あげる」

「さるが くまに りんごを あげる」(1 名),「くまが りんごを もらう さるに」

(1名)にする誤反応。

 問題(22)「ももたろうが いぬに きびだんごを  あげる」を「いぬが ももたろうに きび だんごを あげる」(1名),「ももたろう 表5 各カテゴリー間の混乱,誤反応の人数と割合(%)

反応 文の要素

行為者 対象 場所 時間 受け手 相手 手段・道具 材料 目的 原因・理由 行為

行為者 - - - - 15

(39.5) 14

(36.8) - - - - -

対象 - - - - - - - - - - -

場所 - - - - - - - - - - -

時間 - - - - - - - - - - -

受け手 9

(23.7) - - - - - - - - - -

相手 13

(34.2) - - - - - - - - - -

手段・道具 - - - - - - - 10

(26.3) - - -

材料 - - - - - - 7

(18.4) - - - -

目的 - - - - - - - - - - -

原因・理由 - - - - - - - - - - -

行為 - - - - - - - - 7

(18.4) - -

(8)

が いぬに きびだんごを もらってい る」(1名)にする誤反応。

 問題(23)「さるが くまに りんごを もらう」

「さるが くまに りんごを あげる」(4 名)にする誤反応。

 問題(24)「いぬが ももたろうから きびだんごを もらう」を「いぬが ももたろうに きび だんごを あげる」(5名)にする誤反応。

 この場合も,「行為者」と「相手」の言語的自覚が不 十分なため,文中における「行為者」と「相手」の統語・

意味論的カテゴリーに混乱を示しているといえる。

(d)「材料」を「手段・道具」とする誤反応(38 名中 10 名)

 問題(16)「おかあさんが たまごで めだまやきき を つくる」を「おかあさんが フライパ ンで めだまやきを つくっている」(10 名)にする誤反応。

 これは,「たまごで」という「材料」が入るべきとこ ろに,「フライパンで」という「手段・道具」を入れて いる。文の統語・意味論的な観点からは必ずしも誤りで はないが,「手段・道具」と「材料」のカテゴリーの自 覚が十分でなかったことによる誤反応と考えられる。

(e)「行為者」を「受け手」とする誤反応(38 名中 9 名)

 これは,a)で述べたように「受け手」を「行為者」

ととらえ,その混乱によって,波線部のように「受け手」

を「行為者」とする誤反応である。

 問題(9) 「ねこが ねずみを おいかける」を「ね ずみが ねこを おいかける」(1名)に する誤反応。

 問題(11)「おかあさんが ベンチで あかちゃんを だいている」を「あかちゃんが ママを  だいてる」(1名)にする誤反応。

 問題(25)「ねずみが ねこに おいかけられる」

「ねずみが ねこを おいかける」(7名)

にする誤反応。

 このことから,「行為者」の概念が十分に形成されて いない児童が多いことが分かる。また,「受け手」とい う統語・意味論的カテゴリーが,語彙・意味論的に理解 されていることを示している。

(f)「手段・道具」を「材料」とする誤反応(38 名中 7 名)

 問題(15)「かいがんで たろうが シャベルで や まを つくる」を「たろうが すなで あ そんでいる」(4名),「すなで たろうが やまを つくっている」(3名)にする誤 反応。

 これは,「シャベルで」という「手段・道具」が入る べきところに,「砂で」という山を作るための「材料」

を入れている誤反応である。文中における「手段・道具」

と「材料」の統語・意味論的カテゴリーの混乱の結果と いえよう。

(g)「目的」を「行為」とする誤反応(38 名中 7 名)

 問題(19)「たろうは じてんしゃで かわに つり りに いく」を「たろうが つりぼりで  さかなを つる」(4名)にする誤反応。

 問題(20)「8じに たろうは がっこうに べん きょうしに いく」を「8じに たろうが がっこうにきて べんきょうをしていま す」(3名)にする誤反応。

 これらは,「目的」を「行為」とする誤反応である。

今回,「目的」のカテゴリーにあたる「勉強しに」,「釣 りに」をそれぞれ「勉強」,「釣り」という語彙だけに反 応し,すなわち文における語の統語・意味論的な理解で はなく,語彙・意味論的に理解したため,「勉強」,「釣り」

が「行為」として産出している。「目的」のカテゴリー の自覚が十分に形成されていないことも関係していると いえよう。

4.格助詞の誤反応

表6は,各カテゴリーの格助詞の平均誤反応率(欠落 と別の格助詞)を示したものである。また,表7には,

各構文におけるカテゴリ−毎の格助詞の誤反応をまとめ て示した。なお,各カテゴリーにおける格助詞の平均誤 反応率=誤反応数/人数(38 名)×各カテゴリーを含む 構文数で算出した。  

表6 格助詞の平均誤反応率 文の要素 平均誤反応率

行為者 9.8% 対 象 6.5% 場 所 3.3% 時 間 5.3% 受け手 25.0% 相 手 28.9% 手段・道具 7.9% 材 料 17.1% 目 的 0.0% 原因・理由 10.5%

 その結果,格助詞の誤反応は 3.3%〜 28.9%で比較的 低かった。ただし,「相手」,「受け手」については,文 中における「行為者」と「相手」,「行為者」と「受け手」

の統語・意味論的概念の理解が十分とはいえない格助詞 の誤反応が認められた。

 次に,「受け手」と「相手」の具体的な誤反応の例を

(9)

みてみよう。

(5)「受け手」の格助詞の誤反応

 問題(9) 「ねこが ねずみを おいかける」を「ね ずみが ねこを おいかける」(38 名中1 名),「ねずみが ねこに おいかけられて る」(1名),「ねずみと ねこが はしっ てる」(3名),「ねこが ねずみに はしっ てるところ」(1名),「ねこが ねずみが はしってる」(1名)にする誤反応。

 問題(10)「きんたろうが くまを たおす」を「き んたろうが くま  たおす」(38 名中1 名),「きんたろうが くまと すもうを とった」(3名),「きんたろうと くまが すもうをとった」(3名),「きんたろうと くまと すもうしてる」(1名),「きんた ろうが くまに まける」(2名),「きん たろうが くまに びっくりさせた」(31 名)にする誤反応。

 問題(11)「おかあさんが ベンチで あかちゃん  だいている」を「おかあさんが ベンチで あかちゃん  だいている」(38 名中2

名),「おかあさんが あかちゃんに だっ こをする」( 1名),「あかちゃんが ママ を だいている」(2名)にする誤反応。

 問題(25)「ねずみが ねこに おいかけられる」

「ねずみと ねこが はしる」(38 名中1 名),「ねこが ねずみを おいかける」(8 名),「ねこが ねずみに おいかける」(1 名),「ねずみが ねこを おいかける」(7 名)にする誤反応。

 問題(26)「くまが きんたろうに たされる」を「き んたろうが くまを たおす」(38 名中 10 名),「きんたろうが くまに まける」(2 名),「きんたろうが くまに びっくりし た」(1名),「きんたろうが くまに かっ た」(1名),「きんたろうが くまを す もうやっている」( 1名),「きんたろうが くまを ごっつん」(1名),「きんたろう に くまが たおれる」(1名)にする誤 反応。

 このように,児童にとって「行為者」,「受け手」の文 中における統語・意味論的カテゴリーの理解が十分でな 表7 各構文における格助詞の誤反応人数

反 応 問 題 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

行為者 7 1 1 4 2 1 - 1 6 6 3 1 -

対象 - - 3 2 - 3 2 3 - - - 1

場所 - 4 - - - 1 -

時間 - - - - 3 - 2 2 - - - - -

受け手 - - - 7 11 5 -

相手 - - - -

手段・道具 - - - -

材料 - - - -

目的 - - - -

原因・理由 - - - -

反 応 問 題 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

行為者 - - - 2 4 5 10 8 22 13

対象 1 1 - 3 - - - 2 2 1 1

場所 - 1 - - 1 - 3 - - - -

時間 - - - 1 - - - -

受け手 - - - 17 17

相手 - - - - 2 - - 9 5 21 18 - -

手段・道具 1 - - - - 11 - - - -

材料 - 3 10 - - - -

目的 - - - -

原因・理由 - - - - 4 - - - -

(10)

いことによる誤反応が認められた。受動文では「受け手」

の視点で構文を産出するということが困難で,そのため

「おいかけられる」や「たおされる」という受動語を産 出できず,能動文にする誤反応を示した。

(6)「相手」の格助詞の誤反応

 問題(21)「くまが さるに りんごを あげる」

「くまが さるが りんごを あげている」

(38 名中1名),「さるで りんごを あげ る」(1名),「さるは くまは りんごを あげる」(1名),「さるが りんごを ほ しがって さるに あげた」(1名),「さ るが くまに りんごを もらってる」(1 名),「さるが くまに りんごを あげる」

(3名),「くまが りんごを もらってる さるに」(1名)にする誤反応。

 問題(22)「ももたろうが いぬに きびだんご あ ける」を「いぬが ももたろうに きびだ んごを あげる」(1名),「ももたろうに いぬに きびだんごを あげる」(1名),

「ももたろうが いぬを きびだんごを  あげる」(1名),「ももたろうが いぬが きびだんご ください」(1名),「ももた ろうと いぬが だんごを もらってる」

(1名)にする誤反応。

 問題(23)「さるが くまから りんごを もらう」

を「サル  くまから りんごを もらう」

(38 名中1名),「さるが くまが りんご を あげよう」(1名),「くまが さるを りんごを あげる」(1名),「さるを り んごを あげる」(1名),「くまと さる が りんごを あげる」(1名),「さるが くまを りんごを あげた」(31 名),「く まが さるに りんごを あげた」(9名),

「さるが くまに ゴりんごを あげる」

(7名)にする誤反応。

 問題(24)「いぬが ももたろうから きびだんごを もらう」を「ももたろうは いぬが きび だんごを あげた」(1名),「いぬに も もたろうを きびだんごを もらう」(1 名),「ももたろうが いぬに きびだんご を あげる」(10 名),「いぬが ももたろ うに きびだんごを あげる」(6名)に する誤反応。

 このことから,「相手」についても「受け手」と同様,

児童にとって「行為者」,「相手」の理解がまだ不十分で あることが認められた。特に,もらい文において「相手」

の視点で構文を産出することが困難な児童が多くいた。

そのため,「もらう」という「行為」の語を産出できず,

能動文にする誤反応を示した。

Ⅳ 討論と結論

 以上,得られた結果について述べてきたが,これを踏 まえて,以下に若干の討論を行い,論を結ぶことにする。

(1)知的障害児の統語・意味論的カテゴリーの自覚の発 達について

 今回の研究は,知的障害特別支援学級に在籍する児童 が文の統語・意味論的構造をどの程度分析できるか,そ の構造についてどの程度の言語的自覚をもっているかを 明らかにすることであった。そのため,12 種類の統語・

意味論的カテゴリー及びそれを表示するシンボルマーク を用いて一定の教育・練習を行った後,種々の統語 ・ 意 味論的構造をもつ文について,それらを分析し,モデル で表す課題を与えた。

 その結果,文に含まれる統語・意味論的要素を児童が 分析する際に,12 種類のカテゴリー間にかなりの難易 度があることが明らかとなった。まず,「対象」,「行為者」

のカテゴリーは,今回の児童にとっても十分に識別・同 定できた。それに対して,「手段・道具」,「材料」,「目的」,

「原因・理由」,「場所」のカテゴリーは,相対的に困難で,

識別・同定が十分ではなかった。このことは,小学校低 学年児でも同様なことが認められると指摘されている

(天野,1985b)。

 今回の児童にとって,「対象」,「行為者」のカテゴリー は,文中におけるこれらの要素を正しく識別し,カテゴ リー化できる一定の言語的自覚をもっていることを意味 している。これに対して,「手段・道具」,「材料」,「目的」,

「原因・理由」,「場所」等のカテゴリーは,相対的に識別・

同定率が低く,また,これらのカテゴリーの欠落率が 39.5%〜 71.1%あり,言語的自覚をもつに至っていない ことが認められる。さらに,「目的」,「材料」,「行為者」,

「相手」,「受け手」については,これらのカテゴリー間 の混乱による誤反応が多く認められた。

 例えば,「目的」を含む構文では,「目的」を「行為」

とする誤反応,「たろうが じてんしゃで かわに つ りりに いく」という文の「つりりに」という「目的」

を「たろうが つりぼりで さかなを つる」と「行為」

にする誤反応(38 名中5名)。「8じに たろうは がっ こうに べんきょうしに いく」という文の「べんきょ うしに」という「目的」を「べんきょうします」と「行 為」にする誤反応(38 名中3名)を示した。

 「材料」を含む構文では,「材料」であるべき語を「対 象」とする誤反応,「材料」が入るべきところに「手段・

道具」を入れる誤反応がみられた。「たろうが かみで

(11)

 ひこうきを つくる」という文の「かみで」という「材 料」を「たろうが おりがみを 折る」のように「対象」

とする誤反応(38 名中8名)。「おかあさんが たまご で めだまやききを つくる」という文の「たまごで」

という「材料」を「おかあさんが フライパンで めだ まやききを つくる」と「手段・道具」にする誤反応(38 名中 10 名)を示した。

 「手段・道具」を含む構文では,「手段・道具」を「材 料」にする誤反応がみられた。例えば,「かいがんで  たろうが シャベルで やまを つくる」という文の

「シャベルで」という「手段・道具」を「たろうが す なで いえを つくりました」と「材料」にする誤反応

(38 名中8名)を示した。

 「受け手」が含まれる構文では,「行為者」と「受け手」

を混同する誤反応がみられた。特に,この誤反応が多く みられるのは受動文である。例えば,「ねずみが ねこ に おいかけられる」という文では,「ねずみが ねこ を おいかける」という誤反応(38 名中7名)を示した。

 「相手」が含まれる構文では,「行為者」と「相手」を 混同する誤反応がみられた。また「受け手」を含む構文 でも同様に,受動文に誤反応が多くみられた。例えば「さ るが くまから りんごを もらう」という文では,「さ るが くまに りんごリを あげた」とする誤反応(38 名中 6 名)で,これらは文の変換能力と関係性の理解が 不十分なためと考えられる。

 以上のように,カテゴリー間の誤りは,文の要素を,

統語・意味論的に分析できず,語彙・意味論的にとらえ た結果であり,統語・意味論的カテゴリーの語彙・意味 論的理解による誤り,ということができる。また,文の 変換能力の不十分さからくる,文の統語・意味論的関係 の理解の困難さもあり,今回の児童にとって,文の要素 を,統語・意味論的カテゴリーで理解・自覚することは 難しかったといえる。

(2)統語・意味論的カテゴリーの教育と学習の可能性に ついて

 今回,12 種類の統語・意味論的カテゴリーについて,

簡単ではあるが一定の教育を行い,その後それぞれのカ テゴリーを用いて,文の構造を分析させた。その結果,

文のモデル構成の課題において大きな相違が認められ た。「対象」,「行為者」のカテゴリーは,今回の児童に おいて十分に識別・同定された。しかし,「手段・道具」,

「材料」,「目的」,「原因・理由」,「場所」等のカテゴリー の識別・同定は困難であった。このことは,これらのカ テゴリーについては統語・意味論的に理解・自覚するこ とが難しいということを意味している。

 しかし,これらのカテゴリーの理解が困難であったか らといって,その教育と学習の可能性がないということ

ではない。今回実施したような簡単な教育では,これら のカテゴリーについて十分な自覚をもたせることは難し いと理解すべきである。もしそうならば,この段階の児 童にこそ,統語・意味論的なカテゴリーの理解・自覚を 促す丁寧な指導が必要である。

 では,どのようにして,この種のカテゴリーの明瞭な 言語的自覚を,児童に促すことができるのであろうか。

その方法の一つは,今回のように各カテゴリーを一定の シンボル図式で表し,文の構造をモデル化する方法であ る。この方法は,児童に課題に対する興味を喚起させる だけではなく,課題を遂行していく中で,文の構造や文 中の統語・意味論的要素に言語学的な定位・注意をひき おこすことができる。ただし,シンボル図式の表示につ いては,児童の実態に応じて工夫する必要がある。

 さらに,文の統語・意味論的要素の言語的自覚を明確 に形成させるためには,文中の当該要素の統語・意味論 的意味を展開して表現させていく学習・指導が必要であ る。例えば,①「たろうが いけで さかなを つる」

の場合,それを「いけという場所で およぐ」というよ うに,また,②その要素に対応した疑問詞を用いて,疑 問文をつくらせる(先の文の場合,「どこで つるの?」)

というように展開して表現させる学習・指導も必要であ ると考えられる。

 また,いきなり図版を用いてのモデル構成課題が難し い児童の場合,構文の内容を本人,または人形等を用い て実際に行為で演じさせる対象行為を形成させ,その後 で言語面へ移行させていく学習が必要である。児童の実 態に応じて,実際の対象的行為の平面で統語・意味論的 カテゴリーの理解を促しながら,今回のような図版を用 いたモデル構成課題に移行させていく工夫が必要であろ う。

 文の統語・意味論的構造(だれが,いつ,どこで,な にを,なぜ,どのように等)は,すでに指摘したように,

ものを言うときの枠組みであると同時に,ものを考える ための枠組みである。その言語的自覚を促すことは,児 童のコミュニケーション能力や思考力を高めることであ り,知的障害のある児童の教育的課題としても重要であ る。

 上述してきたように,知的障害のある児童の場合は,

文の統語・意味論的カテゴリーを語彙・意味論にとらえ る傾向が強い。このような水準にある児童に明瞭な統語・

意味論的な自覚を形成させるための指導法の課題は,児 童のその言語的現実の自覚の発達の質的水準を明らかに する課題と共に,今後さらに実践的に検討していくべき 課題として残されている。

表 1 構文の種類における正反応率

参照

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