Extended-spectrum β lactamase(ESBL)産生大腸菌が分離された 上部尿路感染症の乳児 4 例
1)昭和大学医学部小児科学教室,2)同 臨床病理学教室,3)昭和大学病院薬剤部,4)昭和大学医学部臨床感染症学教室
日比野 聡
1)福地 邦彦
2)阿部 祥英
1)星野 顕宏
1)櫻井 俊輔
1)三川 武志
1)冨家 俊弥
3)吉田耕一郎
4)板橋家頭夫
1)(平成 23 年 3 月 22 日受付)
(平成 23 年 6 月 1 日受理)
Key words : urinary tract infection, Extended-spectrum
βlactamase-producing Escherichia coli, infant
要 旨
Extended spectrum
βlactamase(ESBL)産生菌は成人の尿検体由来株での分離が多く,多剤耐性である ために院内感染の原因菌として問題視されている.また,近年では市中感染の報告も増加しているが,本邦 において乳児の上部尿路感染症(Urinary tract infection;UTI)を引き起こすという報告は少ない.今回,
遺伝子検査により ESBL 産生大腸菌による初発の上部 UTI と診断した乳児 4 例を経験したので報告する.各 症例の病歴,薬剤感受性検査,使用抗菌薬とその効果,基礎疾患の有無は診療録から後方視的に検討した.1 例は菌血症で入院歴があり,2 例は抗菌薬の投与後に罹患しており,ESBL 産生菌への罹患要因として抗菌 薬使用が疑われたが,感染経路を特定できた症例はなかった.基礎疾患として 2 例に両側膀胱尿管逆流現象 を認め,腎シンチグラフィを施行された 3 例において,感染後早期には全例とも欠損像を認めたが,腎瘢痕 形成を認めたのは 1 例のみであった.ESBL 遺伝子型は 1 例が CTX-M3,3 例が CTX-M14 で全て CTX-M 型の酵素産生株であった.全株ともに薬剤感受性検査でセファロスポリン系抗菌薬に耐性を示したが,2 例 は cefazolin,1 例は ceftazidime を使用して臨床効果を得た点で薬剤感受性検査結果との相違を認めた.1 例は最終的に panipenem
!betamipron が有効であり,敗血症や髄膜炎に進展した症例はなかった.退院後 は全例に抗菌薬の予防投与を行い,再感染は認めなかった.本邦において ESBL 産生菌による感染症は増 加しており,乳児の上部 UTI は初感染でも ESBL 産生菌が起因菌になりうることに留意すべきである.
〔感染症誌 85:481〜487,2011〕
序 文
Extended spectrum
βlactamase(ESBL)産生菌は 1983 年に初めて欧米で報告され
1),本邦では 1995 年 以降に報告されているが
2),ペニシリン系のみでなく,
抗菌スペクトルの広いセファロスポリン系薬剤に対し ても耐性を示すため,感染症の原因菌になった場合は 抗菌薬の選択が問題となる.成人の尿検体由来株での 分離が多く,院内感染の原因菌として問題視される のみでなく,近年では市中感染の報告も増加している が
3),本邦において小児の上部尿路感染症(Urinary tract infection;UTI)を引き起こすとする報告は少 ない
4).上部 UTI は腎実質障害の原因となる可能性が
あるほか,乳児においては敗血症や細菌性髄膜炎など 感染の重症化が問題となる.今回,遺伝子検査により ESBL 産生大腸菌(Escherichia coli)による上部 UTI と確定診断した乳児 4 例を経験したので報告する.
対象と方法
対象:2006 年 1 月 1 日から 2008 年 12 月 31 日まで の 3 年間に昭和大学病院小児科に入院し上部 UTI と 診断された小児のうち,尿細菌培養で検出された E.
coli の薬剤感受性検査から,原因菌として ESBL 産生
E. coli が疑われた乳児 4 例である.
方法:各症例の臨床的特徴(病歴,薬剤感受性検査,
使用抗菌薬とその効果,基礎疾患の有無)を診療録か ら後方視的に検討し,ESBL 産生 E. coli の ESBL 遺伝 子解析を行った.
原 著
別刷請求先:(〒142―8666)東京都品川区旗の台 1―5―8 昭和大学医学部小児科学教室 阿部 祥英
Table 1 Subject summaries
Case No. 1 2 3 4
Age (months) 3 2 6 5
Gender Female Male Female Male
Siblings One brother - - -
History - - Bacteremia -
Fever duration (days) 6 6 4 3
Severity Moderate Moderate Moderate Moderate
Administered antibiotics CFPN-PI → CEZ
→ CAZ CEZ → FMOX
→ PAPM/BP AMPC → CDTR-PI
→ CEZ AMPC → CEZ
→ CAZ VUR Bilateral (grade IV in
right, grade I in left)
- - Bilateral (grade II)
Hydronephrosis Right (grade 1) Left (grade 3) - -
Hydroureter - Right (grade 1) Bilateral (grade 1) -
Initial DMSA defect in renal scintigraphy
Right Left Left ND
Renal scarring in renal scintigraphy
- - Left ND
Prophylaxis NA CCL S/T CCL
-: not applicable, CFPN-PI: cefcapene pivoxil, CEZ: cefazolin, CAZ: ceftazidime, FMOX: flomoxef, PAPM/BP: panipenem/betamipron, AMPC:
amoxicillin, CDTR-PI: cefditren pivoxil, VUR: vesicoureteral reflux, ND: not done, DMSA: dimercaptosuccinic acid, NA: nalidixic acid, CCL:
cefaclor, S/T: sulfamethoxazole/trimethoprim
E. coli による上部 UTI の診断および重症度と抗菌
薬の臨床効果の判定:経過中に 37.5℃ 以上の発熱を 認め,尿道カテーテルによって採取した尿細菌培養検 査で,単一コロニーの E. coli を 10
4cfu! mL 以上認め
た場合を E. coli による上部 UTI と定義した.重症度
および抗菌薬の臨床効果は日本化学療法学会の小児科 領域抗菌薬臨床試験における判定基準に準じて以下の ように判定した
5).すなわち,尿路感染症は原則とし て軽症の疾患であるが,尿路に奇形や変形が認められ る症例,原因菌が耐性菌である症例,6 カ月以下の乳 児,あるいは高熱が長期(4 日以上)続く場合,CRP 高値(10mg! dL 以上),白血球数増多(15,000!
μL 以上)のうち 2 つ以上ある症例は中等症とした.臨床効 果は主要症状である体温が 37.5℃ 以上であることを 発熱と定義した場合の解熱を指し,著効は主要症状が 投薬開始日を 0 日として 1 日以内に明らかな改善傾向 を示し,3 日以内にほとんど消失した場合,有効は主 要症状が投薬開始日を 0 日として 3 日以内に明らかな 改善傾向を示し,5 日以内にほとんど消失した場合,
無効は投薬開始後主要症状が改善しないか,または悪 化した場合であるが,最終的な判定は尿検査所見を参 考にした.
E. coli の薬剤感受性検査:ESBL 産生 菌 の 推 定 は
米国臨床検査標準化委員会(Clinical and Laboratory Standards Institute:CLSI)による方法を用いた.す な わ ち,cefpodoxime(CPDX),ceftazidime(CAZ),
cefotaxime(CTX),ceftoriaxone(CTRX),aztreonam
(AZT)のうちいずれかの薬剤に耐性を示す場合に ESBL 産生を疑い,クラブラン酸を用いた阻害試験で
拡大した阻止円径および MIC 値が 2 管以上低下した ときに ESBL 産生菌と判定した.
ESBL 遺伝子の PCR による検出と塩基配列決定:
血液培地で 24 時間 培 養 し た コ ロ ニ ー か ら 集 菌 し,
SepaGene(三光純薬,東京)を用いて DNA 抽出を 行った.bla
CTX-Mの検出には bla
CTX-M2,3,6,9,14など bla
CTX-Mに 共通配列の保存領域(AJ416343 bla
CTX-M2)に 520bp の PCR 産物を得る Forward 5ʼ-TTTGCGATGTGCAGT ACCAGTAA-3ʼ,Reverse 5ʼ-CTCCGCTGCCGGTTT TATC-3 の primer を 設 定 し た.PCR に は template DNA として細菌ゲノム DNA 50ng を使用し,50pmol の Forward および Reverse primer,2.5mmol dNTP,
0.25 unit Taq DNA polymerase(Roche, Basel, Swit- zerland)を 全 量 25μL に 調 製 し,94℃30 秒,60℃90 秒,72℃90 秒を 30 サイクルで Gene Amp PCR Sys- tem 9600(Applied Biosystems Japan,東京)を用い て行った.PCR 産物は 5% ポリアクリルアミドゲル 電気泳動を行い,SYBR green で染色した後に UV イ ルミネーターで確認した.塩基配列は PCR 産物 0.1
μg を鋳型とし,sequence primer に PCR primer を使用 して,Dual CyeDye terminator sequencing kit(Sie- mens Healthcare diagnostics)を反応させた後,Long- Read Tower,UBC DNA Sequencer(Siemens Health- care diagnostics)を用いて決定した.
尿路異常の検索:アメリカ小児科学会の推奨
6)に基 づき,画像診断で尿路の器質的異常の検索を行った.
水腎症,水尿管症は日本小児腎臓病学会の基準
7)にし
たがって超音波で診断し,膀胱尿管逆流現象(vesico-
ureteral reflux;VUR)は International Reflux Study
Group の分類
8)に従って排尿時膀胱尿道造影(voiding cysto-urethrography;VCUG)で 診 断 し た.施 行 可 能 で あ っ た 症 例 に 対 し,dimercaptosuccinic acid
(DMSA)腎シンチグラフィは腎盂腎炎および腎実質 障害の検索目的で解熱後早期に,腎瘢痕の検索目的で 解熱後 12 カ月から 24 カ月以内に施行した.画像検査 の施行時期に関してはアメリカ小児科学会の推奨に準 じた
6).
成 績
4 例の臨床経過を以下に記し,主な臨床像を Table 1 に示す.
症例 1:3 カ月,女児.
主訴:発熱.
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴:特記すべきことなし.
現病歴:発熱を主訴に前医を受診し,尿定性試験で 白血球を認めたため UTI を疑われ,cefcapene pivoxil
(CFPN-PI)を処方された.CFPN-PI は 5 日間使用後 に中止されたが,再び発熱が出現し,尿中白血球を継 続して認めたため CFPN-PI の投薬が再開された.そ の後,5 日間発熱が継続したため当院を紹介され,受 診した.
経過:入院時の身体所見は体温 36.0℃,心拍数 138 回
!分,呼吸数 36 回
!分で,その他は特に異常は認め なかった.血液検査では白血球数 19,900
!μL,CRP 5.7 mg! dL であり,尿定性検査で白血球を認めたため,中 等症の UTI を疑った.入院後に発熱を認め,cefazolin
(CEZ,50mg! kg! 日)投与により解熱したが,膿尿 が継続したため抗菌薬は CEZ を 4 日間投与後に CAZ
(100mg! kg! 日)に変更した.その後膿尿は消失し,
血液検査で白血球数および CRP 値は正常化した.入 院時に施行した尿細菌培養検査で E. coli が検出され,
薬剤感受性検査結果から ESBL 産生 E. coli が推定さ れたが,CAZ は臨床効果を認めたと判断し 9 日間使 用して中止した.前医での経過を含めた有熱期間は 6 日間であった.腎臓超音波検査では右腎に grade 1 の 水腎症を認めた.抗菌薬中止後に VCUG を施行し,
VUR 右 IV 度,左 I 度を認めた.また,解熱後 11 日 目に施行した DMSA 腎シンチグラフィでは右腎に欠 損像を認めた.その後 12 カ月間は Nalidixic acid(NA,
30mg! kg! 日)の予防投与を行い UTI の再罹患は認め なかったが,VCUG にて VUR の改善を認めなかった ため他院で逆流防止術を施行された.UTI 罹患の 17 カ月後に施行した腎シンチグラフィでは異常所見を認 めず,腎瘢痕形成は否定的であった.
尿培養検査の陰性化は入院後 10 日目に確認され,抗 菌 薬 の 臨 床 効 果 に 関 し て CEZ は 有 効 と 判 定 し た.
CAZ は判定不能であった.
症例 2:2 カ月,男児.
主訴:発熱.
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴:特記すべきことなし.
現病歴:発熱を主訴に当院を受診し,尿定性試験で 白血球を認めたため UTI を疑い,入院加療とした.
経過:入院時の身体所見は体温 39.7℃,心拍数 142 回! 分,呼吸数 42 回! 分で,その他は特に異常は認め なかった.血液検査は白血球数 8,800!
μL,CRP 1.6mg!dL であった.中等症の UTI を疑い,抗菌薬は CEZ
(50mg
!kg
!日)を 2 日間使用したが解熱せず,入院 時の尿細菌培養検査結果と薬剤感受性検査結果から ESBL 産生 E. coli を疑い,抗菌薬を flomoxef(FMOX,
80mg! kg! 日)に変更した.その後 FMOX を 3 日間使 用したが解熱せず,panipenem
!betamipron(PAPM
!BP,60mg
!kg
!日)に変更後,翌日に解熱した.血液 検査で白血球数および CRP 値の改善を確認し,7 日 間使用して中止した.有熱期間は 6 日間であった.腎 臓超音波検査では左腎に grade 3 の水腎症,左尿管に grade 1 の水尿管症を認めた.抗菌薬中止後に施行し た VCUG で VUR は認めず,解熱後 13 日目に施行し た DMSA 腎シンチグラフィでは左腎上極に欠損像を 確認した.その後 12 カ月間は cefaclor(CCL,5mg!
kg
!日)の予防投与を行ったが,UTI の再罹患は生じ なかった.UTI 罹患から 18 カ月後に施行した腎シン チグラフィでは異常所見を認めず,腎瘢痕形成は否定 的であった.
尿培養検査の陰性化は入院後 18 日目に確認され,抗 菌薬の臨床効果に関して,CEZ および FMOX は無効,
PAPM! BP は著効と判定した.
症例 3:6 カ月,女児.
主訴:発熱.
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴:3 カ月時に penicillin resistant Streptococcus
pneumoniae (PRSP)による菌血症のため入院し,CEZ
を 11 日間使用された.
現 病 歴:発 熱 を 主 訴 に 近 医 を 受 診 し amoxicillin
(AMPC)を処方され 2 日間使用されたが解熱せず,
cefditoren pivoxil(CDTR-PI)に変更された.その後 も発熱は継続し,血液検査で白血球数および CRP 値 の上昇を認めたため当院を紹介され受診した.
経過:入院時の身体所見は体温 37.0℃,心拍数 100
回
!分,呼吸数 42 回
!分で,その他は特に異常は認め
なかった.血液検査は白血球数 21,000!
μL,CRP 12.2mg! dL であり,尿定性検査で白血球を認めたため中
等症の UTI を疑い,CEZ(50mg! kg! 日)の投与を開
始した.翌日に解熱し,その後,血液検査で白血球数
および CRP 値の改善を認めた.入院時に施行した尿
Table 2 Extended-spectrum beta-lactamase (ESBL) genotypes in Escherichia coli (E. coli) and minimum inhibitory concentration (MIC) of antimicrobials against E. coli strains isolated.
Antimicrobial Agent 1)
Cases with ESBL genotype in E. coli
1 (CTX-M3) 2 (CTX-M14) 3 (CTX-M14) 4 (CTX-M14)
(μg/mL)MIC Sensitivity2) MIC
(μg/mL) Sensitivity2) MIC
(μg/mL) Sensitivity2) MIC
(μg/mL) Sensitivity2)
ABPC >16 R >16 R >16 R >16 R
PIPC >64 R >64 R >64 R >64 R
CEZ >16 R >16 R >16 R >16 R
CTM >16 R >16 R >16 R >16 R
CTX >32 R >32 R >32 R >32 R
CAZ 16 R >16 R <1 R <1 R
CPR >16 R >16 R >16 R >16 R
CCL >16 R >16 R >16 R >16 R
CPDX >4 R >4 R >4 R >4 R
CMZ <4 S 8 S <4 S <4 S
FMOX <8 S <8 S <8 S <8 S
IPM/CS <1 S <1 S <1 S <1 S
AZT >16 R >16 R <8 R <8 R
CFPN-PI >1 R >1 R >1 R >1 R
C/S <16 S >32 R <16 S <16 S
GM 2 S >8 R <1 S >8 R
AMK 8 S 16 S <4 S <4 S
MINO 4 S 4 S <1 S <1 S
LVFX >4 R >4 R <1 S >4 R
ST >2 R >2 R <2 S <2 S
FOM <4 S <4 S <4 S >16 R
A/C <8 S 16 I <8 S <8 S
1) ABPC: ampicillin, PIPC: piperacillin, CEZ: cefazolin. CTM: cefotiam, CTX: cefotaxime, CAZ: ceftazidime, CPR: cefpirome, CCL: cefaclor, CPDX: cefpodoxime, CMZ: cefmetazole, FMOX: flomoxef, IPM/CS: imipenem/cilastatine, AZT: aztreonam, CFPN-PI: cefcapene pivoxil, C/S:
cefoperazone/sulbactam, GM: gentamicin, AMK: amikacine, MINO: minocycline, LVFX: levofloxacin, ST: sulfamethoxazole/trimethoprim, FOM: fosfomycin, A/C: amoxicillin/clavulanate
2) S: susceptible, I: intermediate, R: resistant
細菌培養検査結果で E. coli が検出され,薬剤感受性 検査結果から ESBL 産生 E. coli が推定されたが,CEZ は臨床効果を認めたと判定し,7 日間使用後に中止し た.前医からの経過を含めた有熱期間は 4 日間であっ た.腎臓超音波検査では異常所見を認めなかった.抗 菌薬中止後に施行した VCUG で VUR は認めず,解 熱後 4 日目に施行した DMSA 腎シンチグラフィで 右 腎 に 欠 損 像 を 認 め た.そ の 後 12 カ 月 間 は sulfa- methoxazole・trimethoprim(SMX・TMP)の予防投 与を行ったが,UTI の再罹患は生じなかった.UTI 罹患から 20 カ月後に施行した腎シンチグラフィでも 同部位に欠損像が残存しており,腎瘢痕形成が疑われ た.
尿培養検査の陰性化は入院後 10 日目に確認され,抗 菌薬の臨床効果に関して CEZ は著効と判定した.
症例 4:5 カ月,男児.
主訴:発熱.
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴:特記すべきことなし.
現病歴:おむつに少量の血液が付着したことを主訴 に近医を受診した.発熱は伴わなかったが尿定性検査 で白血球を認めたため AMPC を処方された.AMPC を 10 日間内服し尿中白血球は消失したが,AMPC 中 止後 5 日目に発熱が出現したため当院を受診した.
経過:入院時の身体所見は体温 38.2℃,心拍数 138 回! 分,呼吸数 36 回! 分で,その他は特に異常は認め なかった.血液検査は白血球数 25,400!
μL,CRP 1.3mg
!dL であり,尿定性検査で白血球を認めたため,中 等症の UTI を疑った.抗菌薬は CEZ(50mg! kg! 日)
を 2 日間使用したが解熱せず,CAZ(100mg! kg! 日)
投与に変更した.その後は速やかに解熱し,血液検査 で白血球数および CRP 値の改善を認めた.入院時に 施行した尿細菌培養検査で大腸菌が検出され,薬剤感 受性検査結果から ESBL 産生 E. coli が推定されたが,
CAZ は臨床効果を認めたと判定し,9 日間使用後に 中止した.前医での経過を含めた有熱期間は 3 日間で あった.腎臓超音波検査で異常所見は認めなかったが,
症状改善後に施行した VCUG で VUR 両側 II 度を認
めた.DMSA 腎シンチグラフィは鎮静困難であり施 行できなかった.その後 12 カ月間 CCL(5mg
!kg
!日)
の予防投与を行ったが,UTI の再罹患は生じなかっ た.UTI 罹患後 12 カ月後に施行した VCUG で VUR は右 II 度であった.
尿培養検査の陰性化は入院後 9 日目に確認され,抗 菌薬の臨床効果に関して CEZ は無効,CAZ は著効と 判定した.
4 例から検出された E. coli.の薬剤感受性検査結果 と遺伝子検索結果を Table 2 に示す.遺伝子型は症例 1 が CTX-M3,他は CTX-M14 で全ての症例から CTX- M 型の酵素産生株が検出された.また,入院時の尿 細菌培養検査と同時に施行した便細菌培養検査では,
全例で ESBL 産生 E. coli は検出されなかった.
考 察
我々が経験した 4 例は全例 6 カ月以下の乳児で市中 感染による初発の上部 UTI であった.また,尿から 分 離 さ れ た ESBL 産 生 E. coli の 遺 伝 子 型 は す べ て CTX-M 型であった.
ESBL 遺伝子型には地域性が認められ,欧米では TEM 型あるいは SHV 型酵素の変異により基質特異 性を拡張した
β―ラクタマーゼが主であるのに対して
9),本邦では CTX-M 型の酵素産生株が多く報告さ れている
10).今回経験した 4 例から分離された ESBL 産生大腸菌の薬剤感受性は CTX-M3 型と CTX-M14 型の間で大きな違いはなく,全例セファロスポリン系 抗菌薬に耐性を示した.しかし,症例 1 では CEZ が 有効,症例 3 は CEZ,症例 4 は CAZ がそれぞれ著効 であり,セファロスポリン系抗菌薬が臨床効果を示し た.一方,症例 2 は薬剤感受性検査で感受性を示した セファマイシン系の FMOX が無効で,PAPM! BP が 有効であった.ESBL 産生菌の薬剤感受性検査結果と 臨床効果の相違はこれまでの報告でも指摘されてお り
11)12),inoculum effect といわれている.
上部 UTI における問題点として,感染の重症化の みでなく,有熱期間の遷延による腎瘢痕形成や
13),感 染の反復による腎実質障害の発生が挙げられ,ESBL 産生菌による乳児の上部 UTI においてそれらの臨床 的特徴を把握することは重要であると考える.小児の 報告では伊藤らの 1 例報告があるが
4),我々の検索し た限りでは複数例の報告はない.
ESBL 産生 E. coli に対する選択薬として,Johann ら
14)はカルバペネム系抗菌薬を提唱しており,今回の 4 例で分離された菌もガルバペネム系抗菌薬である IPM! CS に対して感受性であった.本邦で検出された
E. coli のうち,ESBL 産生菌の検出頻度は 3.3% と報
告されている
15).今回の検討期間に当科で入院加療を 行った上部 UTI の小児は延べ 63 例で,そのうち E.
coli が原因菌であった症例は 47 例であった.原因菌 が ESBL 産生菌であった症例は今回の 4 例であり,そ の 検 出 頻 度 は 上 部 UTI 延 べ 63 例 を 対 象 に す る と 6.3%,E. coli が原因菌であった 47 症例を対象にする と 8.5% であった.ESBL 産生菌による UTI の頻度は 今後も増加が懸念されるが,日常診療において,UTI に罹患した小児全例に対して原因菌として ESBL 産 生菌を想定し,第一選択薬としてカルバペネム系抗菌 薬を一律に用いることは,耐性菌出現を助長する可能 性があり受容されない.当科では過去に UTI に対す る第一選択薬として CEZ の有効性を検討したが
16),今 回経験した 4 例では症例 2 を除き,セファロスポリン 系抗菌薬で臨床効果が得られた.また,敗血症や髄膜 炎など重症化を認めた症例はなく,第一選択の抗菌薬 が無効で有熱期間が遷延した症例 2 においても腎瘢痕 形成は認めなかった.現時点では第一選択薬の有効性 が乏しく,臨床症状や検査所見などから ESBL 産生 菌を推定する場合に速やかに抗菌薬を変更する方針が 実際の診療に即していると判断する.
ESBL 産生菌による UTI 罹患のリスクファクター として,経静脈的抗菌薬投与の既往,抗菌薬の先行使 用,入院歴や尿路カテーテル留置,基礎疾患(高度の VUR や水腎症)などがある
3)17)18).症例 3 は UTI 罹患 の 3 カ月前に菌血症で入院歴があり,症例 1 および症 例 4 は発熱を伴わない白血球尿 に 対 し て そ れ ぞ れ CFPN-PI,AMPC を投与された後に罹患しており,
ESBL 産生菌の出現にこれらの抗菌薬の投与が関与し た可能性は否定できない.よって,抗菌薬使用歴があ る UTI 患児は原因菌として ESBL 産生菌を考慮する 必要があると判断する.しかし,基礎疾患に関しては 今回の 4 例はいずれも VUR,水腎症,水尿管症など の尿路の器質的異常を伴っていたが,症例 1 が IV 度 の VUR を認めた以外は,他症例の器質的異常は軽症 であった.また,ESBL 産生菌は腸内細菌として定着 し,本邦でもその分離率は増加していると報告されて いる
19).今回の 4 例に関しても両親や同胞の入院歴な ど感染経路を推定するような因子は認められず,市中 に常在する ESBL 産生菌が原因菌である可能性が考 えられる.
米国泌尿器科学会のガイドライン
20)では VUR を認
める症例に対して抗菌薬の予防投与が推奨されてい
る.当科では,VUR を認める症例あるいは VUR が
判明しなくとも,感染後早期のシンチグラフィで腎に
欠損像を認め,腎実質障害の存在が判明した症例に対
しては感染の反復からさらなる腎実質障害の発生を防
ぐため,抗菌薬の予防投与を行っている.いずれの症
例も抗菌薬の治療開始後に尿細菌培養検査は陰性化し
たため,予防投薬は CCL を使用する方法と,ESBL
産生菌の感染を想定して薬剤感受性検査結果に基づい て有効な抗菌薬を選択する方法がとられ,選択した抗 菌薬は症例 2 および症例 4 は CCL,症例 1 は NA,症 例 3 は SMX・TMP であった.UTI に対する抗菌薬 の予防投与に関しては有効でないうえに耐性菌出現の リスクになるという報告
21)22)がある.実際にこれらの 抗菌薬が有効であったかどうかに関しては今後の検討 が必要であるが,今回経験した 4 例では予防投与期間 中の再感染は認めなかった.
今回の検討では当科で加療した UTI 罹患児全例を 対象にしておらず,また,ESBL 産生菌による UTI の症例数が少数であるため,他の細菌によって惹起さ れた UTI 症例と ESBL 産生菌による UTI 症例との臨 床経過の相違は現時点では不明である.ESBL 産生菌 による上部 UTI に罹患するリスクファクター,感染 の重症化や有熱期間の遷延による腎機能障害の発生リ スク,抗菌薬予防投与の有効性などの臨床的特徴に関 しては今後も追加検討が必要である.
本邦において ESBL 産生菌による感染症の増加が 指摘されているが,今回の検討によって乳児の上部 UTI は初感染でも ESBL 産生菌が原因菌になりうる ことに留意する必要があることが示唆された.
文 献
1)Knothe H, Shah P, Krcmery V, Antal M, Mitsu- hashi S:Transferabe resistance to cefotaxime, cefoxitin, cefamandole and cefuroxime in clinical isolates ofKlebsiella pneumonia and Serratia mar- cecens. Infection 1983;11:315―7.
2)Yagi T:A preliminary survey of extended- spectrum β-lactamases(ESBLs)in clinical iso- lates of Klebsiella pneumonia and Escherichia coli in Japan. FEMS Microbiol Lett 2006;184:53―
6.
3)Topaloglu R, Er l, Dogan BG, Bilginer Y, Ozaltin F, Besbas N:Risk factors in community- acquired urinary tract infections caused by ESBL-producing bacteria in children. Pediatr Nephrol 2010;25:919―25.
4)伊藤尚志,野々山勝人,渡邉智子,佐伯敏亮,砂
川慶介,石井正浩:ESBL 産生大腸菌による尿路 感 染 症 の 乳 児 例.小 児 感 染 免 疫 2007;19:
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Four Infants with Upper Urinary Tract Infection due to Extended-spectrum
βlactamase (ESBL)-producing Escherichia coli
Satoshi HIBINO
1), Kunihiko FUKUCHI
2), Yoshifusa ABE
1), Akihiro HOSHINO
1), Shunsuke SAKURAI
1), Takeshi MIKAWA
1), Toshiya FUKE
3), Koichiro YOSHIDA
4)& Kazuo ITABASHI
1)1)Department of Pediatrics and2)Department of Clinical Pathology, Showa University School of Medicine,
3)Department of Pharmacy Services, Showa University Hospital,
4)Department of Clinical infectious Diseases, Showa University School of Medicine