S男君の追究から感じた友達への思い
−1年1組『だれのタワーが高いかな?』のS男君の追究を追って−
辻 啓 之 1.教材『だれのタワーが高いかな?』に込めた願い
S男君は、考えたことをはっきりと主張する子である。友達に対して、問題だと感じたことは厳し く指摘するため、衝突も多い。しかし、むきになって考えをぶつけ合っても、すぐにまた遊び始める 姿を見ていると、考えをぶつけ合うことで、友達とわかり合い、つながりをより強めているのだろう
と感じていた。
10までの数の学習で「ブロックを使って、7という数をわかりやすいように並べよう」と投げかけ た。私は、5と2で7になる数の合成分解の見方にふれさせようと思っていたが、S男君は、サイコ ロの目の6の並び方がわかりやすいからと言って、ブロックを6と1に分けて置いた。彼は、生活の 中で使ったサイコロに結びつけて、体験をもとに自分にとってわかりやすい考えを大切にする子だと 私は感じた。
そこで、自分が積み木を積んで作ったタワーの高さを友達と比べるために、直接比較・間接比較・
任意単位による比較などの操作活動を通して、より正確に、より簡単にと高さ比べの方法を考え、友 達の考えにふれながら、自分の考えにこだわっていく姿を願い、教材『だれのタワーが高いかな?』
を彼に出会わせた。その中で彼は二時には問題点を厳しく指摘し合いながらも、友達とわかり合い、
つながりを強めていくのだろうと考えた。
2.S男君ならではの学び
(1)積み木を大きい順に積めば高く稗める
く個1)S男君が作ったタワー)
...旧
く個2)同じ相でも同点でない〉
.「積み木を棲んで誰が高いか高さ比べをしよう」と投げかけると、S男君は、
高いタワーを作ろうと11個の積み木を積んでタワーを作った(図1)。友達は 30個〜42個と積み木の数を増やしていったが、S男君のタワーを見ると、高く 積みたいと言いながらも、手に持った積み木を順に置いていく積み方で、高く 積むための方法を考えているようには見えなかった。途中にだんだんと小さく なる部分や、不安定になるのに積み木を縦に使っている部分があることから、
高さというよりも、タワーの形を意識した積み方のようにも見えた。友達の積 み木の数との違いが大きいことから、彼は、友達の積み方を見て、もっと高く 積む方法を考えていくと思い、見守ることにした。
多くの子どもたちが、自分のタワーの高さを表す時に、積んだ積み木の個数 を言っていた。積み木の大きさは違うし、積み木を縦にしたり横にしたりと積 み方も違っていたので「積み木の数で高さを比べていいのか」と聞いてみた。
この時S男君は「だめ。数が多くても高くない時がある」と答え、授業後のノ ートにも「数では決まらない。低く横に積むこともあるから」と書いた。さら に彼に考えを聞いてみると「数が少なくても、積み木を縦長に積んでいけば高 くなる。同じ3個でも、同点ではなくて、縦に積んだ人の勝ちになる」(図2)
と実際に積み木を積みながら、数が同じでも棲み方によって、タワーの高さが変わってくることを説 明した。彼は、初めてのタワー作りの中で、同じ数の積み木を使っても、積み方によって高さが違っ てくることに気づいた。自分の納得いく方法で比べようと、体験をもとに考え、友達の方法の問題点 を指摘している姿は、彼らしい表れだと感じた。2回目のタワー作りの時、S男君は、前回より高い タワーを作りたいという思いから、積み木の積み方を工夫した。積み木の大きさを比較して、選びな がら大きい順に積んだタワーには、彼も満足したようで「自分が一番だと思う人?」と聞いてみると、
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手を挙げた。S男君以外にも10人以上の子どもたちが、自分が一番だと手を挙げているのに、それで も自分が一番だと手を挙げている彼を見て、私は、きっと彼の一番高く積みたいという思いが、正確 に高さ比べをして誰が一番なのかはっきりさせたいという思いへとっながっていくのだろうと思った。
そして、積み木の数では高さ比べはで.きないと考えているS男君は、どんな高さ比べの方法を考えて、
自分が一番であることを示すのだろうと、彼の今後の追究が楽しみになった。
(2)S男君の追究に絡んでくる友達
高さ比べの方法を話し合った時、S男君は、友達の「紙テープをタワーの高さに合わせて切り、高 さを写し取る方法」に惹かれたようだった。授業後の感想には、「高さを比べるには、やっぱりテー プでしょう。その他にあるの?」とこの方法以外にはないというような言い方をしていることからも、
彼が紙テープの方法に強く響いていることを感じた。紙テープの方法を提案した友達が、タワーの高 さをそのまま写し取る操作を実際にやって見せたことで、この方法ならば、友達と正確に高さ比べが できると感じたのだろう。
そんなS男君に、紙テープよりいい方法があるという子の意見をぶつけてみた。手で高さを比べる というその友達の考えに「自分を高くするために、手の高さを変えるかもしれない」と彼は反発した。
「じゃあ他の人にやってもらえばいい」という反論にも、「それでも味方している人の方を高くしてし まうかもしれない」と言い返した。やはり彼は、正確に、しかも公平に、高さを比べたいと考えてい
るのだ。私は、彼が不正確だと感じる方法に厳しく指摘をする姿に、S男君らしさを感じていた。
ただ、S男君の見方の中には、正確さを求める思いとともに、彼の友達への意識が絡んできている ようにも感じられて仕方がなかった。手で高さを比べる方法は、確かに不正確な方法だが、どうして 彼は、それを自分を高くするからとか、味方をする人の方を高くするからということと結び付けるの だろうか。考え過ぎだろうかと思いながらも、今後、タワーの高さが増し、一人では高さを測れない 場面で生じる友達との絡みの中で、そんな彼の思いを見っめていきたいと思った。
(3)友達とのつながりを求めていくS男君
子どもたちが高く積む工夫をすればするはどタワーは高くなり、一人ではその高さを測ることがで きなくなってきた。「高さを正確に測るにはグループが必要だ」と何人かの子どもたちが言ってきた ため、グループでの活動を認めた時のことだった。S男君はU男君と組み、タワーを積み上げること にした。S男君とU男君は、サッカークラブが同じで、学校以外でも一緒にいることが多い。お互い に気のおける友達だと感じているのだろう。
U男君はS男君の積み木の積み方とは違い、積み木を縦長に使って、少ない数の積み木で、細長く 積む方法を考えていた。しかし、二人で作っていたタワーは、積み木を大きい順に積んだものでもな く、積み木を縦長に積んだものでもない、ただ事に取った積み木を積んでいるようにしか思えないタ ワーであった。二人が積み木を積んでいた場所が入口の近くであったため、風の影響を受け、U男君 の縦長に積む方法は難しかったようだ。またS男君が「積み木の大きさがでたらめでも、タワーを高 くするするのは大丈夫だ」と言っていることから、S男君が、友達の高いタワーが必ずしも積み木を 大きい順に積んでいないことに気づいて積み方を変えたとも考えられる。
だが、二人のタワーが、それほど高くならないうちに何度も倒れているのに、彼らは高く積める工 夫をしようとはしなかった。自分の考えにこだわり、問題だと感じた友達の考えにははっきりと指摘 してきたS男君ならば、積み方が違うU男君と活動することで、どちらの積み方が高く積めるかと試 しながら吟味していくはずだと期待していた私にとって、こうしたS男君の表れは意外であった。た だ、それほどにS男君が、気のおけるU男君と一緒に活動したいという思いが強いのかもしれないと
も思えた。結局、この日の二人のタワーは、クラスの一番を争う高さにはなっていなかった。
この後、高さの比べ方について、良かった所や困った所を発表する時間を設定した。これまで正確 に測れると考えられてきた紙テープの方法だが、実際に試してみると、問題点が出てきたため、もっ
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と便利な方法をS男君が考え始めるきっかけになると考えたからだ。
彼は紙テープの方法について「使いやすかった。ただ押さえるだけでわかるからやりやすかった」
と良い所を述べ、困る所については発言しなかった。友達が、紙テープが長くなると真ん中が弛んで 正確でないこと、タワーが高くなると一人では写し取ることができないことなどの困る所を発言して きたが、反論もしなかった。S男君は、U男君と一緒に活動したいという思いが強く、不便さや問題 点への意識は薄中ったのだろう。また、正確さを第−に考える彼は、今はこの方法が一番いいと考え ているのだろう。
この話し合いの中でS男君は、大きさが均等でない目盛を書いた紙テープを使って高さを写し取る 友達の方法について「紙テープの方法と同じように、高さを紙テープに写し取って長さで比べるなら 目盛はいらない」と反発した。私は、S男君が間接比較で確実に高さを比べられることがわかってい ると感じた。
(4)棒の目盛の数で比べる方法は正確で簡単だ
6 5 4 3 2 1 く個3)掛付いた齢
紙テープの方法の他に、棒に印を付ける方法、数が付いた棒で比べる方法など、高 さ比べの方法が考え出され、子どもたちは、自分が比べやすいと思う方法で、高さ比 べをしていた。これに対してS男君は、ワークシートに「楽しくなかった。それはみ んなが紙テープでないから」と書いてきた。彼は、紙テープで高さを比べる方法なら 正確に比べることができ、自分が一番であることがはっきりすると考えているので、
クラスの全員がこの比べ方をした方がいいと考えているのだろう。全員でタワーの高 さを紙テープに写し取って、黒板に貼って比べた時には、手間はかかったが、確実に タワーの高さの順位が着いた。しかし、紙テープの代わりに朝顔の支柱を使う子が出 てきてから、紙テープだけの時のように全部を一斉には比べられないので、順位ははっ きりしなくなった。さらに、朝顔の支柱に数を書いたものが登場して、目盛○○個分という比べ方も 加わり、正確に高さ比べをしたいと考えていたS男君には、いろいろな方法が混じった高さ比べは曖
昧で不正確なものに感じたのだろう。そこで、私は、いろいろな方法のよさを明らかにしていく中で、
より比べやすい方法を自分なりに判断していってほしいと考え「みんなが同じ方法で比べたい」とい う彼の思いをみんなに投げかけることにした。
数が付いた棒を使って、その数で高さ比べができるという考えが出された時、私は、S男君がこの 方法についてどう考えるのかとらえたいと思った。彼は「朝顔の支柱に目盛を書くと、数で比べるこ とになるからだめ」と答えた。本追究の当初「積んだ積み木の数で比べることはできない」と考えた 彼は、積み木の数と目盛の数を同じものだと考えて否定したようだった。私は、この方法を一度試す ように関わってから、どちらの比べ方がよいのか話し合いをしようと考えた。実際に試すことで、_そ の方法を理解したり、その方法の便利さを感じたりしてきたS男君ならば、今度も具体的に試すこと でより深く追究できると考えたのである。
数が付いた棒を使った比べ方を実際に試してみると、S男君は、「紙テープよりずっとやりやすい。
紙テープは黒板に貼っても誰かに外されてしまうけど、目盛付きなら、黒坂に目盛の数を書くだけで いい」と発言した。クラスのほとんどの子がこの方法を試し、みんなのタワーの高さが棒の目盛の数 で表されたことによって、彼の「みんなが同じ方法で比べたい」という思いが満たされたのだろう。
また、目盛の数で比べるという方法は、紙テープに写し取ったタワーの高さを比べる時に黒板に貼る 手間がないことや、紙テープのように弛むこともないため、正確さを大切にしてきたS男君にとって、
そのよさが実感できたのだろう。はっきりと反対していた方法でも、自分が試してよさを感じれば取 り込んでいく彼の姿を見て、私は、それがよりよいも甲を求めていく彼の納得の仕方なのだろうと思っ た。
私は「数で比べるのはだめ」と言っていたことが、彼の中でどう納得されたのか聞いてみた。S男 君はその理由を「だって1個1個どのくらいか、形で何皿かあるんでしょ。それでその間に絶対入る
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わけない」と発言した。私はこの発言から、「積み木は形 によって、様々な大きさがあるからだめだけど、目盛なら 大きさは全部同じで、目盛の間に積み木が入るようなこと はないから、目盛の数で比べる方法はいい」という、彼の 考えをとらえた。
彼は、積み木の数では高さは比べられないことを、具体的 に説明してきたので、数が付いた棒の比べ方を試したこと で、それぞれの方法で使われる数の意味の違いがはっきり と感じられたのだろう。
S男君は、タワーの高さを正確に比べたいという思いを もち、自分にとってわかりやすい高さ比べの方法を判断し てきた。彼は、友達の方法に出会い、それを試すことを通 して、紙テープを使って比べる方法に響いたり、時には問 題点を指摘したりした。そして、数が付いた棒の目盛とい
う共通単位の数で高さを表すよさを味わい、友達の方法に 〈こんなに高く構めたよ〉
納得し取り込んできた。彼は、自分にとってわかりやすい方法にこだわるので、安易に友達の考えを 受け入れることはしない。しかし試して納得すれば、友達のよさを認めていくのである。私には、こ のような本教材の中での彼の姿と、友達とむきになって思いをぶつけ合いながら、わかり合い、つな がりを強めようとしているふだんの彼の姿とが、重なって見えた。
3.追究を追う中で感じられたS男君の友達への思い
タワーの高さ比べでチャンピオンを決めることになった時、S男君は、積み木を積むことなく、一 人でポッンとしていた。同じグループだった友達が、他のグループに移ってしまい、S男君だけが残
されてしまったのだ。彼も他の友達といっしょに違うグループに入ろうとしたが、入れてもらえなかっ たようだ。
S男君は、前の時間、どの高さ比べの方法がいいか一つに決めようという話し合いの中で、考えを 変えた友達に対して「この考えがいいと言った人がさっきいたじゃねえか。嘘っくなよ」と厳しく問 い詰めていた。彼は自分の考えにこだわるあまり、そのよさを友達に伝えようと、時に激しく思いを ぶっける。そんな時友達は、S男君を避けるようになる。それでも、S男君は、友達とのぶつかり合 いの中で、自分の考えを見つめたり、友達の考えを取り込んだりしながら、友達とのつながりを強め ようとしている。
追究の初めに自分でどんどん考えをつくっていくと思っていた彼が「グループを作ってもいい?」
と聞いてきたこと、自分が考えた高いタワーの積み方の工夫を発揮しないでU男君といっしょに積み 木を積んでいたこと、友達の方法に反論したり、試して納得したりしながら高さ比べの方法を考えて きたことなど、S男君は高さ比べの追究をしながら、友達とのつながりを強めようとしてきた。こう
して彼は、これからの生活の中でも、友達を求めていくのだろう。
時には自分の考えを押さえて、時には激しく思いをぶつけて、彼は、友達とのつながりを強めよう としていく。その中で思うようにいかない場面にも出会い、思い悩んだり、もがいたりすることもあ るが、彼はその度に、友達のよさや大切さを感じていく。
私は、友達とのつながりを強めたいというS男君の思いを受け止め、彼が悩みながらも、この思い を大きくふくらめていけるよう支えていこうと考えている。
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