奈良教育大学学術リポジトリNEAR
高等部単置型知的障害特別支援学校の現状と意義
著者 伊藤 修毅, 越野 和之
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 58
号 1
ページ 79‑99
発行年 2009‑11‑30
その他のタイトル Facts and Significance on Special Support Schools, Which Only Have the
Senior‑High‑Department, for the Students with Intellectual Disabilities
URL http://hdl.handle.net/10105/1918
高等部単置型知的障害特別支援学校の現状と意義 79
高等部単置型知的障害特別支援学校の現状と意義
奈良教育大学紀要 第58巻 第1号(人文・社会)平成21年 Bull. Nara Univ. Educ., Vol. 58, No.1 (Cult. & Soc.), 2009
*立命館大学大学院
伊 藤 修 毅*・越 野 和 之
奈良教育大学学校教育講座(障害児教育学)
(平成21年5月7日受理)
Facts and Significance on Special Support Schools, Which Only Have the Senior-High-Department,
for the Students with Intellectual Disabilities
Naoki ITO and Kazuyuki KOSHINO
Department of Special Needs Education, Nara University of Education (Received April May 7, 2009)
Abstract
This paper examines the facts and significance of the special support senior high school. This is mainly based on results of the survey on special support schools, which only have the senior-high- department, for the students with intellectual disabilities, (following “special support senior high school”), It is a desirable tendency that new special support senior high schools are founded, but it is not always happy without enough studies.
As a method, I try the clarification of the significance of the special support senior high school in the whole upper secondary education through the result of a survey I did. As the progress of the special support senior high school, the special support senior high school which was only 1.0% existence in 1979 reached 5.1% in 2007.
The survey made them clear that approximately 70% students are beyond the school criteria for school attendance and that 94% special support senior high schools are carrying out “carrier education”. In detail, it became clear that the severe schools about the selection spend much more time for the carrier education than gentle school about the selection.
The utility of the special support senior high school is clear to solve the congestion of the special support school. But there are many aspects to need examination, for example selection system and course of study. A non-degree graduate program and the sheltered employment system are also demanded.
In conclusion, the large enlargement of the special support senior high school which does not lose the logic of the education is necessary. We want to emphasize that it should depend on the logic of the education to make the contents of the school, though we accept the administrative logic when we make hardware.
Key Words: special support school senior-high-department only intellectual disabilities
キーワード: 特別支援学校 高等部単置 知的障害
1.はじめに
高等養護学校に代表される高等部単置型知的障害特別 支援学校は従来より漸増傾向にあったが,特に近年は新 設・増設が増えている。
高等養護学校については、1980年代後半からの養護学 校高等部希望者全入運動の中で,「いわゆる「職業自立」
の可能性を進学の時点の15歳段階で測定し,「精神薄弱 児」のエリートを選抜しようとの意図から選抜制を採る こととな」(1)り,「教育内容も,就労準備のための適応 主義的な「職業教育」「作業学習」や心身の鍛錬に極端 に傾斜することとなる」(2)といった理由から,「中学校 特殊学級卒業生の「準職業訓練校」と化しつつあるとと もに,障害児教育の中に新たな選抜の強化と序列化をも たらしつつあるとの危惧を抱かざるをえない」(3)という 批判的な認識がされていた。しかし2000年代に高等養護 学校に勤務した者としては,これらの課題は「「青年期教 育」論ないし「青年期教育」論に立脚した「青年期教育 としての後期中等教育」観」(4)に基づいて改善傾向にあ ったと実感している。
だが,特別支援教育の開始期にあたり,かつて批判さ れた要素を前面に押し出すような高等部単置型知的障害 特別支援学校が大都市部を中心に新設されるようになる。
例えば,A校(2006年開校)のホームページで公表され ている「学校長あいさつ」には,「学習時間の半分は「職 業に関する専門教科」を学びます」「職業に関する学習 に取り組む多くの時間を設けています」等「就労を目指 す」(5)という目的をことさらに強調した表現が並べられ ている。また,B校(2007年開校)の「平成20年度学校 経営計画」の「中期目標と方策(平成19年度〜21年度)」 の筆頭には「生徒全員の企業就労達成」(6)と明記されて いる。まさに,前に引用した「いわゆる「職業自立」の 可能性を進学の時点の15歳段階で測定し,「精神薄弱児」
のエリートを選抜しようとの意図」の選抜制が再来した と言えよう。
このような状況ではあるが,後に述べるような理由か ら、高等部単置型知的障害特別支援学校の必要性は否定 できない。そもそも,この種の学校についてはまだ十分 な研究がされているとは言えず,特に全国的な実態を把 握した研究はまったく見られない。以上の観点から,生 徒の実態や進路指導,卒業生の実態等に関する全国調査 を行った。本稿では,学習指導要領における教科「職業」
の変遷や,この調査結果の考察を中心に,高等部単置型 知的障害特別支援学校の現状と意義を検討していきたい。
2.研究の概要
2.1.「高等部単置型知的障害特別支援学校」の定義 本研究で,「高等部単置型知的障害特別支援学校」とは,
学校教育法第76条第2項「特別支援学校には,小学部及 び中学部のほか,幼稚部又は高等部を置くことができ,
また,特別の必要のある場合においては,前項の規定(7)
にかかわらず,小学部及び中学部を置かないで幼稚部又 は高等部のみを置くことができる」に基づき高等部のみ を設置した特別支援学校であり,かつ,公立高等学校の 適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(通称「高 校標準法」)において「知的障害者である生徒に対する 教育を主として行う特別支援学校」に該当するもの,と いう2つの法律上の定義を満たす特別支援学校とする。
ただし,対象生徒の異なる複数の学科を持つ学校につい ては,障害の程度が相対的に軽い生徒を対象とした学科(8)
のみを対象と考える。分校あるいはこれに準ずるものを 持つ学校は,それらも含め1つの学校と考える。なお,
以下,「単置型特別支援学校」と略す。
単置型特別支援学校は,「高等養護学校」に代表される ように学校名に「高等」を含んでいることが多いが,必 ずしもすべての単置型特別支援学校がそうであるという ことではない。また,学校名に「高等」を含む単置型特 別支援学校は,障害の軽い生徒を選抜し職業自立に特化 した教育課程を持っていると言われることが多いが,必 ずしもすべてではないという仮説をもっている。
逆に,学校名に「高等」を含まない単置型特別支援学 校も存在する。そして,「高等」を含まない単置型特別支 援学校についても,障害の軽い生徒を選抜し職業自立に 特化した教育課程を持っているか否かは,様々である。
また,障害の軽い生徒を選抜し職業自立に特化した教育 課程を持っている特別支援学校のすべてが単置型特別支 援学校というわけではない。小学部から高等部まである 特別支援学校の中にも,コース制や学科制等により,障 害の軽い生徒を選抜し職業自立に特化した教育課程を持 っていることがある。
このように,特別支援学校高等部の設置形態は設置者 により非常に多様であり,全国的な実態を検討する際の 対象を明確にするためには,国の法律に基づく定義が必 要であると考えた。その結果が,上記の定義である。
2.2.問題意識
単置型特別支援学校は,「特別の必要がある場合にお いては」という法律上の例外規定によって設置される形 態の学校なわけだが,実際には,養護学校義務制実施時
(1979年)から5倍以上に達している。2007年度の単置 型特別支援学校の入学者定員は約2150名(9)となっている が,これを3学年編制であることから単純に3倍した人 数は,特別支援学校高等部全生徒数48235名(10)の約13%,
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知的障害特別支援学校高等部だけの全生徒数42298名(11)
から見ると約15%にも及んでいる。これだけの生徒にと っての「特別の必要」とは,どういうことなのだろうか。
この「特別の必要」については,『逐条学校教育法』
においても,その「意義については必ずしも明らかでは ない」(12)とされており,行政上の定義や法学上の解釈が 明確にされていない。つまり,各設置者において「自由 な」判断が可能な状況になっていると言える。
さて,増加の実態とは裏腹に,単置型特別支援学校に 焦点をしぼった先行研究は,特定の地域を対象にしたも の以外はほとんどなく,全国の全単置型特別支援学校を 対象とした実態調査は,管見する限り皆無である。
また,単置型特別支援学校というものの多くは,先に 例示した2校ほどではないにせよ,一般就労のできる障 害者の育成に力を入れており,その進路指導や職業教育 に特徴があると言われている。しかし,実際に軽度の生 徒を対象とした単置型特別支援学校の学科の担任をして いた者の実感としては,「就職率100%」という看板は画 餅にすぎないという思いもある。特別支援学校,特に高 等部の過大・過密化が問題となっている昨今,どのよう な形態であれ学校が新設されることは望ましい傾向であ ると考えられる。しかし,十分な研究もされず,画餅的 看板を掲げて,学校が作られることは,必ずしも幸福な ことではないだろう。
以上の問題意識から単置型特別支援学校とはどのよう なものなのかを検討し,その意義を明らかにしていきた いと考えた。
2.3.方法
研究の方法としては,まず今日までの経過の概観を行 う。学習指導要領の変遷を,教科「職業」を中心に検討 し,あわせてそれぞれの時期における運動の状況や学校 数の実態等を重ねて見て行く。
そして,全単置型特別支援学校を対象として質問紙調 査(以下「本調査」と言う)を行い、この調査結果の詳 細な分析から,後期中等教育全体における,単置型特別 支援学校の存在意義の明確化を試みる。
なお,本研究に先立って,知的障害特別支援学校高等 部の対象生徒の拡大の実態についての調査(以下,「予備 調査」と言う)を行っている。この予備調査の詳細につ いては伊藤の拙論(13)を参照いただきたい。
3.知的障害特別支援学校高等部の経過
〜職業教育を中心に〜
本章では,知的障害特別支援学校高等部の経過を,学 習指導要領の改訂ごとに,教科「職業」の変遷を中心に 整理していく。あわせて,障害児の教育権保障の歩みや 学校数・生徒数の推移も確認していく。
学校教育法によると,特別支援学校高等部は「高等学 校に準ずる教育を施す」(第72条)ことになっており,「学 科及び教育課程に関する事項は,(中略)高等学校に準じ て,文部科学大臣が定める」(第77条)ことになっている。
したがって,知的障害の実態に応じて,いわゆる「教科・
領域を合わせた指導」を行う等の特例は広く認められて いるが,普通教科としての各教科が,高等学校の各教科 とほぼ一致する形で学習指導要領に(少なくとも形式上 は)示されている。その中で,高等学校の必履修科目を 持つ普通教科にはなく,知的障害養護学校(14)の普通教 科にはある唯一の教科が「職業」である。その意味で,
教科「職業」の変遷を見ていくことは,知的障害特別支 援学校高等部の職業教育を考える上で重要と考えられる。
3.1.1972年以前
1947年に戦後の学校教育の基本的な形をつくる学校教 育法が施行され,盲学校・聾学校・養護学校における障 害児の義務教育の規定も設けられた。盲学校・聾学校に ついては翌年より学年進行でこの義務制は実施されたが,
養護学校の義務制は見送られ,就学猶予・免除の規定に より多くの障害児が学校教育から排除されていた。
義務教育である養護学校小学部・中学部でさえこのよ うな状況であったということは,義務教育ではない養護 学校高等部の教育についてはほぼ完全に放置されていた ということは言うまでもない。日本で初めての養護学校 高等部は1957年に東京都立青鳥養護学校に設置されてお り,以後もわずかながら高等部は設置されている。しか し,教育課程の大綱的規準となる学習指導要領(15)が制 定されることはなかった。
盲学校・聾学校の学習指導要領は1957年に小・中学部 のものが制定されており,高等部のものも1960年には制 定されている。(ただし,小学校・中学校の学習指導要領 は1958年から,高等学校の学習指導要領は1960年から告 示化されているが,これらは旧来通り「通達」の形をと っている。)義務制が施行されていない養護学校の学習指 導要領も,小・中学部のものは,その3年後にあたる 1963年には制定(これも「通達」の形)されているが,
高等部のものが制定(これは「告示」の形)されたのは さらに約10年が経過した1972年のことである。
この間,1956年には,「養護学校における義務教育の速 やかな実施を目標として公立の養護学校の設置を促進」
するという目的を第1条に持つ公立養護学校整備特別措 置法が制定されたものの,養護学校の絶対的不足の解消 にはつながらなかった。そして,1960年代後半から1970 代初頭にかけて,養護学校義務制実施をめざす障害児の 教育権保障運動が各地で展開されていった。
単置型特別支援学校については,1958年に開校した札 幌養護学校に併設する形で1965年に白樺養護学校という 高等部のみの養護学校が設置されている。(翌年に校舎
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独立・移転,1981年に「白樺高等養護学校」と改称)
また,1964年に開校し,1966年に高等部も設置された埼 玉県の川越市立養護学校では,1972年に小学部・中学部 を県立に移管し,市立校としては高等部のみの学校とな った。これらが,日本で最初の単置型特別支援学校の誕 生である。
3.2.第一期:1973年〜1981年
養護学校義務制実施を目指す運動の成果がひとまず実 ったのは,養護学校義務制の「予告政令」が出された1973 年と言えよう。これに先立ち,1971年には養護学校小・
中学部の,1972年には養護学校高等部の学習指導要領が 告示された。これが施行された1973年からを知的障害養 護学校高等部教育の第一期とする。
この養護学校高等部最初の学習指導要領となる「養護 学校(精神薄弱教育)高等部学習指導要領」(16)において,
すでに知的障害児が学ぶべき教科の一つとして「職業」
という教科が設置されていた。具体的な目標・内容は以 下のとおりである。
養護学校(精神薄弱教育)高等部学習指導要領(昭和 47年10月27日文部省告示第152号/昭和48年4月1日
施行)から抜粋 第2章 各教科 第1節 各教科 第8 職業 1 目標
勤労の意義を理解させるとともに,職業生活に必要 な能力を高める。
2 内容
道具や機械等を合理的に使って安全に実習をする。
仲間と協力し,積極的に実習に参加する。
職業生活についての知識を深め,適切に進路を選 ぶ。
実習や現場実習によって,実際的な職業生活を経 験する。
職業生活に必要な健康管理や余暇利用の方法を知 る。
3.3.第二期:1982年〜1993年
初代学習指導要領の施行から6年,1979年に,ようや く養護学校義務制がスタートした。学校教育法施行から 実に32年の月日が流れたことになる。この年に,従来,
盲学校用,聾学校用,養護学校用と別々になっていた学 習指導要領が一つに統合され,「盲学校,聾学校,及び養 護学校小学部・中学部学習指導要領」という形で告示さ れ,翌年施行された。同時に「盲学校,聾学校,及び養 護学校高等部学習指導要領」も告示され,これは4年後 の1982年に施行された。よって,1982年を第二期のス タートとした。義務教育である小・中学部のものと,義
務教育ではない高等部用のものが,同時に告示されたと いうことは画期的なことと言ってよいだろう。
この「盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要 領」(17)の特徴として,1973年施行版では「生徒の将来の 職業生活や家庭生活に必要な能力や態度を身につけさせ ること。」の一文以外に「総則」の中には登場していな い職業教育に関する記述がやや具体的な形で明記されて いる。そこには,「勤労にかかわる体験的な学習」という 文言もあり,これは現在ほとんどの知的障害特別支援学 校高等部で実施されている「現場実習」の萌芽と言える。
ただし,「精神薄弱教育」に関しては,必ずしも明確に
「現場実習」を位置づけてはいない。
教科「職業」についても,基本的には1973年施行版の ものを踏襲していると言える。具体的な目標・内容は,
以下のとおりである。
盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要領(昭 和54年7月2日文部省告示第132号/昭和57年4月1 日施行)から抜粋
第2章 各教科
第2節 精神薄弱者を教育する養護学校 第1款 各教科の目標及び内容
〔職業〕
1 目標
勤労の意義を理解させるとともに,職業生活に必要な 能力を高め,実践的な態度を育てる。
2 内容
道具や機械等を合理的に使って安全に実習をする。
仲間と協力し,積極的に実習に参加する。
適切な進路選択のために,職業生活についての知 識を深める。
現場実習を通して,実際的な職業生活を経験する。
職業生活に必要な健康管理や余暇利用の方法を知 り,それらを生活に生かす。
この時期の後半は,全国各地で高等部希望者全入運動,
障害児の後期中等教育の保障を求める運動が展開された 時期とほぼ一致している。この運動の成果として,1985 年度は1945学級だった知的障害養護学校高等部の総学級 数が,1990年には3017学級,1995年には3720学級(18)と,
この10年で倍増している。
3.4.第三期:1994年〜2003年
1982年施行版学習指導要領では職業教育が特に重点化 されているとまでは言えないかもしれないが,1980年代 後半になり「改めて本格的に障害の軽い子どもに対する 職業教育重視の政策が打ち出されてきた」(19)と言われて いる。1988年に出された教育課程審議会答申では重点事 項の一つとして高等部における職業教育の充実が挙げら れている。この答申を受けて1989年に新たな「盲学校,
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聾学校及び養護学校高等部学習指導要領」が告示された。
これが施行された1994年からを第三期とする。
この「盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要 領」(20)では初めて「専門教育を主とする学科」という文 言が登場する。高等養護学校を中心に一部の養護学校高 等部ではすでに職業学科の設置が行われており,現状追 認をしたということになるが,職業学科の教育課程に学 習指導要領という裏づけができたという事実は大きい。
なお,「専門教育を主とする学科においては,専門教育に 関する各教科について,すべての生徒に履修させる授業 時数は,1050単位時間(1単位時間を50分として計算す るものとする。)を下らないものとする」と最低授業時 数も明記されている。
また,専門教科の履修によって普通教科の履修と同様 の成果が得られるのであれば,その専門教科の履修を普 通教科の履修に替えることができるということも述べら れている。現実的ではないものの,この規定を利用すれ ば,「ほぼ職業教育のみの教育課程」というものも存在で きることになったということである。
さらに,「教育課程編成に当たって配慮すべき事項」と して「精神薄弱者を教育する養護学校の職業教育を主と する学科においては,職業に関する各教科について,実 験・実習に配当する授業時数を十分確保するようにする ものとする。なお,職業教育を主とする学科のうち標準 的なものは別表に掲げるとおり(21)であるが,設置者に おいては,必要がある場合には,地域や学校の実態等に 応じて,例えば,商業科,水産科等の学科を設置するこ とができる」と実験・実習の重視と標準的な学科につい ても述べられている。
このように職業学科に関する事項が定められた中では あるが,普通教科「職業」については特に変更もなく,
維持されたままである。つまり,職業学科においては専 門教科に加えて普通教科「職業」も行う必要があり,も ちろん普通科でも「職業」を行うということである。
内容として書き加えられたのは「働くことの意義を理 解し,働く喜びを味わい,積極的に実習に参加する」「自 分の分担に責任をもち」という文言である。ここでも,
わずかではあるが,職業教育の強化の方針が伺える。具 体的な目標・内容は,以下のとおりである。
盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要領(平 成元年10月24日文部省告示第159号/平成6年4月1 日施行)から抜粋
第2章 各教科
第2節 精神薄弱者を教育する養護学校 第1款 各教科の目標及び内容
〔職業〕
1 目標
勤労の意義を理解させるとともに,職業生活に必要な
能力を高め,実践的な態度を育てる。
2 内容
働くことの意義を理解し,働く喜びを味わい,積 極的に実習に参加する。
道具や機械等を合理的に使って安全に実習をする。
自分の分担に責任をもち,仲間と協力して実習を する。
適切な進路選択のために,いろいろな職業や職業 生活についての知識を深める。
現場実習を通して,実際的な職業生活を経験する。
職業生活に必要な健康管理や余暇利用の方法を知 り,生活に生かす。
この時期になると,知的障害児の高等部教育における,
職業教育への「偏重」という課題が顕在化してくる。こ れに対峙してきたのが,冒頭で引用した「「青年期教育」
論ないし「青年期教育」論に立脚した「青年期教育とし ての後期中等教育」観」(22)に基づく教育実践や,それを 支えた全国障害者問題研究会青年期集会等の運動といえ よう。田中は「高等部教育は,職業教育に偏ることな く,青年期の豊かな人間発達と社会参加を目標に,教育 課程全体の中に職業教育を位置づけて取り組むことが課 題」(23)と述べ,「偏重」ではなく,バランスのとれた職 業教育の大切さを主張している。
就学年限の拡張という制度面での課題よりも、教育内 容における論議が大きくなったという点は、この時期の 重要な着目点と言える。
3.5.第四期:2004年以降
2002年の完全学校週5日制の実施にむけて,1998〜
1999年にかけて新しい各種学習指導要領が告示されてい った。「盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要 領」についても1999年に告示され,2004年に施行された。
よって,2004年以降を第四期とする。
この「盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要 領」(24)は,同時期に発表された他の学習指導要領と同様 に「ゆとり教育」をキーワードにしたものである。完全 学校週5日制への対応ということもあり,全体的には教 育内容・時数削減の傾向にある。しかし,安易な削減に 歯止めをかける目的か,総授業時数の標準が年間1050単 位時間であることも初めて明記された。
1994年版で(3年間で)1050単位時間以上とされた
「専門教科を主とする学科」の「専門教育に関する各教 科」は,875単位時間以上とされた。理屈の上では「週 10時間×3年間」以上から「週8時間×2年間+週9時
間×1年間」以上になったことになる。
職業学科については,普通教科のほかに「家政,農業,
工業又は流通・サービスの各教科のうち,いずれか1以
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上履修させるものとする」という書き方に変わった。「流 通・サービス」という専門教科が登場した背景は,第一 次・第二次産業中心であった障害者雇用が,第三次産業 にも広がってきたという認識がもたれたということかと 推測される。
さて,教科「職業」についてだが,大幅な書き方の変 更が見られる。すなわち,内容が「一段階」「二段階」
という形に分けられたということがある。ただし,この ことは,この学習指導要領の各教科全体の特徴であり,
「職業」だけではなく他の教科も同様の書き方の変更が 行われている。実質的な内容として追加されたのは「情 報機器等の操作」という項目のみであるが,各内容が従 来のものと比較して,「一段階」はやや水準が軽減されて おり,「二段階」はやや水準が高度になっている。具体的 な目標・内容(一段階・二段階)は,以下のとおりであ る。
盲学校,聾学校,及び養護学校高等部学習指導要領(平 成11年3月29日文部省告示第62号/平成15年4月1日 施行/平成15年12月26日一部改正)から抜粋
第2章 各教科
第2節 知的障害者を教育する養護学校 第1款 各教科の目標及び内容
〔職業〕
1 目標
勤労の意義について理解するとともに,職業生活に必 要な能力を高め,実践的な態度を育てる。
2 内容
○1段階
働くことの意義を理解し,働く喜びを味わい,作 業や実習に参加する。
道具や機械の操作に慣れるとともに,材料や製品 の扱い方を身に付け,安全に作業や実習をする。
自分の分担に責任をもち,他の者と協力して作業 や実習をする。
適切な進路選択のために,いろいろな職業や職業 生活について知る。
産業現場等における実習を通して,実際的な職業 生活を経験する。
職業生活に必要な健康管理や余暇利用の方法を知 り,生活に生かす。
職場で使われる機械や情報機器等の簡単な操作を する。
○2段階
働くことの意義について理解を深め,職業生活に 必要な態度を自覚し,積極的に作業や実習をする。
いろいろな道具や機械の仕組み,操作等を理解し,
材料や製品の管理を適切に行い,安全で正確に効率
よく作業や実習をする。
作業の工程全体を理解し,自分の分担に責任をも ち,他の者と協力して作業や実習をする。
職業生活に必要な実際的な知識を深める。
産業現場等における実習を通して,職業生活に必 要な事柄を理解する。
職業生活に必要な健康管理や余暇利用の方法につ いての理解を深め,生活に積極的に生かす。
職場で使われる機械や情報機器等の操作をする。
知的障害特別支援学校高等部では就学基準から見ると 障害の程度が軽い生徒が多くなっている実態は予備調査 でも明らかになっているが,そういった生徒の増加をふ まえての「一段階」「二段階」という書き方と言えるだ ろう。しかし,就学基準という「政令」に根拠がある制 度を超えるものを,学習指導要領という「省令未満」の 存在で示すということは矛盾を感じるところでもある。
「青年期教育論」から見れば,職業学科の時数削減(た だし,「875単位時間以上」という表記なので,学校の判 断で削減しないことや,さらに増加させることも不可能 ではない)や比較的障害の重い生徒に向けた「一段階」
の内容は,前向きに評価することもできよう。一方で,
比較的障害の軽い生徒に向けた「二段階」の内容は,職 業教育「偏重」が加速されたという懸念を持たざるをえ ないところでもある。
さらに「ゆとり教育」への批判的な言説が広まるとい う背景の中,中央教育審議会は,知的障害特別支援学校 高等部において「生徒の実態や卒業後の就労の状況等を ふまえた職業教育を一層進める観点から,福祉に関する 基礎的・基本的な内容で構成する新たな専門教科として
「福祉」を新設する」(25)という答申を出している。本稿 執筆時点(2008年12月)では,これに対応する学習指導要 領は決定されていないが,近日中に告示されることが予 想され,「第五期」の姿が明らかになることであろう(26)。 3.6.単置型特別支援学校増加の実態
ここまでは,知的障害特別支援学校高等部の経過を学 習指導要領ごとに整理してきたが,最後に,この経過に そって,本稿の主題である単置型特別支援学校の増加の 実態をまとめておきたいと思う。
冒頭に,「高等部単置型知的障害特別支援学校は,漸増 傾向にあったが,特に近年は新設・増設が増えている」
と書いたが,まずこの点を統計的に確認する(表3−1)。 養護学校義務制が開始された1979年度の時点では設置 されていた単置型特別支援学校は,わずか8校,全特別 支援学校(当時は特殊教育諸学校)の中にしめる割合も 1.0%にすぎなかった。しかし,2007年度の段階で52校・
5.1%にまで達している。設置県数も,1979年度には6 県にすぎなかったものが,2007年度の段階で23県に達し 伊 藤 修 毅・越 野 和 之
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ており,設置している県は48.9%に及んでいる。
また第一期(9年間)で8校,つまり1年に0.9校の 割合での新増設であったものが,第二期(12年間)で17 校(1年に1.4校),第三期(10年間)で16校(1年に1.6 校)と増加のペースも徐々に上がっており,さらに第四 期は2007年までの4年間で8校,つまり1年に2校の割 合にまで達しているということになる。
少なくとも2007年度時点で,約半数の都道府県が,単 置型特別支援学校を設置するべき「特別の必要」を持っ ているということになる。なお,現時点で筆者が把握し ている限り,北海道・埼玉県・岡山県等で,新増設の計 画が具体化している。岡山県での新設が実現すれば,設 置都道府県は,ついに過半数に達することとなる。
4.調査結果と考察(その1)−全体像−
4.1.調査概要
名称:高等部単置型特別支援学校の実態に関する調査 目的:高等部単置型特別支援に在籍する生徒の実態や進 路指導の実態について明らかにする。あわせて障害者の 就労,とりわけ特別支援学校高等部卒業後にすぐ一般就 労したケースに関しては,その離職率の高さが話題にな ることが多く、その離職の状況,さらに卒業後のフォ ローアップ等についても尋ねる。
期日:2008年7月1日〜7月25日(原則として2008年7 月1日時点の事実に基づいて回答するように依頼した。
ただし,在籍数等に関しては学校基本調査の基準日とな る5月1日時点の事実に基づいた回答を依頼した)
方法:質問紙法による郵送調査
対象:すべての単置型特別支援学校(23都道府県・56校)
(表3−1の注に示した分校・分教室や「部」について は,定義には該当しないが,単置型特別支援学校と同一 視できるものと判断し,調査対象とした)
内容:調査対象学科(27)の概要,生徒の実態,進路指導,卒 業生の進路等(28)
4.2.回収状況並びに回答校の概要
調査票を発送した56校のうち回答があったのは32校,
回収率は57.1%である。また調査対象は23都道府県であ るが,うち1校以上の回答のあった都道府県は19都道府
県であり,単置型特別支援学校設置県の82.6%がカバー できたことになる。
回答校の現1学年を基準とした学校規模は,表4−1の とおりである。平均学級数は,4.5学級となる。また,1 学級あたりの定員はほとんどの学校で8名に設定してい る。6学級校と7学級校で各1校,9名定員の学校があ る。2・4・5・8学級校で各1校,3学級校で2校,
10名定員の学校がある。平均学級定員は8.5名となる。
回答校の調査対象学科の学科編成状況は,普通科のみ の学校が47%(10県),職業学科単科制の学校が19%(6 県),職業学科複数学科制の学校が34%(6県)である。
定義を示す際に,学校名に「高等」がつくか否か,そ して職業自立という方針の有無との関係について触れた。
これに関する結果は表4−2のとおりである。
一般就労の方針を持つということとの関連で,「自力 通学ができる」ということを入学条件にあげている学校 も少なくないが(本調査では15校,スクールバス・寄宿 舎とも不保有校数に一致している),スクールバスや寄 宿舎を保有している学校もほぼ同数存在している。中に は,スクールバスと寄宿舎の両方を持っている学校もあ る。
また,あくまでも卒業時に一般就労を目指すという進 路 指 導 の 方 針 を 持 っ て い る 学 校 は,回 答 校 の 9 校,
28.1%に過ぎない。学校名に「高等」が入っているか否 かでも,大きな違いはないと言える。
4.3.生徒の実態
生徒の実態については,就学基準(29)に該当するかど うかを尋ね,そのうち該当しない生徒について障害の確 定状況と中学校時の在籍状況について尋ねた(表4−3)。 単置校に限定せず,様々な高等部設置形態の県を抽出 し,抽出県の全高等部を対象とした予備調査では就学基 準非該当生徒率は18.6%であった。単置校に限定した本 調査では,非該当生徒率がほぼ7割に達している。
また,就学基準非該当生徒の内訳については,障害状 況・中学校時の在籍状況ともに,予備調査とほぼ一致し
高等部単置型知的障害特別支援学校の現状と意義 85
新規設置 単置校数 (校)
累積 設置校数
(校) 期末年の 全学校数 (校)
単置校比 (%)
新規設置 県数 (県)
累積 設置県数
(県) 設置県比
(%)
第一期 8 10 877 1.1 7 7 14.9
第二期 17 27 964 2.8 8 15 31.9
第三期 16 23 995 4.3 6 21 44.7
第四期 9 52 1013 5.1 2 23 48.9
※ 第一期以前に 2 校開校しているので,累積には 2 校加算されている。
※ 全学校数は学校基本調査データによる全特別支援学校数(2006 年度以前は,特殊教育諸学校3種の 合計)である
※ 単置校数・設置県数は,2007 年現在の該当校の開校年を基準に算出している。また,第四期の期末 年も 2007 年度としている。
※ 横浜市立・新潟県立の該当校は,それぞれ分校(教室)をもっている。また,京都府立並びに奈良県 立の特別支援学校のうち各1校ずつ,知的障害児を対象とする高等部単置型の「部」を持っている 学校がある。これらは,定義外であるのでこの表には含まれない。(横浜市立校の分校については 2007 年度に本校化されている)
※ 北海道にある医療的ケアの必要な生徒を対象とした学校は,定義内ではあるが,全学級が重複学級 扱いのため,この表には含めないこととした
表3−1 時期別単置型特別支援学校増加の実態
現1学年の学級数 2学級 3学級 4学級 5学級 6学級 7学級 8学級
回答校数 7校 5校 6校 3校 7校 2校 2校
回答校内の割合 22% 16% 19% 9% 22% 6% 6%
表4−1 回答校の学校規模
※ SB=スクールバス
※ 「卒業時全員一般就労方針校」は,進路指導方針を尋ねた問いに対し,「あくまでも卒業時に一般 就労を目指してもらう」と回答した学校である。
表4−2 学校名に「高等」が含まれるかどうかによる回答校の 概要
ている。「非該当生徒」といえども,約9割の生徒は療育 手帳を取得しており,知的障害があることが公的に証明 されていると言える。単置型特別支援学校の多くは,制 度の上では非該当生徒と考えられる中学校特別支援学級 卒業生の受け皿になっていると言われているが,単置型 特別支援学校の生徒全体の約6割,非該当生徒の8割以 上が中学校特別支援学級(調査上は旧制度名の「特殊学 級」としている)の卒業生であることからも,そのこと が伺える。
表4−3の⑥欄に該当する生徒,すなわち「就学基準に 該当していない」「療育手帳がない」「発達障害の診断が ない」という,特別支援学校高等部に就学することが適 切であると判断する公的な根拠を何も持たない生徒につ いては,入学した理由となる「困難」の状況を自由記述 で求めた。その中では,「医療機関において知的障害で あることが診断されているため」「児童相談所の判定で知 的障害が認められるが,療育手帳は保護者・本人の一身 上の都合で取得していない」といった「知的障害は確認 できるが療育手帳を取得していないだけ」というタイプ の生徒や,「言語によるコミュニケーションがとれない,
常時1:1の対応が必要,安全や危険に対する規範がと れない[原文ママ],こだわり・パニックがある」「社会 性の不足(特に対人関係に課題がある),文字の読み書き に課題がある,情緒の安定がはかられない,生活的な自 立ができていない」といった「実質的に深刻な発達障害 を持っている」というタイプの生徒がほとんどである。
また,この自由記述の中には「知的単障の生徒比率は 年々低くなっていて教育課程と齟齬がきている面もあ る」という回答もあった。いわゆる「発達障害」に関す る研究が進められてきたことによって,従来単に「知的 障害」と考えられていた生徒についても「知的障害と発 達障害を併せ持つ」という見方ができるようになり,教 育課程として新たなものを開発していく必要性が現場実 感として湧き出ているということの表れであろう。
4.4.職業教育の実態
4.4.1.「職業」「作業」等の学習
単置型特別支援学校の教育課程を考える際,職業教育 の実態を抜きにして語ることはできない。前述のとおり,
特別支援学校高等部の「学科及び教育課程に関する事項 は,高等学校に準じて」(30)いる。したがって,特別支援 学校高等部には単置型であるかどうかを問わず,普通科 か職業学科のいずれかまたは両方の「学科」が置かれる ことになる。職業学科である場合は,「職業に関する各 教科」を最低でも875単位時間実施することになる。
知的障害養護学校高等部の学習指導要領からは,職業 学科における「職業に関する各教科」のほか,学科によ らず「各教科・領域を合わせた指導の一形態としての「作 業学習」」と「教科「職業」」が職業教育に該当するもの として読み取れる。さらに,「総合的な学習の時間」「学 校設定教科」「ホームルーム活動」等の枠組みの中でも 職業教育をすることができる。調査では,これらを「職 業教育」(31)とし,学習形態別に実施状況を尋ねた(表4
−4,図4−1)。
まず注意しておきたいのは,表4−4の①で示した「職 業に関する各教科」は,前述のとおり,職業学科のみに 認められた形態である。全体の中での実施校は28%だが,
職業科の回答校は約半数なので,職業学科の半数以上の 学校が「職業に関する各教科」を実施していることにな る。
合計を見ると94%の回答校が,何らかの形で「職業教 育」を実施しているということがわかる。逆に言えば,
単置型特別支援学校でも6%は,「職業教育」を少なくと も系統的には実施していないということが言えることに なる。
年間35週という標準に基づいて計算すると,「職業教 育」を実施している学校の平均時数は,週あたり6〜7 単位時間ということになる。しかし,この平均値付近の 実施時間の学校は9%にすぎない。平均を大きく下回り,
伊 藤 修 毅・越 野 和 之 86
表4−3 生徒の実態
表4−4 学習形態別実施状況
図4−1 週あたり実施時数別割合
週あたり3単位時間以下の学校は実施していない学校も 含め38%に及ぶ。逆に,平均を上回り,週あたり8〜11 単位時間実施している学校も38%になる。この8〜11単 位時間というのは,職業学科が最低限その職業に関する 各教科を実施しなくてはならないという時間に相当する。
さらに,12単位時間を超えるような,つまり「多めに
「職業教育」を実施している学校」も16%に及んでいる ということもおさえておく必要があろう。
4.4.2.「就業体験」「職場実習」等について 単置型特別支援学校におけるもう一つの重要な職業教 育の形態が,学校内外で行われる「実習」である。一言 で「実習」と言っても,学校によって,そしてその実習 の性質によって呼称が異なる。調査では,6種類の実習 を定義し,それぞれの学年別実施日数を尋ねた(表4−5)。
実習の性質は多様であるが,すべての学校でなんらか の「実習」が行われていることがわかる。1年次に「校 内実習」,2年次に「職場実習」,3年次に「職場実習」ま たは「前提実習」を行うというのが最も多いパターンで あるようである。校内での模擬的な実習からより実践的 な実習へという系統性が意識されているのであろう。
実施日数を見ると,平均で75日となっている。教育課 程の計算上1年間は35週であるので,週5日,3年間で 525日の通常課業日が最低限あるわけだが,そのうちの 14.3%が「実習」に当てられているということになる。特 に3年次は平均実施日数が38日に及んでおり,教育課程 上,かなりの比重をしめていると言える。ただし,学校 によっては課業日にカウントされない長期休業中等に実 習を実施している場合も筆者の知る限り少なくないこと を付言しておく。
さらに,各学校の実習の実施日数ごとに該当の割合を 出してみた(図4−2)。「職業教育」のような極端な分布 は見られないが,3年間で2週程度の学校から25週以上 を費やしている学校まで,まんべんなく見られる。何日 以上を「偏重」と言うべきかは一概に判断できないが,
3年間で525日しかない高等部生活のうちの100日以上が 校外での「実習」に費やされているとしたら,それは間 違いなく職業教育の「偏重」と言ってよいのではないだ ろうか。
4.5.卒業後の進路の実態 4.5.1.卒業時進路
特別支援学校高等部の問題を考える際,「進路」のこと も抜きにするわけにはいかない。そこで,過去5年間の 卒業生の卒業時の進路について実数を尋ねた(表4−6)。 なお,障害者自立支援法による新体系への移行期間中で あったことから,福祉的就労者の内訳については,「利用 開始時点までに自立支援法による新事業体系に移行済み,
あるいは,利用開始時点で移行後の事業が確定している 場合は「新体系」の欄に,そうでない場合は「旧体系」
の欄に」計上してもらうようにした。
「問題意識」の項に「「就職率100%」という看板は画 餅にすぎない」と書いたが,少しずつ上昇はしているも のの,全国の単置型特別支援学校の平均を見ると卒業時 の一般就労率は50〜60%程度であることがわかった。し かも,雇用形態別に見ると,「正規採用」よりも「契約 社員」と「パート」の合計数の方が確実に多いという実 態も見えてくる。
また,障害者雇用のための特別な制度のうち「職場適 応訓練」(32)の利用者が他の制度と比較してあまり増えて いないという状況も見られた。一方で,「特例子会社」(33)
「トライアル雇用」(34)の制度利用は多少の増減はあるが,
おおむね増加傾向にあるようである。いずれにせよ,せ っかくの制度の活用率は,一般就労者全体の10〜20%に すぎず,もう少し積極的な活用が求められるところであ ろう。福祉的就労者に目を向け,自立支援法による新体 系に移行している場合の状況を見ると,「就労移行支援 事業」とともに「就労継続支援事業(35)非雇用型」のし める割合が高いことがわかる。しかし一方で,進路指導 上の困難について尋ねた自由記述の中で,「就労継続支 援事業非雇用型の利用規制」と書かれている回答が複数 見られた。これは,特別支援学校高等部卒業生の就労継 続支援事業非雇用型に対するニーズの高さとは裏腹に,
新規卒業生が原則的に利用できない制度になっていて,
地域によって一定の条件を満たせば利用可能とした経過
高等部単置型知的障害特別支援学校の現状と意義 87
表4−5 一般就労希望者の性質別実習実施日数
図4−2 実習日数別割合