その遺伝子送達制御に向けた新規治療の基礎的研究
著者 田口 久美子
雑誌名 星薬科大学紀要
号 60
ページ 67‑74
発行年 2018‑12‑10
URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000813/
近年、 日本における糖尿病患者数は、 ライフスタイル の変化と高齢社会の進展に伴って急速に増加し社会問題 となっている。 厚生労働省の 「国民健康・栄養調査」
(平成
28
年) によると、 糖尿病が強く疑われる者 (糖 尿病有病者) も糖尿病の可能性を否定できない者 (糖尿 病予備群) もそれぞれ約1,000
万人と推計された1)。 糖 尿病治療の目標は、 糖尿病症状を除くことはもとより、糖尿病性合併症の発症・増悪を防ぐことにある。 糖尿病 は 「合併症の病気」 と言われるほど、 様々な合併症が起 こりえる。 例えば、 網膜症、 腎症、 神経障害など細い血 管の障害で起こりやすい合併症や、 脳梗塞、 狭心症、 心 筋梗塞、 動脈硬化症など大血管の障害により起こる合併 症など多岐にわたる。 合併症の成因が複雑で、 これら疾 患を併発することも多く、 完全な糖尿病性合併症を予防 することはまだできない。 しかしながら、 これら疾患に 共通した病理学的特徴は、 血管障害であり、 血管の機能 の重要性がクローズアップされ、 糖尿病性合併症治療薬 の開発が期待されている。
疫学的解析から、 血糖コントロールが良好なほど、 合 併症の発症・進展リスクが減少することが明らかとなっ ているが2)、 大血管障害については、 それだけでは発症 進展を防げないことも知られている3,4)。 現在、 糖尿病 性血管障害、 中でも大血管障害は、 血管内皮機能の低下、
特に、 内皮由来一酸化窒素合成酵素 (eNOS) による一 酸化窒素 (NO) 産生系の障害により生じることがわかっ ている。 血管内皮細胞は、 血管の最も内側にある細胞で、
NO
などの血管作動性物質を放出しており、 血管壁の収 縮や弛緩をはじめとして、 血管壁の炎症細胞の接着、 血 管透過性、 凝固・線溶系の調節など様々な作用を行っている。
NO
産生の低下により、Fig. 1
に示すように、 合 併症の進展リスクを高めることから、 血管内皮機能を改 善するための有効な治療が求められている。 しかしなが ら、 血管内皮細胞レベルで起こっている複雑な変化は未 だわからないことが多い。現在、 様々な基礎研究や臨床研究において、 血管内皮 機能障害の測定が血管障害の予知・進展指標になるかも しれないと認識され、
2012
年から血管内皮機能測定が 保険収載され、2013
年には日本循環器学会により 「血 管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」 が策定 され、 臨床現場での血管内皮機能測定が広がり、 血管障 害の予防に効果を発揮している。一方、 新規血中情報伝達物質として最近注目されてい る物質に細胞外小胞 (EVs) がある。
1960
年代にWokf
は、 活性化された血小板から膜小胞体として放出される 粒子を見出した5)。 その粒子には、 血液凝固促進活性や、その他単球や血管内皮細胞の活性化作用があることが報 告され6-8)、 放出粒子自体が生理的に重要な物質であるこ とがわかり、 現在では
EVs
と呼ばれている。 こうしたEVs
は、 さらにエンドサイトーシスにより産生放出さ― 67 ―
!"#$%
&'()*+,-.
田口 久美子
星薬科大学 機能形態学研究室
Elucidation of pathophysiological roles of circulating microparticles and pilot study on the potential new treatment for the gene delivery
Kumiko TAGUCHI
Department of Physiology and Morphology, Institute of Medicinal Chemistry, Hoshi University
ⴊ▤ౝ⊹ᯏ⢻ߩૐਅ
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Fig. 1
れるエクソソーム、
0.1〜1.0 m
の細胞膜断片として産 生放出されるマイクロパーティクル (MPs)、 およびア ポトーシス時に産生放出されるアポトーシス小体の3つ に分類される9)。MPs
は、 正常条件下でも自発的に放出 されているが、 さらに病態時では細胞の活性化やアポトー シスにより産生放出されてくる10)。 正常条件下および病 態条件下どちらにおいても、 血小板だけでなく、 様々な 種類の細胞 (血中循環細胞 赤血球、 リンパ球、 単球等) や血管壁細胞 (血管内皮細胞、 血管平滑筋細胞)) から、それぞれの細胞に含有されていたタンパク質や
mRNA
もMP
の表面や内部に含有しながら放出されることが 分かってきた11-14)。 近年、 糖尿病病態時に循環MP
量が 増加し、 血管内皮細胞は血中を循環しているMP
の主 要な標的細胞の1つであることが報告された15-18)。 しか しながら、 これまで血中循環MPs
の生理的機能や組成、また、 その産生制御機構の詳細についてはほとんどわかっ ていない。 著者は、 上述した点について明らかになれば、
糖尿病性血管障害時の新しい治療方法や予防方法が見い だされるのではないかと考え、 基礎研究を行っている。
本稿では、 糖尿病病態時の血管内皮障害から生じる
NO
産生障害とMPs
の関係について行った研究成果を紹介 する。1. MPs
糖尿病患者において循環
MP
量の増加が報告されて いることから15-18)、 著者はまず実験的糖尿病モデルラッ トにおいて、 循環MP
量の測定を試みた。 その結果、対照群と比較して、 ストレプトゾトシン (STZ) 誘発糖 尿病ラット (28-44 週齢) の循環
MP
量、 特に血小板 由来MP
量の増加が確認された (Fig. 2)19)。 このこと より、 ヒトと同様に病態モデルにおいても循環MP
量 が増加していることが明らかとなり、MPs
の病態生理 的意義および血管障害との関係性を検討する必要がある ことがわかった。2. MPs
血管内皮細胞は、 プロスタサイクリン、
NO、 内皮由
来過分極因子の3種類の血管弛緩因子を産生・放出し、血管機能の恒常性の維持に重要な役割を果たしてい
る20-22)。 これら弛緩因子の弛緩寄与度は血管径によるが、
血管径が大きい大血管においては、
NO
が主要な因子と なる。NO
の産生経路の一つとして、 アセチルコリン (ACh) 誘発のeNOS
活性化がある23)。 これは、ACh
が 血管内皮細胞上のムスカリン受容体に作用することでCa2+ channel
が開口し、 細胞内に流入したCa2+が calmodulin
と結合して複合体を作ることでeNOS
を活 性化してNO
を産生させると言われる古典的経路であ る。 糖尿病時、 この経路の活性減弱により、NO
産生の 減少および血管弛緩反応が減弱することを当研究室にお いて初めて観察した24-25)。 そこで、NO
寄与度の高いSTZ
誘発糖尿病ラットの頸動脈を用いて、ACh
誘発内 皮依存性血管弛緩反応を観察した。 その結果、 頸動脈に おいても対照群と比較し、 糖尿病群で弛緩反応の減弱が 確認された19)。 このため、 糖尿病時の循環MPs
量の増 加と頸動脈における内皮機能の低下の関係性を探るため、正常頸動脈に対照群由来
MPs
と糖尿病群由来MPs
を30
分間処置し、ACh
誘発血管弛緩反応を観察したとこ ろ、 糖尿病群由来MPs
を処置したもののみ、 弛緩反応 の減弱が確認された (Fig. 3)。 さらに、 この時、eNOS
の発現低下と膜タンパクでありeNOS
の発現や活性を 制御していると言われている26, 27)caveolin-1
の発現が 糖尿病群由来MPs
を処置した頸動脈で増加しているこ とが明らかとなった (Fig. 4)。本実験より、 糖尿病病態時の循環
MPs
は、 次に示す ように頸動脈に作用したと考えられる。MPs
は膜小胞 体の断片であり、caveolin-1
を豊富に含むことから、 糖B A
Fig. 2 MP
STZ
MPs ! A "# ELISA ! B "
$%&'()! A " Annexin V ! MP *+",-./
0 MP 1'()! B "23456 MP '()7 89:;<=>?! SE ",@) *P < 0.05, ***P < 0.001
$ %
Fig. 3 MPs !"#$
%&'()* A +,-#$%&'()* B +
STZ
MPs 30 GHIJK LMNOPQ ACh 2RS TUVWXYZ[! A " SNP 2RST\UVWXY Z[! B "'() SNP XYZ[OF]^_`ab
#`cI56 MPs 82RSTdeOf$ISTUV WXYZ[gh/ib#^@j/0)789:;<
=>? (SE) ,@) *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001
尿病時、 循環
MPs
は、 血管に接着したため、 頸動脈のcaveolin-1
量が増加したものと考えられる。 その結果、caveolin-1
がeNOS
の発現を制御することで、ACh
誘 発NO
産生の減少および弛緩反応の減弱をもたらした。このように、 病態由来の循環
MPs
は、 血管に接着する ことで、 血管内のシグナル伝達を制御し、 血管内皮機能 を急速に低下させる可能性が示唆された。3. MPs
血小板由来
MPs
が糖尿病に増加していることを著者 らは確認した19)。 血小板は生体の止血機構に重要な役割 を果たしていること以外に、 血管障害の進展にも血小板 が重要な役割を果たすと考えられている28)。 例えば、 糖 尿病患者では血小板寿命の短縮29)、 血小板粘着能あるい は凝集能の亢進30)、 アラキドン酸代謝の亢進31-33) ならび に血小板放出反応34-36) が報告されている。 そこで、 糖 尿病時の血管内皮依存性弛緩反応の減弱が血小板とどの ようにかかわっているのかを調べた37)。STZ
誘発糖尿病 モデルラットおよび対照ラットより単離した血小板をラッ ト頸動脈に処置したところ、ACh
誘発内皮依存性血管 弛緩反応は、 糖尿病ラット由来血小板処置時のみ有意に 弛緩反応が減弱した。 同様に、ACh
刺激によるNO
産 生も糖尿病群由来血小板処置時のみ減少した (Fig. 5)。これに対して、 血小板処置はソディウムニトロプルシド (SNP) 誘発内皮非依存性血管弛緩反応に影響を与えな かった (Fig. 5B)。 この結果から、 血小板も血管平滑 筋ではなく、 血管内皮細胞に作用することが明らかとなっ た。
そこで、 その機序について検討した (Fig. 6)。 正常 ラット頸動脈に糖尿病群由来血小板を処置すると、
CD61
およびCD62P
の発現が増加していることをまず 確認した。CD61
は血小板マーカーであり、CD62P
は 活性化血小板マーカーである。 つまり、 ラット頸動脈上 で糖尿病由来の血小板は、 接着し、 かつその血小板は活 性化していた可能性が示唆されたのである。 この時、 糖 尿病群由来血小板は、 酸化ストレスを増加させ、Akt
の 活性およびeNOS
の活性・発現を低下させ、 血小板の 凝集や血管壁の収縮を引き起こす物質であるトロンボキ サンA2
の産生を増加させた (Fig. 6)。 これらのこと から、 糖尿病時、 活性化した血小板が血管内皮細胞に接 着し、eNOS/NO
産生経路を制御し、 一方で、 血小板よ りも小さい血小板由来MPs
は血小板よりも早くターゲッ ト細胞に作用すると言われていることから、 活性化した 血小板はトロンボキサンA2
の産生を増加させることで、血小板由来
MPs
により低下していた血管内皮機能をさ らに増悪させている可能性が考えられる。血小板は、 血管壁の損傷により極めて迅速・鋭敏に活 性化し、 変形や粘着・凝集を引き起こして崩壊し、 微細 粒子 (MPs) 化する。 実際に、 動脈硬化病変では、 血
― 69 ―
1.0
$
-actin0.6 0.8
140 kDa +Veh +CMPs +DMPs
$
eNOS/
0.2
0.4
*
-Actin eNOS
+Vehicle +Control MPs
+Diabetic MPs 0.0
%
22 kDa Caveolin-1
+CMPs +DMPs +Veh
-Actin β
β
Fig. 4 MPs eNOS
caveolin-1
STZ
MPs 30 ! eNOS " A # caveolin-1 " B #$%& western blot '()*
+,-./01234" SE #56* *P < 0.05 vs. Vehi cle. 78 19 9:;<
%
$
&
9HK &RQWURO 3/7V
67=
3/7V
Fig. 5
NO
STZ =>
?@A 30 ! ACh BCD EF?GHIJK" A # SNP BCLDEF?GHI JK" B #()*MNOP?@A 30 ! ACh QR" 10
S6M # NO TU&
" C #()*VW SNP HIJK<XYZ[\
]^[N_`?@A-?GBCabcd NO T UeNf]^5BCDEFHIJKegMh]^Y6i Mj*+,-./01234 (SE) 56* *P < 0.05,
***P < 0.001 vs. Control + Vehicle. # P < 0.05, ## P <
0.01, ### P < 0.001 vs. Control + Control PLTs. 78 37
9:;<
小板由来
MPs
が生じると、 血小板内顆粒に含有されて いる種々の生物学的活性物質が放出され、 動脈硬化の進 展や血栓形成に寄与することが示唆されているが、 詳細 なメカニズムは解明されていない28, 38, 39)。 これらの変化 は糖尿病時にも観察されていることから、 同様のメカニ ズムが働いている可能性があり、 病態時の活性化血小板 とその
MPs
の役割や相互関係を解明することは、 血管 機能不全への早期診断および新規治療戦略に貢献できる と考えられる。4. EVs
先の研究より、 糖尿病動物から採取した血小板や血小 板由来
MPs
がeNOS
を減少させることで血管内皮依存 性弛緩反応を減弱させている可能性が示された。 このた め、 糖尿病時における血管内皮機能不全がどのように起 こるのか、 特にどのように血管内皮細胞からeNOS
が 減少していくのか検証する必要があると考え、 ヒト臍帯 静脈内皮細胞 (HUVECs) を用いて検討することにし た。HUVECs
に低濃度グルコース (5×10-3M) を処置し
た群 (LG EVs群;正常血糖を維持している健常者の血中をイメージ)、 高濃度グルコース (22×10
M) を処
置した群 (HGEVs群;高血糖状態が維持された糖尿病 患 者 の 血 中 を イ メ ー ジ ) 、 低 濃 度 グ ル コ ー ス とAngiotensin II
(Ang II ; 10-7M) を処置した群 (LG- Ang EVs
群;高血圧患者の血中をイメージ) および高濃 度グルコースとAng II
を処置した群 (HG-Ang EVs 群;糖尿病患者で多くみられる高血糖・高血圧状態の血 中をイメージ) の4
群を作成し48
時間後、MPs
の一種 であるEVs
の量を測定した40)。 その結果、HGEVs
群はLGEVs
群と比較し、EVs
産生量に変化がないことが明 らかとなった (Fig. 7)。 一方、LG-Ang EVs
群やHG- Ang EVs
群ではLGEVs
群と比較し約3
倍有意に産生 量が増加した (Fig. 7)。以上の結果から、 グルコース刺激のみでは、 グルコー ス濃度に関係なく
EVs
産生量に変化をもたらさないが、Ang II
の刺激はEVs
産生を促進することがわかった。以前から、
Ang II
処置によってEVs
の産生が増加する という報告41-45) や高血圧を併発した2
型糖尿病患者で はEVs
量が増加しているという報告46, 47) があった。 し かしながら、Ang II
がどのようにEVs
を産生させ、 か つ血管内皮機能へ影響を与えているのか全く不明であっ た。 そこで、 まず、 上記した4
種類のEVs
(LGEVs、HGEVs、 LG-Ang EVs
およびHG-Ang EVs) を処置
した正常マウス胸部大動脈における血管内皮依存性弛緩 反応およびNO
産生を検討した (Fig. 8)40)。LGEVs
群 と比較して、HGEVs
群は血管弛緩反応においてもACh
刺激によるNO
産生においても変化が観察されなかっ&
%
$
0.2
0.3 ##
6 8
*
ctin
+Control PLTs +STZ PLTs 0.0
0.1
2 4
CD62P/-ac
'
S$NW 9HK &RQWURO
3/7V 67=
3/7V 67=
&RQWURO 0
Control STZ
9HK &RQWURO 3/7V
67=
3/7V
9HK &RQWURO 3/7V
67=
3/7V
) (
S$NW
H126 SH126
&' $NW
$FWLQ
&'3
$FWLQ
)
( $FWLQ
β β
β
Fig. 6 !"#$%&
STZ
30 !"#$ CD61 %
&'(' ; A ) CD62P %*+,&'(' ; B )-
./ western blot 0"12345"#$
6 ACh 78"9 !:- 8-isoprostane /%;,<=
<&'(' ; C )>?@AB% p-Akt Akt p-eNOS eNOS
-actin ; D )-*+CDEFGD B
2%CDE
FGD A
2HIJ ; E )KL/123'MNOPQRS TU% SE )VW3 *P < 0.05, ***P < 0.001 vs. Control + Vehicle. #P < 0.05, ##P < 0.01 vs. Control + Control
PLTs. X6"YZ[\]9^_`ab-cde*
+,-fgW% F )3 TX A
2; CDEFGD A
2. hi 37 jklm
/ /* * + +* * /
/*
(9V +*
(9V /*
$QJ (9V
+*
$QJ (9V
aN'D
o te in (ng ) n t CD144 pr o Equ ivale n
Fig. 7 #$ EVs '
HUVECs "nop?q'<% 5 r 10
-3M )#$% LGEVs s ) top?q'<% 22 r 10
-3M )#$% HGEVs s)nop?
q'< Ang II % 10
-7M )#$% LG-Ang EVs s)u
"top?q'< Ang II #$% HG-Ang EVs s)"
KL\] EVs -/ EVs &'('Vv9 CD144 2 /w9xeVyz3'MNOPQRSTU% SE) VW3
*P < 0.05, **P < 0.01 vs. LG EVs. hi 40 jklm
た。 一方、
HG-Ang EVs
群は血管弛緩反応の減弱とACh
刺激によるNO
産生量の低下が確認された。 この 結果は、 糖尿病時に産生放出される血小板由来MPs
と 同様に、 高血圧を併発した糖尿病病態時に産生される内 皮細胞由来のMPs
も血管内皮機能不全を促進させる可 能性が示唆された。 しかしながら、LG-Ang EVs
群は、EVs
量が非常に多いにも関わらず、 血管弛緩反応やNO
産生量はLG EVs
群と変化を示さなかった (Fig. 8)。ここまでの結果から、 血管弛緩反応の減弱や
NO
産生 量の低下は、EVs
量に依存するものではなく、 高血糖 状態とAng II
によって刺激を受けて産生されるEVs
の質が正常時に産生されるEVs
と異なっているという ことを示すこととなった。続いて、
eNOS
およびeNOS
の活性を調節しているextracellular signal-regulated kinase
(ERK1/2)48) の 発現および活性を検討した。 その結果、eNOS
について は、 血小板由来MPs
と同様に、EVs
は活性に変化をも たらすことはないが、 血管弛緩反応を減弱させたHG Ang-EVs
を処置した場合のみ、 発現を低下させた (Fig.9) 。 さらに、 ERK1/2
については、EVs
処置によってERK1/2
発現に変化がもたらされることはないが、HG Ang-EVs
を処置した場合のみERK1/2
が活性化するこ とを確認した。 この結果から、 内皮細胞由来EVs
によ る血管内皮機能不全にはERK1/2
の活性が関与してい る可能性が示唆された。 そこで、HUVECs
に高濃度グルコースと
Ang II
以外にERK1/2
活性阻害薬であるPD98059
を 処 置 し 、 産 生 さ れ たEVs
(HG Ang-PDEVs
群) を用いて、 正常マウス胸部大動脈による内 皮依存性弛緩反応とACh
刺激によるNO
産生を検討し た (Fig.10) 。 そ の 結 果 、PD98059
を 処 置 し たHG Ang-PDEVs
群は、HG-Ang EVs
群と比較して、 内皮 依存性血管弛緩反応の増大とNO
産生量の増加を認め た。 つまり、 糖尿病病態時、 内皮細胞から産生放出され るEVs
はERK1/2
を活性化させている可能性があり、eNOS
の発現を制御することでNO
産生の低下および 血管弛緩反応の減弱をもたらすことがわかった (Fig.10)。MPs
は血球由来細胞や血管壁由来細胞から産生放出 される微小膜粒子である。 本研究においては、 血小板由 来MPs
やMPs
の一種である血管内皮細胞由来EVs
に 着目し、 大血管におけるNO
産生という観点に絞り検 討した結果を示した。 そして、 糖尿病病態時には、MPs
やEVs
の産生量が増加しているだけでなく、 質的変化 をもたらしている可能性を明らかにした。 加えて、MPs
やEVs
は、 処置30
分という短時間で内皮機能を劇的 に低下させる作用をもつことも明らかにした。MPs
は 血小板活性化により、 またはAng II
刺激により産生さ れ、 グルコース濃度により質的変化をもたらした可能性 が考えられる。 質的変化については、MPs
に含有され― 71 ―
0 0
Control +veh
%
$
20
40
ation (%) 20
40
ation (%)
Control +LG-Ang EVs Control +HG-Ang EVs ##**
60 80
Relaxa
Control +veh Control +LGEVs Control +HGEVs
60 80
Relaxa
5 6 7 8 9 100
ACh (-log M) Control +HGEVs
5 6 7 8 9 100
ACh (-log M)
el
20 *
&
ted NOx leve ol/g/min) 10 15
ACh-stimulat (10-5mo 5 10
A
+Veh +LG EVs
+HG EVs
+LG -Ang EVs
+HG -Ang EVs 0
Fig. 8 EVs
! NO "#
HUVECs EVs Fig. 7
30 !"#$ ACh %&
'()*+,-./01 A and B 2 ACh 34 NO
5 C 67$8 HG-Ang EVs 9:;./01:<=
>3? NO 5:<@ABC8DEFGHIJKLM N SE OP$8 *P < 0.05, **P < 0.01 vs. +Veh. ##P <
0.01 vs. Control +LG-Ang EVs. QR 40 STU
/*
(9V +*
(9V /*
$QJ (9V
+*
$QJ (9V S
SH126
/*
(9V +*
(9V /*
$QJ (9V
+*
$QJ (9V S
S(5.
%
$
SH126 H126 DFWLQ
(5.
DFWLQ
K1/2
2.0 2.5
*
##
-ERK1/2/ERK
0 5 1.0 1.5
p-
+LG EVs
+HG EVs
+LG -Ang EVs
+HG -Ang EVs 0.0
0.5
EVs EVs
actin
1 0 1.5
ERK1/2 /-a
0.5 1.0
+LG EVs
+HG EVs
+LG -Ang EVs
+HG -Ang EVs 0.0
β β
Fig. 9 EVs
eNOS ! ERK1/2 $%&'(
HUVECs V4W23X EVs
Fig. 7 !"#$ eNOS A
>3? ERK1/2 B :Y+2&Z Western blot [3X6 7$8DEFGHIJKLMN SE OP$8 *P < 0.05 vs. +LG EVs. #P < 0.05, ##P < 0.01 vs. Control +HG EVs.
QR 40 STU
るタンパク質等についてさらなる検討を行うことが必要 だが、 その一端に
ERK1/2
の活性が関与している可能 性が明らかとなった。 さらに、 短時間で血管側のeNOS
の発現が減少するとい事象も発見することができた。 こ れは、 内皮細胞がeNOS
を含有したMPs
(今回はEVs
として) を産生放出している可能性を示唆していると著 者は考えているが、 この点はまだ未解明である。 血中を 循環するMPs
の含有物の同定や内皮機能とのクロストー クを検討していくことにより、 今後、 糖尿病性血管内皮 機能障害発症機序の解明だけでなく、MPs
をターゲッ トとした新たな糖尿病性血管合併症の治療および予防戦 略が確立していくと確信している。本研究を遂行するにあたり、 平成
29
年度星薬科大学 大谷記念研究奨励金を賜りましたことに対し、 大谷卓男 理事長ならびに田中隆治学長に深く感謝申し上げます。また、 多大なるご指導を賜りました星薬科大学機能形態 学研究室の小林恒雄教授に心より御礼申し上げます。 最 後に、 本研究にご指導、 ご協力いただきました松本貴之 准教授並びに同研究室員の皆様に深く感謝いたします。
開示すべき利益相反はない。
0
Control +veh
***
%
$
20 40
ation (%)
Control +HG-Ang EVs Control +HG-Ang-PDEVs #
60 80
Relaxa
5 6 7 8 9 100
ACh (-log M)
&
&
Fig. 10 EVs
HUVECs Ang II
EVs HG-Ang EVs Ang
II PD98059 ERK1/2 !"
EVs HG-Ang PDEVs 30 #$%&'( )*+
,-./ ACh 0123456789 A ACh : NO ;<= B >?@ABCDEFGH IJ SE K@ **P < 0.05, ***P < 0.001 vs. Control +veh. #P < 0.05 vs. Control +HG-Ang EVs. LM
Ang II : HUVECs N;<:
EVs OPQRS2345TU6789VWXYZK (C) @[\ 40 ]*^_
1)
厚生労働省 平成28
年 「国民健康・栄養調査」 平成29
年9
月21
日2) Ohkubo Y, Kishikawa H, Araki E, Miyata T, Isami S, Motoyoshi S, Kojima Y, Furuyoshi N, Shichiri M.Intensive in- sulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin- dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study. Diabetes. Res. Clin. Pract., 28, 103-117
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