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指向動詞の意味分析−めがける・ねらう・めざす−
著者 井上 次夫
雑誌名 奈良教育大学国文 : 研究と教育
巻 6
ページ 38‑49
発行年 1983‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10105/10508
指向動詞の意味分析
i め が け る
ねらう・めざす井上次夫
隔
本稿の目的は︑﹁めがける﹂﹁ねらう﹂﹁めざす﹂の意味を最近
の意味論の方法を用いて分析することである︒分析に取り掛かる前
に︑意味の記述において意欲的取り組みが見受けられる﹃岩波国語
辞典(第三版)︑﹄と﹃新明解国語辞典(第三版)﹄︑﹃日本国語大
辞典﹄から︑本稿に関係のある部分を少し長くなるが引用しておこ
,つo
e﹃岩波国語辞典﹄
めがける[目掛ける]︹下一他︺ねらう︒目標にする︒めぎす︒
ねらう[狙うU︹四他︺目当ての物を自分の思うようにしよう
と︑働きかける構えをする︒④それに目をつけ︑手に入れよ
うとして機をうかがう︒﹁すきをi﹂◎命中させようと構
える︒﹁鉄砲でi﹂ めざす[目差す・目指すU︹四他︺⁝⁝を目標としてすすむ︒
⁝⁝を目的とする︒﹁頂上をーして登る﹂﹁大学進学をー﹂
口﹃新明解国語辞典﹄
めがける目目掛ける](他下一)目をつけて︑ねらう︒目標と
する︒︹﹁目懸ける﹂とも書く︺
ねらう[狙う](他五)θ目標に命中させようと構える︒﹁効
果をー﹂◎ある物を手に入れようとして︑機会をうかがう︒﹁親の敵勒タをー︹11殺そうとして︑つけ狙う︺・経費の節
減をー︹H当面の目標とする︺"あとがま・(機会・チャ
ンス・つけ込むすき)をー﹂
めぎす[日指すロ(他五)θほかのものでは無く︑最初からそ
のものだけを目あてとする︒﹁頂上をー・1敵﹂◎﹁志
向する﹂の和語的表現︒﹁解決・(地位向上・実現・,奪回)
'をi﹂・︹﹁目差す﹂とも書く︺
螺●﹂(
⇔﹃日本国語大辞典﹄
めがける[目掛]︹他力下{︺①目をつけてねらう︒目標にす
る︒めざす︒目を留める︒(以下用例は省略)②﹁め(目)
を掛ける﹂に同じ︒︑ねらう[狙]︹他ワ五︺①あるものを手に入れようとして︑ま
たは殺そうとして︑その目的物の様子をうかがう︒また︑そ
の目的が達成される機会を待つ︒②弓や鉄砲などで命中させ
ようと︑目標に向けて構える︒③ある事柄を目標としてめざ
す︒ある物事を目標として︑それを試みる︒
めざす[目指・目差]︹他サ五︺①目あてとして見る︒②目標
としてねらう︒めがける︒
以上三つの辞典に共通して言えることは︑﹁ねらう﹂の記述が比
較的詳細であるのに対して﹁めがける﹂﹁めざす﹂の記述が簡単す
ぎるということである︒ところで︑各辞典・各項目の記述にはそれ
ぞれ問題点がある︒例えば︑辞典eOの﹁ねらう﹂の記述には辞典
⇔の﹁ねらう③﹂の観点が抜けている︒また︑各辞典においては﹁
めがける﹂の記述を﹁ねらう﹂﹁めざす﹂などの語による置き換え
で事足れりとしている︒そして︑﹁めざす﹂を引くと﹁めがける﹂
﹁ねらう﹂︑﹁ねらう﹂を引けば﹁めぎす﹂が出て来たりもする︒
いわゆる循環定義に陥っているのである︒辞典の意味記述は︑その
形式上の制約があるにしても︑未知の語に出会い辞典を引く者1 特に就学児童生徒や外国人iにその語を正しく理解させてくれる
ものでなければならない︒ここに分析する三つの動詞について言え
ば︑その意味上の共通点及び相違点が明示されている必要があるわ
けである︒︑.,
そこで︑この点を考慮に入れて分析に移るのであるが︑分析の方
法について説明しておこう︒第一に︑これから分析する三つの動詞
は個別的に扱うのではなく二つずつ互いに比較させながら三回に分注1けて扱う︒これは﹁語彙体系の作業原則﹂であり︑作業効率の面か
らも首肯できる︒第二に︑文を比較する際には問題とする部分以外
は全く同じにする︒このことは﹁般に︑二者の問の規則性を発見す
るための一つの常識である︒そして第三は分析に用いる文例に関し
てである︒これには︑文献等で実際に用いられた文例と分析者が作
成する文例の二種類を使用する︒分析者が文例を作成することに関
しては︑扱う語が現代語であり分析者がその使用者の一人であるこ
とから考えて一応問題はない︒第四には︑比較する文例に対して﹁
言える﹂か﹁言えない﹂かを判断する︒この判断は分析者の内省に
よって行う︒この結果︑分析する語の意味特徴が一つずつ解明され
てくる︒そして︑これらを総合するところに各語の意味記述が完成
するのである︒しかしながら︑内省による﹁言える﹂﹁言えない﹂
の判断の客観性に関しては確証があるわけでない︒﹁言える﹂作成
文例の客観性の確証についても同様である︒ 一39一
そこで︑判断の疑わしい文例に関しては一通り客観的判断﹂(社会
習慣的判断)を行うフィルターを通す︒すなわち︑より多くの実例
を調査し同一あるいは近似の文例を探し出す一方で︑インフォーマ
ント(言語資料提供者)を利用する︒インフォーマントに﹁言える
﹂﹁言えない﹂の判断やその際のコメントを求めるのである︒それ
でもなお判断が揺れる文例については分析に用いず︑判断の明らか
な文例を先行させるものとする︒は それでは︑分析で用いられる記号について説明し分析に取り掛か
ろう︒
e︿﹀意義素あるいは意義素の一部を構成する意味要素を示
す︒
口﹁﹂個々の具体的な用法における意味を示す︒その他一般
に用いられる諸用法でも用いられる︒
⇔カタカナ分析の対象となっている語を作成文例や本文の中
で用いるときに用いる︒
ヘへ傍点実例中に用いられた分析対象語を示す︒
文例にはアラビア数字の通し番号が付けられているが︑それ
にさらにアルファベット小文字が付けられている場合は︑そ
の章で分析対象としている語の部分のみが異なり︑残りの部
分が同剛である咽群の文例を示す︒
*文例の頭に付けられ︑その用法が不可能あるいはきわめ て不自然であることを示す︒
?文例の頭に付けられ︑その用法が木可能ではないが︑不
自然であることを示す︒
二
1共通点
ア警官が犯人をメガケテ突進した︒
イ鷹⁝が兎をネラッテ襲いかかった︒
ウ男たちが山頂をメザシテ登った︒
ア〜ウの文例で︑﹁警官﹂﹁鷹﹂﹁男たち﹂(主体)はそれぞれ
﹁犯人﹂﹁兎﹂﹁山頂﹂(対象)に向かっている︒すなわち︑この
三っの動詞は︿主体の対象への指向(志向)﹀を表す点で共通して
いる︒そこで︑これらを﹁指向動詞﹂と総称する︒
ところで︑語法上の留意点としてメガケルは通常メガケテの形で
用いられる︒それゆえ︑これとネラウ・メザスとを比較する場合に
はこの二語を副詞化させ︑ネラッテ・メザシテの形として考察する︒
また︑メガケル・メザスは特に口語において格助詞ヲが省略されて
用いられる傾向がある︒文例では格助詞ヲは省略せず基本の形で扱
うこととする︒
∬メガケルとネラウ
げ
﹁ ⊥ a
b
2a
b
3a
b*津波
文例12では︑
:不ラウ両語の主体となっている︒しかし︑文例3の﹁津波﹂
砂﹂という︿自然現象・無生物﹀の場合にはメガケルの主体となり
得るもののネラウの主体にはなり得ない︒以上のことから︑ネラウ
にはく主体が人間・動物であるVという制約があるのに対し︑メガ
ケルにはそのような制約がないことがわかる︒ところが︑主体がく
無生物Vとなっている文例﹁零戦は空母をネラッテ急降下した﹂は
言い得る︒これは︑﹁零戦﹂が乗り物であり中に操縦者く人間Vが
存在すると思われるからである︒しかし︑分析の過程においてはこ
のような文例及び擬人化表現や詩的表現を含む文例は除外し︑分析
が繁雑にならないようにする︒
次に︑対象について検討しよう︒
4a顔をメガケテ石を投げる︒
b顔をネラッテ石を投げる︒
5a壁をメガケテ体当たりする︒ 猟師が鉄砲で猪をメガケテ撃った︒
猟師が鉄砲で猪をネラッテ撃った︒
狼が羊をメガケテ飛びかかった︒
狼が羊をネラッテ飛びかかった︒
津波(土砂)が人家をメガケテ押し寄せた︒
(土砂)が人家をネラッテ押し寄せた︒
﹁猟師﹂﹁狼﹂というく人間・動物Vがメガケル
﹁土 b*壁をネラッテ体当たりする︒
6a噴火口をメガケテ投身する︒
b*噴火口をネラッテ投身する︒
7a*的をメガケテ矢を射る︒
b的をネラッテ矢を射る︒
8a*鉄砲で胸の小さなバッジをメガケテ撃っ︒
b鉄砲で胸の小さなバッジをネラッテ撃つ︒
対象の面積が大きくなると(文例56)ネラウは使用できなくな
る︒反対に︑対象の面積が小さくなると(文例78)メガケルが使
用できなくなる︒
︑︑︑︑9
10
11
12 ひとりの男が二階の出窓に腰をかけ︑庭めがけてライフルを
撃ちまくっていた︒(筒井康隆﹃おれの血は他人の血﹄新潮
文庫︑一九〇ページ)
ヘヘヘヘピストルを握りしめたまま︑トモ代の側頭部めがけて銃身を
力一杯振り下ろした︒(西岡琢也﹃ガキ帝国︽悪たれ戦争︾
﹄徳間文庫︑=二七ページ)
ピッチ・エンド・ランのポイントは︑落とし場所︒ピンまで
ヘヘヘへの距離の3分の2の地点をねらってボールを正確に落とす︒
(草壁政治﹃ゴルフ・アイアン編﹄成美堂出版︑一九〇ペー
ジ)
彼[鳶]は落下して来た一線と直角の角度をもって︑別の一 一41一