• 検索結果がありません。

015~ 江口.indd

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "015~ 江口.indd"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1. は じ め に  近年,環境にやさしい移動手段として鉄道が世界的に 注目され,多くの国で鉄道整備が積極的に進められてい る。このような状況において,高い評価を受けている我 が国の鉄道システムの海外展開はその重要性を増してき ている。本稿では,海外の主な鉄道プロジェクトの最近 の動向,および我が国鉄道システムの海外展開の取組み 状況について紹介する。 2. 近年の鉄道整備に対する世界の潮流  近年,地球環境問題への対応の観点から,また,世界 的に厳しい経済情勢の中,経済対策の一環として,鉄道 を含むインフラ整備を進めようとする動きが世界的に続 いている。2010 年 9 月に欧州鉄道産業連盟(UNIFE) の公表した,海外における今後の鉄道市場に関する報告 書によれば,2007 年から 2009 年の世界の鉄道市場規模 は,年平均値約 1 360 億ユーロであり,2005 年から 2007 年の平均値に比べて 12%の増加を示していると推計さ れ,この市場は 2016 年まで年率 2.0~2.5%で成長を続 けるとされている(図-1)。国内に目を転じると,我が 国メーカーによる鉄道車両等(車両部品および信号保安 装置を含む)の年間輸出額は,2000 年度~2004 年度の 平均が約 719 億円であったのに対し,2005 年度~2009 年度の平均はそのおよそ 1.5 倍の約 1 103 億円に伸びて いる(図-2)。   3. 鉄道システムの海外展開の意義  鉄道は他の交通機関に比べて CO2の排出量や消費エ ネルギー等,優れた環境効率を有している。中でも我が 国の鉄道システムは,個別要素技術を高度に統合するこ とにより,優れた省エネルギー性,高い安全性と信頼性 等を有している。新幹線については,1964 年の東海道 新幹線開業以来 46 年にわたる乗客死傷者ゼロ,1 列車 あたりの平均遅れ時間 1 分未満という安全・安定運行実 績がある。本年 3 月に発生した東日本大震災においても, 東北新幹線を走行していた 27 本の営業列車(うち 8 本 は駅停車中)は脱線せずに停止し,乗客の死傷は無かっ た。また高架橋や橋梁等のインフラ構造物にも深刻な被 特集/海外工事への新たなる挑戦/2.海外へのインフラ整備事業の展開に関する取組み

我が国鉄道システムの海外展開の現状

江 口 秀 二

* * えぐち・しゅうじ/国土交通省 鉄道局 技術企画課技術開発室長 (前国際業務室長) 1 360 億 ユーロ (億ユーロ) 1 610 億ユーロ 中東 アフリカ 1 600 1 400 1 200 1000 800 600 400 200 0 2005-2007 2007-2009 2015-2016 300 36 240 141 74 375 50 50 426 43 235 152 78 379 47 47 505 58 271 190 90 430 62 62 1 220 億 ユーロ (14.3 兆円) アジア 太平洋 北米 メキシコ 中南米 CIS (露等) 西欧 +12% 東欧 図-1 世界の鉄道市場規模の推移1) <年間輸出額> (億円) (2000∼2004 年度平均) ※鉄道車両等とは,鉄道車両,鉄道車両部品および信号保安装置 885 1 341 1 047 5 000 6 000 7 000 輸出 国内 (2005∼2009 年度平均) 4 889 486 536 531 652 1 233 1 012 3 000 4 000 3 370 3 288 3 777 3 706 3 986 3 662 4 034 4 694 4 589 0 1 000 2 000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 (年度) 1 389 719 億円 1 103 億円 約 1.5 倍 図-2 鉄道車両等の売上高実績と輸出割合2)

(2)

害は生じなかった。  このような我が国の鉄道システムを海外に展開するこ とは,相手国の経済・社会の発展や,二国間関係の強化 につながることはもとより,地球環境問題にも大きく貢 献するものである。また,今後の成長が見込まれる海外 市場における競争を通じて,技術力やコスト競争力を向 上させていくことは,我が国の鉄道産業の維持発展や鉄 道技術の継承・発展の観点からも重要である。 4. 諸外国の主な鉄道プロジェクト 4.1 米国高速鉄道計画  米国では,オバマ政権が経済再生策および地球環境対 策の両面から鉄道整備に積極的に取り組む姿勢を打ち出 しており,2009 年 4 月に高速鉄道計画戦略を公表し, 11 の高速鉄道構想が示された(図-3)。2010 年 1 月には, 米国再生・再投資法に基づく総額 80 億ドル,10 月には 2010 年度予算による 24 億ドルの連邦補助金の配布が決 定された。また,2011 年 1 月には,オバマ大統領が一 般教書演説において,「今後 25 年以内に 80%のアメリ カ国民の高速鉄道へのアクセスを可能とする」との目標 を掲げ,さらに 2 月には,バイデン副大統領が 6 年間で 530 億ドルを高速鉄道網と都市間鉄道網の建設に投じる 高速鉄道整備 6 カ年計画を発表している。  このような米国の高速鉄道整備の動きに呼応して,国 土交通省では官民連携の下でのトップセールスを積極的 に展開している。2010 年 1 月に馬淵副大臣(当時)が ワシントン DC を訪問して高速鉄道セミナーを開催して ラフード運輸長官等と会談したのに続き,同年 4 月には 前原大臣(当時)が我が国の鉄道界を代表する企業幹部 と共にワシントン DC を訪問してラフード運輸長官等と 会談し,我が国の高速鉄道技術の優位性,訪米に先立ち 制度化された JBIC(国際協力銀行)の先進国向け投資 金融制度や,雇用創出への貢献可能性等について説明を 行うとともに,日米当局間で米国の鉄道技術基準に係る 定期協議を行うことで合意した。続いて,前原大臣から の招きに応じてラフード運輸長官が翌 5 月に来日し,新 幹線やリニアモーターカーに試乗することにより我が国 の鉄道システムを直接体験した。同年 6 月には前原大臣 が再度訪米し,オバマ大統領やラフード運輸長官の出身 地であるシカゴにおいて高速鉄道セミナーを開催した。 同年 9 月には,カリフォルニア州のシュワルツネッガー 知事(当時)が訪日し,菅首相への表敬,前原大臣との 会談のほか,新型新幹線 E 5 系(はやぶさ)にも試乗し た。さらに,2011 年 1 月に,カリフォルニア州ロサン ゼルスにおいて,ワシントン DC,シカゴに続く国土交 通省等主催の高速鉄道セミナーを開催した。  他方,米国には高速鉄道に関する技術基準がまだな く,現在,この策定に向けた作業が米国連邦鉄道監督庁 (FRA)で行われている。これに関し,国土交通省鉄道 局は,我が国鉄道事業者や関連する企業・機関ととも に,FRA と定期的に協議を行い,我が国における技術 基準の考え方や安全確保方策に関する情報提供等を行っ ている。  米国の高速鉄道計画の中で,最も検討が進んでいるの がカリフォルニア高速鉄道計画である。これはサンフラ ンシスコからロサンゼルス,サンディエゴまでを結ぶ全 バンクーバー 総 延 長:約 750 km 最高速度:約 180 km/h モントリオール∼ボストン間:約550 km  ポートランド∼ボストン間:約240 km 最高速度:約180 km/h (既存回廊) ワシントン∼ボストン間:約 735 km 最高速度:約 240 km/h( ) で運行中 ポートランド シアトル ユージーン ポートランド モントリオール 総 延 長:約 3 720 km 最高速度:約 180 km/h 総 延 長:約 740 km 最高速度:約 200 km/h サクラメント シカゴ ミネアポリス デトロイト バッファロー フィラデルフィア クリーブランド ニューヨークシティ 総 延 長:約 1 290 km 最高速度:約 350 km/h ボストン ロサンゼルス セントルイス カンザスシティー ルーイビル ワシントン リッチモンド ピッツバーグ インディアナポリス 総 延 長:約 560 km 最高速度:約 180 km/h サンフラ ンシスコ ラスベガス サンディエゴ ダラス リトル・ロック タルサ アトランタ コロンビア オクラホマシティー ワシントン∼アトランタ間:約 1 270 km 最高速度:約 180 km/h サンアントニオ ヒューストン ニューオーリンズ モビール オーランド タンパ ジャクソンビル 高速鉄道構想 北東部 その他旅客路線 KEY ※他にダラス・ヒューストン・サンアトニオを結ぶ構想あり 総 延 長:約 1 600 km 総 延 長:約 1 640 km 最高速度:約 180 km/h オースティン マイアミ (※) 総 延 長:約 500 km    最高速度:約 300 km/h ※本年 2 月 16 日に,スコットフロリダ州知事が高速鉄道に係る補助金の受け入れの拒否を表明 11. 北東回廊 1. カリフォルニア 8. キーストーン 2. 太平洋岸北西部 5. シカゴ・ハブ・   ネットワーク 4. 湾岸部 3. 中南部(テキサス) 6. フロリダ 7. 南東部 10. 北部ニューイングランド 9. エンパイア 図-3 米国高速鉄道計画(総延長約 13 700 km)3)

(3)

長約 1 290 km の計画で,第 1 期として,サンフランシ スコ~ロサンゼルス~アナハイム間の約 840 km,総事 業費約 426 億ドルの整備の準備が進められている(図-4)。 2010 年 12 月には,第 1 期のうち,最初に建設する区間 (ICS)として,セントラルバレーのフレズノ北部~ベー カーズフィールド間(約 190 km)が選定され,本年 3 月 16 日に,本計画に関心を有する 1 100 以上の企業, 機関から関心表明が出された。今後,ICS のインフラ整 備に関して,本年第 3 四半期に資格審査公募(Request for Qualifi cation),本年末には提案公募(Request for Proposal)が公示され,来年秋には着工される予定である。  一方,カリフォルニアと同様に準備が進んでいたフロ リダ州の高速鉄道計画については,本年 2 月,同州のス コット新知事が連邦からの財政支援を拒否する旨を発表 した。応札準備を進めていた日本チームにとっては大変 残念なことであったが,フロリダに配算予定であった連 邦補助金約 24 億ドルのうち約 20 億ドルについては,公 募の上,再配分されることとなった。これに対し24の州, ワシントン DC,アムトラックから総件数 90 件,総額 100 億ドルに達する申請があり,本年 5 月,ワシントン ~ニューヨーク~ボストン間を結ぶ北東回廊,シカゴを 中心とする在来線の高速鉄道網を形成するシカゴハブ ネットワーク計画等に再配分された。カリフォルニア高 速鉄道計画についても,上記の ICS に対して,マーセド =フレズノ間にあるサンノゼへの分岐点(ワイ・ジャン クション)までの延伸(北側に約 30 km)に対して 3 億 ドルが配分され,連邦政府からの補助金は合計で約 39 億ドルとなっている。 4.2 ブラジル高速鉄道計画  ブラジルでは,2014 年のサッカーワールドカップ, 2016 年のリオデジャネイロ・オリンピックの開催を控え, 交通インフラの早急な充実が求められている。こうした 中,2008 年 1 月に策定された経済成長加速化計画では, リオデジャネイロ~サンパウロ~カンピーナス(全長約 510 km)を結ぶ高速鉄道が国家プロジェクトとして位置 付けられ,我が国官民一体での取組みが始まった(図-5)。 同年 3 月末に本件に関する国交省ミッションが初めてブ ラジルを訪問し,当時のルセーフ・ジルマ文官長(現在 の大統領)やナシメント運輸大臣他と面談した。2008 年は日本人がブラジルに移住を開始してから百年目の節 目にあたることから「日本ブラジル交流年」とされ,両 国で様々な記念行事が行われた。同年 4 月に日本で行わ れた式典にはルセーフ文官長が参加され,その際には新 幹線にも試乗された。  これ以降,本件への参加を目指す日本企業連合ととも に両国間の実務レベルにおける協議が始まり,我が国新 幹線にかかる技術,整備手法,関連法体系,整備効果な どを説明するとともに,本件の事業モデル等について協 議を行い,その回数は 12 回に及んだ。また,トップセー サクラメント マーセド サンフランシスコ ワイ・ジャンクション サンノゼ フレズノ 最初に建設する区間 (ICS) ベーカーズフィールド パームデール ロサンゼルス アナハイム サンディエゴ 高速鉄道予定路線(第1期) 主要駅 高速鉄道予定路線(第2期) 図-4 カリフォルニア高速鉄道計画 レゼンデ ボウタ・ヘドンダ/バハ・マンサ ブラジル リオデジャネイロ カンピーナス アラーラス山脈 ビラコッポス空港 ガレオン空港 アパレシーダ サンパウロ ガルーリョス空港 ジュンヂアイ サンジョゼ・ドス・カンポス ブラジル・日本の沿線都市人口の比較(万人) <凡例> 予定駅 追加候補駅 0 100 200 300 400 500距離(km) 東京 23 区885 大阪 日 本 (東京∼新大阪) 名古屋226 146 267 サンパウロ カンピーナス ブラジル (カンピーナス∼ リオデジャネイロ) リオデジャネイロ 609 1 089 104 京都 図-5 ブラジル高速鉄道計画

(4)

ルスとしては,総理特使として,2008 年 6 月に松島副 大臣(当時)が,また 2010 年 1 月には長安国土交通政 務官(当時)が日本企業連合とともに訪伯し,総理親書 を手交した上で,アレンカール副大統領(当時)をはじ めとした伯国政府要人と会談した。  2009 年 7 月にはブラジル側が実施した F/S 調査の結 果が,同年 12 月には入札ドラフトが公表され,2010 年 7 月に入札が公示された。その中では,本件の総事業費 は 331 億レアル(約 1.66 兆円),事業方式は,落札した 民間事業体にブラジル政府が本路線の建設から開業後 40 年間の維持運営までを行う事業権を与えるコンセッ ション方式とされた。入札評価は,リオデジャネイロ~ サンパウロ間の直通列車の料金として最安値を提示した 応札者が 1 位とされ,技術面での評価は資格審査のみと された。また,ファイナンス面においては,完工リスク や需要リスク等,民間事業体が負担するリスクが大きく, 日本企業連合の応札は厳しい状況にあった。入札締切は 2010 年 11 月 29 日に設定されていたが,同月 26 日に, ブラジル政府は,各国グループや業界団体から応札準備 時間の延長が求められたとして入札締切を 2011 年 4 月 11 日に延期すると発表した。さらにブラジル政府は, 本年 4 月 7 日に,ブラジル国内および海外の企業から, 事業体を組成するための協議の時間が必要との要求が あったとして,締切を 7 月 11 日に再延期したが,同日 に応札したグループはなかった。これを受けブラジル政 府は現在入札方法を再検討している。 4.3 ベトナム高速鉄道計画・都市鉄道計画  ベトナムでは,ハノイとホーチミン間を結ぶ延長約 1 600km の南北高速鉄道が計画されている(図-6)。総 事業費は約 560 億ドルと見込まれ,ベトナムのズン首相 が南北高速道路,ハノイ市西部のホアラック・ハイテク パークとともに我が国に協力依頼をしている重要案件で ある。ベトナム側は,この計画路線のうち北部のハノイ ~ヴィン間(約 280 km)と南部のホーチミン~ニャチャ ン間(約 380 km)の 2 区間を優先的に整備する意向で あるが,この 2 区間でも合計で 200 億ドルを超える大プ ロジェクトである。2010 年 5 月に訪越した前原大臣(当 時)は,ベトナム側に優先 2 区間の開業時期の延期や開 業区間の短縮等を提案し,今後,実現可能な方策を検討 することで合意した。本計画は同年 5 月から 6 月に開催 されたベトナム国会に上程され審議されたが,採択に至 らず,今後の国会で再度審議される見通しとなっている。 同年 8 月にベトナム側は優先 2 区間にかかる F/S 調査 を我が国に要請し,10 月に我が国政府はこの調査の実 施を決定した。2011 年 5 月から調査が始まっている。 なお,この高速鉄道計画に関し,2007 年から 09 年にか けて民間団体主催の高速鉄道セミナーが現地で 3 回開催 され,日本の新幹線技術等について PR が行われている。  一方,ベトナムでは,現在,ハノイ市およびホーチミ ン市で都市鉄道の整備が進められている(図-7)。ハノ イ市では,1 号線~ 5 号線およびハノイ~ノイバイ線が 計画決定され,1 号線と 2 号線の整備に対して円借款が 供与されている。いずれも現在,コンサルタントによる 設計調査が行われている。またホーチミン市では 1 ~ 6 号線が計画決定され,このうち 1 号線に対して円借款が 供与されている。1 号線は地下区間のインフラ整備,高 架区間のインフラ整備,および車両等調達の 3 つの入札 パッケージに分かれており,現在入札手続きが行われて いるところである。なお,ベトナム都市鉄道に供与され ている円借款は,本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)で,車両等は日本企 業から調達されることになっている。  これらベトナムにおける高速鉄道や都市鉄道の整備等 の鉄道分野でのテーマについて,国土交通省とベトナム 交通運輸省は,2010 年 3 月から政府間協議を行っており, ハノイ フエ ダナン ニャチャン 数字は主な都市人口(万人) 0 200 400 km ホーチミン カンボジア タイランド湾 タイ ラオス ベトナム 中国 1 000 mm 1 435 mm 単線 休止線 計画線 南寧 北海 単線 休止線 計画線 軌幹混合区間 (1 435/1 000 mm) ヴィン トンキン湾 115 ダナン82 661 ヴィン 86 ベトナム (ハノイ∼ ホーチミン) 東京 23 区 博多 ハノイ 612 フエ ホーチミン ニャチャン58 日 本 (東京∼博多) 98 146 0 200 400 600 800 1 000 1 200 1 400 小倉 1 600 距離(km) 885 名古屋 大阪 226 267 岡山71 広島117 京都146 ベトナム・日本の沿線都市人口の比較(万人) 図-6 ベトナム高速鉄道計画

(5)

これら鉄道プロジェクトの状況およびこれらに対する日 本からの協力等について意見交換を行っている。

4.4 インド貨物専用鉄道計画・高速鉄道計画・都市 鉄道計画

 インド貨物鉄道計画(DFC:Dedicated Freight Corridor) は,インド国内の逼迫した鉄道貨物輸送力を増強するた めの計画であり,デリー~ムンバイ間約 1 500 km の西 回廊と,デリー~ハウラー(コルカタ)間約 1 400 km の東回廊からなる(図-8)。この計画は 2005 年の日印首 脳会談の際にインド側より提示されたものであり,JICA 調査団の派遣,ハイレベルや実務者レベルでの協議を経 て,2008 年の日印首脳会談で,西回廊における第 1 フェーズ(レワリ~バドダラ,約 950 km)への円借款 を供与する方針が伝達された。供与予定額は約 4 500 億 円に上り,これは円借款の単一案件としては過去最大の 規模である。2009 年 10 月に設計等に対して約 26 億円の, 2010 年 3 月に本体工事の一部として約 902 億円の円借 款供与が決定された。また,2010 年 7 月には西回廊第 2 フェーズ(ダドリ~レワリ,バドダラ~ムンバイ,合計 約 550 km)に係る設計等に対して約 16 億円の円借款供 与が決定された。DFC に対する円借款の条件も STEP で,電気機関車や信号設備等を対象として我が国の鉄道 技術が活用される見込みである。  インドでは首都デリーで,デリーメトロと呼ばれる大 規模な都市鉄道の整備が進められている。この建設資金 にも円借款が供与されている(図-9)。デリーメトロは 総延長約 414 km で 4 つのフェーズから成り,フェーズ 1(約 65 km)が円借款により整備され 2006 年 11 月に 全線が供用開始された。またフェーズ 2(約 128 km) についても円借款が供与され,間もなく全線が開業する 予定である。また,フェーズ 1 開業後は運行管理や車両 維持の分野で専門家を派遣するなど技術協力も行われ た。デリー以外に,バンガロール,コルカタ,チェンナ イの都市鉄道計画に対しても円借款が供与され,今後整 Nam Thang Long Tram Hung Dao ノイバイ空港 メーリン バックホン ハノイーノイバイ線 イエンビエン ザーラム ナムタンロン ニョン ハノイ中央駅 チャンフンダオ 3 号線 ザップバット 5 号線 ・路線延長約 40 km○ 1 号線 ・2008 年 3 月に STEP 制度  の円借款供与契約を調印 中国が支援 線は既存の鉄道路線 ハノイ市 ○ 2 号線 ・路線延長約 35 km ・2009 年 3 月に STEP 制  度の円借款供与契約を  調印 4 号線 南北高速鉄道(予定) 2 A 号線 仏・ADB・EIB の協調融資 ドンアイン ゴックホイ スオイティエン 2 号線 ○ 1 号線 独・ADB・EIB の協調融資 3 B 号線 ・路線延長約 20 km ・2007 年 3 月に STEP 制度の  円借款供与契約を調印 タムルオン ベンタン サイゴン駅 6 号線 4 号線 5 号線 3 A 号線 ホーチミン市 トゥティエム 図-7 ベトナムの都市鉄道整備計画 第一フェーズ円借 款対象区間 (レワリ∼バドダラ, 約 950 km) ルディアナ デリー バラナシ ソンナガル レワリ クルジャ アグラ ハウラー (コルカタ) ムガールサライ 第二フェーズ円借 款対象区間 (ダドリ∼レワリ,バ ドダラ∼ムンバイ, 合計約 550 km) ムンバイ ハイデラバード 西回廊 東回廊 (DFC) チェンナイ バンガロール 複線電化区間 単線電化区間 単線非電化区間 (既存路線) 主要都市 主要港湾 ムンドラ港 カンドラ港 ピパバブ 港 ムンバイ港 JN 港 アーメダバード バドダラ 図-8 インドの貨物鉄道計画

(6)

備が本格化する予定である。  インド各地には高速鉄道の計画もある。2007 年 2 月, プラサド鉄道大臣(当時)が,鉄道省予算に関する演説 において「最新の信号・列車運行システムを備え,時速 300~350 km で走行できる高速旅客鉄道の建設につい て,インドの北部,西部,南部,東部のそれぞれにおい て予備的調査を行うことを決定した」と発表し,プネ~ ムンバイ~アーメダバード間など 6 路線,総延長約 3 880 km について,順次,予備的調査(プレ F/S)が 実施されている(図-10)。 4.5 アジア諸国における都市鉄道計画  東南アジアや南アジア諸国では,渋滞緩和,環境対策 などを目的とした都市鉄道の計画が数多くあり,我が国 は円借款や技術協力などを通じてこれらの計画に貢献し ている。上記のベトナムやインドの他に,タイではバン コクのパープルラインやレッドライン等に対して円借款 の供与が決定しているほか,インドネシアではジャカル タ MRT(Mass Rapid Transit)に対して円借款の供与 が決定され,さらに現地州政府に専門家を派遣して MRT 整備へのアドバイスを行っている。 5. 我が国の鉄道システムの海外展開に向けて 5.1 政府としての鉄道システム海外展開の位置付け  これまで述べてきたような我が国の鉄道システムの海 外展開の推進については,政府として重点的に取り組む べき分野の一つとして位置付けられている。2010 年 5 月に取りまとめられた国土交通省の成長戦略では,我が 国高速鉄道の海外展開の推進をはじめとする「国際展 開・官民連携分野」が重点分野の一つとして位置付けら れ,官民連携の下でのトップセールスの実施,我が国鉄 道技術・規格の国際標準化,関係省庁と連携した公的金 融による支援に取り組むこととされている。また,同年 6 月に閣議決定された「新成長戦略」においても,鉄道 をはじめとするパッケージ型インフラの海外展開が国家 戦略プロジェクトの一つに位置付けられた。9 月には, インフラ分野の民間企業の取組みを支援し,国家横断的 かつ政治主導で機動的な判断を行うことを目的として 「パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合」が設け られ,我が国鉄道システムを含むインフラの海外展開に ついて議論が進められているところである。 5.2 トップセールス/体制の強化  国土交通省の成長戦略においては,「国際展開・官民 連携」を進めるための政策として,最初に「政治のリー ダーシップによる官民一体となったトップセールスを展 開するとともに,国土交通省内の体制および省庁横断的 な体制の創設や強化,グローバルな問題に柔軟に対応で きる企業の人材育成や組織強化に対する支援」が挙げら れている。  トップセールスについては,先に概略述べたところで あるが,2010 年 6 月のシカゴにおける高速鉄道セミナー においては,前原大臣(当時)が,多様なニーズに対応 できる日本の鉄道技術と,現地の雇用創出・地域経済発 展への貢献可能性について直接プレゼンを行う等,政治 ② ③ ① ④ ⑤ ⑥ アムリットサル (人口約 100 万人) チャンディガル (人口約 80 万人) デリー (人口約 1 000 万人) (人口約 140 万人)パトナ ハウラー・コルカタ (人口計約 560 万人) アーメダバード (人口約 350 万人) ハルディア (人口約 20 万人) ハイデラバード (人口約 360 万人) バンガロール (人口約 430 万人) ビジャヤワダ (人口約 90 万人) チェンナイ (人口約 430 万人) プネ (人口約 250 万人) エルナクラム・コチ (コチ人口約 60 万人) ※人口は 2001 年の数値(出典:国連統計部作成資料) ムンバイ (人口約 1 200 万人) インド・日本の沿線都市人口の比較(万人)   インド (ムンバイ∼ アーメダバード) 日本 (東京∼新大阪) 東京 23 区 ムンバイ 1 200 120 横浜 静岡 浜松 885 368 72 81 38 226 146 267 豊橋 100 200 300 400 500 0 アーメダバード ナディアード バドダラ バルサド スーラトバローチ 500 140 360190 580 140 京都 大阪 距離(km) 名古屋 ナウザリ 200 アナンド 図-10 インド高速鉄道構想 04-3 09-2 08-6 04-12 02-12 03-10 10-4 10-1 05-12 06-3 06-11 09-5 09-11 10-10 10-9 10-10 11-2 10-6 09-11 リサーラ 04-3 ※年月は開業時期 09-2 ムンドゥカ 08-6 04-12 02-12 03-10 10-4 10-1 中央官庁街 05-12 06-3 06-11 05-7 09-5 09-11 09-11 10-10 10-9 10-10 11-2 フーダシティ センター 10-6 レッドライン(1 号線) ブルーライン(3 号線/ 4 号線) イエローライン(2 号線) (通信等機器調達のみ円借款対象)建設中 建設中(円借款対象外) グリーンライン(5 号線) バイオレットライン(6 号線) エアポートライン ジャンギルプリ インドラロック ビシュワ・ ビダラヤ シャーダラ ニューデリー アナンド・ビハール ヤムナ・バンク バダルプール インドラプラスタ クトゥブ・ミナール バラハバ インディラ・ガンジー 国際空港 ドゥワルカ21区 キルティ・ ナガール ドゥワルカ ドゥワルカ9 区 ノイダ・セクター32 シティセンター カシミアゲート ディルシャッド・ ガーデン ティス・ハザリ 図-9 デリーメトロの概要

(7)

のリーダーシップによる強力なトップセールスが展開さ れている。  体制面では,我が国鉄道システムの海外への普及促進 を図っていくための民間の母体として鉄道事業者,メー カー,商社等からなる「海外鉄道推進協議会」が 2010 年 4 月に発足した。2010 年 6 月のシカゴ高速鉄道セミ ナー,2011 年 1 月のカリフォルニア高速鉄道セミナー についても,国土交通省,外務省,経済産業省,海外鉄 道推進協議会,運輸政策研究機構,JETRO の共催によっ て開催される等,官民の関係者による連携体制が強化さ れている。 5.3 技術・規格の国際標準化  我が国の鉄道システムを海外に展開していくために は,日本の技術や規格の国際規格化や,対象国における スタンダード獲得を推進することが必要であり,現在, 大きく 2 つの取組みを行っている。  一つは,鉄道に関する基準を整備していく国において, 日本の鉄道システムが排除されないための取組みであ る。米国においては前述の通り,現在高速鉄道に関する 技術基準の策定への取組みが行われており,我が国とし ては新幹線システムが当該技術基準から排除されないよ う,日米鉄道当局間協議を継続的に実施している。また, ベトナムにおいても,既に都市鉄道の技術基準・標準の 策定に対して協力したところであり,今後は高速鉄道の 基準策定にも支援する予定である。  もう一つは,我が国鉄道システムの国際標準化への取 組みである。TBT 協定(貿易の技術的障害に関する協 定)に基づき,WTO(世界貿易機関)加盟各国は,国 内の鉄道技術・規格を ISO(国際標準化機構)規格およ び IEC(国際電気標準会議)規格等の国際規格に整合さ せることが求められている。欧州各国が,EN(欧州地 域規格)を国際市場に積極的に展開し,欧州の鉄道シス テムの優位性を確保しようとしていることに対し,日本 においても,我が国の技術・規格の国際規格化を図るた めに ISO や IEC への働き掛けを行っている。2010 年 4 月には,体制の充実・強化を図って戦略的に鉄道関係の 国際規格化に取り組むため,鉄道総合技術研究所内に 「鉄道国際規格センター」が設立された。 5.4 公的金融による支援  鉄道の整備には,一般的に投資規模が大きいことに加 え,投資期間が長期にわたるなどの特徴がある。また, 近年は PPP(Public Private Partnership)方式のように, 受注する側が自ら資金を調達することが求められるケー スも増えており,民間金融機関だけの対応では困難な状 況となっている。このため,我が国の鉄道産業がこのよ うなプロジェクトに参入することを資金調達面から支援 すべく,公的金融による支援制度の整備が進められてい る。2010 年 4 月には,従来原子力による発電に関する 事業に限られていた国際協力銀行(JBIC)の先進国向 け投資金融の対象が,主要都市を連絡する高速鉄道に関 する事業にも拡大された。これは,日本の企業が出資す る現地法人が取り組む高速鉄道に関する事業について, JBIC が民間金融機関と協調して融資を行うものである。 さらに,11 月には,先述の「新成長戦略」を踏まえ, 都市鉄道も本融資制度の対象に加えられ,公的金融支援 の一層の充実が図られているところである。 6. む す び  海外で進められている鉄道プロジェクトの中には,鉄 道車両や部品の調達だけではなく,設計・施工一括型や, さらには資金調達や維持運営までの一括型(DBFO, DBOM 等)の事業形態も増えてきている。このような プロジェクトに対しては,従来の鉄道車両関係メーカー, 商社,鉄道事業者等の鉄道関係者に,コンサルタント業 界,建設業界,金融業界等を加えた,まさにオールジャ パンで取り組む必要がある。  今後とも,皆様方のご支援ご協力をお願いいたします。 参考文献

1) Railway Gazette International 2007. 3 2) 鉄道車両等生産動態統計(国土交通省) 3) 米国運輸省鉄道局(FRA/DOT)HP

参照

関連したドキュメント

 しかしながら,地に落ちたとはいえ,東アジアの「奇跡」的成長は,発展 途上国のなかでは突出しており,そこでの国家

3 「公害の時代」の道路緑化

バブル時代に整備された社会インフラの老朽化は、

この調査は、健全な証券投資の促進と証券市場のさらなる発展のため、わが国における個人の証券

我々は何故、このようなタイプの行き方をする 人を高貴な人とみなさないのだろうか。利害得

最愛の隣人・中国と、相互理解を深める友愛のこころ

2)海を取り巻く国際社会の動向