• 検索結果がありません。

Muv-Luv GROUND High speed  ID:69525

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "Muv-Luv GROUND High speed  ID:69525"

Copied!
65
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Muv-Luv GROUND High speed 

健全太郎

(2)

︻注意事項︼

 このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので

す︒

 小説の作者︑﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を

超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます︒

︻ あ ら すじ ︼

 みなさんご存知のマヴラブとは違う世界線のものです︒

 国家間の対立はないし︑かわいいベータちゃんもいません︒

 マヴラブ作品に出てくる戦術機で頭文字Dをやるとでも思ってください︒

 戦術機のスペックなどは原作準拠でいきますが現在世界に実在する戦闘機などの

データもまざります︒そうゆうものだと思って暖かく見ていてください︒

(3)

  目    次   

│││││││││知らない世界 

1

│││││││││││性能の差 

5

││││││││││││地の利 

11

││││││││││││父の姿 

15

│││││││││初めての仕事 

19

││││││││││││親の陰 

27

││││││││││復讐 前編 

34

││││││││││復讐 後編 

40

│││││││││││││極限 

49

│││││││││││││対面 

56

(4)
(5)

知ら ない 世 界

 熱気が渦巻く︑観客の誰もが興奮し︑雄たけびのような応援をする︒

 目の前に大型のスクリーン︑そこに映っていたのは各国を代表して集まった戦術機と

選りすぐりのエースパイロットだった︒

 直井隼介は父の仕事の手伝いをしていた︒父の仕事とは研究員だった︒山頂にレ

ドームを設置し︑山岳地帯でのレーダー波の干渉について研究をしている︒地震が起き

たとき︑地形の変動を細かく分析するためである︒隼介は山頂への物資輸送など行って

いた︒物資輸送にはもう古い軍の払い下げ戦術機を使っている︒人型の重機として世

の中に普及し始めた戦術機はすでに軍で世代が交代しても民間で使用され続けていた︒

 輸送にはF│4ファントムを使っていた︒細かい作業のない輸送は第一世代機でも

十分であった︒

 隼介の乗るファントムは兵装担架システムのところに輸送用コンテナを付けていた︒

︵今日の〟物〟は重いな︶

 積み荷がなんなのか知る由もない︑だが興味もなかった︒頭で考え事をしながらも隼

1

(6)

介のファントムは山岳地帯を颯爽と駆けていった︒

 ある日︑山頂に見慣れない戦術機がいた︒

︵なんだ

?

 戦術機に興味のない隼介はそれがなんだかわからない︒ファントムより洗練された

デザインの機体の目を奪われた︒

﹁なんだ

?

坊主︑俺のイーグルに惚れたのか

?

 隼介はここでこの機体の名前がイーグルだと知った︒人見知りの隼介は話しかけて

きた相手の怖い顔に

﹁あ...すいません...﹂

 委縮して誤ってしまう︒

﹁ああ︑いいっていいって︒別に減るもんでもねえし﹂

 その対応に隼介はほっとした︒

﹁あのファントム︑お前のか

?

さっき飛んできたろ﹂

 強面のイーグルの男が訪ねてきた︒隼介はのどに詰まる声を必死にだして答えた︒

﹁ええ︑そうですが...﹂

 冷や汗が流れる︒この男に何をされるのか︑カツアゲでもされるのではないかと冷や

2 知らない世界

(7)

冷やしていた︒しかしそんなのは杞憂で終わった︒

﹁お前か

!

すげえなあの機動といい︑ランディングといい︒ファントムをあそこまで使

いこなすなんてやるじゃねえか

!

 驚いた︒いきなり強面を破顔させ褒められてしまった︒何がなんだがわからない隼

介は慌てる︒隼介にとってはいつも道理に当たり前のことをやったにすぎないからだ︒

﹁俺は霧島城生︑運び屋だ︒お前は

?

 名乗られた︑礼儀として返さないと︑そう思った太郎は

﹁直井︑直井隼介です﹂

 名乗った︒

﹁直井

!?

直井ってあの直井武雄の息子か何かか

!?

 何を慌てているんだ︑このひとは︒そう思いながらも

﹁はぁ..︒武雄は僕の父ですけど﹂

﹁なに

!?

じゃあこのファントムは..﹂

 ファントムについているはがれかけたエンブレムを見ながら言った︒

 間髪入れずに返答が来たため驚き委縮してしまう︒

﹁あの︑父とはどんな関係で﹂

 訪ねると

3

(8)

﹁知らないのかよ

!?

昔あのファントムで次世代機を圧倒していたんだぞ

!

すげえもん

だった︑彗星のごとく現れ︑当時の民間最新鋭の不知火一型ですらこてんぱにしたんだ

からなぁ﹂

 わけがわからなかった︒圧倒

?

こてんぱ

?

父は戦術機で喧嘩でもしていたのかのだ

ろうか︒そんなことより父のことを語る霧島の話を聞いていると誇らしくなってくる︒

父がその話をしなかったことには疑問をもたなかった︒

﹁そうだ︑お前さっきの動きから察するにそうとうな腕だろう︑どうだおれと勝負しない

?

 いきなりの勝負の持ちかけに隼介は慌てる

﹁いやいやいやっ︑喧嘩とかいやですよ

!

 首を懸命に横に振る

﹁はぁ

?

言ってんだ

?

やるのはレースだぞ

?

﹁へ

?

﹁よし︑じゃあやるぞ︒やり方はわかるか

?

先行後追いバトルでいこう︑地元慣れしてる

お前は後追いな﹂

 いきなりのことに隼介の頭が追い付かなかった︒

4 知らない世界

(9)

性 能 の 差

 隼介はコネクトシートに座り︑ヘッドギアを付けた︒網膜に投影される機体のデータ

には不調のところは見当たらない︑いつものファントムそのものであった︒

︵俺は何をしているのだろう...︶

 なし崩し的に受けてしまった戦術機でのレースバトル︑霧島の言われるとおりに機体

をスタート位置まで運ぶ︒霧島からコースの説明を受ける︒

﹁おい坊主︑ルートはこうだ︒あのこの岩倉山と雌岳の間にある盛り上がったところを

左に回ったら加速する︑それまでは互いの距離を調整する﹂

 いまいる山は岩倉山︑岩手県釜石市にある標高1000mほどの山だ︒

﹁加速してから桜山の左をパスし甲子川に入れ︑川を下り釜石湾にでたらゴールだ﹂

 いつも隼介が使っているルートだ︒隼介が山頂に運ぶものは船によって運ばれてく

る︒山頂と港を数え切れないほど往復しているのだ︒

 東日本大震災から川の使い方は大きく変わった︒東京湾のような津波の入りにくい

地形︑津波対策の取られたところとは違い津波の影響を受けやすい平野や川︑そしてこ

5

(10)

こリアス式海岸では人口を密集させないようになった︒新しい町は山につくられそれ

に伴い人の足となる交通手段は空を介するものに変わった︒戦術機が利用されている

のも飛行できる︑不足に事態にも対処ができるという点からである︒もちろん航空機に

は空路という道があるように低空を飛ぶ戦術機にも道がある︒そのうちのひとつが川

だ︒

 両者のジェットエンジンが温まってきた︒車のエンジンとは違いジェットエンジン

は必要な出力を出すのに時間がかかる︒勝負の勝敗にエンジンの性能は大きく関わっ

てくる︒出力が大きいエンジンはもちろん速い︒しかしただ速いだけでは勝てないの

が戦術機同士でのレースである︒機体の重量︑空気抵抗︑高速巡行時に曲がる回転半径︑

風︑視界不良では各種センサーの性能︑そしてパイロット自身の腕だ︒

 霧島はファントムがどんな戦術機か知っていた︒第一世代の傑作機体︑アフターバー

ナーを使用してようやく追い抜かせる程度のエンジン︑負ける気がしなかった︒だがこ

のファントムが過去に第二世代機を負かしているのも知っている︒武雄の息子がどれ

くらいやれるか︑若干の期待を胸に留めた︒

 対し霧島のイーグルは隼介にとって未知数そのもの︒わかるのは自分が動かすファ

ントムよりわずかに大きい︑それだけである︒隼介は不安だった︑父が操り輝かしい功

6 性能の差

(11)

績を残してきたこのファントムに泥を塗るんじゃないか︒隼介はすでに重圧に負けて

いた︒

 2機の戦術機がゆっくり地から離れる︒霧島がルールを説明した︒

﹁先行が後追いをぶっちぎれば勝ち︑後追いは先行を抜かせば勝ちだ︒結果がどちらで

もなかったらもう一度上からやり直す︑勝敗が付くまで終わらない﹂

 サドンデスデスマッチと言われる試合方法だ︒勝負がもつれれば体力勝負にもなる

過酷な方法︒しかしひいき目に見ても持久戦にはならないだろう︑ファントムとイーグ

ルでは性能の差は歴然であるからだ︒

 岩倉山の山頂を離れ︑雌岳に向かう︒間にある盛り上がった場所に到達した途端︑霧

島のイーグルが加速を始めた︒隼介のファントムもタイミングは遅れることなく加速

した︒だがすでにエンジンの差が出た︒巡行速度までに到達する加速力の差が機体同

士の距離を開ける︒巡行速度は対して変わらない︒山の斜面の角度を感覚的につかん

でいる分隼介には追い付くだけの余裕があった︒ただすぐに桜山の左を通過し川に入

る︒甲子川の上流は小刻みに左右に振られている︑そのため亜高速巡行を余儀なくされ

る︒ファントムのターボジェットエンジンは亜高速状態では非常に効率の悪い︑さらに

前を行くイーグルが視界を邪魔し集中力を削ぐ︒この時間が隼介にはじれったかった︒

︵けつを振りやがって...邪魔だっつーの︶

7

(12)

 ただそのせいかいつもの弱気な態度を裏に隠し︑本来持ち合わせている闘争心をあら

わにした︒

 霧島はしっかりファントムがついてきていることをレーダーで確認した︒レーダー

中心にあるイーグルを示す光点のすぐ後ろにファントムを示す光点が光っていた︒機

体の過度な接近を警告するアラートもなっている︒

︵勝負を決めるのは中盤にある直線︑アフターバーナーを使って一気に引き離す︒この

一戦で決めるぜっ︶

 上流と中流の間に大きな逆S字カーブがある︒そのあとすぐに上流よりも大きく左

右に振られるコースが続き︑その後直線が来る︒霧島はそこで勝負を決めるというの

だ︒

 上流と中流の間︑逆S字カーブに差し掛かった︒霧島は後部カメラを使い︑ファント

ムの動きを見る︒オペレーション・バイ・ライトシステムによって制御されるイーグル

はファントムのオペレーション・バイ・ワイヤより反応速度がいい︒その差は微々たる

ものだがが今回のようなカーブが連続する場合はその操作によって招じるタイムラグ

は大きいものになる︒

﹁さぁ坊主

!

見してもらうぜ

!

そのファントムに恥じない動きを見してくれ

!

 最初に左に90

°

の直角に近いカーブ︑そして右に90

°

振られる︒

8 性能の差

(13)

 イーグルはOUT・IN・OUTの原則を守り速度をなるべく落とさないように抜け

る︒しかしファントムは違った︒

﹁っ...

!!

 霧島は驚く︒ファントムが抜けた軌道はOUT・IN・INだった︒左カーブをIN

で抜けること右カーブではOUTのコースをとれる︒左カーブをOUTで抜けたイー

グルは空いていたINからファントムが出てくることで右カーブでOUT側を取れな

くなった︒

︵抜かれたっ...︶

 右カーブを抜けた時にはファントムが前を飛んでいた︒前を飛ばれてはファントム

より優れる加速力が生かせない︒

︵なんて鮮やかな曲がり方だ︑腰の稼働域ぎりぎりまで上半身をカーブを抜けた進行方

向に向け復元力を利用したのか︶

 霧島はファントムの動きに心を奪われた︒これが直井武雄の息子かと︑心が踊る︑期

待道理だった︒

 中流序盤の左右に振られるコースはファントムの鮮やかな機体裁きに目を奪われて

いた︒

﹁っしゃあ

!

抜いてやったぜ

!

9

(14)

 隼介は喜んだ︑そして安心した︒このままいけば一本で勝負がつく︒父の名前も汚さ

ずに済む︒しかしそんな時間もあっという間だった︒

 勝負は後半へ︑直線区間に入る︒下流に向かうにつれ川幅は広がる︑機体が横に余裕

で並ぶことができる幅だ︒

 霧島はアフターバーナーを点火させた︑一気に加速する︒水しぶきも大きく上がっ

た︒

︵なっ...

!

速い

!

 すかさず隼介もアフターバーナーを点火させる︑だが横に並ばれ︑難なく抜かされて

いった︒

10 性能の差

(15)

地の利

 バトルを始めてから15分ほどたっただろうか︑コースの半分ほどを消化した︒まだ

海が見えないのは海岸線のすぐそばまで山を形成するリアス式海岸ならではだろう︒

 直線区間に入ってから前を行くイーグルがじわじわと離れていく︒持ち前のテク

ニックで一度は先頭にでたものの︑ただ機体の性能だけで巻き返され︑差がついてしま

うこの現状に隼介はいら立ちを覚えていた︒だが文句は言っても仕方がない︒

︵残りのカーブはひとつそこで追い付けなければこの一本で終わってしまう...︶

 霧島は心のなかで︑機体の性能を生かした勝負もまたひとつのやりかた︒そう自分を

肯定していた︒

︵やはりファントムでは無理だったか︒だが健闘したと思う︑機体の性能が近ければ負

けていただろうな︶

 ただ勝ち誇らず惜しみない称賛を送った︒それは期待していた直井の復活の念を霧

散させるようなものだった︒ただバトル中にそう思うことは慢心しているのと同義で

あった︒

 最後のカーブ︑曲がれば海が見える︒考え事をしていた霧島は機体が感じるあること

11

(16)

に気付かなかった︒

﹁これで終わりだっ

!

 カーブを曲がり始めた︒お手本のようなOUT・IN・OUT︑遅れてファントムも

OUTよりカーブに入る︒

︵間に合えっ...︶

 隼介は驚いた︒INをつくその瞬間︑引き放され前を行っていたイーグルが自分のす

ぐ前に迫ってきた︒

 霧島は焦る

﹁なっ

!

風ぇ

!?

 高度なオペレーション・バイ・ライトシステムと慢心がカーブに入る前に機体がわず

かに感じていた海風を霧島に伝えることができなかった︒

 ファントムは体勢を崩しているイーグルをOUT・IN・INで右側から抜き去る︑

イーグルも体勢を立て直しすぐさま追いかけるが追い付く暇もない︑海はすぐそこだっ

た︒

 ﹁勝った...

?

 隼介は無我夢中で状況を理解するのに時間がかかった︒間違いなくさっきまで前に

12 地の利

(17)

いたイーグルは後ろにいる︑レーダーにもカメラにもそう映っていた︒

 ファントムを港にある戦術機待機所に機体を下す︑イーグルも続いてきた︒霧島は

コックピットを開け︑すかさず第一声を出した︒

﹁おぅおぅ︑すげえなお前

!

本当にイーグル相手にファントムで勝ちやがった

!

 霧島は負けたというのに自分のことのように喜んでいた︒それだけ直井武雄が乗っ

ていたファントムに期待をしていたのだろう︒

﹁あ..はい︑ありがとうございます﹂

 隼介はバトル中にあらわにしていた闘争心を完全に体の奥に引っ込めた隼介は霧島

の勢いに押されてしまう︒

﹁あの︑でも勝てたのは風が吹いていたからで...﹂

 隼介はそう言う︒時は夕刻︑まもなく日は沈み吹いていた海風は凪という無風の状態

にはいる︒バトルを始めるのがもう少し遅ければ隼介は負けていただろう︒

﹁いやいや︑あれは完全のお前の勝ちだ︒自分の腕以外で勝負が決まることはよくある

こと︑性能だったり︑運だったり︑地の利を生かすのもだ︒俺はうれしいんだよ︑直井

のファントムが復活したことにさ︑だから勝ったってことでいいんだよ﹂

 霧島は本当にうれしそうに話していた︒

﹁じゃあな︑俺は仕事をしに移動しなきゃならない︒また会うかどうか知らんけど次や

13

(18)

るときは俺が勝つからな

!

 コックピットを機体内部に戻し︑イーグルは飛び立った︒

 隼介には大きな満足感が残った︒

︵そうだ︑あとで親父に話を聞かなくちゃな︶

 こうして隼介は速さを求める世界へと足を踏み入れていった︒

14 地の利

(19)

父の 姿

 隼介は霧島とのバトル後︑帰投した︒もう今日は山頂に上がることはない︑それでも

足早に家に帰ったのは父の知られざる過去を早く知りたかったのと父のファントムで

隼介自身もバトルで勝ったことも誇りたかった︒

 いまだにバトルの時の興奮は止まない︑自分でも癖になりそうなことを薄々感じてい

た︒

 隼介はファントムを家の野外格納庫に収める︒家庭に収めることのできる野外格納

庫というのはそう大きくなく︑高さは10mほどだろうか︒上部のハッチを開放させ機

体を中に入れ︑ジェットエンジンは地面と水平に近い位置までもっていく︒こうするこ

とで機体を膝立ちさせることができ︑10mほどの格納庫に収めることができる︒

 ファントムから降りた隼介は母のもとへ急ぐ︑もしかしたら父の過去の姿を知ってい

るのかもしれない︑そう思ったからだ︒

﹁母さん︑聞きたいことがあるんだけど﹂

 隼介の母は夕飯の支度をしていた日本の家庭料理のにおいが腹を刺激する︒しかし

15

(20)

そんなことよりも疑問のほうが勝っていた︒

﹁どうしたのさ

?

隼介﹂

 さんまの焼き具合を確かめながらそう言った︒さんまは釜石の特産品だ︒

﹁親父のことなんだけどさ︑若いころの親父を知っているか

?

﹁どうした︑そんなこと聞いて﹂

 母の調理の手は止まらない︒

﹁今日︑親父の昔を知ってる人に会った︒そのひとは戦術機に乗っていてなりゆきでバ

トルをした﹂

 母の手が止まる︑ようやく隼介と目を合わせた︒

﹁へぇ︑それで﹂

 母はすぐ理解をしたようだ︑口数は少ないが長く一緒に暮らしていればこれくらいは

すぐ察しがつく︒

﹁だから教えてくれ﹂

 少し口が早くなる︑早く知りたいという衝動がそうさせた︒

﹁武雄はね︑昔はそれそれはすごい戦術機乗りとして名を広めていたのさ﹂

 昔を懐かしむような語り方だ︒

﹁戦術機乗りとして運び屋になる前は衛士だったの︑日本帝国海軍の艦載機のパイロッ

16 父の姿

(21)

トでね﹂

 俊介は驚く︑家には軍人だったという証明にるようなものはひとつもなかった︒

﹁あたしとね︑武雄が出会ったのは東日本大震災の時だったんだよ︒あんたはまだいな

かったけどそれはすごい地震でね︒いや︑地震より津波のほうがすごかったんよ︒津波

が家も船も畑も何もかも流しちまって︑着の身着のままなんとか山に逃げて︑でも避難

先には人数分の毛布もストーブ用の燃料もない︑食料だって足りないから何日ももたな

いなかで過ごしていた︑どうなるかと思っていたらとんでもない轟音がした︒また津波

かと思ったけど違ってね︑背中にコンテナを付けた戦術機がきてくれたのさ︒近くの

木々がジェットに焼かれ焦げたにおいすごかったけど気にもならなかったよ﹂

 隼介は母が語るその時の情景を鮮明に頭の中に描いていた︒焦げたにおいもしてく

る︒﹁そのときはみんな泣いたり喜んだり︑あたしも戦術機に目を奪われたよ︒その戦術機

のパイロットが武雄ってわけ﹂

 納得できた︒父が腕の立つ戦術機乗りだってことが︒しかしまた疑問が生まれる.

﹁なぜ父は軍から離れたんだ

?

パイロット︑それも艦艇に努めるのなら給料だっておい

しいはずだろ

?

 おいしいと言えば︑また疑問が生まれた︒さんまは

?

17

(22)

 すでに手遅れだった︒ブスブスと音を立てているさんまは黒く輝いていた︒

﹁母さん

!

さんまが

!

﹁あららやだやだ大変大変﹂

 さんまは食料としての価値を大きく損なっていた︒

﹁おかずがなくなっちゃったわ︑ちょっと買いに行ってくるわね︒お留守番︑お願いね﹂

 母は買い物袋をもって早々家をでていった︒隼介はさんまは残念だけど夕飯はしっ

かり用意されそうでよかったと安心した︒

﹁違う違う﹂

 つい独り言を言ってしまった︒結局父が軍を離れた理由を聞けなかった︒

 逃げられた...

?

と思う隼介だった

18 父の姿

(23)

初め ての 仕事

 さんまが焼身した後買い物に出た母より先に父が帰ってきた︒母より口数の少ない

父は大きな体格と見余ってだまっていると威圧感がすごい︒母は帰ってきた後も父が

いるせいで話の続きを聞くことができなかった︒

︵自分で調べてみるか︶

 戦術機でバトルをする︑父と同じ土俵に立った隼介は自身の好奇心を芽生えさせてい

た︒

 戦術機を利用した運び屋という仕事があることを知った隼介は霧島と連絡をとり仕

事について訊ねた︒

 戦術機には総合データリンクというインターネットのようなシステムがあるらしい︒

その中の一角に運び屋のリンクが存在する︒そこで仕事を受け︑報酬をもらう︒これが

運び屋という仕事だそうだ︒他には大企業などに勤める専属の運び屋や危険物専門と

いうのもあるらしい︒

︵なるほど︑これならあらゆる場所を飛びまわれる︶

19

(24)

 天職と感じた隼介はさっそく仕事を探してみることにした︒

︵いきなり大きな仕事は無理だな︶

 そう思ったので県内で仕事を探してみる︒人や封書など運ぶものはさまざまだ︒

 そこで見つけたのが仙台から戦術機によって運ばれてくる書類を中継し盛岡まで運

ぶというもの︒戦術機が通れるように改装された旧東北自動車道を北上するだけ︑最初

の仕事としては順当なものだろう︒

 さっそく仕事を受諾申請をする︒返事は直ぐ来た︑日時や引き渡し場所もそこに記さ

れている︒

 隼介はさっそく初めての仕事に臨むことになった︒

 ファントムは旧東北自動車道を目指し西へ進んでいた︒引き渡し場所は岩手県一関

市戦術機駐機所︑北上高地を抜け南下︑奥州市より旧東北道に乗り南へ進む︒周りには

他の戦術機をうかがうことができた︒

︵知らない機体ばっかりだ︶

 戦術機に頓知な隼介は何が何て戦術機か皆目見当もつかない︒唯一わかるのは霧島

と同じ機体︑イーグルだけだ︒

︵なんだ

?

20 初めての仕事

(25)

 さっきから後ろからくる戦術機が近くで並列に飛行してくる︒それも一機二機だけ

じゃない︑ほぼ全ての機体がだ︒まるで隼介の操るファントムを眺めるようにしてい

る︒隼介のファントムが武雄のファントムと同じエンブレムを付けているからだ︒隼

介はそれに気づく由もない︒

 旧東北自動車道を南下し一関駐機所についた︒駐機所というのは戦術機パイロット

が休憩する場所として整備されている︒燃料補給所︑トイレ︑飯処などがあり多くの戦

術機が並んでいる︒

 隼介はファントムを地面に記された白線に従い降ろした︒仙台からくる戦術機を待

つ︒

 しばらくするとファントムの近くに機体が降りてきた︒傑作戦術機F│16ファイ

ンティングファルコンの管制ユニットが開く︒

﹁いやぁ︑君が直井さんかな﹂

 さわやかな挨拶をしてきた︒この人が今回の仕事の協力者だろう︒

﹁はい︑そうです﹂

 返答をした︒

﹁僕は杉浦︑福島を拠点にしている運び屋だ︒君は直井武雄の息子だってね︑あの霧島に

勝ったそうじゃないか﹂

21

(26)

 隼介は驚いた︒うわさは流れるのが早い︑そう思った︒

﹁データリンク内で大騒ぎだよ︑伝説の復活だ︑ってね﹂

 うわさじゃなかったそうだ︒

﹁僕も運び屋の端くれとしてね君とバトルをしてみたいけど今日は我慢しよう︑仕事中

だしね︒はいこれ﹂

 鍵によって閉められたケースを渡された︑これが今回の〟物〟だろう︒隼介は杉浦に

受け取りのサインをすると機体の中にケースを収めた︒

﹁じゃあ︑僕はこれで﹂

﹁あ︑まってください︒聞きたいことがあるんですけど﹂

﹁どうした

?

 隼介は飛行中にいろんな機体から好奇の目にさらされていることについて聞いた︒

﹁あー︑それはそのエンブレムだと思うよ︒いままで息を潜めていた伝説のファントム

がいきなり東北道にいたら誰だって確かめたくなるよ︒ほら︑データリンクにももう晒

されてる﹂

 杉浦から送られてきたコードの先は運び屋のデータリンクだった︒隼介のファント

ムを写した画像が多くみられる︒

﹁これからは気を付けたほうがいい︑へんな追っかけとか出てくるかもしれないしバト

22 初めての仕事

(27)

ルを望まれるかもしれない︒正式にバトルを挑んでくるならともかく挑発して誘って

くるやつもいるからね﹂

 親切心からか忠告をしてくれた︒

﹁わかりました︑ありがとうございます﹂

 隼介はその忠告を受け止め︑礼を言った︒

﹁じゃあ︑改めてさよなら﹂

 杉浦の機体がエンジンを吹かし離れていった︒

 隼介はいよいよ運び屋の世界に入ったと実感した︒

︵これで親父に近づいたかな︶

 隼介も機体に戻り︑ファントムを飛び立たせた︒

 ファントムは順調に旧東北自動車道を北上した︒来るときに通った奥州市を通過し

北上市︑花巻市と抜けていく︒

 目的地の盛岡は東北最大の都市であった︒人の住む場所が山に移り仙台は衰退︑もと

もと内陸にあった盛岡や山形に人は流れていったからだ︒隼介は初めて見る大都市に

圧倒されてしまった︒釜石にはあまりみられない自動車があふれるくらいいる︑ヘリコ

プターなどが人の足となる山岳地帯では見られない光景だ

23

(28)

︵人がたくさんいる︶

 見慣れた山よりも高く感じてしまうビルが重なりあう︑そこから人が出入りしてい

る︒波の音も木の葉がこすれる音もしない︑したとしても人の声だけでかき消されてし

まいそうだった︒都会の喧騒は騒がしいものだ︒

 隼介はナビに従って合流地点へと目指す︒町の中を戦術機で飛ばすわけにはいかな

いので少し外れたところを指定された︒

 合流地点には一台の車が待っていた︒ジェット気流に巻き込まないよう離れたとこ

ろに着陸し機体から降りた︒

﹁お待ちしておりました︒直井さんですね

?

﹁はい﹂

 答えると同時にケースを指す出す︒受け取り相手は鍵を開け中を確かめる︒

﹁たしかに受け取りました︒お疲れ様でした﹂

 受け取り完了のサインをし成立︑隼介の初めての運び屋は無事に終わった︒

﹁ところで直井さん﹂

 突然話しかけられた︒

﹁あなたはファントムで運び屋をしているそうですが﹂

﹁えぇ︑そうですが﹂

24 初めての仕事

(29)

﹁ファントムでは運び屋という仕事には向きませんよ︑燃費の面で︒どうですか

?

うち

の機体をお使いになってみるのは

?

 仕事が熱心なセールスマンだった︒

﹁いえ︑結構です︒気に入っているので﹂

 隼介は断り︑そそくさとファントムに戻る︒初めての仕事ということがあり緊張して

いたため疲れてしまったのだ︒

﹁もし買い替える気がございましたらわがノースロック・グラナンを

!

 本当に仕事熱心だ︒

 隼介は機体に戻り帰路につくことにした︒

 もう日は沈んで暗くなっていた︒周りを飛ぶ戦術機のジェットが美しく輝いている︒

旧東北自動車道を南へ︑奥州市のジャンクションで降りる︒そこからは来た時と同じ道

をたどるだけだった︒

 隼介は旧東北自動車道を南下しているとき後ろに追随してくる機体に気付いた︒警

告がなるくらい後ろにつけ左右に機体を振っている︒あきらかな挑発行為だった︒

︵まさか忠告を受けたその日に来るとはな︶

 後ろにつける機体は軽快な動きで左右に振る以外の動きもしてくる︒隼介は自分の

25

(30)

機体よりも小さいことに気付いた︒

︵軽いのか︑だからそんな動きが︶

 後ろの機体の挑発に隼介の闘争心が浮かび上がってくる︒

︵おもしろい︑うけてやろうじゃねえか︶

 コネクトシートに座りなおす︑操縦桿強く握り出力を上げていった︒

26 初めての仕事

(31)

親 の 陰

 霧島はヘッドギアをつけて仕事を選んでいた︒いきなり網膜の隅に表示していた運

び屋のデータリンクが騒がしくなる︑またなにかバトルでもしているのだろうだが別に

珍しいことではないので気にせず作業を続ける︒しかしその騒ぎ方が尋常でない︒さ

すがに気になった霧島は拡大してみてみる︒

﹁おおおぅ︑さっそくデビューかい﹂

 旧東北自動車道を征く戦術機から投稿されていた写真にはファントムとグリペンが

写っていた︒データリンク内には次々と実況が呟かれた︒見るからに後ろを行くグリ

ペンがファントムを追いかけているようだ︒

 ︵くそっ︑なんだこのうっとうしい

!

 隼介は後ろからついてくるグリペンを心の中で睨む︒グリペンという名は伝説上の

動物﹁グリフォン﹂のスウェーデン語表記である︑まさに﹁グリフォン﹂の名に恥じな

い動きをしていた︒

 追随するグリペンは抜かせるタイミングを計るというより煽る動きをしているのは

27

(32)

明らかだった︒

︵アフターバーナーで一気に引き離すか︑いやスリップストリームに乗られているから

無理だろうな︶

 隼介はこのグリペンを引き離せないと判断した︒霧島のイーグルとバトルをしたよ

うな地形はここにはない︑旧東北自動車道は戦術機が速度を落とさないよう直線でつく

られている︒そうとすれば隼介にできることは煽りに屈しないこと︑あくまでも冷静を

装うことでグリペンの流れの乗せられないようにすることだった︒

 ︽グリペンの動きやべえ

!

︽直井のファントム︑どうするのかな︾

 データリンクを騒がせる投稿はとどまるところを知らない︒霧島は戦術機の動きに

関する情報が上がってこないことからまだファントムが前にいると予想していた︒

︵しかし坊主には何もできないだろうな︑伝説のファントムの復活は面白くない形でお

わりそうだ︶

 いくら腕が立とうが直線では何もできない︑いくらフットペダルを強く踏んでも機体

の出力には限界がある︒

︵しかし後ろにいるグリペンは別だ︑スリップストリームを利用すれば前に出れる︒問

28 親の陰

(33)

題はこのグリペンがあいつかどうか︑だな︶

 データリンク上でも気付き始めている人が増えてきたようだ︑ただ直井武雄なら大丈

夫だろう︑それくらいは予想しているはず︑といった結論がでてきていた︒

︵あのファントムが直井武雄じゃないことはまだそんなには広まっていない︒くそっ︑

クラッシュは勘弁してくれよ︶

 霧島は自分が当事者ではないのにも関わらず冷や冷やしていた︒

 ファントムとグリペンは相変わらず互いの位置を変えずにいた︒両機の少し離れた

後方にはおっかけの戦術機がいる︒

︽いまだ動きなし︾

 実況をする後方の戦術機は複座式のF│14AN3マインドシーカーだ︒突発的に

始まったバトルを︑しかもあの伝説のファントムがいることに胸を躍らせていた︒

﹁こいつは直井の復活劇になるのか

?

 後部座席にすわる観測士が言う︒前を行く両機に動きがなさそうなので機体を少し

加速させ近づける︒

﹁あのグリペン︑伝説のファントムと知って煽ってるのかな︑そうだとしたらそうとう肝

の座っている奴だよ﹂

29

(34)

 前部座席に座る相方はグリペンをよく観察する︒あれだけ細かく三次元的な動きが

できるのだから結構な腕の持ち主だとわかる︒

 マインドシーカーが両機に近づいた︒機体のシルエットに光が当たり一時的に機体

の柄を確認できた︒

﹁なっ

!

あいつ当たり屋のグリペンだ

!

 肩に死神を彷彿させるようなマークが見える︒運び屋の世界ではある意味で有名な

機体だった

︽当たり屋のグリペン︑確認︾

 手際よく簡潔にデータリンク内に伝え︑すぐに目を両機に戻す︒

 そして局面は動きはじめた︒

 グリペンを示す光点が動く︑煽りの動きから抜かす動きに変わったことは直感的にわ

かった︒

︵くる︶

 しかしわかっていても何もできない︒隼介も何かしようとも思わなかった︒スリッ

プストリームから射出されるようにグリペンが飛び出す︑ファントムの横をすり抜け前

に出たかと思ったその瞬間︑グリペンは機体を右に向ける︒

30 親の陰

(35)

︵なんだ

?

 左のロケットブースターから出るジェットの色が変わった︑片側だけアフターバー

ナーを噴かしたようだ︒片側のアフターバーナーの出力だけ機体を支える︒巡行する

ために斜め下を向いていたグリペンのロケットブースターの右側がファントムの腰の

右側に向く︒そしてすぐに右側のロケットブースターもアフターバーナーを噴かした︒

﹁なに

!?

 ファントムの右側の腰がグリペンのロケットブースターに押され体勢を崩す︒

︵そんなのありかよ

!?

 隼介は焦る︑ファントムから機体のコントロールを失う︒その隙にグリペンは遠ざ

かっていった︒結局真意はわからなかった︒

 マインドシーカーに二人は隼介のファントムがクラッシュしないよう熟練の技に

よって立て直されたことに感服していた︒

﹁すごいね︑あそこから立て直すなんて﹂

 普通の戦術機乗りならすぐさまクラッシュしていただろう︒すぐにデータリンク内

に情報を乗っける︒

31

(36)

﹁さすが直井って感じだな﹂

 しかしデータリンク内での反応は冷ややかであった︒

︽直井が当たり屋のグリペン相手にクラッシュしかけたってどうゆうことだよ︾

 確かに直井武雄が操るファントムならば予想できていただろう︒

︽確かに︑おかしいな︒腕でもなまっていたのか

?

︽直井は中古にファントム売ったんじゃないの

?

 さまざまな見解が寄せられてくる︒しかしすべて的を外していた︒

 ︵危なかったな︑心臓が止まりそうだったぜ︶

 霧島は安心していた︒ファントムが神技的な立ち直りをしたことで直井隼介がただ

物のパイロットではないと改めて実感した︒

︵しかしこの反応︑あまりよろしくねぇな︶

 データリンク内の動きを見るに本当に直井武雄のファントムなのかどうか︑という議

論がされていた︒このままいけば真相を確かめようとさまざまな動きをするだろう︒

︵穏便に済めばいいが運び屋の世界は甘くない︶

 強硬手段で調べてくるやつもいるだろう︒

︵坊主に忠告しておくか︶

32 親の陰

(37)

 釜石のような運び屋が故無沙汰な地域にいても場所が特定されるのは時間の問題だ

ろう︒もし何かあってからでは遅い︑もしかしたら直井武雄の猛強は信者が勢い余って

手を出しかねないからだ︒

︵これから気をつけろよ坊主︶

 霧島が力になろうにも一人では非力だ︑隼介自身で解決していく必要がある︒霧島は

そう思った︒

33

(38)

復讐  前 編

 隼介は苛立っていた︑原因はデータリンクの評価にある︒あのあと霧島から連絡があ

り︑データリンク内でバトルの話があがってると教えてくれた︒だれしもが旧東北自動

車道で起きた話題で持ち切りになっていた︒ただ話題になるだけなら無視するだけで

いい︑しかし〟父のファントム〟として話が展開されていることは無視できなかった︒

︵まるで比較されているようだ︶

 もちろん隼介も自身の父︑武雄に負けないくらいの腕を身に着けてきている︒しか

し︑今回のグリペンとの突発的バトルにおいて経験の差というものを感じていた︒

︵俺だってそうゆうことが起こるってわかっていれば...︶

 杉浦に過激な動きをする奴もいるとは聞いていただがその場では過激というのがど

んなものか隼介にはわからなかった︒しかし︑無様な姿を晒してしまったのは事実︑こ

こでなんといっても世間では言い訳としてとらえるだろう︒

︵親父の名前を汚してしまったのか...

?

 このファントムに乗り続けるには父の名前を背負っていかなければならない︑そう

思った︒

34 復讐 前編

(39)

 突然外からジェットの音が聞こえ始めた︒徐々に音が大きくなっていく︑近づいてく

るようだ︒こんな田舎に戦術機が来ることなんてめったにない︑戦術機が珍しいこの町

では霧島のイーグルがくるだけで大騒ぎするのだ︒

 隼介に悪い予感がよぎる︑データリンク内で盛り上がってるファントム捜索の手が伸

びてきたのか︑それとも仕留め損ねたからグリペンが追撃してきたのかと思った︒

︵ん

?

この音は...︶

 聞き覚えのある音︑イーグルのロケットブースターの音だった︒

 音が止む︑大方港にある戦術機駐機所にでも降ろしたのだろう︒このタイミングで霧

島からメッセージがきた︑皆後に来いという︒隼介は港へと出かける準備をした︒

 霧島は機体から降り︑この場で隼介を待つ︒イーグルの巨体を目印にすれば隼介はわ

かるだろうと思った︒

 予想通り隼介はやってきた︑港から家が近いのだろうか自転車でやってきた︒

﹁いよう坊主︑元気か﹂

 手を挙げながら言った︒

﹁どうも︑お世話になってます﹂

 隼介もテンプレ通りの返答する︒

35

(40)

﹁何の用で来たか︑わかってるんだろ

?

 霧島は会話をする雰囲気をつくるためわざとこんな風に聞く︒

﹁あのグリペンとのバトルのことですよね﹂

 隼介はグリペンの情報を欲していた︒

﹁あぁ︑あのグリペンはこの世界じゃ有名な機体なんだ︒あのグリペンは〟死神〟とか

〟当たり屋〟って言われていてな︑突然いろんな機体にあんなふうなことをやってい

る﹂﹁それがたまたま今回俺のところに来たってことですか﹂

 隼介はそう思った︒

 しかし霧島は首を横に振る︒

﹁あのグリペンが出現した時期はちょうどお前さんの親父さんさんがデビューした時期

と被るんだ︒あの死神グリペンも相当な腕を持っているのだが当時はファントムのほ

うが有名でグリペンが陰に隠れてしまったんだよ﹂

 直井は気が付いた︒

﹁つまり親父のたいしていい感情を持っていない︑と

?

﹁そうゆうことだ︑ファントムの有名加減に嫉妬でもしたんだろう︒それでも有名にな

りたくて当たり屋になった︒そんなとこだろうな﹂

36 復讐 前編

(41)

 ばかばかしい︑隼介はそう思った︒つまり隼介は過去の因縁に勝手に巻き込まれ︑振

り回されたということだ︒

 ある考えを頭の中によぎらした︒

﹁霧島さん︑お願いがあるんですど﹂

﹁ん

?

なんだぁ﹂

 霧島は若干口の端が上がっている︒

﹁あのグリペン︑どこにいるかわかりますか﹂

﹁坊主ならもしかしたら︑と思ったがきたな︒やはり親が親なら子も子だな﹂

 霧島は笑った︒

 霧島が言うにグリペンは武雄と戦ったことがないらしい︑それは武雄が卑怯な手をつ

かうグリペンとの接触を避けていたからだという︒今回はそれを逆手に取るという︒

過去の因縁のファントムが自ら死神グリペンに臨む︑そしてリターンマッチをするとい

う情報をデータリンク内に流す︒伝説のファントムが自らけばたいそうな騒ぎになる

だろう︑そうすればグリペンの耳にまで届くはずだ︒

 隼介は霧島が立てた作戦に不服はなかった︒バトルの場所は地元釜石︑データリンク

内に情報を流すことでギャラリーも増えるだろう︑もう武雄の存在はないことを世に知

37

(42)

らしめるためには証人は多いほうがいい︒

 隼介は杉浦にも頼みデータリンクに情報を流してもらう︒流す人が増えればそれだ

け信憑性も増す︒もちろんファントムが負ける可能性もある︒グリペンの腕は前回の

旧東北自動車道だけではわからないが相当の腕と聞いている

 ︒それでも父のメンツのためにも︑自分のためにも勝たなければならない戦いだっ

た︒

 隼介は甲子川から岩倉山に続くいつものコースを何度も往復した︒このコースを数

え切れないほど通った隼介もバトルのために駆けるのは初めてである︒慣れたコース

を極限まで攻める︑操縦桿を握る手が勝手に強くなっていた︒霧島も杉浦も情報のの拡

散のために献身的に手伝ってくれた︒父の名︑自分のためのほかにこの二人のためにも

勝たなければならない︒いままだ感じたことのない重圧を隼介は受けていた︒

 日常的に釜石にくる戦術機が増えてきた︒みなここにファントムがいるのかどうか

確かめに来たのだろう︒マインドシーカーも例外ではなかった︒内陸のほうからロ

ケットブースターの音が聞こえる︑音の方角にカメラを向ける︒

﹁あ

!

本当にいたぞ

!

38 復讐 前編

(43)

 さっそく映像を撮る︒ギリギリをせめるファントムの腕はやはり本物だった︑そう思

わせた

﹁やっぱ伝説のファントムなんじゃねえの︑こんな動きできるのそんないないぞ﹂

 後部に座る観測士が言う︒ファントム偽物疑惑は少しづつ晴れていく︒

 データリンクに映像を乗せると同じ様な反応が上がる︒

︽すっげえ動きだな︾

︽こんなに走り込みするなんて本当に伝説対死神やるんだな︾

 マインドシーカーの二人も今回のバトルを楽しみにしていた︒

 直井のファントムの実力は折り紙付きだが死神の実力は未知数だ︒当たり屋などと

いうふつうはできない芸当をやるくらいなのだから腕はあるはず︑しかしまっとうなバ

トルは誰も見たことがないという︒

 その日は日が暮れるまでファントムを見ていた︒

 約束の日は刻々と近づいていた︒

39

(44)

復讐 後編

 釜石の港にある駐機所に続々と戦術機が集まる︒近くのヘリポートにも同じように

多くのヘリコプターが来ていた︒町の人はなんだなんだと騒ぎ立てていた︒

 ﹁なぁ︑今日は祭りでもあるのか

?

 若干岩手の方言をなまりを混ぜながら地元の漁師が聞いた︒

﹁ここで今日伝説が始まるんですよ﹂

 名もわからない男が答える︒

﹁ほー︒そうかいな﹂

 漁師は興味なさげに答えた︒その漁師とは逆に集まってくる人たちは歴史が動く瞬

間を見ようと期待をした目をしていた︒

 隼介と死神のバトルは夜だというのにすでに釜石は賑わいを見していた︒

﹁こんなに集まるとはな︑期待以上だぜ﹂

 霧島は市場にある飲食店で海鮮丼を口にかき込みながら言った︒

﹁そうかい

?

伝説と死神なんだからこんくらい来るんじゃないかな﹂

40 復讐 後編

(45)

 前に座り同じく海鮮丼を食していた杉浦は言う︒この二人は隼介を仲介し知り合い

となりこうして仲良くなった︒

﹁俺が前来たときは田舎って感じだったのにまるで観光地みたいだ﹂

 きっと釜石市は町おこしになるだろう︒

﹁ここは聖地みたいになるだろうね︑ここの市長さん喜んでいるだろうな﹂

 二人はもう仕事はない︒ここまで来たら後は隼介を信じるだけだった︒

 ︵すごい人だ︶

 隼介は地元にこんなに人がいることはないため驚いていた︒

︵俺と死神のバトルを見るためだけにこんなに来たのか︶

 改めて父の伝説がもつ圧力を感じていた︒

 バトルの開始は日が暮れてから︑それまでは何もすることがない︒

︵やるとするならばコンディションを整えるくらいか︶

 隼介は強張ることもなく落ち着いていた︒

 マインドシーカーの二人はすでに最終コーナーの外側に陣取っていた︒バトルの形

式もわからないから機体の性能を見ても勝負の結果にヤマを張ることができない︒も

41

(46)

し両者の実力が近ければ勝負は最後にもつれ込むと思いここを陣取った︒

﹁ねぇやっぱり早かったんじゃ

?

 前部の観測士は言った︒時計はまだ2時を示していた︒

﹁港のあの人の数︑見たろ︒先にいいとことっとかないと取られちまうからな﹂

 後部の相方はデータリンクを眺めながら言った︒データリンク内でもお祭り状態に

なっていた︒

﹁ギャラリーはまだ増えそうだ﹂

 このバトルが世間で取れ程注目されているかがよくわかった︒自分でも直接見たこ

とのない伝説の姿︑とても楽しみにしていた︒

 刻限は迫っていた︒隼介はファントムに火を入れる︒これから港に向かいそこで死

神を待つ︒死神は今回の騒動にもなんも反応を示していない︑来るかどうか確証はない

が来ると信じて待つしかない︒もしこなくても伝説のファントムはもういない︑武雄は

引退したことをギャラリーに伝えることにしていた︒

 エンジンが温まったので機体を立ち上げロケットブースターを点火させた︒ゆっく

りと高度を上げ港へと進路をとった︒

 戦術機駐機所はすでにギャラリーの機体で埋まっていると霧島から聞いた︒なので

42 復讐 後編

(47)

埠頭に機体降ろす︒少しくらい離れていてもギャラリーは追いかけてきてくれた︒

あっという間に機体の四方は人だらけになるが機体からはある程度離れていた︒

︵こんなにいるのか︶

 もうコース上で待機している人もいるはず︑それをも合わせるともっと多い︒

︵こんだけいれば十分だ︑あとは死神が来れば︶

 機体の中で死神を待つ︒約束の時間まで30分︑隼介には今までで一番長い30分に

感じられた︒

 約束の時間まで残り数分︑隼介は冷や汗でシャツが濡れていた︒昼間は落ち着いてい

たのに今は緊張している︒今までにない空気の中で一人︑緊張しないはずがない︒

︵くそっ︑早く来いってんだよ︶

 やっぱり死神は来ないんじゃないのか︒隼介を焦らせる︒頭の中が白くなっていく︒

﹁おい

!

来たぞ

!

 ギャラリーが騒ぎ出した︑同時に隼介の機体の前から離れていく︒

 隼介は顔を上げた︑機体のカメラを四方に巡らせ探す︒音は海の方から聞こえてき

た︒水面を這うように安定した姿勢でこちらに向かってくる︒

︵きたっ

!

43

(48)

 隼介はかつての集中力を戻した︒口角が上がる︒

 死神と思しきグリペンはファントムの目の前に立った︒双方の管制ユニットが開く︒

﹁なっ...﹂

﹁おいどうゆうことだよ...﹂

 ギャラリーの目は皆ファントムの管制ユニットに向いていた︒それもそのはず︑そこ

にいるのはまだ若い青年だったからだ︒何年も前に伝説を残すにしては若すぎる︒死

神も驚いていた︒

 ﹁はぁ

!?

なんだよこれ

!

 最終コーナーにいた二人も驚く︒港からの有志による中継を見ていた︒

﹁これが伝説の...

?

そんなばかな﹂

 調べでは中年のがたいのいい人のはず︑しかしそこにいたのは若く︑やせた青年なの

だから混乱する︒

﹁どうゆうこと

!

これは直井じゃないよ

!

 しかしファントムの中から出てきたのは間違いなくこいつ︑やっぱり直井は引退して

中古をして売り払ったのか︒そう結論付けた︒

﹁まって

!

なにか言おうとしてる﹂

44 復讐 後編

(49)

 ファントムの青年は機体のついたスピーカーを使い何か言おうとしていた︒

﹃お集りのみなさん︑こんばんは︒自分は直井隼介︑伝説のファントム直井武雄の息子で

す﹄

 顔が固まる︒ほんとに息子ならば話はつながる︒あのファントムといい︑腕前といい

﹃みなさんがしっている伝説のファントム直井武雄は引退しました︒いまこのファント

ムを使っているのは自分です﹄

 ギャラリーの誰しもが言葉を失っていた︒死神も同様である︒

﹃今日この場を作ったのはこのことを伝えるため︑そして不当なバトルに巻き込んでき

た死神にリベンジマッチを申し込むためです﹄

 少しの間をあけてからギャラリーは沸き立った︒

 隼介は落ち着いていた︒死神を前にしても︑大勢のギャラリーに囲まれても臆してい

ない︒

︵よし︑いいぞ︶

﹁死神︑おれとバトルしろ

!

 この状況であれば死神も逃げにくいだろう︑それに死神は顔をギャラリーに晒してい

る︒

45

(50)

﹁...﹂

 死神はただじっと隼介の顔を見ていた︒そして口が開く︒

﹁ルールは︑どこでやる﹂

 乗ってきた︒

﹁場所はここ︑甲子川と岩倉山のコース︑往復だ︒ルールはスプリングバトル︑先にゴー

ルしたら勝ちだ﹂

 簡潔に伝える︒

﹁わかった︒おれは皆川敦︑やるぞ﹂

 死神の皆川敦はコネクトシートに座り管制ユニットを機体に戻した︒早速始めるつ

もりだ︒

 隼介も準備した︒

 ﹁ここまでは予定通りだね﹂

 霧島と杉浦の二人は山頂に来ていた︒折り返し地点となる岩倉山山頂にポールを設

置するためだ︒すでに設置は終わっている︒ギャラリーも増えてきた︒

﹁たのむぜ坊主︑ここまでやったんだから勝ってもらわないとな﹂

46 復讐 後編

(51)

 スタート地点となる甲子川下流の中州にファントムとグリペンが並んだ︒

﹁時計を合わせろ︑次の秒数が00になったらスタートだ﹂

 バトル開始まで残り20秒ほど︑あたりは静まり返る︒

 5︐4︐3︐2︐1...両機が一気にロケットブースターを噴かす︒始まった︒

 始めは少しの直線︑そして左へ大きくカーブする︒はじめの直線で出力では負けるも

のの軽量なグリペンが加速力で勝り前をとる︒そして大きく左へカーブ︑この時点でグ

リペン先行ファントム後行の形ができた︒

 隼介にとって後行はあまり望ましいものではなかった︒一度前に出られてブース

ターで姿勢を崩してくるかもしれないからだ︒機体は加速するときに一番体勢を崩し

やすい︑隼介のファントムは攻めることが難しくなってしまった︒

 マインドシーカーの二人は目の前を通る両機を見た︒傍から見ればファントムがグ

リペンに機体寄せができていないように見える︒機体寄せというのは前を行く機体に

プレッシャーを与えることである︒ギリギリまで機体を寄せるのは難しいがプレッ

シャーは与えておけば後々に響いてくる︒その機体寄せができてない時点でグリペン

が勝つと予想をした︒

47

(52)

﹁ファントム︑そこまでできない奴みたいだね﹂

﹁...まだ始まったばっかりだ︑勝負は最後までわからないもんだ﹂

 マインドシーカーの一人はファントムの動きに疑問を感じていた︑機体寄せをする腕

がないんじゃなくてできないんじゃないかと︑気持ちがそうさせないのではないかと︒

コントロールを失いバランスを崩した機体を立て直した腕があるのだからきっと別の

理由があるのでは

?

と考えていた︒

48 復讐 後編

(53)

極 限

 近づきたくても近づけない︑機体を寄せたほうがいいのはわかっている︒しかし腕が

動いてくれない︒理由はわかっている︑あの旧東北自動車道の出来事だ︒またやられる

と思うと体が竦む︒

︵前に出なればっ︶

 直にコーナーを抜ける︑恐怖心をカバーしつつ前出るなら直線での機体の出力性能の

差で決める︒グリペンよりファントムのほうがエンジン出力で勝っていることは事前

に霧島から聞いていた︒空力性能で負けているから立ち上がり加速で負けることはわ

かっていた︑カーブではファントムが不利なのはファントムを手足のように扱う隼介に

は面白くないことだった︒しかし勝つためには性能の差を利用するしかなかった︒

 直線に入る︑これから上流に向かうにつれコースの幅は狭くなり抜かすのは難しくな

る︑前に出るなら今しかない︑そう判断した隼介はグリペンから機体を横に滑らせた︑前

から見れば二つの機体が横に並んで見えるだろう︒アフターバーナーを点火させ加速

を始める︒グリペンに動きはない︒ファントムがグリペンの脇をすり抜けたそのとき

グリペンはアフターバーナーを点火させた︒

49

(54)

︵動いた

!

 ファントムのスリップストリームに入る︒ファントムが前を行き︑そのすぐに後ろに

グリペンがついた︒単純な出力勝負ならファントムはどんどん差を開いていっただろ

う︒しかし皆川はわかっていた︒そこで引き離されないようにファントムの機体を利

用し後ろについたということだ︒

︵なっ︑引き離せない

!?

 このままいけば次のカーブがくる︑そうすればまたグリペンが前をでるだろう︒しか

し事態はそう楽ではなかった︒直線からカーブにつながると思っていた皆川はコース

の形が変わったことに気付いたのは前のファントムを機動が左右に振れ始めてから

だった︒ファントムの陰にいたグリペンは前の状況を知るとこができない︒甲子川の

中流︑わずかに左右に曲がる蛇行区間︑慣れている隼介は見事な機体裁きで大きな減速

をすることもなく突破していく︒対し前が見えない皆川は突然の蛇行に対処できない︒

機体間が開いていく︒

 ﹁グリペン︑おいていかれたね﹂

 マインドシーカーの機体を起こし山間を跳躍︑二機を観察していた︒

﹁コースの慣れが出たのか

?

いや﹂

50 極限

(55)

 後部座席から身を少し乗り出しながら言った︒

﹁おそらくそれだけじゃないだろうな︑後ろにしっかりついていたグリペンは目を見え

なかった︑それにここで単純な機体性能の差がでたのだろう﹂

 冷静に分析していく︒

︵すごいなあのファントム︑おそろしい熟練度だ︶

 ファントムの動きに見とれていた︒

 中流で開いた差は上流のS字カーブでは取り返せなかった︒さきに山頂についた

ファントムは霧島と杉浦が見つめる中確実にターンをし︑山を下り始める︒

 グリペンも遅れてきた︑すかさずターンをする︒

﹁結構差がついたな︑予想以上だ﹂

 霧島が言った︒

﹁これくらいの差は巻き返せるだろう︑このコースには最後にカーブがあるだろう

?

こに入る時点で後ろにつかれたら負けだよ﹂

 杉浦は冷静な分析をした︒

﹁この差を維持しなきゃならないってことか

?

 霧島は訪ねる︒上りでこの差がついたからといって下りでさらに広がるわけではな

51

(56)

いだろう︒そう顔に書いてある︒

﹁この以上必要かもしれない︒今の差はこの先の桜山の左カーブとその先のS字カーブ

で埋まると思う︒だから中流の蛇行区間と直線区間で差をつけなくてはならない︑差を

つけられなければ...﹂

 杉浦は最後まで言わなかったが何を言わんとしているか霧島はわかった︒

 ︵やっぱり近づいてくるか...

!

 隼介は後ろから迫ってくる皆川のグリペンの威圧をひしひしと感じていた︒カーブ

を曲がるごとに差は縮まることはわかっていたこと︑しかし抜かされるかもしれないと

いうプレッシャーが自分を焦らせる︒

 S字カーブが近づいてきた︑隼介お得意のOUT・IN・INに対しOUT・IN・O

UTの曲がり方を見せるグリペンは明らかに霧島のイーグルのそれより速い︒

 一つ目のカーブで後ろにつかれ︑二つ目のカーブでいよいよ前に出られた︒

︵しまった

!

 その空力性能から外側から抜いても前に出れるだけの加速力を持つグリペンは外か

ら見れば簡単に抜き去ったように見えるだろう︒

 蛇行区間で前に出られては熟練の域に達したコースの慣れも︑エンジン出力の差もろ

52 極限

(57)

くに生かせない︒細かいカーブの連続とはOUT側だった位置にいれば次にはIN側

にいる︑IN側にいればOUT側にいるということになる︒そして加速力に加え細かい

ロケットブースター制御のできる︑言い換えれば後ろの機体にブースターの噴出力分の

エネルギーを当てる腕をもつ皆川を抜かすことなど隼介にはできないことだ︒

︵次抜かせるのは直線区間︑そこでどれだけ差をつけれるか︶

 グリペンの機体の身軽さとファントムを操る隼介の熟練度は蛇行区間では互角の勝

負を見せた︒

 そして直線区間︒隼介はすかさずアフターバーナーを点火︑グリペンは上り同様に

ファントムが前に出てから点火しスリップストリームに乗ろうとする︒

︵二度もやらせるか

!

 ファントムは何もない空間のカーブがあるような動きをする︑ファントムが斜め右前

に向かって加速をした︒それにしたがってスリップストリームの空間がグリペンがい

た位置からずれる︒その一瞬の動きがグリペンを大気の壁が邪魔をした︒

 このときからファントムとグリペンの間が開く︒この直線でどれだけの差がつけれ

るか︑差がつけばつくほどファントムの勝ちは近づいてくる︒

︵もっと︑もっとだ

!

 機体の出力が上がるわけでもないのフットペダルを押す力︑操縦桿を握る力が強くな

53

参照

関連したドキュメント

Ando, “High-speed atomic force microscopy shows dynamic molecular processes in photoactivated bacteriorhodopsin.,” Nat. Ando, “Structural Changes in Bacteriorhodopsin in Response

Ando, “High-speed atomic force microscopy shows dynamic molecular processes in photoactivated bacteriorhodopsin.,” Nat. Ando, “Structural Changes in Bacteriorhodopsin in Response

High-speed wireless access is available in guest rooms, lobby, 100 Sails Restaurant & Bar and pool area.. Wireless Network: Prince

, T, 4.8 where M is the crew members needed to finish all the task; N is the total number of crew legs in nonmaximum crew roster scheme; x k ij is a 0-1 decision variable that equates

The speed of the traveling wave is approximately the speed for which the reduced system has a connection with a special structure between certain high- and

In function of the current operating mode, edge on WU leads to an interrupt request (Start−up, Normal, Standby and Flash modes) or reset (Sleep mode).. More details on the

In function of the current operating mode, edge on WU leads to an interrupt request (Start−up, Normal, Standby and Flash modes) or reset (Sleep mode).. More details on the

Depending on the operation mode (Master or Slave), the pixel array of the image sensor requires different digital control signals.. The function of each signal is listed in