イチゴ新品種の流通加工品質向上に関する研究
安部良樹・佐野一成・高木喜保・鶴岡克彦・櫛野智也 食品産業担当
Study to Improve Distribution and Processing Quality of Strawberry New Cultivar
Yoshiki ABE・Kazunari SANO・Kiho TAKAKI・Katsuhiko TSURUOKA・Tomoya KUSHINO Food Industry Section
要 旨
イチゴ「ベリーツ」(品種名’大分 6 号’)の春期品質安定を目的として, 冬期(12 月)の果実品質を調査した.
果皮硬度に品種間差は見られず,果肉や芯の硬度で有意な差が見られた.見かけ弾性率は果実硬度の評価指標 として有用である可能性が示唆された.また,’大分 6 号’と’さがほのか’の熟度別,保存日数別の糖組成の変 化が明らかとなった.2 品種ともグルコース/フルクトース蓄積型であり,それが食味を特徴づける一因になっ ていると考えられた.
1. はじめに
大分県の育成したイチゴ「ベリーツ」(品種名’大分 6 号’)は,平成 29 年産から本格的に栽培が始まり生産量 は増加している.これまでの主力品種’さがほのか’と 比較すると食味と着色に優れるが,気温の上昇する 3 月 以降は食味と果実硬度が低下するため,市場評価の低下 に繋がりブランド化に支障が出ていることから,生産者 だけでなく流通関係者(JA,市場等)からも品質向上の 要望は多い.
この問題を解決するために,冬期と春期のイチゴ品質 を比較し,春期の’大分 6 号’の品質低下の原因解明を 試みた.今年度は 12 月のイチゴ品質について検討した.
2. 方 法 2.1 植物材料
2019 年 12 月 20,25 日に収穫した農林水産研究指導セ ンター農業研究部栽培のイチゴ品種’大分 6 号’,’さ がほのか’, ’ゆめのか’,’恋みのり’,’やよい ひめ’を用いた.収穫後の保存は 5℃で行った.1 個の 果実を 2.2 の硬度測定に用いた後,縦に二分割し-30℃
で保存した.果実の一方を 2.3 のアルコール不溶性固形 物調製に,他方を 2.4 の糖組成分析に用いた.
2.2 硬度測定
クリープメーターRE2-33005C(山電),直径 3 mm プラ ンジャーを用いて貫入速度 1 mm/s で測定した.イチゴ 果実の赤道部に対し,痩果を避けるようにプランジャー
先端を貫入させた.遠藤(飛川)ら(1)の方法に従って果皮 硬度,果肉硬度,真の果皮硬度,芯の硬度,貫入抵抗量,
見かけ弾性率 (果皮硬度/プランジャー断面積)/(貫入変 形量/イチゴ直径)を算出した(Fig.1).
Fig.1 クリープメーター測定における各測定項目
2.3 アルコール不溶性固形物(AIS)の調製
各種ペクチン含量の定量に用いるために,冷凍果実か ら新・食品分析法(2)の方法でアルコール不溶性固形物を 調製した.
2.4 糖組成分析
冷凍果実から熱水抽出により糖を抽出し,高速液体ク ロマトグラフを用いてスクロース(Suc),グルコース (Glu),フルクトース(Fru)含量を測定した.分析条件は HPLC:PU-980(日本分光),移動相:水,カラム: Shodex KS-801(昭和電工),RI 検出器:RI-71(昭和電工)とした.
貫 入 抵 抗 値( N)
貫入距離(mm)
d. 芯の硬度 b. 真の果皮硬度
c. 果肉硬度 a. 果皮硬度
x. 貫入変形量
令和元年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
1
2.5 統計解析
すべての統計処理は R ver.3.5.2 と EZR ver.1.37 を 用いて行った.糖割合はロジット変換後に統計処理を行 った.
3. 結果および考察 3.1 品種ごとの硬度の差異
収穫当日の硬度測定の結果を Fig.2 に示した.’ゆめ のか’,’恋みのり’,’やよいひめ’の 3 品種を硬い 品種として対照に用いた.果肉硬度,芯の硬度,貫入変 形量,見かけ弾性率は品種間で差が見られた.果皮硬度 と真の果皮硬度は品種間で有意な差が見られず,果皮硬
度 と 真 の 果 皮 硬度 の 間 で 有意 な 高 い 相 関 が見 ら れ た (Fig.3).イチゴ輸送中の衝撃,振動による損傷にはい わゆる「オセ」と「スレ」と呼ばれるものがある.品種
間で果皮硬度に差がないのであれば「スレ」損傷への耐 性も品種間差がない可能性がある.春期のイチゴについ ても引き続き検討する必要がある.見かけ弾性率は’大 分 6 号’,’さがほのか’と’ゆめのか’,’恋みの り’,’やよいひめ’の間に有意な差が見られたため,
硬度の評価指標として有用であると考えられた.
Fig.3 果皮硬度と真の果皮硬度間の相関 無相関検定で有意差あり
(*:p<0.05, **:p<0.01)
3.2 AIS 含量と着色度の関係
イチゴ果実の成熟に伴って果実中の各種ペクチン含量 と組成が変化することから,果実硬度との関連が示唆さ れている(3).各種ペクチン含量を分析するために調製し た AIS 含量の着色度,品種ごとの差異を Fig.4 に示した.
AIS 含量は果実の着色度が白熟期から 50%着色期へ進む につれて低下する傾向が見られたが,50%着色期以降は 着色の進行による変化や品種の違いによる差は判然とし なかった.真部(4)はイチゴ AIS 中の全ペクチン含量を 34.4mg/100mg としており,ペクチン以外の成分を多く含 んでいる.今後,調製した AIS からペクチンを抽出定量 し,果実硬度との関連を調査する必要がある.
Fig.4 着色度ごとの AIS 含量(その他品種は’ゆめの か’,’恋みのり’,’やよいひめ’)
3.3 糖組成
'大分 6 号'の 5℃保存中の糖組成の変化を Fig.5 に示 0.0
1.0 2.0 3.0 4.0 5.0
-20 0 20 40 60 80 100
AIS含量(g/100gFW)
着色度(%) 大分6号 さがほのか その他品種
Fig.2 収穫当日の硬度(バーは標準偏差,異符号間で 白熟 有意差あり,n.s.は有意差なし
(Tukey-Kramer, p<0.05))
0.0 0.5 1.0
1.5 b.真の果皮硬度
(N)
大分
6号 さがほのか ゆめのか 恋みのり やよいひめ n.s.
0.0 0.2 0.4 0.6
0.8 c.果肉硬度
(N)
大分
6号 さがほのか ゆめのか 恋みのり やよいひめ a
b
a a
b a.果皮硬度
0.0 0.5 1.0 1.5
2.0 n.s.
(N)
大分
6号 さがほのか ゆめのか 恋みのり やよいひめ
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0
(N) d.芯の硬度
大分
6号 さがほのか ゆめのか 恋みのり やよいひめ cd d
ab a
abc
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
大分
6号 さがほのか ゆめのか 恋みのり やよいひめ (mm) x.貫入変形量
ab a
ab b ab
0 2 4 6 8
(MPa)見かけ弾性率
大分
6号 さがほのか ゆめのか 恋みのり やよいひめ a
b a
b b
0 1 2
0 1 2
真の果皮硬度(N)
果皮硬度(N)
大分6号 さがほのか ゆめのか 恋みのり やよいひめ
r = 0.967**
r = 0.973**
r = 0.950**
r = 0.869**
r = 0.936*
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2
した.90%着色果および 100%着色果は,日数経過に従い 全糖含量は変化せず,Suc 含量・割合が減少し,Glu と Fru 含量・割合が増加した.5℃の保存下で呼吸による糖の消 費は小さい一方で,インベルターゼが作用し Suc が Glu と Fru に分解されていることが考えられる.
’大分 6 号’と’さがほのか’の収穫後 0 および 1 日の 着色ごとの糖組成を Fig.6 に示した.2 品種とも着色が 進むに従って Suc,Glu,Fru および全糖(Suc+Glu+Fru) 含量は増加した.糖割合では,2 品種とも Suc 割合が増 加し,Glu/Fru 割合は減少した.’大分 6 号’と’さが ほのか’の Suc 割合は他の品種と比べて低く(5),Glu/Fru 蓄積型の品種であるといえる.イチゴでは光合成産物が Suc の形で果実に転流する.さらに果実内ではインベル ターゼの働きにより Suc から Glu/Fru への変換,スクロ ースシンターゼによる Glu/Fru から Suc への変換が起こ っている.果実内で糖代謝に関与する酵素の活性の強さ,
バランスは品種によって異なり,’大分 6 号’と’さが ほのか’ではインベルターゼ活性が高い可能性が示唆さ れる.
Glu/Fru はさわやかな甘みを,Suc は濃厚な甘みを感 じるといわれており,品種ごとの糖組成の違いが食味に 影響を及ぼす可能性がある.また,保存期間中に糖組成 が変化することが分かった.保存中の食味変化の程度も
品種によって異なる可能性がある.
Fig.6 果実着色の進行に伴う糖組成の変化 (A)糖含量 (B)糖割合
異符号間で有意差あり(Tukey-Kramer, p<0.05)
*は有意差あり(Welch’s t-test, p<0.05) n.s.は有意差なし
糖割合はロジット変換後,統計処理
4. まとめ
12 月収穫の’大分 6 号’の硬度と糖組成について,他 品種と比較した特徴が明らかとなった.硬度については,
果実中のペクチン含量と関係があり,同時期に採取した 果実のペクチン組成と硬度との関係を調査する予定であ る.糖についても,成熟中や保存中の果実内でのインベ ルターゼをはじめとする酵素活性の強さが組成の変化に 影響していると考えられるため,糖代謝関連遺伝子の発 現解析を行い関連を調査する予定である.さらに,3 月 以降に収穫した果実に関しても同様の調査を行い,冬期 と春期の果実品質の違いについても評価していく予定で ある.
Fig.5 ’大分 6 号’の収穫後の糖組成の変化 横軸は収穫後日数
(A)90%着色果の糖含量 (B)100%着色果の糖含量 (C)90%着色果の糖割合 (D)100%着色果の糖割合 各糖について異符号間で有意差あり
(Tukey-Kramer, p<0.05)
糖割合はロジット変換後,統計処理
Fru ab a b b *
Glu a a ab b *
Suc ab a b b *
Fru ab a b b n.s.
Glu ab a b b n.s.
Suc ac a b bc *
Total ab a b b n.s.
1.6 1.3 1.9 2.1 1.3 1.9 2.0 1.8 2.2 2.2
1.8 2.0 2.2 2.1
2.5 2.5 2.1
2.3
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0
50% 70% 90% 100% 50% 90%
糖含量(g/100gFW)
大分6号 さがほのか
27 26 29 31 25 30
34 35 33 32 35 33
39 40 38 37 40 38
0 20 40 60 80 100
50% 70% 90% 100% 50% 90%
糖割合(%)
大分6号 さがほのか
1.7 2.0 1.9 1.2
2.0 2.3 2.2 2.3
2.3 2.6 2.6 2.8
10.00.0
0日 1日 3日 6日
糖 含…
(A)
フルクトース グルコース スクロース(A)
(B)
32 31 26 22
32 33 35 36
36 37 39 42
0 20 40 60 80 100
0日 1日 3日 6日
糖割合(%)
(D)
Fru a a b c
Glu a a b b
Suc a a b c
Fru n.s.
Glu n.s.
Suc abc a ab c
Total n.s.
1.7 2.0 1.9 1.2
2.0 2.3 2.2 2.3
2.3 2.6 2.6 2.8
10.00.0
0日 1日 3日 6日
糖 含 量…
(A)フルクトース グルコース スクロース
1.7 2.0 1.9 1.2
2.0 2.3 2.2
2.3
2.3 2.6 2.6
2.8
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0
0日 1日 3日 6日
糖含量(g/100gFW)
(A)
2.2 2.1 1.9 1.5
2.2 2.3 2.5 2.4
2.5 2.6 2.8 2.8
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0
0日 1日 3日 6日
糖含量(g/100gFW)
(B)
Fru n.s.
Glu n.s.
Suc a ab abc c
Total n.s.
28 29 29 19
33 33 33
37
38 38 38 44
0 20 40 60 80 100
0日 1日 3日 6日
糖割合(%)
(C)
Fru a a a b
Glu a a a b
Suc a a a c
令和元年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
3
参考文献
(1) 遠藤(飛川)みのりら.イチゴ果実における見かけ弾 性率の貯蔵,収穫時期による変化および遺伝資源評 価.農研機構研報九沖農研 67,1-14(2018) (2) 日本食品科学工学会,食品分析研究会(編纂).新・
食品分析法(1996)
(3) 佐賀農試.イチゴ果実の硬度低下とペクチンの関係.
平成 13 年度九州沖縄農業研究成果情報(2001) (4) 真部孝明.ペクチン-その科学と食品のテクスチャ
ー(2001)
(5) 令和元年度大分県農林水産研究指導センター農業研 究部試験研究報告書(in press)
令和元年度 研究報告 大分県産業科学技術センター