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自然斜面における雨水浸透・流出の原位置観測 FIELD MONITORING OF RAINWATER INFILTRATION ON NATURAL SLOPES

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(1)

1. はじめに

豪雨時の土砂災害が毎年のように日本の至るところで発 生している。斜面防災の分野では、そうした土砂災害によ る被害を軽減・回避することが重要となっている。そのた めにはハード的な対策だけではなく、崩壊を予測して通行 止めや警戒避難を発動するなどのソフト的な対策も求めら れている。その努力がなされているものの、表層崩壊や土 石流により人命や財産が奪われる例は後を絶たず、崩壊予 測精度を向上させる必要性が痛感させられる。地下水(間 隙水圧)の変化を主因とし、前兆としてゆっくりとしたす べり変位が見られる“地すべり”とは異なって、表層崩壊 や土石流に係る防災技術上の問題点は、前兆現象がほとん どないまま、地盤内に浸透した雨水がある程度の量に達す ると斜面が一気に崩壊し、土砂災害を引き起こすことであ る。そこでは、表層地盤内の水分挙動、降雨時に表層土内 に発生する飽和帯の位置(深度)や上昇高さ、地盤の強度特 性などによって崩壊の発生時刻や規模などが異なる結果と なる。すなわち、いつ、どの場所で崩壊するか、また、ど

自然斜面における雨水浸透・流出の原位置観測

FIELD MONITORING OF RAINWATER INFILTRATION ON NATURAL SLOPES

To accurately predict the time and place of sediment-related disasters, an urgent ongoing problem is to clarify the behavior of rainfall infiltration in the top 1-2 m thickness of subsurface layers. Moreover, an important question is to what extent forest slopes can substitute for concrete dams in storing rainfall on slopes. To examine this question, it is necessary to know how much rainwater can be stored by forest slopes during rainfall and what happens to saturated throughflow in the subsoil layers.

Normally, rainwater infiltration on hillslopes is determined by unsaturated and saturated numerical analysis using FEM, FDM, or similar methods. But, insufficient verification studies means that it is unclear whether modeled results show good agreement with behaviors on in- situ slopes. Therefore, the authors established a monitoring system of rainfall infiltration on in-situ slopes which included measurement of soil water pressure in shallow (0-0.1 m) subsurface layers of a forest slope.

In this paper, moisture changes in the in-situ slope, the amount of rainwater supplied to the unsaturated zones during infiltration, and the formation of a saturated layer in the subsurface are discussed based on monitoring results. Finally, a simplified method to estimate the amount of rainwater that can be stored on forest slopes is proposed based on this improved understanding of rainfall infiltration.

Keywords:Field monitoring, natural sandy slopes, surface failures, suction, soil moisture

ティ ハ * ・土田 孝 ** ・佐々木康 ***

Thi Ha, Takashi TSUCHIDA and Yasushi SASAKI

の程度の崩壊規模になるかを予測することは非常に難し い。被害を軽減するためには地盤構成や土質特性の調査の ほか不飽和地盤内における雨水の浸透を精度良く予測する 技術が不可欠である。

一方、河川事業の分野では、近年環境問題に関する社会 意識の向上に従って、治水を目的とするダム建設の必然性 を問う議論が活発となっている。ここで着目されているの は森林斜面のもつ保水機能や流出の際の遅延機能を利用す るいわゆる「緑のダム」論である。しかし、常時ある程度 の飽和度をもっている土壌がさらにどの程度保水でき、治 水機能を発揮できるかは不明である。また、植生の状況な どによってごく表層付近において飽和流が発生する可能性 も指摘されている1。豪雨時に表層付近の飽和流が発生し た場合、河川への流出状況が大きく異なってくることが予 測されるため極めて重要な現象である。それにも関わらず、

飽和流がどのようなところで、どのように発生しているか は明確にされていない。

さらに言えば、現在、降雨時の浸透現象を飽和・不飽和 浸透流解析により追跡する試みが多く行われている2,3,4 が、実際の観測データが十分得られていないこともあり、

計算結果による表層土内の飽和度の予測精度は明らかでは

* 中央研究所 総合技術開発部

** 広島大学大学院 工学研究科

*** 財団法人 国土技術研究センター

(2)

ない。また、ごく表層付近における土中水の圧力の観測が 困難であるため、そこで実際に飽和流が発生しているかど うかはいまだに明らかになっていない。

そこで、著者らは以前から原位置観測を継続している広 島大学地盤工学研究室の観測システムに、ごく表層付近の 観測地点を追加設置して、自然斜面における雨水の浸透現 象を観測により追跡する試みを共同で行った。

本稿では、観測システムの紹介、観測結果に基づいた降 雨時の表層地盤内水分挙動の態様、表層土内における地下 水(飽和帯)の発生状況、地下水発生までに浸透した雨水の 一部が不飽和帯へ供給される状況、また、ごく表層付近の 雨水の浸透・流出特性などについて述べる。

 

2. 降雨浸透特性の原位置観測システム

(1) 観測位置

広島県を含め中国地方には白亜紀の広島花崗岩類が広く 分布し(図- 1)、このため、花崗岩類の風化生成物である まさ土に覆われた斜面も広く分布して豪雨時にしばしば崖 崩れや土石流の災害をもたらしてきた。

県内における最近の土砂災害としては、2005年9月5 日の台風14号に伴う豪雨による被害や、1999年6月29 日の梅雨前線の活動に伴う集中豪雨による被害が挙げられ る。とくに後者は近年最も大規模の災害であり、広島市・

呉市周辺で多くの表層崩壊や土石流が発生した。八幡川橋 の雨量記録によると1999年6月23日から29日までの1 週間累積雨量は389mm、6月29日の日雨量は231.5mm、 同日の最大時間雨量は81mm(14~15時に観測)であっ た。この豪雨によって広島県では崖崩れが186箇所、土 石流が139渓流で発生し、32名の犠牲者が出るとともに、

4,785棟の家屋が被害を受けた6。この時の豪雨により、

広島大学東広島キャンパス内においても5箇所で斜面崩壊 が発生し、そのうち、陣が平山の南斜面とががら山の北側 斜面における崩壊の規模は大きかった(図- 2、写真- 1)。

原位置観測は、これら崩壊規模の大きかった2箇所の

内、「ががら山」の崩壊地近傍にて実施している。崩壊現 場は標高約330mの山頂からやや下がった北側の山腹斜面 であり、付近の山地の山頂標高は300~350mの定高性 を有している。斜面の勾配は山頂部付近ではほぼ25°と緩 いが、遷急線から下方では35~40°と急になり、さらに 下方(標高265m辺り)の遷緩線からは10~18°程度となっ ている。この山腹斜面には小規模な崩壊地形や段差地形(高 さ数0.1m~2m程度)が散見され、斜面表面を覆う植生は、

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図- 1 広島県の地質図5)

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図- 2 観測地点位置図

写真- 1 ががら山の崩壊直後の現場の状況

(3)

コナラ、アラカシ、ツバキ、ヒサカキ、リョーブなどの松 枯れ後の二次林である。

(2) 観測地域の降雨特性

図- 3は観測地点付近の降雨特性を示すものであり、広 島・呉・東広島の約30年間(1976年~2006年、ただし 東広島は1979年~2006年の集計)のアメダス結果に基づ く月平均雨量である。また図中には、最近20年余りの間 にこの地域で土砂災害が発生した年の降雨量と、本稿で主 に用いる観測データを得た2006年の月降雨量も併記した。

図- 3に示すように、降雨量は4月から増え始め、梅雨 期である6月~7月にピークを迎え、8月にはいったん減 少するものの、台風時期である9月に再び増えるという 季節変動が見られる。また、2006年の降雨量は30年間の 平均降雨量より多い傾向が見られるが、災害発生年の降雨 量と比べて少なく、観測期間中に土砂災害をもたらすよう な豪雨は降っていない。

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図- 3 広島地域の降雨特性

(3) 観測斜面の表層土に関する調査

観測斜面の測線B上で掘削した土層観測用ピット(図-

4)の観察結果より、斜面表層は花崗岩が強風化したまさ土 により構成され、地表面から約0.2~0.3mまでは腐食土、

0.3~0.5mまではシルト混じり状態で、0.5mから2mま ではレキを混入し、2m以深は弱風化の花崗岩である。深 度0.1~0.8mで採取した不かく乱およびかく乱試料を用 いて室内土質試験を行った結果、土粒子の比重は2.57~ 2.60g/cm3、自然間隙比は0.8~1.5、自然状態の飽和度は 32~65%、透水係数は10-2~10-3cm/sのオーダー、内部 摩擦角は33~39°、粘着力は5~13kPaであった。

次に、物理探査および簡易貫入試験の結果から推測され る観測斜面の代表的2測線、ⅡおよびⅢの表層土構成を 図- 5に示す。図- 5に示すようにB1地点より上流側は 風化花崗岩(D級)と硬質花崗岩(CL級以上)の二つの層に

ground surface

20cm 40cm 60cm 80cm 100cm 20cm

40cm 60cm 80cm 100cm 120cm

140cm 160cm 180cm 0cm

root

root

図- 4 観測斜面測線 B におけるピットの側壁

風化岩 (D 級 ) dt

硬質岩 ( CL 級以上 )

硬質岩

( CL 級以上 ) 風化岩

(D 玉石多 目開口

ρ = 8 0 0 Ω ・ m V p = 0 . 5 ~ 0 . 7 5 ㎞ / s

B - 2

( ? )

V p = 2 . 0 ㎞ / s

ρ = 2 5 0 0 Ω ・ m V p = 2 . 0 ㎞ / s

B - 1

0 10 20 30

測線

測線

-1

-2

-3

-4

-5

N d 値 30 0 10 20 40 50

Ⅱ - 3

G L - ( m )

3 . 5 3 . 0 2 . 0 2 . 5 0 . 5 1 . 0 1 . 5 0 . 0

N d 値 30 0 10 20 40 50

Ⅱ - 4

G L - ( m )

3 . 0 2 . 0 2 . 5 0 . 5 1 . 0 1 . 5 0 . 0

N d 値 30 0 10 20 40 50

Ⅱ - 5

G L - ( m )

3 . 0 2 . 0 2 . 5 0 . 5 1 . 0 1 . 5 0 . 0

距 離 程 ( m )

( m )

G L - ( m )

2 . 5 3 . 0 2 . 0 1 . 5 0 . 5 1 . 0 0 . 0

Ⅱ - 2 N d 値 20 10 30 40 50 0

3 . 5

G L - ( m )

2 . 5 3 . 0 2 . 0 1 . 5 0 . 5 1 . 0 0 . 0

Ⅱ - 1 N d 値 20 10 30 40 50 0

10 20

0

- 10

- 20

- 30 - 5

: Nd 値 変化点

0 10 20 30 40

- 30 - 20 - 10 0 10 20

測線 ρ = 800 Ω ・ m

Vp = 0 . 5 ~ 0 . 75 ㎞ / s

B - 3

風化岩 (D 級 )

硬質岩 ( CL 級以上 )

V p = 2 . 0 ㎞ / s

dt

Vp < 0 . 75 km / s ρ < 800 Ω m

Ⅲ 測線

-4

-3

-2

-1

1 . 0

G L - ( m )

2 . 5 3 . 0 1 . 5 2 . 0 0 . 0 0 . 5 10 0

Ⅲ - 1 50 40 30 20 N d 値

1 . 0

G L - ( m )

2 . 5 3 . 0 1 . 5 2 . 0 0 . 0 0 . 5 10 0

Ⅲ - 2 50 40 30 20 N d 値

1 . 0

G L - ( m )

2 . 5 3 . 0 1 . 5 2 . 0 0 . 0 0 . 5 10 0

Ⅲ - 3 50 40 30 20 N d 値

1 . 0

G L - ( m )

2 . 5 3 . 0 1 . 5 2 . 0 0 . 0 0 . 5 10 0

Ⅲ - 4 50 40 30 20 N d 値

( m )

距 離 程 ( m )

: Nd 値 変化点 B2 地点近傍

Ⅱ測線―斜面上流側 Ⅲ測線―斜面下流側

Ⅲ測線との交差点 Ⅱ測線との交差点

図- 5 物理探査から推測した調査地の地盤構成図

(4)

より構成されている。この区間では露頭が見られるなど地 表には礫分が多く、浅いところでは温度変化や乾湿の繰り 返し等の機械的風化により花崗岩に多数の亀裂が入ってい るものと考えられる。

B1地点付近から下流側では表層に崖錐層が存在し、そ の下には風化花崗岩層(D級)と硬質花崗岩層(CL級以上)

が分布する。B1~B2地点間の崖錐層の層厚は2~2.5m 程度であり、椀形になっている。B2地点の下端付近で層 厚が最大となり、約3mである。B2地点より下流側に向 かって崖錐層の層厚が薄くなり、測線Bの距離程25m付 近からB3地点間の崖錐層の層厚は約2mである。さらに 下流側に向かって崖錐層が薄くなり、B3地点の下流側で 約1.5mである。

2回の電気探査の比抵抗値の変動から乾燥時と湿潤時の 水分量の変化率を求め、地盤内で水分量が大きく変化する 範囲を検討した(図- 6)。図- 6に示すように、B1地点 より上流側の風化花崗岩層のところでは約10mの深度ま で水分量の変化がみられ、クラックの多い層の存在により 水が浸透しやすく、蒸発もしやすいものと考えられる。次 に、B1とB2地点間の、崖錐層下面形状が椀形を示す範 囲では水が抜けにくいため、常に水分量が高い状態にあり、

深度の深いところでは飽和している可能性も考えられる。

B2より下流側においては水分量の変化は崖錐層と花崗岩 層の境界付近である深度2m程度までである。これらの結 果から、本観測斜面において局所的に表層土の厚さや浸透 特性が異なるところがあるものの、大局的には表層2m程 度の部分が降雨による浸透や不安定化の鍵を握る層と見る ことが出来る。

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図- 6 電気探査による比抵抗変化率

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写真- 2 設置した計測器(一部)の写真

(4) 原位置観測システム

観測システムは土中水の圧力を計測するテンシオメー タ、土中水分量を計測するTDRとADR、転倒マス式雨 量計、地下水位を計測する圧力式水位計、そしてそれらの データを収録するデータロガー等から構成されている(一 部を写真- 2に示す)。これらの計測器は室内にてキャリ ブレーションを行った後に原位置に設置した。

観測は図- 7に示すように崩壊し斜面の左右の2測線上 で3ヶ所ずつ、計6ヶ所で行っている。ごく表層付近の 土中水の圧力と水分量はB1とB3で、また雨量は2つの 測線のほぼ中間点の障害物がないところで計測している。

測線Aは測線Bより傾斜が大きく、等高線が平行である ことからわかるように、凹凸の少ない地形であるのに対し、

測線Bは小規模なガリ浸食状の地形を呈し、わずかなが ら集水性のある斜面である。観測地点B3での計測器の設

(5)

59 置例を図- 8に、また各地点での設置項目および設置深度 を表- 1(表層厚2mの0.1m~2m内で4~6深度)に示す。

また、写真- 3に観測地点の標準的な計器設置状況を示す。

観測はすべて自動計測であり、データは各地点に設置し たデータロガーに保存される。測定間隔は1秒から1時 間まで任意に設定することが出来るが、ここでは、すべて の計測器に対して10分間隔とした。

また、両測線のほぼ中間点付近に太陽電池を設置し、各 地点の観測に必要な電源を供給するようになっている。

3. 観測結果

(1) 観測斜面における土中水分の計測結果例

図- 9はB1およびB3地点における2006年7月の観 測結果である。図- 9に示すように、両地点で降雨時に水

-20 -15 -10 -5 0 5 10 15

 (kPa)

10cm 30cm

60cm 97cm

159cm 172cm

0 10 20 30 40 50 60

 (%)

10cm 30cm 50cm

100cm 195cm

-20 -15 -10 -5 0 5 10 15

 (kPa)

10cm 30cm

37cm 97cm

135cm

0 10 20 30 40 50 60

 (%)

10cm 30cm 50cm 150cm

0 10 20 30 40

7/1 7/2 7/3 7/4 7/5 7/6 7/7 7/8 7/9 7/10 7/11 7/12 7/13 7/14 7/15 7/16 7/17 7/18 7/19 7/20 7/21 7/22 7/23 7/24 7/25 7/26 7/27 7/28 7/29 7/30 7/31

 (mm)

0 100 200 300 400

 (mm)

時間雨量 累積雨量

図-b(B3-ADR)

図-c(B1-テンシオメータ)

-dB1-ADR

-e(降雨量)

図-a(B3-テンシオメータ)

図-10 へ拡大 7/1降雨時の変動

7/1降雨時の変動

図- 9 B3 地点における 2006 年 7 月の計測結果

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B2 B3

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0 50 100m ߇߇ࠄጊ

図- 7 観測地点位置図

写真- 3 計測器設置後の風景

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Tensiometers ADR

図- 8 測線 B における計測器設置状況

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࠹ࡦࠪࠝࡔ࡯࠲ ADRTDR A1 58ޔ96ޔ114ޔ185 100ޔ150

A2 56ޔ93ޔ122ޔ193 50ޔ90ޔ145ޔ200 A3 44ޔ98ޔ115ޔ174 45ޔ155

B1 10ޔ30ޔ37ޔ97ޔ135 10ޔ30ޔ50ޔ150 B2 59ޔ88ޔ136ޔ176 50ޔ140

B3 10ޔ30ޔ60ޔ97ޔ159ޔ172 10ޔ30ޔ50ޔ100ޔ155ޔ195

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⴫䋭㪈㩷 ⸘ེ᷹䈱⸳⟎⁁ᴫ㩷 表- 1 計測器の設置状況

(6)

分量の上昇に伴う負圧(サクション)の低下、無降雨時には 水分量の低下に伴う負圧の増加が確認できる。

7月1日 か ら2日 に か け て 累 積 雨 量114.5mmの 降 雨 が あ り、 先 行 降 雨 も 多 か っ た(6月22日 ~30日 間 で 約

210mm)ため、斜面下流側に位置するB3地点のテンシオ

メータの設置深度の深い個所(97cm、159cm、172cmの 3深度)では7月1日に、またそれより浅い箇所(60cmと 30cm)では7月2日に負圧が消失して正圧になったことが わかる(図- 9(a))。また、ADRの値もこの期間中ほぼ一 定値で上昇しなくなり(つまり、体積含水率が変化しなく なり)、飽和したと考えられる(図- 9(b))。すなわち、こ の地点の表層地盤内に地下水が形成されたことを指す。

一方、同じ降雨に対し、上流側に位置するB1地点では 水分量の変動に伴う負圧の変動が確認できるものの、テン シオメータの観測結果が正圧値を示しておらず、この地点 では地下水が形成されていない(図- 9(c))。その理由と して、先述したようにB1地点近傍に亀裂の多い強風化花 崗岩が存在し、浸透した水が流出しやすい状況にあるため と考えられる。また、B1地点は上流側に位置するため、

B3地点と比べて集水効果が小さいことも理由の一つとし て考えられる。

次に、図- 10は図- 9(c)の結果のうち7月4日~7月 9日までのデータを拡大してB1地点における負圧の低下 速度を検討したものである。B3地点についても同様な検 討を行い、両地点における深度ごとの負圧の低下速度を表 示したのが図- 11である。図- 11によれば、両地点とも に深度が浅いほど負圧が低下しやすいことがわかる。この ことは、表層付近においては飽和度の上昇に伴う負圧の急 激な低下により、見かけ上の粘着力も一気に低下する可能 性のあることを示唆するものと考えられる。また、負圧の 回復に関しても、深度の深い箇所より浅い箇所で回復が早 いことがわかる(図- 10)。また、B1とB3地点における 負圧の低下速度を比較してみるとB1地点で負圧が低下し やすいことが確認できる。このように、土中水の圧力の変 動は、土質や地盤条件、雨水の浸透や空気の移動経路など の諸条件によって異なってくると考えられる。

(2) 表層地盤内の飽和流発生機構について

豪雨時に表層地盤内に形成される地下水が斜面の安定性 を悪化させることはよく知られている7),8)。しかし、表層 土内の地下水形成機構としては、飽和した領域が上から下 へ進行するという考え方と難透水層まで水が浸透し、そこ で地下水となり上昇していくという考え方で大きく二通り に分かれおり9)、自然斜面における実現象は明らかになっ ていない。このように薄い表層土内における地下水の形成 機構の違いによって不安定化を評価する際に結果が大きく 異なってくることが考えられ、地下水形成機構を正確に捉

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図- 10 B1 地点のサクションの変動と低下勾配

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5

0 30 60 90 120 150

深度 (cm)

サクション低下速度(kPa/hr) サクション低下速度(B1) サクション低下速度(B3)

図-11 B1&B3 地点におけるサクションの低下速度 図- 11 B1 & B3 地点におけるサクションの低下速度

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2006/7/1 2006/7/2

࿑-a

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図- 12 B3 地点での 7 月 1 日~ 7 月 2 日の観測結果

(7)

えることが重要になる。

図 - 12は2006年7月1日 ~ 同 年7月2日 にB3地 点 で観測された土中水の圧力および体積含水率である。図-

12(a)の圧力の変動を見ると、最初に深度172cmで負圧か ら正圧となり、この箇所において地下水が形成されたこ とになる。次に159cmと97cmの順で圧力が正の値を示 し、水位が上昇している様子がわかる。その後は60cmと 30cmではほぼ同時に正圧を示している。一方、10cmの 箇所は正圧付近まで変動しているものの、負圧のままであ る。

次に、体積含水率の測定結果を見ると、最初に195cm の箇所で水分量が急上昇し、その後はおおむね一定値を示 しており、この深度で飽和したと考えられる。その時に浅 い深度においては水分量が上昇しているものの、飽和には 至っていない。したがって、体積含水率の測定結果からも 地下水は深部(深度195cmの箇所)で形成され、その後は 地表面に向かって上昇していくと考えられる。

図- 13はB3地点の複数深度での土中水の圧力の観測 結果から求めた全水頭値(地下水面の位置にほぼ相当)であ る。図- 13に示すように深度172cmと60cmで計測され た水面はほぼ一致し、両箇所は同じ飽和帯にあると解釈で きる。一方、図- 13からは30cmにおける水面は深いと ころとは別のものであると捉えられ、ごく表層付近におい て一時的に飽和流が発生していることが考えられる。この 理由としては、深度30cmの個所は間隙比の大きい腐植土 層からシルト混じりの土砂層へ変わる深度付近であり、前 者で透水係数が大きく(1.41×10-2cm/s)、後者で小さく

(2.60×10-3cm/s)なったため、その深度付近で飽和流が 発生しやすい状況にあると考えられる。一方、図- 9に示 したようにB1地点の浅部においては正圧が観測されてい ないことを勘案すると、地表付近の飽和流の形成は降雨 強度や土の透水係数の変化などの地盤条件によって、発生 する場合と、しない場合があると考えられる。なお、正圧 が観測されなかったB1地点の表層付近の透水係数はGL- 10cmで3.31×10-3cm/s、GL-30cmで2.72×10-3cm/sで ある。

これらの結果から、自然砂質土斜面における地下水形成 機構は次のように要約できる。

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EO EO EO 30cm

172cm 60cm

図- 13 観測結果による深度別の水面形状

・ 降雨は基盤層(比較的透水性の小さい層)付近まで浸 透しそこで地下水が形成され、降雨の継続と共に地 下水面が上昇していく。

・ 一方、表層付近においては降雨条件や地盤条件に よって、一時的に飽和流が発生する場所がある。

(3) 表層土内の地下水形成に寄与しない無効雨量と森林斜 面の保水能力の簡易推定法

1) 降雨量と浸透深さ

これまでは、浸透した雨水が基盤層付近まで達した後、

地下水が形成されることを説明した。しかし、すべての降 雨イベントにおいて浸透した雨水が基盤層付近まで到達す るわけではない。

図 - 14はB3地 点 の 観 測 結 果 を 用 い て 降 雨 量 と 浸 透 深さの関係を整理したものである。ここでの連続雨量は ADR・TDRが反応する時刻までの降雨をその深度まで浸 透するために必要な降雨量として求めたものである。なお、

浸透深さは反応した水分計の設置深度とした。

深度10cmと30cmの水分計設置以前のデータであるた め、図- 14中の初期体積含水率(θav)には4深度(50cm、 100cm、155cm、195cm)における降雨直前の計測結果の 平均値を用いた。また、図中の点線はθavが同じ値の時 の降雨量と浸透深さの関係を概念的に描いたものである。

図- 14に示すように、深度が大きくなるほど、その深 度まで浸透するために必要な降雨量が多くなることがわか る。また、初期体積含水率によって同じ深度まで雨水が浸 透するために必要な雨量は異なり、また、同じ雨量に対し ても初期体積含水率が大きいほど、深度の深いところまで 浸透することがわかる。

このように、降雨量や地盤内の初期水分量(飽和度)に よって浸透する深さが異なる現象は、斜面の保水機能によ るものであり、浸透した雨水は一部不飽和帯へ供給されな がら浸透しているためである。また、飽和度が高いほど浸 透しやすいことは不飽和帯へ供給される量が少なくなるこ と、飽和度が高くなると不飽和透水係数が大きくなること などを反映したものと考えられる。

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図- 14 降雨量~浸透深さ関係(B3 地点の実測結果)

(8)

2) 初期の体積含水率と地下水面形成の関係

先述したように、雨水の浸透深さが降雨前の土中の水分 量によって支配されるということから、浸透した水が基盤 付近まで到達し、そこで地下水が形成される現象には累積 雨量だけではなく、初期の体積含水率の影響も大きいこと が予測できる。それを検討するために地下水が形成された 時と、そうでない時の降雨量と初期体積含水率の関係を整 理した(図- 15)。ここで用いた連続雨量は降り始めから B3地点の深度172cmのテンシオメータの計測結果が正圧 を示す時刻までの降雨量である。また、体積含水率は図-

14と同様に深度50cm~195cmの4深度における降雨直 前の計測結果の平均値である。なお、水面形成なしのデー タは体積含水率が異なる時期の連続雨量が20mm以上の 降雨を対象にした。

図- 15に示すように降雨量が多くても初期体積含水率 が小さい時は地下水が形成されないのに対して、初期体積 含水率が高い時は少ない降雨量でも地下水が形成されてい る。このことから、地下水形成は当日雨量だけではなく、

初期体積含水率すなわち先行降雨によっても影響されるこ とがわかる。先行降雨が多い場合、新たに降ってきた雨水 のうち、不飽和層に滞留(供給)する量が少なくなり、地下 水位が形成されやすく、危険性をもたらすと考えられる。

すなわち、不飽和層に滞留する降雨は直接地下水位形成 に関与しない無効雨量であり、この量を超えた降雨が地 下水形成をもたらすと考えられる。また、この無効雨量は 斜面の保水能力を示す指標とも考えられる。例えば、図-

15で見ると、初期の水分量が少ない時は約70mmの降雨 でも表層土内に地下水面が形成されないため、飽和側方流 としての流出がなく、保水能力が高いことに対し、初期の 水分量が多い時は約30mmの降雨時にも地下水面が形成 され、新たに保水できる能力が低いことになる。したがっ て、森林斜面の保水能力は、通常その斜面がどの程度の水 分量を保持し、また、地下水面が形成されて飽和側方流と して流出するまでに水分量がどの程度上昇しているかを把

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握することで定量的に評価することが可能になると考えら れる。

3) 森林斜面が保持する水分量の簡易推定法

既述した無効雨量の概念を用いて、降雨前の水分量と地 下水面が形成されて飽和側方流として流出するまでに上昇 する水分量から森林斜面が保持できる水の量を簡易的に推 定する試みを行う。

最初に、観測している地盤において地下水面が形成され るまでにどの程度の水分量を保持できるかを検討する。図

- 16は2006年7月1日~7月2日の降雨時に観測され た土中水の圧力と体積含水率の深度方向の分布である。こ こで用いたデータは降雨前(7月1日1時)、深度195cm・ 100cm・30cm・50cmのそれぞれの箇所で飽和したと考え られる時刻(7月1日9時・16時と7月2日7時・8時)、

降雨停止直前(7月2日12時)、降雨停止して6時間後(7 月2日18時)のデータである。図- 12ですでに説明した ように、ここでも7月1日9時に一番深い箇所が飽和し、

その後飽和した領域が地表に向かって上昇している様子 がわかる。表層付近については7月2日7時に深度30cm の箇所で先に飽和し、直後に50cmの箇所で飽和してい る。また、1.95mの箇所で飽和した時の上層部の平均体積 含 水 率 は 約29%(0.1m-約26%、0.3m-約22%、0.5m-約 30%、1.0m-約39%)であり、飽和度で約70%である。降 雨前の平均体積含水率は約26%(飽和度で約63%)であり、

飽和側方流として流出するまでにこの斜面において新たに

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図- 16 7 月 1 日~ 7 月 2 日降雨時の圧力および体積含水 率の分布

(9)

保持した水の量は体積含水率で約3%(飽和度で約7%)で ある。

地下水面形成の関与からみれば、7月1日の降雨イベン トにおける無効雨量は、降雨前の地盤内の水分量が体積含 水率で約29%、飽和度で約70%まで上昇する降雨量であ る。以下では、この概念を用いて降雨が浸透する際に保持 される水の量を簡易的に推定してみる。

まず地表に平行な基盤面を有する二次元斜面における雨 水浸透を考える場合、降雨による供給量Δ

β

=

qr r t S cos (1)

ここで、r:時間雨量、S:斜面長、β:斜面勾配 次に、雨水が浸透する際に初期体積含水率θozの不飽和 帯で、含水率がθfzまで増加する層厚の増分Δzは、雨水 が浸透する時に上昇する水分量から次式より計算すること ができる。

B Q

Q ) cos

( − 0

= ∆

S

z q

z fz

r (2)

ここで、θoz:深度zにおける初期体積含水率、θfz:雨水 が浸透した時に深度zにおける体積含水率

式(1)と(2)より、次式が得られる。

) ( fz 0z

r t z

Q Q −

∆ =

∆ (3)

式(3)は以下のように表すことができる。

) ( fz 0z

r dt dz

Q Q −

= (4)

=

T z

z

fz dz

rdt

0 0

0 )

(Q Q (5)

したがって、rT、θ0z、θfzが与えられたとき、逐次計 算によって浸透する深度zを算定できる。あるいは、θ0z、 θfz、zが分かっている時は地下水が形成されるまでに表層 土内に保持される降雨量を推定することが可能である。た だし、z<H(層厚)である。

図- 17は地盤が均一な性質を有し、体積含水率が地盤 内に一様に分布していると仮定した時の降雨量と浸透深さ

の関係である。θfzは先述した地下水形成時の層全体の体 積含水率の平均値である29%を用いた。図- 17に示すよ うに降雨量と浸透深さは直線的関係を示し、初期の体積含 水率θavが小さい時は新たに保持する水の量は多いが、降 雨前の地盤内の水分量が多い時は新たに保持できる水の 量は少ない。7月1日の降雨の場合、初期の体積含水率が 26%であり、この場合に層厚2mの地盤内に保持される 降雨量は60mmである。実際地下水面が形成される(7月 1日8時)までの降雨量は約57mm(図- 12)であり、簡易 推定結果(図- 17)とおおむね一致する。

したがって、対象とする森林斜面の常時の飽和度分布を 調査し、飽和側方流として流出するまでにその森林土壌が 保持できる水の量を把握することによって、斜面が新たに 保持できる水の量を簡易的に推定することが可能であると 考える。

また、斜面防災の観点から考えると、この無効雨量の概 念を利用することで、降った雨が地下水を形成して表層 崩壊や土石流を引き起こす危険性をもたらすものであるか 否かを簡易的に推定できるほか、地盤の飽和度の分布を調 査することによって表層崩壊が発生しやすい箇所かどうか を簡易的に推測することが可能である。例えば図- 17で、

θavが20%以下だとすると、層厚2.0mまで浸透するため に要する降雨量は180mmを超え、連続雨量180mmを超 えない限り、表層土内に地下水の形成はなく、崩壊の危険 性は低いことがわかる。

(4) 原位置斜面の表層土内における地下水挙動

表層崩壊が発生した場所は累積雨量だけではなく降雨強 度が大きいところに分布するという調査結果が得られてい る6),10)。このことから、表層崩壊を予測する上では降雨強 度と地下水位上昇速度との関係を把握しておく必要がある ことがわかる。また、通行止めや避難勧告の発動ならびに それらの解除にあたっての統一的な基準がない現状を考え ると、表層土内の地下水位の変動特性を把握することが一 つの有効な手段とも考えられる。したがって、ここでは観 測結果を用いて表層土内の地下水位の上昇・低下特性の検 討を試みた。

図- 18はB3地点で2006年の観測期間中の各降雨イベ ントで形成された地下水位の上昇・低下状況を整理したも のである。ここでの地下水位はテンシオメータより計測さ れた圧力水頭を全水頭に換算したものである。図- 18に 示すように地下水位上昇過程の近似直線からそれぞれの降 雨イベントにおける地下水位の上昇速度を求めることがで きる。また、平均降雨強度は図- 19に示すように、累積 雨量曲線に示される平均降雨速度から求めた。図- 18と 図- 19より求めた地下水位上昇速度と降雨強度の関係を 示したのが図- 20である。図- 20に示すように地下水位

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ᶐㅘᷓߐޓEO

ǰCX ǰCX ǰCX ǰCX ǰCX ǰCX ǰCX 図- 17 初期の体積含水率と保持される水の量との関係

(10)

の上昇速度は降雨強度に比例して変動し、この例では地下 水位は降雨強度の8.3倍の速度で上昇することがわかる。

図- 21は2001年6月19日の降雨時に観測されたB2、 B3、A3の箇所における地下水挙動である。なお、既述の ように測線Aは等高線が平行で凹凸の少ない斜面にあり、

集水効果が小さいほか、常時の飽和度が低いため地下水形 成はほとんどなかったが、この降雨時のみA3地点で地下 水形成が確認されている11

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図- 19 平均降雨強度の算定例

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図- 18 2006 年観測期間中の地下水挙動

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図- 20 降雨強度と地下水位上昇速度との関係

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࿑䋭㪉㪈㩷 ฦ᷹ⷰ࿾ὐ䈮䈍䈔䉎࿾ਅ᳓䈱᜼േ㩷 図- 21 各観測地点における地下水の挙動 図- 21の水位上昇過程においては、斜面の下流側に位 置するB3とA3の箇所での上昇速度はほぼ同じであるが、

測線Bの中間付近に位置するB2地点での上昇速度は小さ いことがわかる。その理由の一つとして、斜面の下流側ほ ど集水効果があるためと考えられる。次に、低下過程にお いては斜面の上流側のB2地点で指数関数の形態で低下し ていることに対し、A3とB3地点では3次曲線の形態で 低下している。この理由として、下流側では降雨が停止し た後も、上流側で浸透した水の流入があり、すぐには水位 低下のしにくい状況にあることが考えられる。

既往の研究12によれば、降雨停止後にその雨の影響が 低減する過程を予測する手法として半減期の概念が提案さ れ、この手法での降雨の影響低減は指数関数的である。し かし、B3地点のように、降雨停止後すぐに地下水が低下 しない場合もあり、通行止め等の解除基準の検討の際には、

地下水位低下特性について今後さらに検討していく必要が ある。

(11)

4. おわりに

自然砂質土斜面における雨水の浸透・流出特性の把握を 目的として原位置観測を実施した結果、下記のことが明ら かになった。

1) 雨水の浸透・流出特性は地形・地盤・降雨の諸条件 によって異なるが、土中水の圧力と水分量を詳細か つ連続的に観測して精緻な分析を行った結果、複雑 な挙動を支配するパラメーターをおおむね捉えるこ とができた。

2) このことから、ごく表層付近の土中水の圧力および 水分量の計測技術が信頼性の高いものであることが 確認できた。

3) 自然斜面の不安定化の直接的要因となる地下水面形 成のメカニズムが明らかになり、これに関する無効 降雨の概念を提示するとともに、その評価の重要性 も示した。また、無効雨量の概念を用いて森林斜面 の保水機能を簡易的に評価する方法を提案した。

4) 研究対象の自然砂質土斜面では、降雨は基盤層(比 較的透水性の小さい層)付近まで浸透してそこで地 下水が形成され、降雨の継続と共に地下水面が上昇 していくことを確認した。ただし、降雨条件や地盤 条件によっては、ごく表層付近において一時的に飽 和流が発生する場所があると考えられる。

5) 原位置斜面における降雨強度と地下水位上昇速度と の関係や地下水位低下特性を明らかにすることがで きた。ただし、降雨時に形成される地下水位の上昇・

下降特性は地点ごとに複雑な挙動を示すため、斜面 防災対策に関連して、通行止めや避難勧告の発動な らびにそれらの解除に係る統一的な基準の策定には 今後一層の検討が必要である。

謝辞:本原位置観測の実施に際し、広島大学施設部に多く のご協力を頂いた。また、広島大学大学院工学研究科地盤 工学研究室の皆様に計測器の設置、維持管理やデータ回収 などに関して多くのご支援、ご協力を頂いた。以上の皆様 に深く感謝の意を表します。

参考文献

1) 蔵冶光一郎、保屋野初子編:緑のダム-森林・河川・水循環・

防災、築地書館、pp.1-55、2004.

2) 大西有三、西垣誠、西野賢治:地盤浸透の新しい準三次元解 析手法に関する基礎的研究、土木学会論文集、No.424/Ⅲ -14、pp.85-94、1990.

3) 赤井浩一、大西有三、西垣誠:有限要素法による飽和―不 飽 和 浸 透 流 解 析、 土 木 学 会 論 文 集、 第264号、pp.87-96、 1977.

4) 西 垣 誠、 中 屋 眞 司、 河 野 伊 一 郎: 前 処 理 付 き 共 役 勾 配

(SSOR-PCG)法 を 用 い た 飽 和・ 不 飽 和 多 孔 質 媒 体 中 の 三 次 元 浸 透 解 析 法、 土 木 学 会 論 文 集、No.448/ Ⅲ-19, pp.101-110、1992.

5) 産業技術総合研究所 地質調査総合センター:20万分の1 地質図幅集(画像)、CD Rom版、2002.

6) 盤工学会緊急調査団:平成11年の広島県豪雨災害調査報告 書、pp.9-51、1999.

7) 榎明潔:降雨時の斜面表層崩壊の発生機構の検討、豪雨時の 斜面崩壊のメカニズムと予測に関する論文集、地盤工学会四 国支部、pp.99-110、2001.

8) 池田俊雄:斜面崩壊の原因とそのメカニズム、基礎工、2月号、

pp.2-8、1987.

9) 榎明潔、池田勇司、A.A.Kokubu、吉川太洋:崩壊メカニズ ムの推定、地盤工学会緊急調査団 平成11年の広島県豪雨 災害調査報告書、pp.167-171、2000.

10)福岡捷二、渡辺明英:6月29日集中豪雨による広島県土砂 災害、土木学会誌、Vol.84 Oct、pp54-58、1999.

11) Thi Ha、佐々木康:まさ土斜面における土中水分の原位置

観測-その1-、国土交通省中国地方整備局委託「中国地 方における土砂災害特性に関する研究」報告書、pp29-53、 2005.

12)矢野勝太郎:前期降雨の改良による土石流に警戒・避難基 準 雨 量 設 定 手 法 の 研 究、 新 砂 防、Vol.43 No.4、pp.3-13、 1990.

参照

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