ERAプロジェクト調査報告
December 2011
バイオテクノロジー研究部会
特定非営利活動法人
国際生命科学研究機構
International Life Sciences Institute Japan
International Life Sciences Institute, ILSI は、1978 年にアメリカで設立された非営利の 団体です。
ILSI は、科学的な視点で、健康・栄養・安全・環境に関わる問題の解決および正しい理 解を目指すとともに、今後発生する恐れのある問題を事前に予測して対応していくなど、
活発な活動を行っています。現在、世界中の 400 社以上の企業が会員となって、その活 動を支えています。
多くの人々にとって重大な関心事であるこれらの問題の解決には、しっかりとした科学 的アプローチが不可欠です。ILSI はこれらに関連する科学研究を行い、あるいは支援し、
その成果を会合や出版物を通じて公表しています。そしてその活動の内容は世界の各方 面から高く評価されています。
また、ILSI は、非政府機関(NGO) の一つとして、世界保健機関(WHO) とも密接な 関係にあり、国連食糧農業機関(FAO) に対しては特別アドバイザーの立場にあります。
アメリカ、ヨーロッパをはじめ各国で、国際協調を目指した政策を決定する際には、科 学的データの提供者としても国際的に高い信頼を得ています。
特定非営利活動法人国際生命科学研究機構(ILSI Japan) は、ILSI の日本支部として 1981 年に設立されました。ILSI の一員として世界的な活動の一翼を担うとともに、日 本独自の問題にも積極的に取り組んでいます。
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はじめに
ILSI Japan は 1988 年乳酸菌の遺伝子組換えを検討していた厚生省官民共同プロジェクト「バイ オテクノロジー利用乳酸菌の安全性に関する基礎的研究」(粟飯原班)の報告会として 「新技術利 用発酵食品開発の基礎と社会的評価」 国際セミナーを開催しました。その成果を生かす形でバイオ テクノロジー研究委員会が成立したのは翌年 1989 年です。爾来、1993 年の 「バイオ食品―社会的 受容に向けて―」 国際シンポジウム、1996 年のバイオ討論会「歩き始めたバイオ食品」などのシン ポジウム開催、「バイオ食品の社会的受容の達成をめざして」、「遺伝子組換え食品を理解する」、「遺 伝子組換え食品Q&A」の発行などの活動を重ねてきました。
一方、第 1 回コーデックス・バイオテクノロジー応用食品特別部会は千葉市幕張で 2000 年 3 月 に行われましたが、その前日には FAO/WHO の共催、厚生省ならびに ILSI 後援による「バイオテ クノロジーと食品安全シンポジウム」が行われました。ILSI Japan バイオ部会は事実上の事務局と してこのシンポジウムを運営しました。また、特別部会が終了する 2007 年までに、ワークショッ プ「生きた微生物を含む食品への遺伝子組換え技術の応用」を開催し、その後の「タンパク質のア レルギー誘発性に関するワークショップ」、「遺伝子組換え作物検知技術国際ワークショップ」、「遺 伝子組換えによって栄養改善された食品および飼料の栄養ならびに安全性評価ワークショップ」、
「遺伝子組換え植物の生物多様性影響評価に関する国際ワークショップ」の 4 つの国際ワークショッ プ開催を通じ、内外の規格基準の策定の時期に関連の科学情報を提供してきました。その後も、
ISO/TC32 の開催に合わせてポスト ISO シンポジウムの開催、「遺伝子組換え食品を理解するⅡ」
の発行など情報提供に努めています。
さて、遺伝子組換え植物環境への安全性の国際的な規制は、生物多様性条約カルタヘナ議定書に より、国内規制はこれに対応したカルタヘナ法(略称)により行われていますが、食品としての安 全性に比較して科学的情報が少ないこともあり、国による考え方に多くの差があります。具体的な 情報は OECD のコンセンサスドキュメントなどにまとめられてきていますが、まだまだ検討する ことが多く残っています。ILSI 本部では遺伝子組換え食品の安全性や検知法については IFBiC が活 動していましたが、1 昨年環境リスクアセスメントについて活動を行う CERA プロジェクトがスター トしました。また、各国・地域では昨今長期にわたる研究のまとめが行われるようになりました。
学会でも ISBGMO や IOBC/WPRS などの国際学会での議論も活発になってきました。そこで、
ILSI Japan バイオテクノロジー研究会でも、これらの情報を調査・研究し専門家の先生方との意見 の交換を行い、この分野の科学情報をまとめていくことに取り組みました。まず、最近まで OECD の部会の副議長を務め、現在 ILSI CERA の諮問会議委員の林健一先生のご指導のもと情報集約を 行っていき「遺伝子組換え食品を理解するⅢ(環境編)」としてまとめたいと思っています。その 過程で多くの先生方にも加わっていただき、学会とも共同で勉強会の場をつくっていけたら良いか なと考えております。
一般的に安全性に関しては、懸念の抽出⇒実証試験⇒結論という流れが必要ですが、メディア等 では最終の結論が懸念の否定の場合報道されないことが多く、懸念のみが残る場合があります。科 学情報の収集は主に結論が主体となり、古い懸念がどうなったかという内容になりますが、これを しっかり固めていくことが必要と思います。懸念は懸念として集約していく必要はありますが、ま だ結論の出ていない懸念の実証試験に乗り出すかどうかは費用等の問題もあり私どもとしても限定
的な対応しかできません。しかしその分、世界の相応しい組織の対応を注目し、情報を集めていき たいと思います。
バイオテクノロジー研究部会長 橋本 昭栄
iv
ERA プロジェクト調査報告
2011.12 バイオテクノロジー研究部会
第 1 回の情報の内容ですが、全 10 報の紹介と抄録作成はすべて林健一先生です。
最初の報告は EU 基金の 2001 年から 2010 年までの 2 億ユーロの報告で、情報集約の最初にふさ わしい過去の研究のまとめです。EU は GM モラトリアムの間も巨額の研究資金で GM の安全性な どの研究を続け、「GMO が環境および食品・飼料の安全性に関して、慣行農法・有機農法とくらべ より高いリスクを有するという科学的証拠は存在しない」と結論付けています。結論が出ているよ うな内容ですが、各論の検討などでこの情報集約をはじめるには最適の報告です。
第 2 報も Nature でピアレビューされた報告のまとめでこれもスタートに相応しいものです。
あと、日本の報告、ILSI CERA の報告、OECD のコンセンサスドキュメントと役者のそろい踏 みです。
また、最新の議論は国際学会で戦わせられますが、6 報目と 7 報目は GMO バイオセーフティ国 際シンポジウム(ISBGMO、ウェリントン、2008 年 11 月)での発表、8 報~ 10 報はピアレビュー された論文誌掲載の報文です。(第 9 報は林木の関係)
目次
No. 1 EU 基金による 10 年間(2001-2010)の GMO 研究
A decade of EU-funded GMO research(2001-2010) ……… 1 No. 2 Peer-review された文献調査に基づく商業栽培 GM 作物の正の
インパクトの例証
Peer-reviewed surveys indicate positive impact of
commercialized GMcrops ……… 2 No. 3 GM ダイズ(G.max)と野生ダイズ(G.soja)との間の
日本の圃場条件における交雑
Hybridization between GM soybean(Glycine max (L.)Merr.)
and wild soybean(Glycine soja Sieb.et Zucc.)under field
conditions in Japan ……… 3 No. 4 CP 4 EPSPS タンパク質の環境安全性に伴う総合的レビュー
A review of the environmental safety of the CP 4 EPSPS
protein ……… 4 No. 5 モダンバイオテクノロジー由来の植物の分子生物学的特性評価
に関するコンセンサスドキュメント
Consensus document on molecular characterisation of
plants derived from modern biotechnology ……… 5 No. 6 GM 植物の土壌環境に対する有意差なしのインパクトの例証
Current genetically modified plants appear to have no significant impact on the soil environment
-will this be true for future transgenic plants? ……… 6 No. 7 ウイルス外被タンパク質発現 GM 植物において組換えにより
新しいウイルスが発生するリスクの検証
Evaluation of the risk that recombination in transgenic plants expressing a viral coat protein gene would
lead to the emergence of novel viruses ……… 7 No. 8 作物栄養成分の自然変異と GM 特性導入のインパクト
Natural variation in crop composition and the impact
of transgenesis ……… 8 No. 9 GM 樹木の 20 年間にわたる環境安全性の実証
The 20-year environmental safety record of GM trees ……… 9 No.10 二重除草剤耐性西洋ナタネ雑種の圃場における頻度と特性
In-field frequencies and characteristics of oilseed rape with
double herbicide resistance……… 10
No. 1
EU 基金による 10 年間(2001-2010)の GMO 研究
A decade of EU-funded GMO research(2001-2010)
Directorate-General for Research and Innovation, European Commission(EC)
2010
2001 年に欧州委員会(European Commission, EC)は、EU 基金で実施された GMO の安全性に 関する過去 15 年間の研究(7000 万ユーロ、81 プロジェクト、400 以上の研究室)を総括する報告 書を出版している http://ec.europa.eu/research/quality-of-life/gmo/)。これに続いて 2010 年に、
EC は 2001-2010 年の GMO 研究( 2 億ユーロ、50 プロジェクト、400 以上の研究室)の本総括報 告書を出版した。対象研究分野は、GMO の環境への影響、GMO と食品としての安全性、バイオ燃 料及びバイオ材料としての GMO、リスク評価とリスク管理などを含む。プロジェクトごとに、背景・
目的、研究手法、主要成果、結論が記述されており、これらは関係分野の活動に対する科学的支持 となっている(約 20 プロジェクトは、個別に続報の予定)。
以上の 25 年間(四半世紀)、 2 億 7000 万ユーロ、131 プロジェクト、500 以上の研究グループの 成果を総括して、次の最終結論が述べられている。「GMO が環境及び食品・飼料の安全性に関して、
慣行的手法による農産物及び有機農産物と比較して、より高いリスクを有するという科学的証拠は 存在していない。」この EC による最近の結論は、科学的価値が高く、世界的インパクトを与える ものとして注目されている。本報告書全文は EC の下記リンク先から入手できる。
http://ec.europa.eu/research/biosociety/pdf/a_decade_of_eu-funded_gmo_research.pdf
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No. 2
Peer-review された文献調査に基づく商業栽培 GM 作物の 正のインパクトの例証
Peer-reviewed surveys indicate positive impact of commercialized GM crops
Carpenter JE
Nature Biotechnology 28: 319-321, 2010
ネイチャー・バイオテクノロジー誌の専門調査員が、Peer-review された文献 49 編を精査して、
商業栽培 GM 作物の農家レベルにおける収量及び経済的収支に関する総括を行った。対象は、
12 ヶ国( 4 先進国、 8 途上国)における、 3 作物(トウモロコシ、ダイズ、ワタ)、 2 特性(除 草剤耐性、害虫抵抗性)。
収量では、168 例中 124 例で増収(慣行法と比較)、31 例で差なく、13 例で減収であった。形質 ごとの増収率は途上国(16-85%)が先進国( 0 -7%)より顕著に高かった。これらの遺伝子組換 え技術は、増収よりも雑草害や虫害の軽減などのペスト管理による持続的な収量安定への恩恵が大 きい。増収例/全体例では、インド(35 / 43)、南アフリカ(20 / 27)、中国(15 / 15)が高い。
経済的収支(GM と慣行との差)では、98 例中 71 例が増収、11 例が差なし、16 例が減収であった。
特性ごとにみると、除草剤耐性作物では 17 例中 12 例が増収であった。害虫抵抗性作物では、80 例 中 59 例が増収であり、特に南アフリカ、中国における Bt ワタによる増収が大きい。この他に正の インパクトとしては、環境面(不耕起栽培)、保健面(人体への安全性向上、農薬使用量の減少)
などがある。この調査は、環境、ペスト、農作業、社会・組織面など、多様な分野における総括と して、全体的な正のインパクトを明示したものである。
今後、より多くの国、スタック品種、途上国向けに開発中の GM 作物(キャッサバ、カウピー、
イネ)などの結果を加えての総括の必要性が付言されている。
No. 3
GM ダイズ(G.max )と野生ダイズ(G.soja )との間の日本の 圃場条件における交雑
Hybridization between GM soybean(Glycine max (L.)Merr.)
and wild soybean (Glycine soja Sieb.et Zucc.) under field conditions in Japan
Mizuguti A, Ohigashi K, Yoshimura Y, Kaga A, Kuroda Y, Matsuo K Environ. Biosafety Res. 9 : 13-23, 2010
独立行政法人農業環境技術研究所(農環研)及び農業生物資源研究所の研究者が、2006-2007 年 の共同研究で GM ダイズと野生ダイズ(ツルマメ)との間の圃場条件下での交雑率を調査した。グ リフォサート耐性 GM ダイズ 5 品種と農環研周辺に自生する野生ダイズ 1 集団の種子を、時間的
(開花期)及び空間的(近接程度)に多様な組合せで播種・栽培し、両者の交雑率を調査した。本 実験で、野生ダイズと開花期の重複が見られた GM ダイズは 2 品種のみで、交雑率は混植区(両 種がからみついた条件)で、 0 .097%(25,741 個体中 25 個体)、 0 .039%(25,741 個体中 10 個体)
であった。一方、畦間距離 2 、 4 、 6 m の区からの交雑種の合計は 1 個体であった。
本研究では、交雑率の変動の約 50%は品種、隔離距離、緩衝植物の有無の 3 要因で説明できる。
残り 50%は訪花昆虫、開花期の微妙な差異、開花数などの関与が推察された。栽培ダイズと野生ダ イズとの間の自然交雑率が極めて低く、また 2 次的ジーンフローも検出されなかったことが既に 報告されている(Kuroda et al., 20081, 20102)。本研究は、時間的及び空間的隔離の調節が、交雑 率低下に有効であることを統計的に立証したことに意義がある。これらの研究結果は、日本におけ る GM ダイズと野生ダイズとの間の交雑に関するリスク評価の公正な推進に貢献するものとして期 待されている。
1 . Kuroda, Y., Kaga, A., Tomooka, N., Vaughan, D.(2008)Crop Science, 48, 1071-1079.
2 . Kuroda, Y., Kaga, A., Tomooka, N., Vaughan, D.(2010)Molecular Ecology, 19, 2346-2360.
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No. 4
CP 4 EPSPS タンパク質の環境安全性に伴う総合的レビュー
A review of the environmental safety of the CP 4 EPSPS protein Center for Environmental Risk Assessment(CERA),
ILSI Research Foundation CERA Monograph, 2010
国際生命科学研究機構(ILSI・RF)により 2009 年に設立された CERA は、その活動分野の一つ として、環境リスク評価に関する科学的支援となる論文(モノグラフ)を刊行している。本論文は、
除草剤グリフォサート耐性タンパク質、CP 4 EPSPS に関する広範囲な科学的論文・資料(97 編)
に基づいて、その安全性を例証したものである。内容はグリフォサート耐性 GM 作物の 13 ヶ国に おける認可の状況、CP 4 EPSPS タンパク質の由来と性質、グリフォサート耐性の作用機作、植物 中での発現、環境中における態様と存続性、CP 4 EPSPS 発現によるグリフォサート耐性以外の表 現型、雑草性、伝播性、他生物への影響などの多分野にわたっている。また付表として、植物体の 部位ごとの発現量( 5 作物・6 表)及び植物体主要栄養素( 6 作物・17 表)がある。以上に基づき、
CP 4 EPSPS タンパク質は環境への残留・拡散の増加、ジーンフローに影響する生殖生理の変更、
環境中の他生物への悪影響などに関係するものではないと結論している。本論文は国際的な懸案事 項である未承認 GM 種子の微量混入(Low Level Presence : LLP)の許容度に関して、科学的尺度 を与えるものとしても注目され、OECD 作業部会でも roomdocument として配布された。
本論文の索引:http://cera-gmc.org/docs/cera_publications/pub_01_2010.pdf
No. 5
モダンバイオテクノロジー由来の植物の分子生物学的特性評価に関する コンセンサスドキュメント
Consensus document on molecular characterisation of plants derived from modern biotechnology
OECD 環境局共同プロジェクト OECD コンセンサスドキュメント(CD)
(バイテク規制的監督調和作業グループ(WG)
シリーズ No.51 /新規食品・飼料安全性タスクフォース(TF)シリーズ No.22), 2010
Molecular Characterisation(MC:分子生物学的特性評価)は、GM 植物の環境/食品・飼料の 安全性/リスク評価が包含する科学的関連分野の一つの構成要素である。このコンセンサスドキュ メント(CD)は、MC の適用に係る科学的基盤の記述を目的として、カナダがリード国となり、
7 年越しの合同プロジェクトにより作成された。内容は MC の一般的認識として、以下の項目が 記述されている。組換え手法、挿入 DNA、挿入部位、作出物質、遺伝様式、遺伝的安定性などで ある。また、PCR、サザンブロット、ウエスタンブロットなどの検出手法の適用についても記述さ れている。これらは今日の国際的規制制度では既に周知・実践されているものが多い。
しかし、以下の特徴的記述がある。ⅰ)この CD は今日の最も適正な科学的手順及び技術に由来 する経験に基づいている、ⅱ)新しい Profiling 手法(Transcriptomics、Proteomics など)による リスク/安全性評価は、未確定的(有効性・確実性)であり、各国も未採用である、ⅲ)遺伝的改 変の安定性は、遺伝型解析及び/又は(and / or)栽培における発現特性に基づく表現型により確 認できる(and とする過剰規制が回避された)、ⅳ)T-DNA 挿入部位の近傍のゲノム DNA 配列の 解析は、非意図的影響の考察の一助となるが、対照とすべき全体的な遺伝子機能が未知のため、リ スク/安全性評価に対する意義は不確定である。この CD は MC における各国(日本を含む)の客 観的位置づけ、改善点に関する示唆を与えるものと考えられる。
(索引:www.oecd.org/dataoecd/16/29/46815346.pdf)
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No. 6
GM 植物の土壌環境に対する有意差なしのインパクトの例証
Current genetically modified plants appear to have no significant impact on the soil environment
-will this be true for future transgenic plants?
Stotzky G
SYMPOSIUM HANDBOOK,
10th International Symposium on the Biosafety of Genetically Modified Organisms:30-32, 2008
第 10 回 GMO バイオセーフティ国際シンポジウム(ISBGMO、ウェリントン・ニュージーランド、
2008 年 11 月)において、米国の微生物研究者が Bt 植物の土壌環境に対する影響について、統括的 な報告を行った。Bt 植物(根および残渣)から浸出する Bt 毒素(Cry 1 Ab、Cry 3 A、Cry 3 Bb)は、
土壌中の粘土及び腐植酸によって吸着され、約 1 年間その形態及び機能を維持している。吸着性 は土壌の物理性(通気・嫌気、乾燥・湿潤など)による差は少なく、また Bt 毒素の縦浸透も少ない。
土壌中の細菌、糸状菌、藻類の微生物的活性に対するこれら毒素の影響は検出されていない。
Bt 毒素は GM トウモロコシ(Cry 1 Ab 及び Cry 3 Bb)、GM バレイショ(Cry 3 A)、GM イネ
(Cry 1 Ab)の根から浸出するが、GM ナタネ、GM ワタ、GM タバコの根からの浸出は検出され ていない。根( 6 ヶ月)及び残渣( 3 年)からの浸出物中の Cry 1 Ab は、土耕あるいは水耕によっ ても、ニンジン、カブ、非 Bt トウモロコシによって吸収されなかった。Cry 1 Ab(根浸出物及び 残渣)は、ミミズ、線虫、原生生物、バクテリア、糸状菌の数及び酵素活性において、 4 年間にわ たり、対照非 Bt トウモロコシと有意差を生じていない。以上から、Bt 毒素の土壌環境へのインパ クトは、対照区と有意差はないと結論している。
上述国際シンポ全体のレビュー記事(Environ. Biosafety Res. 8 ( 3 ) :161-181(2009))の中で、本 報告は 163 頁に掲載されている。
No. 7
ウイルス外被タンパク質発現 GM 植物において組換えにより新しい ウイルスが発生するリスクの検証
Evaluation of the risk that recombination in transgenic plants expressing a viral coat protein gene would lead to the
emergence of novel viruses
Tepfer M, Friscina A, Morroni M, Tirrturo C, Chiappetta L, Thompson J, Jacquemond M
SYMPOSIUM HANDBOOK,
10th International Symposium on the Biosafety of Genetically Modified Organisms:46, 2008
既報の第 10 回 ISBGMO において、フランスのウイルス研究者らのグループが、20 年来の論争に 結着をつけた。論点は、「GM 植物に導入されたウイルス由来の遺伝子とその植物に感染するウイ ルスとの間で組換え(recombination)が起り、新しい組換えウイルスが発生するか」である。研究 グループはこの論点をリスク仮説として設定し、二つの試験によって仮説の正否を調べた。
試験 1 :キュウリモザイクウイルス(CMV)の外被タンパク質を発現している GM 植物に、異な る CMV 系統あるいは類縁のトマトアスパーミィウウイルス(TAV)を感染させる。
試験 2 :非 GM 植物に、CMV 両系統あるいは CMV 及び TAV を感染させる。
その結果、「GM 植物に形成される組換えウイルス集団は、非 GM 植物に形成されるウイルス集 団と同等(equivalent)であり、新しいウイルスは検出されなかった」との成果が得られ、リスク 仮説は否定された。著名なウイルス研究者である筆頭の Tepfer 博士は、「我々は 10 年かかってこ の結論を獲得した」と述懐している。この結論は近年のリングスポットウイルス抵抗性 GM パパイ ヤにも適用しうるものである。さらに同様な外被タンパク質遺伝子を利用したウイルス抵抗性 GM 植物の安全性を支持する研究成果として、国際的に大きな意義があると考えられる。
本報告は、Environ. Biosafety Res. 8 ( 3 ) :P.168 に掲載されている。
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No. 8
作物栄養成分の自然変異と GM 特性導入のインパクト
Natural variation in crop composition and the impact oftransgenesis
Harrigan GG, Lundry D, Drury S, Berman K, Riordan SG,Nemeth MA, Ridley WP, Glenn KC
Nature Biotechnology 28: 402-404, 2010
開発者(モンサント)研究グループが、表題の組織的な解析を行った。解析は、広範囲な地理的、
季節的、耕種的な変異を含み、OECD 指針に準拠した栄養成分を記載した公刊資料に基づいている。
一方、最近の Profiling 手法(transcriptomic, proteomic, metabolomic)は、それらの実効性が未確 立なため、採用されていない。解析には、 7 GM 作物(GM トウモロコシ 4 品種、GM ダイズ 3 品種)、 3 特性(害虫抵抗性、除草剤耐性、乾燥耐性)、11 作期、 9 ヶ国(フランス、イタリア、
スペイン、ドイツ、ルーマニア、米国、アルゼンチン、ブラジル、チリ)を網羅している。トウモ ロコシでは、比較した 2 ,350 項目の 91. 5 %が GM と非 GM との間に有意差がなかった。ダイズで は 1 ,840 項目の 88. 5 %で有意差がなかった(p > 0 .05)。トウモロコシとダイズのそれぞれの有意 差の幅は僅少(modest)であった。一方、OECD 指針に準拠した非 GM 作物の通常栽培における 栄養成分は大きな変異幅を示し、GM 作物の変異を超える重複を示した。
さらに詳細な解析に基づき、「作物の栄養成分の変異に対する、組換え遺伝子導入の影響は極め て小さく、普通栽培における変異のほとんどは、作期、栽培法、慣行品種などの非 GM 要因に起因 している」と結論された。さらに「農業的特性を附与された GM 作物においても、栄養成分は一貫 して保持されている」ことも付言されている。
No. 9
GM 樹木の 20 年間にわたる環境安全性の実証
The 20-year environmental safety record of GM trees Walter C, Fladung M, Buerjan W
Nature Biotechnology 28: 656-658, 2010
ニュージーランド、ドイツ、ベルギーの研究者が、公刊文献に基づいて、GM 樹木の栽培化に伴 う環境分野の主要検討事項における安全性について総括を行った。GM 樹木(森林樹、果樹、多年 生木本)に関する公開データベースはすでに 700 以上あるが、生物多様性、人間の健康、環境に関 する負の影響は報告されていない。生態的インパクトに関しては、リグニン成分改変 GM ポプラ(フ ランス)について、生育、害虫加害、炭素・窒素含有率、土壌微生物集団などが調査された。GM 特性発現の安定性は、除草剤耐性ポプラについて、 3 - 8 年間にわたり確認されている。別に、GM ポプラで除草剤耐性、GM マツ(ニュージーランド)で抗生物質耐性遺伝子(npt Ⅱ )の、発現安 定性が確認されている。非標的生物に対する影響については、GM ポプラ(ドイツ)の葉、幹上の 病原性微生物、樹体内の炭水化物及びホルモン代謝が調査された。また、GM マツ(ニュージーラ ンド)の導入遺伝子(npt Ⅱ 、生殖特性改変遺伝子)が樹上の無脊椎動物の種類と数、また根圏土 壌微生物相について調査された。以上全ての調査において、GM 樹木と対照の非 GM 樹木(wild type)の測定値との間には、有意差は検出されていない。現在、GM 樹木の圃場テストは制約が厳 しく、コストも高い。著者らは、「確認された安全性に基づいて、今後関係分野、とくに偏見的規 制派の気候変動枠組条約(CDB)締約国会議(COP)が、科学的判断に基づく GM 樹木への支援 を実施することが極めて重要である」と結言している。
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No.10
二重除草剤耐性西洋ナタネ雑種の圃場における頻度と特性
In-field frequencies and characteristics of oilseed rape with double herbicide resistance
Dietz-Pfeistetter A, Zwerger F
Environ. Biosafety Res. 8 ( 2 ) :101-111, 2009
ドイツの国研研究者により、除草剤グリフォサート耐性ナタネ(RR)と除草剤グルフォシネート 耐性ナタネ(LL)との交雑から由来する、両除草剤耐性を有する二重耐性雑種の圃場における発生 率が調査された。試験期間は 1999/2000 及び 2000/2001、供試面積は各期間とも大規模( 1 ha)であっ た。RR 区と LL 区との間隔は、密接区(50cm)と隔離区(10m)とされた。雑種頻度は、各区の 外縁部と外縁部から 10、20、40、70m の調査区で調査されたが、外縁部で 1 ㎡当たり 1 . 5 ~ 6 . 0 個体、40m 以上では 0 . 5 個体となり、隣接の花粉源からの距離の増加につれて指数函敷的に低下し、
また風向の影響は明確ではなかった。より厳密な室内実験により、二重耐性雑種における耐性間の 交互作用が存在しないことが確認された。また、通常のナタネ栽培でこぼれ落ちた種子からの自生
(volunteers)除去に使用される 6 種類の除草剤に対しては、雑種は両親と同様にいずれも感受性 を示し、新しい耐性が生じていないことも確認された。以上から、二重耐性雑種の頻度は低く、た とえ発生しても通常の除草剤により容易に除去しうると結論された。このことは、カナダの GM ナ タネ栽培において、すでに実証されていることである。
ERA プロジェクト調査報告
2011 年 12 月 印刷発行
特定非営利活動法人
国際生命科学研究機構(ILSI JAPAN)
理事長 木村修一