別紙1
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
報告番号
甲 第 3247 号 氏 名服部 匠真
論文審査担当者
主査 教授 弘中 祥司 副査 教授 井上 富雄
副査 教授 嶋根 俊和
(論文審査の要旨)
論文題名「A study of acoustic characteristics of voluntary expiratory sounds produced before and immediately after swallow」
掲載雑誌名:Dysphagia(投稿中)
上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
嚥下障害患者のVF検査時に記録した嚥下時産生音のうち、嚥下前後の意識下呼気音を対象として音響特 性変化を検討した。VF検査時に嚥下前後に3回呼気を行い、対象の呼気音とし、のべ61名346呼気音につ いて検討を行った。VF検査の所見により、誤嚥を認めなかった群をAG群、喉頭侵入したものをPG群、誤 嚥を認めた群をAG群とした。最大振幅はPG/AGと比較して、SG群では優位に低く、呼気音の長さはPG群 平均0.85秒、AG群平均0.96秒と比較してSG群2.05秒と有意に短かった。本結果より、PG/AGは低周波数 帯領域の音圧レベルが大きかったため、Acoustic discriminate value(AD値)を求める時間窓長で今回の 結果から最適なものは1.024秒(60.1%に該当)である事が考えられた。
本論文の審査において、副査の井上委員および嶋根委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対す る回答を以下に示す。
井上委員の質問とそれらに対する回答:
1.AD値を算出する際に行った正規化の妥当性を、根拠をもって示せ。
(本結果では3分の1オクターブバンド分析や定帯域分析と異なるため、周波数軸上でリファレンス帯域を
決定することが困難であったため、従来のreference band level の減算による正規化を応用し、全帯域で ある62.5 Hz-2000 Hzの平均音圧レベルをreference band levelとし、その差を正規化したAD valueとし、
各音を比較した。)
2.AD値が嚥下前後で変わらない理由は何か。
(今回使用したマイクロフォンは膜型聴診器の接触子に接続しているため収音に際し増幅効果が高く、さら に頸部皮膚上に接触子を密着させているため検出音を患者の身近で聴取するより極めて明瞭な大きな音を 検出でる。嚥下前に咽喉頭の貯留物の排出を行い、クリアな音を聴覚的に確認しているが、少量の咽喉頭貯 留物が残遺している可能性がある。一方、AD値を求めた呼気音は前記した過程で極めて明瞭な音として検 出しており、わずかな咽喉頭貯留物の残遺が引き起こす雑音も含んでいると考えられる。そのため聴覚的な 確認とは異なり嚥下前後の呼気音でAD値が変わらなかったものと考えられる。)
嶋根委員の質問とそれらに対する回答:
1.VEとの相関関係はどうなのか
(今回の研究ではVEとの比較、検討を行っていないが、過去の研究においてVEとVFの診断一致率70%~
98%を示した報告があり、VE時に記録した音響サンプルを用いた場合であっても、今回の研究とほぼ同様
の結果になると考えている。)
2.346サンプルのうち208サンプル(60.1%)の呼気音全てをカバーしたとあるが、これは多いのか。また
その他のpointと組み合わせて90%以上に持っていくことはできないのか。
(今回、使用したソフトウェアはその仕様上、分析時間をこれ以上延長することはできなかった事に検討の 余地がある。FFT分析を1つの音響サンプルに対して複数個所で行い、分析結果を平均化した場合、全体を カバーできると思われる。)
3.AD値は臨床的にどのような場面で利用され新たな知見となるのか。
(AD値のカットオフ値を決め、VF所見との感度及び特異度を検討し、高い精度が確認できた場合には直接訓 練時に、呼気音を検出しADを求め嚥下障害を推定できる可能性がある。ただ、臨床応用するためにはほぼ 実時間でAD値を求めるための新たな分析システムが必要となると考える。)
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 弘中委員の質問とそれらに対する回答:
1.今後頸部聴診法を用いた音響解析を臨床で応用する上で、呼気音・吸気音・嚥下音のどれにAD値を用 いるのが最適か。
(吸気音は貯留物の誤嚥を惹起する可能性があるため健常人のみでしか検討できない。当科の複数の先行研 究で嚥下音の音響特性による嚥下障害の判別では、嚥下障害に伴う複数回嚥下の開始から終了までの全嚥下 時間にのみ(すなわち周波数特性ではなく時間特性)有効であることが明らかとなっている。これらの過去 の先行研究より、本研究で用いた嚥下前後の呼気音のみがAD値による評価に最適となると考えている。)
2.今回の研究で被検者として複数回対象とした患者はいるのか、その場合、人の患者から最大でどの程度 のサンプルを得たのか。また、一人の患者から得られた最小サンプルはどの程度であったか
(今回対象とした実患者数は34名おり、患者1名に対して最も多く嚥下造影検査を行った回数は5回でその 対象者より得られた音響サンプルは本研究で最も多く21サンプルでした。また、患者1名から得られた最 小の音響サンプル数は3サンプルでした。)
主査の弘中委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認 するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
本論文は本学大学院学位論文(博士)審査基準を満たしており、学位論文に値すると判断した。
(主査が記載)