北東北地域の酪農現場における暑熱の影響の実態調査
誌名
誌名 Animal behaviour and management ISSN
ISSN 18802133
著者 著者
深澤, 充 小松, 篤司 東山, 由美 加藤, 真姫子 阿保, 洋一 山口, 直己 巻/号
巻/号 49巻4号
掲載ページ
掲載ページ p. 153-163 発行年月
発行年月 2013年12月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター
Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat
北東北地域の酪農現場における暑熱の影響の実態調査
深津充'*、小松篤司 1、東山由美l、加藤真姫子2、阿保洋一3,t、山口直己4 l農研機構東北農業研究センター,岩手県盛岡市 020・0198
2秋田県畜産試験場,秋田県大仙市 019・1701
3青森県産業技術センター畜産研究所,青森県上北郡野辺地町 039・3156
4岩手県八幡平農業改良普及センター,岩手県岩手郡岩手町028‑4307
T現所属:森県農林水産部畜産課,青森県青森市030・0861
*Corresponding author. E‑mail address: shakecat@a缶C.go.JP 要 約
本研究では北東北の酪農家における暑熱による影響の実態を調査した。北東北の14の酪農家において、
暑熱期 (7月下旬'"'‑'8月中旬)および平温期 (10月下旬'"'‑'11月下旬)に調査を行った。調査は、牛乳生 産 成 績 (1頭あたりの出荷乳量、バルク乳の乳成分および体細胞数)、暑熱感作に対する生体反応(尿中 コルチゾル濃度)および行動 (24時間の摂食、反甥および休息行動時間配分)について行った。出荷乳量 および乳成分は両期でほぼ同水準で、あった。体細胞数は暑熱期に増加する農家が多かった。尿中コルチゾ ル濃度は暑熱期で高い傾向を示した。行動時間配分は暑熱期には立位姿勢の時間配分が増えた。立位姿勢 中、摂食および反調への時間配分は両期でほぼ同じであり、休息時間配分のみが増加した。横臥姿勢では 反調と休息がほぼ同じ割合で、あった。飼育方式では、トンネル換気利用農場において尿中コルチゾル濃度 の上昇が抑えられ、摂食時聞が長し、傾向を示した。
キーワード:北東北,牛乳生産成績,行動,暑熱,尿中コルチゾル濃度
緒 言
酪農業における暑熱による被害は、これまで冷 涼とされてきた東北地方においても報告が増えつ つある。2010年の猛暑では、東北地方において328 頭の乳牛が死亡し、2008年の37頭から大幅に増加
している(農林水産省、 2010)。栗原 (2011)は酪 農での暑熱の影響が顕著に見られるようになった 理由として、地球温暖化の影響と見られる夏季の 気温上昇と乳量の増加に伴う熱産生量の増加の2 つを挙げている。前者については、東北地方にお いては6月から8月の気温は0.8・1.30C/100年の割 合で、上がっている(仙台管区気象台と函館海洋気 象台 2011)。また、後者については、遺伝的改良 や飼養技術の改善によって、都府県での 305日検 定乳量は1975年に比べて2011年で3399kg増えて いる(家畜改良事業団 2012)。このように東北地 方でも酪農業への暑熱の影響が出やすい状況にな
ってきており、対応を検討する必要がある。
本研究では、これまで冷涼とされてきた北東北 の酪農現場における暑熱の影響の基礎的なデータ
Animal Behaviour and Management, 49 (4): 153‑163,2013 (2013.9.6受付;2013. 12. 13受理)
を得ることを目的として実態調査を行った。乳量、
乳成分および体細胞といった「牛乳生産成績J、暑 熱感作に対する視床下部一下垂体前葉一副腎皮質 系の反応の指標である「尿中コルチゾル濃度J、お よび暑熱に適応するために変化する「行動」、につ いて調査した。また、暑熱の影響軽減に効果があ るとされている飼育管理方法について比較を行っ た。
材料と方法
調査は青森、岩手、秋田の北東北3県の 14農 場 で、行った。 2012年7月23日から8月22日を暑熱 期とし、10月29日から 11月27日を平温期として 調査を行った。牛乳生産成績、尿中コルチゾノレ濃 度および行動について、 14農場において各期 1日 ずつ調査した。調査に先立ち6月下旬から7月中 旬にかけて農場主に調査の趣旨説明と飼育管理方 法および施設設備についての聞き取りを行った。
1農 場 (D農場)については農場の都合により平 温期の調査ができなかった。
北東北の酪農現場での暑熱の影響
調査農場
調査農場は、東北地方で一般的と考えられる管 理・規模(畜産技術協会 2009)である搾乳牛 40 頭前後を繋留飼育している経営を目安として選定
した。調査した農場の位置および概要を図 1およ び表1に示した。搾乳頭数はおから 65頭で、あっ.
た。繋留方式はニューヨークタイストール型が8 戸、コンブオートタイストール型が4戸、スタン チョンタイストール型が 1戸、ニューヨークタイ ストール型とコンブオートタイストール型の併用 が1戸で、あった。すべての農場が2列牛床で、対 尻式が 11戸、対頭式が3戸で、あった。飼料給与方 式は分離給与方式が9戸、 TMR給与方式が5戸で あり、自動給餌機の利用が3戸あった。配合飼料 の給与回数は1日あたり 1から6回であり、日乳 量30kgの搾乳牛に対する配合飼料給与量は8から 13kgで、あった。牛舎は増頭にともなって建て増さ れたところが多く、農場内でも築年の変動が大き かった(昭和 17年 平成20年築)。換気は、扇風 機を用いた送風換気が 7戸、ダクト換気が 3戸、 扇風機を用いた排気によるトンネル換気が5戸で あった。牛舎内で複数の換気方式を用いている農 場が2戸 (1およびL農場)あった。暑熱期の調査 時にはいずれの農場においてもすべての換気設備 を作動させていたが、平温期にはほとんどの農場
環j:憾環蹄黛滋事同雄被鶏同事等
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輔副 輔 副 管 場
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望号
Fig. 1. The geographicallocation of 14 dairy farms
で換気設備を稼働していなかった。給水はいずれ の農場でも個体ごとにウォーターカップを配置し ていた。
いずれの農場も放牧やパドック等での運動は行 わない終日繋留飼育であり、朝、タの2回、両期 で同じ時刻に搾乳を行つでいた。飼料については、
いずれの農場
i
とおし、七も暑熱期と平温期で同じメ ニュー、同時刻に給与されていた。調査項目 環 境
ロガー付き温湿度計 (HOBO‑UI2・012、Onset、 Massachusetts、USA)を用いて、調査時の牛舎内の 気温および相対湿度を10分間隔で測定・記録した。
機器は牛舎内の直射日光があたらない風通しのよ い場所に、地上高1.0‑1.8mの位置に設置した。測 定された24時間中の最高温度(T:oc)および最低相 対湿度(H:%)のデータから温湿度指数 (THI)を Ravagnoloら(2000)の式により算出した。
四1= (1.8T+ 32)一[(0.55‑0.0055H) X (1.8T‑26)]
換気設備をすべて作動させた状態で牛頭部(高 さ約 130cm)前方60cm程度の位置でデジタル風速 計 (AM‑4214SD、マザーツール、長野、日本)に よって風速を測定した。測定は牛舎内5地点で行 い、 20秒間の測定時間中の最高風速をその地点の 風速とし、 5地点の平均を各農場の換気設備作動 時の風速とした。
牛乳生産成績
牛乳生産成績として、搾乳牛 1頭あたりの出荷 乳量(以下、乳量)とバルク乳の乳脂率、乳蛋白 質率および体細胞数を調査した。乳量は、集乳伝 票に記載された調査目前3回の集乳量を聞き取り、
その平均を出荷頭数で除して求めた。バルク乳は バルククーラーから採取した。採取乳は測定まで 冷蔵し、乳成分についてはミルコスキャン(マイ ナー4、FOSS、Hillerod、デンマーク)、体細胞数に ついてはソマスコープ(スマート、DeltaInstruments、 Drachten、 オランダ)で測定した。
尿中コルチゾル濃度
暑熱感作に対する視床下部一下垂体前葉 副腎 皮質系の反応の指標として、尿中コルチゾル濃度 を調査した。尿サンプルはそれぞれの時期に各農 場においてランダムに選んだ 4頭から採取した。
自然排尿された尿を採取し、採尿個体の産次およ び分娩日を聞き取りした。尿サンプルは冷蔵で保 存し、遠心分離で異物を除去後、測定まで・800C、で 凍結保存した。尿中コルチゾル濃度の測定は EIA 法(クオルタス、カイノス、東京、日本)により 測定した。また、尿中クレアチニン濃度を Jaff益法
154
(LabAssay Creatinine、和光純薬、大阪、日本)に より測定した。尿中コルチゾル濃度を尿中クレア チ ニ ン 濃 度 で 除 す こ と で 尿 量 の 補 正 を し た
(Higashiyamaら2013)。 行動調査
それぞれの時期に各農場において牛舎内でーヶ 所に偏らないようできるだけ離れた位置にいる5 頭の搾乳牛を選定した。対象牛の産次および分娩 後日数を聞き取りした。それぞれの牛の頭部に口 の開聞から行動を識別する岨噂計(東北農業研究 センター 2013)を装着した。また姿勢を計測する た め の 加 速 度 計 (HOBOペンダントG;Onset, Massachusetts、USA)を水平になるように十字部に 装着した。装着は午前中に行い、行動の記録は装 着当日正午前後から翌日正午前後までの24時間行 った。岨唱計より回収したデータから、摂食行動 および反績を識別し、起時および終時を求め、そ れぞれの時間を求めた。本研究では摂食および反 甥以外を休息行動とした。起立横臥を計測する加 速度計については機器の傾きから、水平にほぼ近 い時には立位、傾斜がついた時には横臥位と判別 して起時および終時を求め、それぞれの姿勢時間 を求めた。これらから、搾乳牛の行動型を摂食、
起立反調、起立休息、横臥位反調、横臥位休息の 5つに分類し、それぞれの行動時間を求めた。
統計解析
暑熟期と平温期の比較
乳量、乳脂率、乳蛋白質率および、体細胞数につ いては各農場を実験単位とした。分散分析によっ て調査期の比較をした。分析モデ、ルには農場と調 査期の母数効果を含めた。また、各農場について 暑熱期の値と平温期の値の差を平温期の値で除し たものを平温期からの変化率(以下、変化率)と
して計算した。
尿中コルチゾノレ濃度については採取個体を実験 単位とした。混合モデ、ルによる分散分析によって 調査期の比較をした。分析モデルには、農場内個 体の変量効果、および農場、調査期、産次の母数 効果を含めた。産次は1産目、 2産目、 3産目お よび4産目以上の4つのクラスに分類した。また、
分娩後日数を共変量としてモデルに含めた。
各行動時間については、尿中コルチゾル濃度と 同じ分析モデ、ルで分析を行った。それぞれの行動 について各調査期の最小二乗平均値を求めた。各 行動時間の最小二乗平均値を用いて24時間の行動 時間配分をもとめ、 2X5のカイ二乗検定により 調査期の比較をした。また立位(摂食+立位反調 +立位休息)と横臥位(横臥位反調+横臥位休息) の姿勢時間配分についても2 X 2のカイ二乗検定 により調査期の比較をした。
管理方法による暑熱の影響の違い
飼育管理方法の違いによる暑熱の影響を比較し た。各農場を実験単位とした。尿中コノレチゾル濃 度および各行動時間については、上記の分析モデ ルに農場と調査期の交互作用を加えて解析を行い、
農場と調査期の交互作用の最小二乗平均値を各時 期における農場の値とした。
比較する管理方法として(a)飼料給与方式 (TMR、
分離)、 (b)自動給餌機の利用の有無、 (c)トンネノレ換 気利用の有無、の3つを取り上げた。複数の換気 方式を採用している農場についても、トンネル換 気利用の有無のみで分類した。乳量、乳脂率、乳 蛋白質率、体細胞数および尿中コルチゾル濃度に ついては、それぞれの管理方法について対応あるt 一検定により暑熱期と平温期を比較した。行動時 間配分については、調査期ごとに管理方法につい て2X5のカイ二乗検定により比較した。
結 果 お よ び 考 察 環境
暑熱期の換気設備作動時の風速を表 1に示した。
風速は0.09m/sから1.74m/sの範囲であった。トン ネル換気を用いた農場で、は、いずれも1.0m/sを超 える風速で、あった。ダクト換気のみの農場 (Cお よび F)で、は低かったが、これは計測場所が頭部前 方であったためと考えられる。平温期はほとんど の農家で換気設備は作動しておらず、空気の流れ も体感できなかったことから、風速の計測はしな かった。
気象庁 (2013)によると、調査を行った2012年 の北東北地方の梅雨明けは7月 26日頃で、あった。
暑熱期の調査において3戸の農場では梅雨明け前 の調査であった。また、調査を行った各県の県庁 所在地のアメダスのデータ(気象庁2013)から、
暑熱期の平均気温と平均湿度は、青森県で 24.80C および 81.1%、岩手県で 25.70Cおよび 78.2%、秋 田県で 26.20Cおよび 77.6%で、あった。一方平温期 の平均気温と平均湿度は、青森県で 7.70Cおよび 81.3%、岩手県で7.30Cおよび79.5%、秋田県で8.80C および77.5%で、あった。
それぞれの調査日の平均気温、平均相対湿度お よび1日の最高気温と最低相対湿度を用いて計算 したTHIを表1に示した。 14農場の平均で気温は 暑熱期24.60C、平温期 11.20Cで、あった。 14農場の 平均で相対湿度は暑熱期82.7%、平温期78.2%であ った。 14農場の平均のTHIは暑熱期78.9、平温期 58.4で、あった。平均気温およびTHIの数値で両調 査期の違いは顕著で、あり、本研究の設定は暑熱に よる影響を比較する条件として適切で、あったと考 えられる。
Climatic data at observation day Hot Normal T6 H7 THI8 T RH THI 24.9 86.3 78.3 14.0 83.1 60.6 Wind Speed
但Is) 0.69 Housing
Ventilation6 Age Roof
Feeding .
.
Automatic 0aily concentrate feed Style崎
feeder Times Amount (kg) 6 13 Table 1 The detail of 14 dairy farms
Tethering Style2 Direction3
g z'
門U︾
on
一町内 弘 政 刀
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S F
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3 SPR NY 50
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80.3 58.4 12.7
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H SP CF
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67.5 63.4 6.6
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G 39 10 33
4 SP
R NY J 65
74.4 52.1 8.4
74.6 22.0 89.1 1.36
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8 9 2
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40 K
78.5 65.8 14.7
21.7 83.0 75.2 0.81
F. 0 G
8 17 5
SP R
CF 40
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80.2 62.6 11.0
25.8 80.5 80.4 1.40
G T G 4 12 26
。
6 SPR F
Y C N M 50
67.7 50.4 6.7
1 CF: Comfort Style, NY: Mew York Style. ST: Stanchion Style
3 SP: Separation, TMR: Total mixed ration
5 0: Blast Duct, F: Fun, T: Tunnel
7 Average relative humidity (%)
8 Average temperature humidity index (THI)
THI was caliculated from daily maximum centigrade temperature (T) and daily minimum relative humidity (H) in the housing using following fomula; THI = (1.8T+ 32)‑[(0.55帽0.0055H)x(1.8T咽26)]
26.5 79.4 82.9
2 H: Head to head style. R: Rump to rump style
4 G: Gable. M: Mansard. S: Semi‑monitor. 0: Others 6 Average temperature (OC)
1.74 M T
G 41 9 4
。
6 SPR NY N 60
牛乳生産成績
暑熱期および平温期の乳量、乳脂率、乳蛋白質 率および体細胞数と平温期に対する変化率を表2 に示した。いずれについても、暑熱期と平温期の 聞に有意な差は認められなかった。また乳量、乳 脂率および乳蛋白質率の変化率はいずれも 2 %以 下であり、暑熱期と平温期での変動は見られなか った。 Ravagnolo ら (2000)は、ホルスタイン種搾 乳牛において一日の最高気温と最低湿度を用いて 算出した THIが72を上回ると乳量の減少が見られ、
回帰分析からその減少の程度は、 THIl単位あたり 乳量0.20kgであることを示している。本研究にお いて、暑熱期の各農家における調査日 24時間中の 最高気温と最低湿度を用いて算出した THIは 78.9
:t3.0 (最高 82.9、最低 73.3)であり、十分に乳量 に影響が現れる水準であったと思われる。乳成分 については、牛群検定データ(家畜改良事業団,
2012)で、月別平均で 7月から 8月にかけて低下 が認められる。また生田ら (2010)は、 TMR給与 方式および分離給与方式のいずれにおいても暑熱 によって乳脂率および乳蛋白質率が低下すること を示している。
それらの報告と異なり、本研究で乳量や乳成分 で違いが認められなかった理由として、以下の3 つが考えられる。 1つめは、本調査程度の暑熱で あれば、農場における換気などの暑熱対策により、
後述する行動や生理状態の変化によって暑熱環境 に十分適応できることで、牛乳生産性の低下に至 らない、ということである。また、山岸ら (1995) は、 1日のうちに涼しい時間帯があれば、その時 間に産熱活動を行うことで、乳量の減少が抑制さ れるとしている。
2つめは、調査の時期が考えられる。 Uenoら (1999)は 7‑8月の温湿度の変化は 2‑3日後 の乳量にもっとも大きく影響することを報告して いる。今回の調査は梅雨明けの前後に行われてお り、暑熱の影響が現れるには早い時期だ、ったのか
もしれない。暑熱期に複数回測定を行うような試 験設計にするとともに、現場で「夏パテ」と言わ れるような累積的な暑熱の影響についても今後検 討する必要がある。
3つめは、牛群構成に配慮していないことによ る影響である。乳量および乳成分には産次や泌乳 段階も大きく影響し、暑熱による乳量減少も搾乳 段階で異なるとされるが(古村, 2002)、本研究で は牛群内の産次構成や泌乳段階の構成については 補正を行っていない。例えば、人工授精日前日の 暑熱の影響によって受胎率の低下が起こることか ら (Nabenishiet al., 2011)、前年度の暑熱の状況に よっては、一定期間の分娩数が減少する。その場 合には、乳量や乳成分に影響を及ぼす産次構成や 泌乳段階に偏りが生じることで暑熱による影響を 打ち消す可能性も考えられる。この点については、
個体ベースで暑熱の影響を検討することに加えて、
牛群の産次や泌乳ステージ構成を考慮した分析方 法を検討する必要がある。
体細胞数は平均値では両期でほぼ同じであった が、変化率は 19.7%を示した。暑熱期に平温期よ りも体細胞数が増加した農場は9戸であった。最 も 増 加 し た 農 場 で は 暑 熱 期 に は 平 温 期 よ り も 163.6%増(暑熱期:174千個lnu、平温期:66千個 lnu)の体細胞数を示した 一方、最も減少した農 場では暑熱期には平温期よりも 65.2%減(暑熱 期 :103千個lnu、平温期:296千個lnu)の体細胞 数を示した。牛群検定のデータでは、体細胞数は 7月から9月にかけてピークを示す(家畜改良事 業団 2012)。夏季には高温多湿で菌が繁殖しやす いことに加え、暑熱の影響により乳牛の免疫系は 抑制され (Bemabucciら 2010)、乳房炎に擢患しや すい状態になる。本研究では体細胞数の平均値に 差はなかったが、変化率では暑熱期には平温期よ り約 20%高く、乳房炎のリスクは多くの農場にお いて上昇していると考えられる。
Table 2 Milk yield, milk quality, and somatic cells count under hot summer condition and normal condition Hot Normal Change ratio
Milk Yield (L) 26.92 士 0.43 27.07 :t 0.46 ‑0.3 :t 2.3 Milk fat content (%) 3.72 ± 0.12 3.71 :t 0.12 1.2 :t 3.4 Mi!k protein content (%) 3.30 ± 0.05 3.36 :t 0.05 ‑1.7 :t 1.5 Somatic cell count (103 Iml) 193.1 ± 24.1 182.5 :t 24.6 23.5 :t 15.0
北東北の酪農現場での暑熱の影響
原中コルチゾル濃度
尿中コルチゾル濃度(平均±標準誤差)は、暑 熱期は4.76:t0.28μg/クレアチニン lmg、平温期 は3.74:t0.30μg/クレアチニンlmgで、あった。暑 熱期は平温期に比べて尿中コルチゾル濃度が高い 傾向を示した (P=0.05)。
長期の暑熱がコノレチゾル分泌におよぼす影響に 関してはいくつかの報告がある。しかし、暑熱に より血中コルチゾ、ノレ濃度は増加する(Chaiyabutrら 2008)、減少する(Correa‑Calderonら2004)、あるい は変化しない(Bouraouiら2002)、とあり、一貫し た結果は得られていない。牛や豚において、不適 切な取り扱いや隔離、拘束などの慢性的ストレス は血中コルチゾル濃度の基定値をわずかに上昇さ せるが、採血操作自体が影響を与える要因になる ことから、 血液でその変化を検出することは難し い と 言 わ れ て い る(Mormede ら 2007)0Z油ner (2004)らは、 THIの上昇に伴う乳中コノレチゾノレ濃度 の増加を報告している。Higashiyamaら(2013)は、 THIが72を超えると、放牧牛の尿中コノレチゾノレ濃 度は上昇したと報告している。本研究では、尿を サンプルとしており、暑熱に対する視床下部一下 垂体前葉一回
l
腎皮質系の反応をより感度よく検出 できたのかもしれない。行動
暑熱期および平温期の24時間の行動時間配分を
100%
80%
60%
40号沿
20%
O~も
Hot Condition
Norma1 Condition
Lymg
Standing
• Eating口Standingrumination 圏Standingidling
図Lyingrumination 図Lyingid凶19
Fig. 2 Time distribution of dairy cow's behaviour under hot summer condition and normal condition
158
図2に示した。両調査期の行動の時間配分には有 意な違いが認められた (Pく0.001,d
←
4,χ2=22.6)。暑熱期には平温期に比べて立位休息時間が 79.6分 長くなった。摂食時間はやや短くなり(‑20.5分)、 立位反甥時間はやや長くなった(+25.9分)。横臥 位時間は暑熱期には減少(‑84.9分)した。横 臥 位反甥で 51.4分、横臥位休息で 33.5分減少した。
反甥時間は暑熱期には平温期に比べて25.5分短く なった。反舗の立位:横臥位姿勢時間配分は暑熱 期で25.0: 75.0、平温期で 18.3: 8l.7であった。早 坂と山岸(1990)は高温下の繋留飼育では適温期 に比べて摂食および反甥時間が短くなることを報 告している。しかし、本研究では摂食や反甥時間 に大きな違いは認められなかった。ただし、暑熱 期に、立位反稿時聞が増加して横臥位反調時間が 減少する、とし、う姿勢時間配分が変わる傾向は同
じであった。
また、両調査期の姿勢の時間配分にも有意な違 いが認められた
( p
く0.01,df=l,χ2=10.1)。早坂と 山岸 (1990)は高温下の繋留飼育では立位時聞が 適温期に比べて長くなることを報告している。立 位時間の増加は、体表面積を増やすことで対流や 蒸散による放熱を促進するための行動的な適応と 考えられる(三村、 1980)。しかし、立位姿勢は横 臥位姿勢に比べてエネルギー消費量が高い (Broshら2006)。また、横臥位姿勢は乳房の血流量を増 やし、乳量を増加させる (Metcalfら 1992)。した がって、夏季の立位時間の増加は乳量に対して不 利に作用すると考えられる。
これらから、立位休息行動の増加や立位姿勢で の反拐の増加といった暑熱の影響と思われる行動 の変化が認められた。しかし、エネルギー摂取に 関わる摂食および反甥への時間配分はそれほど大 きくは変わらなかった。このことは乳量や乳成分 に両期で違いが無かったことの一因かもしれない。
飼育管理方法による暑熱の影響の違い
乳量、乳脂率、乳蛋白質率、体細胞数および尿 中コルチゾル濃度に対する飼育管理方法 (a飼料 給与方式 (TMR、分離)、 b 自動給餌機の利用の 有無、 c. トンネル換気利用の有無)の違いによる 暑熱の影響を表3に示した。また行動時間配分に 対する飼育管理方法による暑熱の影響の違いを表 4に示した。乳量および乳脂率は、いずれの管理 方法でも暑熱期と平温期に違いが認められなかっ た。
飼料給与方式の違いでは、尿中コノレチゾル濃度 について分離給与方式農場において暑熱期に有意 に上昇した (P<0.05、表3a)。しかし、有意で、は ないとはいえ TMR給与方式でも同程度の上昇が みられており、この点については例数を増やした 検討が必要である。
また、暑熱期の行動時間配分が給与方式によっ
て有意に異なった(表4、P<O.05,df‑=4,χ2=10.1)。 暑熱期には
TMR
給与方式農場では、摂食時間と横 臥位反調時聞が長く(それぞれ+42.1分と+36.7 分)、立位休息時間が短かった (‑48.0分)。一方、平温期には給与方式による行動時間配分の違いは なかった。
TMR
給与方式については、分離給与方 式に比べて暑熱時の乾物摂取が良好であり、産乳 成績が良いことが報告されている(生田ら 2010)。 本研究で、は乾物摂取量の測定は行わなかったが、TMR
給与方式では暑熱期には分離給与方式の農場よりも摂食時聞が長く、平温期と暑熱期の摂食時 聞がほぼ閉じであった。また、暑熱期に横臥位で の反甥時間も長い傾向を示した。これらから、本 研究においても
TMR
給与方式については暑熱時 の乾物摂取が良好で、あったことが推察される。し かし、本研究では乳量および乳成分に、給与方式 での違いは見られなかった。自動給餌機の利用の有無については、自動給餌 機の無い農場において乳蛋白質率が暑熱期に下が る傾向を示した (P=O.07、表3b)。乳蛋白質率の
T a b l e 3 T h e c o m p a r i s o n o f d a i r y p r o d u c t i v i t y a n d u r e a c o r t i s o l c o n c e n t r a t i o n u n d e r h o t summer c o n d i t i o n a n d n o r m a l c o n d i t i o n b e t w e e n ( a ) f e e d i n g s t y l e s
,( b ) u s e o f a u t o m a t i c f e e d e r
,( c ) u s e o f t u n n e l v e n t i l a t i o n
( a ) F e e d i n g S t y l e (TMR v s S e p a r a t i o n )
H o t N o r m a l P a i r e d c o n d i t i o n c o n d i t i o n t ‑ t e s t TMR
27.4 28.3N . S . M i l k y i e l d ( L )
S e p a r a t i o n
26.5 26.2N . S . TMR
3.80 3.95N . S . M i l k f a t c o n t e n t ( % )
S e p a r a t i o n
3.62 3.53N . S . TMR
2.73 3.48N . S . M i l k p r o t e i n c o n t e n t ( % )
S e p a r a t i o n
3.23 3.28N . S . S o m a t i c c e l l c o u n t
(103/ m
りTMR
190.4 216.2N . S . S e p a r a t i o n
170.8 159.4N . S . TMR
4.68 3.70N . S . U r i n a r y c o r t i s o l l e v e l ( m g / m
りS e p a r a t i o n
4.81 3.72P
< 0.05( b ) A u t o m a t i c F e e d e r ( U s e o r n o t )
H o t N o r m a l P a i r e d c o n d i t i o n c o n d i t i o n t
聞t e s t U s e
26.8 27.5N . S . M i l k y i e l d ( L )
N 。
26.8 26.9N . S . U s e
3.50 3.14N . S . M i l k f a t c o n t e n t ( % )
No
3.74 3.85N . S .
一 回 一 ̲ . . . ‑ ト 一 一 一 一 司 一 一 一 一 一 一 一 … 一 一 一 一
U s e
3.20 3.14N . S . M i l k p r o t e i n c o n t e n t ( % )
No
2.99 3.42P =
0.07一 一 一 … 一 一 一 一 回 一 一 一 一 一 一 一 一
S o m a t i c c e l l c o u n t
(103/ m
りU s e
138.0 86.3N . S . N 。
190.4 209.7N . S .
一 ‑ 一 一 ‑ 一 一 一 一 一 一 四 一 一 … 一 一
U s e
5.07 3.68N . S . U r i n a r y c o r t i s o l l e v e l ( m g / m
りN 。
4.66 3.72N . S .
北東北の酪農現場で、の暑熱の影響
(c) Tunnel ventilation (use or not)
Milk yield (L)
Milk fat content (%)
Milk protein content (%)
Somatic cell count (103/ml)
Use No Use No Use No Use N
。
Hot condition
27.3 26.5 3.56 3.77 3.23 2.92 174.0 181.0
一 一 一 ← 一 一 一 一 一 一 』
Use 4.14 Urinary cortisollevel (mg/ml)
No 5.15
Normal condition
27.9 26.5 3.66 3.71 3.32 3.38 207.0 165.1 4.01 3.52
Paired t‑test
N.S. N.S. N.S. N.S. N.S. N.S. N.S. P < 0.05
N.S. P < 0.01
Table 4 The comparison of the time distribution of dairy cow's behaviour between several husbandry practices under hot summer condition and normal condition
Eating Standing Standing Lying Lying
x
2rumination idling rumination idling P TMR 322.7 107.8 247.8 368.0 393.8 10.2 Hot
Feeding Separation 280.6 119.9 295.8 331.3 412.4 P < 0.05 style
TMR 313.0 101.8 180.2 394.6 450.5 3.7 Normal
Separation 328.0 80.1 196.3 394.6 441.1 N.S. Use 299.1 139.8 283.1 311.0 407.1 7.2 Hot
Automatic No 296.1 107.9 275.6 355.7 404.7 N.S. feeder
Use 327.9 104.5 212.2 348.6 446.8 9.2 Normal
N
。
320.5 83.6 183.5 408.4 444.1 P=
0.06 Use 339.5 110.6 247.8 354.6 387.5 13.7 HotTunnel No 270.1 118.2 295.7 339.7 416.4 P < 0.01
一 一 一 一 一 一 … 一 … 四 一 一 一 四 四 回 一 一 一 … 一 一 一 一 一 一
ventilation Use 348.0 93.6 178.2 391.2 428.9 4.9 Normal
No 306.1 85.2 197.5 396.7 454.6 N.S.
減少は摂取エネルギーの不足や体内代謝の変化に よる乳腺での前駆物質の取り込み量の減少に起因 する(生田ら 2010)。しかし、本研究では暑熱期 に同様に起こる乳量や乳脂率などの減少は見られ
ず、乳蛋白質率のみに違いが認められた原因は不 明である。また、平温期に行動時間配分が異なる 傾向を示した (P=O.06,dF4, χ2=9.2)。自動給餌 機を利用する農場では横臥位反甥時聞が短く (
160
59.8分)、摂食行動などの立位での行動時間が長く な っ た (+57.0分)。一方、暑熱期には、自動給餌 機の利用の有無によって行動時間配分に違いが無 かった。 Renaudeauら(2012)は、多田給餌によっ て摂食行動を誘起することで、暑熱条件下でも飼 料摂取量を確保できるとしている。
自動給餌機の利用については、利用農家では配 合飼料の給与回数が平均6回だ、ったのに対して、
利用していない農家では平均2.7回で、あった(表1)。
本研究では摂食量は測定していないが、暑熱期に 自動給餌機の利用の有無で摂食時間に差が無く、
行動時間配分にも差が見られなかった。一方、平 温期には自動給餌機の利用によって摂食行動など の立位姿勢での行動への時間配分が多くなる傾向 を示した。このことから、自動給餌機の利用で立 位時間は多くなるが、暑熱期には自動給餌機を利 用していない農場でも対流による放熱を促進させ るために立位時聞が増加することから、自動給餌 機の利用の有無による差が認められなくなったと 考えられる。
トンネノレ換気の利用の有無については、 トンネ ル換気を利用しない農場において体細胞数および 尿中コルチゾル濃度が暑熱期に有意に上昇した (それぞれP<O.05およびP<O.Ol、表3c)o Smith ら (2006)は暑熱環境下でトンネル換気を利用す ることで体細胞数が送風換気よりも低くなること を報告している。この理由として、充分な換気に よって病原菌が繁殖できる水分が取り除かれるこ とを挙げている。また、暑熱期には行動時間配分 が有意に異なった (P<O.Ol,df=4,χ2=13.7)。 トン ネル換気利用農場では摂食時聞が長く(十69.4分)、 立位休息時間が短くなった (‑47.9分)。
一方、平温期にはトンネル換気の利用の有無に よ る 行 動 時 間 配 分 の 違 い は 無 か っ た 。 長 尾 ら (2009)はトンネル換気の利用によって、自然換 気時に比べて横伏臥位姿勢をとる頭数が増えるこ とを報告している。しかし、本研究では横臥位姿 勢の増加は認められなかった。この違いは調査方 法や飼育の条件が異なることが原因と考えられる。
長尾ら (2009)では行動観察の時聞が短く、日中 は放牧されている。一方、本研究では行動調査は 24時間行い、いずれの農場においても終日繋留飼 育であった。夏季つなぎ牛舎におけるトンネノレ換 気方式では、暑熱による乳牛の体温や呼吸数の上 昇を抑制した(長尾ら 2009) としづ報告がある。
熱放散の一つである対流は、対流の起こる体表面 積と皮膚表面における空気の流れによって影響を うける(三村、 1980)。本研究では牛頭部前方の風 速を測定しているが、トンネル換気利用農場では 非利用農場よりも風速が速い(利用農場1.41m/s、 非利用農場 0.58m/s)。 トンネル換気利用農場にお いては、より速い風速によって対流による熱放散
が促進されることで、暑熱期の尿中コルチゾル濃 度の上昇を避けることができたと考えられる。
謝 辞
調査に御協力いただきました青森、岩手、秋田 の14戸の酪農家の皆様に心より感謝し、たします。
また、調査農家の選定に御協力いただきました盛 岡農業改良普及センター工藤学上席農業普及員
(現、岩手県中央農業改良普及センター軽米普及 サプセンター)に感謝します。本研究の一部は農 林水産研究情報総合センターのシステムを利用し
て実施した。
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1 NARO Tohoku Agricultural Research Center, Morioka, Iwate, 020・0198,Japan
2 Livestock Experiment Station of Akita Prefec加re,Daisen, Akita, 019・1701,Japan
3 Aomori Prefectural Industrial Technology Research Center, Livestock Research Institute,Noheji, Aomori, 039‑3156, Japan
4 The Hachimantai Agricultural Extension Center of Iwate P児島cture,Iwate, Iwate, 028‑4307, Japan
*Corresponding author. E‑mail address: shakecat@a借c.go.JP
Summary
恥 carriedout the field survey of damage to dairy cows under hot summer condition at North Tohoku region. We comp訂eddairy productivity (milk yield, bulk milk composition, somatic cell count), urinary cortisol level, and behaviour (eating, rumination and resting in standing or lying) at 14 dairy farms between hot summer term (July‑August) and normal term (October‑November). The milk yield and milk composition were almost equal at both terms. Somatic cell count increased in hot summer term. Urinary cortisollevel tended to be high in hot summer term. Cows spent significantly longer in standing post町em hot summer term than normal term (P<0.01). Whereas standing idling was increased in hot summer term, eating and standing rumination was as same as normal term. Cows in farm with tunnel ventilation system showed lower urinary cortisollevel and spent longer for eating in hot summer term than normal term Keywords: behaviour, dairy productivity, hot summer condition, north Tohoku region,
unnaηr cortisollevel
Anima1 Behaviour and Management, 49 (4): 153・163,2013 (Received 6 September 2013; Accepted for pub1ication 13 December 2013)