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技術革新の戦略的遂行について

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(1)

論 説

商経論叢第22巻第2号昭和62年2月

技 術 革 新 の 戦 略 的 遂 行 に つ い て

小 山 和 伸

7i

︿目次﹀

序‑技術革新の類型

‑技術的新規性

2技術目標

3開拓市場の新規性

∬技術革新のプロセス

ー各類型の選択

2研究開発主導型の技術革新

3市場主導型の技術革新

皿技術革新をめぐる組織行動

1技術革新類型の選択における問題点

2技術革新の遂行における問題点

3組織的諸問題の解決

w結論

(2)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 72

本論に言う︑技術革新の戦略的遂行とは︑どのような技術革新を実現するかについて︑その努力の的を絞って行な

うことを意味する︒技術革新には様々な種類があり︑またその類別の仕方も色々と可能である︒しかし︑本論では後

に示されるように︑技術革新を技術的新規性と開拓市場の新規性︑および機能(技術目標)の新規性の三つの軸に基

づいて八つに分類する︒ここで︑新製品および新製法の機能は︑技術と市場をつなぐ媒介的な役割として重要な意味

をもっていると考えられる︒この八種の技術革新のどれを追求すべぎかは︑その時々の企業のおかれている様々な状

況によって異なるであろう︒例えば︑産業の動向とか企業の経験・人材・保有技術などである︒また︑この八種の技

術革新は︑それぞれ追求する方法や必要となる資源などを異にしていると考えられる︒従って︑これら八種の技術革

新を無計画に混合し︑場あたり的に追求してゆくことは非効率を招かざるを得ないといえよう︒

現代の大規模製造企業を主たる研究対象としつつ︑理論的に有意義な技術革新の類型を提示し︑いかなる状況にお

いてどのような技術革新が追求されるべきか︑またその追求の方法はどのようになされるべきか︑そこにおける問題

は何かを論じることが本論の目的である︒このような本論のすすめ方の背景には︑今日の技術革新が︑技術的な問題

としての重要性とともに︑企業の経営戦略および組織との関連をしだいに強めているという問題認識がある︒以下︑

少しこの議論に触れておこう︒

今日︑技術革新の産業に与えるインパクトの重大性についての認識はますます深まりつつある︒このような状況下

において︑経済主体として企業がいかにすれば技術革新をより効率的に達成し得るかという問題に関する様々な検討

がなされている︒しかもその研究の動向をみるとき︑それは従来のように研究開発の主体としての研究者個人の問題

(3)

技 術革 新 の 戦略 的 遂 行 につ いて 73

や︑研究開発部門の内部的な問題に焦点をあてた研究から︑しだいに企業組織全体あるいは複数の企業をも巻き込ん

だ問題にその焦点を移しつつあるようにみえる︒このような研究の動向は︑以下の二つの背景によってもたらされて

いる当然の帰結と考えることができよう︒先ず第一に︑技術的問題の企業全体および産業に与える影響の増大である︒

すなわち︑企業の技術的な問題はもはや一部門の内部的問題ではなく︑広く企業全体の進むべき方向を相当長期にわ

たって決定づける問題となっている︒その点から︑企業の技術的展開に関する決定は︑企業の経営戦略と極めて深い

関連︑むしろ不可分の関連をもつに至っている︒このような傾向はとりわけ製造企業において顕著であるが︑最近の

情報分野における技術革新はサービス産業にも同様な影響を及ぼしつつある︒企業は自らの経営理念や過去の事業経

験などから一定の経営戦略fiすなわち事業分野の方向iをもっている︒技術革新は︑このような事業分野の展開

を押し進めてゆく上で有力な武器となる︒しかし︑そればかりではない︒企業組織の技術革新は︑当初既存の経営戦

略の範囲内で進められるかもしれないが︑一度技術的な研究開発が進められるや︑その展開の方向は︑一応既存の経

営戦略とは独立に科学技術的な論理に従って展開してゆく可能性がある︒そしてそこから既存の経営戦略の枠からは

み出した事業の展開が動機づけられてゆくかもしれない︒このような技術革新の効果は︑既成の産業の枠を打ち破り︑

あるいは既成の産業の姿を一変させてゆく︒それは︑製造面ばかりではなく企業と市場とのかかわり方をも変えてゆ

き︑またさらには産業.経済全体への大きな波及効果をも生じる可能性がある︒このような技術革新の影響力を考え

るならば︑企業がそれを主体的に遂行しようとする際には︑どうしてもその経営戦略との関連について関心を払わざ

るを得なくなるのである︒

第二には︑技術革新の遂行そのものが組織行動としての性質をもっていることである︒技術革新の主体は︑その実

用化段階においては︑その経済規模の巨大化と製造技術・マーケティング等の異なる知識を統合する必要性の故に︑

(4)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 74

十九世紀後半頃からかなり大規模な組織的行動となっていた︒しかし︑今日では発明活動の領域までもがその組織的

な性質を顕著にしつつある︒その主たる原因は︑技術革新の科学技術的水準の高度化にある︒科学技術の高度化に従

って︑狭い専門分野に深くかかわる専門家が必要とされるようになるが︑その一方で高度な技術革新には幅広い関連

専門分野の統合が必要とされる︒それは︑異なる専門分野の研究者の相互作用が必要となることを意味している︒以

上のような︑技術革新の組織行動としての性質は︑研究開発活動を企業組織内でどのように管理してゆくか︑また関

連する諸部門の相互作用をいかに管理するかといった問題を提起してくる︒このような問題に対処するためには︑全

社的なレベルでの組織構造の問題︑あるいは風土などの問題に触れなければならないのである︒

以上のように︑今日の企業組織の技術革新を論じようとするときには︑技術革新と企業の経営戦略との関連︑およ

び技術革新と組織との関連を十分考慮に入れておくことが必要である︒

1 技 術 革 新 の 類 型

技術革新の類別の仕方には様々なものがある︒例えば急進的な革新と漸進的な革新とか︑あるいは衝撃の大きな革

新と小さな革新などである︒しかし︑これらの分類においては︑多くの場合その基準が明確にされておらず︑漠然と

した類型に終わる傾向がある︒本章では︑技術革新を分類する基準として︑技術的新規性と技術目標の新規性︑およ

び開拓市場の新規性を三つの大きな軸として提示する︒しかも︑その各々の軸においてできる限り明確な尺度を提示

してゆきたい︒以後これら三つの概念を説明してゆく︒

1 技 術 的 新 規 性

(5)

技 術 革新 の戦 略 的遂 行 につ い て 75

技術革新の議論を進めてゆく上においては︑先ず技術それ自体に特有の属性について良く考えてみる必要があると

思う︒すなわち︑ある技術が製品なり製造工程なりに具体化し発展し︑また変化してゆく成り立ちを考えてみる必要

がある︒技術革新について論じている文献においても︑この技術それ自体のもっている特性に触れているものは意外

に少ない︒多くは︑その独特な属性に触れることなく︑ただちに技術に関する管理上の問題や︑技術と組織の関連に

ついての議論に入ってゆく︒あるいは︑技術的な関心から書かれた文献においては︑実際の革新過程に従った詳細な

事実の羅列に終始しているものが多い︒序文でも既に述べたように︑本論の主たる関心は経営組織における技術革新

の問題である︒また︑現代の技術革新は経営戦略や経営組織との関連を強めつつある︒しかし︑技術革新の問題を論

じる以上︑他の経営問題にはない何か独特な問題があるはずであり︑それを何よりも先ずしっかりと把握しておくこ

とが必要であると思う︒しかも︑それが個々バラバラな事例としてではなく︑技術一般にみられる属性︑技術展開に

みられる一般的な傾向として把えられねばならない︒そのような技術革新の理解の中から︑技術的新規性をはかるべ

き明快な尺度が見い出されるように思う︒

さて︑技術革新は︑基礎研究による基礎知識の充実と︑応用研究による応用分野の開拓︑そして実用化に向けての

(3)開発というプ障セスを通じて達成されてゆく︒勿論︑これら全ての段階が同一の企業内で行なわれるとは限らない︒

複数の企業にわたったり︑あるいは大学などの研究組織で積み上げられた研究成果を企業が引ぎ継いで開発をするよ

うなことも多い︒しかしいずれにせよ︑技術革新はこのようなプロセスを経て実現されてゆくと考えられる︒このプ

ロセスは︑ある基礎的な知識が具体的な製品ないし製法として実現されてゆく流れに他ならない︒しかも︑ある基礎

知識の応用されるべき方向はただひとつではなく︑複数の方向に応用の可能性を有している︒これを︑技術の発展可

(4)能経路と呼ぶことにしよう︒すなわち︑技術の発展可能経路とは︑ある基礎的な知識を始点として︑考え得る応用可

(6)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 7s

能な方向のバラエティーの連鎖である︒一つの応用可能な方向を選択するとき︑それに伴ってそれ独特の問題が生

じてくる︒その問題の解決はさらに次の解決されるべき問題を生じてくる︒これらの問題は︑ある問題が他の問題

よりもより基本的であるというかたちで︑階層的な構造を成している︒これらの階層的な諸問題を解決してゆくこと

が︑基礎知識の具体化への道である︒従って︑技術の発展可能経路とは︑換言すれば基礎知識の応用開発へ向けて解

決されねばならない諸問題のハィアラーキーと言うことができる︒この技術の発展可能経路を理解するう︑兄で︑W.

J・アパーナシーの言うデザイソ・ハイアラーキーの概念が役立つ︒アバーナシーは︑デザイソ.ハイアラーキー

(血塗αq旨ぼ①霞6ξ)の概念を自動車産業における技術革新の研究から引き出している︒アパーナシーによれば︑自動車

産業の初期にはその中心となる基礎技術は三つ存在していた︒電気エソジソとスチーム・エソジソ︑そしてガソリソ

内燃式エソジソの三つがすなわちそれである︒これらは互いに競合していたが︑最も馬力と安全性に優れたガソリン

内燃式エソジソが勝利をおさめた︒これらの中心となる基礎技術のことを︑アバーナシーは︑コア.コソセプト

(8話8旨受)と呼んでいる︒コア・コンセプトは︑それを中心として各々独特の応用可能性をもっていた︒そしてガ

ソリソ内燃式エンジソがコア・コソセプトとして定着すると︑自動車産業の諸企業は︑例・兄ばエソジソの位置とかシ

ャーシの形状とか︑あるいはブレーキの構造︑ボディーの形状等々の諸問題に次々と取り組み始めることとなった︒

ここで注意を要することは︑これらの問題が階層的に︑すなわちある問題が他の問題の前提となるかたちで存在して

いたということである︒例えば︑エソジソの位置をフロソト・エソジソにすると決めた時からエソジソと後車輪の連

動をいかにするかという問題が生じてくる︒その解決法にもいくつかの代替案がある︒例・兄ば︑チェーソで連動する

かあるいはクラソク・シャフトを用いるか等である︒ここで選択をすると︑さらにまたそこに独特の解決されねばな

らぬ問題が生じてくる︒こうして︑様々な代替的選択肢の中から︑例えばフロント.エソジン︑水冷式︑ドラム・ブ

(7)

技 術革 新 の 戦 略 的遂 行 に つ い て 77

レーキというように選択されていった︒そして最も技術的に優れまた顧客にも人気のある普遍的な製品が定着してく

る︒これをアパーナシーはドミナソト・デザイソ(畠︒巳冨三畠鼠管)と呼んでおり︑自動車における最初のドミナソト.

デザインの達成をT型フォードにおいている︒すなわち︑デザイソ・ハィアラーキーは︑先ずその中心となる基本的

な技術体系が確立され︑その後しだいに付

属的な諸構造が定着されてゆく姿として把

えることができる︒そこには︑いくつかの

↑升代替的なコア三ソセプトとさらに多数の

闘ア油代替的な応用経路が存在しているご﹂れをアコ︾名略図に示すと︹図ー1︺のようになる︒,.

刑1は︑ある製品に関する観点から︑事後的

げ 覧 た 技 術 の 発 展 罷 経 路 で あ る と い 歪 ﹂

〔図 覗 自動 代 替 的 コ ア ・コ ン

セ プ ト

ガ ソ リン内 燃式 工 ンジ ン

占̲ト99 白 占1ζ 卍レ

自 口黙 出幕 紬

冠 気 エ ン ジ ン

シリンダー の 形 状

エ ンジン の 位 置

厨 臓

ン ヤ ー ン

の形状

ボ デ ィー の 形 状 太 線:ド ミナ ソ ト ・デ ザ イ

とができる︒これに対して本論でいう技術

の発展可能経路は︑ある特定の製品や製法

にとらわれることなぐ︑基礎になる知識や

技術を中心に据えて︑そこから想定できる

応用可能な方向のバラエティーを︑解決さ

れるべき問題のハィアラーキーとして描い

(8)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 7$

〔図 一皿〕 技術 の発展 可能経路

ガ ソ リ ン の 爆 発 力

直接的 な 推進力 と

しての利用

回転運動 への変換

ピ ス トン

ガソ リン内 燃式機関 ガ ス ター ビ

ン との 結 合

1

ジ ェ ッ ト エ ン ジ ン

チ ェー ン シ ャフi' フ4ペ

動翼

エ ン ジ ン のf、羅 フ0ペ ラ

の 形 状 ll 1

リア ・ エ ン ジ

フ ロ ン

ト ・ ノ ン ノ  

腿塩コ i量算

プ ロペ ラ 飛行機

ジ ェ ツ ト 機

たものである︒このような視

点から︑自動車におけるデザ

イン・ハイアラーキーを見な

おすならば︑それはガソリソ

の爆発力を何らかの動力とし

て応用してゆく過程であった

と見ることができる︒そこに

は爆発をいかにして回転﹁運動

に変換するか︑またその際の

安全性をいかに確保するかと

いった問題があった︒そして

ガソリン内燃機関という一つ

の基礎技術(コア・コソセプト)

が生み出されたが︑それだけ

ではまだ実用的な最終製品で

ないことは言うまでもない︒その基礎技術を応用開発すべき方向には︑例えば車輪との連動の問題や燃料の安全な貯

蔵の問題︑あるいは制動装置をいかにするかなどといった問題が︑次々と階層的に存在していた︒そして︑それらの

各々の問題に対する解決方法には代替的ないくつかの解法があり︑それらの解法はさらに独特の新たな問題をもつと

(9)

捜術革新の戦略的遂行について  

四 いうように樹状をなしていた︒特定の製口㎜にとらわれずに︑基礎知識ないし基礎技術を中心に据えて応用可能な分野のバ三ティー姦いた技術の発展可能経路の内には︑例えばプ・ペラ飛鶴を含めることができる・つまり・ガソ

リン内燃機関というコア.コンセプトを風力に変換する応用経路の末端に飛行機をおいて考えることができるからで

ある︒.﹂の場A慨も︑例えば.フ・ペラの形状とか機体の形状などの諸問題が階層的に設定されていったことは言うまで

もない︒さらに︑ガソリンの爆発力の運動エネルギへの変換という基礎知識を始点に据えれば・内燃機関とは異な

.

と.﹂ろで︑毒諜れたド,︑ナント.一アザインは︑永久柴変であるわけではな︑様々な状況変化によって再検討される可能集ある︒すなわち︑憂棄却された代替的選択肢が嵩討されたり・新しい湊肢が考案されたりする可薩がある︒.︑の馨︑憂達成された技術形態の変化は︑大きく二つに分類することができる・すなわち・

その整は技術の忠をなす.ア.コソセプトは従来のままで︑そのより下位の諸部分が変化する響であり・第二は技術の夢.コンセプトが変化し︑従って技術のハイアラ準杢体が大ぎく変化する場合である・この二つの技

術変化は︑勿論時間的に並行して告ていることもあり︑また下位部分の変化からしだい緩心へと変化が波及して

ゆくなど︑その契機そのものは判別しがたいことも多い︒しかし︑この二つの類別は技術変化の性質上かなりはっきりとした区騎を有し︑さらにそれがその後の技術の方向やひいては企業組織の行動に与える影響においても槽当に歴

然とした相違がある︒その意喋でこの二つの技術変化の類別ぱ︑技術的な内容に即しつつかつ企業組織の経営行動を

説明する上でも重要な基準となり得ると思われる︒

以上のように︑ある技術革新の新規性を測る際に︑中心をなすコアニンセプトにおいて今までにないものをもた

らしているのか︑それとも中心的な技術は同じだが︑その応用の方法において変化をもたらしているのかを;の尺

(10)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 SO

度とすることができるものと思われる︒勿論現実にはこの尺度といえども︑必ずしもはっきりとした区別をつけかね

る場合もあるであろう︒また︑製品藁法のどこを4・心的な技術であるととら・砦かも厩に明示しにくい.﹂ともあ

るであろう︒従って・それはコア・コンセプトに変化がある場合とない場合という二分化よりはむしろ︑技術変化が

中心的な部分に近い場合とより遠い場合︑あるいは中心部分における変化の度合いが大きい場合とより小さい場合と

いった連続量で表現した方が現実妥当性杢局いかも知れない︒このようにして︑コア.コソセプトへの影響の程度を

尺度とした︑技術的新規性の軸を提示することができる︒

2技術目標

前節で示されたように︑技術の発展可能経路1すなわちある基礎知識垂穫術が︑具体的な新製.叩.新製法と

して実現されてゆくプ・セスーは︑技術的な問題と解法のハイZ了†として把・きことができる︒技術の発展

罷経路は・その応用のバラエティ乏よってその幅の広さを決定づけられる︒.あ場合その応用の方向を開拓し︑

さらにその応用面において焦点となってゆく諸問題を限定し設定してゆくものは何であろうか︒それは一つには研究

者や技術者の発想に依存しており︑また一方では市場の要請に依存している︒それをよりつきつめて考・兄るならば︑

その時々に新しい製品や製法に対して求められている機能︑その製品や製法において目指されている機能が︑その時

々の問題の設定や配置を導き︑その問題に従って様々な技術的な発明や工夫が生み出されていると考︑兄ることができ

る・つまり・応用における諸問題は巣る偶然によって設定されるのではなく︑一盤新製︒叩や新製法に求められ︑

その達成が目指されている諸機態よって導かれるのである︒例えば︑自動車の例でみてみるならば︑そこに求めら

れ達成が目指されていた馬力・速度・安全性といった諸機能が︑様々な具体的な技術的諸問題を階層的に導いていっ

(11)

技 術 革 新 の戦 略 的 遂 行 につ い て 81

たのである︒

このように︑製品でも製法でもユーザーによって期待され︑あるいは生産者によってその達成が目指されるような

いくつかの機能がある︒新製品.新製法の具体的な開発は︑これに導かれて進んでゆく︒このような機能を技術目標

と呼ぶことにしよう︒しかもそれは通常単一ではなく︑いくつかの機能がある︒従って︑技術目標は集合を成してい

る︒

さらに︑技術目標の集合内のどの機能が技術的に優先的な目標(重点的な目標)とされるか︑あるいはその集合の内

容そのものにどのような要素が含まれるかは︑その時々の技術的な状況や市場の状況などによって異なってくる・例

えば︑自動車を例にとって説明するならば︑速度・馬力・耐久性・安全性・外観・低価格・燃料効率などといった技

術目標の集合がある︒これらの技術目標のうち︑自動車産業の初期には︑速度や安全性の向上が技術目標として高い

優先順位をもっていた︒これらの目標が達成されるに従って︑次には外観の良さがしだいに高い優先順位を得・また

居住性などの新しい技術目標が付加されていった︒そして︑オイル・ショックという環境変化によって・燃料効率の

良さとい畠標蕎い箋順位を占めるようになつ(混・また・銃器の場合であれば・命霧度.連続発射性.鑑化

.修復容易性などがその技術目標の集合であると考えられる︒この場合にも︑集合の内容や優先順位は時代とともに

例 え ば 命 中 精 度 の 向 上 か ら 連 続 欝 性 へ と 変 化 し 隠 麗 ・ 以 上 の よ う 姦 術 目 標 の 集 合 は ・ 勿 麹 法 ξ い て も 言 う

ことができる︒

ある技術革新に対して技術目標に変化があるか否かを一つの基準として︑類別することができる︒技術目標におけ

る大きな変革は︑通常その製品ー市場に大きな影響を与える︒それは︑異なった機能は異なるニーズを満たし得るか

らであり︑また新しいニーズを喚起することができるからである︒ところで︑技術目標の変化にもその集合の内容が

(12)

商 経 論 叢 第22巻 第2号

〔図 一 皿 〕 技 術 革 新 の 類 型(1)

A

B

'

C

D

技術目標内容の変化主として優先順位

の新規︑性の変化

に︑大まかではあるが重要な目安として︑コァ.

一州 陶険 」とイ小,ゴ1・

‡斤 甘三'i'{三

コア ・コ ンセ プ ト の 変 化

主 として下位部分 の変化

コソセプトの変化いかん︑

という尺度を書き入れると︑技術革新は四つの種類に類別される︒以下︑

ωA型革新

この型の技術革新は︑技術のコア三ンセプトが顕著に新しいものとなり︑かつまたその技術目標の集合において

も何らかの新しい目標が付加されたり︑また逆に削除されたりして︑その内容が大きく変化している.﹂とが認められ

る革新である・この型の技術薪は︑今までに類例のない製品を全く新しい技術形態で創り出す型の技術革新である︒

 ζの例としては・プロペラ飛行機や蒸気⁝機関車の発明・開発︑互換性部品生産方式に基づくアッセンプリー.ライン 全く新しいものになるというものから︑集合内の目標

の優先順位が多少変化する程度のものまで︑連続的な

つらなりがある︒従って︑技術目標の変化は︑その集

合の内容変化がある場合と優先順位の変化にとどまる

場合とに大別できるが︑それははっきりとした二分法

ではなく︑集合内要素の変化がみられるものから主と

して優先順位の変化にとどまるものまで︑連続的にと

らえることが現実的である︒

さて︑前節で示された技術的新規性の基軸と︑本節

で示した技術目標の新規性の基軸とによって一つの平

面を描くことができる︒そして︑その各々の軸の中程

および技術目標の集合要素の変化いかん

これらを順次説明してゆこう︒

(13)

技 術革 新 の 戦 略的 遂 行 に つ い て 83

の発明.開発︑産業用ロボットによる生産様式︑真空管などをあげることができる︒プロペラ飛行機は﹁空を飛ぶ﹂

という従来にはいかなる製品においても満たされ得なかった技術目標を達成したと同時に︑独特のプ偉ペラによるエ

ンジソを開発した︒たしかに︑ガソリン内燃式のエンジンは原理的には自動車に川いられているものと同じであった

が︑しかしそれを風力に変換する際の技術革新にはかなりコア・認ンセプトに立ち入った革新が必要とされたと考え

る︑芝ができる︒蒸気機関車においても︑蒸気機関という新しいコア・コンセプトの発明肉発と迅速なる大量輸送

という新しい技術目標の追求が認められる︒また︑アッセソブリー・ライン生産方式は︑互換性部品による大量生産

という新しい技術目標を追求しており︑それを支えた中心技術に精度の高い製造技術・工作機械があった︒さらに・

最近の産業用ロボットは︑このアッセンブリーの概念を崩しつつあり︑その中心技術もマイク旧・エレクトロニクス

という新しいものに変化している︒真空管は︑信号の増幅という新しい技衛目標を︑真空中で金属を熱する斬新なロお ア.識ンセプトによって達成した︒

㈹B型革新

レ﹂の型の技術革新は︑技術のコア.コソセプトにおける変化は顕著であるが︑その技術目標の集合にはほとんど変

化がないか︑あるいは多少の優先順位の変化が見られるに過ぎないものを言う︒例えば︑電気機関車やジェット機の

発朔開発などは典型的である︒その他初期の自動車や︑初期のトランジスタの発明・開発もあてはまるかもしれない︒

これらの新製品は︑その出現以前にその代替品が存在している︒その意味で︑技術目標の変化は少ないと考えられる︒

例えば︑自動車は当初馬車の代用品と考えられており︑その技術目標はほぼ馬車に求められているものに等しかった︒

また蒸気機関車から電気機関車への革新や︑プロペラ飛行機からジェット機への革新などにおいては︑その技術目標

はまずほとんど変化せずに受け継がれているといって良かろう︒ただし︑ここにあげた例では︑いずれもその中心を

(14)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 84

なす基本的な技術形態が著しく変化している︒初期のトラソジスタは︑真空管に求められていた技術目標を継承してお いたが︑そのコア・コソセプトは︑半導体の利用という点で明らかに変化していた︒また︑ICにおける集積化をよ

り高度に追求している最近の超LSIもその一例と考えられるように思う︒この場合︑集積度の向上という技術目標

は変わらないが︑それを実現するための技術に︑例えばメモリ・セルの微細加工などコアな部分において従来とは異

なる技術を見い出すことができるからで襲・製法の例として︑ム壱ソグ・アッセソブリーライソをあげておこ

う︒この製法においては︑求められている技術目標は︑従来のアッセンブリー.ライソ方式と変わらないが︑電力式

のベルトコソベアによって部品の移動を実施した点に中心技術の大きな変化をみることができる︒

㈹C型革新

この型の技術革新は︑いわば製品や製法に関する発想の転換に基づく技術革新であり︑技術のコア.コソセプトに

変化はないが︑技術目標の集合に内容的な変化がみられるような技術革新である︒つまり︑既存のコア.コソセプト

に基づく技術を︑従来とは異なった機能に重点をおいて変化させてゆく革新である︒この型の技術革新は︑技術の発

展可能経路の比較的下位の部分においておこなわれる︒といっても︑これが企業ないし産業に与・兄る影響は極めて大

きい場合が少なくない︒この型の技術革新の例として︑先ず連発銃の発明をあげておこう︒銃器においては︑連発銃

の出現以前は︑主として命中精度の向上がその技術目標であり︑極めて高い命中精度が達成されていった︒しかし︑

連発銃は︑その製品における発想を転換させ︑むしろ命中精度を犠牲にしても︑連続発射性を追求したのであった︒

結果として︑連発性のもつ優越は明らかなものとなってゆき︑それ以後の銃器の発達の方向に極めて大きな影響を与

えることとなった︒

次に︑トランジスタのIC化への革新をこの型の技術革新の例としてあげることができる︒当初トラソジスタは電

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技 術革 新 の戦 略 的 遂 行 につ い て 85

流の増幅のみを技術目標としていたが︑ICは集積化という新しい技術目標を達成したのであった︒この場合技術の

コア・コソセプトにおいては︑ほとんど変化はみられない︒

働D型革新

この型の技術革新は︑従来のコア・コソセプトに基づいた下位の技術的問題を︑従来の技術目標の集合に従って改

良してゆく型のいわば漸進的な技術革新である︒実例としては︑自動車産業の成長過程でみられた車体の軽量化やエ

ンジン馬力の向上︑あるいはICの集積化向上における革新などをあげることができる︒この型の革新は︑主として

ある種の技術が未成熟な段階において重要な役割を果たす︒すなわち︑まだ未成熟な製品や製法の信頼性を高めるた

めに不可欠な革新であるといえよう︒さらに︑興味深い点は︑この種の改良型の革新によって製品・製法が成熟され

るに至ると︑さらなる改良のためには︑どうしてもコアに近い部分に革新が必要とされるようになってくるという点

である︒従って︑D型の革新努力の継続はB型革新へのモビリティーを生み出してくると考えられる︒それは例えば

ICにおける集積化努力が︑遂にはメモリ・セルや微細加工など極めてコアに近い部分での技術革新を生み出したと

(12)ころに見ることができる︒

我国の企業は改良に強いと言われている︒しかし︑その弛みない改良への熱意と努力が︑遂にはコア部分での変革

をも生起せしめ︑もはや単なる改良とは言い難い技術的新規性の高い革新が達成されている現実は︑D型の革新努力

の継続がB型革新への可動力を生み出す現象を物語っていると言えるのではないだろうか︒一見技術的には連続に見

える高度化も︑実はそこに不連続なある一線が存在するように思われる︒例えば︑十階建てのビルが二階家の改良で

はなく︑また五十階建てのビルが十階建てのビルの単なる改良ではないように︑良く見るとそこにはコア・コソセプ

トの変革がある︒その一線をどこにおくかは︑個々の事例によって異なり︑また必ずしも明白ではなく困難であるが︑

(16)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 86

その祠線を越えて既存の技術目標をより高度に追求しようとするとき︑

れざるを得ず︑B型の技術革新へと移行してゆくはずである︒ 技術革新はコア・コンセプトの変革に向けら

3開拓市場の新規性

技術革新の分類において︑その革新が市場に対してどのような影響をどの程度与えるかといったことは大変重要な

基準となる︒一般に︑市場への影響力が大きいことが技術革新の成功を意味する︒従って︑技術革新の成功を測る尺

度として︑市場への影響の大きさをあげることができよう︒しかし︑本論では技術革新を戦略的に遂行するためゐガ

イド・チャートをつくることを目的としている︒従ってこのような目的に対して︑市場への影響力の小さい技術革新

というものを分類することは意味がないように思える︒つまり︑初めから市場への影響力の小さい型の技術革新を︑

戦略的に追求することはまずあり得ないからである︒

このような観点から︑本節では技術革新の市場への影響を︑一つには既存製品や製法との買い替えが起こるような

場合と︑全く新しい市場を開拓する場合とに主たる分類規準をおきながら︑開拓市場の新規性という第三の基軸を提

示したい︒従って︑ここでは市場に対するかなり大きな影響を前提としつつ︑その新規性を問題にしている︒本来︑

開拓市場の新規性は︑市場に対するイソパクトとは必ずしも同義ではない︒イソパクトという意味からすれば︑大が

かりな買い替えは︑小さな新市場の開拓よりもイソパクトが大きい︒しかし︑本論ではその市場規模について一定の

大規模性を前提としているので︑新しい未知の市場を切り開いてゆくような技術革新は︑市場への影響力も大きく︑

非常に大きなイソパクトを与えることになる︒

また︑開拓市場の新規性は︑既存市場の塗り替えと全く新しい市場の創造という区別を有しながらも︑連続的な変

(17)

技術革新の戦略的遂行について

87

化量としてとらえることができよう︒すなわち︑ほぼ完全に既存市場の塗り替えといえるものから︑既存市場の塗り

替えを主としながらも少しつつ新市場を開いてゆくもの︑さらに全く新しい市場を築いてゆくものまであり得る︒

この概念の理解を確かなものにするために︑いくつかの実例を考えてみることにしよう︒ほぼ完全に既存市場の塗

り替えをもたらした技術革新の例としては︑電気カ

ミソリをあげることができるであろう︒これは従来

のカミソリよりも扱いやすく便利であるために極め

て大規模な買い替えを生じたが︑しかし従来力︑ミソ

のりを使わなかった顧客層にまで市場を広げているわ

辮 け で は な い ・ 寒 螢 光 灯 の 実 用 化 嘆 主 と し て 白

類の熱灯との買い替えを生じたが︑これはまた例えば広新解此口用のネオソ・サイソなどのように︑それ以前には

技電灯のあまり用いられなかった用途に新しい市場を

朗開いていった・ここには既存市場における買い替κ

咽と︑新市場の開拓とが見られる︒さらに︑新市場開

拓の実例としては︑パーソナル・ロンピュータをあ

げることがでぎるであろう︒パーソナル・コソピュ

ータは︑小型化・操作手順の簡素化・低価格化によ

って︑従来はコンピェータを用いなかった顧客層に

技術員標 の新親性

A

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開 拓 市 場 の 新 規 性

i\ \ 、、

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B‑1 技術的

新規性

(18)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 88

まで市場を拡大している︒

さて︑前節で示された技術革新の類型図にいま一つ本節で示された開拓市場の新規性を基軸として加えると︑技術

革新は八つの類型に分類されることとなる︒(図lW︺参照)

いま︑A型の技術革新のうち新しい市場を切り開いてゆく型の革新を>1昌とし︑既存市場において既存の製品・

製法との買い替えを生じてゆく型のものを﹀ーb︒としよう︒同じように︑B型の革新で新市場を築いてゆくものを切

(14)iμ︑既存市場を塗り替える型のものをbσーb︒とし︑以下︑同様にOーごO‑O矯OーごOlb︒とする︒以下︑

順次これらについて説明を加えてゆく︒

ω>IH型の技術革新

この型の技術革新は︑技術・機能・市場ともに最も新規性の高い技術革新であり︑その実例としては︑プロペラ飛

行機や真空管︑コンピュータなどをあげることができよう︒この型の技術革新は︑それ以前に類似する代替的な製品

・製法が存在しないのであるから︑例えば人類が初めて酒をつくったとか︑あるいは初めて船をつくったとかいった

草創的な革新に類するものである︒

㈹>lN型の技術革新

この型の技術革新は︑基礎となるコア・コソセプトが新しく︑また技術目標も新しいが︑新しい市場を開いてゆく

というよりは︑むしろ既存の何らかの市場を塗り替えてゆく効果をもつ︒一般に︑市場と技術目標とはかなり密接な

つながりを有し︑新しい技術目標の達成は新しい市場を開いてゆく可能性が高い︒しかし︑新しい技術目標の集合が

既存製品の技術目標を部分集合とするようなかたちになっている場合には︑(しかもその集合全体の大きさがあまり変わ

(14)らない場合には)主として既存市場の塗り替えを生じる︒この型の技術革新の例として︑コソタクト・レソズをあげて

(19)

技 術革 新 の 戦略 的 遂 行 に つ い て 89

おこう︒コソタクト・レソズは︑直接眼球に小さなレンズを貼り付けるため︑コア技術(レソズ)における革新が必

要とされた︒そして︑その技術目標としては︑外観は眼鏡をかけていないように見えるという新しい機能を達成して

いる︒従って︑これは市場での人気を集めているが︑しかし︑これは主としてメガネとの買い替えを生じたのであり︑

新市場を開拓したとは言い難い︒なぜならば︑コソタクト・レンズの出現によって︑従来メガネを必要としなかった

人にまで顧客層を広げたとは思われないからである︒

また︑東レによって開発された平版印刷の技術などもこの型の技術革新の一例と考えられる︒東レの平版印刷は︑

(15)光のあたった部分だけシリコソの色が落ちないという︑基礎研究による知識を印刷に応用し︑開発に成功した︒この

技術革新は︑コア・コソセプトにおける新規性が高いばかりではなく︑従来の植字の手間をはぶくという新しい技術

目標をも達成していた︒しかし︑この平版印刷は︑主として既存の印刷機との買い替えを生じるのであって︑未開拓

の市場を切り開いてはいない︒

㈹しdーμ型の技術革新

この型の技術革新は︑コア・コソセプトにおける革新がみられるが︑技術目標そのものは︑何らかの他の既存製品

・製法とあまり変わらない集合をもっている︒しかし︑その技術目標の達成の水準において著しい進歩をみせ︑その

故に市場を新たに広げてゆくような効果をもつ︒例えば︑自動車に求められていた諸機能は当初馬車に求められてい

たものと変わらなかったが︑その達成の水準において︑例えば速度・操作容易性・耐久性.低価格などにおいて著し

い進歩を遂げていった︒それ故︑馬車から自動車への買い替えは勿論のこと︑それまで馬車を持たなかった人々にま

でその顧客層を広げていった︒

㈹しロi駆︒型の技術革新

(20)

90 商 経 論 叢 第22巻 第2号

この型の技術革新では︑技術のコア・コソセプトは新しくなっているが︑技術目標においては︑何らかの既存製品

の技術目標を継承している︒さらに︑その市場への効果は︑既存製品・製法との買い替えが主体となる︒この種の革

新の例としては︑真空管に対するトランジスタや︑プロペラ機に対するジェット機︑蒸気機関車に対する電気機関車

をあげることができよう︒

M Oー戸型の技術革新

この型の技術革新においては︑技術の中心をなすコア・コソセプトは従来のままであるが︑新しい技術目標を追求

することによって︑新しい市場が開拓されてゆく︒この技術革新は︑技術の発展可能経路の比較的下位の部分におけ

る改善・工夫によって行なわれる︒例えば︑初期のICの場合は︑基礎をなす技術体系はトラソジスタと同じであっ

たが︑それを集積化するという新しい技術目標をめざしていた︒集積化は︑これまでトラソジスタが用いられなかっ

た分野にまでICの市場を広げてゆくとともに︑コソピュータの小型化を可能にし︑パーソナル・コソピュータへの

革新につながってゆく︒パーソナル・コンピュータは︑それ以前にはコソピュータを用いなかった人々へ新しい市場

を切り開いている︒

このような例は︑他の製品においても︑小型化・軽量化・操作手順の簡素化によって︑専門家から一般消費者へと

顧客層を広げていく過程にみることができる︒

㈹O‑b︒型の技術革新

この型の技術革新は︑OIH型と同じように︑既存の基礎技術に基づいて︑異なる技術目標に重点をおいた技術革

新であるが︑その市場への効果が︑主として既存製品との買い替えにあるものである︒例えば︑単発式の銃器に対す

る連発銃や︑スタンダートな自動車に対する大型高級車などをこの例としてあげることができるであろう︒一九二〇

(21)

技 術革 新 の 戦略 的 遂 行 に つい て

年代からアメリカ霞動車産業においては︑スタソダードな自動車の市場が飽和しはじめていた︒このとぎGMは︑居

侮性・外観などを重視した大型高級車を生産し︑大きな需要を喚起した︒市場では標準車から高級車への大規模な買

(16)い替えが生じ︑それはフォードに大打撃を与えることとなった︒

圃Ol鴎型の技術革新

この型の技術革新は︑既存の基礎技術に基づいた製品・製法に対して︑言わば地味な改良や工夫を積み重ねてゆく

革新である,しかし︑この地味な改良も︑ある機能の達成を著しく高めることがある︒このとき︑その製品の精度.

倦幅性・性能は著しく高められることになる︒それによって︑それ以前は得られなかった大きな需要を引き出すこと

ができる︒このような革新は︑製品や製法が技術的に未成熟な段階で特に重要な役割を果たす︒

鰯Oib︒型の技術革新

この型の技術革新も︑Olμ型と岡じように︑ある製品・製法に対して︑技術の発展可能経路の比較的下位部分に

おける工夫・改善を積み重ねてゆく革新であるが︑その市場への効果は新しい市場の開拓よりもむしろ既存市場にお

ける買い替えが主体となる︒すなわち︑改良・改善の結果︑性能の高められた製口⁝⁝.製法が︑既存のものと買い替・兄

られるのである︒

皿 技 術 革 新 の プ ロ セ ス

本牽では︑前章で明らかにされた技術革新の諸類型をふまえつつ︑どのような状況においていかなる型の技術革新

が追求されるぺきか︑またその実施過程はどのようになされるべきかを論じてゆく︒

(22)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 92

1各類型の選択

前章で明らかにされた技術革新の各類型のどれを重点的に追求すべきかは︑その産業の動向︑すなわち製品・製法

ー市場の状況に依存する︒一般に︑産業の成熟度が高いほど技術的に大きな変革が必要とされるものと思われる︒産

業の成熟度は︑現在の製品・製法のコア・コンセプトの成熟度と︑その市場の成熟度の増加関数である︒

Oコア・コソセプトの成熟度

コア・コンセプトの成熟度をはかる一つの主要な規準は︑現在のコア・コソセプトに基づいて︑既存の技術目標の

達成度を向上させ得る改良や改善の余地がどれくらいあるかということである︒すなわち︑技術の発展可能経路の中

心部分を固定したままで︑発展可能経路の比較的下位部分を改善・改良することによって︑どれほど既存の技術目標

の達成度を高められるかということである︒もし︑技術の発展可能経路の比較的下位部分における工夫・改善・改良

によって︑技術目標の達成度が向上する余地が大きければ︑そのコア・コソセプトは未成熟であるということができ

る︒このような状況においては︑コストの面でもリスクの面でも比較的高くつくコア・コソセプトの革新よりも︑技

術的により下位に属する部分での改善が進められるべきであろう︒逆に︑そのような下位部分での改善・改良によつ

ては︑もはや技術目標の達成度の向上が期待できないときには︑コア・コソセプトは既に成熟しているとみることが

できる︒このような状況においては︑コア・コンセプトの刷新が考慮されるべきであろう︒コア・コンセプトの成熟

度は︑既存の技術目標の達成度向上に貢献できる改善・改良の余地の減少関数である︒

さらに︑コア・コンセプトの成熟度をはかるいま一つの主要な規準は︑そのコア・コンセプトを中心として描き得

る発展可能経路のバラエティーの実現度である︒発展可能経路のバラエティーにおける実現度が高いほど︑そのコア

・コンセプトは成熟している︒さらに︑コアコソセフトの成熟度は︑新たに描き得る発展可能経路が見い出せる可能

(23)

技 術革 新 の戦 略 的遂 行 に つ い て 93

性にも依存している︒これは︑換言すれば︑新たな技術目標を見い出す可能性の大きさである︒もし︑現在のコア・

コンセプトに基づいた製品・製法として︑何らかの新しい技術目標を追求し得るものが考案できる可能性が大きけれ

ば︑現在のコア・コンセプトは未成熟であると考えることができる︒逆に︑現在のコア・コソセプトで追求できる技

術目標として新しいものが考案される可能性が小さければ︑そのコア・コソセプトは成熟しているとみることができ

る︒故に︑コア・コンセプトの成熟度は︑未開拓の技術目標のバラエティーの減少関数である︒

o市場の成熟度

市場の成熟度とは︑市場の飽和の程度と同義である︒市場の飽和の程度とは︑ある製品および製法に対する潜在需

要をどれくらい喚起しているかを意味する︒従って︑もしも大量生産による低価格化やマ1ケッティソグ努力によっ

て市場を拡大できる可能性が大きければ︑その市場は未成熟な状態にあるといえる︒従って︑市場が成熟していると

〔図 一V〕 革 新類型 の選択①

D型 革新

畿 騨 の余地ド 煙

蝉 誠 糺 ていド

低 価 格 化マ ー ケ テ ィ ン グ

yes→C型 革 新

郷 

!

新た な技術 目標 の 設定 ・追求 は 可能 か

⊥n・

A型 革新 B型 革新

きには︑低価格化やマーケッティング努力によって喚起できる需要

の余地は少ない︒

さて︑以上のような規準によって産業め成熟度を測定し︑その程

度に従って︑技術革新の進め方︑革新の類型が決定されるべきであ

る︒この意思決定の流れを︹図lV︺に要約しておこう︒

ところで︑産業の成熟度はその時点その時点での意思決定者の判

断に委ねられている︒その判断に反して︑産業の動向が思わね動き

をみせることもあるかもしれない︒ある企業がある産業を成熟した

とみている時に思わぬ改善や発想の転換から大きな活性化・流動化

(24)

商 経 論 叢 第22巻 第2.̲ 94

の波が生じることもあり得る︒こう考えてみると︑真の産業の動向は多分に事後的にしか分からぬもののようにも思

える︒しかし︑また意思決定者の判断が産業の動向を大ぎく左右していることも事実である︒この点からみると︑意

思決定者の判断が産業の動向を決定していると考えることもできる︒大規模企業の寡占的状況下において︑この側面

はいっそう強まる傾向にあるように思われる︒実際︑産業の真の行く方は︑一方では科学技術的な意味での因果の流

れに依存しつつも︑他方では産業内の生産者や消費者の判断に依存して決まってくるものと考えられる︒企業の意思

決定においては︑この総合的な判断をできるだけ適切に下してゆくことが︑適切な革新類型を選択するための必要条

件である︒

技術のコア・コンセプトを変革する型の技術革新(A型およびB型)は︑いうまでもなく技術的新規性の非常に高い

革新であり︑企業の生産システムに及ぼす影響も大きい︒従って︑︹図lV︺においてもみられるように︑この種の

革新は一番後まわしにされる︒大きな発展の可能性をもっている反面︑コストも高くまたリスクも高いこの種の技術

革新は︑企業にとっては一つの賭であるといってもよい︒このような革新は︑現在のコア・コソセプトがまだ未成熟

な段階にあり︑改良・改善によって市場の拡大がはかれるような時には︑敢て行なわれるべきではない︒また︑現実

にもそれば回避される傾向にある︒しかし︑産業が成熟し︑さらに衰退しつつあるとぎ︑そしてその原因がコア.コ

ンセプトの成熟にあるとみられるときには︑この飛躍への挑戦を躊躇すべきではない︒このような時にその挑戦を回

避して︑小手先の改善・改良に終始しているとするならば︑その企業は︑衰退産業と運命を共にすることになるだろ

う︒また︑産業の成熟・衰退の他にも︑企業を敢て新たなコア・コソセプトへの飛躍へ動機づける理由もある︒それ

は︑現在のコア・コンセプトにおいて︑不動の地位を築いている競争他社があるとぎ︑この競争関係を逆転しようと

する意図である︒すなわち︑現在のコア・コソセプトに基づいている以上︑その支配的な競争相手を凌ぐことは困難

(25)

95 技 術 革 新 の戦 略 的遂 行rつ い て

だからである︒さらに︑以上のような産業状況とは無関係に︑純粋に研究開発の成果として︑新しい有望なコア◎コ

ンセプトが示され︑その追求が動機づけられることもあるかもしれない︒ただし︑この場合にも産業の動向をチェツ

クしておくことは必要であろう︒新しいコア・コンセプトの契機は以上三つの場合が考えられるが︑A.B型の技術

究究革新が実際に進められ研研

醤 る 際 に は ︑ そ の 技 術 的

〔図 一W〕 革新 類型 の選択②

新 し い コ ア

コ ン セ ブ。

一  

採用するか

nQ

yes  

l

Fi 技 術 目標 におけ る

L一 脚 一 り ・

新規1生

棚1

小 小1f

既存の代替 既存 の技術 目標達成

市場 度 の向上の程度

無 無 有 有

響 響 擾 婆

̲」̲̲ r r i J̲̲ i

, 一 楠 一 一

f'楠 糟 欄 一 「

A‑1 C一 A‑‑2 C‑‑2 i D‑‑1 B‑2 D‑2

i

.'i. 型 型 型 型 型 型

̲̲̲̲」 L̲̲̲̲」 L̲̲̲」 ̲.̲̲̲」

口:研 究 開 発 主 導 型 i二二㍗ 市場 一1三導 型

新規性の高さから︑研

究開発主導型とならざ

るを得ない︒これに対

して︑既存のコア・コ

ソセプトを固定してお

くC型およびD型の技

術革新は︑主として市

場二iズの動向に目を

くばり︑その要請と技

術的可能性とをすり合

わせてゆく点で市場主

導型と言うことができ

るであろう(︹図‑瓢︺

(26)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 90

参照)︒

そこで︑次節以下では︑研究開発主導型(A型およびB型)の技術革新のプロセスと市場主導型(C型およびD型)の

技術革新のプロセスを順次描いてゆきたい︒ここでは︑革新の計画を中心としてその流れをとらえてゆく︒勿論︑革

新は計画とは相容れないものであるという考え方が︑現実の深い観察から生まれてるくことは十分に承知している︒

しかし︑技術革新が計画と相容れない行動であるとしても︑企業がそれを主体的に進めようとするときに︑それをた

だ偶然にまかせておくという訳にはいかない︒まして︑現代の大規模製造企業において行なわれる技術革新は︑大が

かりな組織行動である︒そこには多種多様な諸力を調整すべき計画や目標(それがいつれ頻繁に変更を余儀なくされるに

しても)が必要であることは︑自明であろう︒本論では︑その必要とされる計画とその実行について︑概略的な議論

に過ぎぬながらも描いてみたいと思う︒

2研究開発主導型の技術革新

研究開発主導型の技術革新のプロセスは︑研究開発の成果としての新しいコア・コソセプトが提示されるところか

ら始まる︒斯様な成果が生み出されるためには︑特に基礎レベルでの研究の積み重ねが必要である︒日頃積み重ねら

れた基礎知識が︑何らかの具体的な方向に結集されることによって︑新しい基礎技術(コア.コンセプト)が生み出さ

れるからである︒次には︑この提示された新しいコア・コンセプトを評価し︑その採否を決定しなければならない︒

ここで︑新しいコア・コソセプトに基づいた製品︑製法の開発が決定されると︑その開発計画が立てられることとな

る︒

ここにおいて︑新しいコア・コンセプトが生み出されるまでの過程は︑研究開発部門を主体としており︑最も創造

(27)

技 術革 新 の 戦略 的遂 行に つい て 97

性に畜んだ段階である︒この段階は︑全社レベルでの計画にはのりにくい︒研究部門の創造性を高めるためには︑研

究者の動機づけや研究者相互の交流・研究管理者の育成筆必要差るであ覧・ところで・以下では・新しいコア

・コソセプトが提示された後︑その評価のプロセスと︑採用されたコア・認ソセプトに基づいた新製品・製法の開発

(17)計画︑およびその実行のプロセスを描いてゆくこととする︒

ω新しいコア・コンセプトの評価

新しいコア.謙ンセプトを評価するためには︑新しいコア・コンセプトの将来性を検討するとともに︑その実行可

能性を検討しなければならない︒

(18)ω新しいコア・コソセプトの将来出性

ここに言う将来性とは︑新しいコア・コソセプトに基づく新製品・製法が︑事業分野としてどれくらいのバラエテ

ィーをもち得るか︑また技術目標としてどれくらいのバラエティーをもち得るかという見通しであり︑さらにそれが

どれくらいの市場性と社会性をもち得るかの可能性を意味する︒

事業分野のバラエティーとは︑新しいコア・コソセプトに基づく新製品・製法が︑どれくらい広い事業分野にわた

って活躍の場を得るかということである︒その広がりは︑産業の枠を越えて複数の産業にまたがる可能性がある︒ま

た︑技術目標のバラエティーとは︑新製品・製法が達成し得る技術臼標・機能の多様性を意味する︒すなわち︑技術

の発展可能経路の末端における最終的な完成技術の多様性を意味している︒市場性と社会性については︑新製品・製

法がどれくらいの需要を獲得できるか︑またそれが社会的に受容され得るか否かが検討される︒

さて︑次にこれらの事項に関する検討はどのような手法によってなされ得るかを考えてみょう︒コア・コソセプト

は︑技術の最も基本的な部分であり︑それ自体では新製品や製法として実用可能ではないのが普通である︒その応用

(28)

商 経 論 叢 第22巻 第2号 98

可能性と応用範囲︑さらにその達成可能な技術目標を知るためには︑一度技術の発展可能経路を仮想してみなければ

ならない︒勿論︑当初から詳細な全体像を描くことは不可能であり︑むしろ開発の途上やあるいは試作品や完成品の

実際の使用上において︑意外な応用可能性が見い出され︑それが技術目標として新たに付加されてゆくことが多い︒

しかし︑たとえ正確なものではないにせよ︑一応予め想定される新しいコア・コンセプトの発展可能経路を仮想する

(19)ことは︑そのコア・コソセプトの将来性を検討するための有効な手段となる︒言わば︑仮想された技術の発展可能経

路のブランチの将来性の総和が︑その新しいコア・コソセプトの将来性である︒

㈹新しいコア・コソセプトの実行可能性

新しいコア・コソセプトの実行可能性を検討することは︑仮想された技術の発展可能経路に従って︑その様々な技

術目標の実行可能性や最終製品・製法としての実用性を検討することを意味する︒それは︑試作とその原型の検査を

通じて行なわれる︒また︑技術的な実用性ばかりではなく︑現在の自社の開発能力と開発に必要とされる技術力とを

対比し︑開発の実行可能性をも検討しなければならない︒具体的には︑新しいコア.コソセプトの開発のために必要

(20)とされる技術・人材・予算と︑現在自社内で利用可能な技術・人材・予算との比較検討によってなされ得る︒特に︑

(21)自社内に現在保有している技術基盤は︑将来の技術革新の方向の決定に非常に大きな影響を及ぼす︒

さて︑評価の結果新しいコア・コンセプトの将来性が高く︑また実行可能性も高いようであれば︑その新しいコア

・コソセプトに基づく新製品・製法の本格的な開発について︑実行計画がつくられる段階に入る︒もし︑将来性が低

いか実行可能性が低いときには︑その新しいコア・コソセプトは棄却される︒このとき︑実行可能性は低いが︑その

(22)将来性が非常に高いときには︑現在自社内に不足している能力を整備する計画が立てられる︒

(23)②新しいコア・コンセプトに基づく新製品.製法の開発計画

(29)

技 術 革新 の戦 略 的遂 行に つ い て 99

新製品.製法の開発計画では︑新しいコア・コンセプトに基づいた技術の発展可能経路を精緻化し・それに従って

試作および精緻化.実用化への計画が立てられる︒ここでは︑その技術的な達成水準と︑それによる収益およびコス

トといった経済的な水準が検討されねばならない︒また︑その開発のために投入すべき予算・期間・人員も検討され

ねばならない︒これらを合理的に検討するためには︑技術の発展可能経路に即して︑その開発過程における主要な問

題をできるだけ具体的に考慮してゆくことが必要である︒この計画は︑製造担当部門に至ってより詳禦ものにされ

㈹新製贔・製法の開発

新製品.製法の開発においては︑主として次の三つの活動がなされねばならない︒①計画段階で精緻化された技術

の発展可能経路に従って︑新製品.製法を完成させてゆくこと︑②開発の進行状況を計画と対比し︑モニターするこ

と︑③計画案に対するフィ!ドパック情報を流すことである︒

想定された技術の発展可能経路に従って︑新製品・製法を完成させてゆく過程は︑コア・コンセプトを実用性のあ

る製品.製法に応用.具体化してゆく過程であり︑原型の試作やその問題点の検査・改善・改良等の作業が含まれる︒

新しいコア.コンセプトの応用.開発の方向にはいくつかの代替的選択肢があり︑その代替案に従って・さらに下位

の選択肢が広がっている(︹図ー∬︺参照)︒これらの選択肢に従って︑コア・コンセプトは新製品・製法に具体化され

てゆく︒藝 扁口すれば︑これらの選択肢は︑新しいコア・コンセプトが実用性のある新製品・製法に応用されてゆくた

めに解決されねばならない問題とその解法のハイアラーキーであると言えよう︒故に︑技術の発展可能経路の想定と

は︑コア.コンセプトの応用.開発にかかわる問題の想定に他ならない︒これらの階層的に配置された蕎題を・逐

次タイミング良く解決してゆくことが︑開発過程の基本的な作業で襲・

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