離島 ・へ き地の知的障害施設 における支援状況
小 島 道 生*
Suppo r tc ondi t i onsi nr e s i de nt i alf ac i l i t i e sf o rI ndi v i dual s wi t hMe nt alRe t ar dat i oni nRe mot eI s l andsandPl ac e s:
A Que s t i onnai r eSur v e y
Mi c hi oKOJI MA
I.は じめに
医療技術 の進歩や教育,福祉制度 の整備 など様 々な要因によ り,知的障害者の寿命 は着 実 にのびている。 海外 では,知的障害者 の加齢 に伴 う能力変化 について,医療 ,福祉 ,心 理 な ど多様 な領域か ら研究が盛 んに取 り組 まれて きた。我が国においては
,1 9 8 0
年代 頃 より知 的障害者 の高齢化が指摘 (日本社 会事業大学
,1 9 8 6 ;
横井,1 9 8 7 )
され,地域生活支援 やQOL
の向上 な ども視野 に入れた対応 の整備 が求め られ きた (例 えば,石渡,2 0 0 0 ) 。
そ の一方,加齢 に伴 う能力低下や肥満 な どの健康面 に関す る新 たな課題 も示 され,知的障害 者の加齢 に ともな う能力低下の実態 な どが報告 (菅野,1 9 9 7 ;
知的障害福祉連盟,2 0 0 4 )
さ れて きている。 そ して, こうした高齢知的障害者の能力低下の実態が明 らか になるにつれ て,充実 した成人期 ,壮年期 を過 ごす ための具体 的な対応方法 を模索 してい く必要性が主 張 され るようになって きた。なかで も, ダウン症者 は我が国 において も他 の知 的障害者 に比べ て早期 か ら老化現象が 数多 く示 されている。 また,アル ツハ イマー病 との関連が指摘 され (木戸 ・高嶋
,1 9 9 2 ; St Ge o r ge ‑ Hys l o pe ta 1
.,1 9 8 7 )
,様 々な研 究が取 り組 まれてい る。 その一方 , 自閉症者 はダウ ン症者や知的障害者 とは異 な り,加齢 にともな う顕著 な能力低下 はそれほ ど認 め られ ない こ とも示 されてい る (知的障害福祉連盟
,2 0 0 4 ) 。
したが って,障害種別 に よって, 能力低下の実態 は異 なってお り,障害種別 に支援 のあ り方 を検討 してい く必要性がある と 考 え られる。海外 では,発達障害者の加齢 に ともな う能力変化 の研 究 に加 えて,能力維持 ・改善や健 康管理 を目指 した体系 的 な教育 プログラムが報告
( Ma r kse ta
1.,2 0 0 6 )
されて きている。 先駆的 な取 り組み として, イリノイ大学では,主 にエ クササ イズ と栄養健康教育 カリキュラムの開発 と実践が行 われ,既 に一定の成果が示 されている。
しか し,わが国で は知的障害関係施設 において利用者の機能維持や健康管理 な どをどの ように して取 り組 んでいるのか,その実態が明 らか になっている とは言い難い。なかで も, 人的資源や環境資源 に制限のある維島 ・‑ き地 の知的障害関係施設 における支援 の状況 に ついてはこれ までほ とん どその実態す ら取 り上 げ られてお らず,現状 や課題 について明 ら かになっていない。知的障害関係施設 における取 り組 みは,人的資源,情報,設備 ・環境
*長崎大学教育学部
70 長崎大学教育学部紀要 一教育科学一 第72号
面 な ど地域環境 ・地域資源の影響 を受 けている可能性 もある と推測 される。 したが って, 知的障害関係施設 にお ける支援状況 を検討す る場合 には,地域性 を も考慮 してお くことが 大切 になる と考 え られ る。
そ こで,本研究では主 に離 島 ・へ き地の知的障害関係施設 を対象 として,ア ンケー ト調 査 によ り,利用者の機能維持 や健康管理 を目指 した取 り組みへ の意識 と状況 について明 ら か にす ることを目的 とす る。
Ⅱ.方 法
1.ア ンケー ト調査対象
主 に離 島 ・へ き地の知的障害者適所更生施設,知的障害者適所授 産施設,知的障害者 更生施設,知的障害者授 産施設,合計50施設 を対象 とした。記入 は,その施設で活動や 支援 な どに熟知 している職 員
1
名 に依頼 した。3 1
施設か ら回収 で きた (回収率6 2 . 0 %)
。ア ンケー ト調査へ の記 入は,施設 の職員1名 に依頼 を行 った。分析 は,回収 で きた全 ての施設 について実施 した。
2.調査 内容
ア ンケー ト調査 の内容 は,先行研究
( Ma r kse ta
1.,2 0 0 6 ;
知的障害福祉連盟,2 0 0 4 )
を参考 に しつつ,調査施設の概要,能力推拝や健康管理 に関す る項 目を作成 した。調査 施設の概 要では,所属 している人数, 日常生活や作業能力が低 下 している人の有無 につ いて調査 した。能力維持 については,運動能力,言語 ・コ ミュニケーシ ョン能力 を取 り 上げ,健康管理 については肥満,健康管理 とい う項 目を調査 した。 これ ら能力維持 と健 康管理 の項 目に関す る支援 の必要性 について,支援 を必要だ と思 う,思 わない, どち ら
とも言 えないの3件法で検討 した。次 に,能力維持 と健康管理 を行 っているか どうか支 援 の状況 について,行 っているか,行 っていないか,
2
件法 で尋 ねた。そ して,行 って いる施設では支援の具体 的内容 について 自由記述 で解答 を求めた。行 っていない施設 に 対 しては,今後,支援 を行 う予定があるか,ないか2件法で尋 ねた。 また, ダウン症者 や 自閉症者へ の配慮事項 について もあるか,ないか2件法で尋 ねた。 そ して,ある場合には,具体 的な内容 について 自由記述 にて調査 した。
3.分析方法
質問項 目に対 して,2件法 あるいは3件法 による回答 を求めた場合 は,直接確率法あ るいは
x
2検定 を実施 した。Ⅲ.結果 と考察 1.調査施設の概要
所属 してい る平均 人数 は,男性
3 1 . 2
人 (標準偏差 ;1 6 . 5 )
で女性2 1 . 5
人 (標準偏差 ;1 0 . 8 )
であった。以前 に比べ て 日常生活や作業能力が低下 している人がいる施設 は 1施 設でいない施設が3 0
施設であった。直接確率法 の結果,能力低下 を している人数の方が していない人数 よ りも,有意 に多か った (両側検定 :p ‑ 0 . 0
0,p <.
01 )
。 したが って,離 島 ・‑ き地 にお ける施設で は,能力低下 を している対象者 は,それほ ど多 くない と考 え られ る。 この結果 は,能力の低下 を している対象者 の方が多か った全 国調査 の結果 (小 島,2 0 0 7 )
とは異 なっている。 東 日本 の知的障害者適所授 産施設 における研究 (小 島 ら,2003)で は,作業能力の低下や退行現象が認 め られ る利用者のいる施設 の割合 は,44.6
%と報告 をされていた。今 回の調査 で は,離 島 ・へ き地の知的障害者適所更生施設 ,知 的障害者適所授 産施設,知的障害者更生施設,知的障害者授産施設 に配布 したが,他 の 先行研 究 な どとの比較か ら,地域性 と4つの施設 ご とに能力の低 下が認め られ る対象者 の割合 に違 いが生 じる可能性 もある と推測 される。 海外 の研究では,屠住別 に様 々な研 究が取 り組 まれてお り,今後 は地域性 や対象施設 との関係 か ら分析 を し,能力低下の割 合 に違いが認め られる背景 について,詳細 に検討 を してい く必要がある と考 え られる。
2.機能維持及び健康管理 に関す る取 り組み状況 (D 運動能力
運動能力の維持 を目指 した支援の必要性 について検討LLた ところ,表 1の通 りであっ た。該 当 0の項 目が含 まれてい るため,統計学 的検討 は実施 しないが,「思 う」が,
「思 わない」
,
「どち らとも言 えないJに比べ て多 か った。 また,運動能力の羅持 を目 的 とした支援 の状況 について検討 した ところ,表2の通 りであった。直接確率法の結 果 ,有意 に行 ってい る施設 の方が行 ってい ない施設 よ りも多か った (両側検定 :p‑0.00,p<.OD 。 したが って,多 くの知的障害関係施設が運動能力の維持 を目的 とした 支援 の必要性 を感 じ,実際 に取 り組 んでいる と言 えよう。
表1 職 員の能力維持 ,肥満防止 ,健康管理の必要性 に対 する意識
思 う 思 わない ど ちらとも言えない
運動能力 28
0
言語 ・コ ミュニケー シ ョン能力 26 2
肥満の防止 29
健康管理 25
312
表2 支援の状況
行 ってい る 行 っていない
運動能力 23
言語 ・コ ミュニケー シ ョン能力 14 肥満の防止
健康管理
7322
5 16 2 5
運動能力の維持 を目指 した支援 を行 っている施設 の具体的内容 について分析 を した ところ,「散歩」
,
「歩行 支援」
が多 くの施設で実施 されていた。 また,体操やス トレッ チな ども認め られていた。障害の程度 などによって,支援 内容 を変 えている施設 もあっ た。 こう した取 り組 み状況 については,全 国調査 の結果 (小 島,2007)と類似 してい た。 イ リノイ大学 のエ クササ イズの プログラム (Ma‡,kseta1.,2006)で は,最初 の 段 階 に体重管理,健康 的な骨,適切 な姿勢, よ りエ ネルギー を消費す ること,楽 しむ こ とな どをあげている。 イ リノイ大学のプログラムでは,体系的 な内容が組 まれてい るが,そのなか には専門的な機器 を必要 とす る もの もある。 限 られた資源で は,なか72 長崎大学教育学部紀要 一教育科学 一 第72号
なか難 しい面 もあろうか と思 われるが,音楽 を流 して,エ クササ イズ を行 うような取 り組みか ら試みてい く必要があろ う。
② 言語 ・コ ミュニケー シ ョン能 力
言語 ・コ ミュニケーシ ョン能力の碓拝 を目的 とした支援 の必要性 について検討 した ところ,表1の通 りであ った。x2検定の結果,有意であった
(
x 2(2)‑35.68,p<.01)。 分析 の結果,
「思 う」人数 は 「思 わない」,
「どち らとも言 えない」 に比べ て多か った。また,言語 ・コ ミュニケーシ ョンの支援 の状況 について検討 した ところ,表2の通 り であ った。直接確率法 の結果,有意でなかった。つ ま り,言語 ・コ ミュニケーシ ョン 能力 の取 り組み については,行 っている施設 と行 っていない施設の数 に違いはな く, 施設の取 り組み状況が分かれている状況 と言 え よう。 言語 ・コ ミュニケー シ ョン能力 の維持 を目的 とした取 り組みの必要性 を認識 している ものの,実際 には充分 な支援が で きていない と考 え られる。
行 っている施設の具体的内容 について分析 を した ところ,特別 な言語 ・コ ミュニケー シ ョン支援 を展 開 している とい うことではな く,個別対応 を している とい う内容が多 かった。具体的な対応 上の工夫 としては,視覚的手がか りや ジェスチ ャーを効果的 に 活用す ることや補聴器 の活用 な どが報告 されていた。 これ らは,全 国調査 の結果 (小 良,2007)と類似 してい るが,STな どの専 門家 に よる支援 については,全 国調査 の 結果 と比較す る と極 めて少 なか った。 また,全 国調査 で報告 (小 島,2007)されてい た民 間の外部機 関 に通 うな どは報告 されていなかった。 こう した専 門機 関な どとの連 携 については,地域資源の影響 を受 けやす く,離 島な どの施設では難 しい状況 にある と考え られる。言語 ・コ ミュニケーシ ョンについては,取 り組み を行 っている施設が 多いわけではな く, 日常 的なかかわ り以外 に どの ような専 門的な取 り組み を行 ってい
くのか,今後検討すべ き課題 といえ よう。
③ 肥満の防止
肥満 の防止 の必 要性 について検討 した ところ,表1の通 りであった。 ∬ 2検定 の結 莱 ,有意であった (x 2(2)‑50.58,p<.01)。 分析 の結果 ,必 要 だ と 「思 う」施設 は,
「思 わない」,「どち らとも言 えない
」
よ りも多 か った。肥満 の防止 について支援状況 を検討 した ところ,表2の通 りであ った。直接確率法の結果,有意であった (両側検 定 :p‑0.00,p<.01)。 肥満 の防止 については,多 くの知的障害関係施設で必要 だ と考 え,実際 に取 り組 んでい る と考 え られる。行 っている施設の具体 的内容 について分析 した ところ,食事制限,栄養指導が ほ と ん どであった。具体 的には,ご飯 の量 を決める,器 を小 さくす るな どの工夫があった。
そ して,食事への対応 と運動 (歩行 な ど) を組み合 わせて取 り組 んでい くとい う回答 が多かった。 また,栄養士や看護士,医師な どと連携 をとって対応 を してい くとい う 対応 もあ った。 こう した傾 向は,全 国調査 の結果 (小 島,2007)と類似 していた。 し たが って,離 島やへ き地の施設 において も,肥満防止 について取 り組 まれている内容 は類似 してお り,医師や栄養士 との連携 か ら実施 されている施設が多い と考 え られる。
④ 健康管理
所属 している方 自身が健康管理で きるような支援 の必要性 について検討 した ところ, 表1の通 りであった。 ∬ 2検定 を行 った結果 ,有意であ った (∬ 2(2)‑42.67,p<.01)。
残差分析の結果,「思 う」が,「思 わない」,「どち らとも言 えない
」
に比べ て有意 に多 か った。 また,支援 の状況 について検討 を した結果 は,表2の通 りであった。直接確 率法 を行 った結果,
「行 っている」施設 は,
「行 っていない」施設 に比べて有意 に多かった (両側検定 :p‑0.00,p<.01)。
行 っている施設の具体 的内容 について分析 した ところ, うがい,手荒い,歯磨 き, 起床 時の検温,睡眠時間の確保 ,血圧の測定,定期 的な体重測定 などが認 め られてい た。全 国調査 (小 島,2007)の一部の施設で報告 されていた健康管理 に関す る学習会 の開催 な どは報告 されていなか った。 したが って,離島な どにおいては外部講師 を招 賭 して健康管理 を学習 させ るような対応 は困難 なのか もしれない。中高齢知 的障害者 の処遇及 び生活実態 に関す る研 究 (島田 ら,2002)において も,配慮事項 としては健 康面が68.6%で最 も高か った。 島田 ら (2002)の研究では,具体 的内容 として定期健 診 ,人間 ドッグ,運動指導 な どがあげ られていた。本研 究では,利用者 自身で健康管 理 をで きるような取 り組みの状況 について行 ってお り,体重管理や運動指導 な どは, 本人の動機づ け も大切 になろ う。 したが って,本人 に対 して健康管理 についての教育 を実施 してい くことも大切である と考 え られる。
3.ダウン症者及び 自閉症者への配慮事項
ダウン症者への支援 において,特 に配慮 を している点の有無 について尋 ねた結果 は, 表3の通 りであ った。直接確率法 に よる検討 の結果 ,有意 で なか った (両側検定 :p‑
0.47)。 自閉症者へ の支援 において,特 に配慮 してい る点の有無 について尋 ねた結果 は, 表3の通 りである。 直接確率法 による検討の結果,有意でなか った (両側検定 :p‑0.14)。
表3 支援 を行 う上 で特 に配慮 している点の有無
ある ない
ダウン症者 自閉症者
3
91
1具体 的内容 については, ダウン症者へ の支援 で配慮 している点 は, こだわ りや頑固 さ を認 めるような配慮,本人のペースに合 わせ る といった回答が多かった。加齢 とともに, ダウ ン症者 は頑 固 になる傾 向が認 め られるが, こう した行動上 の問題 に対 して,「本人 のペース に合 わせ て無理 をさせ ない」 といった対応 を しているのが現状 と考 え られた。
また,能力の低下が著 しくなった場合 には,作業内容 の変更 も行 われていることが明 ら か となった。
自閉症者‑の支援 で配慮 している点 は,視覚的手がか り (写真や絵 な ど) を効果的 に 活用 した り,一人で安心 で きる空 間を確保す るな どの配慮が行 われていた。 また,ス ト
レス発散 を目指 した支援 な どを取 り入れている施設 もあった。 これ らは,環境面 に対す る支援上の工夫 と考 え られ よう。 さらに, こだわ りを生か した作業 を取 り入れている と いった工夫 も報告 されていた。
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Ⅳ.まとめ
本研 究では主 に離 島 ・‑ き地の知的障害関係施設 を対象 として,ア ンケー ト調査 によ り, 利用者 の機 能維持や健康管理 を目指 した取 り組みへ の意識 と状況 について検討 した。 その 結果,離 島 ・へ き地 において能力低 下が生 じてい る対 象者 の割合 は,全 国調査 な どの先行 研 究 に比べ る と,低 か った。能力低 下 を生 じさせ ててい る割合 の違 いの背景 には,地域環 境 の違 いが影響 してい る とも推測 され るが,詳細 については今後 の検討課題 とい え ようC
運動能力 の維持 に対す る取 り組み は行 われている ものの,言語 ・コ ミュニケー シ ョン能力 に関す る取 り組 みは,それ ほ ど高 くな く,具体 的 な取 り組 み を模索 している状況 と推 察 さ れ る。 肥満 の防止 については,食事 と運動 面での取 り組 みが行 われ,健康管理 につ いて も 施設の取 り組 み状況 は明 らか になったが,本 人 自身で 自らで きる ように支援 を行 ってい く ことが大切 であ る と考 え られた。 また, ダウ ン症者 に対 しては本人のペ ース に合 わせ た対 応 , 自閉症者 に対 しては視覚的 な手がか りを用いた支援 な どが 中心 に行 われていた。 こう した施設での取 り組 み については,限 られた地域資源 に よるため専 門機 関 との連携 におい て課題が ある ものの,全 国調査 の結 果 と類似 してい る点 も多 か った。
文 献
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付記 ;本研 究 は,文部科学省 科学研 究費補助金 (若手研 究B 課題番号18730561)の助成 をえて,実施 された。