1. 労働単位の「職務」から「集団」への展開 1―1.アメリカ産業社会における「職務」と「集団」 アメリカ産業社会において,管理単位としての 「職務」(job)は,今なお大きな意義をもつ。そ れは,雇用・労働・管理の領域で,製造業のみな らず広くアメリカ産業社会を特徴づける要因と なっている。 「職務」は労働者を管理する立場から考えられ たものであり,端的に管理単位であるが,個々の 労働者の立場からすると,従事することになる労 働単位ということになる。そうした「職務」の形 成および「職務」の細分化は,「テイラー・システ ム」(Taylor system of management)=「科学的 管
理 法」(Scientific Management)お よ び「フ ォ ー ド・システム」(Ford system)として企業経営に 具体化される個別的分業の延長上にある。した がってアダム・スミス(Adam Smith, 1723~1780), チャールズ・バベッジ(Charles Babbage, 1791~ 1871)以来の分業論の帰結,すなわち分業に基づ く労働生産性の増大を目的とすることを第一義的 に,それを基盤に編成される組織の効率の観点か ら有効性が把握されることになる。また労働力の 流動性を前提とするアメリカ産業社会においては 細分化され限定された「職務」が,それに包摂さ れる情報が制約されるために,従事する労働者の 教育訓練の時間と費用が節約されること,さらに 賃率の設定を厳密に行うことが可能となる「職務
Progress of Group and Team Work and Issues of Human Resource Management
Senshu University, School of Commerce
Kazuo Tanaka
集団作業・チーム作業の
展開と人的資源管理
専修大学商学部田中和雄
人事管理は「職務」を管理単位として賃労働を管理する機能をはたしてきた。ところが,従来の人事管理の諸技法では集団作業・チー ム作業に従事する賃労働の評価,報酬,教育など多様な諸条件を管理することが困難になりつつあったと考えられる。 人的資源管理(HRM)にはそうした集団作業・チーム作業の進展という事態へ対応をはかり,集団作業・チーム作業の多様な局面へ 対応するために体系化されている側面がみられる。HRM はそうした集団作業へ対応し,しかも,その有効性を育成し,発揮させる課題 をになっていると考えられる。それは,集団作業・チーム作業が職務不満の解消策としての位置づけから生産力要因としての位置へと 進展していることに見ることができる。その場合,集団作業の有効性とは,集団のもつ知識・技能・意欲などの労働能力と管理・意思決 定能力の両面に及ぶ能力であると考えている。 キーワード:人的資源管理,自主管理,職務,集団作業,チーム作業給」(job evaluation wage system)の観 点 か ら そ の有効性が把握されており,アメリカのみならず ヨーロッパの産業界でも広く採用されてきた1)。 この点において「職務」は,労働生産性の増大 を目的とする企業の立場からその意義が認められ るものである。しかし,「職務」は単に技術的分 業の構造と機能を制度として具体化しているにと どまるものではない。それは既存の社会秩序・社 会階層を反映する経済的支配の構造と機能を制度 として具体化するものでもある。それゆえ,「職 務」は,労務管理・人事管理の他の諸技術や諸制 度と同様に,搾取・抑圧・支配という観点から批 判的に分析されなければならない存在であると考 える。 ところが,アメリカの労働組合は,こうした存 在である「職務」に反対するどころか,既存の労 務管理・人事管理をおおむね承認したうえで,細 分化された「職務」の存在をむしろ労使間での ルール策定の基礎に置くことにより,労働者の権 利の維持と組合つぶしにつながる経営の裁量の余 地を狭めるために積極的に利用し,独自の運動, すなわち「ジョブ・コントロール・ユニオニズム」 (job control unionism)を展開することになる。
報酬は受給権とみなされている。 第 4 に,役員報酬のレベルは,業績が低調な場 合でも天文学的なレベルに達している。これが従 業員のモラールの向上を妨げている。 こうした事態を克服するため,指導的なアメリ カ企業では,官僚的組織を顧客志向のプロジェク ト・チームに置き換える試みや,労働者の問題解 決能力を高める訓練,自主管理作業チームの形成 に取り組んでいる。 そうした例として,GM 社とフォード社につい て見てみよう。 ① GM 社の作業チーム制
式に決定している。当初,GM と同様の問題意識 に基づき職場環境の改善を 目 的 に 導 入 さ れ た QWL であったが,Ford 社においては質的な変化 が見られるようになる。すなわち,QWL を通じ て,労働者が有する知識を活用し,あるいは良好 な労使関係を構築することで直接的・間接的にコ ストを削減し,競争力を強化することが意識され る よ う に な る。理 念 的 な QWL か ら 実 践 的 な QWL への変化である。 EI については,1979 年の協約改定交渉の過程 で,①EI が団体交渉から切り離されていなければ ならず,苦情処理手続きあるいは他の契約条項の 代替物であってはならない。②EI への参加は厳 密な意味で自主的なものでなければならない。③ EI プロジェクトは工場現場の環境や必要に基づ いたものでなければならない,ことなどが労使間 で決められている。 この EI の中心にあるのが「問題解決集団・チー ム」(problem-solving groups and teams ) であ る。この Ford 社の実践は,GM の実践とは異な り,ライン外における集団活動・チーム活動であ るが,やはり日本企業の活動から学んだことの成 果であると考えられている。これは QC サークル をモデルとした実践であり,通常週 1 回ミーティ ングを開き,職場の様々な問題について議論をす る。議論,検討される内容は,照明の改善,不具 合のある機械や部品の修繕,ワークステーション の再配置など多様であるという。 こうした活動を継続していくうちに次のような 活動も行うようになっていったという。すなわ ち,①職場の作業集団間の垣根を越えて活動する インターフェイス集団(interface groups),②新 技術導入やラインの再編成,製品や設備の変更な ど作業関連の変革を行う際,必要に応じて特別に 結 成 さ れ る 特 別 チ ー ム(ad hoc teams)/オ ポ チュニティ・チーム(opportunity teams),③特定 のイベント,たとえば工場設備の一般公開,自動 車ショー,EI 全国共同委員会の訪問などが行われ る場合に結成され,任務遂行後に解散する特別プ ロジェクト・チーム(special project teams),④製 品開発やプロセス開発の最終段階に参加するため に 結 成 さ れ る 立 ち 上 げ 支 援 チ ー ム(launch teams)である。 とはいえ,Ford 社では,経営側による裁量権の 濫用,職務の削減を警戒して職務分類,職務規制 (job control)の放棄をためらっており,職務分類 (job classification)の削減を伴うチーム作業の導 入は進んでいない。しかしここでは,当初,職務 不満の解消策として導入された問題解決集団・ チームなどの EI が,集団作業・チーム作業に蓄積 されている知識・技能・アイディアなどの価値を 生産し活用するための生産力要因へと基軸を移し ていることに注目したい6)。 1―3.アメリカ型チーム生産の特徴
デミングの TQC と統計的工程管理,アメリカの 人的資源モデルで展開されたインセンティブと賃 金管理,団体交渉と QWL の経験から獲得した独 自の労使パートナーシップである。 チーム概念は,社会・技術システム・アプロー チのそれよりも広範囲の活動に及び,意思決定の 多様な領域(作業設計,作業過程,管理および人 事の問題)への関与,意思決定に対する実質的な 統制あるいは自律性の程度 が 重 視 さ れ る と い う7)。 このようなことは,アメリカ産業社会において 狭義の労働様式が「職務」の単位から,集団ある いはチームの単位へ変化している局面があり,そ れが重要な問題となっていることを十分にうかが わせるものである。 2. 集団作業・チーム作業の進展と HRM 2―1.集団作業・チーム作業を対象とする管理の 形成 職務分析や職務記述書,職務評価などの技法に より細分化された労働が「職務」として客観的に 形成されて以来,人事管理は「職務」を管理単位 として賃労働を管理する機能をはたしてきた。と ころが,従来の人事管理の諸技法では集団作業に 従事する賃労働の評価,報酬,教育など多様な諸 条件を管理することが困難になりつつあったと考 えられる。もとより従来の人事管理が必要とされ る局面,すなわち管理単位としての「職務」は多 分に残るし,今なおアメリカ産業社会では大勢で ある。しかし,集団作業の進展という新しい事態 に対応する管理も当然のことながら必要となって きている。
以上の 2 次元の分類に基づき,集団奨励給は次 の 6 種類の制度に分類される。
①労働生産性利益分配制(labor productivity gain-sharing plans)
この制度には,いわゆるスキャンロン・プラン (Scanlon Plan),ラッカー・プラン(Rucker Plan)
お よ び イ ン プ ロ シ ェ ア・プ ラ ン(Improshare Plan)がある。これらの制度では,従業員に対す る奨励的な支給(payoff)の原資は,予定されてい る労働生産性と実際の生産性との差異に関する公 式により決定される。具体的には従業員は集団と して,実際の人件費と予定されるそれとの明確な 差異の一定の割合を受け取る。スキャンロン・プ ランでは,予定される人件費は製品の売上高の標 準的な比率の観点から産出される。 ②マルチ・コスト利益分配制(multicost gain-shar-ing plans) この制度は,上記の制度と論理的に類似してい るが,多様なコストにおける利得(節約)を考慮 するものである。人件費以外のコストの例として は,原材料コスト,エネルギー・コスト,廃棄コ ストなどが含まれる。
③カレント利潤分配制 ( “ current ” profit - sharing plans) “current” の意味は,従業員が退職するまで支 給 を 遅 ら せ る「据 え 置 き 利 潤 分 配 制」(“def-fered”profit-sharing plans)の概念と対照的に用 いられる。後者は,成果(収益)の改善から従業 員がベネフィットを享受するのに長期間かかるこ とを前提とすれば,動機付けの効果は弱い。後者 の制度は,退職手当の基金を意味する。対照的に カレント利潤分配制は,利潤の水準が確定される 年度において従業員にベネフィットが支給され る。
④労働生産性目標分配制(labor productivity goal-sharing plans) この制度は,個々の従業員への支給額を成果の 達成水準と直接に関連させる公式を用いている。 ある保険会社でデータ加工に従事する職場集団の 制度の例では,組織が一定の生産性目標を超えた 月ごとに,すべての従業員に 300 ドルのボーナス を支給している。 ⑤マルチ・コスト目標分配制(multicost goal-shar-ing plans) 例えば,目標の達成に貢献した従業員に対し, 目標の数や困難度に基づいて,ボーナスを支給す る奨励給である。この奨励給は,安全,品質,廃 棄,変換コストという 4 つの成果領域における基 本的だがやや困難な目標に焦点を合わせている。 従業員が受け取るボーナスは,達成した目標の価 値に相当するものとして算定される。
での従業員との接触を重視し,従業員の参画(in-volvement)を広げ,フレキシビリティ,取り上げ る事項の拡大などを通して,従業員の経営参加が 進むように努力している点で,これまでの労使関 係とは異なっている。このことは,1980 年代以降 の労働組合運動の停滞,交渉力の低下,それゆえ 敵対的・対抗的労使関係から協力的・参加的労使 関係への変容を直接反映するものである。さらに 重要なのは,そうした労使関係の変容を前提とし て初めて,HRM の主要な命題である経営戦略と の統合,人的資源プランニング,組織構造のフレ キシビリティ,職務再設計,集団作業・チーム作 業,組織文化の変革などの問題の実現が可能とな ると考えられていることである11)。 以上に見るように,アメリカにおいて 1980 年 代以降に展開されている HRM には,従来の人事 管理にはみとめることのできない多くの特質があ ることが確認できる。とりわけ,集団作業・チー ム作業に対応して新たな管理方法を体系化し展開 している点は,従来の人事管理には見られない HRM の顕著な特質であることに注意しなければ ならない。 3. 集団作業・チーム作業と自主管理 3―1.協働的な自主管理 アメリカ産業社会において狭義の労働様式が 「職務」の単位から,集団あるいはチームの単位へ 変化している局面があり,それに対応して HRM において新たな管理制度が体系化されていること を見てきた。それは歴史的に見れば職務不満に起 因する労働問題に対する対応から競争力要因・生 産力問題に対する対応という賃労働とその管理の システム化の過程の進展を示している。 もとより,前述のように従来の人事管理が必要 とされる局面,すなわち管理単位としての「職務」 は多分に残るし,今なおアメリカ産業社会では大 勢である。しかし,集団作業の進展という新しい 事態に対応する管理も当然のことながら必要と なってきている。HRM にはそうした集団作業・ チーム作業の進展という事態へ対応をはかり,集 団作業・チーム作業の多様な局面へ対応するため に体系化されている側面がみられる。 そこで,そうした進展を示す集団作業とりわけ チーム作業と,それに対応する管理の特性や先進 性について考えてみたい。その場合,The End of
ただし,管理の民主化には,それを推進する主 体の影響力が不可欠である。職場での労働者から の日常的な要望や労働組合の長期にわたる職場民 主主義の要求は,管理の民主化の実現に不可欠と なる。しかし,職場の要望,職場民主主義の要求 を実現する労働組合の存在力が衰退しているのが 現実である。 そうではあっても,労働の集団化・チーム化, ひいては自主管理チーム・自主管理組織の存在 は,労働者集団の労働能力・管理能力を実践にお いて高め,労働者集団の質に影響を与え,労働組 合の現状にも影響してゆくと考えられる。良い方 向に展開することが期待されうる20)。 注 1)拙稿,「アメリカにおける『職務』概念と人事管理」, 『専修ビジネス・レビュー』Vol.11 No.1,専修大学商学 研究所,2016 年 3 月,39∼49 ページを参照のこと。 2)さらに,それを基盤に編成される組織の効率の観点 や,労働力の流動性を前提とするアメリカ産業社会に おいては細分化され限定された職務が,それに包摂さ れる情報が制約されるために従事する労働者の教育訓 練の時間と費用が節約されること,職務に基づく「職 務給」(job evaluation wage system)により賃率の設 定を厳密に行うことが可能となる。こうした観点から その有効性が把握されており,アメリカのみならず ヨーロッパの産業界でも広く採用されてきた。 拙稿,「資本主義的分業の展開と統制概念―労働に おける『管理的要因』の分離と再統合の過程に関する 研究との関連で」,『商学研究所報』第 41 巻第 6 号,専 修大学商学研究所,2010 年 1 月,1∼25 ページを参照。 3)拙稿「『人的資源管理』の批判的分析視角に関する試論 ∼『人事管理・労務管理』批判との関連で∼」,『商学研 究所報』第 45 巻第 7 号,専修大学商学研究所,2014 年 3 月,1∼23 ページ。
4)Jude T. Rich, “Meeting the Global Challenge : A Meas-urement and Reward Program for the Future”,
Com-pensation and Benefits Review, July-August, 1992, pp.26 ~27. 5)GM 社の作業チーム制に関しては,主として下記の研 究を参照した。 今村寛治「GM におけるヒューマン・リソース・マ ネジメントの系譜」,伊藤健市,田中和雄,中川誠士編 『アメリカ企業のヒューマン・リソース・マネジメン ト』,税務経理協会,2002 年,159∼169 ページ。 6)フォード社の EI に関しては,主として下記の研究を 参照した。 橋場俊展「フォード社の人的資源管理―従業員参加 を中心に」,伊藤健市,田中和雄,中川誠士編『現代ア メリカ企業の人的資源管理』税務経理協会, 2006 年, 195∼213 ページ。
7)Eileen Appelbaum and Rosemary Batt, The New
American Workplace : Transforming Work Systems in the United States, Cornell University Press, N.Y., 1994, pp.128~145, 赤羽新太郎・田中和雄訳『ベスト・プラク ティス競争戦略―グローバル化と IT をめぐる作業シ ステムの変革』八千代出版,2004 年,159∼180 ペー ジ。
8)Theodore H. CurryII, Moving from Performance Ap-praisal to Performance Management, in Ellen Ernst Kossek and Richard N. Block eds, Managing Human
Resources in the 21st Century : From Core Concepts to
Strategic Choice, South - Western College Publishing, Ohio, 2000, pp.15.14.~15.19.
9)Laura L. Bierema, Training and Employee Develop-ment, in Ellen Ernst Kossek and Richard N. Block,
ibid., pp.19.27~19.28.
10)Edilberto F. Montemayor, Pay and Incentive Systems : Transitional, Transformational, and Nontraditional, in Ellen Ernst Kossek and Richard N. Block, ibid . , pp.17.4~17.12. 11)従来の人事管理とは異なる人的資源管理の特質に関し ては,次の研究を参照のこと。 拙稿,「アメリカにおける『人的資源管理』の展開と 労使関係∼1980 年代以降における両者の関係の特徴 との関連で∼」『商学研究所報』第 44 巻第 6 号,専修 大学商学研究所,2013 年 2 月。
12)Kenneth Cloke and Joan Goldsmith, The End of
Man-agement and the Rise of Organizational Democracy, JOSSEY-BASS, San Francisco, 2002, p.41.
13)Kenneth Cloke and Joan Goldsmith, ibid., pp.103~105. 14)Kenneth Cloke and Joan Goldsmith, ibid., pp.195~201. 15)Kenneth Cloke and Joan Goldsmith, ibid., p.201. 16)Kenneth Cloke and Joan Goldsmith, ibid., p.138. 17)Kenneth Cloke and Joan Goldsmith, ibid., p.141. 18)Kenneth Cloke and Joan Goldsmith, ibid., p.193. 19)アメリカの自主管理チーム・自主管理組織については
下記を参照した。
Paul Bernstein, Workplace Democratization : Its
In-ternal Dynamics, Transaction Books, New Brunswick, 1976.
Christopher Eaton Gunn, Workers’ Self-Management
in the United States, Cornell University Press, Ithaca, 1984.
Len Krimerman and Frank Lindenfeld ed. , When