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大学野球選手におけるシーズン中の肩関節可動域

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Academic year: 2021

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(1)

大学野球選手におけるシーズン中の肩関節可動域

著者 伊藤 マモル, 森嶋 琢真, 由井 嶺太

出版者 法政大学スポーツ研究センター

雑誌名 法政大学スポーツ研究センター紀要

巻 38

ページ 45‑53

発行年 2020‑03‑31

URL http://doi.org/10.15002/00023600

(2)

【緒言】

 野球やバレーボールのように上肢のオーバーヘッドスロー イング動作を頻繁に繰り返すスポーツでは,肩関節に負荷が かかり,肩関節内の骨や軟部組織が損傷を受け,慢性的な肩 の痛みが生じる可能性がある。Burn (2016)は,肩甲骨の位 置や運動の異常が上肢のオーバーヘッドスローイング動作を 伴うスポーツ選手の60%以上に認められることを報告し,肩 関節の怪我を予防するためにも定期的な評価を行うことが望 ましいとしている。同様な観点から肩関節傷害の予防を検討 した先行研究がいくつかある(末永ほか,1994;館ほか,

2009;竹内ほか,2017)。また,末永ほか(1994),川井ほか

(2017),幸田ほか(2018)は,投球側と非投球側の肩関節可 動域を比較し,肩関節傷害の原因や予防に関する研究を行っ ていた。

 我々はこれらの研究に着目し,教育的観点から同様な測定 を競技現場で選手に行わせることを検討した。しかし,専門 家が行う肩関節可動域の評価には高度な測定技術と経験的判 断や一定水準以上の精度が伴うため,選手たちに再現させる ことは難しい。そこで我々は,ある程度の信頼性と客観性を 有し,選手自らが実践できる方法として知られるFVDMを採

大学野球選手におけるシーズン中の肩関節可動域

Study on the range of motion of shoulder joints during the season of baseball athletes in university

伊 藤 マモル(法政大学法学部)

Mamoru Ito 森 嶋 琢 真(法政大学スポーツ研究センター)

Takuma Morishima 由 井 嶺 太(株式会社スポーツプログラムス)

Ryota Yui

要 旨

 本研究では野球選手の肩関節周辺のスポーツ傷害を予防するためのセルフ・スクリーニングとして指椎間距離測定法(Finger Vertebral Distance Method:以下,FVDM)に着目し,シーズン中のFVDの特徴を検討した。

 被検者は某大学体育会野球部員16名であった。FVDの測定は2019年度東京六大学野球春季リーグ戦の開幕前・閉幕後,およ び秋季リーグ戦の開幕前・リーグ戦中・閉幕後の5回行った。測定結果は被検者を投手右投(PR)群,投手左投(PL)群,捕手(C)

群,野手(F)群の4群に分け,肩関節屈曲外転外旋(Flexion, Abduction and External rotation of the shoulder joint:FAE)および 伸展内転内旋(Extension, Adduction and Inner rotation of the shoulder joint:EAI)におけるFVDに関して,基準値適合率および 左右差を時系列で比較し分析した。また,PR群およびPL群に限っては秋季リーグ戦期間中の月間投球数とFVDの関連性を検討 した。

 その結果,以下の特徴が明らかになった。

 1 )PR群,C群,F群の右肩のEAIのFVD基準値不適合率は春季から秋季を通じていずれも高率(83.3~100%)を示した。

 2 )PL群では,左肩のFAEおよびEAIにおけるFVD基準値不適合率が春季から秋季を通じていずれも高率(60.0~80.0%)を示した。

 3 )PR群では春季から秋季を通じて左右のEAIに有意差が認められ,PL群ではFAEに有意差が認めらた。また,C群およびF

群ではPR 群と同様な傾向だったが有意差を認めなかった。

 4 )FVDの変化を時系列的に比較した結果,PL群の右肩FAEでは秋季開幕前と比較し秋季リーグ戦中および秋季閉幕後のFVD が有意に増加した。C 群の左肩EAIでは,春季開幕前と秋季リーグ戦中,および秋季開幕前と秋季リーグ戦中の比較において いずれも有意な増加が認められた。

 5 )PR群およびPL群の投球数の変化に有意差が認められ,いずれも秋季開幕前が最も多く,秋季閉幕後が最も少なかった。投 球数の変化とFVDの相関関係を調べた結果,PR群の右肩関節EAIにおいて有意差が認められ,投球数が多い選手ほどEAIの 悪化が示唆された。

キーワード:大学野球選手,FVD測定,肩関節可動域,投球数 Key words : Baseball athletes in university,Finger,vertebral distance method,

Range of motion of shoulder joints,Number of pitches

(3)

法政大学スポーツ研究センター紀要

用し,某大学野球チームのトップアスリートを対象として,

FVD測定を用いた介入研究を試み,その有用性を実感した

(伊藤ほか,2019)。

 以上の経過を踏まえ,野球選手の肩関節周辺のスポーツ傷 害予防に資する情報をさらに積み重ねるために,2019年度東 京六大学野球春季リーグ戦の開幕前・閉幕後および秋季リー グ戦の開幕前・リーグ戦中・閉幕後における肩関節可動域の 特徴をFVDから明らかにすることを目的とした。

【方法】

1.被検者

 被検者は関東圏の大学野球リーグに所属する某大学体育会 野球部員(ほとんどの者が全国高等学校野球選手権大会出場 経験者)であり,競技年数はいずれも10年以上を有している。

本研究は監督によって選抜された強化選手たちのコンディ ションを総合的に把握する測定の一部として扱われ,イン フォームドコンセントの後,同意が得られた者を被検者とし た。

 分析の対象とした被検者は16人(表1)だったが,介入研 究当初,監督が選抜した強化選手である被検者は34人であっ た。研究はこの34人を対象に行ってきたが,次の条件に該当 する被検者のデータは分析対象から除外した。すなわち,本 研究に必要な測定値に欠損があり,測定期間内に医師の診察 を必要とする痛みを訴えた被検者であった。ただし,被検者 Pは肩および肘関節に医師の診察を必要とする痛みを有して いたが,全5 回の測定値があったため,参考データとして表1 に掲載した。しかし,被検者Pの測定値が全体の平均値を歪 めるため,分析データに含めなかった。

2.測定期間および比較群

 測定は,2019年度東京六大学野球春季リーグ戦の開幕前・

閉幕後(以下,“春前”・“春後”),および秋季リーグ戦の開幕 前・リーグ戦中・閉幕後(以下,“秋前”・“秋中”・“秋後”)に おけるFVDを測定した。測定結果の分析では,被検者を4群

(投手群右投:PR群,投手群左投:PL群,捕手群:C群,野 手群:F群)に分け,各群のFVDを時系列で比較するととも に,PR群およびPL群においては “秋前”,“秋中”,“秋後” の 月間投球数とFVDの関連性を検討した。

3.月間投球数

 月間投球数の記録対象はPR群およびPL群のみであり,記 録は学生コーチが行った。“秋前”の投球数の記録は8月1日-

31日までであり,“秋中” の投球数は9月1日-30日まで,

“秋後” の投球数は10月1日-31日までとした。

4.FVDM

 FVDの測定は笠原ほか(2011)の方法を用いた(伊藤ほか,

2019)。すなわち,被検者の肩関節を屈曲外転外旋(Flexion, Abduction and External rotation of the shoulder joint:FAE)さ

せ,被検者自身の母指を第7 頚椎棘突起から腰に向けて自ら 脊椎に沿わせて最大努力で下ろし,2秒以上保持できた位置を 測定点とし,第7 頚椎棘突起からの距離(㎝)を測定した。同 様に,被検者の肩関節を伸展内転内旋(Extension, Adduction and Inner rotation of the shoulder joint:EAI)させ,被検者の 母指を腰から第7 頚椎棘突起に向け脊柱に沿わせて最大努力 で上げていき,2秒以上保持できた位置を測定点とし,第7 頚 椎棘突起までの距離(㎝)を測定した。

5.FVD 基準値

 本研究では,笠原ほかの報告(2012)で示されたFAEにお けるFVD基準値は第7頸椎から8㎝以上,EAIにおけるFVD 基準値は第7頸椎まで15㎝未満としてた。すなわち,FAEに おけるFVD測定点が8㎝未満,EAIにおけるFVD測定点が 15㎝以上のデータはFVD基準値不適合とした。 

6.統計処理

 被検者Pを除いた16人の測定値をBell Curve Excel統計 for Windowsを用いて統計処理した。各群のFVD平均値の比 較,および各群における時系列的なFVD平均値の比較には一 元配置分散分析を行い,その後の多重比較ではSidakを用い た。各群における投球側肩と非投球側肩のFVD平均値の比較 では対応のあるt検定を用いた。PR群およびPL群のFVDと 月間投球数の相関関係は,ピアソンの積率相関係数を用いた。

いずれの検定においても有意水準は5%未満とした。

【結果】

1.FVD および FVD 基準値不適合率(表 1)

 1)表1には各群の被検者個々の測定結果ならびに各群の平 均値,標準偏差,およびFVD基準値不適合割合を示した。PR 群6人の投球側肩は “右”,PL群5人は “左”,C群3人および F群3人はいずれも “右” であった。

 2)PR群およびC群における左肩FAEのFVD平均値は,

各測定においていずれもPL群より有意な高値を示す傾向が認 められ,FVD基準値不適合率は春季から秋季を通じて低い傾 向を示した。しかし,“秋中” における右肩EAIのFVDにお いては,PR群およびC群がPL群よりも有意な高値を示し,

FVD不適合率はともに100.0%であった。

 3)PR群,C群およびF群の投球側肩である右肩EAIにお けるFVD基準値不適合率は66.7-100.0%であり,FVD基準 値不適合率は投球側肩が非投球側肩よりも高率を示す傾向が みられた。

 4)PL群の投球側肩である左肩FAEおよびEAIに高率な FVD基準値不適合率が認められたが,PR群とC群では投球 側肩の右肩FAEは16.7-40.0%であり,右肩EAIの66.7-

100.0%と比べ低い傾向がみられた。この傾向はPL群とは異

なる結果であった。また,F群のFVD基準値不適合率は左肩 FAEにおいても高率であり,“春後” 以外は66.7-100.0%で あった。

(4)

表1.被検者の特徴および各群におけるFVD基準値不適合率

ポジション

被検者身長㎝体重㎏

体脂肪 率%

左肩屈曲外転外旋時のFVD:FAE右肩屈曲外転外旋時のFVD:FAE左肩伸展内転内旋時のFVD:EAI右肩伸展内転内旋時のFVD:EAI 春前春後秋前秋中秋後春前春後秋前秋中秋後春前春後秋前秋中秋後春前春後秋前秋中秋後

PR群

A17682.620.612.812.613.314.012.410.38.310.410.09.37.69.15.38.07.326.123.521.023.023.7 B18390.414.511.110.612.210.512.09.39.88.38.89.710.512.611.510.314.11921.019.319.522.6 C19592.017.612.49.210.610.212.210.910.310.410.312.25.89.87.08.39.713.518.217.414.817.8 D17678.013.67.47.010.69.710.36.46.98.57.56.515.718.719.217.017.915.416.018.015.817.3 E17380.317.48.49.87.511.09.15.14.95.39.56.35.17.25.57.010.014.113.814.018.017.3 F17567.910.610.38.36.210.411.0118.87.011.59.310.67.711.09.311.117.514.118.516.118.8 平均値179.781.915.710.4*PL9.610.1*PL11.0*PL11.2*PL *F8.88.28.39.68.99.210.99.910.011.717.617.818.017.9*C 19.6 標準偏差7.58.03.22.21.92.71.51.32.52.02.01.42.23.94.35.33.63.84.73.92.33.02.8 FVD基準値不適合率〔%〕16.7%16.7%33.3%0.0%0.0%16.7%16.7%33.3%16.7%33.3%16.7%16.7%16.7%16.7%16.7%66.7%66.7%83.3%100.0%100.0%

PL群

G17771.311.99.110.47.810.511.011.811.69.812.512.79.110.38.712.911.219.821.017.619.017.8 H17876.114.25.75.55.75.55.15.87.47.87.37.421.222.321.820.822.318.519.019.618.018.8 I16665.010.56.65.95.38.07.49.69.310.411.510.47.517.916.020.020.41414.412.416.618.3 J17875.414.76.84.04.56.56.211.312.79.512.311.02220.218.018.217.312.29.59.29.29.1 K17577.319.85.83.00.97.06.010.47.27.09.210.116.313.515.119.518.911.110.011.610.014.0 平均値174.873.014.26.8*PR 5.8*C 4.8*PR *C7.5*PR 7.1*PR *C9.89.68.910.610.315.216.815.918.318.015.114.814.114.6*C 15.6 標準偏差4.54.53.21.42.82.51.92.32.42.51.42.21.96.74.94.83.24.23.85.24.34.64.1 FVD基準値不適合率〔%〕80.0%80.0%80.0%60.0%80.0%20.0%40.0%40.0%40.0%20.0%60.0%60.0%80.0%80.0%80.0%40.0%40.0%20.0%40.0%60.0%

C群 L17687.323.611.413.515.011.012.41213.013.213.011.51.52.02.07.03.915.315.514.521.219.0 M17390.026.29.911.311.011.010.610.39.610.39.810.215.119.317.520.616.316.930.030.530.326.4 N17283.018.27.89.18.89.910.84.507.04.67.47.610.113.510.915.014.127.028.524.428.827.1 平均値173.786.822.79.711.3*PL11.6*PL10.611.3*PL *F8.99.99.410.19.88.911.610.114.211.419.724.723.126.8*PR *PL24.2 標準偏差1.72.93.31.82.23.1.61.03.93.04.42.82.06.98.87.86.86.66.38.08.14.94.5 FVD基準値不適合率〔%〕33.3%0.0%0.0%0.0%0.0%33.3%33.3%33.3%33.3%33.3%33.3%33.3%33.3%33.3%33.3%100.0%100.0%66.7%100.0%100.0%

F群

O17278.315.56.79.57.59.57.49.910.68.911.39.815.616.814.416.015.321.223.721.522.322.5 P16865.210.356.77.34.47.00.23.13.3-3.02.687.76.66.76.419.917.324.631.125.6 Q17071.711.66.58.36.77.66.04.35.34.34.34.411.614.012.410.311.619.322.520.317.620.3 平均値170.071.712.56.68.97.18.66.7*PL *C7.18.06.67.87.113.615.413.413.213.520.323.120.920.021.4 標準偏差1.65.32.2.1.8.61.31.04.03.73.34.93.82.82.01.44.02.61.3.8.83.31.6 FVD基準値不適合率〔%〕100.0%33.3%100.0%66.7%100.0%66.7%66.7%66.7%66.7%66.7%33.3%33.3%33.3%33.3%33.3%100.0%100.0%100.0%100.0%100.0%

投球肩

合計〔人〕1212121212121212121212121212121212121212 FVD基準値不適合者数〔人〕5252344545333331010101212 FVD基準値不適合率〔%〕41.7%16.7%41.7%16.7%25.0%33.3%33.3%41.7%33.3%41.7%25.0%25.0%25.0%25.0%25.0%83.3%83.3%83.3%100.0%100.0%

全体

合計〔人〕1717171717171717171717171717171717171717 FVD基準値不適合者数〔人〕9695756756667771212111415 FVD基準値不適合率〔%〕52.9%35.3%52.9%29.4%41.2%29.4%35.3%41.2%29.4%35.3%35.3%35.3%41.2%41.2%41.2%70.6%70.6%64.7%82.4%88.2% ※個人のFVD値においては基準値に適合しない値を太字で示した *対照群:p<0.05 **対照群:p<0.01

(5)

法政大学スポーツ研究センター紀要

 5)PR群における右肩EAIの “春前” および “春後” の FVD基準値不適合率は,いずれも66.7%であったが,“秋前”

は83.3%に高まり,“秋中” および “秋後” はさらに高まって

100.0%に達した。PL群においても左肩EAIの “春前” および

“春後” のFVD基準値不適合率は,いずれも60.0%であった が,“秋前”,“秋中” および “秋後” は80.0%に高まった。左肩 EAIのFVD基準値不適合率はPR群およびPL群のいずれも 春季よりも秋季に高率になっていた。また,PL群では左肩 FAEのFVD基準値不適合率は “秋中” のみが60.0%であり,

それ以外の “春前” から “秋後” までは80.0%であった。

2.投球側肩と非投球側肩における FVD(表 2,図 1 −図 4)

 PR群では春季から秋季を通じてEAIの投球肩側と非投球側 肩のFVD平均値に有意差が認められ,投球側肩が右である PR群のFVD平均値が “春前” から “秋後” までを通じていず れも有意に大きく,非投球側肩のFVDが基準値適合であった のに対し,投球側肩のFVDはいずれも基準値不適合であった。

投球側肩が右であるC群においては “春後” 以降はPR群と同 様な傾向が認められ,F群では “春前” および “春後” におい てのみPR群と同様な傾向が認められた。

3.FVD の時系列的推移

 PR群およびPL群のFAEにおけるFVD平均値は “春前” よ り “春後” に低下し,PR群では “秋前” のFVDが “春前” の 水準に戻った。PL群の “秋前” のFVDは “春後” よりもさら に低下するが,その後の “秋中” と “秋後” は “秋前” のFVD より増加する傾向がみられた。この傾向はPL群の投球側肩お よび非投球側肩に共通していた。

 PR群のFAEにおけるFVD平均値の時系列的変化は投球側 肩および非投球側肩ともにFVD基準値以上の適合水準での推 移であった。しかし,PL群の投球肩側ではFVDは基準値を 下回る水準で推移し,非投球側肩のFVDは基準値を上回って 推移するとともにPL群の右肩FAEのFVDは,“秋前” と比 較して “秋中” および “秋後” に有意な増加を認めた。

 C群のFAEにおけるFVD平均値の時系列的変化は,投球 側肩および非投球側肩ともにFVD基準値以上の適合水準での 推移であった。しかし,EAIの投球側肩におけるFVDは基準 値不適合水準で推移し,非投球側肩のFVDは基準値適合水準 で推移した。このC群の非投球側肩EAIの時系列的変化にお いては,“春前” と “秋中” および “秋前” と “秋中” のFVD 平均値に有意差を認めた。

 F群のFAEにおけるFVD平均値の時系列的変化には,投球 側肩および非投球側肩に共通した傾向がみられた。すなわち,

いずれもFVD基準値を下回る不適合水準で増減し,“春前” の FVDは “春後” に増加し,“秋前” のFVDが “春前” と同水準 に低下し,“秋中” のFVDは “秋前” より増加し,“秋後” は

“秋中” より低下した。EAIの投球側肩におけるFVDは基準値 不適合水準で推移し,非投球側肩のFVDは基準値適合水準で 推移した。

4.PR 群および PL 群の月間投球数

 PR群およびPL群の月間投球数の平均値は,いずれも “秋 前” が最も多く,“秋後” が最も少なかった。この両群の投球 数の変化にはいずれも有意差が認められた。また,投球数と FVDの相関関係を調べた結果,PR群にのみ有意な相関関係を 認めた。すなわち,右肩関節EAIにおける “秋中” 投球数と 表 2.各群の肩関節屈曲外転外旋時および伸展内転内旋時の FVD における投球側肩と非投球側肩の比較

春前 春後 秋前 秋中 秋後

屈曲外転外旋 (FAE)

伸展内転内旋 (EAI)

屈曲外転外旋 (FAE)

伸展内転内旋 (EAI)

屈曲外転外旋 (FAE)

伸展内転内旋 (EAI)

屈曲外転外旋 (FAE)

伸展内転内旋 (EAI)

屈曲外転外旋 (FAE)

伸展内転内旋 (EAI)

PR 群

(N=6)

平均値 10.4 8.8 9.2 17.6 9.6 8.2 10.9 17.8 10.1 8.3 9.9 18.0 11.0 9.6 10.0 17.9 11.2 8.9 11.7 19.6 標準偏差 2.2 2.5 3.9 4.7 1.9 2.0 4.3 3.9 2.7 2.0 5.3 2.3 1.5 1.4 3.6 3.0 1.3 2.2 3.8 2.8

有意確率 .038 .019 .232 .028 .057 .015 .120 .016 .008 .016

PL 群

(N=5)

平均値 6.8 9.8 15.2 15.1 5.8 9.6 16.8 14.8 4.8 8.9 15.9 14.1 7.5 10.6 18.3 14.6 7.1 10.3 18.0 15.6 標準偏差 1.4 2.4 6.7 3.8 2.8 2.5 4.9 5.2 2.5 1.4 4.8 4.3 1.9 2.2 3.2 4.6 2.3 1.9 4.2 4.1

有意確率 .022 .980 .042 .586 .009 .562 .015 .257 .005 .383

C 群

(N=3)

平均値 9.7 8.9 8.9 19.7 11.3 9.9 11.6 24.7 11.6 9.4 10.1 23.1 10.6 10.1 14.2 26.8 11.3 9.8 11.4 24.2 標準偏差 1.8 3.9 6.9 6.3 2.2 3.0 8.8 8.0 3.1 4.4 7.8 8.1 .6 2.8 6.8 4.9 1.0 2.0 6.6 4.5

有意確率 .607 .143 .096 .009 .163 .000 .713 .013 .224 .013

F 群

(N=3)

平均値 6.1 4.8 11.7 20.1 8.2 6.3 12.8 21.2 7.2 5.5 11.1 22.1 7.2 4.2 11.0 23.7 6.8 5.6 11.1 22.8 標準偏差 .9 4.9 3.8 1.0 1.4 3.9 4.7 3.4 .4 3.0 4.1 2.2 2.6 7.2 4.7 6.9 .7 3.7 4.5 2.7

有意確率 .645 .045 .340 .009 .407 .088 .381 .164 .605 .090

※ 有意差があった有意確率を太字で示した

(6)

0 2 4 6 8 10 12 14 16

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図1-1 FVD:左肩 FAE

0 2 4 6 8 10 12 14 16

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図1-2 FVD:右肩 FAE

0 5 10 15 20 25 30 35

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図1-3 FVD:左肩 EAI

0 5 10 15 20 25 30 35

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図1-4 FVD:右肩 EAI

図 1.PR 群(投球肩:右)における FVD の変化

0 2 4 6 8 10 12 14 16

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図2-1 FVD:左肩 FAE

0 2 4 6 8 10 12 14 16

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図2-2 FVD:右肩 FAE

0 5 10 15 20 25 30 35

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

2-3 FVD:左肩 EAI

0 5 10 15 20 25 30 35

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

2-4 FVD:右肩 EAI

図 2.PL 群(投球肩:左)における FVD の変化  *p<0.05

(7)

法政大学スポーツ研究センター紀要

0 2 4 6 8 10 12 14 16

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図3-1 FVD:左肩 FAE

0 2 4 6 8 10 12 14 16

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図3-2 FVD:右肩 FAE

0 5 10 15 20 25 30 35

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図3-3 FVD:左肩 EAI

0 5 10 15 20 25 30 35

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図3-4 FVD:右肩 EAI

**

**

図 3.C 群(投球肩:右)における FVD の変化  *p<0.05  **p<0.01

0 2 4 6 8 10 12 14 16

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図4-1 FVD:左肩 FAE

0 2 4 6 8 10 12 14 16

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

図4-2 FVD:右肩 FAE

0 5 10 15 20 25 30 35

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

4-3 FVD:左肩 EAI

0 5 10 15 20 25 30 35

春前 春後 秋前 秋中 秋後

指椎間距

4-4 FVD:右肩 EAI

図 4.F 群(投球肩:右)における FVD の変化

(8)

“秋前” FVDの相関係数はr=0.871(p=0.024)であり,“秋前”

投球数と “秋後” FVDの相関係数はr=0.871(p=0.024)で あった。

【考察】

1.FVD 基準値不適合率

 表1に示した結果から,高いFVD基準値不適合率がPL群 の投球側肩である左肩FAEおよびEAIに認められたのに対し,

PR群とC群では投球側肩の右肩FAEとEAIのFVD基準値不 適合率に違いがみられた。すなわち,PR群とC群のEAIの FVD基準値不適合率は66.7-100.0%と高率であったのに対 し,FAEでは16.7-40.0%の低率を示した。また,F群の投 球肩側は右であることから,PR群とC群に似た傾向を示すと 予想していたが,非投球側肩の左肩FAEにおいて “春後” 以 外のFVD基準値不適合率が66.7-100.0%と高率を示した。

このようなF群にみられた傾向は,野手の特徴と考えてよい のではないかと考える。あくまでも推測の域を出ないが,野 手の特性として,必ずしも守備位置が一定ではなく,投球や 捕球時の姿勢は投手や捕手のように同じ動きを繰り返すわけ ではないため,想定外の負担や投球以外の要因が投球肩に繰 り返し加わることが考えられる。

 PR群における右肩EAIの “春前” および “春後” のFVD基 準値不適合率は,いずれも66.7%であったが,“秋前” は 83.3%に高まり,“秋中” および “秋後” はさらに高まって 100.0%に達した。PL群においても左肩EAIの “春前” および

“春後” のFVD基準値不適合率は,いずれも60.0%であった が,“秋前”,“秋中” および “秋後” は80.0%に高まった。左肩 EAIのFVD基準値不適合率はPR群およびPL群のいずれも 春季よりも秋季に高率になっていた。また,PL群では左肩関 節FAEのFVD基準値不適合率は “秋中” のみが60.0%であり,

それ以外の “春前” から “秋後” までは80.0%であった。

 これらのFVD基準値不適合の時系列的な変化に投球数が影 響したという仮説を立て,秋季リーグ戦期間におけるPR群お よびPL群の月間投球数を比較したところ,PR群およびPL 群のいずれの投球数も “秋前” が最も多く,“秋中” の投球数 は減少し,“秋後” の投球数は最も少なかった(図5)。そこで,

月間投球数とFVDの相関関係を調べた結果,PR群の右肩 EAIにおいてのみ有意な相関関係が “秋中” 投球数と “秋 前” FVDの間に,また “秋前” 投球数と “秋後” FVDの間に 認められ,投球数が多い選手ほど右肩関節EAIのFVDが増加 し,FVD基準値不適合率が高まることが示唆された。この点 に関して林田ほか(1996)は,過度の投球回数や不適切な準 備や投球動作により,腱板筋が疲労し,あるいは炎症を起こ して拘縮し,その協調した収縮が妨げられると,関節窩と骨 頭は良好な位置関係を保てなくなり,ズレが生じ関節窩上腕 靭帯―関節唇―関節窩縁複合体に過度なストレスが加わる。

この時の力は生理的限界に近く,その頻度が組織の修復する スピードを上回れば複合体に障害が蓄積し,オーバーユース による不安定相が発生する。この障害にともなう痛みは腱板

のスパズムを引き起こし,さらには腱板の強調した収縮を妨 げるという悪循環を成立させると説明している。

 本研究では被検者から除外した選手を含め,医療を要する 肩の痛みを訴える選手はいなかった。その背景には,PR群お よびPL群の投球数をピッチングコーチや投手自らが制限して いた効果だと思われる。また,肩関節の疲労や可動域の低下 を感じた投手にはトレーナーがケアを行う体制が整っていた ため,FVD基準値不適合率が高い被検者でも肩関節のスポー ツ傷害には至らなかった可能性がある。さらに,FVD の結果 は測定中の被検者に逐次フィードバックされ,FVDが減少し た被検者には測定直後に指導が行われるとともに,その情報 をトレーナーと共有していた。トレーナーはその情報に基づ きケアを施していたことも少なからず肩関節傷害の予防につ ながった可能性があることから,今後も定期的なFVD測定の 必要性が示唆されたと言える。

2.投球側肩と非投球側肩における FVD の比較

 我々は本研究の被検者らが所属する大学体育会野球部の強 化選手37人を対象に,2018年度春季リーグ戦開幕前の2月と 春季リーグ戦が終了した9月にFVDを測定し,投球側肩の FVDは肩関節の外転外旋動作および伸展内旋動作のいずれに おいても非投球側肩よりも狭いことを報告した(伊藤ほか,

2019)。本研究では肩関節傷害予防の観点から,リーグ戦中の

0 200 400 600 800 1000 1200

投球数

図5-2 PL群(投球肩:左)

投球数

0 200 400 600 800 1000 1200

投球数

図5-1 PR群(投球肩:右)

投球数

**

**

図 5.秋シーズンにおける投手の投球数       **p<0.01

(9)

法政大学スポーツ研究センター紀要

FVDの変化を把握するためにリーグ戦中に測定を複数回追加 することを検討した。しかし,練習計画を配慮して “秋中” を 追加するのみにとどめた。その結果,ポジション別の傾向で は,PR群とC群の左肩FAEは,PL 群と比較しFVDが有意 な高値を示し,左肩EAIにも同様な傾向が見られた。この点 は,上肢のオーバーヘッドスローイング動作を頻繁に繰り返 す投球側肩に生じる自然な結果であったと言える。

 次に,各群の投球側肩と非投球側肩の平均値を比較した結 果(表2,図1-図4),PR群では5回の測定すべてのEAIに 有意な左右差が認められ,いずれも投球側肩の右が基準値不 適合であった。このようなFVDの左右差には肩関節傷害のリ スクが懸念される。笠原ほか(2012)は,肩障害群は健常群 に比べてFVD 測定値が有意に低下していると報告している。

幸田ほか(2018)は,投球肩・肘障害を有する高校野球投手 を対象に関節可動域や筋力の投球側と非投球側との差を調べ,

野球選手における投球側肩関節内旋可動域は非投球側よりも 小さくなり,非投球側との差が大きい選手ほど投球肩障害を 有する割合が高いと述べたBurkhart et al.(2003)と同様な結 論を報告しており,投球側肩の障害発症を防ぐ観点からFVD 測定の意義が示唆されたと思われる。一方,PL群ではPR群 のEAIに認めた傾向と同様な傾向がFAEに認められた点は興 味深い。すなわち,PL 群ではPR群に認めたEAIと異なり,

FAEにおいて5回の測定すべてに有意な左右差が認められ,

いずれも投球側肩の左が基準値不適合であった。

 FVDの左右差が投球側肩の違いによって生じるのは自然だ と言えるが,投球のメカニズムは複雑であり,オーバースロー やサイドスローあるいはアンダースローなどの投球フォーム の違いなどが影響した可能性が考えられる。しかし,本研究 で認めたPR群とPL群の肩関節機能の特徴の違いを説明でき る根拠が見当たらないだけでなく,被検者を個別に分析すれ ばこの特徴に当てはまらない場合も当然ある。また,PL群で はEAIに有意な左右差はなかったもののFVDは左右ともに基 準値不適合値に近いか,またはそれを超えていた。この点は,

被検者らが肩関節傷害を予防するために努力して改善すべき 課題を示唆しているのかもしれない。

 図5 に示した月間投球数の変化に有意な減少を認めたこと

に関しては,PR群およびPL群の投球側肩の負担軽減の効果 が見られる可能性を予想し,FVDの改善を示す結果を期待し たが,図1および図2にそのような結果は認められなかった。

また,PR群の投球側肩のEAI(図1-2)と投球数(図5-1)の 間に相関関係を認めたが,その理由に十分な説明がつかない ことから,投球数の減少が必ずしもFVDを改善する要因にな るとは言えないことが示唆されたと思われる。

 今後は,疲労や筋力がFVDに及ぼす影響を検討するととも に,本研究で着目したFVD基準値からの乖離率と投球肩傷害 発症の可能性を究明し,セルフチェックによるFVDの評価基 準の構築に発展させたい。

【文献】

1) Burkhar t.SS,Morgan.CD and Kibler.WB.(2003) The disabled throwing shoulder: spectrum of pathology Part I:

pathoanatomy and biomechanics. The Jour nal of Arthroscopic and Related Surgery, 2003, 19(4):404-420.

2) Burn MB, et al. Prevalence of Scapular Dyskinesis in Overhead and Nonoverhead Athletes(2016)A Systematic Review. Orthop J Sports Med,4(2):2325967115627608.

3) 林田賢二・米田稔(1996)投球障害肩の臨床診断,臨床 スポーツ医学,13(2):137-146.

4) 伊藤マモル・森嶋琢真・越智英輔・植田央・土屋陽祐・

由井嶺太・矢内智也・山本利春(2019)指椎間距離測定 を用いた大学野球選手の肩関節可動域の特徴.法政大学 スポーツセンター紀要,37:49-56

5) 岩佐知子・菅沼一男・知念紗嘉・丸山仁司(2011)投球 数が肩関節機能に及ぼす影響―中学生野球選手において

―.理学療法科学,26(1):23-26.

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距離法を用いたFVD測定の信頼性と客観性.日本臨床ス ポーツ医学会誌,19(3):534-539.

7) 笠原政志・川原貴・奥脇透・山本利春(2012)肩関節障 害を有する選手に対するFVD測定の有用性.日本整形外 科スポーツ医学会雑誌,32(1):38-42.

8) 川井謙太朗・舟崎裕記・林大輝・加藤晴康・沼澤秀雄

(2017)投球障害肩症例における投球側と非投球側の肩関 節機能の違い.理学療法科学,32(1):39-43.

9) 幸田仁志・甲斐義浩・来田宣幸・松井知之・東善一・平 本真知子・瀬尾和弥・宮崎哲哉・木田圭重・森原徹(2018)

高校野球投手における身体機能の非投球側差と投球肩・

肘障害について-障害陽性群と陰性群での非投球側差の 比較検討-.Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy,8(3):127-131.

10) 久保田大夢・永田敏貢・福吉正樹・小野哲矢・中川宏樹・

青山英里・南島瑞紀・鵜飼建志(2016)肩関節痛を有す るバドミントン選手の特徴.東海スポーツ傷害研究会会 誌,34:

11) 村上彰宏・櫻庭景植(2011)投球動作における肩関節水 平外転動作と投球肩障害の関連について.順天堂スポー ツ健康科学研究,58-2(4):171-175.

12) 日本臨床スポーツ医学会整形外科学術部会編(1998)野 球障害予防ガイドライン,文光堂.東京.

13) Olsen. SJ. 2nd.,Fleisig.GS.,Dun.S.,Loftice.J. and Andrews. JR. (2006) Risk factors for shoulder and elbow injurieis in adolescent baseball pitchers,The American journal of sports medicine, 34:905-912.

14) 末永直樹・鈴木克憲・三浪明男(1994)野球選手におけ る肩関節可動域と肩障害の関連について.肩関節,18

(1):77-81.

15) 武内孝祐・中嶋杏菜・小松猛・佃文子(2017)大学男子

(10)

オーバーヘッドスポーツ選手と非オーバーヘッドスポー ツ選手における肩関節可動域の比較.びわこ成蹊スポー ツ大学研究紀要,14:37-43.

16) 館俊樹・長谷川伸・小栗和雄・春日晃章・鳥居俊(2009)

オーバーヘッド動作を伴う種目の肩関節回旋角度と筋力 特性―大学トップアスリートの種目別比較―.東海保健 体育科学,31:31-39.

参照

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