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ヘルス・コミュニケーション方略を用いた地域住民の健康行動変容

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人間科学研究 Vol. 27, Supplement(2014)

博士論文要旨

第1章 本研究の目的および意義

 生活習慣病の患者数の増加,および平均寿命の延伸と高 齢化に伴い,個人の健康行動の獲得は,生活習慣病の予防・

改善,生きがいの獲得,および健康寿命の延伸,などの側 面から高い関心が寄せられている。このような背景のもと,

健康づくりに関する情報提供の方法に関しては,単に情報 を提供するだけではなく,対象となる人々が自ら自身の行 動を変えようと決心し,健康行動を実施できるようなアプ ローチ法が必要である。近年,対象者の自発的な健康行動 変容を目的として,健康行動の先行因子となる心理・社会 的変数へのアプローチを重視する方略は,ヘルス・コミュ ニケーション(Health Communication:以下HCとする)

と総称され,基礎研究,および介入研究が行われている。

 本研究の目的は,地域住民の身体活動の実施,食習慣の 改善を目的としたHC介入が,健康行動の開始・継続,およ び生活の質(Quality of Life:以下QOLとする)の向上に 及ぼす効果を検討することであった。しかしながら,我が 国においては,これまでにHCに関する基礎研究が十分に 行われていない。そこで本研究では,第2章においてHC の概念を明確にし,身体活動の実施,および食習慣の改善 を目的とするHC介入の動向を把握した。さらに第3章に おいては,本研究で目標行動とする身体活動の実施,およ び食習慣とQOLとの関連性を検討した。これらの基礎研究 に基づき第4章,第5章,および第6章においては,町の 健康づくり介入に対して依頼のあったT町を対象とし,HC 介入方略の開発,実施,および評価を行い,介入による効 果を検証した。 本研究におけるHC介入の概略をFigure 1

に示す。本研究では,複数の健康課題に対して同時にアプ ローチを行う,キャンペーン型のHC介入を実施した。

第2章 我が国における健康づくり施策とヘルス・コミュ ニケーション

 第2章においては,我が国における健康づくり施策と HCの概念について整理した。その結果,我が国において は,健康的な生活習慣の獲得を通じた生活習慣病の予防・

改善が重視されていること,および日常生活に対する満足 感,幸福感といった肯定的な心理的評価であるQOLの向上 が目標とされていることが明らかになった。さらに,HC については,介入方略の開発,介入媒体の普及,および介 入効果の評価,について概説し,研究Ⅰにおいて身体活動 の実施,および食習慣の改善を目的としたHC介入の動向 をまとめた。その結果,我が国におけるHC介入事例の拡 充,およびポピュレーションアプローチによる介入の必要 性が示された。

第3章 身体活動および食習慣と健康関連QOLとの関連性  第3章では,身体活動,および食習慣と健康関連QOLと の関連性について検討した。その結果,運動,生活活動,お よび食習慣は,健康関連QOLの異なる領域に対して関連性 を有していることが明らかになった。したがって,健康関 連QOLの改善においては,複数の生活習慣の改善に着目す ることで,より高い介入による効果が期待できることが示 された。

第4章 フォーマティブリサーチ

 第4章においては,T町の住民を対象としたHC介入の 実施に先立つ事前調査(Formative Research:以下FRと

ヘルス・コミュニケーション方略を用いた地域住民の健康行動変容

The Impact of Health Communication Strategies on Community-based Behavior Change Intervention

島崎 崇史(Takashi Shimazaki)  指導:竹中 晃二

Figure 1 HC介入全体の概要 課題3

住民の健康意識の底上げ

:全住民を対象とした 情報普及活動

課題1 健康診査の受診率の向上

:特定健診の魅力づくり

課題2 中高年住民を対象とした

生活習慣の改善

FRに基づくリーフレット配布

介入方略の開発

(第5章)

・ロゴマーク

・ニューズレ  ター

・ポスター

・リーフレット

・町の事業への    適応

・広報誌の記事

・ホームページ  の開設 健康づくりの課題と目標

健康診査 における介入

(研究Ⅴ)

(研究Ⅵ)

中高年住民を 対象とした介入

(研究Ⅶ)

全住民への 健康情報の普及

介入方略の開発(第4章・第5章) 介入の実施・評価(第6章)

フォーマティブ リサーチ

(第4章)

行政職員FR

(研究Ⅲ)

中高年住民 FR

(研究Ⅳ)

キャンペーン型 ヘルス・

コミュニケー ション介入

の評価

(研究Ⅷ)

(2)

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人間科学研究 Vol. 27, Supplement(2014)

する)として,行政職員を対象としたFR,および中高年住 民を対象としたFR,を実施し,町で取り組むべき健康課題,

および,効果的な情報普及の方略について検討した。

第5章 ヘルス・コミュニケーション介入方略の開発  第5章では,FRの結果に基づき,「日常行っている活動 をわずかに変化させ,健康を意識した行動に変容させる,あ るいは,対象者にとって負担感が低く,実行可能性の高い 健康行動を推奨する方略」であるスモールチェンジ方略

(Table 1)を適用し,健康診査の受診者の健康づくり・受 診率の向上,中高年住民の健康づくり,および全住民を対 象とした健康意識の底上げ,を目的としたHC介入方略の 開発を行った。具体的には,(a)健康心理学に基づく行動 変容を目的とした介入媒体の作成(ニューズレター,リー フレット,ポスター:Figure 2),および(b)現在町で実 施している健康づくり施策,行事への行動変容に関する要 素の適用(町の行事,健康教室,広報誌,保健センター ニューズレター,ウェブサイト)により介入媒体を開発した。

第6章 ヘルス・コミュニケーション介入の実践と評価  第6章においては,開発したHC介入方略を適用し,地 域住民を対象としたキャンペーン型HC介入を実施した。

その結果,研究Ⅴ,および研究Ⅵにおける健康診査受診者 を対象とした介入では,女性の健康意識の向上,および現 在健康行動を実施していない対象者のおよそ70%に健康行 動の試行が確認された。研究Ⅶにおける中高年住民を対象 とした介入では,FRに基づくリーフレットの配布により,

およそ10―20%の対象者に生活習慣の肯定的な変容が認め られた。さらに健康関連QOLにおいては,効果量小―中の

改善が認められた。研究Ⅷでは,全住民を対象とした健康 づくりに関するキャンペーン型HC介入の全体評価を行っ た。その結果,SCについて知っている者の割合は,45.7%

であった。さらにSCの内容を理解していた対象者において は,行動変容前期の者において,40%の対象者が健康行動 を試行し,30%の対象者が継続していた。

第7章 総合考察

 本研究により得られた主な知見についてまとめる。

介入による効果量

 欧米における身体活動の実施,および食習慣の改善を目 的とした介入について扱った総説論文では,健康関連指標 に対する介入効果を示す効果量が小―中程度であることが 報告されている。しかしながら,我が国においては,身体 活動の実施,および食習慣の改善を目的としたHC介入に よる効果量に関する報告がこれまでになされてこなかった。

本研究の結果,身体活動,および食習慣の改善に関する介 入の結果,欧米の先行研究と同様に概ね効果量小―中程度 の健康行動の実施,健康関連QOLの改善に対する効果が確 認された。したがって本研究において得られた知見は,地 域におけるHC介入を実施する際の評価におけるサンプル サイズの決定に対しても有益な知見となり得る。

スモールチェンジ方略の効果

 近年,スモールチェンジ方略に関する基礎研究,および 実践研究が進められているものの,行動の開始,および継 続に与える効果については,十分に検討がなされていない。

本研究においては,スモールチェンジ方略の効果について,

健康診査の受診者に対する介入効果として研究Ⅴ,および キャンペーン型介入の評価として研究Ⅷにおいて検討した。

 健診受診者を対象とした場合においては,健康行動非実 施者のおよそ60―70%が行動を試行していた。一方,全住 民を対象とした場合には,健康行動前期の40%に健康行動 の試行が確認された。健診受診者において行動試行者の割 合が高かった理由として,健康診査の受診者は,行動の採 択に対する心理的なレディネスが高い状態であったためで あると考えられる。研究Ⅵにおける対象者は,健康診査に 参加していることからも,健康行動の実施に対する意図が 強化されていたため,行動の変容に寄与した割合が高かっ たと考えられる。したがって,スモールチェンジ方略を用 いた情報提供の際には,意図やその先行因子となる変数へ のはたらきかけと組み合わせることで行動の変容を促進す ることが可能であると考えられる。

 本研究の結果,基礎研究としては,身体活動,および食 習慣と健康関連QOLとの関連性を統合的に検討し,複数の 生活習慣の改善を行うことで,健康関連QOLの改善に対し て高い介入効果が期待できることを明らかにした点におい て,実践研究を行う上で意義深い知見が得られた。また,実 践研究としては,欧米を中心として理論の構築,および実 践が進められてきたHC介入について,我が国における一 つのモデルケースを示すことができたという点,ポピュ レーションアプローチによる数少ないHC介入の事例であ るという点で,今後の他地域での健康づくり施策の立案に おいて有益な知見が得られた。

Figure 2 HC介入に用いたニューズレター・ポスター Table 1 スモールチェンジ方略における推奨行動の例

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