給水および給湯設備に使用される SUS 304 配管の腐食事例 とその耐食性に関する基礎的研究
田中 法幸a,*,佐藤 茂a,渡邊 一平b,吉田 道之b,山田 豊b,櫻田 修b
a ダイダン㈱ 技術研究所(〒 354︲0044 埼玉県入間郡三芳町北永井 390)
b 岐阜大学(〒 501︲1193 岐阜県岐阜市柳戸 1︲1)
Cases of Corrosion in Tap Water and Hot Water Supply Facilities of Stainless Steel Type 304 Pipes and Fundamental Study on Their Corrosion Resistance
Noriyuki TANAKA
a,*, Shigeru SATO
a,
Ippei WATANABE
b, Michiyuki YOSHIDA
b, Yutaka YAMADA
band Osamu SAKURADA
ba Technical Research Laboratory, DAI-DAN Co., Ltd. (390, Kitanagai Miyoshi-machi, Iruma-gun, Saitama 354-0044)b Gifu University (1-1, Yanagito Gifu-shi, Gifu 501-1193)
We used case study analyses and corrosion tests to assess the corrosion resistance of stainless steel type 304 pipes in tap water and hot water facilities. Circulating test equipment used for corrosion tests and two types of samples, plates, and straight pipe specimens were examined in changing conditions of residual chlorine concentration in the test water. Case study analysis results demonstrated that high degrees of pitting corrosion occurred on straight pipes with inner diameter of less than 50 mm. Results of corrosion tests show that the residual chlorine con- centration around the pitting corrosion of stainless steel type 304 was greater than 0.5 mg/L in the plate, irrespective of the residual chlorine concentration in the straight pipe specimens. Results suggest that straight pipes have higher corrosion susceptibility because of bending during production.
Keywords : Stainless Steel, Corrosion Resistance, Tap Water, Residual Chlorine, Corrosion Potential
1 .緒 言
SUS304 配管は,その優れた耐食性を有することから 1980 年初頭より建築設備に用いられはじめ,現在では主に給水お よび給湯設備でおよそ数倍とその需要が増加している。しか し,需要の増加とともに腐食問題も多く経験されるように なってきた。1990 年代の淡水中における腐食研究を列挙す ると,例えば温水配管用 304 鋼のSCC事例の報告1),溶接 部の耐食性2)〜4)などに関するものが代表的な研究報告である。
現在ではステンレス協会発行の建築用ステンレス配管マニュ アルや低炭素材としてのL材など施工方法や新材料による 溶接部に対する防食対策がほぼ確立されている5)。
一方 2000 年代に入ると,ステンレス配管の直管部におけ る孔食事例が報告されるようになった。その腐食要因として 給水中に消毒剤として投入される次亜塩素酸ナトリウムが残 留した残留塩素が挙げられている6)〜9)。浄水場より供給され る給水は,①原水中に含まれるアンモニア,有機物,溶存鉄,
マンガンなどを酸化して無害化するための前塩素処理,②凝 集剤を添加して浮遊物質を吸着沈殿させる処理,さらに③消 毒のための後塩素処理,の三過程からなる。これらの化学処
理は必然的にCl−,ClO−,SO42−など腐食性アニオンを原水 に加えるとともに,局部アノードにおけるpH緩衝能を低下 させ,金属腐食を促進させる要因を与えられることになり,
炭素鋼管や亜鉛めっき鋼管の腐食を頻発させることになった。
この背景のもとにステンレス鋼管が水道水配管,給排水機器 材料として注目され普及してきた10)。浄水処理における塩 素注入量は年々増加する傾向にあり,その背景には生活排水 を浄水の原水に取り込む量が増え原水の汚れが進んでいるこ とが挙げられる。消毒に有効な塩素はHClOであろうと推察 されており11),この酸化力は極めて強く,ステンレス鋼の 浸漬電位を孔食電位以上に高めるおそれがある10)。1990 年 に報告された厨房,浴槽,配管などにおけるステンレス鋼の 約 10 年間の腐食事例 135 件の調査結果によれば,適用量の 多い 304 鋼が 106 件を占め,腐食発生までの期間は 1 ~ 2 年 が最も多く,その腐食は溶接部およびすきま部におけるもの が多いことが示された12)。1990 年代までのステンレス鋼の 腐食研究は,この調査結果に示された状況が背景にあるもの と示唆される。これまで直管部(非溶接部)に着目した腐食研 究は,例えば希薄NaCl水溶液中におけるオーステナイト系 ステンレス鋼の耐応力腐食割れ性に及ぼすP,Cuの影響13)
などSCCに関する報告である。またその多くが強酸・強ア ルカリ環境や海水環境など厳しい腐食環境を対象としており,
技 術 論 文
* E-mail : [email protected]
水道法水質基準を満足する淡水環境における直管部の孔食に 関する研究報告はほとんどみあたらない。建築設備において ステンレス鋼は錆びない材料としての認識が高いことから,
防食対策の必要性の認識を高めるためにも淡水環境における SUS304 配管の耐食性に関する知見を得ることが急務である。
そこで本報では直管部における孔食の発生要因を調査すべ く,腐食事例による実態調査をおこないとりまとめた。次い でその実態調査結果に基づき,ステンレス鋼の淡水中におけ る基礎的知見を得るべく,実環境を模擬した腐食試験をおこ なったので報告する。これまでの腐食研究では,ほとんどが 平板の供試材でおこなわれている。SUS304 は冷間加工によ り加工誘起マルテンサイトが生じ,この加工誘起マルテンサ イトはオーステナイトに比べ活性域での全面腐食量を増加さ せるとともに優先的に孔食が発生する14)。この加工誘起マ ルテンサイトの生成による耐食性への影響についても水道法 水質基準を満足する淡水環境における研究報告はみあたらな い。実環境では平板を曲げ加工して製造された管が使用され ていることから,この加工による耐食性への影響も調査する ために,本研究では平板と直管を供試材として評価した。
2 .腐食事例調査 2.1 調査方法
社内事例 18 件15)と 2000 年から 2015 年までの 16 年間に 報告されたSUS304 配管の腐食事例 10 件6)〜9),計 28 件につ いて調査をおこなった。調査対象とした 28 件の建物は全て 給水および給湯設備を備えている建物である。調査は,給水
および給湯設備の発生件数を腐食形態別,次に発生部位別(直 管部と非直管部),および配管の内径別(50 mm以下と 60 mm 以上)に分類した。そして腐食要因とされている残留塩素に ついては,日本全国の水道水質データより,国内の上水道に おける平均残留塩素濃度が 0.3 ~ 0.4 mg/Lの範囲にあること が示されていることから 0.4 mg/L未満と 0.4 mg/L以上に分 類した。
2.2 調査結果および考察
図 1-a)に設備用途別および図 1-b)に腐食の発生部位別の調 査結果を示す。設備用途別では調査対象とした腐食事例 28 件中 21 件が給湯設備の事例であり,給水および給湯設備と もに孔食の発生件数が多かった。一方,発生部位別では 21 件が直管部の事例であり,孔食の発生件数が 14 件と多かった。
図 1-c)に配管の内径別の調査結果を示す。給湯設備では,
50 mm以下での発生事例が多かった。一方の給水設備では,
調査対象事例に不明が多く明確な傾向はわからなかった。な お,60 mm以上に分類された事例でも同系統の 50 mm以下 の配管に腐食が生じていたことから,内径 50 mm以下の事 例がほとんどであったものと考えられる。図 1-d)に残留塩素 濃度別の調査結果を示す。給水設備では事例の約半数が 0.4 mg/L以上の使用環境,給湯設備では約半数が 0.4 mg/L 未満の使用環境であった。
28 件の腐食事例を調査した結果,給水および給湯設備と もに孔食の割合が多く,50 mm以下の直管部における事例 が多かった。内径 50 mm以下は,給湯管の枝管や返湯管と して使用される管種であることもあり,その使用量も多い。
Pitting
Pitting
Crevice
Crevice
Welding
Welding SCC
0 5 10 15 20 25
Tap-Water Hot-Water
Number
7 a) 21
Pitting
Pitting Crevice
Crevice
Welding
Welding SCC
0 5 10 15 20 25
Straight Pipe Others
Number
21
7 b)
≦50 mm
≦50 mm
≧60 mm
≧60 mm
Unknown
Unknown
0 5 10 15 20 25
Tap-Water Hot-Water
Number
7 c) 21
<0.4mg/L
≧0.4mg/L
≧0.4mg/L
Unknown
Unknown
0 5 10 15 20 25
Tap-Water Hot-Water
Number
7 d) 21
Fig. 1 Comparison of a)tap water and hot water facilities, b)corrosion position, c)inner diameter of pipe and d)residual chlorine concentration by research of corrosion in tap water and hot water supply facilities used stainless steel type 304 pipes6)-9),14).
Vol. 68, №11, 2017 とその耐食性に関する基礎的研究 643
そして内径が 50 mmから 13 mmと小さくなるにつれて使用 量も多くなり,実際には本調査件数よりも多いことが予想さ れた。
50 mm以下に多かった理由としては,直管は平板の原材 料を円周方向に曲げ加工した後,溶接して製造される。その ため,加工誘起マルテンサイトが生じるとともに,内径が小 さくなるほど曲率半径が小さくなり曲げ加工が厳しくなるた め加工誘起マルテンサイトの生成量が多くなる14)ことが予 想された。それによって表面皮膜の生成,すなわち耐食性に 対しても影響しているものと考えられた16),17)。
さらに残留塩素濃度については,給水設備では濃度の高い ところで発生し,給湯設備では濃度が低くても発生している ということから,水温と残留塩素濃度の依存性が耐食性に影 響を及ぼしているものと考えられた。
3 .耐食性におよぼす内径および残留塩素濃度の影響 の調査
実環境の残留塩素を模擬するため試験水に次亜塩素酸ナト リウムを添加した。本論文中では試験水中のその濃度を残留 塩素濃度と呼ぶ。
3.1 試験方法 3.2.1 供試材
供試材は,縦 50 mm×横 30 mm×肉厚 0.8 mmのSUS304 冷間圧延ステンレス鋼鋼板(JIS G 4305,以後,平板と記す。)
お よ び 内 径 13 mm× 外 径 15.88 mm× 肉 厚 0.8 mm× 長 さ 150 mmのSUS304TPD一般配管用ステンレス鋼鋼管(JIS G 3448,以後,直管と記す。)を用いた。表 1に供試材の組成分 析結果を示す。なお,各供試材は市販のものを購入し,表面 研磨等行わず受け入れ時のまま脱脂洗浄のみおこない試験に 供した。なお,直管は外面のみ被覆処理し平板は有効面積と して 1 cm2角を残し全体を被覆処理した。
3.2.2 試験装置
図 2に腐食試験装置概略図を示す。装置は 10 Lの試験水 調製槽,1 Lの試験ビーカー,調製槽と試験ビーカー系統の 循環配管,残留塩素濃度制御装置,残留塩素濃度制御装置と 調製槽系統の循環配管,炭酸ガス供給装置からなる。試験ビー カー出口側および残留塩素濃度制御装置入口側に設置した循 環ポンプを介して試験装置内を通水する循環システムとした。
平板の供試材を試験ビーカー内に,直管の供試材を試験ビー カー出口側の循環ポンプと調製槽の間に設置した。
3.2.3 試験条件
表 2に試験条件および表 3に試験水原水とした埼玉県入間 郡三芳町上水の水質分析結果を示す。この原水を用い残留塩 素濃度を 0.0,0.5 および 1.0 mg/Lの所定濃度に調製したも
のを試験水として循環通水した。試験水は調製槽の電気伝導 率をモニタリングしながら 30 mS/mを上限として 3 日に一 度 3 L交換した。調製槽より循環ポンプを介して残留塩素濃 度制御装置に試験水を供給し,濃度をモニタリングしながら 所定濃度になるように薬注ポンプを制御し調製した。pHは 炭酸ガスを一定流量で供給し,7.2 ± 0.1 に安定させた。試 験水温度は室温でおこなった。試験は 30 日間おこない,供 試材の腐食状況をデジタルマイクロスコープおよび走査型電 子顕微鏡(以後,SEMと記す),エネルギー分散X線分光法
(以後,EDXと記す)により観察・調査した。試験水の水質 分析は試験開始時および終了時に実施し,試験中は残留塩素 濃度,pH,電気伝導率,水温,および自然電極電位につい て連続測定をおこなった。
3.2 試験結果および考察 3.2.1 内径と耐食性
平板と直管を供試材として用いたことから,両者の耐食性 について比較評価をおこなった。図 3に残留塩素濃度 0.0 mg/L のときの平板と直管の試験開始後 400 ks(4 日間)までの自然 電極電位の経時変化を示す。平板では実験開始時 0.1 V vs.
SCEから 30 ksまでに 0.15 V vs. SCEまで上昇し,400 ksで は 0.2 V vs. SCEで推移した。それに対して直管は実験開始
[wt%]
Specimen C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N
Plate 0.057 0.34 1.06 0.032 0.004 8.09 18.07 0.15 0.36 0.035
Pipe 13 mm 0.036 0.37 1.05 0.033 0.005 8.07 18.22 0.14 0.31 0.039
Pipe 25 mm 0.051 0.46 1.04 0.032 0.002 8.06 18.28 0.12 0.31 0.036
Pipe 50 mm 0.043 0.39 1.04 0.029 0.002 8.05 18.02 0.07 0.21 0.041
Table 1 Chemical composition of the specimens used.
Electrometer
1,000mg/L HOCltank Residual
Chloride meter
Electrical Conductivity meter
pH meter
CO2
gas 1000mg/L
NaOCl tank
Electrometer
SpecimenPipe
0.15%-NaOCl Infusion pump 0.1mL/stroke
Circulating 10L/minpump Circulating
10L/minpump Flow-meter
Flow-meter
Plate Specimen Preparation Tank
Test Beaker
Fig. 2 Schematic drawing of circulating corrosion test equipment.
後 0.5 V vs. SCEから 30 ksまでに 0.3 V vs. SCEに降下し,
400 ksまで同値で推移した。平板は上昇し,直管は降下する という相反する傾向を示した。
平板と直管の自然電極電位の挙動について加工による影響
を調査するため,平板と直管 13 mm,25 mmおよび 50 mm について超微小硬さ測定をおこなった。図 4に超微小硬さ測 定結果のビッカース硬さ換算値を示す。平板が 245 であるの に 比 べ 直 管 の 13 mmで は 281,25 mmで は 265, そ し て 50 mmでは 251 と全体的に直管の方が硬いことが示された。
また,直管は内径が小さいほど硬い傾向がみられた。直管は 平板から円周方向への曲げ加工がおこなわれる。当然ながら 表面も曲げ加工の影響を受けることが予想される16),17)。内 径が小さいほど硬い傾向がみられたことから,内径が小さい ほど加工誘起マルテンサイト生成量が多いものと考えられた14)。 本試験結果は。この影響を受けて自然電極電位挙動に違いが 生じたものと考えられ,平板と直管では腐食挙動が異なるも のと考えられる。
3.2.2 残留塩素濃度と耐食性
図 5-a)に平板および図 5-b)に直管の試験開始後 400 ks(4 日間)までの自然電極電位の経時変化を示す。直管では試験 開始時 0.4 V vs. SCEの自然電極電位を示し,その後 30 ksま で時間の経過とともに降下し,120 ksで 0.0 mg/Lでは 0.3 V vs. SCE,0.5 mg/Lでは 0.2 V vs. SCE,そして 1.0 mg/Lでは
Test Water
Residual Chloride conc. 0.0 - 1.0 mg/L
pH 7.2 ± 0.4(by CO2 gas:0.2mL/min)
Water Temperature 25.0 ± 10℃
Electric Conductivity 20.0 - 30.0mS/m
Raw Water Service Water(Miyoshi-machi Iruma-gun Saitama)
Circulating Water Volume 8.0 ± 0.5L/min Retained Water Volume 11L
specimens Plate SUS304:30 × 50 × 8mmt(Effective area 1.0cm2)
Pipe SUS304TPD:13A× 150mmL
Test Duration 30 days
Measurement Item
Rest Potential :HZ5000 and HE-104A (HOKUTO DENKO)
Residual Chloride conc. :RM-52-PC-B3 (TACMINA)
:AQ-101(SIBATA SCIENTIFIC TECHNOLOGY)
pH :D-52(HORIBA)
Electric Conductivity :CM-31P(DKK/TOA)
Water Temperature :D-52,CM-31P Analysis of Water Quality 2 times(before and after test)
Analysis of Samples Microscopic Examination,SEM,EPMA Table 2 Corrosion test condition.
Quality of Water Item Results
pH [-] 7.6
Electric Conductivity [mS/m] 21.9
Acid Consumption(pH4.8) [mgCaCO3/L] 51
Cl- [mg/L] 16
SO42 - [mg/L] 23
Total Hardness [mgCaCO3/L] 77
Calcium Hardness [mgCaCO3/L] 56
SiO2 [mg/L] 25
Fe [mg/L] < 0.1
Cu [mg/L] < 0.1
Table 3 Chemical analysis of test water.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0 50 100 150 200 250 300 350 400
ImmersionPotentialvs.SCE[V]
Time [ks]
Plate Specimen Pipe Specimen
Pipe Specimen
Plate Specimen
Fig. 3 Comparison of immersion potential between plate speci- men and pipe specimen in the case 0 mg/L of residual chlorine concentration.
150 200 250 300 350
Pipe 13 mm Pipe 25 mm Pipe 50 mm Plate
HV[-]
0
Fig. 4 Comparison of vickers hardness between plate specimen and pipe specimen.
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0.1 V vs. SCEで推移し,残留塩素濃度の依存性の傾向が顕著 にみられた。しかし,平板では 0.5 mg/Lと 1.0 mg/Lが同様 な自然電極電位の挙動を示し,試験開始時 0.1 V vs. SCEで あった自然電極電位が 6 ksまでに 0.3 V vs. SCEまで急激に 上昇し,180 ks以降は 0.4 V vs. SCEで推移した。一方,0.0 mg/L も類似した挙動を示したものの 0.2 V vs. SCEで推移した。
試験結果とこれまでの報告4), 18)の比較結果を図 6に示す。試 験後の供試材に観察された腐食の兆候は,不働態皮膜の破壊 によるものと考え,不働態皮膜の破壊に達した電位として自 然電極電位の最高値をプロットし,これまでの報告データを 一次近似した直線を基準に相関を評価した。直管の残留塩素 濃度 0.0 mg/Lを除く全ての残留塩素濃度条件において本研 究とこれまでの研究との自然電極電位の最高値の良い一致が みられた。加えてこの結果より,SUS304 の孔食電位は 0.4 V
vs. SCE付近にあるものと考えられる。また,平板について
もこれまでの報告と一致していた。
表 4に試験結果のまとめを示す。平板の残留塩素濃度 0.0 mg/Lの場合を除き,供試材表面には腐食の兆候とみられ る変色部が観察された。変色部のSEM観察及びEDX分析 結果の一例を図 7に示す。図 7-a)に示すデジタルマイクロス
コープによる観察写真より変色部は,鉄さびのような茶褐色 の変色がみられた。また図 7-b)に示すSEM写真より変色部 の中心では表面層が剥離したような痕跡がみられ,中心の周 囲左側には腐食生成物と考えられる付着物が観察された。そ こで図 7-c)に示す四角で囲んだ部分についてEDX分析をお こなった。図 7-d)に示すEDX分析結果より,分析点①では 含有率 18 ~ 20%が基準であるCrが 2.95%に減少しており,
FeとOの含有率から鉄酸化物からなる腐食生成物と示唆さ れた。この腐食生成物にはClが含まれていることからClに よる腐食影響が考えられた。一方の分析点②ではCrが 21.25%,Feが 70.39%,Niが 6.28%検出されているが,Oが 未検出であった。分析点①と②ではCrやOの含有率に極端 な差がみられたことから,腐食の進行により表面状態が変化 しているものと考えられる。これらSEM観察およびEDX 分析結果より変色部では,Clの影響により不働態皮膜が破 壊され腐食が進行し,鉄酸化物を主体とする腐食生成物が堆 積しているものと考えられる。変色部が極めて局部的であっ たことから断面観察による孔食の進行を明確に評価するには 至らなかったが,腐食生成物の存在から,この変色部が孔食 の起点となるものと考えられる。
一方自然電極電位は,平板と直管では残留塩素濃度 0.5 お よび 1.0 mg/Lにおいても 0.0 mg/Lと同様に相反する挙動を 示した。また,平板と直管の自然電極電位の経時変化から,
その挙動は相反するもののいずれも残留塩素濃度の依存性が 認められた。
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0 50 100 150 200 250 300 350 400
ImmersionPotentialvs.SCE[V]
Time [ks]
0.0mg/L 0.5mg/L 1.0mg/L
1.0 mg/L 0.5 mg/L
0.0 mg/L a)
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0 50 100 150 200 250 300 350 400
ImmersionPotentialvs.SCE[V]
Time [ks]
0.0mg/L 0.5mg/L 1.0mg/L
0.0 mg/L
0.5 mg/L
1.0 mg/L b)
Fig. 5 Changes in immersion potential of a)Plate specimens and b)Pipe specimens in different residual chlorine concentration.
R-Cl2 conc.
[mg/L] Pitting Immersion Potential[V]vs. SCE 0[ks] 180[ks] Difference
Plate
0.0 No 0.08 0.16 0.08
0.5 Occurred 0.13 0.39 0.26
1.0 Occurred 0.13 0.40 0.27
Pipe
0.0 Occurred 0.48 0.34 - 0.14
0.5 Occurred 0.42 0.22 - 0.20
1.0 Occurred 0.45 0.07 - 0.38
※R-Cl2:Residual Chlorine
Table 4 Inner surface condition and immersion potential of specimens for residual chlorine concentration.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1
ImmersionPotential[V] vs.SCE
Concentration of Residual Chlorine[mg/L] Plate Specimen Pipe Specimen Others
A linear approximation line by others reported data
Fig. 6 Maximum value of immersion potential as a function of residual chlorine concentration. For comparison, others reported results are also shown in this figure.
今回の調査ではSUS304 の孔食電位は 0.4 V vs. SCE付近に あると考えられたため,今後分極法および定電位法により電 気化学的な検証をおこなうとともに,腐食形態の詳細な調査 をおこなうことを計画している。
4 .結 言
給水および給湯設備に使用されるSUS304 配管の腐食につ いて,事例調査と実環境を模擬した腐食試験をおこない,得 られた結果をまとめると次のとおりである。
(1)事例調査から,腐食は残留塩素濃度 0.4 mg/L以下の使 用環境,また給湯設備に使用された内径 50 mm以下の 直管部に多かった。
(2)平板および直管の自然電極電位の経時変化において,残 留塩素濃度依存性が認められた。平板では残留塩素濃度 の増加とともに自然電極電位が上昇し,特に 0.5 mg/L と 1.0 mg/Lで顕著であったが,試験開始後 60 ks以降は ほぼ同値であった。一方,直管では残留塩素濃度の増加 とともに自然電極電位の降下幅が大きかった。
(3)腐食試験において,平板では残留塩素濃度 0.5,1.0 mg/L,
直管では残留塩素濃度 0.0,0.5,1.0 mg/Lでの試験条件 において局部腐食が発生した。SEM観察及びEDX分析 結果から,変色部が孔食の起点となるものと考えられた。
(4)平板に比べ直管は物性として硬いことから,加工誘起マ ルテンサイトの生成により腐食感受性が高くなっている ものと考えられた。
(5)直管は内径が小さくなるほど硬くなる傾向がみられたこ とから,内径が小さくなるほど加工誘起マルテンサイト の生成量が多くなり,より腐食感受性が高くなっている ものと考えられた。
(Received June 27, 2017 ; Accepted September 11, 2017)
文 献
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Cr Fe O Cl Si Al Ni C
2.95 18.99 59.6 1.03 2.92 - - 7.09
21.25 70.39 - - - 2.09 6.28 -
EDX analysis
②
①
Atoms [%]
100μm
①
1000μm
Observed by SEM
60μm b) a)
c) d)
100μm
②
Fig. 7 Picture of a)digital microscopic observation, b)SEM analysis, c)and d)EDX analysis for pipe specimen in 1.0 mg/L of residual chlorine concentration. For comparison, the content ratio of elements by EDX analysis are shown in this figure.