日本・ベトナム 関係の展開: 2016 〜 2017 年
白 石 昌 也 † Development of Japan ‒ Vietnam Relations in 2016 and 2017
Masaya Shiraishi
In the previous papers of this Journal no. 22
(March 2014
)and no.31
(March 2018
), the author discussed the development of bilateral relations between Japan and Vietnam from 2002 to 2013 and from 2014 to 2015 respectively.
The first section of this paper summarizes what the author has discussed in the previous papers. In the second section, he describes the major events in 2016, including Vietnam
ʼs new Prime Minister Nguyen Xuan Phuc
ʼs visit to Japan in May. And in the third section, he describes the major events in 2017, including Japanese Emperor and Empress visit to Vietnam in February
‒March.
In the concluding section, the author points out some major factors which have contributed to the recent development of close relationship between the two nations.
はじめに
第
1
節2015
年までの経緯(要約)(
1
)2002
年から2013
年までの展開(
2
)2014
〜2015
年の展開 第2
節2016
年の展開(
1
)ベトナムで新指導部発足(
2
)海上自衛隊艦船がカムラン湾に初寄港(2016
年4
月)と日越間の防衛交流(
3
)岸田外相の訪越(2016
年5
月)と日越協力委員会(
4
)フック新首相のG7
伊勢志摩サミット・アウトリーチ会合への出席(2016
年5
月)(
5
)モンゴルでの首相会談(2016
年7
月)と南シナ海に関する仲裁裁判所判決(
6
)第9
回日メコン外相会議の開催(ヴィエンチャン)と「日・メコン連結性イニシアティブ」の立ち上げ 合意(2016
年7
月)(
7
)海上保安庁練習船のダナン寄港(2016
年7
月)とベトナムの海上法執行能力強化に関する支援(
8
)ラオス・ヴィエンチャンにおける首相会談(2016
年9
月)(
9
)日越大学の開校(2016
年9
月)(
10
)ペルー・リマにおける安倍首相とクアン国家主席の会談(2016
年11
月)(
11
)岸外務副大臣の訪越(2016
年11
月)とホーチミン市におけるジャパン・ベトナム・フェスティバルお よび都市鉄道円借款(
12
)ニントゥアン省原発建設の中止決定(2016
年11
月)第
3
節2017
年の展開(
1
)安倍首相の訪越(2017
年1
月)(
2
)天皇・皇后のベトナム訪問(2017
年2
〜3
月)(
3
)JNTO
(日本政府観光局)ハノイ事務所(2017
年2
月)とJASSO
(日本学生支援機構)ハノイ事 務所(2017
年3
月)の開設(
4
)タン・ホーチミン市党委員会書記一行の来日(2017
年4
月)と日越間の地方交流(
5
)要人の相互訪問(2017
年5
月)(
6
)フック首相の来日(2017
年6
月)(
7
)閣僚級の会合(2017
年8
〜10
月)(
8
)元残留日本兵家族の来日(2017
年10
月)(
9
)ダナンでのAPEC
総会とマニラでのASEAN
関連会合(2017
年11
月)おわりに
はじめに
筆者は前稿
A
:「日本・ベトナム間の『戦略的パートナーシップ』:その経緯と展望」1及び前稿B
:「日本・ベトナム間の『戦略的パートナーシップ』の展開:
2014
〜2015
年」2において,日越関係を もっぱら「戦略的パートナーシップ」に関する言説を中心としつつ概観した。本稿では,まず第
1
節において,前稿A
とB
で概観した内容を簡単にまとめる3。そのうえで,第2
節においては2016
年の日越関係の展開を,第3
節においては2017
年の日越関係の展開を記述する。ただし,その際に旧稿とは違って,必ずしも「戦略的パートナーシップ」をめぐる言説に焦点化する ことなく,より幅広い分野で両国関係を捉えることとする。また,幾つかの主要なイシューをめぐっ ては,単にその時点での出来事を記述するのみならず,今少し経年的な視野で過去に遡って掘り下げ ることとする。
そのために,本稿の記述は相当に長くなり,時として煩雑に陥る懸念があるので,適宜小見出しを 付すことによって,読者の便宜に供したい。
第
1
節2015
年までの経緯(要約)(
1
)2002
年から2013
年までの展開前稿で述べたとおり4,両国の指導者が
2
国間の関係性について「パートナーシップ」という表現を 用いた最初の事例は,管見の限り,2002
年10
月のことである。すなわち,ノン・ドゥク・マィン共 産党書記長が公賓として来日した折の小泉純一郎首との会談で,両首脳は次のような共同新聞発表を 行っている。「日越両国はアジア太平洋地域における『共に歩み共に進む』率直なパートナーとして,対等のパートナーシップの上に築かれた『長期安定,相互信頼』の精神に基づき友好協力関係を推進 することを通じ,地域の平和,安定及び繁栄に積極的に寄与していくという見解を共有」した5。
次いで
2004
年7
月,訪越した川口順子外相がグエン・ジー・ニエン外相との間で共同声明「不朽 のパートナーシップの新たな地平へ向けて」を発出した。外相レベルの文書ではあるが,両国の関係 を拡大,深化して(将来的に)「不朽のパートナーシップ」を構築するとの意欲を表明したものであ る6。† 早稲田大学名誉教授
1 前稿A:白石昌也「日本・ベトナム間の『戦略的パートナーシップ』:その経緯と展望」『アジア太平洋討究』22号(2014 年3月)289〜324頁。
2 前稿B:白石昌也「日本・ベトナム間の『戦略的パートナーシップ』の展開:2014〜2015年」『アジア太平洋討究』31号
(2018年3月)1〜14頁。
3 その際に,旧稿では触れなかった両国共同声明の越語バージョンについて注釈で言及する。
4 前稿A, 292頁。
5 「日越共同新聞発表」2002年10月4日,東京(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/vietnam/news_021004.html)。
6 Japan‒The Socialist Republic of Vietnam Foreign Ministers Joint Statement toward a Higher Sphere of Enduring Partner- ship (外務省:http://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/vietnam/joint0407.pdf);「日本・ベトナム社会主義共和国外相共同 声明:不朽のパートナーシップの新たな地平へ向けて(仮訳)」(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_kawagu chi/asean+3_04/jv_k.html)。同文書のベトナム語版が次に転載されている。Tuyên bố chung Vươn tới tầm cao mới của quan hệ đối tác bền vững(在日ベトナム青年学生会議:http://www.vysajp.org/news/vn-nh%E1%BA%ADt-b%E1%BA%A3n- v%C6%B0%C6%A1n-t%E1%BB%9Bi-t%E1%BA%A7m-cao-m%E1%BB%9Bi-c%E1%BB%A7a-d%E1%BB%91i-tac-b%E1%
BB%81n-v%E1%BB%AFng/)。ちなみに,「不朽のパートナーシップ」は英語で Enduring Partnership ,ベトナム語で
quan hệ đối tác bền vững。
そして
2006
年10
月,グエン・タン・ズン首相が公式実務訪問賓客として来日し,安倍晋三首相 との間で共同声明「アジアの平和と繁栄のための戦略的なパートナーシップに向けて」に署名した。両国間の公式文書で「戦略的パートナーシップ」に言及したのはこれが初めてであり,そのような関 係性をこれから構築することに合意したものである7。その時以来
2011
年まで,ほぼ毎年のように(少 なくとも隔年ごとに)両国間の「戦略的パートナーシップ」に言及する首脳レベルでの共同声明が発 出されてきた8。すなわち,
2007
年11
月にはグエン・ミン・チエット国家主席がベトナム初の国賓として来日し,福田康夫首相との間で「深化する日本・ベトナム関係に関する共同声明」9とその付属文書「日本・ベ トナム間の戦略的パートナーシップに向けたアジェンダ」10を発出した。それらの中で両首脳は,両 国間の「戦略的パートナーシップ」を構築する努力を継続する決意を示した。
その後,
2008
年12
月に日越間で経済連携協定(EPA
)が調印され11,さらに2009
年4
月には皇太 子のベトナム訪問が実現する12など,両国の関係に新たな展開が見られた。かくして,
2009
年4
月,ノン・ドゥク・マイン共産党書記長が公賓として2
度目の来日を果たし た機会に,麻生太郎首相との間で,「アジアにおける平和と繁栄のための戦略的パートナーシップに 関する日本・ベトナム共同声明」が発出された13。両首脳はその中で,両国間に「戦略的パートナー7 Japan‒Vietnam Joint Statement Toward a Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia, October 19, 2006(外務 省:http://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/vietnam/joint0610.html);日本ベトナム共同声明「アジアの平和と繁栄のための 戦略的なパートナーシップに向けて」(仮訳)(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/vietnam/visit/0610_sei.html)。な お,次注に示した文献などによれば,同文書のベトナム語タイトルは Tuyên bố chung hướng tới Đối tác chiến lược vì hòa bình và phồn vinh ở châu Á であるが,管見の限りその全文を検索できない。
8 日越間で発出された共同声明を年代順に紹介したベトナム語文献として,例えばTạp chí Cộng sản, Quan hệ Việt Nam- Nhật Bản phát triển toàn diện và hiệu quả, 4/6/2017(http://www.tapchicongsan.org.vn/Home/PrintStory.aspx?distribution=
45223&print=true)を参照。
9 Joint Statement on the Deepening Relations between Japan and Vietnam(外務省:http://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/
vietnam/joint0711.html);「深化する日本・ベトナム関係に関する共同声明」(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/
vietnam/visit/0711_ks.html)。同文書のベトナム語バージョンは,Tuyên bố chung về việc làm sâu sắc hơn quan hệ Việt Nam và Nhật Bản(在日ベトナム大使館:http://www.vnembassy-jp.org/vi/tuy%C3%AAn-b%E1%BB%91-chung-vi%E1%
B%87t-nam-nh%E1%BA%ADt-b%E1%BA%A3n-v%E1%BB%81-thi%E1%BA%BFt-l%E1%BA%ADp-quan-h%E1%BB%87-
%C4%91%E1%BB%91i-t%C3%A1c-chi%E1%BA%BFn-l%C6%B0%E1%BB%A3c-s%C3%A2u-r%E1%BB%99ng-v%C3%AC- h%C3%B2a-b%C3%ACnh-v%C3%A0)。
10 Agenda Toward a Strategic Partnership between Japan and Vietnam(外務省:http://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/viet- nam/agenda0711.html);「日本・ベトナム間の戦略的パートナーシップに向けたアジェンダ」(外務省:http://www.mofa.go.
jp/mofaj/area/vietnam/visit/0711_ag.html)。 同 文 書の ベ ト ナ ム語 版は Chương trình hợp tác hướng tới quan hệ Đối tác chiến lược (Bộ Ngoại giao Việt Nam: http://www.mofahcm.gov.vn/mofa/nr040807104143/nr040807105001/
ns071128090721)。
11 Joint Statement at the Signing of the Agreement between Japan and the Socialist Republic of Viet Nam for an Economic Part- nership(外務省:http://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/vietnam/epa0812/joint.html);「経済上の連携に関する日本国と ベトナム社会主義共和国との間の協定の署名に当たっての共同声明」(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/a/j_ase an/vietnam/seimei. html)。
12 宮内庁「皇太子殿下のベトナム国御訪問について」2009年1月20日閣議了解(http://www.kunaicho.go.jp/activity/gonit tei/02/gaikoku/h21vietnam/cpv-h21-vietnam.html#DETAILS)。
13 Japan‒Viet Nam Joint Statement on the Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia(外務省:http://www.mofa.
go.jp/region/asia-paci/vietnam/joint0904.html);「アジアにおける平和と繁栄のための戦略的パートナーシップに関する日本 ベトナム共同声明」(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/vietnam/visit/0904_ks.html)。ベトナム語版は, Tuyên bố chung Việt Nam‒Nhật Bản về quan hệ đối tác chiến lược vì hòa bình và phồn vinh ở châu Á(Nhân Dân Điện tử:http://
www.nhandan.com.vn/chinhtri/item/15692702-.html)。
シップ」がすでに「構築された」との共通認識を示し,そのような関係性をさらに発展させていてく ことで一致した14。
民主党政権に代わってからもその方向性に変更はなく,
2010
年10
月に訪越した菅直人首相はグエ ン・タン・ズン首相との間で新たな共同声明を発出した15。その中で両者は,(すでに構築されている)両国間の「アジアにおける平和と繁栄のため戦略的パートナーシップ」を「強力かつ更に包括的に一 層発展させていくとの強い決意を共有した」。この文書で新機軸として打ち出されたのは,「包括的 に」(英語で
comprehensive manner,
越語でtoàn di
ện
)という表現であった16。次いで
2011
年10
月,ズン首相が公式実務訪問賓客として来日した際に,野田佳彦首相との間で「アジアにおける平和と繁栄のための戦略的なパートナーシップの下での取組みに関する日越共同声 明」が発出された。その中で両首脳は,
2010
年10
月の管・ズン共同声明以降の両国関係の進展に基 づき,「戦略的利益を共有する国」として,「今後両国間の戦略的パートナーシップをさらに包括的に 推進させる基礎を確立したこと」を歓迎した17。2012
年には4
月に東京で開催された日本・メコン首脳会議に出席するためにズン首相が来日し,同会議後に野田首相との
2
者会談が実施された18。また,7
月には玄葉光一外相がプノンペンにおけるASEAN
関連外相会議に出席した後ベトナムを訪問,ファム・ビン・ミン外相とともに日越協力委員会(第
4
回会合)の共同議長を務め,またベトナム側の指導者たちと会談した19。14 共同声明の英語原文は次のように表現する:both sides expressed their delight with the favorable development of their bilat- eral relationship in recent years, and shared their intention to further develop the strategic partnership for peace and prosperi- ty in Asia, which has been built between Japan and Viet Nam. 該当部分の日本語訳:「双方は,近年の日本・ベトナム両国関 係の良好な発展に対し喜びの意を表明するとともに,日本国とベトナムとの間で構築されたアジアにおける平和と繁栄のた めの戦略的パートナーシップを発展させていくことで一致した」。越語訳: hai bên đã bày tỏ vui mừng trước sự phát triển tốt đẹp của quan hệ giữa hai nước Việt Nam và Nhật Bản trong những năm gần đây, đồng thời nhất trí phát triển quan hệ đối tác chiến lược vì hòa bình và phồn vinh ở châu Á đã được xây dựng giữa nước CHXHCN Việt Nam và Nhật Bản.(アンダー ライン引用者)
15 Japan‒Viet Nam Joint Statement on the Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia (外務省:http://www.mofa.
go.jp/region/asia-paci/vietnam/joint1010.html);「アジアにおける平和と繁栄のため戦略的パートナーシップを包括的に推進 するための日越共同声明(仮訳)」平成22(2010)年10月31日(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_kan/
vietnam_1010_ksk.html)。ベトナム語版:Tuyên bố chung Việt Nam‒Nhật Bản về phát triển toàn diện quan hệ đối tác chiến lược vì hòa bình và phồn vinh ở Châu Á(Nhân Dân Điện tử: http://www.nhandan.com.vn/chinhtri/item/12565402-.html)。
16 前稿A, 307頁(注64)でも指摘したように,共同声明のタイトルにおいて,日本語版に見える「包括的に推進する」とい
う表現が,英文タイトルには欠落している。一方,Nhân Dân紙(電子版)に掲載された越語タイトルには,phát triển
toàn diện (全面的に発展させる)という文言が見える。ただし,共同声明の本文においては,英語版でも冒頭部分で,the
strong intention to further develop in a stronger and more comprehensive manner the Strategic Partnership between Japan and Viet Nam for peace and prosperity in Asia. と明言する。ちなみに,その部分の日本語版は,「アジアの平和と繁栄のた めに日本とベトナムの間の戦略的パートナーシップを強力かつ更に包括的に一層発展させていくとの強い決意」。越語版 は, ý định phát triển toàn diện và mạnh mẽ hơn nữa mối quan hệ đối tác chiến lược giữa Việt Nam và Nhật Bản vì hòa bình và phồn vinh ở châu Á. である(アンダーライン引用者)。
17 Japan‒Viet Nam Joint Statement on the Actions Taken Under Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia (外務 省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/vietnam1110/pdfs/1.pdf)。引用は同邦語訳から,「アジアにおける平和と 繁栄のための戦略的なパートナーシップの下での取組に関する日越共同声明(仮訳)」(外務省:http://www.mofa.go.jp/mo faj/kaidan/s_noda/vietnam1110/pdfs/3.pdf)。な お, 越 語 版は Tuyên bố chung về triển khai hành động trong khuôn khổ quan hệ đối tác chiến lược vì hòa bình và phồn vinh ở Châu Á giữa Việt Nam và Nhật Bản (Bộ Ngoại Giao Việt Nam: http://
www.mofahcm.gov.vn/en/mofa/nr040807104143/nr040807105001/ns111101074949)。
18 外務省「日・ベトナム首脳会談」2012年4月21日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/vietnam_1204.html)。
19 外務省「玄葉外務大臣のベトナム訪問(概要)」2012年7月14日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_gemba/asean 1207/vietnam.html)。
2012
年12
月,衆議院選挙が実施されて自民党が圧勝し,第2
次安倍内閣が発足した。明けて2013
年は日越外交関係樹立40
周年にあたり,「日越友好年」に指定されていた。同年
1
月,安倍晋三は首相就任後最初の外遊先としてベトナムを訪問,ズン首相との会談で「日越 友好年」の開始を宣言した20。そして2013
年12
月には,ズン首相が日本・ASEAN
特別首脳会議,お よび第5
回日本・メコン地域諸国首脳会議出席のために来日した折に,安倍首相との2
者会談(ワー キングランチ)を持ち,「日越友好年」が成功裡に終了したことを祝しあった21。しかし,結局,国交 樹立40
周年に当る2013
年を通じて,「戦略的パートナーシップ」に言及する新たな共同声明が発出 されることはなかった。(
2
)2014
〜2015
年の展開第
2
次安倍内閣の発足後,日越両国間の関係性について言及する新たな共同声明が発出されたの は,2014
年3
月にチュオン・タン・サン国家主席が国賓として来日した機会においてであった。ベ トナムからの国賓としては2
人目,2007
年11
月のグエン・ミン・チエット国家主席以来7
年ぶりの ことであった22。サン国家主席と安倍晋三首相は首脳会談(
3
月18
日)に際して,「アジアにおける平和と繁栄のた めの広範な戦略的パートナーシップ関係樹立に関する日越共同声明」を発出した23。その趣旨は,日 越間にすでに成立している「戦略的パートナーシップ」をさらに発展させて「広範な戦略的パート ナーシップ」(英語ではextensive strategic partnership,
越語ではquan h
ệđ
ối tác chi
ến lư
ợc sâu r
ộng
) という新次元の関係性を「樹立」(establishment, thi
ết l
ập
)していこうというものである(波線引用 者)24。同声明は合計69
項目からなる,相当に詳細で網羅的な行動綱領としての性格を有する文書で あった25。2014
年5
月初め,中国がベトナムの排他的経済水域内で石油掘削活動を開始し,ベトナム国内で 大規模な反中国デモが生ずるなど,中越関係が極度に緊張した26。そのさなかの5
月後半に,ヴー・ドゥック・ダム副首相が日本経済新聞社主催の「アジアの未来」会議参加のために来日し,安倍首相
20 外務省「安倍総理大臣のベトナム訪問(概要)」2013年1月17日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe2/vti_1301/
vietnam.html);外務省 Prime Minister Shinzo Abe s Visit to Viet Nam(Overview) January 17, 2013(http://www.mofa.
go.jp/region/asia-paci/pmv_1301/vietnam.html)。
21 外務省「日ベトナム首脳会談(概要)」2013年12月15日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page18_000142.html);外務 省 Japan‒Viet Nam Summit Meeting December 15, 2013(http://www.mofa.go.jp/region/page23e_000033.html)。
22 外務省「チュオン・タン・サン・ベトナム国家主席の来日(概要と評価)」2014年3月19日(http://www.mofa.go.jp/
mofaj/s_sa/sea1/vn/page3_000702.html)。
23 外務省「日・ベトナム首脳会談(概要)」2014年3月18日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/vn/page3_000699.html)。
24 Japan‒Viet Nam Joint Statement on the Establishment of the Extensive Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia (外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000031617.pdf);「【和文仮訳】アジアにおける平和と繁栄のための広範な 戦略的パートナーシップ関係樹立に関する日越共同声明」(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000031618.pdf);
Tuyên bố chung Việt Nam-Nhật Bản về thiết lập quan hệ đối tác chiến lược sâu rộng vì hòa bình và thịnh vượng ở châu Á
(在日ベトナム大使館:http://www.vnembassy-jp.org/vi/tuy%C3%AAn-b%E1%BB%91-chung-vi%E1%BB%87t-nam- nh%E1%BA%AにDt-b%E1%BA%A3n-v%E1%BB%81-thi%E1%BA%BFt-l%E1%BA%ADp-quan-h%E1%BB%87-
%C4%91%E1%BB%91i-t%C3%A1c-chi%E1%BA%BFn-l%C6%B0%E1%BB%A3c-s%C3%A2u-r%E1%BB%99ng-v%C3%AC- h%C3%B2a-b%C3%ACnh-v%C3%A0)。
25 より詳しくは,前稿B, 3〜5頁を参照。
26 概要は石塚二葉・荒神衣美「緊迫の南シナ海情勢」『アジア動向年報』2015年版。
を表敬した27。
5
月30
日〜6
月1
日にシンガポールで開催された第13
回シャングリラ・ダイアローグ で安倍首相が基調演説を行い,直接の名指しは避けたものの,南シナ海での中国の行動について強い 懸念を表明した28。第2
セッションでは小野寺五典防衛相が日本の防衛政策について講演し29,さらに 同会議に参加したベトナムのフン・クアン・タイン国防相との二者会談に臨んだ。その機会に双方 は,南シナ海での実力を用いての現状変更に強い懸念を共有するとともに,海上安全などの分野で協 力を強化することで一致した30。同年の
7
月31
日から8
月2
日にかけて岸田文雄外相が訪越し,ベトナムの「海上法執行能力の強 化」のため中古船舶6
隻や海上保安関連機材を供与する無償資金協力の交換公文に署名した31。2014
年10
月16
日,アジア欧州会議(ASEM
)回首脳会議出席のために滞在中のイタリア・ミラ ノにおいて,安倍晋三首相とグエン・タン・ズン首相が会談し,南シナ海問題について引き続き緊密 に連携していくことを確認した32。2015
年7
月初め,東京で第7
回日本・メコン地域諸国首脳会議(以下,日メコン首脳会議)が開 催され,ズン首相が来日した33。また,同年7
月末にはファム・ビン・ミン副首相兼外相が,日越協 力委員会(第7
回会合)に出席するために来日した34。これらの機会に,日越双方の当事者は,南シ ナ海における[中国による]一方的な現状変更に深刻な懸念を共有するとともに,ベトナムの海上法 執行機関に対する日本の支援継続などについて話し合っている。日本側はまた,同年5
月に安倍首相27 外務省「ダム・ベトナム副首相による安倍総理表敬(概要)」2014年5月22日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/
vn/page3_000792.html)。
28 Shangri-La Dialogue 2014, Keynote Address: Shinzo Abe, Prime Minister, Japan 30 May 2014(Prepared transcript)
(https://www.iiss.org/en/events/shangri-la-dialogue/archive/2014-c20c/opening-remarks-and-keynote-address-b0b2/key- note-address-shinzo-abe-a787)。引用はその日本語版による。Shangri-La Dialogue 2014, Keynote Address‒Japanese Ver- sion: Shinzo Abe, Prime Minister, Japan 30 May 2014(https://www.iiss.org/en/events/shangri-la-dialogue/ar- chive/2014-c20c/opening-remarks-and-keynote-address-b0b2/keynote-japanese-af6d)。
29 Shangri-La Dialogue 2014, Second Plenary Session: Itsunori Onodera, Minister of Defense, Japan 31 May 2014(Provision- al Translation)(https://www.iiss.org/en/events/shangri-la-dialogue/archive/2014-c20c/plenary-2-cb2e/itsunori-odonera- be7d)。
30 日本経済新聞「対中国,連携強化で一致 日越防衛相会談」2014/6/1(https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK01009_
R00C14A6000000/)。
31 外務省「岸田外務大臣のベトナム公式訪問」2014年7月25日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_001116.
html);外務省「岸田外務大臣のベトナム訪問(概要と評価)」2014年8月2日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/vn/
page3_000871.html);外務省 Minister for Foreign Affairs Fumio Kishida s Visit to Viet Nam August 2, 2014 (http://www.
mofa.go.jp/s_sa/sea1/vn/page3e_000215.html);外務省「ベトナムに対するノン・プロジェクト無償資金協力に関する交換公 文の署名」2014年8月1日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_001136.html);外務省 Signing on Exchange of Notes concerning Japan s Non-Project Grant Aid to Viet Nam August 1, 2014(http://www.mofa.go.jp/press/re lease/press4e_000386.html)。なお,本稿207頁をも参照。
32 外務省「日・ベトナム首脳会談(概要)」2014年10月16日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/vn/page3_000966.html);外 務省 Japan‒Viet Nam Summit Meeting October 16, 2014(http://www.mofa.go.jp/s_sa/sea1/vn/page3e_000254.html)。
33 外務省「第7回日本・メコン地域諸国首脳会議」2015年7月4日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/page1_000116.
html); 外 務 省 The Seventh Mekong‒Japan Summit Meeting July 4, 2015(http://www.mofa.go.jp/s_sa/sea1/page3e_000 354.html)。外務省「日・ベトナム首脳会談」2015年7月4日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/vn/page1_000121.html); 外務省 Japan‒Viet Nam Summit Meeting July 4, 2015(http://www.mofa.go.jp/s_sa/sea1/vn/page4e_000297.html)。
34 外 務 省「ミ ン・ベ ト ナ ム副 首 相 兼 外 務 大 臣の訪 日」2015年7月29日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/
press4_002344.html);外務省「委員会第7回会合及び日・ベトナム外相会談(ワーキングディナー)」2015年7月30日
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_002353.html)。
が提起した「質の高いインフラパートナーシップ」構想に基づく協力に関する意欲を表明した35。
2015
年9
月中旬に,グエン・フー・チョン書記長が公賓として来日した。ベトナム共産党書記長 の公賓としての来日は,2009
年4
月のノン・ドゥク・マイン書記長以来6
年ぶりのことであった36。 安倍首相とチョン書記長が会談後に発出した共同声明「日越関係に関する共同ビジョン声明」は,「広 範な戦略的パートナーシップ」という関係性が両国間にすでに構築されているとの認識を示すもので あった37。2015
年11
月20
日,ASEAN
関連首脳会議のために滞在中のクアラルンプルで安倍首相とズン首 相がワーキングディナーを実施し,「広範な戦略的パートナーシップ」に基づく二国間関係をさらに 強化することを確認しあった38。第
2
節2016
年の展開(
1
)ベトナムで新指導部発足2016
年1
月の第12
回共産党大会,ならびに3
〜4
月の第13
期第11
回国会において,ベトナムの 新しい指導部が選出された。国家主席がチュオン・タン・サンからチャン・ダイ・クアンに,首相が グエン・タン・ズンからグエン・スアン・フックに交代した。一方,共産党書記長についてはグエ ン・フー・チョンが留任した39。2016
年4
月12
日,安倍晋三首相はベトナムの13
期国会第11
会期において4
月2
日付で選出さ れたチャン・ダイ・クアン新国家主席,および4
月7
日付で選出されたグエン・スアン・フック新首 相宛てに祝辞を発出した。クアン主席宛て書簡の中で,「広範な戦略的パートナーシップ」関係に基 づき,引き続き協力を行っていく意志を伝えた40。35 前稿B, 9〜10頁を参照。
36 外務省「グエン・フー・チョン・ベトナム社会主義共和国ベトナム共産党中央執行委員会書記長の訪日」2015年9月4日
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_002409.html);外務省 The General Secretary, Central Committee of the Communist Party of Viet Nam to Visit Japan September 4, 2015(http://www.mofa.go.jp/press/release/press4e_000843.
html);外務省「グエン・フー・チョン・ベトナム共産党中央執行委員会書記長の訪日(結果)」2015年9月24日(http://
www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/vn/page3_001381.html);外務省「安倍総理大臣とチョン・ベトナム共産党書記長の会談
(結 果)」2015年9月15日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/vn/page4_001371.html); 外 務 省 Summit Meeting of Prime Minister Abe and the General Secretary, Central Committee of the Communist Party of Viet Nam September 15, 2015
(http://www.mofa.go.jp/s_sa/sea1/vn/page3e_000375.html)。
37 Joint Vision Statement on Japan‒Viet Nam Relations(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000099707.pdf);「日越 関係に関する共同ビジョン声明(日本語仮訳)」(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000099838.pdf);「日越関係に 関する共同ビジョン声明(骨子)」(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000099705.pdf)。越語訳は以下に掲載されて いる。Tuyên bố về Tầm nhìn chung quan hệ Việt Nam-Nhật Bản (Vietnam Press: http://www.tinmoi.vn/tuyen-bo-ve-tamn hin-chung-quan-he-viet-nam-nhat-ban-011375795.html;もしくはVietnam Plus: https://www.vietnamplus.vn/tuyen-bove- tam-nhin-chung-quan-he-viet-namnhat-ban/343803.vnp)。前文で「日越の『アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦 略的パートナーシップ』関係を包括的に促進し,さらに深化させていく」と記す。
38 外務省「日・ベトナム首脳会談」2015年11月20日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/vn/page4_001569.html);外 務省 Japan-Vietnam Summit Meeting November 20, 2015(http://www.mofa.go.jp/s_sa/sea1/vn/page4e_000350.html)。
39 石塚二葉・坂田正三「2016年のベトナム:第2次チョン指導部発足」『アジア動向年報』2017年版,217〜246頁。
40 外務省「安倍総理大臣発チャン・ダイ・クアン・ベトナム社会主義共和国主席及びグエン・スアン・フック同国政府首相宛 祝辞の発出」2016年4月12日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000198.html)。
(
2
)海上自衛隊艦船がカムラン湾に初寄港(2016
年4
月)と日越間の防衛交流2016
年4
月12
日,海上自衛隊の護衛艦「ありあけ」と「せとぎり」が,ベトナム中部のカムラン 湾に入港した。自衛隊の艦隊が同湾に寄港するのは,これが初めてであった41。《日越間 防衛交流概観》
日越間の防衛交流について遡って見れば,両国間にはもともと外務・防衛当局間(
PM
)及び防衛 当局間(MM
)の協議枠組が存在していた(最初の開催は2001
年2
月)42。しかるに,2010
年7
月に 岡田克也外相が訪越した際に,外務・防衛次官級の「日越戦略的パートナーシップ対話」の立ち上げ を提案しベトナム側が同意した43ことによって,同年12
月にその第1
回会合が東京で開催された44。この間,
2011
年10
月にフン・クアン・タイン国防相が来日し,一川保夫(いちかわ・やすお)防 衛相との会談において,閣僚級の相互訪問や防衛次官級協議の定例化などを盛り込んだ防衛協力の覚 書に署名した45。これを受けて,同月末にグエン・タン・ズン首相が公式実務訪問賓客として来日した際に野田佳彦
41 朝日新聞「海自艦,ベトナム・カムラン湾に寄港,『歴史的な訪問』」2016年4月12日(https://www.asahi.com/articles/
ASJ4C5WVWJ4CUHBI038.html);日本経済新聞「自護衛艦,ベトナム・カムラン湾に初寄港 中国をけん制」2016年4月
12日(https://r.nikkei.com/article/DGXLASGM11H8N_S6A410C1MM0000?unlock=1&s=2)。
42 外務・防衛当局者間および防衛当局者間での協議を定例化しようとする構想は,すでに2002年10月ノンドゥクマイン共産 党書記長が公賓として来日した際の,小泉純一郎首相との「共同新聞発表」(外務省:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/
vietnam/news_021004.html)の中に示されていた。すなわち,「双方は,外務次官級政治協議及び外務・防衛当局による政
府間対話を毎年開催するべきであるという見方を共有した」。次いで,2004年7月川口順子外相が訪越した際の,グエン・
ジー・ニエン外相との共同声明「不朽のパートナーシップの新たな地平へ向けて」2004年7月3日(外務省仮訳:https://
www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_kawaguchi/asean+3_04/jv_k.html)は,次のように記している。「双方の政策担当者の相 互理解を深め,そして,より一層調整され効果的な方法で二国間関係を促進することに資するとの観点から,次官級政務協 議及び外交・防衛当局間対話(PM/MM)並びに知的交流及び官民対話を含むその他の形式の協議は,定期的に開催される べきであるとの考えを共有した」。第1回の外務・防衛当局間(PM)協議と防衛当局間(MM)協議が開催されたのは,
2001年2月東京においてであった。『防衛白書』2002年版,資料77「二国間防衛交流の主要実績(最近5年間)」(http://
www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2002/siryo/frame/dg140037.htm)。以降,2003年2月に第2回(ハノイ),2005年 2月に第3回(東京),2007年12月に第4回(ハノイ),2008年11月に第5回(東京),そして2010年4月に第6回(ハ ノイ)が実施されてきた。外務省「第6回日ベトナム政務・防衛当局間(PM)協議の開催」2010年3月30日(https://
www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/22/3/0330_03.html)によれば,日越間の政務・防衛当局間(PM)協議は,もともと「日 本側からの提案に対し,ベトナム側が平成12年[2000年]6月に同意したことを受けて開始」された。ちなみに,第6回 会合の参加者は日本側が外務省南部アジア部参事官と防衛省防衛政策局国際政策課長,ベトナム側が外務省北東アジア局長 と国防省軍事戦略研究所国際班長などであった。
43 外務省「岡田外務大臣のベトナム訪問(結果概要)」2020年7月24日(https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_okada/ase an_1007/vietnam_gaiyo.html)。前稿A, 306, 307頁をも参照。
44 以降,第2回が2011年12月(東京),第3回が2012年12月(ハノイ),第4回が2013年11月(東京),第5回が2014 年10月(ハノイ),第6回が2015年12月(東京)というふうに年次開催されたが,第7回に関しては3年半後の2019年 6月になってハノイで実施された。ちなみに,第6回会合を例に取ると,日本側出席者は外務審議官および防衛省防衛政策 局次長など,ベトナム側出席者は外務次官おおび国防省対外関係局次長(上級大佐)などであった。外務省「第5回日本・
ベ ト ナ ム戦 略 的パ ー ト ナ ー シ ッ プ対 話の開 催」2014年10月21日(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_
001363.html);外務省「第6回日本・ベトナム戦略的パートナーシップ対話の開催」2015年12月3日(https://www.mofa.
go.jp/mofaj/press/release/press4_002724.html);外務省「第7回日本・ベトナム戦略的パートナーシップ対話の開催(結果)」
2019年6月3日(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_007484.html)。なお,日越戦略的パートナーシップ対 話が定例化されたために,日越間の外務・防衛当局間(PM)協議は2010年4月の第6回会合を最後に,以降は実施されな くなっている。
45 日本経済新聞「海洋安保で連携,日越が覚書署名」2011年10月24日(https://r.nikkei.com/article/DGXNASFS2402X_
U1A021C1PE8000?s=6)。防衛大臣会合の後,タイン国防相が野田佳彦首相を表敬。首相は「覚書の締結は大きなステップ
だ。今後,安全保障や防衛分野の対話,協力を積極的に行いたい」と述べた。
首相との会談で発出した共同声明は,次のように述べている:両国間の「防衛協力・交流に関する覚 書」が署名されたことを歓迎し,「既存の様々な実務者級対話に加え,定期的な防衛次官級対話を立 ち上げることによって戦略的対話を強化する必要があるとの認識を共有した」。「両国のハイレベル代 表団による相互訪問及び両国艦艇による寄港を含むあらゆるレベルでの交流が,相互理解及び信頼の 強化及び地域の平和と安定に寄与するものであるとの認識を共有した」46。
かくして,
2012
年11
月に第1
回の次官級防衛政策対話がハノイで実施され47,以降年次化した48。《日越 部隊間交流概観》
両国間での防衛対話の定例化と並行して,部隊間交流も活発となった。海上自衛隊の練習艦隊がベ トナム(ホーチミン市サイゴン港)に初めて寄港したのは
1999
年5
月のことであったが49,21
世紀 に入ってから海上自衛隊のベトナム訪問が本格化し始めた。すなわち,護衛艦のサイゴン港訪問が2008
年3
月50,掃海艇の中部ダナンへの寄港が2011
年9
月51,護衛艦の北部ハイフォンへの寄港が2012
年3
月52に実施された。また,海上自衛隊P-3C
哨戒機のベトナム訪問は2014
年初め(ホーチ ミン市),次いで2015
年5
月(ダナン),そして2016
年2
月(ダナン)53,航空自衛隊C-130H
輸送機 部隊のベトナム訪問は2016
年12
月54のことであった。その間,中部ベトナムのカムラン湾はベトナムにおける最も重要な海軍拠点として,その動向が注 目されていたが,
2010
年10
月にグエン・タン・ズン首相が同湾の対外開放(外国軍艦船への役務提 供)の方針を明らかにした55。ベトナム政府の新方針にいち早く反応したのは米国であって,2011
年46 野田首相とズン首相の共同声明「アジアにおける平和と繁栄のための戦略的なパートナーシップの下での取組に関する日越共 同声明」(仮訳)2011年10月31日(外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/vietnam1110/pdfs/3.pdf)の「1. 交 流及び対話の強化」。同声明の英語原文は,Japan‒Viet Nam Joint Statement on the Actions Taken Under Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia, 31 October 2011 (http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/vietnam1110/pdfs/1.pdf)。
47 第1回日越次官級会議は,2012年11月26日にハノイで実施された。VietJo「『第1回日越次官級国防戦略対話』を開催,
域内の安全保障などで協力推進」2012年11月29日(https://www.viet-jo.com/news/nikkei/121128094027.html)。
48 『防衛白書』各年度版,資料「最近の東南アジア諸国との防衛協力・交流の主要な実績(過去3年間)」。なお,次官級協議 が定例化したことに伴い,日越防衛当局間(MM)協議は2011年12月の第7回を最後に,以降実施されなくなっている。
49 『防衛白書』2001年度版,資料39「二国間防衛交流の主要実績(アジア太平洋地域・最近5年間」(http://www.clearing.
mod.go.jp/hakusho_data/2001/siryo/index.htm)。その後,2002年,2003年,2004年にも練習艦隊がホーチミン市を訪問 している。次々注51に記した資料を参照。
50 AFP「海自護衛艦,ホーチミン友好訪問」2008年3月7日(https://www.afpbb.com/articles/-/2361208)によれば,護衛艦 の「やまゆき」「まつゆき」「はまゆき」の3隻(乗組員計566人)が5日間の友好訪問のためにサイゴン港に寄港。
51 掃海母艦「うらが」と掃海艦「つしま」が,ペルシャ湾で実施される多国籍掃海訓練(英米共催)に参加するための航海の 途次ダナン港に立ち寄った(3日間)。これが海上自衛艦船のダナン初訪問であった。「ベトナム・ダナン港に海自艦2隻寄 港/2011年9月17」2012年3月14日(https://ameblo.jp/koukuubokan/entry-11192512043.html)。
52 護衛艦「はまぎり」「さわゆき」「あさゆき」の3隻(合計630名)が,ジャカルタ(4日間)に続いてハイフォン(5日間)
を訪問した。「ベトナム・護衛艦3隻がハイフォンへ寄港/3月09‒13日」2012年3月14日(https://ameblo.jp/koukuu bokan/entry-11192415751.html)。
53 VietJo「海上自衛隊P-3C哨戒機がダナンに寄航,海軍と合同図上訓練」2016年2月19日(https://www.viet-jo.com/news/
politics/160219011013.html)。
54 VietJo「航空自衛隊の輸送機部隊がダナンに寄航,ベトナム防空空軍と交流」2016年12月12日(https://www.viet-jo.com/
news/politics/161209124445.html)。
55 ASEAN関連首脳会合が開催されていたハノイにおいて,東アジア首脳会議(EAS)後の記者会見でグエン・タン・ズン首
相が言 明し た。AFP Vietnam to reopen Cam Ranh Bay to foreign fleets: PM , Oct 30, 2010(https://www.spacewar.com/
reports/Vietnam_to_reopen_Cam_Ranh_Bay_to_foreign_fleets_PM_999.html);RFI・越語放送 Mở cửa Cam Ranh: Tính toán chiến lược dưới vỏ bọc thương mại , 15 Nov. 2010(https://www.rfi.fr/vi/viet-nam/20101115-quoc-te-hoa-cang-cam-ranh- tinh-toan-chien-luoc-cua-viet-nam-duoi-vo-boc-thuong-mai)。
8
月には輸送艦「リチャード・バード」を整備補修のために同湾に寄港させている56。日本からは
2013
年9
月に小野寺五典防衛相が訪越した際に,カムラン湾海軍施設を視察した。ベ トナム戦争終結後に同施設を訪問した閣僚級の外国人は,(旧)ソ連,ロシアを除けば,これが初め てのことであった57。さらに,2014
年11
月には中谷元・防衛相が訪越して再度カムラン湾を視察,そ の翌日ハノイでフン・クアン・タイン国防相と会談した際に,カムラン湾に海上自衛隊の艦船を寄港 させることで合意した58。その間にベトナムはカムラン湾に新たな国際港を建設し,
2016
年3
月にはその開港式典を実施し た59。《海上自衛艦 湾訪問》
本項冒頭に記した海上自衛隊の護衛艦
2
隻が2016
年4
月12
日に立ち寄ったのは,この国際港で あった60。両艦はその直前の4
月3
日に,潜水艦「おやしお」とともにフィリピンのスービック港にも 寄港している61。フィリピンはベトナムとともに南シナ海問題で中国と対立しており,スービック湾と カムラン湾はそれぞれの国にとって最も重要な海軍拠点である。ちなみに,ベトナム側でパラセル諸 島(中国語で西沙,ベトナム語でホアンサー)を管轄する地方政府はダナン市,スプラトリー諸島(中 国語で南沙,ベトナム語でチュオンサー)を管轄するのはカムラン湾が所属するカインホア省である。以上から
1
か月余り後の2016
年5
月には,掃海母艦「うらが」と掃海艇「たかしま」が補給と休 養のためにカムラン国際港に立ち寄っている。ちょうどインド海軍の艦船2
隻も投錨中で,同港に2
か国の艦船が同時寄港するのは,これが初めてであった62。その後の海上自衛隊によるカムラン湾立ち寄りを概観すれば,
2017
年4
月に護衛艦「ふゆづき」が親善訪問63,さらに翌月の
2017
年5
月にはヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」と護衛艦「さざな み」が,「パシフィック・パートナーシップ2017
」の一環として米海軍輸送艦「フォールリバー」と56 庄司智孝「ベトナムの全方位「軍事」外交〜南シナ海問題への対応を中心に」『防衛研究所紀要』18巻1号(2015年)(http://
www.nids.mod.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j18_1_5.pdf)116頁。
57 防 衛 省「小 野 寺 防 衛 大 臣の ベ ト ナ ム・タ イ訪 問」2013年9月19日(https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/area/
docs/2013/09/20130918_gaiyo.html);共同通信「防衛相,南シナ海臨む要衝視察/ベトナム統一後初」2013年9月17日(千 葉日報:http://www.chibanippo.co.jp/newspack/20130917/156654)。
58 「日 越 防 衛 相 会 談・ 共 同プ レ ス リ リ ー ス」2015年 年11月6日(防 衛 省:https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/
area/2015/pdf/20151107_vnm-j_jpr.pdf);産経ニュース「ベトナムめぐり中国との駆け引き激化,日越防衛相会談で南シナ 海の要衝に海自寄港合意」2015年11月6日(https://www.sankei.com/politics/news/151106/plt1511060059-n1.html);日本 経 済 新 聞「防 衛 相,ベ ト ナ ム海 軍 基 地を視 察」2015年11月5日(https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS05H7Y_
V01C15A1PP8000/)。
59 日本経済新聞「ベトナム軍事要衝に国際港,カムラン湾,中国けん制も」2016年3月8日(https://www.nikkei.com/article/
DGXLASGM08H5B_Y6A300C1000000/);Tuoi Tre News Vietnam opens Cam Ranh international seaport March 09, 2016
(https://tuoitrenews.vn/politics/33635/vietnam-opens-cam-ranh-international-seaport)。
60 両艦は15日まで同地に滞在し,カインホア省人民委員会の幹部や海軍第4地区司令部を表敬訪問するほか,ベトナム側の 護衛艦見学や合同訓練,スポーツ交流などを行う。VietJo「海上自衛隊の護衛艦2隻がカムラン湾に初寄港,中国けん制」
2016年4月13日(https://www.viet-jo.com/news/politics/160412054725.html)。
61 注41ならびに前注に記した資料参照。
62 日 本 経 済 新 聞「海 自 艦,ベ ト ナ ム・カ ム ラ ン湾に再 寄 港」2016年5月29日(https://www.nikkei.com/article/DGX LASGM29H1N_Z20C16A5000000/);VietJo「海上自衛隊の艦船2隻とインド海軍の艦船2隻,カムラン湾寄港」2016年 6月1日(https://www.viet-jo.com/news/politics/160601090507.html)。
63 VietJo「海上自衛隊の護衛艦『ふゆづき』,カムラン湾に寄港」2017年4月12日(https://www.viet-jo.com/news/politics/
170411054506.html)。