F
oF
1-ATP 合成酵素による
プロトン駆動 ATP 合成反応の速度・エネルギー論
Kinetics and Energetics of
Proton-Driven ATP Synthesis Catalyzed by F
oF
1-ATP Synthase
2013 年 2 月
早稲田大学大学院 先進理工学研究科
物理学及応用物理学専攻 分子生物物理学研究
曽我 直樹
略 語 表
DOPE L--Phosphatidylethanolamine, Dimyristoyl
FCCP carbonyl cyanide 4-(trifluoromethoxy) phenylhydrazone [K+]in potassium concentration inside liposome
[K+]out potassium concentration outside liposome
Km Michaelis–Menten定数
LDAO Lauryldimethylamine-N-Oxide OG n-Octyl--D-glucoside
PA phosphatidic acid PC phosphatidylcholine PEG Polyethylene glycol pHin pH inside liposome pHout pH outside liposome
pmf proton motive force, H+駆動力
pmfeq pmf at equilibrium of coupling reaction
SDS-PAGE Sodium Dodecyl Sulfate PolyAcrylmide Gel Electrophoresis TFoF1 FoF1-ATP synthase from thermophilic Bacillus PS3
目次
第一章 序論
1-1) 生体内におけるATPの役割と合成機構 …6
1-2) FoF1-ATP合成酵素 …9
1-2-1) F1-ATPase …11
1-2-2) FoF1-ATP合成酵素 …13
1-3) 本研究の背景と目的 …17
1-4) 本論文の概要 …18
第二章 実験系の概要
2-1) 好熱菌由来FoF1-ATP合成酵素の精製 …20
2-1-1) 溶液組成 …20
2-1-2) 精製方法 …22
2-2) Acetone wash脂質の調製法 …26
2-3) ATP合成活性測定の概要 …27
2-3-1) 酸・塩基置換法 …27
2-3-2) K+-valinomycin拡散ポテンシャル …28
2-3-3) 合成されたATPの検出法 …30
第三章 好熱菌由来FoF1-ATP合成酵素のATP合成実験系確立
3-1) 背景 …32
3-2) 実験方法 …33
3-2-1) 溶液組成 …33
3-2-2) TFoF1のリポソームへの再構成 …33
3-2-3) ATP合成活性測定と解析法 …34
3-3) 実験結果 …36
3-3-1) ATP合成活性測定系の確立 …36
3-3-2) ATP合成活性の脂質とTFoF1濃度比依存性 …42
3-3-3) ATP合成活性の温度依存性 …43 3-3-4) 基質ADP、PiのMichaelis–Menten定数 …45
3-4) 考察 …47
第四章 H+濃度差と膜電位差の反応速度論的等価性
4-1) 背景 …49
4-2) 実験方法 …50
4-2-1) 溶液組成 …50
4-2-2) 脂質に含まれるK+イオンの除去とその測定法 …51
4-2-3) TFoF1のリポソームへの再構成と酸性化法 …53
4-2-4) ATP合成活性測定と解析法 …54
4-3) 実験結果 …56
4-3-1) pmfの制御 …56
4-3-2) ATP合成活性のpH依存性 …59
4-3-3) pHとの反応速度論的等価性 …61
4-3-4) pHまたは単独によるATP合成 …71
4-3-5) Goldmanの式 …73
4-4) 考察 …77
第五章 ATP合成に必要な自由エネルギーとH+量
5-1) 背景 …80
5-2) 実験方法 …81
5-2-1) 溶液組成 …81
5-2-2) ADPに含まれるATPの除去 …82
5-2-3) 脂質に含まれるK+イオンの除去 …85
5-2-4) TFoF1のリポソームへの再構成と酸性化法 …85
5-2-5) ATP合成活性測定と解析法 …86
5-2-6) ATP加水分解活性測定と解析法 …88
5-3-1) 脂質組成がATP合成活性に与える影響 …89
5-3-2) ADPの精製 …93
5-3-3) ATP共役反応の平衡状態におけるpmfの算出 …95
5-3-4) H+/ATPとATP合成の自由エネルギー変化量G’0 …107
5-4) 考察 …109
第六章 まとめ
5-1) 結論 …112
5-2) 今後の展望 …113
参考文献 …114
研究業績 …125
謝辞 …127
第一章 序論
1-1) 生体内におけるATPの役割と合成機構
多くのタンパク質は“ATP : Adenosine TriPhosphate”をADPとPiへ加水分解し、
その時に得られるエネルギーを使用して、イオンの輸送、DNA の修復・複製、
細胞内輸送や筋収縮といった細胞内における生理的に重要な様々な機能を実現 している。このように、ATP は共通に使用される高エネルギー化合物である事 から「生体内のエネルギー通貨」と呼ばれている。
生体内におけるATP の合成反応は二種類の反応過程により行われる。解糖と 呼ばれる酸素を使用しない嫌気的反応と酸素を使った好気的反応である。解糖 では1分子のグルコースからわずか2つのATPしか得ることが出来ない。一方、
好気的反応では36個ものATPが得られる。よって、動物、植物または好気性細 菌では主に好気的反応によりATP を得ている。この好気的反応は以下のように して行われている 。まず、解糖の最終生成物であるピルビン酸が補酵素アセチ ルCoAとしてクエン酸サイクルに受け渡される。クエン酸サイクルはアセチル CoAが反応経路に組み込まれることで始まり、様々な反応と共にH+が発生する。
この発生したH+はNADHとして形を変え、電子伝達系へと渡され最終的にATP が合成される。
現在、我々が知る電子伝達系におけるATP合成機構はP. Mitchellの化学浸透 圧理論に基づいたものである(Mitchell, 1961)。まず、電子伝達系(または光吸収) が発エルゴン反応を利用してH+濃度差を形成する。形成したH+濃度差と細胞膜 電位差を利用し、FoF1-ATP 合成酵素が ADP と Pi から ATP を合成する。この FoF1-ATP 合成酵素はバクテリア、葉緑体、ミトコンドリアといった幅広い生物 に保存されており、バクテリアとミトコンドリアでは酸化的リン酸化、葉緑体 では光リン酸化という過程を経てATPを合成する。これら2つのATP合成過程 の原理は「強い発エルゴン反応を利用してH+濃度差を形成し、それを使ってFoF1
も代表的とされるミトコンドリアの酸化的リン酸化を簡単に説明する(図1-1A)。 ミトコンドリアでは、クエン酸サイクルにより生じたNADHとFADH2の酸 化という強い発エルゴン反応が電子伝達系内における複数の反応段階をふんで 順々に行われる。その各反応段階で電子伝達系はH+濃度差を能動的に形成して いく。
まず、複合体Iにおける NADHの酸化反応である。複合体 IはNADHの酸 化を触媒し、NADHからユビキノンQへ電子を移動させる。その際にマトリッ クス側(N side)から膜間部(P side)へ4つのH+を輸送する。
複合体IIは H+輸送を行わないものの、FADH2の酸化を触媒し、複合体 I と同 様にユビキノンQへ電子を移動させる。
複合体I、IIで生成された還元型ユビキノンQ(QH2)は複合体 IIIへ移動する。
複合体IIIは受け取ったQH2の酸化を触媒し、QH2からcytochrome cへ電子を 移動させる。その際に、N sideからP side へ4つのH+を輸送する。
還元型cytochrome cは膜表面を伝わって、複合体IVに結合する。複合体IVで
は、還元型cytochrome c から最終電子受容体である O2へ電子が移動させられ る。その際に、N sideからP sideへ2つのH+を輸送する。
以上のように、ミトコンドリアの酸化的リン酸化ではNADHとFADH2の酸化と いう発エルゴン反応を利用して計10個の H+を輸送しH+濃度差を形成する。形 成したH+濃度差と細胞膜電位差の2つのポテンシャルから構成されるH+の電気 化学ポテンシャルを利用してFoF1-ATP合成酵素はADPとPiからATPを合成す る。この機構は根本的にはバクテリアにおいても変わらない。バクテリアでは、
様々な脱水素酵素によりユビキノン Q が還元される。そして、還元型ユビキノ
ンQからの電子はcytochrome関係の酸化還元酵素を介して最終電子受容体であ るO2へ引き渡される。いくつかのバクテリアでは、複合体IIIのようなcytochrome 複合体を組まず電子伝達系が短い。このような電子伝達系を構成する複合体の 数は、H+をくみ出す回数に影響を与えるため、長い方が1電子当たりのATP合 成効率はあがる。
一方、葉緑体における光リン酸化過程では上述のような電子伝達系はない。
その代わりとして、NADP+を還元する光化学系I、H2Oを酸化する光化学系II が光吸収により別々に活性化し、H+濃度差を形成する。これを利用してFoF1が ATPを合成する(図1-1B)。
図1-1 生体内におけるATP合成
(A) ミトコンドリアの酸化的リン酸化。バクテリアもほぼ同じような 機構。(B)葉緑体の光リン酸化。
1-2) FoF1-ATP合成酵素
生体内に存在するタンパク質のうち、化学反応から得たエネルギーを歩行運 動や回転運動といった力学エネルギーへ変換するタンパク質を“分子モーター” と呼んでいる。これまでに、様々な分子モーターの作動原理が近年急速に発展 を遂げている一分子計測法により明らかにされてきている。一方で、生体内に おけるH+駆動力を使って回転する分子モーターは鞭毛を筆頭に複数存在するが、
どの分子モーターも回転運動機構はわかっていない。
生体内で使用されるATPの大半を合成しているFoF1は2つの回転分子モータ ー、F1とFoから構成されている。F1はATP加水分解から得られるエネルギーを 利用し、一方向性の回転運動を行う。また、Fo は膜を隔てた電気化学ポテンシ ャルを利用し、F1とは逆方向へ回転運動を行う。Foの回転トルクがF1の回転ト ルクを上回る時、F1が逆回転しATPが合成される。F1の回転トルクが上回る際、
Fo が逆回転し、H+輸送を行う。結果として、電気化学ポテンシャルが形成され ると考えられている(図1-2)。
図1-2 FoF1-ATP合成酵素の模式図
左、FoF1-ATP合成酵素複合体。Foの回転子c ringとF1の回転子サ ブユニットの回転運動を介してH+輸送と共役してATP合成・加水分 解反応を行う; 右上、Foモーター。pmfに従って回転運動を伴ったH+ 輸送を行う。; 右下、F1モーター。ATPを加水分解して回転運動を行 う。
1-2-1) F1-ATPase
FoF1の一部であるF1は33のサブユニットから構成され、ヌクレオチド結 合部位を持つサブユニットでヌクレオチドの加水分解反応が行われる(図1-3A, B) (Abrahams et al, 1994)。P.Boyerによりサブユニットが回転しながら活性 サブユニットが順々に移動する回転触媒説が提案された(Boyer & Kohlbrenner, 1982; Oosawa & Hayashi, 1986)。このF1の回転触媒説は野地らが行った一分子 計測法により証明されている(Noji et al, 1997) (図1-3c)。そして、一分子操作実 験によりF1を強制的にATP加水分解時の回転方向とは逆方向に回転させた場合、
ATP が合成する事が明らかにされ、F1は化学エネルギーと力学エネルギーを可 逆的に変換する酵素という事が証明されている(Itoh et al, 2004; Noji et al, 2005)。 また、各反応素過程とサブユニットの回転角度の関係性(Adachi et al, 2007;
Shimabukuro et al, 2003; Watanabe et al, 2010; Yasuda et al, 2001) や基質結合 速度の回転角度依存性(Adachi et al, 2012; Watanabe et al, 2012)といった詳細 な化学力学共役機構が明らかにされている(図1-3D, E)。
図1-3 F1-ATPase
E.coli 由来 F1-ATPase の33複合体(PDB code3OAAの(A)側面図 (B)
上面図 (C)ATP 駆動による回転運動の一分子計測実験系の概略図 (D)
各反応素過程とサブユニットの回転角度の関係性 (E)基質結合速度の 回転角度依存性
1-2-2) FoF1-ATP合成酵素
FoF1-ATP合成酵素は膜を隔てたH+(またはNa+)の電気化学ポテンシャル(H+、 またH+/F = pmf: proton motive forceと呼ばれる)を利用してADPとPiからATPを 合成する(Deckers-Hebestreit & Altendorf, 1996; Junge et al, 2009; Weber &
Senior, 2000; Yoshida et al, 2001)。真核生物のFoF1は複雑なサブユニット構成を とるが、最もサブユニット構成が単純とされているバクテリアのFoF1はF1の
33、Foのab2c10-15から構成される(Baker et al, 2012; Dimroth et al, 2006) (図 1-4A)。FoのH+結合部位であるcサブユニットはリング形状をとる事からc ringと 呼ばれており、構成するcサブユニットの数は生物種により異なる(Ferguson, 2000)。これまでにYeast由来のc10 ring (Stock et al, 1999; Symersky et al, 2012)、 I. tartaricus由来のc11 ring (Meier et al, 2005)、Bacillus pseudofirmus OF4由来のc13
ring (Preiss et al, 2010)、thermoalkaliphilic Bacillus sp. strain TA2.A1由来のc13 ring (Matthies et al, 2009)、Chloroplast由来のc14 ring (Vollmar et al, 2009)、S. platensis 由来のc15 ring (Pogoryelov et al, 2009)の構造が結晶構造解析またはAFM像から 決定されている。また、このc ringを構成するcサブユニットの数は遺伝子操作に より増減させる事が可能となっている(Pogoryelov et al, 2012)。このように、Fo
の回転子c ringの構造関係の研究は進んでいるが、どのようにしてH+がcサブユニ
ットに結合・解離して回転運動を行わせているのかは分かっていない。その理 由として、cサブユニットに結合するH+の入出口として考えられているaサブユ ニットの構造が報告されていない事が挙げられる。近年、aサブユニットの二次 元結晶構造解析(Pogoryelov et al, 2012)が報告されたものの、H+の受け渡しを行
うc ringとaサブユニットの界面に関して未だわかっていない。このようにH+の結
合・解離により駆動されるだろう回転運動の機構が未だ解明されていないのに は、別の理由も挙げられる。それは、FoF1、またはFoの一分子計測法による研究 がそこまで進展していないことである。冒頭で述べた様に、FoF1はFoの回転子c ringとF1の回転子・の回転運動を介してH+輸送とATP合成・加水分解反応を共 役させていると考えられている。F1のATP加水分解によるc ringの回転運動は一
分子計測法により証明されており、F1がFoを回転させる運動機構は徐々に明らか になりつつある(Ishmukhametov et al, 2010; Nishio et al, 2002; Onoue et al, 2009; Sambongi et al, 1999; Ueno et al, 2005) (図1-4B)。一方、逆の場合はどう であろうか。F1の強制逆回転によるATP合成反応の報告から、H+駆動によるFoF1
の回転運動はF1のATP駆動の回転方向とは逆方向に回転すると予想されている が、未だ証明はされておらずH+結合・解離を伴った回転運動のモデルが提案さ れているだけである(Junge et al, 2009)。その回転運動モデルの簡略図が図1-5 である。Foのaサブユニットに存在するArg残基がH+結合部位であるcサブユニッ トのGlu残基と相互作用し、安定状態となっている。そこに、Foのaサブユニット を介して入ってきたH+がArg残基と相互作用しているGlu残基の電荷を奪い、Glu 残基と結合する。Glu残基はH+と結合する事で無電荷となるため、膜内でも安定 化する。それに対し、正電荷が露出したArg残基は不安定になる。そこで、隣に 存在するGlu残基から結合しているH+を解離させ、負電荷を露出させる。これに より、再びArg残基はGlu残基と相互作用し、安定状態となる。このようにして、
FoF1はH+の結合・解離を伴いつつ回転運動を行うと考えられている。近年、この H+駆動力を使ったFoF1の回転運動はM.Börschらによる一分子FRET実験により示 唆されている(Diez et al, 2004; Duser et al, 2009; Zimmermann et al, 2005)(図
1-4c)。しかし、一方向性の運動を証明するには観察時間が極めて短い事、観察
手法が直接的でない事からH+駆動による回転運動の証明には成り得なかった。
これまでに膨大な生化学実験からFoF1のATP合成・加水分解反応やH+輸送との 共役機構に関する様々な反応速度論的な解析が行われてきた(Gräber, 1994; von Ballmoos et al, 2009; Weber & Senior, 2000)。しかし、ミクロな反応機構、回転 運動機構は未だよくわかっていないのが現状である。
図1-4 FoF1-ATP合成酵素
(A)FoF1-ATP合成酵素の完全複合体(PDB codes F1, 1JNV; b2, 2CLZ;
b+c10, 1C17) (B) ATP駆動による回転運動の一分子直接実験系の概略図 (C) ATP合成反応時における一分子FRET実験
図1-5 現在提案されているH+駆動FoF1の回転運動モデル (A)、Foの上面図。FoのaサブユニットArg残基とFoのcサブユニットGlu 残基の相互作用はmazendaの丸、H+はcyanの丸で表している。Glu残基 はArg残基と相互作用する際、正電荷がむき出すように構造変化する。
H+と結合した後、c ring内へ折りたたまれる(Symersky et al, 2012); (B) 下、Foの側面図。
z
1-3) 本研究の背景と目的
好熱菌由来の酵素は一分子計測法に対し大きな利点を持つ。好熱菌の至適温 度が~65℃と極めて高く、室温では構造的に非常に高い安定性を持つ。これは変 異導入に高い安定性を持つだけでなく、タンパク質にとって過酷な環境となる 一分子計測法でも大きな利点となる。また、常温における酵素反応速度は低下 するため、各反応素過程に対応した酵素の構造変化の時間分解能が他の生物種 に比べ優れているとも考えられる。実際に、好熱菌由来の F1は他の生物由来の F1に比べ詳細に回転運動機構の解明が行われている。そこで、F1 の回転運動機 構が詳細に解明されている好熱菌由来の FoF1(TFoF1)を使って、H+駆動力の回転 運動を観察出来る一分子計測実験系の確立を行い、H+駆動力を使った回転運動 の証明、そしてその作動原理を導く事を本研究の最終的な目標とする。
これを行うにはまず、顕微鏡下ではなく試験管内で回転運動を行うであろう 条件の最適化を行う必要性がある。FoF1はH+駆動力を使った回転運動とATP合 成反応を共役している。よって、TFoF1がH+駆動力を使って回転運動を行える最 適条件の検討にはATP 合成活性(1秒間にFoF1一分子が合成する ATPの数)が指 標となる。しかし、過去の報告では人工膜小胞中における TFoF1の ATP 合成活
性は~0.5 s-1と他の生物種由来のものより 100 倍以上低かった。そのため、ATP
合成反応における TFoF1の特性等に関する先行研究は基質依存性くらいである。
このような状態では H+駆動力による TFoF1の回転運動を観察する一分子計測実 験系の確立は極めて難しい。そこで、試験管内における TFoF1が H+駆動力を使 って回転運動を行う最適な条件の決定を行う事を本研究の目的とした。
1-4) 本論文の概要
本論文は、回転条件の最適条件を検討している中で得られたATP 合成反応に おける TFoF1 の特性と反応速度論的またはエネルギー論的解析により得られた 知見をまとめたものである。
第一章は序論であり、まず生体内におけるATP の合成機構を述べる。次に、
そのATP合成機構の最終着点であるFoF1-ATP合成酵素の概要を述べ、現時点で 調べられている点、未解決となっている問題点をまとめる。最後に、本論文の 目的、概要を述べる。
第二章ではまず、本研究で用いた好熱菌由来FoF1-ATP合成酵素の二種類の変 異体(TFoF1WTと TFoF1c)とその精製方法について述べる。次に、ATP 合成反応 の駆動力であるpmfを構成する膜を隔てたH+濃度差pHと膜電位差の形成方 法の原理と算出方法について述べる。最後に、TFoF1により合成されたATPの検 出方法について述べる。特に、検出に使用した luciferin/luciferase の発光反応に おける特性に関してまとめる。
第三章ではまず、TFoF1のATP合成活性に最も影響を及ぼすと考えられる人工 膜小胞体への再構成方法の最適化について述べる。その後、ATP 合成活性が向 上した条件で再構成した TFoF1cの ATP 合成活性の基質依存性、温度依存性を 述べる。
第四章では、ATP合成反応の駆動力を構成するpHとの反応速度論的等価 性についてまとめる。pmfの厳密な制御、ATP合成反応における最適pHの決定 に関して述べる。そして、pHとの考えうる組み合わせで測定したATP合成 活性の pmf 依存性からどのように反応速度論的等価性を導いたかについて述べ る。
第五章では、1つの ATPを合成するために必要となる H+の数(H+/ATP)とその 自由エネルギー変化量についてまとめる。まず、更なるATP 合成活性の向上に
算出するために必要となる理論式とそれに照らし合わせた実験結果について述 べる。
第六章では、本論文の結論、次なる課題を含めた今後の一分子計測法への展 望について述べる。
第二章 実験系の概要
本章では、本研究で用いたTFoF1の精製方法、pmfの形成方法の原理とATP 合成活性測定実験系について述べる。
2-1) 好熱菌由来FoF1-ATP合成酵素の精製
本研究ではF1のサブユニットの N末端に 10個の Histidine(His-tag)が発現す る変異体TFoF1 (TFoF1WT)(Suzuki et al, 2003)と酵素活性阻害に関わる部位である
サ ブ ユ ニ ッ ト の C 末 端 を 削 除 し た 変 異 体 TFoF1(TFoF1c、 詳 細 は 第 三 章)(Masaike et al, 2006)の二つのTFoF1を使用した。これら二種類のTFoF1変異 体の精製方法は鈴木らの手法を参考にし、発現系には大腸菌を使用した。プラ スミドDNAはそれぞれpTR19-ASDSとpTR-ISBS2-cを使用した(Suzuki et al, 2003)。
2-1-1) 溶液組成 溶液組成
LB培地
10 g/L Bacto tryptone 5 g/L Bacto yeast extract 10 g/L NaCl
15 g/L Bacto agar 100 g/mL Ampiciline
2×YT培地
16 g/L Bacto tryptone 10 g/L Bacto yeast extract 5 g/L NaCl
100 g/mL Ampiciline
PA3 buffer
10 mM Hepes 5 mM MgCl2
10 % Glycerol //pH7.5, adjusted with KOH
S buffer
10 mM Hepes 5 mM MgCl2
10 % (v/v) Glycerol
2 % (v/v) TritonX-100 (Sigma Ultra, Sigma)
0.5 % (w/v) Cholate (Nacalai) //pH7.5, adjusted with KOH
Wash buffer
20 mM K-Pi Buffer (pH7.5) 100 mM KCl
20 mM Imidazole
0.15% n-Decyl--D-maltoside (Dojindo) //pH7.5, adjusted with KOH
Elution buffer
20 mM K-Pi Buffer (pH7.5) 100 mM KCl
200 mM Imidazole
0.15% n-Decyl--D-maltoside //pH7.5, adjusted with KOH
A buffer
20 mM Hepes 0.2 mM EDTA
0.15% n-Decyl--D-maltoside //pH7.5, adjusted with KOH
B buffer
20 mM Hepes 0.2 mM EDTA 1M Na2SO4
0.15% n-Decyl--D-maltoside //pH7.5, adjusted with KOH
2-1-2) 精製方法
TFoF1WTまたはTFoF1cが発現している大腸菌DK8 は京都産業大学 鈴木俊治 研究員から頂いた。まず、-80℃に保存されたグリセロールストックの菌体 (TFoF1WTまたはTFoF1c)をLB培地プレート上で37℃にて12時間かけて寒天培 養を行った。滅菌処理された爪楊枝で一本につき一カ所のコロニーをつつき、
20 mLの2×YT培地溶液で37℃にて12時間かけて大腸菌の培養を行った。培養
された大腸菌の中に TFoF1が発現しているかを SDS-PAGE で確認した。2 L の 2×YT培地溶液に対し、TFoF1の発現が確認された培養溶液を2 mL添加し、37℃ にて21時間かけて振盪培養を行った。TFoF1の回収量を増やすため、常に6×2 L
の合計12 Lの2×YT培地溶液で大腸菌の培養を行った。大腸菌が十分に増えた
培養溶液を 5000 g で低速遠心(6k rpm for 30 min at 4℃, 7780 and AG-1K4,
KUBOTA)にかけ、大腸菌を回収した。12Lの培養溶液からは常に 80g程の大腸
菌を得た。大腸菌10 gにつき、70 mLのPA3 bufferでよく懸濁し、二回のFrench
Press(5502-M, Ohtake)で大腸菌を破砕した。破砕されなかった大腸菌、または細
胞破片を回収するために低速遠心(11.5k rpm for 40 min at 4℃)を行った。得られ た上清を 235,000 g で超遠心(45k rpm for 1h at 4℃, Optima L-90K and 45Ti,
Beckmann)にかけ、TFoF1 が組み込まれた反転膜小胞を回収した。茶色みがかっ
た上清を捨て、ペレットの反転膜小胞をPA3 bufferで懸濁し、再度235,000 gで 超遠心(45k rpm for 1h at 4℃)を行った。得られた反転膜小胞は使用した菌体(培養 直後)10 gにつき30 mLのS bufferでよく懸濁した。この懸濁溶液を30℃に保っ た恒温槽上で30分間静置し、反転膜小胞に存在する膜タンパク質の可溶化を行
rpm for 1h at 30℃)を行った。この超遠心により可溶化されなかった膜画分を除去 した。上清をW bufferで6倍希釈し、界面活性剤濃度を下げた。可溶化の際に
使用した Triton-X はタンパク質の 4 次構造を壊す恐れがあるため、可溶化から
希釈までの手順は速やかに行う必要がある。希釈した溶液とW bufferで平衡化 しておいたNi-NTAカラム担体(Ni-Sepharose fast flow、GE healthcare)を混ぜ、バ ッチ法でTFoF1を Ni-NTAカラム担体に吸着させた。Ni-NTA カラム担体は自重 で沈殿するため、穏やかに撹拌しながら吸着作業を行った。なお、この吸着作 業はプロテアーゼの活性を失くすため、氷上で行った。30分後、TFoF1が吸着し た Ni-NTA カラム担体を含む溶液をエムプティカラム(Econo-Column, 5 cm×30 cm, Biorad)に流し込み、Ni-NTAカラム担体のみを回収した。その後、Ni-NTAカ ラム担体に非特異的に吸着したタンパク質等を除去するために、使用した担体 の10倍量のWash bufferを流した。Wash bufferを流し終えた後、特異的に吸着 したTFoF1を回収するためにElution bufferを流した。この際、10 mLずつフラク ションをとった。得られたフラクションのうち、TFoF1が存在するピークフラク ションはBCA Protein Assay Reagent Kit (PIERCE)を使用して判断した。ピークフ ラクションは全て混ぜ合わせ、A bufferで10倍希釈した。その後、TFoF1の純度 を高めるために液体クロマトグラフィ(ÄKTAprime, GE Healthcare)を用いて陰イ オン交換カラム(ResourceQ 6 mL, GE healthcare)にかけた。予めA bufferで平衡化 済の陰イオン交換カラムに流速4 mL/minの速度でピークフラクション希釈溶液 を流し込み、TFoF1を吸着させた。吸着後、カラムの10倍量のA bufferを流し、
吸着しなかったTFoF1を洗い出した。 TFoF1の溶出はA bufferとB bufferの勾配 溶出により行った。A bufferに1 %(v/v) / min の速度で混合させるB bufferを増 やし、A bufferとB bufferの混合比率が50%になるまでカラム内の塩濃度を上昇 させた。TFoF1の溶出は[Na2SO4]が150-200 mMの間に確認された(図2-1)。この 際、溶出フラクションは4 mLずつとった。限外濾過膜(Amicon Ultra Ultracel-50K, Millipore)を使用してピークフラクションごとに2000 gで低速遠心(5k rpm for 10 min, himac CF 15R, Hitachi)を行い、濃縮した。限外濾過膜内の容量が1 mLにな
るまで濃縮した後、A bufferを10 mLになるまで注ぎ、再度低速遠心を行った。
SO42-イオンはATP合成活性を低下させるため、この濃縮・遠心作業を数回行い 溶液中に含まれるNa2SO4を除去した。最終的に10倍程度濃縮したTFoF1はピー クフラクションごとに 25 L ずつ分注した。これらは液体窒素で凍結し、使用 するまで-80℃で保存した。モル吸光係数は253,000 M-1cm-1、分子量は5300,000 とし、紫外吸光度測定からTFoF1の濃度を測定した。また、TFoF1の濃度をBCA Protein Assay Reagent Kit から測定した際も同等の値が得られた。精製の各過程 において得られた溶液のSDS-PAGEの結果を図2-2に示す。
図2-1 液体クロマトグラフィの吸光時間経過
黒、280 nmにおける吸光度の時間経過; 赤[Na2SO4]の時間経過。青で 囲まれた範囲内の4ピークがFoF1によるもの(図中▽)。
図2-2 各精製過程におけるSDS-PAGE
①分子量マーカー ②大腸菌破砕後の超遠心-ペレット ③大腸菌破砕 後の超遠心-上清 ④超遠心-上清 ⑤超遠心-ペレット ⑥flow through (Ni-sepharose) ⑦ wash(Ni-sepharose) ⑧ flow through(ResourceQ) ⑨ Peak-1(ResourceQ) ⑩ Peak-2(ResourceQ) ⑪ Peak-3(ResourceQ) ⑫ Peak-4(ResourceQ)
2-2) Acetone wash脂質の調製法
本研究ではリポソームと呼ばれる人工膜小胞を使用して、TFoF1のATP合成反 応における特性の評価や反応速度論的、エネルギー論的解析を行った。このリ ポソームを構成する脂質には大豆由来の未精製PCを使用した。この未精製PC 内にはわずか20%程度のPCしか含まれておらず、PAやcholesterolといった様々 な種類の脂質を含んでいるほか、ビタミン等の脂質以外の余計な成分も含まれ ている。まず、香川らの手法を参考にし、ビタミン等の脂質以外の余計な成分 を除去した(Kagawa & Racker, 1971)。
200 gのL--phosphatidylcholine from soybean(Type II-S, Sigma)を~300 mL程度の
acetoneと混ぜ合わせ、溶液が黄色くなるまでかき混ぜた。Acetoneが黄色くなっ
たところでかき混ぜるのを止め、脂質が自重により沈殿するまで静置した。溶 液中の脂質が全て沈殿した事を目視で確認した後、上清の黄色みがかった Acetoneを捨て、新しいacetoneを~300 mL程度注いだ。この作業をAcetoneの黄色 みがなくなるまで10回程繰り返した。その後、acetoneを出来る限り捨て、脂質 を真空デシケーター内にて一晩放置し、脂質内に存在するacetoneを完全に蒸発 させた。十分に乾燥した脂質を50 mLのコーニングチューブ(Falcon)に~30 gずつ 分け、使用するまで-20℃にて保存した。
2-3) ATP合成活性測定の概要
pmf は膜を隔てた H+濃度差pH と膜電位差から構成されており、pmf = 2.3RT/FpH + と定義されている(Mitchell, 1961)。本研究では、それぞれ酸・
塩基置換法、K+/valinomycin拡散ポテンシャルという手法を用いてpmfをリポソ ームに印加した。本研究では、これらの手法を一貫して使用したが、実験ごと に溶液組成等を変更しているため、詳細な実験手法・溶液条件は各章の第二節 に触れる事とする。本節ではこれら手法の原理について述べる。
2-3-1) 酸・塩基置換法
リポソーム溶液と反応溶液を混ぜ合わせると瞬間的にリポソーム外の溶液環 境を変える事が出来る。イオンや化学物質の脂質二重膜を介した移動は無視で きる程度に小さいため、混ぜ合わせた直後のリポソーム内の溶液環境は混ぜ合 わせる前の状態が維持される。この混ぜ合わせによる環境変化をリポソーム外 のpH変化に使用した手法が酸・塩基置換法である。以下に具体的な手順を記す。
まず、調製したリポソームを酸性溶液に浸し、リポソームの膜を介したH+の 移動が平衡に達するまで静置し、リポソーム内外のpHを等しくした。平衡に達 するまでの時間は溶液組成等の影響を受けるため、実験ごとに異なっている。
次に、十分酸性化されたリポソームを強い緩衝能力を持つ反応溶液と混ぜ合わ せた。混ざり合った瞬間のリポソーム内のpHは酸性化時のpHを保つ。そして、
リポソーム外のpHとなる反応溶液のpHは強い緩衝能力を持つため、混ざり合 ったリポソーム溶液の影響は最小限に抑えられ、pHはわずか0.01程度しか変化 しない。本研究ではpH = pHout – pHinと定義し、リポソームを浸した酸性溶液の pH が pHin、反応溶液の pH が pHoutとなる。しかし、リポソームからの漏れや FoF1自身のH+輸送によりpHinの値は時間経過とともに上昇していき、結果とし てpH は減少していく。そのため、酸・塩基置換法で形成したpH の大きさは 溶液を混ぜ合わせた直後が最大となる。
2-3-2) K+-valinomycin拡散ポテンシャル
K+-valinomycin拡散ポテンシャルはvalinomycinと呼ばれるK+のイオノホアを 使い、膜を隔てたK+濃度差に従ってK+イオンを移動させ、電位差を形成する手 法である。以下に具体的な手順を記す。
酸・塩基置換法ではリポソーム溶液と反応溶液を混ぜ合わせリポソーム外の pHを瞬間的に変えた。この手法はリポソーム外の様々なイオン濃度も同時に変 える事が可能である。そこで、酸・塩基置換法によりH+濃度差と同時にK+濃度 差も形成した。この形成したリポソーム内外の K+濃度差に従って K+イオンは
valinomycin を介してリポソーム内または外へ移動し、膜電位差を形成する。本
研究ではNernstの式: = 2.3RT/F log([K+]out /[K+]in)から膜電位差を算出した。
ここで移動すると考えられるK+イオンの数は以下のように見積もる事が可能で ある。脂質二重膜の膜電気容量Cmは10-2 F/m2、素電荷は1.6・10-19 Cである。
印加した膜電位差が100 mVの場合、
リポソーム径は~170 nmである事から(図3-5)、リポソームの表面積Sは~9・10-14 m2と算出出来る。よって、
以上から、約540個のK+イオンが移動する事になる。また、リポソームの体積 Vは~2.5・10-18 m3と算出出来、アボガドロ定数Nは6.02・1023 個/molである。
よって、
以上から、100 mVの膜電位差を印加した場合、~0.36 mMほど[K+]inが上昇する と考えられる。
図2-3 実験手法の原理
(A)酸・塩基置換法。シアンは pH の低い溶液、青は pHの高い溶液 を表す。(B)K+-valinomycin拡散ポテンシャル。移動したK+イオンは 赤色で表している。
2-3-3) 合成されたATPの検出法
FoF1により合成されたATPの検出にはLuciferin/Luciferaseの発光反応を利用 した(Ford et al, 1996)。luciferin/luciferaseによる発光反応は以下のように二段階 の反応を経て行われる。
本研究では、溶液中のATP濃度の時間経過を観察するため、あるATP濃度に対 し常に一定の発光強度で光り続けるluciferaseが望ましい。そこで、溶液中のATP 濃 度 変 化 に 敏 感 、 か つ 一 定 の 発 光 強 度 を 保 ち な が ら 長 時 間 光 り 続 け る luciferin/luciferase kit CLSII(Roche)を使用した。まず、このluciferin/luciferaseがど れくらい長く一定の発光強度を保つか確認した(図 2-4A)。混ぜ合わせた直後か ら数百秒間 luciferin/luciferase の発光強度は急激に減少したが、その後一定の強 度を保つことが分かった。しかし、温度に対する安定性に欠けており、30℃を 超えた条件ではluciferaseの失活が顕著に現れた(図2-4AB)。図2-4Bは100 pmol のATPに対するluciferin/luciferaseの発光強度を時間経過ごとにプロットしたも のである。30℃では luciferin/luciferase の応答が時間に関わらずほぼ一定である の に 対 し 、35℃ で は 急 激 な 発 光 強 度 の 低 下 が 確 認 出 来 る 。 ま た 、 こ の luciferin/luciferaseの発光強度と[ATP]は~2 M ATPまで線形関係にある事が確か められている(図2-4C)。
本 研 究 で は luciferin/luciferase の 発 光 反 応 の 測 定 に ル ミ ノ メ ー タ ー (Luminescence AB-2200, ATTO)を使用した。このルミノメーターには、測定中に 溶液を自由に添加できるようサンプルの直上に径が10 mm程度の穴をつけてあ る。
図2-4 luciferin/luciferaseの発光実験
反応溶液は970 Lの20 mM Tricine, 20 mM MES, 80 mM NaCl (pH8.0) + 20 L luciferin/luciferase。25℃では発光量が非常に大きいため、加え る luciferin/luciferase を 10 L に減らした。測定温度の違いは色によ り区別している。オレンジ, 25℃; 赤, 30℃; 青, 35℃;(A)発光強度の時 間経過。t = 0で100 pmol(10 Lの10 M ATP)を加えた。t = 0の発光 強度で規格化。(B) 発光強度の応答レベルの時間経過。t = 0 で 10
pmol ATPを加えた時の発光強度で規格化。その後、任意の時間で100
pmol ATPを加えている。2回の測定で得られた応答を全てプロットし
ている。(C)25℃における発光強度のキャリブレーション曲線。10 秒
間べースラインが落ち着いているのを確認した後、62.5-8000 nMにな るようにATPを10 L加えた。
第三章 好熱菌由来 F
oF
1-ATP 合成酵素の ATP 合 成実験系確立
3-1) 背景
第一章で述べたように、TFoF1の一部であるTF1は先行研究の反応速度論的解 析より詳細な回転運動機構が明かにされている。一方、生体内において本来の 姿であるTFoF1-ATP合成酵素としては基質依存性といった基本的な反応速度論 的解析程度しか行われていない。
これまでにTFoF1のATP合成活性は36℃で0.1 s-1(Sone et al, 1975)、40℃で 1-3 s-1(Bald et al, 1998; Richard et al, 1995; Sone et al, 1977)、コレステロール 存在下で7 s-1(Pitard et al, 1996)と報告されている。また、ATP合成反応の基質 であるADP、PiのKmに関しては、KmADP = 0.3 mM、KmPi = 10 mM(Richard et al, 1995)、KmADP = 0.4 mM、KmPi = 6.3 mM(Bald et al, 1998)と報告されている。これ らTFoF1のATP合成活性、Kmの値は他の生物由来のFoF1と比較すると、それぞ れ 10-100 倍、10 倍以上も異なる(Fischer et al, 1994; Förster et al, 2010;
Grotjohann & Gräber, 2002; Matsuno-Yagi & Hatefi, 1986; Matsuno-Yagi &
Hatefi, 1988)。このように、これまでに報告されているTFoF1のATP合成活性や 基質への親和性は他生物由来と比べ著しく低いため、生化学実験や一分子計測 による研究発展の足枷となっている。
本実験では、このTFoF1の調製法、再構成方法を改良する事でATP合成活性 の向上を目指し、TFoF1のATP合成反応における特性や基質依存性などを調べた。
3-2) 実験方法
TFoF1のリポソームへの再構成方法は新しく考案した。ATP合成活性測定の実 験系はS.Fischerらの手法を参考にした(Fischer & Gräber, 1999)。
3-2-1) 溶液組成 R buffer
20 mM Tricine 20 mM Succinate 80 mM NaCl
0.6 mM KOH //pH8.0, adjusted with NaOH
A buffer
20 mM Succinate 14.7 mM NaH2PO4
2.5 mM MgCl2
0.6 mM KOH //pH85.1, adjusted with NaOH
B buffer
200 mM Tricine 10 mM NaH2PO4
2.5 mM MgCl2
120 mM KOH //pH8.8, adjusted with NaOH
3-2-2) TFoF1のリポソームへの再構成
Acetoneで処理した未精製PCをR bufferで32mg/mLになる様に懸濁し、かき 混ぜながら30分間放置した。その後、1分間ほどチップ型ソニケーター(Handy
Sonic, UR-20P, TOMY SEIKO)で超音波処理し、リポソームを形成した。調製した
リポソーム溶液は使用するまで-80℃で保存した。
250 Lの32 mg/mLリポソーム溶液と250 Lの10 mM MgCl2、12% (w/v) OG
を含むR bufferを混ぜ合わせ、リポソーム溶液が透明になるまで混ぜた。リポソ ームが完全に溶解した溶液500 Lに20-600 gのTFoF1WTまたはTFoF1cを混ぜ、
ゆっくりと撹拌させながら室温で1時間放置した。その後、R bufferで置換した Biobeadsを200 L分加えた。30分間静置した後、さらに300 L分のBiobeads を加え1.5時間静置した。十分に界面活性剤を除去し、出来上がったプロテオリ ポソーム溶液を別のチューブへ移し替えた。この再構成方法で得られたプロテ オリポソームの粒径は動的光散乱(LB-550, Horiba)で測定したところ、170 nmで あった(図3-5)。
3-2-3) ATP合成活性測定と解析法
870 LのB bufferと21 LのLuciferin/Luciferase溶液(5 mLのMQで溶解、ATP Bioluminescence assay Kit CLSII、Roche)、9 L の 50 mM ADP を混ぜた。
luciferin/luciferaseによる発光を落ち着かせるため、30℃に保ったルミノメーター 内で 5 分間静置した。ATP 合成活性の基質依存性を測定する際には、混ぜ合わ せる[ADP]と[Pi]を1-1000 M、0.1-30 mMと適宜変更した。ルミノメーター内で 反応溶液を静置している間、68 LのA bufferに1 Lの50 mM ADP、1 Lの20
M valinomycin、30 Lのプロテオリポソーム溶液を加えた。プロテオリポソー ム内が酸性化されるまで 5 分間静置した。また、ATP 合成活性の基質依存性を 測定する際には、加えるADPを0.1-100 mM 、A bufferのPiを0.147-44.1 mM とそれぞれ適宜変更した。酸性化プロテオリポソーム溶液と反応溶液の準備が 整ったところで測定を開始した。測定開始後、luciferin/luciferaseの発光強度が落 ち着いている事を10秒間確認し、100 L用シリンジ(LC-100, KUSANO)を用い て酸性化プロテオリポソーム溶液と反応溶液を混ぜ合わせた(t = 0)。ATP合成反 応がほぼ終了したところで(t = 60)、luciferin/luciferaseの発光強度を検量するため に 10 L の 10 M ATP を 3 回加えた。使用した ADP に含まれる ATP 量を luciferin/luciferaseの発光実験から調べたところ、0.05または0.2%(mol比)のATP
が含まれていた。反応溶液に混入しているPiの量をEnzChek Phosphate Assay Kit (Invitrogen)を使用して調べたところ、25 MのPiが混入していた。
3回加えた100 pmol ATPの発光強度をもとに、得られたATP合成反応の時間経
過を発光強度 か らATP濃度へと変換した。反応開始後6秒間の時 間経過を exponential式( y = y0 + A exp(-kx))でフィッティングを行った。得られたフィッテ ィング式の微分式から反応開始点(t = 0)におけるATP合成活性を算出した。
直接pHメーターで測定した反応溶液のpH、酸性化プロテオリポソーム溶液の pHをそれぞれpHoutとpHinとし、常にpHout = 8.8、pHin = 5.65、[K+]out = 105 mM、 [K+]in = 0.6 mMとした。H+濃度差pHはpHout – pHin、膜電位差はNernstの式
= 2.3RT/F log([K+]out /[K+]in)から算出し、それぞれpH = 3.2、 = 130 mVと計算 した。形成したpmfの合計値は2.3RT/F・pH + から算出された値を使用し、
327 mVであった。ATP合成活性の基質依存性はV = (Vmax・[S]) / (Km + [S])の式で フィッティングを行い、Kmを算出した。ここのVはATP合成活性、Vmaxは最高ATP 合成活性、SはADPまたはPiを指している。
3-3) 実験結果
3-3-1) ATP合成活性測定系の確立
TFoF1のもつサブユニットはC末端にATP結合部位を持つ。ATP結合状態で はサブユニットのC末端は折り畳まれた状態で存在する(図3-1A左)。ATPが解 離するとC末端は構造変化し、折り畳まれていたC末端が開きF1の酵素活性を 阻害する(Suzuki et al, 2003)(図3-1A右、B)。この阻害状態から活性化状態へ移 行し、ATP合成反応を開始するには本来ATP合成に必要とされるpmf以上のpmf が必要と報告されている(Feniouk et al, 2007; Saita et al, 2010)。このサブユニ ットの阻害に関わる部位である C 末端を削除した変異体(FoF1c)は野生型の FoF1(FoF1WT)に比べ ATP 合成活性が数倍上昇する事がわかっている(Iino et al, 2009; Masaike et al, 2006)。そこでまず、ATP合成活性測定系の確立にはTFoF1c
を使用した。
図3-1 サブユニット
(A)サブユニットの構造変化。TFoF1cでは C 末端部位(赤)を遺伝子 的に削除している。(PDB codes fold, 1AQT; extend, 3OAA)(B)F1のサブ ユニットによる阻害状態。
FoF1 に限らず、これまでの膜タンパク質のリポソームへの再構成方法は以下 のようである。まず、透析や超音波処理、脂質フィルムからの水和法といった 手法でリポソームのみを調製する。次に、調製したリポソームに少量の界面活 性剤と目的膜タンパク質を加える。界面活性剤によりふやけたリポソームへ膜 タンパク質が挿入される。最後に残存している界面活性剤を除去する。または、
調製したリポソームと膜タンパク質を混ぜ合わせ、瞬間凍結し時間をかけて融 解する。しかし、これら代表的な手法では TFoF1による十分な ATP 合成反応を 確認する事は出来なかった。
TFoF1は精製過程で凝集する性質を持つ。この凝集した TFoF1では、形成した pmfを適切にATP合成反応へ変換出来ないと考えられる。よって、TFoF1がATP 合成反応を十分に行えない原因として凝集を疑った。そこで、TFoF1の凝集を解 消するために分散作用を持つ界面活性剤に着目した。上に述べたように、0.5%
または最高でも 1%の界面活性剤が使用される代表的な手法で再構成された TFoF1では、ATP合成反応を確認する事は出来なかった。では、それ以上の濃度 の界面活性剤を使用した場合、TFoF1の凝集が解消されATP合成反応を行えるの ではないだろうか。そこで、界面活性剤には臨界ミセル濃度が高い OG(cmc
~0.8%)を使用し、ATP合成活性の再構成時における[OG]依存性を調べた(図3-2)。 驚くべき事に、TFoF1が十分なATP合成反応を行うには、最低でも4%のOGが 必 要 な 事 が わ か っ た 。OG の 他 に も Triton-X、n-Decyl--D-maltoside、 n-Dodecyl--D-maltoside、n-Octyl--D- maltosideなどの界面活性剤でも再構成を 行 っ た が 、ATP 合 成 反 応 は 乏 し か っ た 。 特 に n-Decyl--D-maltoside や n-Dodecyl--D-maltosideに関してはBiobeadsとの相性が悪く、界面活性剤の除去 さえ困難であった。本実験では、6%のOG を使用してリポソームへの再構成を 行った。
図3-2 再構成時における[OG]依存性
[OG] = 4%から急激なATP合成活性の向上が確認出来た。それ以上の
濃度では界面活性剤による変性または、界面活性剤の残存によりATP 合成活性が低下するのが確認出来た。
OGの除去に使用したBiobeadsにはlot差があり、大きくATP合成活性に影響 を及ぼす事が分かった。再構成後、十分に高いATP合成活性を持つプロテオリ ポソーム溶液の色は若干黄色みがかった透明な溶液であるのに対し、Biobeads のlotによっては白濁、沈殿物の形成が観察された。様々なlotのBiobeadsを用 いて再構成した TFoF1のATP 合成反応の時間経過を図 3-3 に示す。白濁、沈殿 物を形成したプロテオリポソームでは、ほんのわずかなATP合成反応しか行わ なかった。再現性に乏しくはなるが、Biobeads の加える量や時間を調節する事 で、確認されていた白濁、沈殿物などは改善されるが、“当たり”と考えられる lotを使用して測定したATP合成活性を上回る事はなかった。よって、本研究で は“当たり”と考えられるBiobeadsのみを再構成時に使用した。
図3-3 BiobeadsのLot差が与える影響
上から Lot No. 210005260; lot no.不明(吉田研においてあったもの);
210007075; 210005891; 73589A
[OG] = 6%、[脂質] = 32 mg/mLで再構成したプロテオリポソームのATP合成 反応の時間経過が図3-3である。TFoF1cは特性を調べるには十分なATP合成反 応を示し、そのATP合成活性は約15 s-1であった(図3-4, trace 1, 2)。H+のイオノ ホアであるFCCPやnigericin存在下ではATP合成反応は確認出来なかった(trace 4, 5)。一方、TFoF1WTのATP合成活性は0.7 s-1と低い活性を示した。サブユニ ットによる阻害状態を解除するために10 M ATP存在下でTFoF1WT を10分静置 させた場合、TFoF1WTのATP合成活性は先行研究より高い値の~3 s-1まで上昇す る事が確認出来ている。しかし、活性化作業を行ったにも関わらず、TFoF1cの ATP合成活性はTFoF1WTよりも数倍以上高い。これは、サブユニットのATPに 対する親和性が低く、完全に活性化出来ていない、または活性化されてもすぐ に阻害状態に戻ってしまったためと考えられる。以上のように、TFoF1cのATP 合成活性が TFoF1WT に比べ高い事から今後の TFoF1 の ATP 合成活性測定は TFoF1cを使用していく。
この再構成法は溶液を混ぜ合わせた後、Biobeads を加えるだけという非常に 単純な手法であるだけでなく、非常に再現性が良い結果となった。なお、この 手法で作成されたプロテオリポソームは非常に安定であり、作成後 3 日後でさ えも90%以上のATP合成活性が保持されていることが確認出来ている。
図3-4 TFoF1cとTFoF1WTのATP合成反応の時間経過
矢印の位置で酸性化プロテオリポソーム溶液と反応溶液を混ぜ合わせ ている。反応開始60秒後100 pmol ATPを3回加えている。ATP合成 活性はt = 0から6秒間のフィッティング(図中灰色の曲線)から算出し ている。1, 17nM TFoF1c; 2, 8.5 nM TFoF1c; 3, 17 nM TFoF1WT, 4, 1 + 500 nM FCCP; 5, 1 + 500 nM nigericin。
3-3-2) ATP合成活性の脂質とTFoF1の濃度比依存性
TFoF1のATP合成反応における更なる最適な環境を調べるため、再構成時の脂 質とTFoF1cの濃度比依存性を調べた。ここでは脂質の濃度を16 mg/mL(8 mg in 500 L)と固定し、TFoF1cの濃度を変化させた。その結果が図3-5である。脂質 とTFoF1cの重量比が 0.002から 0.01の間ではATP 合成活性は一定であった。
リポソームの直径が170 nm である事から(図 3-5挿入図)、重量比が 0.002から 0.01 の時、一つのリポソーム内に再構成されている TFoF1cの数は 1 個から 4 個と算出される。それ以上の比率で再構成した場合、ATP 合成活性は徐々に減 少していく事が確認できた。それに対し、合成された ATP の総量は脂質と TFoF1cの重量比が増加すると共に増加した。
本実験では、より大きなATP合成シグナルが実験精度の向上につながるため、
ATP合成反応シグナルが大きい重量比が0.02の条件([TFoF1] = 17 nM、[脂質] = 32
mg/mL)で実験を行った。
図 3-5再構成時における脂質とTFoF1cの濃度比依存性
○, ATP合成活性; ●合成されたATPの総量; 挿入図, 動的光散乱によ るリポソーム粒径の分布図。
3-3-3) ATP合成活性の温度依存性
本研究で用いたTFoF1は好熱菌由来であり、好熱菌の至適温度は~60℃である。
そこで、TFoF1の本来の温度のATP合成活性がどれほどの値を持つのかを調べる 事にした。しかし、30℃よりも高温の条件ではluciferaseの熱変性により発光強 度が時間経過とともに急激に減少するため(図 2-4B)、30℃が測定温度の上限と なる。よって、ATP合成活性の30℃から10℃の温度依存性から本来TFoF1が持 つATP合成活性を予測する事にした。ATP合成活性の温度依存性が図 3-6であ る。図3-6Bから分かる様に温度が減少するにつれ、ATP合成活性が急激に減少 していく様子が確認出来、そのQ10は3-4であった。ATP合成活性の温度依存性
をArrhenius plotに変換したのが図3-6B右図である。このフィット直線から活性
化エネルギーは約 110 kJ/mol と算出出来、単純に見積った場合~60℃における ATP 合成活性は~1000 s-1にも到達する事になる。しかし、これらの温度依存性 は直線ではなく、若干たわんでいる。このたわみを考慮すると、~60℃でのATP 合成活性は最低でも100 s-1以上と予想された。
Arrhenius plotのたわみの理由として挙げられるのが低温状態におけるATP合
成反応の遅延である。図3-6Aが各温度におけるATP合成反応の時間経過である。
10℃、15℃で測定したATP 合成反応の時間経過からわかるように、酸性化プロ テオリポソームの溶液を混ぜ合わせてから発光強度が上昇するまでに数秒の遅 れが確認されている。このATP合成反応の遅延は15℃より10℃の方が明かに長
い。10, 15℃におけるATP合成活性は混ぜ合わせてから数秒後の傾きが最も急な
ところから算出しているため、20℃以上のATP合成活性のように初速を求めて いる訳ではない。形成した pmf は時間が経過するにつれ減少していくので 10, 15℃のATP 合成活性は 20-30℃の時より印加されている pmfが小さいはずであ る。これが見かけ上のATP合成活性の低下につながり、アレニウスプロットを たわませたと考えられる。luciferin/luciferase の発光強度の検量用に加えた ATP に対する応答が~0.1 sと速い事からluciferin/luciferaseによるものではないと考え られる。このような遅延の理由は分からない。
図3-6 温度依存性
(A)各温度におけるATP合成反応の時間経過。(B)左、ATP合成活性の 温度依存性; 右、Arrhenius plot
3-3-4) 基質ADP、PiのMichaelis–Menten定数
ATP合成活性に対して飽和濃度である[Pi] = 10 mM存在下で[ADP]を1 Mか ら1 mMまで変化させた(図3-7)。得られたADP依存性をMichaelis-Mentenの式 でフィッティングしたところ、Vmax = 17 s-1、KmADP = 13 Mであった(図3-7 B)。 次にATP合成活性に対して飽和濃度である[ADP] = 0.5 mM存在下で[Pi]を0.1 mMから30 mMまで変化させた(図3-8)。得られたPi依存性をMichaelis-Menten の式でフィッティングしたところ、Vmax = 16 s-1、KmPi = 0.55 mMであった(図3-8 B)。
図3-7 ADP濃度依存性
(A)各[ADP]におけるATP合成反応の時間経過。(B)ATP合成活性の ADP濃度依存性。Inset, Lineweaver-Burk plot。
図3-8 Pi濃度依存性
(A)各[Pi]におけるATP合成反応の時間経過。(B)ATP合成活性のPi 濃度依存性。Inset, Lineweaver-Burk plot。
3-4) 考察
本実験では、過去に報告されていているTFoF1のATP合成活性より高い~15 s-1 を得る事に成功した(Bald et al, 1998; Pitard et al, 1996; Richard et al, 1995;
Sone et al, 1977; Yoshida et al, 1975)。これらの先行研究の実験温度である40℃ では、ATP 合成活性は~50 s-1まで上昇すると予想出来る。これを考慮すると、
先行研究の数十倍から百倍近くまでATP合成活性を上昇させた事になる。この ATP合成活性の大幅な上昇につながった要因は阻害部位であるサブユニットC 末端を削除した変異体TFoF1cの使用が挙げられる。そして、次に適切な界面活 性剤(OG)選びとその使用濃度、そして適切なTFoF1と脂質の比率が挙げられる。
実験結果で示したようにBiobeadsのlotによって、再構成されたプロテオリポソ ームの状態が全く異なるため厳しく選定する必要性がある。しかし、適切な
Biobeadsを使用した場合、簡単かつ極めて再現性の良い再構成方法である。
E.coli由来FoF1を用いた報告ではFoF1WTのVmax ~20 s-1、ADPに対するKm = 100
M、Piに対するKm = 4 mMであり、FoF1ではVmax ~60 s-1、ADPに対するKm = 25 M、Piに対するKm = 3 mMと報告されている(Iino et al, 2009)。本実験に用 いた好熱菌由来では、TFoF1WTでVmax <1 s-1、TFoF1cではVmax ~15 s-1、ADPに 対するKm = 13 M、Piに対するKm = 0.55 mMと求まった。本実験ではTFoF1c
に比べTFoF1WTのATP合成活性は著しく低かったため、TFoF1WTの基質依存性の 測定が困難であったが、先行研究の野生型ではADPに対するKm = 0.3-0.4 mM、 Piに対するKm = 6-10 mMと本実験で測定したcのKmよりも十倍以上も高い 値である(Bald et al, 1998; Richard et al, 1995)。このようにE.coli由来と本実験 の好熱菌由来という二種類のバクテリアにおいて、サブユニットのC末端の削 除はATP合成活性の向上、そして ADP、Piに対する Kmの減少が確認出来た。
Kmが大幅に減少している事から、サブユニットによる阻害状態から活性化して いく過程にADP、Piが影響を及ぼしている可能性が示唆される。
以下に様々な生物種のFoF1で報告されているVmax, Kmをまとめる。E.coli由来 FoF1ではVmax ~30 s-1、ADPに対するKm = 27 M、Piに対するKm = 0.7 mM
(Fischer et al, 1994)。Yeast由来FoF1ではVmax ~120 s-1、pH8以下におけるPi に対するKm = 1 mM以下(Förster et al, 2010)。Chloroplast由来のFoF1ではVmax
~400 s-1、Piに対するKmは再構成法によって異なり、0.35 mMまたは0.97 mM (Grotjohann & Gräber, 2002)。牛のsubmitochondrial particleによる実験ではVmax
~420 s-1、ADPに対するKm = 50-100 M、Piに対するKm = 1 mM (Matsuno-Yagi
& Hatefi, 1986)。このように他生物由来FoF1によるATP合成活性は高い値が報 告されている。温度依存性から生理的条件下におけるTFoF1のVmaxは少なくと
も 100 s-1以上と他生物由来のものに匹敵する ATP 合成活性を持つ事が予想出
来る。