パネルディスカッション
冠動脈疾患の治療
病理学的立場より
〔東女医大誌 第58巻 第2号頁 224∼245 昭和63年2月〕 東京女子医科大学 ホリ エ堀 江
循環器内科学教室 トシ ノブ俊 伸
(受付 昭和62年10月29日)Pathological Findings in Cases with Angina Pectoris
and Myocardial Infaretion
Toshinobu IIO】RIE
Department of Cardiology, Tokyo Women’s Medical College
In order to elucidate histopathological findings of coronary arteries in cases with angina
pectoris and myocardial infarction,132 autopsied cases of acute myocardial infarction and
thirty−six autopsied cases, in which coronary angiography was performed, were investigated. High incidence(88%)of thrombus formation corresponding to the site of the infarction was observed.
Mechanism of luminal dilatation, complication, and restenosis after PTCA were discussed,
Histopathological changes of saphenous veins and internal mammary arteries before and
after A−C bypass surgery were also investigated.
はじめに 冠動脈疾患すなわち狭心症や心筋梗塞の発症は 近年,本邦においても増加の傾向にあり,これら の疾患に対する内科的,外科的治療においてもめ ざましい進歩がみられている.狭心症や心筋梗塞 を理解するためにはその病態を十分把握しておく 必要があり,とくに病理学的立場から検討した. 1.冠動脈の心筋支配領域 心臓を栄養する冠動脈は左右各1本であり,大 動脈基部より約1cmの部位で大動脈から分岐す る(写真1A). 左冠動脈は起始部から1.5∼2cmの部位で前下 行枝と回旋枝に分岐し,前者は主として左室前壁 と心室中隔の前2/3を,後者は側壁を栄養してい る.右冠動脈は右室の下壁と心室中隔の後1/3およ び右室を栄養している1)(写真1B). 以上のように心筋は冠動脈から潅流をうけてい るが,冠動脈が支配する心筋の領域は個体差がみ られる. 2.加齢に伴う冠動脈病変 加齢に伴って冠動脈がどのように変化するかを 知るために心血管病以外の疾患により死亡した0 歳から96歳までの剖検例について10歳ごとに男女 各5論ずつ計100例について検討した1)2). 冠動脈は筋型動脈であり,内膜,中膜,外膜の 三層からなっている.これらの各層は生下時に完 全に発育しているのではなく,加齢とともに進行 的に成長,発育する.新生児では中膜は内膜より 厚いが,加齢とともに動脈硬化が進行すると,こ の関係は逆になる. 写真2Aは20歳代の左冠動脈起始部の組織像を 示している.内膜の肥厚は軽度にみられる.40歳 代では内膜肥厚はやや著明になっており(写真2 B),60歳代(写真2C),80歳代(写真2D)では脂
RC醸.
曜
醒
LCX
写真1 冠動脈の心筋支配領域 左冠動脈は前下行枝(LAD)と回旋枝(LCX)に分岐 し,前者は主として左室前壁と心室中隔の前2/3を,後 者は側壁を栄養している.右冠動脈(RCA)は左室の 下壁と心室中隔の後1/3および右室を栄養している. 質の沈着により内膜肥厚はさらに著明になってい る,一方中膜は内膜が肥厚するにしたがって菲薄 となり,中膜平滑筋細胞の消失と弾性線維の断裂 像がみられた.健常例の冠動脈内膜肥厚について は個体差がかなりみられるが,一般に加齢ととも に進展しており,後に述べる心筋梗塞例に比較し て冠動脈内灘狭窄は軽度であった, 3.心筋梗塞の発生機序 当院CCUに入院し,胸痛発作,心電図所見およ び血清酵素値の異常などから,臨床的に急性心筋 梗塞と診断された症例のうち,剖検により梗塞を 確認し得た132例の保存心を対象として検索を行 なった1}∼8). 剖検心について1cmおきに心臓水平断面を作 目冠状動脈1◎4◎
2◎5◎
3016@
4◎17◎ 5◎18◎ 6◎19◎ 7◎20◎ 8◎21◎ 9◎22◎ 10◎23◎ 口@24◎ 12◎25◎ 13⑥26◎ 冠状動脈病変の模式図 10 15 25 懸 (つ15 20 レ イlBl
IO 5 } 1015
回旋枝 5 6 20 3mm毎に横断し,肉眼的に観察, 系統的に切り出し,組織標本を作成する.暮6認麟総総1§
●アテローム●血栓 図1 冠動脈病変の検索方法 スケッチしたのち, 前下行枝 1②4の2②150
3②6◎
4◎7◎
5◎18◎ 6◎19◎7②200
8@2◎
9⑭220
10⑰230 成し(写真.3),梗塞部位を肉眼的に観察,スケッ チしたのち,10倍フォルマリン液固定後パラフィ ン包埋し,大型組織標本を作成し光顕にて観察し た, 冠状動脈については3mm毎に横断し,肉眼的 に観察したのち(図1)4μの薄切標本を作成し, 高度の狭窄を示した部位,血栓の認められた部位 については100μ毎に連続的に作成し,光顕により 観察した.検索例を呈示する. 症例:68歳男.急性心筋梗塞(前壁中隔)発 症16時間後に心原性ショックにより死亡.写真4Aは前下行枝の冠動脈病変を示してい
る.内膜への粥腫の沈着が高度であり,冠動脈内 腔狭窄が著明である.しかしこの段階では血栓は 認められなかった.このパラフィン包埋ブロック を100μ毎に連続的に切片を作成し観察した.写真 4Aよりわずか200μ末梢部の拡大像を示してい る.内膜膠原線維の疎な部分が内腔面に露出して みられ,赤血球や白血球の集まりがみられる.さ らに200μ末梢では赤血球の集まりはさらに著明 となり,その一部は内膜膠原線維の疎な部分を 通って内膜下や粥腫内へ侵入している像がみられ る.この部位では内皮細胞は認められない(写真 4C).写真4Dでは内膜膠原線維の破綻部,血管壁 の障害部位に一致して血栓の形成を認める.血栓 の構造は一様ではなく,血球成分のない部分と藤鳥ζノ.覧.㌶、’‘ 〆諸 悔 写真2 加齢に伴う冠動脈病変 A.(22歳,男):内膜の肥厚は軽度にみられる.B.(40歳,男):内膜の肥厚はやや著 明にみられる.C.(63歳,男), D.(85歳,男):・内膜の肥厚はさらに著明であり,粥 腫(Ath)の沈着がみられる.一方中膜は内膜が肥厚するにしたがって菲薄化している. 写真3 剖検心の検索方法 剖検心について1cmごとに水平断面を作成し,梗塞部位を観察, スケッチする.
瀞惣餐蹴・・擁. 野 写真4 連続切片からみた冠動脈血栓 内膜への懇懇(Ath)の沈着が高度で,冠動脈内灘(Lu)の狭窄が目立つ(A).しか しこの組織切片のみでは血栓は発見できなかった.連続切片により観察すると,冠動 脈内顧面に露出した内膜膠原線維の破綻部(Bの矢印),すなわち血管壁の障害部位に 一致して血栓(Th)が層状に形成されている像がみられる(C, D, E, F). フィブリン網と血球成分からなる部分とが層状構 造を示している.さらに末梢では血栓の層状構造 は明瞭にみられ(写真4E),血栓は段階的に形成さ れたものと考えられる.写真4Fではほとんど内 腔を閉塞している像がみられている. この例で示したように,冠動脈病変は冠動脈入 口部の近位部から遠位部にかけて検索した組織像 を示したものであるが,写真4AからFまでの一 連の変化は閉塞性血栓が形成される時間的経過を 示している像とも考えることができる(図2). この例のようにわずか2∼3mmのパラフィン 包埋ブロックの中にこのような大きな変化が隠れ ていることがわかった.そのため全例について100 μ毎に組織切片を作成する段階的連続切片により 観察した.その結果,肉眼的に詳細に観察し,組 織切片を数枚作成したのみでは血栓が見あたら ず,連続切片によりはじめて血栓の存在した症例 は16例にも達した. 以上のように心筋梗塞剖検132例について冠動 脈病変を連続切片により検討すると,冠動脈血栓 は116例(88%)に認められた.冠動脈血栓と心筋 梗塞発症後の生存期間についてみると,梗塞発症
後1日以内に死亡した22例中21例(95.5%)に新 鮮な冠動脈血栓が認められ,2週間以内の急性期 に死亡した87例中79例(90.8%)に新鮮な血栓が Lu Ath デh 図2 冠動脈組織標本の模式図 図中に示したA∼Fは写真4のA∼Fに対応する. 存在した(図3).また梗塞発症5,6時間後の早 期に死亡した症例にも新鮮な閉塞性血栓が認めら れた.一方器質化血栓は梗塞後3週間を過ぎた症 例からみられ,梗塞後の経過が長い例ほど多く認 められた, 以上の結果から,連続切片により冠動脈を詳細 に検索することは非常に重要であり,この方法に よると心筋梗塞急性期死亡例には高頻度に冠動脈 血栓が認められた. これらの冠動脈血栓形成部位について連続切片 により組織像を観察すると,新鮮な冠動脈血栓が 認められた89例のうち81例(91%)に内膜膠原線 維の破綻部,粥腫の崩壊などの血管壁の障害がみ られ,その部位に一致して血栓の形成が認められ た(写真5A).これらの冠動脈血栓形成部位では OLra廿㎝o「Sorui廿d Cases % 、1白7 1向ヅ、3向ys 」3面ys 、 1 we畝 1wed{、2weo㎏ 2w螂s、1㎜配h ■10醐・竃Tけ・mb蝿更更0・巳・而・・団1財・m鵬 髭勿編lh・幡 [コN・了財㎝幡 羅3 冠動脈血栓と梗塞後の生存期間との関係 写真5 冠動脈血栓の組織像 A:内膜膠原線維の破綻部(矢印)に一致して血栓(Th)の形成を認める.血栓を詳 細に観察すると,野面内容物を含んでいる.B:血栓を拡大してみると,本来冠動脈壁 の粥三内に存在するはずの泡沫細胞をとりかこんでフィブリンの形成がみられる.
1 内膜肥厚 冠状動脈内腔狭窄 内膜膠原線維の破綻 内腔へ粥腫内容物放出 粥腫内へ血液の侵入
⇒
⇒
2
脂質の沈着 泡沫細胞の出現 内腔狭窄度増強 血栓形成⇒
図4 冠動脈血栓の発生機序3
》14〃.
内皮機能障害 粥腫内への血液成分侵入 粥腫内圧上昇 1;1乾果覆 《 コレステリン結晶 陰 フイブリン O♂ 泡沫細胞 v 内皮細胞 繍 内膜膠原線維 倫. 石灰化 本来の冠動脈雨下がどの程度狭窄を示すかを検討 した.本来の内腔が75%以上の狭窄を示す部位に 血栓が認められたもの56例(69.1%)であり,内 腔狭窄が50%以下の症例で血栓が認められたのは 7例(8.7%)のみであった.以上のことから血栓 の形成は本来の内腔狭窄がより高度の例に多くみ られた. 冠動脈血栓を光顕的に詳細に観察すると,フィ プリン網の中に赤血球や白血球がみられ,内膜膠 原線維の破綻部位では本来冠動脈壁に存在するは ずの粥腫内容すなわちコレステリン結晶や泡沫細 胞などが血栓の中に認められた(写真5B).この ことは血栓形成に先だって血管壁の破綻が起こ り,粥腫塊が内腔へ放出されたことを示している. 以上の所見およびこれまでの検索結果から冠動 脈血栓の発生機序を模式図で示した(図4), 加齢とともに徐々に冠動脈内膜の肥厚が起こ り,血中脂質やその他の因子が関与して,内膜へ 脂質の沈着が徐々にみられる.この内膜への脂質 の沈着により冠動脈内腔狭窄度を増し,そしてコ レステリン結晶や泡沫細胞などが出現してくる. 内膜への粥腫沈着が強くなればなるほど,冠動脈 内腔は狭くなり,内膜膠原線維は配列不整となり 断裂像を示す.何らかの誘因で内皮機能性barrier の障害が起こると,血中の赤血球などの血液成分 が粥腫内に入りこみ,だんだんと粥腫内圧を高め ることになる.すでに内膜へ沈着している粥腫と その中に存在するコレステリン結晶,さらに粥腫 内に多くみられる泡沫細胞なども粥腫内圧上昇に 関与すると考えられる,脆弱化した内膜膠原線維 に粥腫内圧上昇と冠動脈内腔からの血圧や血流の 変化による機械的な刺激が加わると,ついに内膜 膠原線維の破綻が起こると考えられる.いったん 内皮列ならびに内膜膠原線維の破綻のような血管 壁の損傷が起こると,露出した内膜膠原線維を中 心に血中の血小板が粘着,凝集し,多くの凝固因 子の関与によってフィプリソが形成される9)10).そ の後血栓は徐々に増大し,閉塞性血栓を形成する. 以上のように心筋梗塞を引き起こすためには急 激な血流変化を起こす引き金が必要と思われ,そ のきっかけとなるものが内膜膠原線維の破綻なら びに粥腫の崩壊などの血管壁の障害であり,粥腫 の崩壊は血栓形成に先行し,血栓の発生および心 筋梗塞の進展に重大な役割を果していると考えら れる, 4.冠動脈造影と組織像の対比嚢ジ レ 蹟
iC
写真6 冠動脈造影上狭窄像を示す部位の組織像 A:甲西(Ath)の沈着により冠動脈内腔狭窄を示すもの. B:線維性内膜肥厚による 内腔狭窄.C:血栓(Th)形成による内腔狭窄. D:血栓が器質化され,再交通の像が みられるもの. 臨床上,冠動脈狭窄の部位およびその形態は冠 動脈造影によって診断される.冠動脈造影上の狭 窄部位がどのような組織像を示しているかを知る ことは重要である.そこ’で当院CCUに入院し,冠 動脈造影を施行した症例のうち,死後剖検しえた 36例について検討した1》ll)り13》. 冠動脈造影上から狭窄のタイプをR6schらと 同様に3つに分類した(図5).すなわち狭窄の長さが5㎜以下のものをsho丘,5−20mmのもの
をtubular,20mm以上のものをdiffuseとし, tubularタイプの中で冠動脈壁の状態によって regular, irregular, with ulcerating plaqueの3つに分類した14). 冠動脈造影上狭窄像を示す部位の組織像は4型 に分類することができた(写真6). A)粥腫の沈着により磯際狭窄を示すもの B)線維性内膜肥厚による内腔狭窄 C)血栓形成による内鰐狭窄 D)血栓が器質化され,再交通の像がみられる concentric
一
一
ro8ular一
一
short tubular irro8ular一
一
dlffu80 occontric一
w陀hulcor8ting plaquo一
一
_
へ 一
図5 冠動脈狭窄部位の形態学的分類 もの このうちA,Bは心筋梗塞前の組織像であり, C,Dは梗塞後の組織像である. 冠動脈造影上狭窄を示す部位の組織像のうち, 写真6Aは膿腫の沈着により冠動脈内腔狭窄を示 しているが,このような組織像をもつ冠動脈では 将来内膜の破綻,粥腫の崩壊をおこし,その部位 に血栓が形成され,心筋梗塞を起こす可能性があ声’ 寧 奪 曝 写真7 不安定狭心症から心筋梗塞に移行した例 A:冠動脈造影ではSeg.1に99%の狭窄が認められ,壁が不整であり,粥腫の沈着が 予測された.B:冠動脈組織像では造影上の狭窄部は高度の粥腫(A出)沈着がみられ る.C:内膜の破綻部(矢印)に一致して血栓(Th)の形成が認められる. るため,とくに他の組織像と鑑別する必要がある. 冠動脈造影上ではwith ulcerating plaqueを示す
ことが多い.
一方写真6Bのような内膜膠原線維の肥厚に
よって内腔狭窄を示す組織像では内皮列や内膜膠 原線維の破綻がみられることは少なく,したがっ て血栓形成を起こすことはほとんどない.臨床上 労作性狭心症であっても必ずしも心筋梗塞に進展 しない症例を経験するが,このような組織像であ ると考えられる.冠動脈造影上では狭窄像は認め られるが壁の不整は認められない例が多い. 症例:不安定狭心症の診断により入院し,冠動 脈造影7日後に心筋梗塞を起こした例である.冠 動脈造影ではSeg.1に99%の狭窄が認められ,冠 動脈壁が不整であり,造影上からも粥腫の沈着が 予測された(写真7).造影上高度の狭窄を示して いるが,この時点では心筋梗塞にはなっておらず, 心筋梗塞発症後死亡した後の冠動脈組織像では粥 腫の沈着が高度であり,最大狭窄部のやや末梢部 において内膜の破綻が認められ,その部位に一致 して閉塞性血栓が認められた(写真7C). 不安定狭心症は心筋梗塞の前段階と考えられて いる.不安定狭心症の冠動脈病変を明確にするた め,狭心症の時期に冠動脈造影を施行し,死後剖 検し得た17例について造影所見と組織像を対比し た15⊃.17例全例に75%以上の高度の狭窄を冠動脈 造影上認めたが,完全閉塞例はなかった.冠動脈 狭窄部の形態をみると,Ambroseら15⊃16}と同様に 冠動脈壁の不整な症例は12例(70.6%)に認めら れた.また不安定狭心症から心筋梗塞へ移行した ものは8例であり,8例全例に血栓による完全閉 塞が認められ,血栓は内膜膠原線維の破綻,粥腫 の崩壊などの冠動脈壁の障害部位に一致して形成 されていた. 5.冠動脈血栓融解療法 すでに述べたように心筋梗塞剖検例では高率に‘∵タ【噛・ 写真8 心筋梗塞発症急性期に血栓融解療法を施行した例 A:急性下壁梗塞発症3時間後では右冠動脈は完全閉塞を示している.B:PTCR施 行後,一時再疎通が認められたが広範な冠動脈壁の不整,残存狭窄がみられる.C:血 管壁の障害部位に一致して血栓(Th)の形成が認められる. 冠動脈血栓が認められる. 一方冠動脈造影上からも心筋梗塞急性期に冠動 脈血栓が関与しているとの報告が多い. De Woodら17}は心筋梗塞発症後24時間以内に 入院した322例について冠動脈造影を施行してい る.このうち梗塞発症4時間以内に冠動脈造影を 施行した126例中110例(87%)において冠動脈の 完全閉塞を認めている.冠動脈造影上冠動脈血栓 を認めた59例中52例(88%)にFogartyカテーテ ルにて血栓を除去している. 心筋梗塞発症急性期に冠動脈造影は多くの施設 で施行されており,完全閉塞の原因は冠動脈血栓 であると考えられている.したがって梗塞発症急 性期には冠動脈血栓融解療法(PTCR)が広く行わ れている田}19〕. 症例:急性下壁梗塞発症3時間後に入院し,直 ちに冠動脈造影を施行した.冠動脈造影上右冠動 脈に完全閉塞を認めた(写真8A).ウロキナーゼ 24万単位を直接冠動脈に注入する血栓融解療法施 行後一時再開通が得られた.冠動脈造影上では広 範な冠動脈壁の不整と残存狭窄を認めた(写真8 B).その後再閉塞したため,緊急A・Cバイパスを 施行したが死亡.剖検により,右冠動脈組織像を 検討すると,本来の冠動脈内灘は内膜内への粥腫 の沈着により,高度の狭窄を示し,内膜膠原線維 の破綻部,職歴の崩壊部に一致して閉塞性血栓が 認められた(写真8C). 以上の結果から冠動脈造影上の壁の不整,残存 狭窄は,粥腫の沈着による内腔狭窄であり,完全 閉塞は明らかに血栓による閉塞であることがわ
かった. Kennedyら20>は1,029仮甘の急性心筋梗塞例に血 栓融解療法を施行し,71.2%に再開通が得られた としており,再開通の得られた例の死亡率は5,5% であり,再開通の得られなかった例の14.7%に比 較し有意に低かったと報告している.
van der Laarseら21)は血清酵素の遊出量とそ
の割合によって心筋サイズを測定し,PTCRの効
果を検討している.心筋梗塞533例について
PTCR治療群269例とコントロール治療群264例
を比較すると,梗塞サイズは治療群でより小さく, 梗塞発症2時間以内に治療された例ではそれ以上 の例に比較して梗塞サイズは有意に低かったと述 べ,心筋梗塞急性期のPTCRはより早い時期に施 行することが有効であることを示している. Sheehanら22)は急性心筋梗塞後PTCRにより 再開通の得られた47例を検討し,残存狭窄が直径 41nmより軽い群では重い群に比較して心機能は 非常に良い改善を示したと報告している.また残 存狭窄が高度であると再梗塞が起こりやすいこと も知られている. 6.PTCA施行前にみられる冠動脈病変Percutaneous transluminal coronary angio− plasty(PTCA)はGrUntzigら23)24)学こより開発さ れ,狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の治療 法として,本邦においても広く行われている25). PTCAの適応としては当初,①狭心症の病歴が なるべく短く,発病1年以内の症例で,内科的治 療に抵抗性であること,②解剖学的には1枝障害 で,冠動脈狭窄は近位部にあり,限局性,求心性 で石灰化がないこと,③・ミイパス手術の適応例と されていた1)2).しかし,カテーテルシステムの改 良,技術の向上,合併症の減少などにより,これ まで比較的禁忌と考えられていた冠李縮の関与す る狭心症26),分岐部狭窄27),石灰化例28)にも広く PTCAが施行されており,さらにはバイパスグラ フト閉塞29>,完全閉塞血管30),同一血管に複数の狭 窄部をもつ1枝病変や狭窄が複数の血管にある多 枝病変3),不安定狭心症32),急性心筋梗塞における 血栓融解療法後のPTCA33),そしてまた心筋梗塞 急性期に最初から直接PTCAを施行する34)など 適応基準が拡大されつつある.
そこでPTCA適応例の冠動脈病変ならびに
PTCA局所におこる病理学的変化について検討 した19)35)∼37).1)冠動脈造影所見および組織像からみた
PTCAの適応
図5に示した冠動脈造影上の狭窄部位がどのよ うな組織像を示しているかを知ることはPTCA 施行上非常に重要である. (1)求心性狭窄 冠動脈造影上多方向からの造影により,内腔狭 窄が中心部に存在する例では,組織像からも細越 はほぼ中心にみられた.これらの症例ぱ形態学的 にPTCAの非常に良い適応例であり,合併症も起 こりにくい例であると考えられた. (2)偏心性狭窄 冠動脈造影上,偏心性狭窄(写真9Aの矢印D) を示した例の冠動脈組織像では,内膜,中膜が非 常に菲薄であり(写真9D), PTCAにより冠動脈 壁の破壊,冠動脈解離や穿孔などが起こりやすい と考えられ,PTCA施行の際には注意が必要であ る. (3)壁不整型狭窄 冠動脈造影上,狭窄部がやや長く,壁不整を示 す例(写真9Aの矢印B)では組織上では2つのタ イプがみられた. 1つは写真8Bに示すように於鍋性心筋梗塞の 責任冠動脈であり,冠動脈組織像では血栓の器質 化により航跡がみられる例である.これらの例で はガイドワイヤーの通過が困難な例も多いと考え られる. もう1つのタイプはかなり長い範囲にわたって 粥腫の沈着による内腔狭窄がみられる例である. 合併症が比較的多く起こりやすいと考えられる例 であり,PTCA適応外となる例が多い。 (4)粥曲形成型狭窄 冠動脈造影上から冠動脈壁が不整であり,明ら かに粥腫が存在すると予想された例(写真7A)で は冠動脈組織像からも弼腫の沈着が高度であった (写真7B).このような造影所見を示す例では冠動 脈狭窄の進展が起こりやすく,また組織学的にも襲
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写真9 冠動脈造影と組織像の対比 A:Dの部位に偏心性狭窄,Bの部位に壁の不整な狭窄を認める. B:再疎通がみられ, すでに線維化が完成している.D:偏心性狭窄を示し,内膜,中膜が非常に薄くなって いる. 写真10 冠動脈壁の石灰化 A:石灰化は冠動脈のほぼ全周をとりかこんでいる.B:石灰化は冠動脈量の一部に 限局している. 血管壁の障害,粥腫の破綻を起こし,その部位に 一致して血栓が形成されやすく心筋梗塞になりや すい25)37}.PTCAによる内腔拡大の成功が望まれ る例である. (5)石灰化 冠動脈壁の石灰化の有無については冠動脈造影 においてかなり精度が高く,判読可能である. 当初,石灰化のある冠動脈に対してPTCAは禁 忌とされていたが,PTCAは可能であるとする報 告がみられている28).ただし石灰化の有する例で は石灰化のない例に比較して成功率は低い. 石灰化を有する冠動脈の組織像をみると,石灰化は冠動脈壁に限局していることが多く(写真10 B),全周性に石灰化がみられることは非常にまれ であり(写真10A),症例によりPTCAは十分可 能である. 2)冠動脈内腔拡大の機序 PTCAにより冠動脈内腔がどのようにして拡
A
Before PTCA
騨」After PTCA
輸
』醗∠
B 写真11PTCA施行前後の冠動脈造影 A:PTCA施行前,前下行枝は約80%の狭窄を示している. B:PTCA施行後,狭窄 部は50%に拡大している. 写真12 PTCA成功7ヵ月後の冠動脈組織像 A,C:冠動脈内膜(lnt)弾性線維の破綻(矢印)が認められる.内膜と中膜(Med) を幽する内弾性板は消失しており,中膜の弾牲線維の断裂が認められる.B, D:内膜 および中膜の障害部位に一致して内膜の修復像として平滑筋細胞の増生がみられる.大するかを冠動脈造影所見と組織像から検討し た35)馴.症例を呈示する,
症例:労作性狭心症がありPTCA目的にて入
院.冠動脈造影上では前下行枝に約80%の狭窄を 認めた(写真11).PTCAにより狭窄部は50%に開 大したが,うつ病もあり7ヵ月後に自殺した例で ある. PTCA施行部の組織像では写真12A, Cに示す ように内膜弾性線維の断裂がみられ,また中膜の 障害すなわち平滑筋細胞の障害や弾性線維の断裂 なども同時にみられた. 以上の結果とその他の症例の組織像による検討 から,冠動脈内命の拡大機序は単一ではなく,血 管壁の最も弱い部分に亀裂を起こす,すなわち内 膜膠原線維や弾性線維の断裂が起こり,これによ り本来の内位と粥腫塊とが交通するとさらに内応 は拡大する(写真13).中膜の障害によっても内証 は拡大する.また外膜の外方への伸展なども起こ る例があり(写真14),これらの変化の総和として 冠動脈内膳の拡大が起こる. これまでの報告をみると,GrUntzigら23)24)は内 鼠の拡大の機序は主として粥腫の圧縮であると考 えている. Leeら38)はバルーンによって拡大された冠動脈 の組織像を検討し,内皮列の破綻,内膜膠原線維 や弾性線維の障害,中膜平滑筋細胞や結合織の障 害,外膜の伸展,粥腫の圧縮などがみられたと報 告している.内腔の拡大した血管にはこれらの所 見が不規則に分散しており,とくにその主体は粥 腫の圧縮と内皮の破綻であり,内膜の高度の亀裂 は認められなかったとしている. Baug㎞anら39)は剖検心におし・て冠動脈修復 術を施行し,内膜または中膜の亀裂あるいはその 両者の亀裂により冠動脈壁の局所の損傷が起こ り,この血管壁の亀裂は動脈硬化や石灰化のある ’例により高頻度にみられると述べている. Blockら40)は動脈硬化動物モデルと剖検心にお いて血管修復術を行っている.その結果では,内 膜は最も弱い部分で破綻を起こし,それが内弾性 板にまで広がることがあり,四温の破綻があると さらに動脈は拡大すると述べている.また動脈が8
Lu
悦=冥.、Ath引
き 喚 写真13 冠動脈内腔拡大の機序 内膜の断裂(図Bの矢印)が認められ,内腔(Lu)と 粥腫(Ath)の部分が交通し内腔拡大がみられる.しか しその後に血栓の形成がみられ,内腔を閉塞している.・隷
麟・嚢融
:離離
嬢
写真14冠動脈内腔の拡大機序 中膜の伸展により中膜が非対称的に菲薄になってお り,外膜も外方に伸展している.写真15PTCAの合併症 A:PTCA施行前,回施枝(Seg.13)に90%の狭窄を認める. B:PTCA施行後,冠 動脈閉塞(矢印)がみられている.C:PTCA施行中. D:左冠動脈起始部より,内腔 の閉塞,冠動脈解離(矢印)が起こっている. 拡大するには中膜の障害も重要であるという.
3)PTCAの合併症
PTCAによる合併症には冠動脈穿孔,解離,閉 塞,李縮,梗塞,重症不整脈などがあげられる41》. これらの合併症はガイドワイヤー,ガイドカ テーテルによって,あるいはバルーンの過伸展に よって起こる,症例を呈示する. 症例:狭心症の時期には冠動脈造影上回旋枝 (Seg.13)に90%の狭窄を認めた(写真15). PTCA 施行後冠動脈の閉塞がみられ,さらにその後,左 冠動脈起始部より内腔の閉塞,冠動脈解離が認め られた.この例の冠動脈組織像を検討すると,冠 動脈内膜,中膜に亀裂を認め(写真16A, B),中 膜と外膜の間に血腫を形成し,これが内灘を閉塞 している像がみられた(写真16C, D). PTCAにみられる冠動脈解離は冠動脈造影上, 偏心性狭窄を示す例に多くみられ,求心性狭窄の 例に少ない26)42}. またその他の合併症として,PTCAによる不十 分な陪臣拡大のため,冠動脈内膜の破綻部に一致 して血栓が形成され内腔と閉塞することもしぼし ぼ起こる(写真13).PTCA後の再狭窄
PTCAが成功しても,その約1/3に再狭窄が起 こる43).PTCA施行例ではすでに述べたように内皮細
胞の剥離や内膜の断裂がみられていることから, 血管壁の障害が起こることは明らかであり,剖検 例においても内膜の破綻部に一致して血栓の形成 が認められた.これらの血栓形成はPTCA施行後 比較的早い時期に起こり,早期の再閉塞の原因と なる37)(写真17).Essedら44)はPTCA 5ヵ月後の 剖検例において再狭窄を認めており,細胞線維性 の増殖が主体であり,これは血管壁の障害によっ て平滑筋細胞が血中にさらされると過度の線維細 胞組織の増殖反応を起こすためであるという. 先に述べた症例においても,内膜内の平滑筋細 胞の増生を認めている(写真12B, D).これらの、・瓢陥贈年 一』.祥ゲ身重幅,,・
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写真16 PTCAの合併症 ガイドワイヤー,カテーテルによると考えられる冠動脈壁の亀裂(A,Bの矢印)がみ られ,中膜と外膜の間に血腫(H)を形成し,これが内腔(Lu)を圧迫狭窄している. 所見はPTCA後比較的時間が経過した時点すな わち約3ヵ月後以降に再狭窄を起こす原因になる と考えられた, 7.A・Cバイパス手術 これまで冠動脈バイ’パスグラフトとしては大伏 在静脈が広く使用されてきた.その理由は大伏在 静脈は容易にとり出すことができ,すぐに使用す ることができる.技術的にも縫合が簡単であり, 冠動脈狭窄部位や心臓の解剖に合わせて自由に使 用することができるためである.また大動脈に石 灰化があれば総頚動脈や鎖骨下動脈からバイパス することもできる.しかし大伏在静脈は長期の開 存率が必ずしも良くないことから現在では内胸動 脈が広く使用されるようになった45).これらのバ イパスグラフト手術前後の形態学的変化を知るた めに組織像を作成し検討した. 1)大伏在静脈 大伏在静脈は直径約5㎜くらいで冠動脈より 太い.通常静脈壁の肥厚は高度ではなく,ほとん どの例でバイパスグラフトとして使用可能であ る.しかし,まれに静脈壁の肥厚が高度の症例が あり(写真18),これが時間的経過とともにさらに 内腔狭窄を起こす可能性があるので使用前に十分 チェックする必要がある. 大伏在静脈グラフト手術後の変化についてみる と,1週間以内の比較的早期に死亡した症例では 内膜の障害部位に一致して壁在血栓が認められ た.したがって大伏在静脈をとり出す際には内膜 を傷つけないように注意することが必要である. また症例の中には血栓の形成により,グラフトが 完全に閉塞しているものがあった.この際,静脈 弁がintimal nap様になり(写真19A),そこに血 栓が形成されている例もあり,静脈弁の付着した グラフトはあまり適当ではなく,なるべくその部 をさける方が良いと考えられた.以上の結果から 手術後早期には血栓形成によるグラフトの狭窄, 閉塞が起こりやすく,手術後に抗凝血薬,抗血小 板薬などの投与が必要である46)4η. 一方,グラフト手術後比較的時間が経過してか ら内腔狭窄の認められる例がある.手術5ヵ月後1nt
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写真17PTCA後の再狭窄 A,B:PTCA施行後,内膜の破綻(Bの矢印)により, 一時的に内腔の拡大が認められる.C, D:内皮細胞の 剥離のみの部位では一層のフィブリン沈着が認められ るのみであるが,内膜膠原線維の断裂部位(Dの矢印) では血栓(Th)の形成がみられ,拡大した内覧を再び 狭窄している. 写真18 大伏在静脈 同一症例においても静脈壁の肥厚が軽い部位と高度な 部位がある. にすでに高度の狭窄を示している例があり,組織 学的にみると内膜の線維性肥厚が主たる病変で あった(写真19B).この内膜の肥厚は壁在血栓の 器質化または中膜から遊走した平滑筋細胞の増生 によると考えられ,また静脈を動脈系に移植した ための血流や血圧による変化によって起こったと 考えられる. 2)内治動脈 内胸動脈は内径約1.5∼2mmくらいで冠動脈 起始部に比較すると細い.そのため左冠動脈主幹 部狭窄や太い前下行枝に対するバイパスには不適 当であるが長期に開存しているという点から48》当 一三でも近年手術血肉が多くなり,220例に達して いる. 内高動脈は冠動脈に比較して動脈硬化の進展が 軽度であり鋤,組織学的な検討からも内膜の肥厚 はほとんど認められない.ただし内胸動脈を剥離 する際には周囲の組織が付着しているため,肉眼 的には動脈硬化が高度であるようにみえることが ある(写真20A).また横断面を観察しても肉眼的 には高度の狭窄を示しているように見えることも ある(写真20B).内法動脈をとり出し結紮する際 には内払狭窄を起こさないように十分注意する必 要がある. 血胸動脈を用いてA・Cバイパスを施行した後, まれに狭窄を起こす例がある.症例を呈示する. 症例:内胸動脈を用いてバイパス術を施行した が,術後42日目に狭心症発作が出現したため,冠 動脈造影を施行.吻合部に99%狭窄を認めた(写 真21C).50日後に再手術を施行.その際,内胸動 脈を切除した. 手術前に摘出した内胸動脈の組織像では内膜の 肥厚はほとんどみられなかったが(写真21B),術 後50日目に再手術時に摘出した組織標本では平滑 筋細胞の増生による中膜の肥厚と内膜の肥厚によ る狭窄像が認められた(写真21D). 本邦においてはバイパスグラフトにおける経年 変化の研究はほとんどない.バイパスグラフトの 狭窄ならびに閉塞についてはPTCAによる治療 も望まれることから今後なお検討の必要があると 考えられる.(、儀\ }.乱冨 ・A :.;盆’1鴨日 写真19 大伏在静脈の狭窄および閉塞像 A:血栓の形成により完全に閉塞し,静脈弁がintima1βap様にみえる. B:内膜の線 維性肥厚により内灘の狭窄がみられる. 写真20 内胸動脈 A:周囲の組織が付着していると,肉眼的には動脈硬 化が高度であるようにみえる.B:横断面でも高度の 狭窄を示しているようにみえる. 8.心筋梗塞合併症に対する手術 心筋梗塞の合併症のうち手術適応となる症例 ・ま,①心室自由壁の破裂,②心室中隔穿孔,③乳 頭筋断裂,④仮性心室瘤,⑤心室瘤などである. 1)心室自由壁の破裂 心臓破裂(写真22)はきわめて重篤な合併症で あり,一たび起こるとほとんど致命的であり,治 療は非常に困難である. 急性心筋梗塞のうちでもことに,①高齢者,② 狭心症や心筋梗塞の既往のない例,③梗塞後も高 血圧が続いている例,④既往に高血圧があるにも かかわらず心臓が小さい例,⑤入院後も胸痛が長 く持続したり新たに胸痛が出現してくる例,⑥心 電図上広範な梗塞を示し,入院後心電図上梗塞の 拡大傾向がみられる例,心膜摩擦音や新たに心雑 音を聴取する例などではとくに心筋梗塞発症1週 間以内に心臓破裂の危険性がある.そのため,こ とに入院後も続く胸痛や高血圧については十分な 治療が必要である. 心臓破裂の部位は左室前壁に多く,ことに心尖 部に多い. 心臓破裂が起こると心膜穿刺を行ない,補助循 環を行ないながら緊急手術が必要であるが,現在 のところ救命はなかなか困難である1闘. 2)心室中隔穿孔 心筋梗塞後の心室中隔穿孔(写真23)は,①貫 壁性,大型梗塞,初回梗塞に合併しやすく,②梗 塞発症2週間以内,ことに1週間以内に起こりや すい.③心電図上,完全右脚ブロックや左軸偏位 の出現した例に頻度が高く,④第4∼5肋間胸骨
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豊 . ◎ ay$a手ter母黙黙『a揺。“ 写真21 内胸動脈を用いてA・Cバイパス手術を施行した例 A:手術施行17日後では内胸動脈はよく開存している.B:手術前の内胸動脈では内 膜の肥厚はほとんどみられない.C:手術施行43日後では内胸動脈と冠動脈の吻合部 に99%の狭窄を認める.D:手術施行50日後では内膜と中膜の肥厚が認められる. 写真22 心臓破裂の剖検心 左室前壁に梗塞巣がみられ,心尖部よりに破裂部位が 認められる. 左縁に振動を触知し,前収縮期雑音を聴取する. ⑤3週間以降では手術成功率が多いことから,急 性期の重篤な心不全やショックを内科的に乗り切 る必要がある. 毒 恥準 舗護 磯甘 写真23 心室中隔穿孔 前壁中隔では心筋梗塞により心室壁が薄くなってお り,前壁との接合部付近で円形の心室中隔穿孔(矢印) を認める. 心筋梗塞後の心室中隔穿孔は心室自由壁の破裂 と異なり,合併症のうちでも外科的治療の有効な 例である.手術時期をいつにすべきかが鍵とな る1)51》. 3)乳頭筋断裂 急性心筋梗塞の合併症として乳頭筋断裂(写真 24)はかなりまれである.難日直蓋 ト
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器 写真24 乳頭筋断裂 前側乳頭筋に断裂が認められる.卿嘱ド
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:惣 写真25 仮性心室瘤 左室側壁に8×13cmの仮性心室瘤(PA)が認められ,左室とは1.2×1.7cmの小さな 破裂孔(Dの矢印)で連絡している. 本症の臨床所見の特徴は急激な肺水腫の出現と 心尖部に全収縮期雑音が出現することである.通 常,後中乳頭筋が断裂しゃすく,心電図上,下壁 梗塞に合併しやすい.乳頭筋の完全断裂では予後 不良であるが,一部断裂の例では時期をみて手術 により救命しうる.二叢・
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二よ燐峰酬二一←…
・1凶…野や一・’唖…一 1志誌一一 写真26 RIアンギォ RIアンギオでは左室(LV)と連絡をもつ左室以外の瘤 状突出(Pseudo AN)として仮性心室瘤がみられる. 4)仮性心室瘤 心筋梗塞後の仮性心室瘤(写真25)は非常にま れな合併症である.しかし近年,検査法の進歩に より心エコー図,ドップラーなどから本症を診断 した報告が多くみられている.仮性心室瘤は後に 述べる真性心室瘤と違ってかなり高頻度に二次破 裂を起こすことから,早期診断し手術する必要が ある. 本症は,①心電図上,下壁または側壁梗塞を示 し,②梗塞発症1週間以内に心臓破裂を思わせる 発作がみられる例,③胸部X線写真では著明な心 拡大を認める例,④心膜摩擦音が経過中に聴取さ れる例,⑤血性心膜液の貯留がある例,⑥心雑音ことにto and fro mumlurが聴取される例には
本症を疑い,心エコー図,RIアソギオ(写真26), さらには左室造影などにより確定診断をし,早期 に手術を行うことが必要である1}52}. 5)心室瘤 心筋梗塞後の心室瘤(写真27)は合併症のうち でもかなり頻度が高い. 心室瘤の診断は,①心電図において広範な前壁 梗塞があり,急性期をすぎてもST上昇が遷延す る.②心尖部に異常な心尖拍動(奇異性拍動また は2つの心拍動)を触れる.③梗塞後の経過中に 著明な心拡大を示したり,左室壁の異常膨隆がみ 写真27 心室瘤 左室心尖部に巨大な心室瘤がみられ,心室瘤内には壁 在血栓(Th)が形成されている. られる.以上のような所見がみられる時には心筋 梗塞後の心室瘤を疑う必要がある. 症状としては本症の経過中に,①心不全が最も 多くみられ,他に,②梗塞後の狭心症,③急性期 をすぎても心室性期外収縮のshort runや心室性 頻拍などの不整脈,④血栓塞栓症などが多く合併 してみられる. 左室造影により本症の診断は確実となり,①難 治性の心不全,②遷延する狭心症,③致死性不整 脈,④くり返す血栓塞栓症などの症状を呈する時 には心室瘤切除術の適応があるD53}54). 近年内科的治療の向上につれ,心室瘤切除術の みの手術は少なくなり,A・Cバイパスを併用する 例などが手術の対象となってきている. 文 献 1)堀江俊伸:心筋梗塞一臨床所見と病理所見の対 比.医学書院,東京(1981) 2)堀江俊伸:連続切片からみた冠状動脈血栓. Medicina 17:86−87,1980 3)堀江俊伸:冠状動脈連続切片からみた急性心筋梗 塞の成立機序一108剖検例の臨床病理学的検討.東 女医大誌 47:38−52,1977 4)堀江俊伸,関ロ守衛,広沢弘七郎:急性心筋梗塞 と冠状動脈血栓の関係.呼と循 25:681−689, 1977
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