Title
海馬歯状回におけるニューロン新生を指標としたかび毒の
脳発達リスク評価に関する研究( 本文(Fulltext) )
Author(s)
田中, 猛
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(獣医学) 甲第469号
Issue Date
2016-09-26
Type
博士論文
Version
ETD
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/55532
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。1
海馬歯状回における
ニューロン新生を指標とした
かび毒の脳発達リスク評価に関する研究
2016 年
岐阜大学大学院連合獣医学研究科
(東京農工大学)
田中 猛
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目次
序論 4 第1 章 T-2 トキシンのマウス発達期曝露によるニューロン新生に着目した発達神経毒 性の検討 緒言 7 材料および方法 9 結果 15 考察 18 小括 23 第2 章 アフラトキシン B1のラット発達期曝露によるニューロン新生に着目した発達 神経毒性の検討 緒言 25 材料および方法 27 結果 33 考察 37 小括 42 第3 章 オクラトキシン A のラット発達期曝露によるニューロン新生に着目した発達 神経毒性の検討 緒言 44 材料および方法 45 結果 50 考察 53 小括 583 総合考察 59 結論 63 謝辞 65 引用文献 66 要旨 82 Abstract 86 図表 90
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序論
かび毒は農作物を汚染し,食物や飼料を介して人や産業動物に健康被害を引き起こす ことが知られている。その毒性は急性毒性,慢性毒性,発がん性,発達毒性等多岐に渡 り,様々な器官が標的となる [123] 。かび毒の健康被害を防ぐためには,一日許容摂 取量や規格基準を策定することが最も効果的であり,その根拠となる曝露や生態影響の 評価が重要となる [114] 。本研究では,かび毒による生体への毒性のうち,未だ知見に 乏しい発達神経毒性について,胎児や乳幼児の脳発達リスク評価を目的として,げっ歯 類を用いた発達期曝露実験により,実験病理学的に発達神経毒性影響を検討した。評価 部位として記憶や学習の中枢である海馬において,生後もニューロンを産生し続ける海 馬歯状回に着目した [56,70] 。海馬歯状回の顆粒細胞層下帯では,幹細胞の自己複製 及び分化に始まり,前駆細胞の増殖,移動,分化成熟の過程を経て成熟ニューロンが新 生する過程を観察することができる [43,56,77] 。また,海馬歯状回の門部には,介 在ニューロン集団が存在し,顆粒細胞の機能調節や,移動及び分化を制御しており,ニ ューロン新生への影響に応じて分布変化を示すことが明らかとなっている [66,69] 。 所属研究室の研究では,様々な化学物質が海馬におけるニューロン新生を障害し,不可 逆的な影響を与える例も報告されている [1,101,102,118] 。本研究では,食物を汚 染することが知られているかび毒のうち,乳幼児に曝露される可能性が高いかび毒及び 神経毒性に関する報告がなされているかび毒を選択し,海馬ニューロン新生に与える影 響を検討した。 第1 章では, 様々な穀物を汚染することが報告されている T-2 トキシンを評価対象と して,OECD ガイドラインに従った試験デザインにより,妊娠マウスに妊娠中期から離 乳時まで母動物に混餌投与する発達期曝露実験を行った。第2 章では,遺伝毒性,発が ん性を有し,代謝物が乳中に移行することが知られているアフラトキシン B1を評価対5 象として,妊娠ラットを用いて,妊娠中期から離乳時まで母動物に混餌投与する発達期 曝露実験を行った。第3 章では,穀物を含む様々な食品での汚染が検出され,脳におけ る神経伝達への影響が報告されているオクラトキシン A を評価対象として,妊娠ラッ トを用いて同様の発達期曝露実験を行った。いずれの試験においても用量相関,及び無 毒性量を明らかにするために,3 段階の用量を設定し,児動物の一部を離乳時の曝露終 了後も飼育することで,発達期曝露による影響の回復性の評価を試みた。それぞれの実 験の離乳時及び成熟時に得られた児動物の脳標本を用いて,顆粒細胞系譜における各分 化段階における細胞,歯状回門における介在ニューロンの分布を免疫組織学的に検討す るとともに,歯状回門における遺伝子発現変動を解析することで,ニューロン新生に与 える影響を評価した。
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第
1 章
T-2 トキシンのマウス発達期曝露による
ニューロン新生に着目した発達神経毒性の検討
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緒言
T-2 トキシンはタイプ A トリコテセン類に属するかび毒であり,Fusarium 属に属す るかびによって産生される [47] 。これらのかびはトウモロコシ,オーツ麦,オオムギ, コムギ,米や豆類等で発生するため,これらの穀物におけるT-2 トキシンによる汚染は 世界中で広く報告されている [123] 。T-2 トキシンでは,肝臓や免疫系への毒性に加え て,脳における神経伝達物質レベルの変動といった神経毒性も報告されている [116] 。 ラットではT-2 トキシンが胎盤を通過して胎児に移行し [60] ,発達期曝露によって, 胎児脳におけるアポトーシスが増加することが知られている [99] 。マウスでは主に肝 臓においてT-2 トキシンが酸化的ストレスを上昇させ,ミトコンドリア経路によるアポ トーシスを誘導することが報告されている [13] 。T-2 トキシンの発達期曝露による胎 児への毒性が懸念されることから,発達神経毒性に関する更なる知見が必要とされてい る。 脳における海馬の形成において,歯状回における顆粒細胞層下帯 (subgranular zone; SGZ) は新しいニューロンを生涯産生し続ける特徴を有している [56,70] 。SGZ にお けるニューロン新生では,type-1 幹細胞の増殖及び分化によって,type-2a,type-2b,type-3 それぞれの前駆細胞が順番に産生される。Type-3 前駆細胞は分裂活性を失った未熟ニューロンに分化し,最終的に成熟ニューロンとなって顆粒細胞層 (granule cell layer; GCL)
に移動する [43] 。顆粒細胞層に接する歯状回門では,γ-アミノ酪酸 (GABA) 作動性の 介在ニューロンが歯状回における顆粒細胞系譜の各細胞に投射しており,ニューロン新 生における分化や移動を制御している [66,69] 。また,GABA 作動性の入力に加えて, さまざまなシナプス接続がSGZ 外部から形成されており,アセチルコリン作動性,グ ルタミン酸作動性入力が歯状回に投射していることが知られている [30] 。これらの入 力はSGZ における顆粒細胞系譜の適切な増殖活性の維持に必要であることが明らかと
8 なっている [12,32] 。 近年多くの化学物質がSGZ における神経前駆細胞の増殖や分化に影響を与えること が報告されている [1,49,50,102,118] 。また,歯状回門では,細胞外マトリックス の糖タンパク質であるreelin や,calbindin,calretinin,parvalbumin といったカルシウム 結合タンパク質を産生する介在ニューロン数が変動していた [49,102,118] 。ニュー ロン新生は幹細胞の自己複製と,前駆細胞の産生,増殖,分化並びに樹状突起や軸策形 成といった複数の現象を含んでいる。このため,神経幹細胞や前駆細胞と介在ニューロ ンの分布を解析することにより,ニューロン新生への影響を評価することで,神経毒性 における標的性を明らかにすることが可能である。 本章では,T-2 トキシンによる発達神経毒性を評価するため,母動物及び児動物に対 する全身毒性影響に加えて,マウス児動物における海馬ニューロン新生に着目した解析 を行った。リスク評価を目的として,ニューロン新生への影響について用量相関及び回 復性を検討するため,顆粒細胞系譜及び介在ニューロンの分布,SGZ における細胞増殖 活性,アポトーシスを離乳後,成熟時に解析した。
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材料および方法
化学物質及び供試動物
T-2 トキシンは Sigma-Aldrich Corporation (St. Louis, MO, USA) より購入した。52 匹の
妊娠ICR マウスを妊娠 1 日目で日本エスエルシー (浜松) より購入した。妊娠マウスは 分娩後22 日まで,温度 23±2°C, 湿度 55±15%, 照明サイクル 12 時間明/12 時間暗条件 で個別に飼育した。T-2 トキシン投与開始までは,粉末 CRF-1 (オリエンタル酵母工業, 東京) および飲料水の自由に摂取させた。出生後 21 日(出生日を 0 日とする)以降, 児動物は3~4 匹/ケージで,固型 CRF-1 (オリエンタル酵母工業,東京) および飲料水 の自由摂取下で飼育した。 実験デザイン 妊娠マウスは各群 13 匹の 4 群に分け,0,1,3,9 ppm の T-2 トキシンを含む粉末 CRF-1 飼料を妊娠 6 日目から分娩後 21 日目まで摂取させた。高用量の T-2 トキシン用 量は OECD ガイドラインに従い,母動物に軽微な毒性が認められる用量を選択した。 予備実験として,0,6,12 ppm の T-2 トキシンを各群 3 匹の妊娠マウスに妊娠 6 日目か ら分娩後21 日目まで投与し,児動物は各母動物あたり 7~8 匹の雄と 2~3 匹の雌とな るよう出生後 4 日に間引きした。その結果,12 ppm では児動物に体重増加抑制及び離 乳時の脳重量低値がみられたため,9 ppm を本研究の高用量に選択した。T-2 トキシン の乳汁移行に関して,生後14 日目に予備試験の 12 ppm 投与群の児動物 (N = 3) の胃か ら乳汁を採取し,T-2 トキシンの濃度を高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 法により 測定した (日本食品分析センター,東京) 。本実験では出生後 4 日目に間引きを行い, 各母動物 (N = 10) に 7~8 匹の雄と 2~3 匹の雌を確保するよう児動物数を調整した。 投与期間中,一般状態は1 日 1 回観察し,体重及び摂餌量を 2 回/週,摂水量を 1 回/
10 週の頻度で測定した。混餌飼料の調製は2 週間を超えない頻度で行った。出生後 21 日 に,各群 10 匹の雄児動物 (1 匹/母動物) を免疫組織学的検討のため,CO2/O2麻酔下で 氷冷した4% (w/v) paraformaldehyde (PFA)/0.1M リン酸バッファー (pH 7.4) により灌 流固定を行った (流速 10 mL/分) 。各群雄 31~35 例,雌 13~20 例の児動物は CO2/O2 麻酔下で放血し,脳,肝臓,胸腺,脾臓重量を測定後,脳はメタカーンもしくはブアン 固定液,その他の臓器は 10%中性緩衝ホルマリン液にて固定した。母動物は分娩後 22 日に CO2/O2麻酔下で放血し,脳,肝臓,胸腺,脾臓重量を測定後,脳はメタカーンも しくはブアン固定液,その他の臓器及び胃は10%中性緩衝ホルマリン液にて固定した。 残り半数の児動物は出生後77 日目まで T-2 トキシンを含まない通常飼料により飼育 し,一般状態を1 日 1 回観察し,体重を 1 回/週の頻度で測定した。出生後 77 日に, 各群10 匹の雄児動物を免疫組織学的検討のため,CO2/O2麻酔下で氷冷した4% (w/v) PFA /0.1M リン酸バッファー (pH 7.4) により灌流固定を行った (流速 10 mL/分) 。各群 16~17 匹の雄動物及び 9~10 匹の雌動物は CO2/O2麻酔下で放血した。雌児動物の脳標 本は,性周期及びエストロジェンが海馬ニューロン新生に影響することから,解析から 除外した [80] 。 動物実験計画は,国立大学法人東京農工大学の動物実験倫理委員会に提出して承認 を受け,動物飼育,管理にあっては,国立大学法人 東京農工大学の実験取扱い倫理規 定に従った。 病理組織学的解析 出生後21 日及び 77 日の剖検動物のうち灌流を行わない雌雄各群 10 例の児動物と全て の母動物について,病理組織学的評価を行った。母動物及び児動物の脳,肝臓,胸腺並 びに脾臓,母動物の胃を採取し,脳を除く器官は10%中性緩衝ホルマリン液,脳はブア ン固定液にて4°C で一昼夜固定した。パラフィン包埋した組織を 3 μm の厚さに薄切し た後,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い観察した。
11 胸腺におけるアポトーシス検出
出生後 21 日の児動物の胸腺におけるアポトーシスを定量的に評価するため,terminal
deoxynucleotidyl transferase dUTP nick-end labeling (TUNEL) 染色を各群 10 例の児動物で
行った。ApopTag® Peroxidase In Situ Apoptosis Detection Kit (EMD Millipore Corporation, Billerica, MA, USA) を 用 い て 製 造 元 の プ ロ ト コ ー ル に 従 っ て 染 色 し ,
3,3’-diaminobenzidine (DAB) によって発色した後,ヘマトキシリンにより対比染色した。 脳における免疫組織学的染色及びアポトーシス検出 4% PFA 灌流固定を行った出生後 21 日及び 77 日の雌雄児動物から脳を採取し,同じ 固定液を用いて一昼夜固定した。大脳のbregma の後方約-2.2 mm の 1 カ所で冠状割面を 作製して,さらに4% PFA バッファーで一昼夜固定した。前後の対称面 (2 切面) が薄 切面となるようにパラフィン包埋し,3 μm 厚の連続切片を作製した。切片は Table1-1, 1-2 に示した条件で以下の各分子に対する抗体を用いて免疫染色を行った。顆粒細胞層
におけるニューロン新生の分化ステージ指標であるglial fibrillary acidic protein (GFAP)
[56] ,brain lipid binding protein (BLBP) [108] ,paired box 6 (PAX6) [43] ,T box brain 2
(TBR2) [43] ,doublecortin (DCX) [56] ,介在ニューロンの指標である [32,36] ,reelin,
parvalbumin (PVALB) ,calbindin-D-28K (CALB1) ,calbindin-D-29K (Calretinin,CALB2) ,
成熟ニューロンの指標であるNeuN,細胞増殖活性の指標である proliferating cell nuclear
antigen (PCNA) ,幹細胞因子である stem cell factor (SCF) [53] について実施した。加え
て,出生後21 日の標本は酸化ストレスの指標として過酸化脂質 malondialdehyde (MDA)
及び 4-hydroxynonenal (4-HNE) についても実施した [111,126] 。シグナル検出は
VECTASTAINⓇ Elite ABC Kit (Vector Laboratories Inc., Burlingame, CA, USA) を用いて製
造元のプロトコールに従って実施し,免疫反応はDAB/H2O2を用いて可視化した後,ヘ
12 ール溶液 (室温,30 分) を用いた。海馬 SGZ におけるアポトーシス検出のため,脳切 片を用いて胸腺と同様にTUNEL 染色を行った。SCF,MDA,4-HNE は 0 及び 9 ppm 群 のみ,その他の分子については全群で染色を行った。 免疫組織化学染色およびTUNEL 染色陽性細胞の定量解析 胸腺髄質のTUNEL 陽性細胞数カウントのため,400 倍の倍率で, 1 個体当たりランダ ムに6 視野選択し,BX53 システム生物顕微鏡及び DP72 デジタルカメラシステム (オ リンパス株式会社,東京) を用いて写真を撮影した。陽性細胞数は視覚的にカウントし, 総細胞数は画像解析ソフトWinROOF (バージョン 6.4.2,三谷商事,東京) を用いて定 量化し,陽性細胞率を算出した。 海馬歯状回 SGZ における GFAP,BLBP,PAX6,TBR2,DCX,PCNA,TUNEL, MDA,4-HNE 及び SCF 陽性細胞数について,両側でカウントし,単位長さ当りの陽性 細胞数を算出した (Fig. 1-1) 。歯状回門に分布する reelin,PVALB,CALB1,CALB2, NeuN 陽性細胞については,両側でカウントし,歯状回門の単位面積当りの陽性細胞数 の検索を行った。NeuN 陽性細胞に関しては GCL における計数も行い,SGZ の単位長 さ当りの陽性細胞数を算出した。これらの解析は盲検法で実施した。歯状回門における
アンモン角 (cornu ammonis) CA3 領域の顆粒細胞はカウントから除外した。定量的解析
のための写真撮影は100 倍の倍率で行い,胸腺と同様に解析した。 遺伝子発現発現解析 出生後 21 日の児動物海馬歯状回における mRNA 発現量をリアルタイム逆転写ポリ メラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) を用いて解析した。PFA 灌流固定を行わない雄児動物を対 象として,脳標本をメタカーン固定液により固定した [3] 。0,1,3 並びに 9 ppm 群の メタカーン固定脳標本を用いて,大脳のbregma の後方約-2.2 mm の 2 mm 厚切片より生 検トレパン(KAI インダストリーズ株式会社,岐阜)を用いて海馬歯状回部分を採取し,
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QIAzol (Qiagen,Germany) 及び RNeasy Mini kit (Qiagen) を用いて total RNA を抽出した
(N = 6/群) 。2 μg の total RNA から SuperScript® III Reverse Transcriptase (Life Technologies, CA,USA) を用いて cDNA を合成した。PCR 反応は SYBR®Green PCR Master Mix (Applied Biosystems Inc.,Carlsbad,,CA,USA) を用い, Step One Plus™ Real-time PCR System
(Applied Biosystems Inc.) にて, 製造元のプロトコールに従って実施した。プライマーは
Primer Express software (Version 3.0; Applied Biosystems, Inc.) を用いて設計し,Table 1-3,
1-4 に示した。各遺伝子の mRNA 発現量は,内因性コントロールとして hypoxanthine
phosphoribosyl transferase (Hprt) または glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (Gapdh)
のCTを同時に算出し,0 ppm 群との ΔΔCT値を算出して比較した [64] 。0 及び 9 ppm 群間の比較において有意な変動がみられた遺伝子については1 及び 3 ppm 群を加えて比 較を行った。 統計解析 母動物及び離乳後の児動物の体重ならびに臓器重量,摂餌量,摂水量,免疫組織化 学染色,TUNEL 染色における陽性細胞のカウント数,遺伝子発現解析結果は群平均及 び標準偏差を算出した。離乳までの児動物の体重及び臓器重量,免疫組織化学染色, TUNEL 染色における陽性細胞のカウント数については母動物ごとに平均値を算出し, さらに群平均及び標準偏差を算出した。統計学的解析は,体重,摂餌量,摂水量,臓器 重量,陽性細胞数,遺伝子発現解析結果について,各群の分散をBartlett の方法で検定 し,等分散の場合はDunnett,不等分散の場合は Steel の方法により 0 ppm 群と各群との 検定を行った。2 群間の比較においては各群の分散を F 検定により比較し,等分散の場 合はStudent の t 検定,不等分散の場合は Aspin-Welch の t 検定により 0 ppm 群と各投与 群との検定を行った。病理組織学的所見(カテゴリカルデータ)については, Mann-Whitney’s U-test により 0 ppm 群と各群で比較した。病理組織学的変化の発生頻度 はFisher の直接確率法により 0 ppm 群と各群で比較した。すべての統計学的解析はエク
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結果
胃内乳汁のT-2 トキシン濃度 予備実験において,12 ppm 群の胃内乳汁における T-2 トキシン濃度は 0.08 ppm であ った。 母動物への影響 0 及び 9 ppm 群で各 1 例の未妊娠動物がみられたため,実験から除外した。0 ppm 群 の母動物1 例が間引き後に死亡したため,0 ppm 群は 9 例で評価を行った。着床数,産 仔数にT-2 トキシンによる影響は認められなかった (Table 1-5) 。9 ppm で体重低値が分 娩後7~14 日にかけて,摂餌量の低値が分娩後 5,18,21 日目に,摂水量の低値が 14 及び21 日目に認められた (Fig. 1-2) 。一般状態や行動に異常はみられなかった。分娩 後22 日の解剖において,1 ppm から胸腺絶対重量の低値が認められ,相対重量の低値 も1 及び 9 ppm で認められた。9 ppm では肝臓の絶対重量及び相対重量の高値が認めら れた。摂餌量より計算されるT-2 トキシン摂取量は 1,3,9 ppm 各群において妊娠期間 で0.14,0.40,1.18 mg/kg 体重/日,授乳期間で 0.49,1.39,3.79 mg/kg 体重/日であった。 児動物への影響 児動物において,一般状態や行動に異常はみられなかった。体重に関して,雌雄と も9 ppm で投与期間を通じて体重低値を示し,離乳後も出生後 77 日目まで体重低値が 継続した (Fig. 1-3) 。 出生後21 日及び 77 日において,雌雄の 9 ppm で体重の低値がみられた (Table 1-6) 。 器官重量について,出生後21 日では,雌雄共に 3 ppm から脳及び胸腺絶対重量の低値 がみられ,9 ppm では肝臓,脾臓の絶対重量,肝臓,胸腺,脾臓の相対重量の低値と,16 脳絶対重量の高値がみられた。出生後77 日では,雄では T-2 トキシンによる影響は認 められず,雌では9 ppm で肝臓,胸腺の絶対重量低値がみられた。 病理組織学的解析 母動物では3 ppm より前胃の扁平上皮過形成,9 ppm でびらんの頻度ないし程度の増 加がみられた (Table 1-7) 。また,9 ppm では脾臓の髄外造血,胸腺の萎縮の程度及び 頻度が増加した。脳及び肝臓では所見はみられなかった。 児動物では,出生後 21 日の雄 3 ppm より胸腺のリンパ球アポトーシスの増加が TUNEL 陽性細胞数の増加とともに認められた。その他の器官及び出生後 77 日目の児動 物では所見はみられなかった (Table 1-8) 。 雄児動物のSGZ 及び GCL における顆粒細胞系譜の分布 出生後21 日の雄児動物では,SGZ において,GFAP 陽性細胞 (type-1 幹細胞) 数及び
BLBP 陽性細胞 (type-1 幹細胞~type-2b 前駆細胞) 数が 9 ppm で,PAX6 陽性細胞 (type-1
幹細胞~type-2a 前駆細胞) 数及び TBR2 陽性細胞 (type-2b 前駆細胞) 数が 3 ppm で減少
がみられた (Fig. 1-4) 。SGZ における DCX 陽性細胞 (type-2b 前駆細胞~未熟顆粒細胞)
数及びGCL における NeuN 陽性細胞 (成熟顆粒細胞) 数には変化がみられなかった。出
生後77 日では,いずれの陽性細胞数にも変化はみられなかった。
雄児動物の歯状回門における成熟ニューロン及び介在ニューロンの分布
出生後21 日では RELN 陽性細胞数の増加がみられたが,PVALB 陽性細胞数,CALB1
陽性細胞数,CALB2 陽性細胞数,NeuN 陽性細胞数には変化はみられなかった (Fig. 1-5) 。
17 雄児動物のSGZ における細胞増殖活性及びアポトーシス 出生後21 日では TUNEL 陽性細胞数の増加が 9 ppm でみられた。一方で PCNA 陽性 細胞数に変化はみられなかった (Fig. 1-6) 。出生後 77 日では,いずれの陽性細胞数に も変化はみられなかった。 雄児動物のSGZ における過酸化脂質の蓄積 出生後21 日において,MDA 陽性細胞数の増加が 9 ppm でみられた。一方で,4-HNE 陽性細胞数に変化はみられなかった (Fig.1-7) 。 雄児動物のSGZ における幹細胞因子の発現 出生後21 日おいて,SCF 陽性細胞数の減少が 9 ppm でみられた (Fig. 1-8) 。 雄児動物の海馬歯状回における遺伝子発現解析 顆粒細胞の分化マーカーをコードするPax6,Eomes,Dcx の発現が 9 ppm で増加した
(Table1-9) 。介在ニューロン関連では,reelin をコードする Reln の発現が 9 ppm で増加
した。内因性アポトーシスに関連する遺伝子群では,Bax の発現が 3 ppm から増加し た。幹細胞因子関連では,SCF をコードする Kitl の発現量が 9 ppm で減少した。神経 伝達物質の一つであるグルタミン酸トランスポーターでは,Slc17a6 の発現量が 3 ppm から,α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メソオキサゾール-4-プロピオン酸 (AMPA) 型レセプ ターGria2 の発現量が 9 ppm で減少した一方で,N-メチル-D-アスパラギン酸 (NMDA) 型レセプターであるGrin2a の発現量が 9 ppm で増加した。また,アセチルコリンのレ セプターであるChrna4 の発現量が 9 ppm で,Chrnb2 の発現量が 3 ppm から減少した。 その他の介在ニューロン,抗酸化酵素,グルタミン酸もしくはアセチルコリンレセプ ターやトランスポーターに関連する遺伝子群に変化はみられなかった (Table 1-10) 。
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考察
本章では,T-2 トキシンを発達期曝露したマウスにおいて,母動物及び児動物への毒 性学的影響を,発達期神経毒性を中心に検索した。特に脳海馬ニューロン新生に着目し, 出生後21 日と 77 日における影響を免疫組織学的解析及び遺伝子発現解析を用いて検討 した。その結果,組織学的解析において,母動物では成熟動物における反復投与で報告 されている前胃上皮細胞過形成が3 ppm よりみとめられた [125] 。9 ppm でみられた脾 臓における髄外造血は,T-2 トキシンを曝露したマウスで報告されている造血抑制を反 映した変化である可能性が考えられた [44] 。T-2 トキシンの反復投与では胸腺の萎縮 が報告されており [105] ,本研究においても 1 ppm より胸腺の萎縮を伴う重量低下が 認められた。胸腺は母動物でみられた変化の中のうち,最も感受性の高い標的器官と考えられた。最小毒性発現用量 (lowest observed adverse effect level; LOAEL) は 1 ppm であ
り,0.14~0.49 mg/kg 体重/日に相当した。胸腺に対する毒性は,児動物においてもアポ トーシスの増加を伴う重量低下として3 ppm から認められた。 児動物ではT-2 トキシン曝露後も継続する体重低値が 9 ppm で認められた。同用量 では,脳,肝臓,胸腺及び脾臓の絶対重量減少が出生後21 日にみられ,77 日に回復す る傾向がみられた。同様の体重増加抑制及び一時的な脳重量の低下は,発達期に低栄養 状態を維持したラットでもみられており [75] ,本研究では母動物の摂餌量低値を観察 されたことから,母動物に対するT-2 トキシンによる全身毒性が児動物の発達遅延に影 響したと推察される。しかしながら,低栄養性の脳発達遅延はニューロン新生に影響を 与えないことが確認されている [75] 。T-2 トキシンが経胎盤,経乳的に児動物に移行 すること [29,60] ,脳血液関門を通過することから [122] ,児動物のニューロン新生 への影響はT-2 トキシンによるものと考えられた。 児動物の海馬歯状回におけるニューロン新生について,出生後21 日は GFAP 陽性細
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胞数及びBLBP 陽性細胞数が 9 ppm で,PAX6 陽性細胞数及び TBR2 陽性細胞数が 3 ppm
から減少した。GFAP 陽性細胞は type-1 神経幹細胞であり,BLBP 陽性細胞は type-1 幹
細胞とtype-2 前駆細胞の一部とされている [108] 。加えて,PAX6 陽性細胞は type-1 幹
細胞とtype-2a 前駆細胞であり,TBR2 陽性細胞は type-2b 前駆細胞とされている [43] 。
GFAP 陽性細胞数及び BLBP 陽性細胞数は 3 ppm では変化しなかったことから,9 ppm
ではtype-1 幹細胞と type-2 前駆細胞が減少していると考えられ,3 ppm では type-2 前駆
細胞のみが減少したと考えられた。これらの結果から,T-2 トキシンによる type-1 幹細 胞とtype-2 前駆細胞への影響には異なる閾値があり,複数の機序が関与していることが 示唆された。一方で,これらの分化マーカーをコードするPax6,Eomes (別名 Tbr2) 並 びにDcx の転写量は増加していた。T-2 トキシンは peptidyl transferase 活性とタンパク質 合成を阻害することから [71] ,何らかのフィードバック機構が転写活性を活性化し, ニューロン新生を維持しようとしたと考えられた。本研究では,実際にT-2 トキシンの 曝露を出生後21 日に終了した児動物では,出生後 77 日にニューロン新生が回復してい ることが見出されたため,転写活性が上昇した遺伝子群により,分子発現が増加した結 果,ニューロン新生が回復したと考えられた。 SGZ における顆粒細胞数の変動と同時に,TUNEL 陽性細胞数の増加傾向が出生後 21 日では 3 ppm からみられた。アポトーシス関連遺伝子群のうち,Bcl-2 family に属す る内因性経路活性化因子である [37] Bax の転写量が 3 ppm より増加した。その他の外 因性因子や小胞体ストレス関連,death-ligand 関連遺伝子群には変動はみられなかった。
ヒト癌細胞においては,T-2 トキシンが活性酸素種 (reactive oxygen species; ROS) を増
加し,DNA を損傷することにより Bax を介したアポトーシスを誘導することが知られ
ている [15] 。本研究においても,T-2 トキシンが SGZ において過酸化脂質の蓄積を意
味するMDA 陽性細胞を 9 ppm で増加させており,他でも報告されている脳における脂
質過酸化上昇が起きていると考えられた [16] 。 T-2 トキシンを曝露したラット脳にお
20 [100] 。従って,T-2 トキシンは SGZ における ROS 産生を増加させ, type-1 幹細胞及 びtype-2 前駆細胞のアポトーシスを内因性経路によって誘導したと推察された。一方で, アポトーシスの増加は出生後77 日では認められず,ニューロン新生障害の回復と一致 していた。 マウスのSGZ において,幹細胞因子である SCF は type-1 幹細胞以外の顆粒細胞に発
現しており,type-1 幹細胞や type-2 前駆細胞に発現する c-Kit レセプターに結合するこ
とで,細胞増殖活性を上昇させ,細胞を自己複製から分化の方向へ誘導することが知ら れている [53,110] 。本研究においても,T-2 トキシン曝露が 9 ppm では SGZ における SCF 陽性細胞数を減少させ,SCF をコードする Kitl の発現量を減少させることが見出さ れた。これらの結果から,T-2 トキシン曝露により SCF による細胞増殖及び分化制御が 抑制され,type-1 幹細胞もしくは type-2 前駆細胞が減少した可能性が考えられた。さら に,マウスの神経堤細胞では,SCF と c-Kit の結合を阻害することでアポトーシスが誘 導されることが報告されており [51],本研究で観察された T-2 トキシンによるアポトー シス増加にはROS 産生増加に加えて,SCF シグナルの減少が関与していると推察され た。 本研究において,T-2 トキシンは 9 ppm で,歯状回門における RELN 陽性介在ニュー ロンを増加させるとともに,Reln 発現量を増加させた。Reelin は細胞外マトリックスに 存在する糖タンパク質であり,SGZ から GCL に移動する分裂活性を失った未熟顆粒細 胞を適切な位置へ誘導する役割を持つとされている [36] 。このことから RELN 陽性介 在ニューロンの増加は,T-2 トキシンによってニューロン新生の早期が障害されたこと により,後期の前駆細胞や未熟顆粒細胞の移動異常が起きたことを反映したと考えられ た。注目すべき点として,T-2 トキシンは顆粒細胞系譜の後期分化段階には影響を与え なかった。RELN の発現上昇は type-3 前駆細胞である DCX 陽性細胞数を増加させるこ とが報告されており [84] ,後期分化段階の顆粒細胞数の減少を防ぐ働きがあると推察 された。ニューロン新生障害が回復した出生後77 日では,RELN 陽性介在ニューロン
21 数に変動はみられなかった。
SGZ への海馬歯状回外部からの神経伝達入力に関して,3 ppm より Slc17a6 と Chrnb2
の発現量が減少し,9 ppm では Gria2 及び Chrna4 の発現量減少と,Grin2a の発現量増
加がみられた。ほとんどのtype-1 幹細胞は Gria2 にコードされる AMPA 型グルタミン酸
レセプターサブユニットである GluA2 を発現しており,顆粒細胞系譜の多くの細胞は
Slc17a6 にコードされるグルタミン酸トランスポーターVglut2 を発現している [55,91] 。
従って,Gria2 と Slc17a6 の発現量減少は,9 ppm でみられた type-1 幹細胞数の減少と,
3 ppm よりみられた type-2 前駆細胞の減少をそれぞれ反映した変化と考えられた。グル タミン酸作動性入力はニューロン新生の速度制御に関わっていることから [12] ,伝達 経路に関わる遺伝子の発現量減少によりニューロン新生が抑制された可能性が示唆さ れた。その一方で,NMDA 型レセプターサブユニットをコードする Grin2a は,ニュー ロンの発達過程においてreelin の働きにより徐々に発現量が増加する [85] 。ラット脳 において,NMDA レセプターを介したグルタミン酸作動性入力により,ニューロン新 生が増加することが知られている [6] 。従って,本研究の 9 ppm でみられた RELN 陽 性介在ニューロン数の増加が Grin2a の発現量増加に関わっており,分化後期段階の顆 粒細胞の減少を抑えたと考えられた。 Chrna4 と Chrnb2 は GABA 作動性介在ニューロンに発現するニコチン酸型アセチル コリンレセプターのサブユニットをコードしている [106] 。CHRNB2 は SGZ における 細胞増殖制御に深く関わっており,Chrnb2 ノックアウトマウスでは SGZ の細胞増殖活 性が低下することが知られている [38] 。歯状回門における GABA 作動性介在ニューロ ンの一部はSGZ の type-2 前駆細胞に入力しており,分化制御に関わっていることから [113] ,本研究で 3 ppm からみられた Chrnb2 の発現量減少と type-2 前駆細胞数の減少 は,アセチルコリン作動性シグナルの減少による歯状回門からSGZ への GABA 作動性 入力減少を示していると考えられた。CHRNA4 の発現低下とニューロン新生に関する 報告はなされていないが,CHRNB2 の減少とともに,GABA 作動性介在ニューロンに
22
おけるニコチン型アセチルコリンを介した入力の減少に関わっていると考えられた。
本研究における児動物の無毒性量 (no observed adverse effect level; NOAEL) は,ニュ
ーロン新生障害と胸腺におけるアポトーシス増加に基づいて,1 ppm と判断された。
1 ppm における母動物の T-2 トキシン曝露量は 0.14~0.49 mg/kg 体重/日に相当し,
FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議 (JECFA) による暫定最大 1 日耐容摂取量
(provisional maximum tolerable daily intake; PMTDI) の設定根拠となったブタにおける造
血毒性発現用量 (0.03 mg/kg/日) [88]の 5 から 15 倍高い値であった [52] 。しかしながら, 新生児及び乳幼児は体重当りの食物摂取量が多く [28] ,かび毒による影響を受けやす いと考えられることから,小児集団が主に摂取する穀物におけるT-2 トキシンの汚染は 慎重にモニタリングされることが必要と思われる。 結論として,マウスにおけるT-2 トキシン発達期曝露により,児動物ではニューロン 新生障害が可逆的に認められ,標的となったtype-1 幹細胞及び type-2 前駆細胞への障害 機序には異なる閾値が存在することが明らかとなった。すなわち,アセチルコリン作動 性,グルタミン作動性入力の減少が type-2 前駆細胞を 3 ppm より減少させ,SCF/c-Kit シグナルの減少,酸化ストレスの増加が9 ppm において,type-1 幹細胞及び type-2 前駆 細胞を減少させた。児動物のニューロン新生障害は,他の器官で最も感受性の高い胸腺 への毒性と同じく3 ppm からみとめられ,NOAEL は 1 ppm と判断された。
23
小括
第1 章では,T-2 トキシンの発達期曝露によるマウス児動物における海馬ニューロン 新生への影響を評価するため,0,1,3,9 ppm の投与量で妊娠 6 日目から出生後 21 日 の離乳まで投与する曝露実験を行った。その結果,全身への影響として,児動物では T-2 トキシン曝露終了後も継続する体重低値が 9 ppm でみられ,母動物では 1 ppm から, 児動物では3 ppm から胸腺に対する毒性が認められた。出生後 21 日の雄児動物海馬歯状回SGZ では,GFAP または BLBP を発現する type-1 幹細胞が 9 ppm で,PAX6 または
TBR2 を発現する type-2 前駆細胞が 3 ppm よりそれぞれ減少し,3 ppm からはアポトー シスの増加がみられた。歯状回門では9 ppm で reelin を発現する GABA 作動性介在ニュ ーロン数が増加し,顆粒細胞の移動異常を反映したと考えられた。T-2 トキシンはアセ チルコリン及びグルタミン作動性入力の減少によりtype-2 前駆細胞を 3 ppm から減少さ せ,加えて,幹細胞因子SCF 発現減少と酸化ストレスの上昇により type-1 幹細胞及び type-2 前駆細胞を 9 ppm で減少させたと考えられ,それぞれの標的細胞に異なる機序で 影響を与えたと考察された。児動物のニューロン新生障害に基づいたNOAEL は 1 ppm と判断された。
24
第
2 章
アフラトキシン
B1
のラット発達期曝露による
25
緒言
アフラトキシンはAspergillus 属のかびによって産生される非常に強い毒性を示すか
び毒であり,トウモロコシ,ナッツ,穀物といった食物から検出される [124] 。もっ
とも強い毒性を示すアフラトキシンB1 (AFB1) は Aspergillus flavas または Aspergillus
parasiticus によって産生され,最も強い発がん性を示し,遺伝毒性を有する [48] 。ヒ トまたは動物に摂取されたAFB1は肝臓で代謝されることでアフラトキシンQ1,アフラ トキシンP1,アフラトキシンM1 (AFM1) となり,このうち AFM1は乳中に移行するこ とが知られている [67] 。AFM1はAFB1と比較してより弱いものの,同様の機序により 発がん性及び遺伝毒性を有する [20,45] 。母体に摂取された AFB1は胎盤を通過する こと [22,46] ,乳汁へは大部分が AFM1として移行することから [114] ,アフラトキ シンの発達期曝露において,この2 種類が主なリスク要因と考えられる。AFM1による 乳製品の汚染が様々な国と地域で報告されていることから [124] ,小児集団に対する 健康被害が危惧される。 AFB1及びAFM1に関する毒性試験では,慢性曝露による発がん性,遺伝毒性,肝臓 への毒性に関する情報が多く得られている [48,124] 。しかしながら,特に発達期の 曝露による中枢神経系への毒性影響について得られているデータは限られている。ラッ トにおいてAFB1を妊娠後期に腹腔内投与した実験では,児動物の中枢及び抹消神経系 に腫瘍を誘発することが報告されている [35] 。また,妊娠期の AFB1曝露では,児動 物脳における神経変性を伴う一時的な自発運動の減少がみられている [17] 。また,ラ ット皮下投与による妊娠期曝露では神経行動学的な能力低下が報告されている [57] 。 AFB1及びAFM1が遺伝毒性を有することからも,発達期曝露による神経への影響を評 価することが重要と考えられる。 第1 章において,T-2 トキシン発達期曝露による神経毒性学的影響を,離乳時及び成
26 熟時における児動物海馬歯状回のニューロン新生に着目して評価することで,標的性, 回復性とともに明らかにすることができた。また,その機序として海馬歯状回へ外部か ら入力するアセチルコリン作動性,グルタミン酸作動性入力の低下が明らかとなった。 AFB1の慢性曝露はラット脳において上述した神経伝達を減少させることが報告されて いる [18,25] 。また,AFB1及びAFM1は遺伝毒性を有するため,幹細胞の増殖分化を 重要な過程として有するニューロン新生において,DNA 障害による影響を与える可能 性が考えられる。 本章ではAFB1による発達神経毒性を評価するため,ラット児動物における海馬ニュ ーロン新生に着目した解析を行った。児動物への影響は経胎盤的なAFB1曝露と経乳的 なAFM1曝露を反映するものと予想された。リスク評価を目的として,ニューロン新生 への影響について用量相関及び回復性を検討するため,SGZ における顆粒細胞系譜及び 歯状回門の介在ニューロンの分布,SGZ における細胞増殖活性,アポトーシスを離乳後, 成熟時に解析した。また,第1 章で影響が認められた,神経伝達物質を介した海馬歯状 回へ入力への影響を遺伝子発現解析,免疫組織学的染色により検討した。
27
材料および方法
化学物質及び供試動物
AFB1はM1培地で培養したAspergillus flavus より抽出し,HPLC により精製したもの
[21] を麻布大学 小西 良子 教授のご厚意により供与いただいた。AOAC 法により重量 及びメタノール溶液中の紫外線吸収から算出された純度は約 90%であった [5] 。48 匹 の妊娠SD ラットを妊娠 1 日目で日本チャールズリバー株式会社 (横浜) より購入した。 妊娠ラットは分娩後22 日まで,温度 23±3°C, 湿度 55±15%, 照明サイクル 12 時間明 /12 時間暗条件で個別に飼育した。AFB1投与開始までは飼育期間を通じて,粉末CRF-1 (オリエンタル酵母工業, 東京,AFB1濃度は定量下限である5ppb 未満) および飲料水の 自由に摂取させた。出生後21 日(出生日を 0 日とする)以降,児動物は 3~4 匹/ケー ジで,固型CRF-1 (オリエンタル酵母工業, 東京,AFB1濃度は定量下限である5ppb 未 満) および飲料水の自由摂取下で飼育した。 実験デザイン 妊娠ラットは各群12 匹の 4 群に分け,0,0.1,0.3,1.0 ppm の AFB1を含む粉末CRF-1 を妊娠6 日目から分娩後 21 日目まで摂取させた。高用量の AFB1用量はOECD ガイド ライン [74] に従い,母動物に軽微な毒性が認められる用量を選択した。予備実験とし て,0,0.1,0.5 ppm の AFB1を妊娠ラットに妊娠6 日目から分娩後 21 日目まで投与し た (N = 3,0,0.1 ppm 群;N = 4,0.5 ppm 群) 。その結果,0.5 ppm では児動物の一時 的な体重低値のみが観察されたため,軽度な母動物及び児動物への毒性が期待される用 量として,1.0 ppm を本研究の高用量に選択した。AFM1の乳汁移行に関して,生後14 日目に予備試験の0 及び 0.5 ppm 投与群の児動物 (N = 3) の胃から乳汁を採取し,AFM1 の濃度をHPLC 法により測定した (日本食品分析センター,東京) 。本実験では出生後
28 4 日目に間引きを行い,各母動物 (N = 10,0 ppm 群;N = 11,AFB1投与群) に 6 匹の雄 と2 匹の雌を確保するよう児動物数を調整した。投与期間中,一般状態は 1 日 1 回観察 し,体重及び摂餌量を2 回/週,摂水量を 1 回/週の頻度で測定した。混餌飼料の調製 は1 週間を超えない頻度で行った。出生後 21 日に,各群 10 匹の雄児動物 (1 匹/母動物) を免疫組織学的検討のため,CO2/O2麻酔下で氷冷した4% (w/v) PFA/0.1M リン酸バッ ファー (pH 7.4) により灌流固定を行った (流速 10 mL/分) 。遺伝子発現解析のため, 各群雄20~26 匹の雄児動物 (2~3 匹/母動物) は CO2/O2麻酔下で放血し,脳及び肝臓の 重量を測定した。母動物及び各群10~12 匹の雌児動物 (1~2 匹/母動物) はそれぞれ出 生後22 日及び 21 日に CO2/O2麻酔下で放血し,脳及び肝臓の重量を測定した。 他の児動物 (各群雄 30 匹及び雌 10 匹) は出生後 77 日目まで AFB1を含まない通常飼 料により飼育し,一般状態を1 日 1 回観察し,体重を 1 回/週の頻度で測定した。出生 後 77 日に,免疫組織学的検討のため,各群 10 匹の雄児動物 (1 匹/母動物) を CO2/O2 麻酔下で氷冷した4% (w/v) PFA/0.1M リン酸バッファー (pH 7.4) により灌流固定を 行った (流速 35 mL/分) 。各群 20 匹の雄動物及び 10 匹の雌動物は CO2/O2麻酔下で放 血し,脳及び肝臓の重量を測定した。雌児動物の脳標本は,性周期及びエストロジェン が海馬ニューロン新生に影響することから,解析から除外した [80] 。 動物実験計画は,国立大学法人東京農工大学の動物実験倫理委員会に提出して承認 を受け,動物飼育,管理にあっては,国立大学法人 東京農工大学の実験取扱い倫理規 定に従った。 病理組織学的解析 出生後21 日及び 77 日の児動物のうち,灌流した雄各群 10 匹,灌流を行わない雌各 群10 匹と,全ての母動物の脳について,病理組織学的評価を行った。母動物及び雌児 動物の脳はブアン固定液にて4°C で一昼夜固定した。灌流を行わない雌雄各群 10 匹と, 全ての母動物の肝臓について,病理組織学的評価を行った。肝臓は10%中性緩衝ホルマ
29 リン液にて4°C で一昼夜固定した。パラフィン包埋した組織を 3 μm の厚さに薄切した 後,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い観察した。 脳における免疫組織学的染色及びアポトーシス検出 4% PFA 灌流固定を行った出生後 21 日及び 77 日の雌雄児動物から脳を採取し,同じ 固定液を用いて一昼夜固定した。大脳のbregma の後方約-2.2 mm (出生後 21 日) または -3.5 mm (出生後 77 日) の 1 カ所で冠状割面を作製して,さらに 4% PFA バッファーで一 昼夜固定した。前後の対称面 (2 切面) が薄切面となるようにパラフィン包埋し,3 μm 厚の連続切片を作製した。切片は Table1-1,1-2 に示した条件で,以下の各分子に対す る抗体を用いて免疫染色を行った。顆粒細胞層におけるニューロン新生の分化ステージ
指標であるGFAP [56] ,PAX6 [43] ,TBR2 [43] ,DCX [56] ,tubulin; beta 3 class III
(TUBB3) [9] ,介在ニューロンの指標である [32,36] ,RELN,PVALB,CALB1,CALB2,
ソマトスタチン (SST),成熟ニューロンの指標である NeuN,ニコチン型アセチルコリ
ンレセプターであるnicotinic acetylcholine receptor; alpha 7 (CHRNA7) [86] ,脳由来神経
栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor; BDNF) [24] の活性化型レセプターである
phosphorylated neurotrophic tyrosine kinase receptor, type 2 (p-TRKB) ,細胞増殖活性の指
標 で あ る PCNA に つ い て 実 施 し た 。 加 え て , 出 生 後 21 日 の 児 動 物 は CDK
(Cyclin-dependent kinase) 阻害分子の一つであり,G1期で細胞周期を制御することが知 られているcyclin-dependent kinase inhibitor 1A (p21cip1) [80] ,DNA 障害のマーカーであ
る及びgamma-H2A histone family, member X (γ-H2AX) [79] についても実施した。シグナ
ル検出はVECTASTAINⓇElite ABC Kit (Vector Laboratories Inc., Burlingame, CA, USA) の
プロトコールに従い,免疫反応はDAB/H2O2を用いて可視化した後,ヘマトキシリンに
より対比染色した。脱パラフィンは0.3 w/w %過酸化水素水を含むメタノール溶液 (室
温,30 分) を用いた。海馬 SGZ におけるアポトーシス検出のため,TUNEL 染色を行っ
30
免疫組織化学染色およびTUNEL 染色陽性細胞の定量解析
海馬歯状回SGZ における GFAP,PAX6,TBR2,DCX,TUBB3,p21cip1,γ-H2AX, PCNA, TUNEL 陽性細胞数について,両側でカウントし,単位長さ当りの陽性細胞数を算出し た (Fig. 1-1) 。歯状回門に分布する RELN,PVALB,CALB1,CALB2,SST,NeuN 陽 性細胞については,両側でカウントし,歯状回門の単位面積当りの陽性細胞数の検索を 行った (Fig. 1-1) 。NeuN 陽性細胞に関しては GCL における計数も行い,SGZ の単位長 さ当りの陽性細胞数を算出した。これらの解析は盲検法で実施した。歯状回門における アンモン角 CA3 領域の顆粒細胞はカウントから除外した。定量的解析のための写真は 100 倍の倍率で BX53 システム生物顕微鏡及び DP72 デジタルカメラシステム (オリン パス株式会社,東京) を用いて撮影し,WinROOF (バージョン 6.4.2,三谷商事,東京) を 用いて解析した。 遺伝子発現発現解析 出生後21 日の児動物海馬歯状回における mRNA 発現量を RT-PCR を用いて解析した。 PFA 灌流固定を行わない雄児動物を対象として,脳標本をメタカーン固定液により固定 した [3] 。メタカーン固定脳標本を用いて,大脳の bregma の後方約-2.2 mm の 2 mm 厚 切片より生検トレパン (KAI インダストリーズ株式会社,岐阜) を用いて海馬歯状回部
分を採取した。0 及び 1.0 ppm 群について,QIAzol (Qiagen,Germany) 及び RNeasy Mini
kit (Qiagen) を用いて total RNA を抽出した (N = 6/群) 。肝臓に関して,母動物及び灌
流を行わなかった雄児動物の外側左様の一部を液体窒素により凍結保存した。すべての
群について,RNeasy Mini kit (Qiagen) を用いて total RNA を抽出した (N = 6/群) 。脳,
肝臓ともに2 μg の total RNA から SuperScript® III Reverse Transcriptase (Life Technologies, CA,USA) を用いて cDNA を合成した。PCR 反応は SYBR®Green PCR Master Mix (Applied Biosystems Inc.,Carlsbad,,CA,USA) を用い, Step One Plus™ Real-time PCR System
31
Primer Express software (Version 3.0; Applied Biosystems, Inc.) を用いて設計し,Table 2-1
及び2-2 に示した。各遺伝子の mRNA 発現量は,内因性コントロールとして hypoxanthine
phosphoribosyl transferase (Hprt) または glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (Gapdh)
のCTを同時に算出し,0 ppm 群との ΔΔCT値を算出して比較した [64] 。
パイロシークエンシング法によるDNA メチル化解析
出生後21 日の児動物海馬歯状回から抽出した DNA を用いて,Bdnf 遺伝子のプロモ
ーター領域におけるシトシンのメチル化比率をパイロシークエンシング法により解析
した。脳海馬歯状回を遺伝子発現解析と同様にメタカーン固定脳標本から採取した。0
及び1.0 ppm 群について,DNeasy Blood and Tissue kit (Qiagen) を用いて,ゲノム DNA
を抽出した(N = 4/群) 。500 ng のゲノム DNA を EpiTect® Plus DNA Bisulfite kit (Qiagen)
を用いてバイサルファイト処理した。Bdnf のプロモーター領域を増幅するため,10 ng
の バ イ サ ル フ ァ イ ト 処 理 DNA を鋳型として , PyroMark PCR Kit (Qiagen) 及び
Pyrosequencing Assay Design Software Ver. 2.0 (Qiagen) で設計した以下のプライマーを用
いて PCR 反応を行った。標的配列はストレス負荷を行ったラット児動物においてメチ
ル化比率の変動が報告された文献を参考とした [8] 。によるメチル化フォワードプラ
イマー;5′-AATGGTTTAT GGTTTTTTAA ATGAGAGT-3′,リバースプライマー (5’末端
はビオチン化);5′-CCACCTTCT AAAACTTATA ACATAATTCTC-3′。ビオチン化された
PCR 産物を PyroMark Gold Q24 Vacuum Workstation,PyroMark Gold Q24 Reagents (Qiagen)
及び以下の配列のシークエンシングプライマーを用いて解析した。シークエンシングプ
ライマー;5′-ATAGGTTAGG AGGGG-3′。それぞれの CpG サイトにおけるシトシンのメ
チル化比率はPyroMark Q24 software (Qiagen) を用いて算出した。
統計解析
32 染色,TUNEL 染色における陽性細胞のカウント数,遺伝子発現解析結果は群平均及び 標準偏差を算出した。離乳までの児動物の体重及び臓器重量,免疫組織化学染色, TUNEL 染色における陽性細胞のカウント数については母動物ごとに平均値を算出し, さらに群平均及び標準偏差を算出した。統計学的解析は,体重,摂餌量,摂水量,臓器 重量,陽性細胞数,遺伝子発現解析結果について,各群の分散をBartlett の方法で検定 し,等分散の場合はDunnett,不等分散の場合は Steel の方法により 0 ppm 群と各群との 検定を行った。2 群間の比較においては各群の分散を F 検定により比較し,等分散の場 合はStudent の t 検定,不等分散の場合は Aspin-Welch の t 検定により 0 ppm 群と各投与 群 と の検 定を 行っ た。 病 理 組織 学的 所見 (カテ ゴ リカ ルデ ータ )につ い ては , Mann-Whitney’s U-test により 0 ppm 群と各群で比較した。病理組織学的変化の発生頻度 はFisher の直接確率法により 0 ppm 群と各群で比較した。すべての統計学的解析はエク セル統計2010 ソフトウェア (社会情報サービス株式会社,東京) を用いて行った。
33
結果
胃内乳汁のAFM1濃度 予備実験において,0 ppm 群の胃内乳汁に AFM1は検出されず (定量下限 0.5 ppb) , 0.5 ppm 群の胃内乳汁における AFM1濃度は26 ppb であった。 母動物への影響 全動物で妊娠が確認された。着床数,産仔数にAFB1による影響は認められなかった(Table 2-3) 。体重,摂餌量,摂水量についても AFB1による影響は認められなかった (Fig. 2-1) 。また,一般状態や行動に異常はみられなかった。分娩後 22 日の解剖において, 1.0 ppm で肝臓絶対及び相対重量の高値が認められたが脳重量に変化はみられなかった (Table 2-3) 。摂餌量より計算される AFB1摂取量は,0.1,0.3,1.0 ppm 各群において, 妊娠期間で7.1,20.7,66.7 µg/kg 体重/日,授乳期間で 13.6,41.7,132.7 µg/kg 体重/日 であった。 児動物への影響 一般状態に異常はみられなかった。体重に関して,雄の1.0 ppm で出生後 14 日に一 時的な体重低値がみられた (Table 2-4,2-5) 。 器官重量について,出生後 21 日及び出生後 77 日のいずれにおいても脳及び肝臓重 量にAFB1による影響はみられなかった (Table 2-6) 。 病理組織学的解析 母動物では脳及び肝臓に組織学的な変化はみられなかった (Table 2-7) 。児動物につ いても出生後21 日及び 77 日のいずれにおいても,脳及び肝臓に組織学的な変化はみら
34 れなかった。
雄児動物のSGZ 及び GCL における顆粒細胞系譜の分布
出生後21 日の雄児動物では,SGZ において,DCX 陽性細胞 (type-2b 前駆細胞~未
熟顆粒細胞) 数が 0.3 ppm から減少した (Fig. 2-2) 。一方で,SGZ における GFAP 陽性
細胞 (type-1 幹細胞) 数,PAX6 陽性細胞 (type-1 幹細胞~type-2a 前駆細胞) 数,TBR2
陽性細胞 (type-2b 前駆細胞) 数,TUBB 陽性細胞 (未熟顆粒細胞) 数,GCL における
NeuN 陽性細胞 (成熟顆粒細胞) に変動はみられなかった。出生後 77 日では,いずれの
陽性細胞数にも変化はみられなかった。
雄児動物の歯状回門における成熟ニューロン及び介在ニューロンの分布
出生後21 日,77 日のいずれにおいても,RELN 陽性細胞数,PVALB 陽性細胞数,
CALB1 陽性細胞数,CALB2 陽性細胞数,SST 陽性細胞数,NeuN 陽性細胞数には変化
はみられなかった (Fig. 2-3) 。 雄児動物のSGZ における細胞増殖活性及びアポトーシス 出生後21 日では PCNA 陽性細胞数の減少が 1.0 ppm でみられた。一方で TUNEL 陽 性細胞数に変化はみられなかった。出生後77 日では,いずれの陽性細胞数にも変化は みられなかった (Fig. 2-4) 。 雄児動物の歯状回門におけるCHRNA7 を発現する介在ニューロンの分布 出生後21 日において,CHRNA7 陽性細胞数の減少が 0.3 ppm からみられた。一方で, 出生後77 日では変化はみられなかった (Fig 2-5) 。
35 雄児動物の歯状回門におけるp-TRKB を発現する介在ニューロンの分布 出生後21 日において,p-TRKB 陽性細胞数の減少が 0.3 ppm からみられた。一方で, 出生後77 日では変化はみられなかった (Fig 2-6) 。 雄児動物のSGZ における γ-H2AX または p21Cip1発現細胞の分布 出生後21 日において,γ-H2AX 陽性細胞数,p21Cip1陽性細胞数のいずれにおいても 変化はみられなかった (Fig. 2-7) 。 雄児動物の海馬歯状回における遺伝子発現解析 各遺伝子群の発現量を0 及び 1.0 ppm 群で比較した (Table 2-8) 。神経栄養因子に関 連する遺伝子群では Bdnf の発現が減少した。アセチルコリンの産生酵素及びレセプタ ーに関連する遺伝子群では,レセプターサブユニットをコードするChrna7 の発現が減 少し,アセチルコリン産生酵素をコードする Chat の発現が増加した。ドーパミンの産 生酵素及びレセプターに関連する遺伝子群では,D2 レセプターをコードする Drd2 の発 現が減少した。細胞周期制御因子に関連する遺伝子群では,サイクリン依存性キナーゼ 阻害因子p21cip1をコードするCdkn1a の発現量が減少した。その他の顆粒細胞の分化マ ーカー,細胞増殖,モノアミントランスポーター,セロトニンの産生酵素及びレセプタ ー,ノルアドレナリンの産生酵素及びレセプター,DNA 修復に関連する遺伝子群には 変化はみられなかった (Table 2-9,2-10) 。 雄児動物の海馬歯状回におけるBdnf プロモーター領域の DNA メチル化解析 Bdnf 遺伝子のプロモーター領域に位置する 6 個の CpG サイトについて,0 ppm と 1.0 ppm 群との間でシトシンのメチル化比率に変化は認められなかった (Fig 2-8) 。
36 母動物及び雄児動物の肝臓における遺伝子発現解析
各遺伝子群の発現量を母動物及び出生後21 日の雄児動物の全群で比較した (Table
2-11) 。母動物では AFB1の代謝に関与するCyp1a2 及び DNA の修復に関わる Ercc2 の
発現量が増加した。雄児動物では代謝酵素及びDNA 修復に関わる遺伝子群に変化はみ
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考察
本章では,AFB1の発達期神経毒性について,第1 章と同様に児動物の海馬における ニューロン新生に着目した検討を行った。AFB1の発達期曝露は高用量では重篤な毒性 と胎児の奇形を引き起こすことが知られている (0.5 mg/kg 強制経口投与) [119] 。本研 究では軽微な母動物への毒性が期待される用量を高用量に設定して評価を行った。その 結果,母動物では1.0 ppm で肝臓の重量増加が認められたが,病理組織学的な変化はみられなかった。一方で,Cyp1a2 と Ercc2 の mRNA 発現量増加が認められ,AFB1の代謝
酵素が誘導され,アフラトキシンの活性代謝物によるDNA 付加体形成に対して DNA のヌクレオチド除去修復系が活性化していることが示唆された [26] 。児動物への影響 については,1.0 ppm で雄に一時的な体重低値がみられたものの,脳及び肝臓重量に変 化はみられず,肝臓において肝臓代謝酵素やDNA 修復に関連する遺伝子の発現変動も みられなかった。乳中へのAFM1の移行については,ウシで報告されている比率と同様 に,飼料中AFB1濃度の約5%に相当する AFM1濃度が検出された。本研究において, 1.0 ppm の AFB1の発達期曝露による児動物に対する全身毒性は非常に軽微であると考 えられた。 児動物のニューロン新生に対する影響について,出生後21 日では 0.3 ppm から SGZ におけるDCX 陽性細胞数の減少がみられたが,SGZ における GFAP,PAX6,TBR2, TUBB3 陽性細胞数,GCL における NeuN 陽性細胞数への影響はみられなかった。DCX はtype-2b 前駆細胞の一部と type-3 前駆細胞及び未熟顆粒細胞に発現している [56] 。 type-2b 前駆細胞に相当する TBR2 陽性細胞数と,未熟顆粒細胞の大部分に発現する
TUBB3 陽性細胞数が変化していないことから [9,43] ,AFB1の発達期曝露はtype-3
前駆細胞を標的とすると考えられた。しかしながら,出生後77 日では DCX 陽性細胞数
38 傾向がみられた。NeuN 陽性細胞は type-3 前駆細胞の分化によって産生される分裂活性 を失った成熟顆粒細胞であることから [56] ,AFB1の発達期曝露によってニューロン新 生の後期段階が抑制された結果,成熟後の成熟ニューロン数の減少傾向につながったと 考えられた。 出生後21 日の SGZ では,細胞増殖活性の指標である PCNA 陽性細胞数が 0.3 ppm か ら減少傾向を示し,1.0 ppm では有意に減少した。ラットやヒト肝細胞において,AFB1 は細胞周期異常をもたらす [42,92] 。しかしながら本研究では,p21 をコードする Cdkn1a の発現量減少がみられたものの,サイクリン依存性キナーゼ阻害因子を含む他 の細胞周期制御因子の遺伝子発現変動は検出されなかった。また,SGZ における p21cip1 の陽性細胞数には変動がみられなかった。SGZ において p21cip1はDCX 陽性細胞が主に 発現しており,Cdkn1a の海馬ニューロンにおけるコンディショナルな発現欠損は,SGZ における細胞増殖活性を増加させることが報告されている [80] 。本研究においては SGZ における細胞増殖活性は低下したことから,Cdkn1a の発現減少は type-3 前駆細胞 の減少を反映したものであり,AFB1の発達期曝露はSGZ における細胞周期制御には影 響しなかったと考えられた。 ヒトにおいては,母体の血中AFB1濃度と貧血及び胎児の低酸素症に相関があるとさ れている [103] 。慢性的な低酸素状態は,ラットにおいて脳発達及び海馬ニューロン 新生を阻害し,顆粒細胞系譜における細胞増殖活性の低下をもたらす [89] 。上述した ように,本研究ではSGZ において細胞増殖活性の低下が認められた。しかしながら組 織学的に低酸素状態を示す神経細胞の乏血性変化や脱落は認められず,脳重量にも影響 はみられなかった。したがってAFB1発達期曝露による胎児の低酸素症がニューロン新 生に影響した可能性は低いと考えられた。 本研究では,歯状回門においてRELN や SST,カルシウム結合タンパク質を発現す る介在ニューロンの分布に変動がみられなかった。第1 章でも触れたように,海馬歯状 回は脳の他部位から様々な神経伝達入力を受け取っている [12,54] 。関連する遺伝子
39 群の発現量解析により,1.0 ppm では Chrna7 の発現量低下と Chat の発現量増加がみら れた。歯状回におけるニューロンはアセチルコリン作動性入力を受けており,ニコチン 型レセプターサブユニットであるCHRNA7 と CHRNB2 を含むレセプターを発現してい る [54] 。顆粒細胞における発現に加えて,CHRNA7 は GABA 作動性介在ニューロン の一部でも発現しており,神経保護作用に関与しているとされる [62] 。また,CHRNA7 ノックアウトマウスは海馬における細胞増殖活性や樹状突起形成の低下を示す [67] 。 本研究において,AFB1発達期曝露により0.3 ppm から歯状回門における CHRNA7 陽性 細胞数が減少した。SGZ において CHRNA7 を介してアセチルコリン作動性入力を受け 取るニューロンは分裂活性を有する前駆細胞であり [72] ,アセチルコリン作動性入力 の低下によって抑制される樹状突起の成長はtype-3 前駆細胞でみられる [13] 。このこ とから,AFB1発達期曝露によりCHRNA7 レセプターを介するアセチルコリン作動性入 力が減少したことで,type-3 前駆細胞が選択的に減少した可能性が考えられた。 本研究ではD2 ドーパミンレセプターをコードする Drd2 の発現量も減少した。D2 レセプターを介するドーパミン作動性入力は,毛様体神経栄養因子 (CNTF) を介して ニューロン新生を活性化する [127] 。しかしながら本研究では Cntf の発現量に変動を 見出せなかった。さらに,D2 レセプターのアゴニストは顆粒細胞系譜の増殖や生存に 影響を及ぼさないことが報告されている [111] 。本研究において,Cntf の発現量変動が みられないことから,Drd2 の発現量減少は type-3 前駆細胞の減少には関与していない と考えられた。一方で歯状回門のGABA 作動性介在ニューロンはコリンアセチルトラ ンスフェラーゼを発現しており [68] ,D2 レセプターアゴニストである haloperidol は ラット脳においてアセチルコリントランスフェラーゼの発現量を増加させる [61] 。従 って,Drd2 発現量の減少は Chat 発現量の増加に関与した可能性が考えられた。 BDNF は神経栄養因子に属するタンパクであり,ニューロン新生を亢進することが 示されている [97] 。また,アセチルコリン作動性,ドーパミン作動性入力によって発 現が制御されている [39,82] 。さらに BDNF はアセチルコリン作動性ニューロンの生
40 存及び分化を補助するとされている [73] 。BDNF は海馬では顆粒細胞において産生さ れ,歯状回門における介在ニューロンやアンモン角CA3 の錐体細胞の神経成長に重要 な役割を果たしている [121] 。本研究では,AFB1の発達期曝露により,Bdnf の発現量 が1.0 ppm で低下し,歯状回門における BDNF が結合した活性型 TRKB レセプターを発 現する介在ニューロン数が0.3 ppm から減少した [72] 。この結果から,AFB1発達期曝 露は,直接の標的は不明であるものの,BDNF とアセチルコリン両方のシグナル経路を 抑制したと考えられた。Sakata らは活性化した BDNF を持たないマウスは,海馬におい てDrd2 の発現量低下を示すが,他のドーパミン作動性,ノルアドレナリン作動性レセ プターには変動がないことを報告している [93] 。本研究でも同様の変化が観察されて おり,BDNF-TRKB シグナルの抑制がドーパミン作動性シグナルを抑制した可能性が考 えられた。BDNF の海馬における発現にはエピジェネティックな制御機構が関与してい る例が多く報告されている [8,65,109] 。しかしながら,本研究において遺伝子発現 抑制につながるプロモーター領域におけるCpG アイランドの過メチル化を,Bdnf 遺伝 子について見出すことはできなかった。この結果は,DNA の過メチル化によるエピジ ェネティックな機構が,AFB1によるBdnf の発現量減少に関与していないことを示した。 本研究において児動物のニューロン新生への影響に基づくNOAEL は 0.1 ppm と判断 された。同時に,DNA 修復に関与する遺伝子群の発現変動や,DNA 障害のマーカーで あるγ-H2AX 陽性細胞数の変動がみられなかったことから,AFB1によるニューロン新 生障害にはDNA 障害は関与していないと考えられた。障害がみられた用量における乳 中AFM1濃度は26 µg/kg であり,コーデックス委員会によって定められている牛乳にお ける規制値の約50 倍に相当した [41] 。しかしながら乳幼児は体重あたりの牛乳摂取 量が大きいことから [104] ,乳牛飼料中の AFM1は慎重に規制する必要があると考えら れる。 結論として,ラットにおけるAFB1の発達期曝露は,児動物におけるニューロン新生 を可逆的に障害し,その標的はtype-3 前駆細胞であることが明らかとなった。その機序
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として,0.3 ppm からみられたアセチルコリン作動性入力の抑制と,BDNF-TRKB シグ
ナルの減少が考えられた。AFB1による児動物ニューロン新生障害によって算出される