肺動静脈瘻コイル塞栓術後遠隔期に他肺動静脈瘻の増大
および治療後病変の再疎通を認めた 1 例
笠井 大1 佐藤 崇翔2 笠原 靖紀1 杉浦 寿彦1 東出 高至3 須田 理香1 加藤 史照1 竹内 孝夫1 坂尾誠一郎1 田邉 信宏1 巽 浩一郎1 要 旨:症例は 42 歳女性。1994 年右 S3,左 S10 肺動静脈瘻の診断にて左 S10 肺動静脈瘻に対しコイ ル塞栓術を行った。2010 年 9 月造影 CT で右 S3 肺動静脈瘻の増大を認め,左 S10 肺動静脈瘻も再疎 通が疑われた。2011 年 9 月右 S3 肺動静脈瘻に対してコイル塞栓術を施行し,左肺動脈造影で左 S10 肺動静脈瘻の再疎通を認めた。肺動静脈瘻は長期経過で増大や再疎通を認めることがあり,長期的な 評価が必要である。(J Jpn Coll Angiol 2013; 53: 121–125)Key words: pulmonary arteriovenous malformation, enlargement, recanalization
2013年 3 月 19 日受付 2013 年 7 月 3 日受理 1千葉大学医学部呼吸器内科 2千葉大学医学部医学科 3千葉大学医学部放射線科 doi: 10.7133/jca.13-00015 ●症例報告● 序 言 肺動静脈瘻は肺動脈と肺静脈が異常吻合をきたす血管 性病変である。肺動静脈瘻は約 25%の症例において,自 然経過でその大きさが年間 0.3 から 2.0 mm 増大すること が報告されている1)。また,治療については外科的切除 術に代わり,現在は経カテーテル塞栓術が主体となって きているが詳細に検討すると塞栓術後の再疎通がときに 認められることが問題となっている2, 3)。今回,われわれ は 18 年前に肺動静脈瘻の経カテーテルコイル塞栓術を行 い,その後,長期にわたって経過を観察し,胸部 X 線の みでは発見できなかった未治療の病変の増大と治療後の 病変の再疎通をきたした症例を経験したため,若干の文 献的考察を加え報告する。 症 例 症 例:42 歳,女性 主 訴:なし 既住歴:特記事項なし 家族歴:父:直腸癌,肺癌,母:狭心症,血縁者に肺 動静脈瘻や鼻血を繰り返す者はいない。 現病歴:1994 年検診で胸部 X 線写真上,胸部異常陰影 を指摘され,当科に紹介された。精査の結果,右 S3 お よび左 S10 の肺動静脈瘻の診断となった。右 S3 の肺動 静脈瘻は径 10 mm で,流入血管は右 A3b のみの simple typeであり,血管径が 2 mm と細かったため経過観察と なった。左 S10 肺動静脈瘻は径 30 mm で,左 A10b およ び左 A10c からの流入血管がある complex type であり, ともに血管径が 3 mm を超えていることから,同年 11 月 コイル塞栓術を行った(左 A10b からの流入血管に対して は Helix 5 mm×15 cm 2 本,BOD coil 4 本,左 A10c から の流入血管に対しては Helix 6 mm×20 cm 2 本,Helix 4 mm×8 cm,Helix 4 mm×12 cm を留置した)。この際に 行った全身検索では脳や肝等の肺以外の臓器に動静脈瘻 や奇異性塞栓症は認めなかった。以後,胸部 X 線写真の みで経過観察していたが,明らかな変化はなかった。 2010年 9 月に造影 CT を行ったところ,右 S3 の肺動静 脈瘻の増大を認め,左 S10 の肺動静脈瘻も再疎通が疑わ れた。2011 年 9 月 9 日,右 S3 の肺動静脈瘻に対するコ イル塞栓術目的に当科入院となった。 生活歴:喫煙:20 本 / 日 32∼40 歳,アルコール:機 会飲酒 職業歴:理容師,粉塵・アスベスト暴露歴なし
脈管学 Vol. 53 アレルギー:薬・食物なし 入院時所見:入院時現症:身長 156 cm,体重 53 kg, 血圧 123/62 mmHg,脈拍数 68/ 分,体温 35.7 度,SpO2 98%(室内気),胸部:ラ音は聴取せず,収縮期雑音を聴 取。四肢の浮腫なし。 血液検査所見:血算:WBC 8700/μg(SEG 49.7%,EO 2.2%,BA 0.3 %,MO 4.3 %,LY 43.5 %),RBC 470 × 104/μl,HGB 14.2 g/dl,HCT 41.6%,MCV 88.5 fl,MCH 30.2 pg,MCHC 34.1%,PLT 26.3 × 104/μl,生化学:GOT 15 U/l,GPT 12 U/l,LDH 197 U/l,ALP 224 U/l,γ-GTP 21 U/l,TP 7.4 g/dl,ALB 4.4 g/dl,TG 165 mg/dl,UA 4.9 mg/dl,UN 12 mg/dl,CRE 0.68 mg/dl,T-BIL 0.6 mg/dl, C-BIL 0.0 mg/dl,T-CHO 182 mg/dl,Na 138 mmol/l,K 3.9 mmol/l,Cl 104 mmol/l,凝固系:APTT 30.6 sec,PT 10.6 sec,PT% 105%,PT-INR 0.94,D-dimer 0.3 μg/ml,炎 症反応:CRP 0.0 mg/dl 心電図:正常範囲。 動脈血液ガス分析(100%酸素吸入後):pH 7.46,PaCO2 33 Torr,PaO2 570 Torr,シャント率(QS/QT) 6.36%(基準 値 2∼5%) 画像所見:胸部単純 X 線写真では左下肺野の心陰影背 側に以前に治療を行った左 S10 動静脈瘻のコイルを認 める。右 S3 の動静脈瘻は肺門部と重なり,陰影を認め ない。 胸部造影 CT 写真(Fig. 1A∼C)では右 S3 に 20×13 mm 大の肺動静脈瘻を認め,右 A3b からの流入血管が径 4.3 mmであった。他院の画像のため縦隔条件が紛失して おり,肺野条件での比較となるが前回の治療前の 1994 年 7月の造影 CT 写真(Fig. 1D)と比較すると,約 16 年の経 過で右 S3 動静脈瘻は径 10 mm だったものが 20×13 mm に増大し,右 A3b からの流入血管も径 2 mm だったもの が径 4.3 mm と拡張していた。左 S10 肺動静脈瘻を 4D 構 築したところ,左 A10b コイル塞栓部からの再疎通が疑 われた(Fig. 2)。 コイル塞栓術:右鼠径部よりアプローチし,右肺動脈 造影を行い,右 S3 の肺動静脈瘻を確認した(Fig. 3A)。 7Frパトリーブガイディングカテーテルを挿入し,そこ から 4Fr ベレンシュタインカテーテルを用いて右 A3b か らの流入血管を選択した。パトリーブガイディングカ テ ー テ ル の バ ル ー ン で 流 入 血 管 の 血 流 を 遮 断 し, Interlock 6 mm×20 cm を肺動静脈瘻手前の側枝にアンカリ ングさせながら留置し,さらに Interlock 5 mm×15 cm, Orbit Galaxy Complex Fill 5 mm×15 cm,4 mm×12 cm, 3.5 mm×9 cm,3 mm×8 cm,Trufill Pushable Complex
5 mm×4 cm 3 本,4 mm×3 cm を留置した。コイル塞栓後
の 肺 動 脈 造 影 で は 肺 動 静 脈 瘻 が 描 出 さ れ な か っ た Figure 1 (A, B, C) Chest enhanced-CT showing a
pulmo-nary arteriovenous fistula in right S3 and Feeding artery (→ ) measured 4.5 mm in diameter. (D) Compared with chest enhanced-CT performed on first presentation (1994), the pulmonary arteriovenous fistula and feeding artery in right S3 has enlarged.
A B C D
(Fig. 3B)。 右 S3 肺動静脈瘻のコイル塞栓術後,左肺動脈造影を 行ったところ,1994 年にコイル塞栓を行った左 S10 肺動 静脈瘻で左 A10b からの再疎通を認めた(Fig. 4)。こちら については今後コイル塞栓術を再度行うこととした。 コイル塞栓術後の胸部造影 CT では右 S3 肺動静脈瘻の 再疎通は認めず,また,合併症もなく,術後 7 日目に退 院となった。 1 年後の経過観察の胸部造影 CT でも右 S3 肺動静脈瘻 の再疎通は認めなかった。左 S10 肺動静脈瘻に対しては 2012年 9 月にコイル塞栓術を施行した。両病変ともに今 後も慎重な経過観察を継続していく予定である。
Figure 2 Four-dimensional (4D) CT suggesting recanalization of the fistula in left S10 from left A10b.
Figure 3 (A) A right oblique view of an angiogram of the right pulmonary artery showing a
well-defined fistula before coil embolization. (B) The fistula disappeared after coil emboliza-tion.
A B
Figure 4 A frontal view of an angiogram of the left pulmonary
artery showing a recanalization of the pulmonary arteriovenous fis-tula in left S10 from left A10b.
脈管学 Vol. 53 考 察 肺動静脈瘻は,肺動脈と肺静脈が異常吻合をきたす血 管性病変であり,80%以上が先天性で,そのうち,欧米 では 47∼80%は遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia; HHT)に合併するとされる4)。 臨床的には動静脈瘻型が多く,ほとんどが肺動脈と肺 静脈との短絡であり,毛細血管領域で吻合している。流 入・流出血管がそれぞれ 1 本である simple type と,2 本 以上の流入血管がある complex type がある。組織学的に は動脈壁は菲薄化しており,筋線維や弾性線維組織は脆 弱化している。そのため,肺動静脈瘻は自然経過で増大 することがある。Pollak らは 155 症例の肺動静脈瘻の経 過観察で 18%に増大が認められたと報告している5)。 症状はチアノーゼ,ばち指,赤血球増多症が三主徴で あるが,無症状の場合も少なくないため,健康診断によ る胸部単純 X 線写真上の異常陰影として発見される場合 が多いようである。低酸素血症,心不全,中枢神経系, 全身の塞栓症等の症状を呈する。治療については外科的 切除術に代わり,現在は経カテーテル塞栓術が主流と なってきている。一般的に治療の適応となる肺動静脈瘻 は低酸素血症,心不全,中枢神経系等の臨床症状を有す る症例である。また,無症状であっても動静脈瘻の大き さが 20 mm 以上,あるいは流入血管の径が 3 mm 以上の 病変は治療の適応となる。しかし,中枢神経系の合併症 のリスクを減らすためには,手技的に塞栓可能な病変は すべて塞栓術の適応にすべきであるという報告もあ る6)。経カテーテル塞栓術の成功率は極めて高いといわ れているが,近年,治療後の再疎通が問題となってい る。Milic らは治療後の再疎通の原因として流入血管の拡 大,少数のコイルでの塞栓,流入血管に対してサイズの 大きいコイルでの塞栓,コイルの留置する位置が肺動静 脈瘻より 10 mm 以上離れていることを挙げている7)。現 在,塞栓術のためのさまざまなデバイスが登場してお り,その効果が検証されているが再疎通のリスクなどに ついては長期的な観察が必要であり,どのデバイスが最 も効果的かは統一されていない。また,塞栓部位につい ても流入血管が一般的であるが,Hayashi らは肺動静脈 瘻自体をコイル塞栓することで流入血管のコイル塞栓に 比べ,再疎通のリスクが有意に減少したと報告してい る8)。しかし,瘻自体を塞栓するには多数のコイルを使 用する必要があるという問題点もある。 Remy-Jardin らが肺動静脈瘻の塞栓術後の経過を観察し た報告では長期にわたり肺動静脈瘻の縮小や消失,流入 血管の縮小が得られたのは 75%であり,19%に再疎通が あったとされている2)。また,Mager らが 112 症例の肺動 静脈瘻の塞栓術後の経過を観察した報告では 17%で再疎 通および未治療病変の増大により再度の塞栓術を行った として,肺動静脈瘻の塞栓術後も定期的な経過観察が必 要としている3)。Trerotola らは治療後 3∼5 年ごとに画像 での長期の経過観察を推奨している9)。 評価方法としては未治療の肺動静脈瘻の増大や治療後 の再疎通の正確な評価のためには胸部 X 線写真では不十 分である。本症例でも胸部 X 線写真では明らかな変化が 認められず,肺動静脈瘻の増大や治療後の再疎通の発見 が遅れたことから,胸部 CT での経過観察が望ましいと 考えられる。CT 装置の進歩により 3D 再構成,4D 再構 成 CT 画像の作成が可能となっており,血流をより詳細 に知ることができるため診断に有効であったとする報告 がみられる10, 11)。今までは再疎通の判定には肺動脈造影 が必要であったが本症例では 4D 再構成 CT 画像にて低侵 襲で治療後の再疎通を発見することができ,脳梗塞など の合併症を発症する前に再治療を行うことができた。肺 動静脈瘻は致命的な合併症をきたすこともあるため,治 療後であっても CT を用いた長期にわたる慎重な経過観 察が必要である。 文 献
1) Gossage JR, Kanj G: Pulmonary arteriovenous malforma-tions. A state of the art review. Am J Respir Crit Care Med 1998; 158: 643–661
2) Remy-Jardin M, Dumont P, Brillet PY, et al: Pulmonary arte-riovenous malformations treated with embolotherapy: helical CT evaluation of long-term effectiveness after 2–21-year fol-low-up. Radiology 2006; 239: 576–585
3) Mager JJ, Overtoom TT, Blauw H, et al: Embolotherapy of pulmonary arteriovenous malformations: long-term results in 112 patients. J Vasc Interv Radiol 2004; 15: 451–456
4) Vase P, Holm M, Arendrup H: Pulmonary arteriovenous fistu-las in hereditary hemorrhagic telangiectasia. Acta Med Scand 1985; 218: 105–109
5) Pollak JS, Saluja S, Thabet A, et al: Clinical and anatomic outcomes after embolotherapy of pulmonary arteriovenous malformations. J Vasc Interv Radiol 2006; 17: 35–44; quiz 45 6) Pugash RA: Pulmonary arteriovenous malformations: over-view and transcatheter embolotherapy. Can Assoc Radiol J 2001; 52: 92–102
7) Milic A, Chan RP, Cohen JH, et al: Reperfusion of pulmonary arteriovenous malformations after embolotherapy. J Vasc Interv Radiol 2005; 16: 1675–1683
8) Hayashi S, Baba Y, Senokuchi T, et al: Efficacy of venous sac embolization for pulmonary arteriovenous malformations: comparison with feeding artery embolization. J Vasc Interv Radiol 2012; 23: 1566–1577
9) Trerotola SO, Pyeritz RE: PAVM embolization: an update. AJR Am J Roentgenol 2010; 195: 837–845 10) 手塚大介,佐藤弘典,岸野充浩,他:奇異性脳塞栓で 発症し 3D-MDCT にて描出し得た肺動静脈瘻に対して コイル塞栓術を施行した 1 例について.心臓 2011; 43: 766–771 11) 山道 尭,杉浦寿彦,笠原靖紀,他:320 列 CT を用い て経過観察しえた経カテーテル塞栓術を施行した肺動 静脈瘻の一例.日呼吸会誌 2011; 49: 62–65
A Case of Pulmonary Arteriovenous Fistulas Which Showed Enlargement of
the Other Fistula and Recanalization of the Treated Fistula after
Coil Embolization at Postoperative Remote Term
Hajime Kasai,1 Takato Sato,2 Yasunori Kasahara,1 Toshihiko Sugiura,1 Takashi Higashide,3 Rika Suda,1
Fumiaki Kato,1 Takao Takeuchi,1 Seiichiro Sakao,1 Nobuyuki Tanabe,1 and Koichiro Tatsumi1 1Department of Respirology, Graduate School of Medicine, Chiba University, Chiba, Japan
2School of Medicine, Chiba University, Chiba, Japan
3Department of Radiology, Graduate School of Medicine, Chiba University, Chiba, Japan
Key words: pulmonary arteriovenous malformation, enlargement, recanalization
In 1994, a 42-year-old woman was diagnosed with two pulmonary arteriovenous fistulas in right S3 and left S10. Coil embolization was performed for the left S10 fistula. In September 2010, chest enhanced computed tomography (CT) showed enlargement of the other fistula and recanalization of the treated fistula. Coil embolization was performed in the right S3 fistula the following year. Angiogram of left pulmonary artery displayed recanalization of the fistula in left S10. Pulmonary arteriovenous fistula may grow in natural course. In addition, recanalization after coil embolization should be noted. Therefore, regular follow-up using enhanced computed tomography is necessary.