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労働力需給の一致と労働力の価値法則について-香川大学学術情報リポジトリ

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労働力需給の一致と労働力の

価値法則について

山 下 隆 資 Ⅰ.はじめに。ⅠⅠ.「不利な商品」としての労働力商品の特殊性。ⅠⅠⅠ.労働 力商品への価値法則適用否定説。ⅠⅤ/「否定説」の問題点。Ⅴ労働力需 給調節機構と労働力の価値法則の貫徹。ⅤⅠ‖むすび。 Ⅰ 周知のとうり,労働力が商品化することによって,商品による商品の生産社 会としての資本制社会が成立し,商品経済社会の体制法則としての価値法則が 賃徹する。 しかし,資本制社会成立の核心ともなるペきこの労働力商品は,−▲般紅「過 剰な商品」「不利な商品」といわれており,さらに・一・般商品に対して作用する ような価格の需給調節機能が,十分に作用しないことから,「労働力商品紅ほ 価値法則が 見解が生じることとなっている。 小稿では,労働力商品には価値法則が貫徹されないという見解をとりあげ, その問題点を指摘し,続いて,労働力商品に価値法則が貫徹するという立場か ら,その根拠を明らかにしたい。 ⅠⅠ

まずはじめに,労働力商品は,その販売紅あたって「不利な商品」であると

いう点からながめてゆくことにする。 資本制社会でほ,労働生産物はすべて商品として生産され販売されるが,そ の商品の市場価格ほ,売り手間の競争,買い手間の競争,売り手と買い手間の 競争という,いわゆる「三面競争」の圧力が均衡する点で決まる。労働力商品

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労働力需給の一・致と労働力の価値法則に.ついて −J2β− の価格もそ・の例外ではない。 ところが労働力商品の舜貫に・あたっては,その買い手であり貨幣所持者であ る資本家も,労働力の所持者である労働者も,形式的にほ「互いに対等な商品 所持者」として,「法律上では平等な人」として労働市場に登場する。しかし琴 質的にほ.決っして−平等な関係にあるのではなく,種々な点で労働力商品の販売 者の方が不利な立場におかれているといわれている。そしてこのこ.とから,労 働力商品の「価倍と価格の一・致の条件」がしばしば破壊され,「価値の実現」 「価値どうりの販売」が困難となり,労働力は「不利な商品」であるといわれ ることになって−いるのである。さてそれでほ,−り体どういう点で労働力ほ「不 利な商品」となってし、るのであろうか,その点について以下で簡単に.ながめて みることに.する。 その第1は,労働力商品は,売り控えによる貯蔵ないし保存ができないとい うことである。労働力とは「肉体的および精神的諸能力の総体1)」にはかなら ず,人間の肉体そのものの中にだけ存在するものである。したがって,たと.え それが使用されなくとも,労働力の・一月の使用価値は,時間の経過ととも紅そ の日のうちに着実に消耗してゆき,翌日に.持ちこすおけにほゆかない。かくて −・般商品のように市場価格の安い時点で売り控え,貯蔵・保存し,価格の上昇 した時点で再び販売するというわけにほゆかず,たとえその日の労働力の価格 が安くとも,その日のうちに販売し尽さなければならないのである。 第2ほ,さらに,たとえ.労働力商品の価格が安くとも,労働力を販売せざる をえないような「経済的強制」が,労働者に対して働いているというこ.とであ る。資本制社会に.おける労働者は「自分の労働力の実現のために必要な」すべ ての生産手段から引き離されており,したがって−「自分の労働の対象化されて いる商品を売ること隕できないで,ただ自分の生きている肉体のうちにだけ存 在する自分の労働力そのものを商品として売り出さなければならない2).」立場 におかれている。このようなことから労働力の販売者ほ,みずからの生活を維 持し生命を維持してゆくためには,たとえ労働力の価格が安くとも,それを販

1)K・Marx,Das Kapital,Dietz VerlagBerlin,1962,Bd”Ⅰ,S”181,岡崎次郎粥

『資本論』(『マルクス=エンゲルス全集』版)第1分冊,219ぺ−・汐。

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J974 香川大学経済学部 研究年報14 一欄ヱ24−− 売せざるをえないのである。 第3は,労働力商品の売買でほ,販売契約時点で販売価格が決定されても, 実際の支払いは,現実に労働がなされた後においてはじめておこなわれるとい うととである。 一・般商品の場合であれば,商品の販売者と商品とほ物理的に分離しているた め,売買契約成立と同時に,商品の使用価値を購買者の手に移動さすことがで きる。だが労働力商品の場合は,労働者と労働力とは分離不可能であり,「買 い手と売り手とが契約を結んでも,この商品の使用価値はまだ現実に買い手の 手に.移ってV、ない8)」。労働者が労働力商品の使用価値を資本家に引渡すには, 現実に−・定の時間,資本の生産過程で労働しなければならないのである。この ように労働力商品の売買では「版売による使用価値の形式的譲渡と購買者への その現実的引渡しとが時間的に.離れている4)」ことから,労働力の価格である 賃金の支払いも,労働力の使用価値の「現実的引渡し」がなされた後ではじめ ておこなわれることになっているのである。そしてこの賃金の「後払い」は, 労働者が資本家に「僧用貸し」をおこなって−いることを意味し,「資本家が破 産すると信用貸しされていた賃金の損失が時おり生ずる5)」ことになるし,ま た「後払い」によって,賃金があたかも仝労働に対して−支払われたごとく現象 し,剰余労働の搾取が隠蔽されて−しまうことにもなり,労働者に不利に作用す るのである。 欝4ほ,労働力商品の販売者は,その使用価値を引渡す一億時間のあいだ, 資本家の指揮・監督に従がわなければならず,しかもその間,しばしば労働力 の再生産が維持できなくなるはどの労働力の消耗・支出の増大がもたらされる というととである。 資本家は,・一日の労働力の価値を支払って労働力商品を買った以上,その「労 働力の使用は,他のどの商品の使用とも同じ紅,たとえば彼が・一日だけ賃借 した馬の使用と同じに,その一日は彼のもの6)」となっているから,労働者は 3)K小MaI・Ⅹ,Ibid,S..1鐘.邦訳,同上,第1分冊,227ぺ−ジ。 4)・K.MaIⅩ,Ibid,S.188.、邦訳,同上,第1分冊,227ぺ・−ジ0 5)Ⅹ.Ma‡・Ⅹ,Ibid,S.188・邦訳,同上,第1分冊,228ぺ・−ジ。 6)Ⅹ.MaI・Ⅹ,Ibid,S.200・邦訳,同上,第1分冊,243ぺ−・ジ9

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労働力需給の−・致と労働力の価値法則について 一ヱ25一 資本家の指揮・監督に従がわざるをえない。しかもこの場合,資本の本性が価 値増殖ということから,資本家ほ可能な限り労働力支出の増大をはかろうとす る。資本家が生産過程で労働力の支出を増大させる方法としては.,労働日を延 長させる方法と,労働密度を増大させる方法とがあるか,ここに.資本家対労働 者の「同等な権利と権利」の主張をめぐっての階級闘争が必然的に生じること に.なる。すなわら,資本家は「■商品交換の法則」をたて紅,購入した労働力の 使用価値から「できるだけ大きな効用」を引き出すことは,.買い手としての当 然の権利であると主張し,他方労働者は,同じく「商品交換の法則」をたてに, 労働力商品をその価値紅したがって販売することを,つまり労働力の支出が・− 定の限度を超えると健全な労働力の再生産が不可能となるから,労働力の支出 を正常な限界に制限することを,売り手の当然の権利として主張する。どちら の主張も共紅「商品交換の法則によって−保証されている権利」であり,このよ うな「同等な権利と権利とのあいだではカがこ.とを決っする7)」ことになる。 そして多くの場合,このカとカの対決では労働力の販売者の方が不利であり, しばしば過度な労働力支出が強いられ,時紅は肉体的。精神的疲労の蓄積砿よ って疾病や病死を招き,労働力そのものが破壊されることになるのである。 第5ほ.,労働力商品ほ,相対的に過剰な商品であるということである。資本制 社会では,資本は,資本構成の高度化をともなう蓄積をおしすすめることによ って「資本の変転する増殖欲求のために,いつでも搾取できる人間材料を,現 実の人口の増加の制限紅はかかわりなしに.,つくりだす8)」ことができる。そし て−またこのようにして形成された相対的過剰人口の存在が「資本主義的蓄積の 横杵に,じつに資本主義的生産様式の・一つの存在条件9)」になっているのであ る。つまり好況局面での「生産規模の突発的な発作的な膨張」は「利用可能な 人間材料なし紅は,人口の絶対的増加に依存しない労働者の増加なしにほ,不 可能10)」であるが,資本構成の高度化を伴う蓄積による相対的過剰人口の形成 が,まさにその「発作的な膨張」時に,労働人口の自然的増加とほ別に,資本 7)K.MaI・Ⅹ,Ibid,S249.邦訳,同上,第1分冊,305ぺ一汐。 8)Ⅸ.MaIⅩ,Ibid,S.661,邦訳,同上,第2分冊,823ぺ−ジ。 9)Ⅹ.MaIⅩ,Ibid,S.661,邦訳,同上,第2分冊,823ぺ−汐。 10)Ⅹ.MaI・Ⅹ,Ibid,S.662,邦訳,同上,第2分冊,824ぺ−ジ∼825ぺ・−ジ?

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香川大学経済学部 研究年報14 ヱ974 −J26− が自由に使用することのできる失業者軍=産業予備軍を準備しておくことにな っているのである。そして−また相対的過剰人口の存在ほ,労働力商品の販売東 関の競争を激化させ,この「競争の圧力」が,現役労働者軍匪」対しても,「負 金の引下げ」「過度労働」「資本の命令への屈従」といったような強制を加える ことになり,労働力商品の取引条件をいちぢるしく悪化させるのである。 欝6は,労働力商品に対してはり 資本によって直接的に生産される一・般商品 に作用するような,価格の需給調節機能が十分に働かないということである。 資本制社会でほ.,事前に.社会全体での生産計画をたて.てから商品生産を行な うのではなく,個々の資本家が,独自の判断にもとづいて生産計画をたて−,自 由に商品生産を行なっている。つまり無政府的生産を特徴としている。したが って生産された商品患が社会の需要鼻に.対し過剰であったり,不足であったり することが常態であり,需要と供給が一・致することの方がむしろ偶然である。 しかし資本制社会がこのような無政府的生産を特徴としながらも,歴史上の一− つの社会構成体として成立しているのは,個々の資本紅よって生み出される商 品の供給藍を,社会的需要把.たえず一・致させる,需給調節のための機能が作用 しているからである。そしてその機能を果しているのが,商品の市場価格の変 動である。 たとえばある部門で生産される商品が,社会で必要とされて−いる塁を超えて 過剰に生産されると,商品の市場価格は.その生産価格以下に低落し,その部門 の個別的利潤率は・−・般的利潤率よりも低下する。すると資本家は生産規模を縮 小させたり,あるいほ個別的利潤率のより高い他の部門へと資本を移動きせ る。その結果商品の供給盈が減少し,商品の過剰状態ほ次第に解消し,低落し ていた商品の市場価格も上昇しだす。これとほ逆に.,生産された商品屋:が,社 会的需要紅くらペて不足している場合にほ,そ・の商品の市場価格は生産価格以 上に高騰し,個別的利潤率は一・般的利潤率よりも上昇する。すると資本家ほ.生 産規模を拡大させたり,あるいほ個別的利潤率のより低い他の部門から資本が 流入して釆て,その部門での供給景が増加し,やがて商品の不足状態は解消 し,騰貴していた商品の市場価格も下落しだす。このように資本制社会では, 無政的生産を特徴としながらも,商品の市場価格の琴動が交通信号機のような 役割を果すことによって,需給の調節がたえザおこなわれているのである。

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労働力需給の−L致と労働力の価値法則に.ついて 一J27− ところが労働力商品の場合は,価格=賃金の変動によって−その需給を調節す ることが困難である。たとえば労働力が市場で過剰となった場合,労働力の価 格ほ下落するが,しかし価格が下落したといっても直ちに労働力の供給晶を減 少させるわけにはゆかない。労働力の価格が下落すれば,生計を助けるために, それまで家庭内にいた婦人や年少労働者が新しく労働力の販売者として労働 市場把登場し,かえって労働力の供給患が増加するという側面をもつ。このこ とは現役労働者を圧迫し■,ますます労働諸条件の悪化をもたらすことになる。 また労働力の価格が下落したからといって,それが直接的紅労働力に対する需 要増をひきおこすわけでもない。−・般商品の場合であれば,市場価格の変動ほ 直接需給関係によって規制されるのであるが,他方では,市場価格の変動がま た需給関係を規制するという関係がある。たとえば供給過剰に.よって市場価格 が下落すれぼ,と.の価格の下落は供給の減少と同時に需要の増大をひきおこす のである。ところが労働力商品の場合はそういうわけにほゆかない。資本家が 労働力を購買するのは,それを消費するこ.とに.よって何らかの個人的欲望を直 接的紅満足させるためではなく,労働者に商品を生産させ,それを販売し,資 本の自己増殖をはかるためである。したがって労働力の価格の下落が,直穣的 に資本家の労働力に対する需要の増加を呼びおこ.すとはいえず,商品の市場価 格の変動の方が,資本家の労働力に対する需要鼠決定に直接的な影響を与える のである。「労働力に対する資本家の需要患の決定は,生産=商品供給鼠の決 定に従属し,生産に.関する決定は,商品市場の状態に依存している11)」という ことができるのである。 さらに.これとは逆に.,労働力紅対する需要が急激に増大し,労働市場が逼迫 し、,労働力の価格が高騰したとして−も,−・般商品のように.直ち紅生産屋・を増加 させ,供給盈を増加させ,その増大する需要をみたすわけに.もゆかない。たと え賃金の高騰に.より生活が豊かに.なり,結婚出産が促進され人口が増加したと しても,それがいわゆる労働力として使用可能となるに・は,かなり長期の年月 を必要とするのである。 こ.のように.,労働力商品紅対しては価格の需給調節機能が十分に.作用しない のであるが,ここでもし労働力商品が相対的に・不足する商品であるならば,こ 皇1)置塩信雄昭㈲剛64ぺ・−ジ9

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J974 香川大学経済学部 研究年報14 −Jごβ一一 の価格の需給調節機能の「欠如」ほ,かえって−労働者に有利に作用するこ・と に.なる。しかレすでに欝5で述べたように,労働力商品は相対的に過剰な商品 であるということから,価格の需給調節機能の「欠如」は,逆に,労働者紅対 して不利に作用するのである。 ⅠⅠⅠ 前節で労働力商品は,その売買に.あたって,種々の点でその販売者の方が「 不利」な立場に立たされているということをみて来たが,労働力商品紅価値法 則が貫徹されるか否かの問題を考えるうえで特に重要なの牲,鱒5で指摘した 相対的過剰人口の形成。存在と,欝6で指摘した労働力商品には価格の需給訝 節機能が十分紅作用しないという2点であると考え.られる。 たとえばわが国では,山本二三丸氏12),黒川俊雄氏13),吉村励氏14),小川登 氏15)などをはじめとする多くの方々が,労働力商品ほ相対的に過剰な商品であ るということから,労働力の需給−・致の条件が破壊され,労働力の価格は価値 以下に低下し,価値と価格が一・致するという意味での価値法則は,労働力商品 には貫徹しないと主張されているし,他方,諸外国でほ,P.M.スウイージー1の, 12)山本二三丸『■労働賃銀』113ぺ一汐∼114ぺ−ジ。 13)黒川俊雄『賃金論入門』,43ぺ−ジ。 14)吉村励『現代の賃金問題』27ぺ一汐∼28ぺ−汐。 15)小川登稿「賃労働の理言削(岸本英太郎編『労働経済論入門』所収)

16)P..M小Sweezy小TheTheoryofCapitalist Development,Monthly Review Press, New yoIk,1964,p..84..都留重人訳『資本主義発展の理論』103ぺ一汐。 スウイージーは次のように述べる。「葦至純再生産を問題」とするとき紅は「労働力の 価格とその価値とのあいだに帝離をもたらすように.作用するカは全然存在しない」の で「労働力はその価値どおりに売られると仮定することができた」。だがしかし拡大 再生産,つまり蓄積を問題とするときには事態は異なってくる。なぜなら蓄積は,可 変資本の増大をともない労働力に.対する需要の増大をもたらす。この需要の増大が労 働力の価格の上昇をもたらすこととなり,労働力の「価格の価値からの帝離を生む」 ことになる。そしてこの場合重要なことは「労働力の価格が騰貴したからといって, 労働力の生産に転じうるような資本家は1人もいない」し,「綿布製造業があるとい った意味では『労働力工業』なるものはまったく存在しない」ということである。こ のように労働力商品の場合は,生産過程で直接生産される商品に対して作用するよう な市場価格の変動をとうしての雫姶均衡メカニ・ズムが「欠如」しており,「価値法則

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労働力需給の一・致と労働力の価値法則について −J29】

0.ラング1り,R.L.ミ−ク18)などが,労働力商品には価格の需給調節機能が十

分に作用しないというととから,労働力商品への価値法則適用の困難性を強調 している。 これらの諸氏の中で,最近では小川登氏がこの問題に.閲し,比較的詳細に自 己の主張を展開されていると思われるので,ここでほ氏の見解を中心に√とりあ げ検討すると.と紅する(なお(Ⅴ)ではスウイ、−ジーなどの見解に対しても答 えたい)。 小川氏は,岸本英太郎編『労働経済論入門』算1章「賃労働の理論」の中で, 次のように述べている。「需要と供給が一−・致した時の価格のレベルが,価値で ある。労働力のばあいも,需要と供給が一徹すれば,労働力の価格(賃金)は 労働力の価値に.等しくなるこ.とは同様である19)」。しかし利潤の極大化を追求 し,たえず生産性の向上をめざす資本の蓄積運動ほ,機械設備などの不変資本 部分紅くらべ,労働力の雇用に.あてられる可変資本部分を相対的に減少させる から「労働力需給の関係は供給過剰」となる。この「労働力の過剰は,労働力 という特殊な商品について価値と価格の−・致の条件を破壊する。こういう需給 関係紅よって,労働力の価格・その転形としての『労働の価格』=賃金は価値 以下紅切り下げられる20)」と。 そして民の上記のような見解とは異なって,労働力の価値と価格は産業循環 の・一周期内で・一徹するという宇野弘蔵氏21)ぞ井村喜代子氏22)の見解に.対■して を労働力商品に.適用するにほ,若干の困難があるようである」というのである(P小M Sweezy,Ibid,p.p小84∼85,邦訳,同上,102ぺ−i7∼103ぺ−i7)

17)0.Lange,Marxian Economics and Modern Economic Theory,ed..by D Harowitz,Marx and Modern Economics,MacGibbon&Kee,1968,p…83,

名和統一・訳『現代経済学とマルクス』72ぺ−ジ∼73ぺ一汐。 18)R.L.Meek,Studiesinthelabour theoryofvalueり(SecondEdition)Lawrence &wishart,London,1973,pp184∼185。水田渾,宮本義男訳『労働価値論史研究』 231ぺ−汐∼232ぺ−ジ。 19)山本登,同上,28ぺ−ジ。 20)山本登,同上,28ぺ−ジ。 21)宇野弘蔵「労働力の価値と価格」(『マルクス経済学原理論の研究』所収,137ぺ−ジ ∼138ぺ−ジ) 22)井村啓代子「マルクス賃金論の方法論について」(藤林敬三博士還暦記念論文集『労 働問題研究の現代的課嘩』所収,鳩8ぺ一汐∼ま89ぺ一ジ)

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J974 香川大学経済学部 研究年報14 ーぷ粥トー は,「失業者がいなくなるはど吸収されるのは産業循環の1局面としての好況 期のみであり,恐慌期や不況期はいうまでもなく,中位の活況期にも失業者は 存在することに.なっている」のであるから,「産業循環の一・巡を通じて価格と 価値が−・致する保証はありえないといわねばならない2$)」と批判する。 だが逆に,小川氏のような見解紅対しても,「価格を価値に・一・致させる機能を もつ価値法則が,労働力商品においては貫徹しないことに・なるのではないか」 といった批判が当然生じてくると思われる。でほこのような批判に対して氏 はどのよう紅答えるのか。氏ほ次のように云う。「この批判ほ,労働力の価値 法則のみを自足的にとりだし,労働力だけに.おいて価値総額と価格総額が畠的 紅.−激することが価値法則であるという理解を前提としており,価値法則がそ もそも3階級(資本家,地主,労働者)に・よって構成される資本主義経済,い や少なくとも資本家と労働者の関係,を規制する社会的な本質的法則であると いう決定的問題を無視した虚構の上に成り立っているのである叫」と25)。つま り氏は,上記の批判ほ「価値法則」という言葉の意味を誤ま って理解している から,適切な批判でほない七いわれるのである。 さてそれでは氏の云う「資本主義経済,………・…… せ規制する社会的な本 質的法則」としての「価値法則」とはどのようなものなのかよ氏ほ・「価値法則 の基本的内容」として次の3つをあげる。「・一般軋価値法則という言葉は,商 品の等価交換として理解されているが,価値法則の基本的内容ほ・,まず商品の 価値の大きさが・そ・の商品を生産するのに社会的に必要な労働の患に・よって決め 23)山本登,同上,29ぺ・−汐。 24)山本登,同上,34ぺ一汐。 25)山本二三丸氏もはばこれと同様なことを主張する。氏は「(労働力)商品の販売価格 は,その再生産費=価値を中心として,その上下に動くものでは決っしてなく,きま って,価値よりずっと低い水準において−上下に動き,売り手に.とってもっとも有利な 状況のもとでも精々のところ再生産費=価値に近いところまで…それもー部の労 働力=商品のみが−上るにすぎない」と考えるわけであるが,この「労働力=商 品の販売価格がつねに原則としてその価値よりもはるかに低いところにあるという 事実」は,何ら「価値法則の侵害」でも「価値法則の作用停止」でもない。「価値法 則とは販売価格が価値に一哉すること,価値どうりに売られることではない。価値法 則は,商品生産社会で,人間の意志のいかんにかかわらずつねにかならず貫徹し, またそれによってはじめて商品生産社会が成り立つところのもので奉る」というので ある。(同著『労働東銀』114ぺ−汐)

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労働力需給の−・致と労働力の価値法則について −ヱ∂J− られるというとと(価値規定)に.ある。価値法則の展開された内容として,第 2に二,商品ほその価値に.おいて等しいもの同士が交換されるということ(等価 交換),第3紅社会的総労働の各生産部門への配分を規制するこノとである26)」。 さらに氏は,一般工業商品,農産物商品,労働力商品の3種の基本的商串を とりあげ,それぞれの価格運動のちがいを指摘し,これら資本制社会に.おける 3種の基本的商品の価格運動を全体として男徹する法則が「価値法則」である と次のように.説明する。「資本ほいうまでもなく生れながらに.水平主義者であ る。資本は工業においてはその運動・競争をつうじて利潤率を直接的に.平均化 させる動力を内的紅もっている。と七ろが農産物のばあい,土地の『有限性』 とそれを基礎とした供給不足が,資本運動の自由を制限して利潤率の平均化を 阻害するから,資本は超過利潤を第3者(地主)に・引渡すことに・よって間接的 紅平均化を実現する(差額地代)。逆に.,賃労働(労賃)のばあい,資本に.と って労働力は『無限的』であり,それを基礎としで恒常的な供給過剰状態に.あ るため,資本は自由専横をきわめ,労働力の市場価値(1物1価)を低い労働 力の個別価格紅おしこ.めて統・−するという間接的平均化(賃金の低位平準化) を実現しようとするのである。資本の水平主義の貫徹のしかたが3商品(一一般 工業品,農産物,労働力)に.おいてそれぞれ異なるのである27)」。そして−ここ で述べたような「工業に.おける利潤率の中位平準化=資本家,農産物価格の高 位平準化=地主,労働力の価格(賃金)の低位平準化=労働者という特徴ある 3者の対比のうち紅価値法則は全社会的に貫徹しているのである28)」と29)。 以上述べたようなことから,結局氏は「厳密にいえば「『労働力の価値法則』 という表現そのものが不適当なのである叫」。「多くの論者のように.,労働力の 価値・価格の究極に.おける盈的一・致があってほじめて『労働力の価値法則』が 貫徹すると理解することが全くおかしいのである31)」と結論づけているのであ 26)山本登,同上,34ぺ一汐。 27)山本登,同上,34ぺ−汐∼35ぺ一汐。 28)山本登,同上,35ぺ−汐。 29)なお,この点についてのより立入った’分析は,氏の「賃金論における平均原理と限 界原理」(『経済評論』17巻第2弓)なる論文の中でなされている。 30)山本登,同上,34ぺ−ジ。 31)山本登,同上,35ぺ−汐。

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香川大学経済学部 研究年報14 J974 ーヱ32− る。 ここで民の見解に対する結論を先取りして云うならば,氏が「価値法則とい う言葉」を単にイ商品の等価交換として理解」してはならないといい,「価値 法則の基本的内容」として3つの点を指摘されていること略,正しいと思われ る。しかし氏がさらに進んで,この「価値法則」は,「工業における利潤率の 中放平準化」「農産物価格の高位平準化」「労働力価格の低位平準化」というか たちで「3者の対比のうちに.」「全社会的紅貫徹している」というとき,つまり 当面の問題に.関していえば,「価値法則」が労働力商品に対しては価値と価格 を−・致させるものとして作用するのではなく,価格を価値以下に.低下させるも のとして作用していると主張されるこ.とに対しては,納得しがたいのである。 氏の主張とは異なって,労働力商品に.対しても価格を価値紅.−・致させる機能 が,つまり労働力の需要と供給を−・致させる機能が作用して−おり,「究極.」に おいて「価値総額と価格総額が屋的に.−・致」し,「労働力の価値法則」が「貫 徹する」と考えるのである。次節(ⅠⅤ)ではまず小川説の問題点をとりあげ, 続く(Ⅴ)で労働生産物でない労働力商品の価値と価格はどのようにしで叫・致 させられるのか,そのメカニズム=労働力の需給調節機構について述べ,労働 力商品に.も価値法則が貫徹されているこ.とを明らかにしたい。 ⅠⅤ すでに.みて来たように,′J\川説の特徴は,まず第1に.,相対的過剰人口がす べて資本に.よって吸収し尽される点,つまり完全雇用点を労働力商品の需給− 致点=労働力商品の価値と価格の−・致点として把握していること,第2に,し たがって産業循環の一周期をとうしてみると,好況期の−・時点でしか完全雇用 は達成されえなし、から,産業循環の一周期の長期平均をとれば,労働力の総供 給量ほ総需要鼻を上回り,労働力の総価格は総価値以下になると理解している こと,そしてこのような理論展開の必然的帰結として,労働力商品にほ「価値 総額と価格総額が一・致する」という意味での「価値法則」が貫徹されない,と 結論づけること紅なっているということができる。 さてこのような小川氏の見解に対してほ,ここ.で次のような二つの問題点な 指摘したい。

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労働力需給の一・致と労働力の価値法則匪∵ついて −ヱ33− その第1ほ,労働力商品の需要と供給の1一・致ということを,民のいわれるよ うに,相対的過剰人口がすべて資本に吸収されてしまう完全雇用点として把握 することが,果して一正しいかどうかという点である。 マルクスが指摘しているように,資本制蓄積ほ「相対的な,すなわち資本の 平均な増殖欲求にとってはよけいな,したがって過剰な,または追加的な労働 者人口を生み出す叫」のであり,こ.の相対的な過剰人口の存在そのものが「資 本主義的生産様式の一・つの存在条件」をなしている。そして産業資本の確立と ともに周期的に.くりかえす産業循環過程のうちで,「失業者がいなくなるほど 吸収され」完全雇用が達成されるのは,小川氏の云われるように・,「好況期」 の−・時期に.おいてのみである。だが問題は,果して,供給された商品のすべて が需要され販売される点を,そのまま,その商品の需要と供給が一・致している 点として把握することができるであろうか。答えは否である。それほなぜか0 まずこ.の問題を,資本に.よって,資本の生産過程で直接的に生産される−・般商 品の場合について考えてみよう。 われわれほ,・一・般商品における需給の一・致とはどのような状態をさしていう のか,という問題を考えるとき,それを単に,資本に・よって生産され供給された 商品鼠がすべて販売される状態として把握することはできない。その理由ほ何 か。資本制生産ほ無政府的生産を特徴としており,資本が生産し供給する商品 壷が社会的需要鼠に合致する保証はどこにもない。それゆえ資本ほ・,生産した 商品鼠が社会的需要鼠を超過しているときには,低落した価格でその商品を販 売せざるをえず,逆の場合には,騰貴した価格でもってすべての商品を販売す ることができるのである。このように資本制社会では,商品の日常の市場価格 は,需給の変動を反映してたえず変動し,この変動する価格でもって商品が販 売されることになっている。したがってもし,資本によって供給される商品が すべて販売されることをもって需給の−・致している状態と考えるなら,恐慌や それに続く不況の・一・時期といった特殊な場合を除いて,日常たえず需給が一・致 しているこ.とになってしまうのである。こ.れは明らかに不合理である。 それでほどのように考えればよいのか。 32)K.MaIⅩ,Ibid,S.658,邦訳,同上,第2分冊821ぺ・−汐。

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香川大学経済学部 研究年報14 J974 −∴ほ履− ー・般商品の需給が一・致している状態とは,各資本33)が,・その投下資本畳に㌧比 例して平等紅利潤が与えられる生産価格(費用価格十平均利潤)でもって商品 を販売できる状態として把握しなけれほならないと考えるのである。たとえ生 産され供給される商品鼠がすべて販売されても,その時の販売価格=市場価格 が生産価格を上回ったり,下回ったりしている状態であれば,それ朋単に一L時 的な「需給の叫・致」にすぎず,安定的な需給の−・致を意味するのではない。こ こで各資本が,その商品を生産価格に等しい価格で販売することができるとい うこ.とは,一方では資本がその「正常な」再生産に.必要な平均利潤を獲得する ことができるというこ.とを,いいかえれば「資本の平均的な増殖欲求」をみた すことができるということを意味し,他方ではそ・の商品を生産し供給する部門 に社会的に適正な資本と労働の畳が配分されていることを,つまり小川氏が 「価値法則の基本的内容」のひとつとして取りあげていた「社会的総労働の各 生産部分への配分」「規制」がうまくおこなわれている状態を,意味している のである。 それでは次に,このような需給の−・致の状態は,−・体,周期的にくりかえさ れる産業循環過程のどの局面で達成されるのか考えてみよう。まず好況過程で はどうか。旧固定資本の更新投資に代∴って一新投資が累進的に増加してゆく好況 過程では,−・般に算1部門(生産手段生産部門)の自立的発展に.主導されて, 「投資が投資を呼ぶ」というかたちで,需要が継続的に増大し,総需要鼻が総 供給景を上回るこ.とになる。かくて市場価格ほ日々変動するとはいえ,価格水 準ほ全般的に勝島し,この騰貴した水準で,つまり生産価格を上回る市場価格 で,供給された商品はすペて販売されることになる。したがってこの局面でほ 需要と供給が安定的に−・致しているとはいえない。でほ不況過程ではどうか。 恐慌に続く不況過程では価格水準は全般的に低落しており,この低落した価格 水準で,つまり生産価格を下回るような価格水準でしか商品は販売されず,し たがって安定的に需給が−・致している状態に.ほはど遠い。かぐて,好況期にほ 全般的に総需要が総供給を上回り,不況期には逆の状態になるという ことか 33)同一巷鹿部門内でも,それぞれの資本の生産条件が異なり,したがってすべての資 本が平均利潤を得るわけではない。ここでいう「各資本」とは,同一・生産部門内紅お ける中位の生産条件で商品の生産を行なっている諸資本のことをさす。

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労働力需給の−・致と労働力の価値法則把ンついて −Jβ∂− ら,・−・般商品の需給一致ほ,産業循環過程のある時期・ある局面で達成される のではなく,産業循環の・一周期全体をとうして達成されると考えられるのであ る。そして日常変動している商品の市場価格も,好況期軋は全般的に上昇し, 不況期には逆に下落し,一周期をとうした平均が,生産価格の水準紅一激する と考えられるのである(第1図参照)。 これと同様なことが労働力商品についてもいえる。 資本の蓄積・再生産のために.ほ,追加的生産手段と追加的労働力とが必要で あるが,この場合資本は,必要とする追加的生産手段は自己の生産過程で直接 生産することができるが,追加的労働力の方は直接的に.生産することができな い。しかし資本は,資本構成の高度化を伴う蓄積によって,相対的に.過剰な人 口を「■生産」することができ,労働力の自然的増加の限界をこえて,労働力の 供給をふやすことができるのである。したがって労働力の需給関係の変動は, 労働力人口の絶対数の変動とは直接的な関係がない。マルクスの云うように 「労働に対する需要は資本の増大と同じことでほなく,労働の供給ほ労働者階 級の増大と同じことでほなく,したがって,互いに独立な二つのカが互いに作 用し合うのではない34)」のである。 資本の蓄積ほ,一方では労働力に対する需要を増加させながら,他方でほ相 34)K.Marx,Ibid,S。669,邦訳,同上,第2分冊,833ぺ・−・L)。

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香川大学経済学部 研究年報14 J974 ーJβ6−− 対的過剰人口を「生産」しその供給を増加しつつ進行してゆくのであり,これ を産業循環過程に即していえば,・一・般的には好況局面では労働力の需要の方が その「生産」を上回り,不況局面では逆に,需要より「貨産」の方が上回ると いう関係になっている。そして産業循環過程の一周期全体をとうしてみると, 資本はその蓄積・再生産に必要とする労働力を過不足なく確保し,「平均的な増 殖欲求」をみたすこ.とができるようになっているのである。かくて労働力の需 給は,資本の蓄積運動そのものによって,産業循環過程の一周期全体を通して「調 節されており,一・周期全体をとうして需給の−・致がもたらされているといえる のである(この点についてこは.さらに後述する)。したがっで一局両である好況期 の完全雇用点をとって,労働力需給の一・致点とすることはできないのである。 ここ.でもし氏のいわれるように.,労働力人口の絶対数すべてが資本によって 吸収される完全雇用点を,需給の−・致点と考えるなら,そ・の需給の一−・致点の状態 とほ,資本にとっては「平均的な増殖欲求」を満たすことができない状態であり (なぜなら「■資本の平均的な増殖欲求」がみたされるには一定晶の相対的過剰 人口の存在が必要であるから),「正常な」価値増殖を行なうには労働力が不足 している状態であり,資本の「正常な」再生産ができない状態である。したが って資本の立場からは,まさに需給不一・致の状態であるといわねばならないの である。すでに述べたように,労働力の需給関係ほ労働力の絶対数にほ直接的 な関係がなく,資本自身が,−・方では労働力を需要し,他方では相対的に.過剰 な人口を「生産」し,労働力需給を調節していることから,労働力需給の一−・致 とほ,資本が「平均的な増殖欲求」をみたす紅必要な労働力が確保できている 状態として把握しなければならないのである。 問題点の第2は,すでに魂たように,氏ほ完全雇用点を労働力の需給−・致 点=労働力の価値と価格の叫・致点として把握することから,産業循環の一・周期 の平均をとると,支払われる労働力の総価格ほ.総価値以下になる,と主張され るわけであるが,もし氏のいわれるよう紅長期平均で労働力の価格が価値以下 となるなら,労働力の「正常な」維持と再生産が不可能になりほしないか,と いう点である。 資本制社会では,労働者は生産手段を有せず,それゆえに彼らは販売できる 「唯一・の財産」である労働力を商品として販売し,それによって得た賃金でも

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労働力需給の−・致と労働力の価値法則について −・Jβ7一 って−,資本家から生活手段を購入し,それを消費して生活を維持しなければな らないという立場におかれている。かくて労働力が「正常に」維持・再生産さ れるためには,どうしても労働者の唯一・の「収入」である賃金は,労働力の再 生産に必要な諸生活手段商品が確保できる水準でなければならないのである。 もし労働力の価格=賃金が長期にわたって労働力の価値以下に低下するなら, まず第1に「労働する個人をそ・の正常な生活状態にある労働する個人として維 持35)」するこ.とができず,第2に「消耗と死とによって一市場から引きあげられ る労働力は,どんなに少なくとも同じ数の新たな労働力によって絶えず補充さ れなければならない36)」のであるが,妻子を扶養することができないことから 新しい労働力の補充も困難となり,第3に_「一・定の労働部門で技能と熟練とを 体得して発達した独自な労働力になるようにするためには,一・定の養成または 教育が必要37).」であるが,そのため紅必要とする「修業費」も確保できなくな ってしまい,結局労働力の「正常な」維持・再生産が不可能となるのである。 労働力の「正常な」維持・再生産が不可能になるということは,単に労働者 階級にとって重大な事態となるだけでほない。資本自体にとっても重大な事態 となる。資本ほみずからの価値増殖のために必要とする「正常な」労働力を長 期的・継続的に労働市場で見い出すことができなくなり,資本の蓄積過程とし ておこなわれる資本の再生過程の順調な進行が不可能となってしまうのであ る。したがってここで労働力の「正常な」維持・再生産がおこなわれなければ ならないということは,いいかえれば,資本は.労働力の価値に等しい賃金を支 払わなければならないということは,決っして人道的・道徳的見地から要請さ れているものではなく,資本それ自身の生命維持という立場から,資本制的生 産そのものの維持・続存という立場から要請されているこ・となのであるo「労 働者階級の不断の維持と再生産も,やほ.り資本の再生産のための恒常的な条 件88)」なのである。 他方労働力の価格は,少なくとも長期的平均的にほ,労働力の再生産に必要 35)ⅩLMarx,Ibid,S‖185,邦訳,同上,第1分冊,224ぺ−i7。 36)K.Marx,Ibid,S.186,邦訳,同上,葦1分冊,225ぺl−i7。 37)K.Ma王Ⅹ,Ibid,S.18臥 邦訳,同上,第1分冊,225ぺ・一汐。 38)K.Marx,Ibid,S。S.597∼598,邦訳、同上,第2分冊,745ぺ−i7り

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−J3β岬 香川大学経済学部 研究年報14 J974 な諸手椿事段商品の価値=労働力の価値の水準を上回ってはならない。なぜな ら,もし資金が長期にわたって労働力の価値の水準を上回るならば,労働者は そ・の余剰部分を貯蓄しやがて生産手段を手に入れ独立自営者に転化するかも知 れないし,あるいはまた,一一日の賃金によって二日間の生活が維持できるな ら,労働者ほ賃金労働者として日々労働市場に登場しなくなるかも知れないか らである39)。いずれの場合に.せよ資本制生産の不可欠の条件である労働力の継 続的な商品化がおこなわれえなくなり,資本・賃労働関係の再生産が不可能と なってしまうのである。 以上のように,労働力の価格は,長期的平均的に.みた場合,労働力の価値の 水準を下回ってもあるいほ上回っても「資本関係の不断の再生産と絶えず拡大 される規模でのその再生産とに重大な脅威を与える40)」ことに.なるから,小川 氏のいわれるように.,労働力の総価格が総価値以下に.なるとする見解にほ賛成 しがたいのである。 Ⅴ 前節で,労働力の需給一・致を,完全雇用点として把握してはならないという こと,長期的平均的には,労働力の価値と価格ほ一・致しなければならないとい う2点について述べて来たのであるが,次にこの労働力の価値と価格ほどのよ うなメカニズムをとうしで−・致させられるのか,この点を明確にする必要があ る。なぜなら・一・般商品の場合ほ,価値と価格が帝離しても,それを再び一致さ せる機構が存在するゆえに価値法則の貫徹が主張できたのであった。もし労働 力商品紅対して労働力の価格を価値に−・致させるような機構が存在しないとす れば,スウイー汐−などがいわれるように,われわれは労働力商品の価値法則 の貫徹を主張するこ.とができないと考えられるからである。 39)マルクスはイギリスでほ「18世紀の大部分をつうじて,大工業の時代に至るまで」 の間「労働者たちが四日分の賃金でまる一・週間暮すことができたという事情」のため に「イギリスの資本は労働力の過価値を支払うことによって労働者のまる一週間をわ がもの降することに.は成功していなかった」と述べている(K.Marx,Ibid,S.290, 邦訳,同上,第1分冊,359ぺ−ジ) 40)Ⅹ1.MaIⅩ,Ibid,S.649,邦訳,同上,第2分冊,810ぺ・−ジ。

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労働力需給の一・致と労働力の価値法則について −ヱ39− さてそれでほ労働力の価値と価格ほ,どのような機構をとうしで一・致させら れるのか。 労働力の価格がたえずその価値にひきつけられるという考え方ほ古典派経済 学者の中にもみられる。ここでほまずは.じめに,その「典形的な代表者」といわ れるD.リカ−ドの見解をみてみよう。 彼のこの問題に関する基本的な見解ほ,主著『経済学及び課税の原理』第5 章「賃金論」の中で述べられている。彼はいう。「労働ほ,売買せられ,かつ数 爵を増減しうる他のすべての諸物と同様に,その自然価格と市場価格とをもっ ている41)」と。そして「労働はその稀少なるときほ高く,その豊富なるときに ほ安い」というように変動をなすが,しかし「労働の市場価格がいかにその自 然価格から離れようとも,それは諸商品と同じく,これに・一・致せんとする傾向 がある42)」。 それでは彼は,「労働の市場価格」と「労働の自然価格」の「一・致」はどのよ うに.してもたらされると考えるのか。 まず「労働の市場価格がその自然価格を超過する場合」について彼は次のよう 紅述べる。「’労働者の状態が繁栄して幸福であり,労働者が生活の必需品及び, 享楽物のより大なる割合を支配する力を持ち,従って健康にして数多き家族を 養うことができるのは,労働の市場価格が自然価格を超過する場合のこ.とであ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ■ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

る。しかしながら,高い賃金が人口増加紅対して与える奨励紅よって労働者数

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● が増加すれば,賃金ほ再びその自然価格にまで下落するし,時に.は反作用のた

め,それ以下に下落する43)」(傍点一引用者)。ここで彼は,たとえ「労働の市

41)D.Ricardo,Onthe Principlesof PoliticalEconomyand Taxation.ed.by P.Sraffa,Cambridge University Press,1970,p.93,/J\泉信≡訳『経済学及び課

税の原理』(上巻),85ぺ一汐。(なお,引用訳文は必らずしも邦訳紅したがっていな い。以下同様)。ここでリカードのいう「労働」とは労働力のことであり,「労働の自然 価格(thenaturalpriceoflabour)」とは,「労働者及びその家族を養うため紀要せ

られる食物,必需品及び便宜晶の価格によって定まるものである」(Ibid,pい93邦訳, 同上,65ぺ−汐)ということから,われわれのいう労働力の価値紅相当する概念であ る。また「労働の市場価格(themarket price oflabour)」とは「供給の需要に対す る比例の自然的作用紅よって実際に労働に.対して支払われる価格である」(Ibid,

pひ94,邦訳,同上,86ぺ−・ジ)から,労働力の価格=賃金を琴味している?

42)D.Ricardo,Ibid,p.94,邦訳,同上,86ぺ−ジ。 43)D.RicaI■do!Ibid!p.94,邦訳,同上,粥ぺ−汐9

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香川大学経済学部 研究年報14 J974 −J4∂− 場価格」がその「自然価格」をこえて騰貴したとしても,それはやがて「人口 増加」を促進させ,労働者の供給塁を増加させることになるから,その圧力に ょって再び「労働の市場価格」ほ「自然価格」の水準に下落させられるという のである。 次に「労働の市場価格がその自然価格以下」になれば,どうなるのかo「労働 の市場価格がその自然価格以下に.あるときほ.,労働者の生楕状態ほ最も悲惨で ある。このようなときには,貧困が,労働者から,慣習上絶対の必需品となっ ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

ている快適品を奪う。労働の市場価格がその自然価格まで騰員し,労働者が賃

…●◆■●●●●●●●●●●●

●●…… 金の自然率が与えられる適度の快適品を消費しうるのほ,労働者の窮乏が彼ら

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● の人数を減らすか,あるいほ労働に対する需要が増加したのち軋,はじめて生

じる44)」(傍点一引用者)と述べる。ここで彼ほ,もし「労働の市場価格」がそ

の「自然価格」以下に下落しても,それは2つの方向から,つまり・一つは,賃 金の下落が労働者人口そのものを減少させることによって,もう一一つは,賃金 の下落が労働力に対する需要を増加させることによって,こ・の下落した「労働 の市場価格」は再びその「自然価格」の水準に回復せしめられると考えている のである。 ところでリカ−ドの上記の理論展開ほ,資本蓄積にともなう継続的な労働力 需要の増加が生じないような状態を前提に・したうえでのことであった。そこで 彼はさらに進んで資本の増加が「漸次的かつ不断に」おこなわれ,それに「比 例」して労働力需要が増加するような状態のもとでは−り体どのようになるのか について考察する。 彼はいう。「賃金のその自然率に・一優しようとする傾向があるにもかかわら ず,その市場率は,進歩しつつある国においては,ある不定の期間にわたって 常にその自然率以上に上がることがある。というのは資本の増加によって労働 に対する新たな需要に衡撃が与えられ,それが満足されるや否や,たちまち更 に次の新しい資本の増加が生じ,同じ結果をもたらすからである45)」と。つま り,資本増加にともなって労働力需要が継続的に増大すれば,「ある一足の期 間にわたって常に」「労働の市場価格」が「自然価格」以上に上昇するというの 44)DvRicardo,Ibid,p.94,邦訳,同上,86ぺ−i7∼87ぺ−i70 45)D.Ricardo,Ibid,p.p.94∼95,邦訳,同上,87ぺ ̄i7q

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労働力需給の−・敦と労働力の価値法則について −ヱ4J− である。 だがしかし,たとえこのように資本増加によって「労働の市場価格」の上昇 がもたらされても,それはやがてその「’自然価格」紅再び「−・致」‘サるよう軋 なるという。 ではこの場合ほ.どのよう紅して「一・致」せしめられるのか。彼はこ.の問題を, 資本の増加にともなって「食物。衣服その他の必需品」の価値が勝負し「労働 の自然価格」そのものが勝負する場合と,「機械の助力」によ.る労働生産性の上 昇によって「労働の自然価格」が「静止のままとなるか,あるいは下落する」 場合の2つに分けて考察する。 まず第1の場合について次のようにいう。「第1の場合に川ま,その−・致(労働 の市場価格と自然価格の一・致 】 引用者)は,もっとも速やかにおこ・なわれる

であろう。労働者の状感は改善されるであろうが,しかしはなは.だしくは改善

されない。なぜなら,食物及び必需品の勝負した価格は,彼の増加した賃金の ●●●●●●●●●●●●●●●● 大部分を吸収するからである。したがって労働のわずかな供給あるいは人口の ●●●●●●●●●、●●●●●■●● わずかの増加ほ.,たらまち労働の市場価格を引下げて,その時の勝負している ■●●●●●●●●●●●●●●●

労働の自然価格まで下げるであろう46)」(傍点一引用老)。第2の場合ほどう

か。「第2の場合に.ほ,労働者の状態ほ.非常紅改善されるであろう。彼の受取

る賃金は増加するの紅,彼とそ・の家族が消費する諸商品に対して:支払う価格は

●●●●●●●●●●● 増加するととなく,恐らく減少するであろう。そして労働の市場価格が再びそ … … = = ◆ ● ● ● ● ■ ● ● ● ● ● ● ● ■ ● ● ● ● ● ● ● ● ● の時の引下げられた低い自然価格まで下がるのは,人口の非常な増加があって

のち,はじめて−おこるであろう47)」(傍点一引用者)。

みられるとうり,資本の増加によって労働力需要が継続的に増加し,「労働の

市場価格」が上昇しても,結局は,その上昇が人口増加紅刺激を与え,この人

口の増加圧力紅よって,再び「労働の自然価格」の水準に下落せしめられると 考えているのである。ただこ.の場合「労働の自然価格」の勝負が生じていれば, 「市場価格」と「自然価格」のギャップが小さいために・その「一徹」が早くも たらされ,「自然価格」が「静止のままとまるかあるいは下落する」のであれば, 46)D..RicaIdo,Ibid,p..96,邦訳,同上,88ぺ−ジ。 47)D.Ric牟Ⅰdo,Ibid,p.96,邦訳,同上,鱒ぺ」−ジ9

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J974 香川大学経済学部 研究年報14 ー」且2− そのギャップが大きいために「人口の非常な増加」があってほじめて「一・致」 させられるという紅すぎないのである。 以上でみて来たように.,要するにリカ−ドの見解ほ,たとえ労働力の価格で ある賃金が労働力の価値の水準以上に上昇しても,それが結婚・出産を促進さ せ,人口の増加をもたらせるというプロセスを通して,やがてその上昇した賃 金ほ,労働力の価値の水準に低落せしめられ,他方逆の場合にほ,出産率の低下 による労働人口の減少をとうして,低落した賃金ほ.再び労働力の価値の水準に 引上げられるというように考え.ていたのである。いいかえれば労働力商品の場 合も,−・般商品の場合と同様に,・その価格の変動に.対応して供給量が増減し, そのことによって価値と価格の−・致がもたらされると考えていたのである。 だがしかしリカードのこのような見解ほ,資本制社会における労働力需給の 変動・賃金の変動を説明するには不十分である。それはなぜか。なるはど彼の 主張するように,賃金の上昇によって労働者の結婚・出産が促進されるかもし れない。しかしこのよう/なかたちで労働力の供給鼠示増加するとしても,それ にほ少なくとも20年近くはかかるほずだし,また人口減に・よる労働力の供給鼠 の減少にしても,かなり長期の年月を要するほずである。だが現実の労働力需 給の変動・賃金の変動ほ,この人ロの絶対数の増減をともなうような長期にわ たる変動でほなく,もっと短期の変動である。かくてこのような古典派経済学 老の考え方は,K.マルクスの批判するところとなったのである。 さてそれではマルクスほどのように考えたのか。 彼の基本的な考えは,その著『資本論』第1巻第23章「資本主義的蓄積の一 般的法則」の中で述べられている。ここで彼ほ.,資本制社会における労働力需 給の変動・賃金の変動は,古典派経済学者達が主張したように,労働力人口の 絶対数の増減によってもたらされるのではなく,資本蓄積の変動によってもた らされると主張する。つまり,労働力人口の絶対数の増加が資本の労働力に対 する不足をもたらすのではなく,資本蓄積の減少が搾取可能な労働力の過剰と 賃金の低落をもたらすのであり,ま軽労働カの絶対数の減少が資本の労働力に 対する過剰をもたらすのでほなく,資本蓄積の増大が労働力の不足と賃金の上 昇をもたらす。資本制社会では,このような「資本の蓄積」の「絶対的諸運動 が搾取可能な労働力の盈における相対的諸種動として反映するのであり,した

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労働力需給の1一・致と労働力の価値法則について 一ム㍍トー がって,労働力の鼠そのものの運動に.起因するように見えるのである。数学的 表現を用いてし、えば,蓄蔵の大きさは独立変数であり,賃金の大きさは従属変 数であって,その道ではない48)」というのである。 このようにマルクスの見解ほ.,古典派経済学者達の見解とほ根本的に異な り,労働力需給の変動・賃金の変動ほ,いわゆる人口の自然法則とは虐接的な 関係がなく,資本の蓄積運動そのもの紅依存しているというのであるが,こ.こ で今少し立入って彼の主張に耳を傾けることにする。 彼によれは,資本制社会紅おける労働力の需要は,労働諸条件が不変ならば, 生産過程に.投ぜられる総資本の大きさ紅よっでではなく,労働力の購入にあて られる可変資本部分の大きさに.よって規定される。かくて,どのような資本構 成でもって資本蓄積が進行するかが,労働力需要の変動を考えるうえで決定的 に重要となる。そこで彼は前記第23章の冒頭で「この章でほ,資本の増大が労働 者階級の運命把㌧及ぼす影響を取扱う。この研究での最も重要な要因は資本の構 成であり,またそれが蓄積過程の進行途上で受けるいろいろな変化である49)」と 述べ,まず資本楕成不変のもとで資本蓄積が進行した場合に・ほ労働力需要と賃 金がどのよう紅変動するかを分析し,続いて資本構成が高度化しつつ資本蓄積 が進行する場合に.ついてのそれを考察する。 では資本構成不変のもとで資本蓄積が進行するとすれば,−・体どうなるの か。 資本構成不変の前提のもとでは,総資本の増加に・比例して可変資本も増加す るから,労働諸条件が不変ならば,労働力に対する需要は「資本の増大に比例 して増大し,資本が急速に増大すればそれだけ急速紅増大する50)」ことになる。 資本の目的は自己増殖であり,資本は取得した剰余価値のうちできるだけ多く の部分を追加資本に転化させようとし,そしてまた投下資本が増大すれぼする ほど資本の取得する剰余価値も増大することから,資本の蓄積は累進的におし すすめられるのであるが,もし資本構成不変の前提が存続するなら,この資本 の累進駒蓄積は,労働力需要の累増となり,お・そかれ早かれいつかほ.,労働力 48)K.Marx,Ibid,S”648,邦訳,同上,第2分冊,809ぺ−iy。 49)Ⅹ.Marx,Ibid,S.640,邦訳,同上,第2分冊,799ぺ1−t7。 50)K.MafⅩ,Ibid,S.641,邦訳,同上,第2分冊,印○ぺ」−ジ9

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香川大学経済学部 研究年報14 一力リー一 J974 供給の増大を超過する時がやってくる。労働力に対する需姜がその供給を超過 すれば,労働力も商品である以上,その価格は上昇せざるをえない。 だがこの労働力の価格の上昇は,必然的に資本家の取得する「不払労働の減 少」をもたらす。したがって労働力需給の不均衡による労働力価格の上昇は, いつまでも続けられるわけではなく,必らず反落せしめられる。この点に閲し マルクスほ.次のようにいう。「労働の価格の上昇の結果,利得の刺激が鈍くな るので蓄積が衰える。蓄墳ほ減少する。しかしその減少に.つれて,その減少の 原因ほなくなる。すなわち,資本と搾取可能な労働力とのあいだの不均衡はな くなる。つまり,資本主義的生産過程の機構は,自分が叫時的につくりだす障 害を自分で除くのである。労働の価格は,再び,資本の増殖欲求に適合する水 準まで下がる51)」。「(不払労働の減少によって一一引用者)資本を養う剰余労 働がもほや正常な畳では供給されなくなる点にふれるやいなや,そとに反動が 現われる。収入のうちの資本化される部分は小さくなり,薔棍ほ/衰え,賃金の 上昇連動ほ反撃を受けるさ2).」と。 要する紅とこでの彼の主張は,資本構成不変のもとでの資本蓄演の進行−→ 労働力帝要の比例的増加−−−→賃金の上昇−→不払労働の減少−→蓄硫の減少 一→需給不均衡の是正一一→賃金下落というプロセスとうして,労働力需給の変 動・賃金の変動がもたらされるというのである。 次に資本蓄積が資本構成の質的変化,つまり資本構成の高度化をともなって 進行する場合にほ.,労働力需要と賃金にどのような影響が及ぼされるとマルク スは考えるのか。 彼紅よれば,資本の蓄積は,・−・般に労働生産性の発展をともない,この労働 生産性の発展は「生産手段に合体される労働力にくらべての生産手段の患的規 模の増大㍊)」となってあらわれ,資本の技術的構成の高度化をもたらす。かか る資本の技術的構成の高度化は,同じ労働生産性の発展が生産手段の価値を労 働力の価値よりも一・般的に.より急速に低下させることから「資本価値の構成変 化ほ資本の素材的諸成分の構成をただ近似的に.示す54)」に.すぎないとはいえ, 51)Ⅹ.Maf・Ⅹ,Ibid,S.648,邦訳,同上,第2分冊,809ぺ・一汐。 52)Ⅹ.MaIⅩ,Ibid,S..649,邦訳,同上,第2分冊,810ぺ・−・ジ。 53)K.MaI・Ⅹ,Ibid,S.650,邦訳,同上,欝2分冊,812ぺ・一汐。 軸)E.Ma【・Ⅹ,Ibid,S.651,邦訳,同上,第2分冊,813ぺ−ジ。

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労働力需給の−・敦と労働力の価値法則に.ついて …」甘5鵬 明らかに資本の有機的構成の高度化となってあらわれる。かくて資本の蓄積の 進展とともに資本の有機的構成が高度化し,総資本鼠にくらぺ可変資本患は相 対的に減少することに.なる。 だがこの場合,次の二つの点が注意されなければならない。その第1は「蓄 積の進展は,可変資本部分の相対量を減らすとほいえ,けっして同時に・その絶 対畠の増大を排除するものではない55)」ということである。資本構成の高度化 が,追加資本に.たいしてのみ生ずるのであれば,資本増加にともなう可変資本 の割合ほ.相対的には低下するが,社会の可変資本総量は絶対的に増大すること になるのである。その節2は可変資本総盈が絶対的に.減少する場合もありうる ということである。「追加資本の技術的変革は原資本の技術的変革を伴う56)」。 「原資本」の・一部は,物理的ないし道徳的摩損によってたえず更新される時期 に達つしており,その部分が,資本構成の高度化を伴うような新技術によって 更新されると,社会における可変資本総額は,絶対的に減少することになるの である。かくて,総資本星にくらぺ社会の可変資本総量は相対的に・減少すると はいえ,その絶対壷の増減に.ついては,ここでいちがいに.断定することほ・でき ないのである。 だがしかしたとえ可変資本総屋が絶対的に増大しても,資本構成の高度化を ともなった蓄積が続く限り,「それ(可変資本部分一引用老)ほ.総資本の大き さにくらべて−相対的に減少し,またこの大きさが増すにつれて加速度的累進的 に減少する57)」。したがって,資本制生産の発展ととも紅一定の割合で増加する 追加的労働者人口を吸収し,さらに「原資本」の更新によって生産過程から排 出された労働者を再び吸収するためには,資本は,たえずいっそう加速化され た速度で蓄積を続行してゆかなければならない。かくて,賢本構成の高度化を ともなった資本蓄積が不断に進展するならば,「資本の平均的な増殖欲求」に とって相対的に過剰な労働者人口が「加速度的累進的」に.形臆されてゆくこと になり,労働市場では労働力供給が労働力需要を上回ることに・なるとマルクス は考えたのである。 55)K..MaI・Ⅹ,Ibid,Sい652,邦訳,同上,第2分冊,813ぺ−ジ。 56)K.MaI・Ⅹ,Ibid,S.658,邦訳,同上,第2分冊,820ぺ−ジ。 57)K.MaIⅩ,Ibid,S.658,邦訳,同上,第2分冊,800ぺ一−・ジ9

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J974 一一J・ノ6 香川大学経済学部 研究年報14 ところで現実の資本の蓄積過程ほ,急激な膨張と収縮をくりかえす産業循環 の過程として進行するのであるが,この産業循環の諸局面のなかで,資本構成 の高度化を伴わない資本蓄積と,それを伴う資本蓄積とはどのよぅに内的に関 連づけられるのであろうか。いいかえれば,どの局面で,資本構成の高度化を 伴わない資本蓄積がおこなわれ,労働力に対する需要の増大と賃金の上昇がも たらされるのか,またどの局面で,資本構成の高度化を伴う資本蓄積がおこな われ,「人口の自然的増加が供給する利用可能な労働力の屋」をこえて「搾取可 能な労働力人口」が「生産」され,賃金が下落せしめられるのであろうか。そ してまたこの賃金の騰落運動と労働力の価値とは,どのような関連にあるので あろうか。 マルクスほところどころで「近代産業の特徴的な生活過程,すなわち,′中位 の活況,生産の繁忙,恐慌,沈滞の各時期が,より小さい諸運動に中断されな がら,10年ごとの循環をなしている形態は,産業予備軍またほ過剰人口の不断 の形成,そ・の大なり小なりの吸収,さらにその再形成にもとづいている。この 産業循環の変転する諸局面は,またそれ自身,過剰人口を補充するのであっ て,過剰人口の最とも精力的な再生産動因の−・つになるのである58)」「だいたい において労賃の−・般的な運動ほ,ただ産業循環の局面変転に対応する産業予備 軍の膨張,収縮紅よって規制されているだけである。だからそれほ,労働者人 口の絶対数の運動に.よって規定されているのではなく,労働者階級が現役軍と 予備軍と紅分かれる割合の変動によって,過剰人口の相対的な大きさの増減に よって,過剰人口が吸収されたり再び遊離されたりする程度紅よって,規定さ れているのである59)」といったような窪要な指摘をしている。しかし「過剰人 口の不断の形成」「その大なり小なりの吸収」、さらに「労賃の−・般的運動」を具 体的紅「産業循環の変転する諸局面」の中に明確に位置づけているとはいえ い。また『資本論』第1巻第4章第3節「労働力の売買」で述べられている 「労働力の価値」と,ここでいう「労賃の−・般的運動」とはいかなる内的関連 性を有するのか,その点紅ついても明確に述べられていない。 さてそれでほわれわれほ,この問題をどのように考えればよいのか。以下に 58)K.Marx,Ibid,S.S.661∼662,邦訳,同上,第2分冊,824ぺ・−iy。 卵)Ⅹ.Marx,Ibid,S,弼,邦訳,同上第2分冊,83Qぺ−ジ9

参照

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