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面積に関する基礎概念について(2)―小学校第1~5学年の児童を対象とした調査とその結果―-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),28:35-44,2014

面積に関する基礎概念について(2)

―小学校第1~5学年の児童を対象とした調査とその結果―

長谷川 順一 ・ 吉川 雄基

*    (数学教育)  (吉野川市立西麻植小学校) 760-8522 高松市幸町1-1 香川大学教育学部        *776-0020 吉野川市鴨島町西麻植絵馬堂85-2 吉野川市立西麻植小学校

On Fundamental Concepts Related to Area Measure in

Elementary School Mathematics: Results of Inquiry about

Area Comparison Problems

Junichi Hasegawa and Yuki Yoshikawa

Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522 *Nishioe Elementary School, 85-2, Nishioe Emadho, Kamoshima-cho, Yoshinogawa 776-0020

要 旨 小学校第1~5学年の児童を対象とし,面積を比較する問題を用いて調査を行っ た。正方形からなる図形の面積の大小判断は第1学年で,面積に関する論理的推論は第2学 年でおおよそ達成されていると考えられる。一方,等周長図形の面積比較問題については, 第2学年から誤反応が多くみられる。これらの結果をもとに,算数における面積指導のあり 方について検討した。 キーワード 面積 任意単位 面積に関する推論 等周長図形の面積 算数

1 はじめに

 面積に関する学習は,小学校第1学年で,面 積の直接比較,間接比較,任意単位による測定 が扱われ,その後,第4学年で面積の単位や正 方形,長方形の求積公式が扱われる。第5学年 では,平行四辺形や三角形などの図形の求積公 式が扱われる。そこで,小学校算数の各学年で 扱われる「面積」の学習に先立って実施するた めの事前調査問題を作成し,国立大学教育学部 附属小学校第1,4,5学年の児童を対象として 実施した。その結果,いくつかの正方形からな る図形の面積を比較する問題については,第1 学年でおおよそ達成されていた。面積に関して 論理的な推論を要する問題については,1年生 の正答率は4~5割であり,4年生でおおよそ 達成されていた(問題は後述する)。一方,等 周長図形の面積を比較する問題では,1年生よ りも4年生や5年生で誤反応が多くみられた。 全体的には,面積判断の様相について,1年生 と4,5年生では大きな異なりがみられた(長 谷川・吉川,2013)。  この調査は面積単元の事前調査として実施さ れたため,算数の授業で「面積」に関連する内 容が扱われない第2,3学年では調査がなされ なかった。そこで,第1~5学年の児童を対象 -35-

(2)

依頼し,通常の調査やテストと同様の対応をお 願いした。以下では,それぞれの問題及び結果 を示す。 2.2 調査結果  調査に参加した児童数は,1年生137名,2 年生146名,3年生150名,4年生153名,5年 生145名であった。以下に示す結果について合 計人数が異なるところがあるが,それは当該の 問題に回答しなかった(回答欄が空欄であった) 児童がいたためである。回答に要した時間は, 第1学年では30分程,第2学年では15~20分, 第3~5学年は10分程度であった。以下で「正 答」の語を用いることがあるが,それは正答で ある選択肢を選択したことを意味する。 (1)正方形からなる図形の面積を比較する問 題  この問題では,図形を構成する正方形の個数 を数えることによって面積の大小あるいは同等 を判断することができる。問題は「同じ大きさ のましかく(正方形)をならべて,形を作りま した。次の①~④について,それぞれ,左の形 と右の形のどちらが広いか,くらべます。『左 のほうが広い』『同じ広さ』『右のほうが広い』 のどれか1つに,○をつけましょう。」であっ た。  問題文に続いて4対の図形と選択肢を示し, 図形の対ごとに選択回答させた。図1は,図形 対の提示例(問題①),及び図形の対(問題② ~④;選択肢は略)を示したものである(正方 形の1辺の長さは約16㎜であった)。  表1は,それらの問題の正答率を学年別に示 したものである。  どの学年も,④の正答率が最も低い。児童の 「同じ広さ」以外の回答をみると,前調査と同 様,「左の方」よりも「右の方」を選択する児 童がやや多くみられる。選択の理由は不明であ るが,④の右の図形の横の長さ,縦の長さが左 の図形に比べて長いことから,図形の部分への 中心化に基づく判断が推測される。  図2は,各問題で正答に1点,誤答に0点を とした調査を行い,それによって面積の比較を 問う問題の学年による正答率の推移を検討する ことや,面積の指導に対する示唆を得ること, 及び面積単元の事前調査問題を作成するための 基礎資料を得ることなどを目的として改めて調 査を実施した。本稿では,その結果を報告し考 察を加える。

2 調査とその結果

 本調査の目的は,上に述べた通りである。調 査問題は,先に述べたように,面積単元の事前 調査として作成したものを,そのまま用いた (ここでは,その調査を「前調査」という)。以 下では,調査問題の構成と調査方法を示す。 2.1 調査の方法  短時間で実施できるよう,問題は以下に概要 を示す基礎的なものとした。 ① 正方形からなる図形の面積を比較する問題 (4題) ② 面積に関する推論問題(ひょうたん池の問 題;2題)この問題は,Piagetら(1960)が児 童の面積判断を発達的観点から検討するために 用いた牧草地の面積比較問題を参考に作成した ものである。 ③ 等周長図形の面積を比較する問題(2題) 等周長の正方形とひし形,及び等周長の正方形 と長方形の面積を比較する問題であり,細谷 (1968),西林(1988)によるものである。  詳しい問題文や図は,次の節で示す。  このような問題から問題冊子を作成し,香川 県の公立小学校の第1~5学年の児童を対象と して,2012年3月中旬に調査を実施した。1年 生,4年生,5年生は,それぞれの学年で扱わ れる「面積」の単元の学習を終えていた。1年 生,2年生用の問題冊子では,難しい漢字は用 いず,漢字にはルビを振るようにした。また, 調査の実施時には,実施者である学級担任の先 生に問題文を読み上げてもらい,その後回答す る時間を取ってもらった。3~5年生について は,学級担任の先生に問題冊子の配布と回収を -36-

(3)

与えたとき(4点満点),1~4点であったも のの割合を学年ごとに表したものである(0点 はみられなかった)。帯グラフ内の数値は,そ れぞれの点数の人数を表す。  どの学年も,4点のものが80%以上みられ る。図形を構成する正方形を単位とし,その個 数をもとに面積の大小や同等が判断できる問題 については,1年生でおおよそ達成されている と考えられる。 (2)面積に関する推論問題(ひょうたん池の 問題)  問題は次のようであった。「町の公園には, 東池と西池の2つの池があります。①2つの池 はひょうたんの形をしていて,その形や大きさ はどちらも同じです。2つの池には,形や大き さが同じながしかく(長方形)の島があります が,島のある場所はちがいます。下の図で,東 池と西池の水の入っているところ(黒く色の ぬってあるところ)の広さは,どちらが広いで しょうか。それとも,同じ広さでしょうか。図 の下の,『東池のほうが広い』『同じ広さ』『西 池のほうが広い』のどれか1つに,○をつけま しょう。」この問題文の下に,池の図と選択肢 が示されていた(図3)。 図1 正方形からなる図形の面積比較 2 -本調査の目的は、上に述べた通りである。調 査問題は、先に述べたように、面積単元の事前 調査として作成したものを、そのまま用いた (ここでは、その調査を「前調査」という)。以 下では、調査問題の構成と調査方法を示す。 2.1 調査の方法 短時間で実施できるよう、問題は以下に概要 を示す基礎的なものとした。 ① 正方形からなる図形の面積を比較する問題 (4題) ② 面積に関する推論問題(ひょうたん池の問 題;2題)この問題は、Piagetら(1960)が児 童の面積判断を発達的観点から検討するために 用いた牧草地の面積比較問題を参考に作成した ものである。 ③ 等周長図形の面積を比較する問題(2題) 等周長の正方形とひし形、及び等周長の正方形 と長方形の面積を比較する問題であり、細谷 (1968)、西林(1988)によるものである。 詳しい問題文や図は、次の節で示す。 このような問題から問題冊子を作成し、香川 県の公立小学校の第1~5学年の児童を対象と して、2012年3月中旬に調査を実施した。1年 生、4年生、5年生は、それぞれの学年で扱わ れる「面積」の単元の学習を終えていた。1年 生、2年生用の問題冊子では、難しい漢字は用 いず、漢字にはルビを振るようにした。また、 調査の実施時には、実施者である学級担任の先 生に問題文を読み上げてもらい、その後回答す る時間を取ってもらった。3~5年生について は、学級担任の先生に問題冊子の配布と回収を 依頼し、通常の調査やテストと同様の対応をお 願いした。以下では、それぞれの問題及び結果 を示す。 2.2 調査結果 調査に参加した児童数は、1年生 137 名、2 年生 146 名、3年生 150 名、4年生 153 名、5 年生 145 名であった。以下に示す結果について 合計人数が異なるところがあるが、それは当該 の問題に回答しなかった(回答欄が空欄であっ た)児童がいたためである。回答に要した時間 は、第1学年では 30 分程、第2学年では 15 ~ 20 分、第3~5学年は 10 分程度であった。以 下で「正答」の語を用いることがあるが、それ は正答である選択肢を選択したことを意味する。 (1)正方形からなる図形の面積を比較する問 題 この問題では、図形を構成する正方形の個数 を数えることによって面積の大小あるいは同等 を判断することができる。問題は「同じ大きさ の ましかく(正方形)をならべて、形を作りま した。次の ①~④について、それぞれ、左の形 と右の形の どちらが広いか、くらべます。『左 のほうが 広い』『同じ広さ』『右のほうが 広 い』の どれか1つに、○を つけましょう。」 であった。 図 1 正方形からなる図形の面積比較 問題文に続いて4対の図形と選択肢を示し、 表1 正方形からなる図形の面積比較正答率 1年 2年 3年 4年 5年 ① 98.5% 99.3% 97.3% 98.0% 99.3% ② 97.1% 97.3% 96.7% 97.4% 99.3% ③ 93.3% 100% 98.7% 96.1% 98.6% ④ 89.0% 93.2% 86.0% 90.2% 92.4% 3 -図形の対ごとに選択回答させた。図1は、図形 対の提示例(問題①)、及び図形の対(問題②~ ④;選択肢は略)を示したものである(正方形の 1辺の長さは約16mmであった)。 表1は、それらの問題の正答率を学年別に示 したものである。 表 1 正方形からなる図形の面積比較正答率 1年 2年 3年 4年 5年 ① 98.5% 99.3% 97.3% 98.0% 99. 3%97.1% 97.3% 96.7% 97.4% 99.3%93.3% 100% 98.7% 96.1% 98.6%89.0% 93.2% 86.0% 90.2% 92.4% どの学年も、④の正答率が最も低い。児童の 「同じ広さ」以外の回答をみると、前調査と同 様、「左の方」よりも「右の方」を選択する児童 がやや多くみられる。選択の理由は不明である が、④の右の図形の横の長さ、縦の長さが左の 図形に比べて長いことから、図形の部分への中 心化に基づく判断が推測される。 図2は、各問題で正答に1点、誤答に0点を 与えたとき(4点満点)、1~4点であったもの の割合を学年ごとに表したものである(0点 はみられなかった)。帯グラフ内の数値は、それ ぞれの点数の人数を表す。 図 2 正方形からなる図形の面積比較:点数の分布 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 115 132 125 135 132 12 13 19 9 10 6 1 5 8 1 3 0 1 1 1 4点 3点 2点 1点 どの学年も、4点のものが80%以上みられ る。図形を構成する正方形を単位とし、その 個数をもとに面積の大小や同等が判断できる 問題については、1年生でおおよそ達成され ていると考えられる。 (2)面積に関する推論問題(ひょうたん池の 問題) 問題は次のようであった。「町の公園には、東 池と西池の 2つの池があります。① 2つの池 は ひょうたんの形をしていて、その形や大きさ は どちらも同じです。2つの池には、形や大き さが同じ ながしかく(長方形)の 島がありま すが、島のある場所は ちがいます。下の図で、 東池と西池の 水の入っているところ(黒く色の ぬってあるところ)の 広さは、どちらが広いで しょうか。それとも、同じ広さでしょうか。図 の下の、『東池のほうが広い』『同じ広さ』『西池 のほうが広い』の どれか1つに、○をつけまし ょう。」この問題文の下に、池の図と選択肢が示 されていた(図3)。 図 3 ひょうたん池の問題① 次いで、「② 東池と西池に、もう1つ、島を 図2 正方形からなる図形の面積比較:点数の分布 -37-

(4)

 次いで,「②東池と西池に,もう1つ,島を つけたすことになりました。新しくつけたす島 の形や大きさは,今までのものと同じですが, 場所はちがいます。下の図は,新しく島をつけ たしたところを表しています。東池と西池の水 の入っているところ(黒く色のぬってあるとこ ろ)の広さは,どちらが広いでしょうか。それ とも,同じ広さでしょうか。『東池のほうが広 い』『同じ広さ』『西池のほうが広い』のどれか 1つに,○をつけましょう。」との問題文,及 び島が2つになった場合の池の図と選択肢が示 されていた(図4;図では選択肢は省略)。  この問題を,ここでは「ひょうたん池の問題」 ということにする。図5は島が1つの場合(問 題①),図6は島が2つになった場合(問題②) の選択回答の分布を表したものである。帯グラ フ内の数値は,それぞれを選択回答した人数を 表す(以下同じ)。 3 -図形の対ごとに選択回答させた。図1は、図形 対の提示例(問題①)、及び図形の対(問題②~ ④;選択肢は略)を示したものである(正方形の 1辺の長さは約16mmであった)。 表1は、それらの問題の正答率を学年別に示 したものである。 表 1 正方形からなる図形の面積比較正答率 1年 2年 3年 4年 5年 ① 98.5% 99.3% 97.3% 98.0% 99. 3% ② 97.1% 97.3% 96.7% 97.4% 99.3% ③ 93.3% 100% 98.7% 96.1% 98.6% ④ 89.0% 93.2% 86.0% 90.2% 92.4% どの学年も、④の正答率が最も低い。児童の 「同じ広さ」以外の回答をみると、前調査と同 様、「左の方」よりも「右の方」を選択する児童 がやや多くみられる。選択の理由は不明である が、④の右の図形の横の長さ、縦の長さが左の 図形に比べて長いことから、図形の部分への中 心化に基づく判断が推測される。 図2は、各問題で正答に1点、誤答に0点を 与えたとき(4点満点)、1~4点であったもの の割合を学年ごとに表したものである(0点 はみられなかった)。帯グラフ内の数値は、それ ぞれの点数の人数を表す。 図 2 正方形からなる図形の面積比較:点数の分布 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 115 132 125 135 132 12 13 19 9 10 6 1 5 8 1 3 0 1 1 1 4点 3点 2点 1点 どの学年も、4点のものが80%以上みられ る。図形を構成する正方形を単位とし、その 個数をもとに面積の大小や同等が判断できる 問題については、1年生でおおよそ達成され ていると考えられる。 (2)面積に関する推論問題(ひょうたん池の 問題) 問題は次のようであった。「町の公園には、東 池と西池の 2つの池があります。① 2つの池 は ひょうたんの形をしていて、その形や大きさ は どちらも同じです。2つの池には、形や大き さが同じ ながしかく(長方形)の 島がありま すが、島のある場所は ちがいます。下の図で、 東池と西池の 水の入っているところ(黒く色の ぬってあるところ)の 広さは、どちらが広いで しょうか。それとも、同じ広さでしょうか。図 の下の、『東池のほうが広い』『同じ広さ』『西池 のほうが広い』の どれか1つに、○をつけまし ょう。」この問題文の下に、池の図と選択肢が示 されていた(図3)。 図 3 ひょうたん池の問題① 次いで、「② 東池と西池に、もう1つ、島を 図3 ひょうたん池の問題① 図4 ひょうたん池の問題② 4 -つけたすことに なりました。新しくつけたす島 の 形や大きさは、今までのものと同じですが、 場所は ちがいます。下の図は、新しく島をつけ たしたところを 表しています。東池と西池の 水の入っているところ(黒く色のぬってあると ころ)の 広さは、どちらが広いでしょうか。そ れとも、同じ広さでしょうか。『東池のほうが広 い』『同じ広さ』『西池のほうが広い』の どれか 1つに、○をつけましょう。」との問題文、及び 島が2つになった場合の池の図と選択肢が示さ れていた(図4;図では選択肢は省略)。 図 4 ひょうたん池の問題② この問題を、ここでは「ひょうたん池の問 題」ということにする。図5は島が1つの場合 (問題①)、図6は島が2つになった場合(問題 ②)の選択回答の分布を表したものである。帯 グラフ内の数値は、それぞれを選択回答した人 数を表す(以下同じ)。 図 5 ひょうたん池の問題 ① 図 6 ひょうたん池の問題 ② 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 32 19 24 13 21 60 100 97 112 104 45 27 29 27 19 東池の方が広い 同じ広さ 西池の方が広い 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 33 23 20 17 13 41 90 94 107 100 63 33 36 29 32 東池の方が広い 同じ広さ 西池の方が広い 「ひょうたん池の問題①」(図5)について、 学年(1~5年生)×3選択肢(東、同じ、西)の 人数分布を表す5×3の分割表に対してカイ2 乗検定を行ったところ、有意差がみられた( χ2(8)= 38.91、p<.01)。残差分析の結果は、 次のようであった。1年生では「東」「西」の選 択回答が有意に多く(p<.01)、「同じ」が有 意に少ない(p<.01)。4年生では「東」の選 択回答が有意に少なく(p<.05)、「同じ」が 有意に多い(p<.01)。また、5年生では 「西」の選択回答が有意に少なく(p<.05)、 「同じ」が有意に多かった(p<.05)。高学年 4 -つけたすことに なりました。新しくつけたす島 の 形や大きさは、今までのものと同じですが、 場所は ちがいます。下の図は、新しく島をつけ たしたところを 表しています。東池と西池の 水の入っているところ(黒く色のぬってあると ころ)の 広さは、どちらが広いでしょうか。そ れとも、同じ広さでしょうか。『東池のほうが広 い』『同じ広さ』『西池のほうが広い』の どれか 1つに、○をつけましょう。」との問題文、及び 島が2つになった場合の池の図と選択肢が示さ れていた(図4;図では選択肢は省略)。 図 4 ひょうたん池の問題② この問題を、ここでは「ひょうたん池の問 題」ということにする。図5は島が1つの場合 (問題①)、図6は島が2つになった場合(問題 ②)の選択回答の分布を表したものである。帯 グラフ内の数値は、それぞれを選択回答した人 数を表す(以下同じ)。 図 5 ひょうたん池の問題 ① 図 6 ひょうたん池の問題 ② 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 32 19 24 13 21 60 100 97 112 104 45 27 29 27 19 東池の方が広い 同じ広さ 西池の方が広い 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 33 23 20 17 13 41 90 94 107 100 63 33 36 29 32 東池の方が広い 同じ広さ 西池の方が広い 「ひょうたん池の問題①」(図5)について、 学年(1~5年生)×3選択肢(東、同じ、西)の 人数分布を表す5×3の分割表に対してカイ2 乗検定を行ったところ、有意差がみられた( χ2(8)= 38.91、p<.01)。残差分析の結果は、 次のようであった。1年生では「東」「西」の選 択回答が有意に多く(p<.01)、「同じ」が有 意に少ない(p<.01)。4年生では「東」の選 択回答が有意に少なく(p<.05)、「同じ」が 有意に多い(p<.01)。また、5年生では 「西」の選択回答が有意に少なく(p<.05)、 「同じ」が有意に多かった(p<.05)。高学年 4 -つけたすことに なりました。新しくつけたす島 の 形や大きさは、今までのものと同じですが、 場所は ちがいます。下の図は、新しく島をつけ たしたところを 表しています。東池と西池の 水の入っているところ(黒く色のぬってあると ころ)の 広さは、どちらが広いでしょうか。そ れとも、同じ広さでしょうか。『東池のほうが広 い』『同じ広さ』『西池のほうが広い』の どれか 1つに、○をつけましょう。」との問題文、及び 島が2つになった場合の池の図と選択肢が示さ れていた(図4;図では選択肢は省略)。 図 4 ひょうたん池の問題② この問題を、ここでは「ひょうたん池の問 題」ということにする。図5は島が1つの場合 (問題①)、図6は島が2つになった場合(問題 ②)の選択回答の分布を表したものである。帯 グラフ内の数値は、それぞれを選択回答した人 数を表す(以下同じ)。 図 5 ひょうたん池の問題 ① 図 6 ひょうたん池の問題 ② 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 32 19 24 13 21 60 100 97 112 104 45 27 29 27 19 東池の方が広い 同じ広さ 西池の方が広い 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 33 23 20 17 13 41 90 94 107 100 63 33 36 29 32 東池の方が広い 同じ広さ 西池の方が広い 「ひょうたん池の問題①」(図5)について、 学年(1~5年生)×3選択肢(東、同じ、西)の 人数分布を表す5×3の分割表に対してカイ2 乗検定を行ったところ、有意差がみられた( χ2(8)= 38.91、p<.01)。残差分析の結果は、 次のようであった。1年生では「東」「西」の選 択回答が有意に多く(p<.01)、「同じ」が有 意に少ない(p<.01)。4年生では「東」の選 択回答が有意に少なく(p<.05)、「同じ」が 有意に多い(p<.01)。また、5年生では 「西」の選択回答が有意に少なく(p<.05)、 「同じ」が有意に多かった(p<.05)。高学年 図5 ひょうたん池の問題① 図6 ひょうたん池の問題② -38-

(5)

 「ひょうたん池の問題①」(図5)について, 学年(1~5年生)×3選択肢(東,同じ,西) の人数分布を表す5×3の分割表に対してカイ 2乗検定を行ったところ,有意差がみられた (χ2(8)=38.91,p<.01)。残差分析の結果は, 次のようであった。1年生では「東」「西」の 選択回答が有意に多く(p<.01),「同じ」が 有意に少ない(p<.01)。4年生では「東」の 選択回答が有意に少なく(p<.05),「同じ」 が有意に多い(p<.01)。また,5年生では 「西」の選択回答が有意に少なく(p<.05),「同 じ」が有意に多かった(p<.05)。高学年にな ると,「同じ」を選択するものが多くなってい る。  同様に,島が2つになった「ひょうたん池の 問題②」(図6)についても,学年(1~5年生) ×3選択肢(東,同じ,西)の人数分布を表す 5×3の分割表についてカイ2乗検定を行っ たところ,有意差がみられた(χ2(8)=64.17, p<.01)。残差分析の結果は,次のようであっ た。1年生では「東」「西」の選択回答が有意 に多く(p<.01),「同じ」が有意に少ない(p <.01)。4年生では「西」の選択回答が有意に 少なく(p<.05),「同じ」が有意に多い(p <.01)。また,5年生では「東」の選択回答が 有意に少なく(p<.05),「同じ」が有意に多 かった(p<.01)。問題①と同様に,高学年に なると「同じ」を選択するものが多くなってい る。  島が1個の場合(問題①)と2個の場合(問 題②)について,1年生の結果を取り出してで きる2(島が1個の場合と2個の場合)×3(選 択肢)の人数を表す分割表に対してカイ2乗検 定を行うと有意差がみられ(χ2(2)=6.59,p <.05),残差分析の結果,島の数が1個の場合 は「同じ」が多く「西」が少ないが,島が2個 の場合は「同じ」が少なく「西」が多かった(全 てp<.05)。2年生以上については,有意な差 はみられなかった。  「ひょうたん池の問題」では,面積の判断に ついて,A=B,a=bのとき,A-a=B- bであると推論できることが重要である。1年 生の結果をみると,問題①については43.8%の 児童が「同じ広さ」を選択している。しかし, 問題②で「同じ広さ」としたものは29.9%,「西 池の方が広い」を選択したものは46.0%であり, 間隙が大きいように見える「西池」がやや多く 選択されたものと思われる。また,問題①と② の両方に「同じ広さ」としたものは,1年生で は16.1%であった。2年生以上の回答分布は1 年生の結果と大きく異なっており,「同じ広さ」 とするものが増加している。それは特に4,5 年生で顕著である。  本問題は他に比べ問題文自体やや複雑であ り,問題文の意味を十分に把握できなかった児 童もいることが推測される。また,文章の理解 に加え,示された図に対して視覚的に判断する のではなく論理的推論によって判断しなければ ならない。  なお,Piagetらの牧草地の面積についての実 験(1960)では,ひょうたん池の問題にそくし ていえば,島の数をさらに増やした際の水面の 面積の大小も問うている。その結果,島の数が 少ない場合は「面積同じ」としていても,島が さらに増加すると「同じ」と判断しない児童が みられたという。ここで報告したひょうたん池 の問題に対する反応からも,島の数を増加させ ると水面の面積が異なっているとの判断が増加 することが推測される(但し,実際にそのよう な問を置こうとすれば,ひょうたん池の図の水 面部分をより大きくする,あるいは島をより小 さくするなどの図示の工夫を要する)。 (3)等周長図形の面積を比較する問題  等周長図形の面積を比較する問題は,①等周 長の正方形とひし形の面積を比較する問題と, ②等周長の正方形と長方形の面積を比較する問 題の2つから構成されていた。これらの問題 は,細谷(1968),Russell(1976),西林(1988) による。 ①等周長の正方形とひし形の面積比較(棒の問 題)  問題は「同じ長さのぼうを使い,はしとはし とが重ならないように合わせて,2つの四角形 -39-

(6)

あ,いを,作りました。あといの,ぼうでかこ んでできる四角形の広さをくらべると,どちら のほうが広いでしょうか。それとも,同じ広さ でしょうか。『あのほうが広い』『同じ広さ』『い のほうが広い』の,どれか1つに○をつけま しょう。」であり,正方形とひし形の図が示さ れていた(図7)。その下には,「あのほうが広 い 同じ広さ いのほうが広い」の3つの選択 肢が示されていた(以下では,選択肢の「あ」 「い」を,それぞれ「正方形」「ひし形」とい う)。  この問題を,ここでは「棒の問題」というこ とにする。図8は,本問題に対する回答の分布 を表したものである。 図7 等周長の正方形とひし形の面積比較 図8 等周長の正方形とひし形の面積比較 6 -ひし形」という)。 図 7 等周長の正方形とひし形の面積比較 この問題を、ここでは「棒の問題」というこ とにする。図8は、本問題に対する回答の分布 を表したものである。 図 8 等周長の正方形とひし形の面積比較 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 35 14 27 42 46 64 106 114 101 83 38 26 9 10 16 正方形 同じ広さ ひし形 等周長の正方形とひし形の面積比較の結果に ついて、学年(1~5年生)×3選択肢(正方形、 同じ、ひし形)の人数分布を表す5×3の分割表 に対してカイ2乗検定を行ったところ有意差が みられた(χ2 (8)=67.39、p<.01)。残差分析の 結果は、次のようであった。1年生では「ひし 形」の選択回答が有意に多く(p<.01)、「同 じ」が有意に少ない(p<.01)。2年生では 「正方形」の選択回答が有意に少なく(p<.0 1)、「同じ」が有意に多い(p<.05)。3年生で は「ひし形」の選択回答が有意に少なく(p<. 01)、「同じ」が有意に多い(p<.01)。4年生 では「ひし形」の選択回答が有意に少ない(p <.01)。また、5年生では「正方形」の選択回 答が有意に多かった(p<.01)。1年生と2年 生以降で選択回答の方法に差異のあることが示 唆される。5年生では「正方形」を選択するも のが若干多いが、それには平行四辺形の求積公 式の学習の影響が推測される。そうであっても、 6割弱の児童が「同じ」と回答していることに は、留意する必要がある。 ② 等周長の正方形と長方形の面積比較(ひも の問題) 問題文は、次のようであった。「同じ長さのひ もが2本、あります。(その下に2本のまっすぐ に伸ばしたひもの図が示されていた(ここでは省 略する)。)1本で ましかく(正方形)を、もう 1本で ながしかく(長方形)を 作りました。 (続いて正方形と長方形の図(図9)が示され ていた。)左の ましかく(正方形)と 右の なが しかく(長方形)の 広さを くらべると、どち らのほうが 広いでしょうか。それとも、同じ広 さでしょうか。『ましかくのほうが広い』『同じ 広さ』『ながしかくのほうが広い』の、どれか1 つに ○を つけましょう。」 図 9 等周長の正方形と長方形の面積比較 6 -ひし形」という)。 図 7 等周長の正方形とひし形の面積比較 この問題を、ここでは「棒の問題」というこ とにする。図8は、本問題に対する回答の分布 を表したものである。 図 8 等周長の正方形とひし形の面積比較 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 35 14 27 42 46 64 106 114 101 83 38 26 9 10 16 正方形 同じ広さ ひし形 等周長の正方形とひし形の面積比較の結果に ついて、学年(1~5年生)×3選択肢(正方形、 同じ、ひし形)の人数分布を表す5×3の分割表 に対してカイ2乗検定を行ったところ有意差が みられた(χ2(8)=67.39、p<.01)。残差分析の 結果は、次のようであった。1年生では「ひし 形」の選択回答が有意に多く(p<.01)、「同 じ」が有意に少ない(p<.01)。2年生では 「正方形」の選択回答が有意に少なく(p<.0 1)、「同じ」が有意に多い(p<.05)。3年生で は「ひし形」の選択回答が有意に少なく(p<. 01)、「同じ」が有意に多い(p<.01)。4年生 では「ひし形」の選択回答が有意に少ない(p <.01)。また、5年生では「正方形」の選択回 答が有意に多かった(p<.01)。1年生と2年 生以降で選択回答の方法に差異のあることが示 唆される。5年生では「正方形」を選択するも のが若干多いが、それには平行四辺形の求積公 式の学習の影響が推測される。そうであっても、 6割弱の児童が「同じ」と回答していることに は、留意する必要がある。 ② 等周長の正方形と長方形の面積比較(ひも の問題) 問題文は、次のようであった。「同じ長さのひ もが2本、あります。(その下に2本のまっすぐ に伸ばしたひもの図が示されていた(ここでは省 略する)。)1本で ましかく(正方形)を、もう 1本で ながしかく(長方形)を 作りました。 (続いて正方形と長方形の図(図9)が示され ていた。)左の ましかく(正方形)と 右の なが しかく(長方形)の 広さを くらべると、どち らのほうが 広いでしょうか。それとも、同じ広 さでしょうか。『ましかくのほうが広い』『同じ 広さ』『ながしかくのほうが広い』の、どれか1 つに ○を つけましょう。」 図 9 等周長の正方形と長方形の面積比較  等周長の正方形とひし形の面積比較の結果に ついて,学年(1~5年生)×3選択肢(正方 形,同じ,ひし形)の人数分布を表す5×3の 分割表に対してカイ2乗検定を行ったところ有 意差がみられた(χ2(8)=67.39,p<.01)。残 差分析の結果は,次のようであった。1年生で は「ひし形」の選択回答が有意に多く(p<.01), 「同じ」が有意に少ない(p<.01)。2年生で は「正方形」の選択回答が有意に少なく(p <.01),「同じ」が有意に多い(p<.05)。3年 生では「ひし形」の選択回答が有意に少なく(p <.01),「同じ」が有意に多い(p<.01)。4年 生では「ひし形」の選択回答が有意に少ない(p <.01)。また,5年生では「正方形」の選択回 答が有意に多かった(p<.01)。1年生と2年 生以降で選択回答の方法に差異のあることが示 唆される。5年生では「正方形」を選択するも のが若干多いが,それには平行四辺形の求積公 式の学習の影響が推測される。そうであって も,6割弱の児童が「同じ」と回答しているこ とには,留意する必要がある。 ②等周長の正方形と長方形の面積比較(ひもの 問題)  問題文は,次のようであった。「同じ長さの ひもが2本,あります。(その下に2本のまっ すぐに伸ばしたひもの図が示されていた(ここ では省略する)。)1本でましかく(正方形)を, もう1本でながしかく(長方形)を作りました。 (続いて正方形と長方形の図(図9)が示され ていた。)左のましかく(正方形)と右の な がしかく(長方形)の広さをくらべると,どち らのほうが広いでしょうか。それとも,同じ広 さでしょうか。『ましかくのほうが広い』『同じ -40-

(7)

広さ』『ながしかくのほうが広い』の,どれか 1つに○をつけましょう。」  この問題を「ひもの問題」ということにする。 この問題文の下に「ましかくのほうが広い 同 じ広さ ながしかくのほうが広い」の選択肢が 示されていた(以下では,「ましかく」「ながし かく」を,それぞれ「正方形」「長方形」という)。 図10は,本問題に対する回答の分布を表したも のである。 6 -ひし形」という)。 図 7 等周長の正方形とひし形の面積比較 この問題を、ここでは「棒の問題」というこ とにする。図8は、本問題に対する回答の分布 を表したものである。 図 8 等周長の正方形とひし形の面積比較 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 35 14 27 42 46 64 106 114 101 83 38 26 9 10 16 正方形 同じ広さ ひし形 等周長の正方形とひし形の面積比較の結果に ついて、学年(1~5年生)×3選択肢(正方形、 同じ、ひし形)の人数分布を表す5×3の分割表 に対してカイ2乗検定を行ったところ有意差が みられた(χ2(8)=67.39、p<.01)。残差分析の 結果は、次のようであった。1年生では「ひし 形」の選択回答が有意に多く(p<.01)、「同 じ」が有意に少ない(p<.01)。2年生では 「正方形」の選択回答が有意に少なく(p<.0 1)、「同じ」が有意に多い(p<.05)。3年生で は「ひし形」の選択回答が有意に少なく(p<. 01)、「同じ」が有意に多い(p<.01)。4年生 では「ひし形」の選択回答が有意に少ない(p <.01)。また、5年生では「正方形」の選択回 答が有意に多かった(p<.01)。1年生と2年 生以降で選択回答の方法に差異のあることが示 唆される。5年生では「正方形」を選択するも のが若干多いが、それには平行四辺形の求積公 式の学習の影響が推測される。そうであっても、 6割弱の児童が「同じ」と回答していることに は、留意する必要がある。 ② 等周長の正方形と長方形の面積比較(ひも の問題) 問題文は、次のようであった。「同じ長さのひ もが2本、あります。(その下に2本のまっすぐ に伸ばしたひもの図が示されていた(ここでは省 略する)。)1本で ましかく(正方形)を、もう 1本で ながしかく(長方形)を 作りました。 (続いて正方形と長方形の図(図9)が示され ていた。)左の ましかく(正方形)と 右の なが しかく(長方形)の 広さを くらべると、どち らのほうが 広いでしょうか。それとも、同じ広 さでしょうか。『ましかくのほうが広い』『同じ 広さ』『ながしかくのほうが広い』の、どれか1 つに ○を つけましょう。」 図図9 等周長の正方形と長方形の面積比較9 等周長の正方形と長方形の面積比較 図10 等周長の正方形と長方形の面積比較 7 -この問題を「ひもの問題」ということにする。 この問題文の下に「ましかくのほうが 広い 同 じ広さ ながしかくのほうが 広い」の選択肢が 示されていた(以下では、「ましかく」「ながし かく」を、それぞれ「正方形」「長方形」とい う)。図10は、本問題に対する回答の分布を表し たものである。 図 10 等周長の正方形と長方形の面積比較 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生 66 53 50 64 47 37 83 94 80 93 32 10 6 9 5 正方形 同じ広さ 長方形 等周長の正方形と長方形の面積比較の結果に ついて 学年(1~5年生)×3選択肢(正方形、 同じ、長方形)の人数の分布を表す5×3の分割 表についてカイ2乗検定を行ったところ、有意 差がみられた(χ2 (8)=76.28、p<.01)。残差分 析の結果は、次のようであった。1年生では 「正方形」、「長方形」の選択回答が有意に多く (p<.01)、「同じ」が有意に少ない(p<.0 1)。3年生では「長方形」の選択回答が有意に 少なく(p<.05)、「同じ」が有意に多い(p<. 01)。また、5年生では「長方形」の選択回答が 有意に少なく(p<.05)、「同じ」が有意に多か った(p<.01)。この問題でも、第1学年の結 果は他の学年とは異なる傾向を示している。 「棒の問題」について、1年生では全体の3 割弱のものが「ひし形」を選択しているが、そ のような児童は、示されたひし形の右側の出っ 張りや横の広がりに中心化して判断したことが 推測される。「ひもの問題」については、1年生 の半数弱のものが「正方形」を選択しており、 「同じ」の選択は比較的少ない。また1年生で は「長方形」を選択したものが1/4弱みられるが、 そのような児童は横方向の広がりに中心化して 判断したのかもしれない。そうすると「正方 形」を選択したものも、縦方向の辺長に着目し て判断したとも考えられる。 第4学年では面積単元の導入時に等周長の正 方形と長方形の面積比較の場面が扱われるが、 本調査で扱った問題には「同じ」とするものが 多くみられる。 図11は、ひょうたん池の問題の①と②の2題 ともに「同じ」(正答)と回答した児童の割合と、 2題の等周長図形の面積を比較する問題にとも に「正方形」を選択しなかった(誤答)児童の 割合を学年別にプロットしたものである。この 図からも、第1学年の児童の判断と第2学年以 上の児童の判断とは大きく異なっていることが 分かる。  等周長の正方形と長方形の面積比較の結果に ついて 学年(1~5年生)×3選択肢(正方形, 同じ,長方形)の人数分布を表す5×3の分割 表についてカイ2乗検定を行ったところ,有意 差がみられた(χ2(8)=76.28,p<.01)。残差 分析の結果は,次のようであった。1年生では 「正方形」,「長方形」の選択回答が有意に多く (p<.01),「同じ」が有意に少ない(p<.01)。 3年生では「長方形」の選択回答が有意に少な く(p<.05),「同じ」が有意に多い(p<.01)。 また,5年生では「長方形」の選択回答が有意 に少なく(p<.05),「同じ」が有意に多かっ た(p<.01)。この問題でも,第1学年の結果 は他の学年とは異なる傾向を示している。  「棒の問題」について,1年生では全体の3 割弱のものが「ひし形」を選択しているが,そ のような児童は,示されたひし形の右側の出っ 張りや横の広がりに中心化して判断したことが 推測される。「ひもの問題」については,1年 生の半数弱のものが「正方形」を選択しており, 「同じ」の選択は比較的少ない。また1年生で は「長方形」を選択したものが1/4弱みられるが, そのような児童は横方向の広がりに中心化して 判断したのかもしれない。そうすると「正方形」 を選択したものも,縦方向の辺長に着目して判 断したとも考えられる。  第4学年では面積単元の導入時に等周長の正 方形と長方形の面積比較の場面が扱われるが, 本調査で扱った問題には「同じ」とするものが 多くみられる。  図11は,ひょうたん池の問題の①と②の2題 ともに「同じ」(正答)と回答した児童の割合と, 2題の等周長図形の面積を比較する問題にとも に「正方形」を選択しなかった(誤答)児童の 割合を学年別にプロットしたものである。この 図からも,第1学年の児童の判断と第2学年以 上の児童の判断とは大きく異なっていることが 分かる。 -41-

(8)

3 考察

 本調査では,大きくは次の3つの問題につい て検討した。  ①正方形からなる図形の面積を比較する問題  ②面積に関する推論問題(ひょうたん池の問 題)  ③等周長図形の面積を比較する問題(棒の問 題・ひもの問題)  第1学年では任意単位による面積の測定が授 業で扱われていることもあって,①の正方形か らなる図形の面積を比較する問題については第 1学年から高い達成率がみられたのであろう。 そのような判断方法は,数概念の形成にも依存 するものであろう。実際,調査実施校は異なる が,第1学年の児童を対象として9月に同一問 題で実施された正方形の個数による面積比較問 題の調査結果をみると(長谷川・吉川,2013), 学年末に実施された本調査の結果の方が1割程 度,正答率が高い。数を数える方法の精緻化と 習熟に伴って,正方形を単位とする面積判断の 方法も精錬されていくことが推測される。  但し,この調査結果から,第1学年で単位 を用いた測定の考え方が形成・獲得されている とは必ずしもいえない。Piagetら(1960)の実 験では,単位正方形のみから比較対象となる図 形を構成するだけではなく,単位正方形を対角 線で2等分した直角二等辺三角形も用いて比較 の対象となる図形を構成するなどして,単位の 概念が形成されているかを検討している。今後 は,そのような観点を含めた調査問題の開発も 必要である。  ②の論理的推論を要するひょうたん池の問題 については,第1学年よりも高学年の児童の方 が正答率が高く,第1学年では島の個数によっ ても判断が異なっていた。本問題によって,問 題理解も含め,児童の論理的推論の発達の様相 を見取ることができるのではないかと思われ る。  等周長図形の面積を比較する問題③では,第 2学年あるいは第3学年以降で「同じ」とする 判断が多くみられた。ひょうたん池の問題では 視覚的判断ではなく論理的な判断が求められる が,等周長図形の面積比較問題では,「正方形 をつぶしていって,ひし形にしたから」といっ た図形の連続的変形や,「ひもの長さ,つまり 周りの長さは同じだから面積は同じ」といった 推論による判断は誤判断となる。  図形が等周長であれば面積も等しいとする判 断が高学年で増加することについては,保存概 念の獲得に伴って生じる「成長によるエラー」 (西林,1988),面積への導入部での算数教育の 図11 ひょうたん池の問題正答と等周長図形の面積比較問題誤答

8

-図

11

ひょうたん池の問題正答と等周長図形の面積比較問題誤答

0% 20% 40% 60% 80% 100% ひょうたん池の問題①②正答 0% 20% 40% 60% 80% 100% 等周 長図 形の面 積問 題誤 答 1年生 2年生 3年生 4年生 5年生

考 察

本調査では、大きくは次の3つの問題につい

て検討した。

①正方形からなる図形の面積を比較する問題

②面積に関する推論問題(ひょうたん池の問

題)

③等周長図形の面積を比較する問題(棒の問

題・ひもの問題)

第1学年では任意単位による面積の測定が授

業で扱われていることもあって、①の正方形か

らなる図形の面積を比較する問題については第

1学年から高い達成率がみられたのであろう。

そのような判断方法は、数概念の形成にも依存

するものであろう。実際、調査実施校は異なる

が、第1学年の児童を対象として9月に同一問

題で実施された正方形の個数による面積比較問

題の調査結果をみると(長谷川・吉川、

2013)、

学年末に実施された本調査の結果の方が1割程

度、正答率が高い。数を数える方法の精緻化と

習熟に伴って、正方形を単位とする面積判断の

方法も精錬されていくことが推測される。

但し、この調査結果から、第1学年で単位を

用いた測定の考え方が形成・獲得されているとは

必ずしもいえない。

Piaget ら(1960)の実験では、

単位正方形のみから比較対象となる図形を構成

するだけではなく、単位正方形を対角線で2等

分した直角二等辺三角形も用いて比較の対象と

なる図形を構成するなどして、単位の概念が形

成されているかを検討している。今後は、その

ような観点を含めた調査問題の開発も必要であ

る。

②の論理的推論を要するひょうたん池の問題

については、第1学年よりも高学年の児童の方

が正答率が高く、第1学年では島の個数によっ

ても判断が異なっていた。本問題によって、問

題理解も含め、児童の論理的推論の発達の様相

を見取ることができるのではないかと思われる。

等周長図形の面積を比較する問題③では、第

2学年あるいは第3学年以降で「同じ」とする

判断が多くみられた。ひょうたん池の問題では

視覚的判断ではなく論理的な判断が求められる

が、等周長図形の面積比較問題では、

「正方形を

つぶしていって、ひし形にしたから」といった

図形の連続的変形や、

「ひもの長さ、つまり周り

の長さは同じだから面積は同じ」といった推論

による判断は誤判断となる。

図形が等周長であれば面積も等しいとする判

断が高学年で増加することについては、保存概

念の獲得に伴って生じる「成長によるエラー」

(西林、

1988)、面積への導入部での算数教育の

問題(工藤・白井、

1991)、面積に関する知的操

作水準や公式の定性的理解(工藤、

2005;佐藤、

2008)など様々な観点から検討されているが、

十分に解明されているとはいえない。その要因

についてはさらなる検討を要するが、算数教育

-42-

(9)

問題(工藤・白井,1991),面積に関する知的操 作水準や公式の定性的理解(工藤,2005;佐藤, 2008)など様々な観点から検討されているが, 十分に解明されているとはいえない。その要因 についてはさらなる検討を要するが,算数教育 の観点からみれば,そのような誤判断への対応 を検討すること,とりわけ誤判断を惹起してい る素材の教材化が課題となろう。  例えば,長谷川(2008),長谷川・吉川(2013) は,第4学年の児童を対象として,等周長図形 の面積比較の問題を授業の素材として取り上げ 検討している。但し,それらの授業事例では, 本稿で取り上げた等周長図形の面積比較の問題 を直接的な素材としたものではない。それで は,そのような問題を直接的な素材として授業 を行ったらどうだろうか。第4学年であれば, 輪にしたひもを用いて形を作り,その面積につ いて考えるなどの授業も構想される。輪にした ひもで正方形や長方形を作る,長方形の1つの 辺長を短くし全体が1本のひものように見える 図形を作るなどの活動や,正方形や長方形に対 しては求積公式を適用して面積を求める活動な ど,質的判断と量的判断の両面から問題にアプ ローチするなどが考えられる。第5学年で扱わ れる平行四辺形の面積についても,同様の活動 が構想される(長谷川・横山・植松,1988;長谷 川・岩田,1996)。  但し,これまでに実施された授業事例をみる と,等周長図形の面積比較問題を授業で扱った としても,図形の周長と面積とは無関係である ことは,すぐには定着してはいなかった。その ような授業を実施したとしても,その後,長方 形や平行四辺形の求積公式を適用して面積を求 める問題の中に,図形の周長と面積の関係を考 えさせる問題を配置するなど,授業内容の定着 と一般化を図る機会を設定することが必要であ る。また,そのような一連の練習問題の開発も 求められる。授業の実施や練習問題の開発など の検討も含め,第4学年から第5学年にかけて の面積指導の系統を総合的に検討する必要があ る。 謝辞  調査に参加してくださった児童の皆さん,調 査を実施してくださいました先生方に,この場 をお借りしてお礼を申します。 文 献 長谷川順一(2008)「事例研究:『面積』と『周長』 との分離を目標とした算数の授業-ジオボード を用いた図形の構成をもとに-」日本教育方法 学会紀要「教育方法学研究」33,25-56 長谷川順一・岩田貴宏(1996)「等周長の正方形と平 行四辺形に対する小学生の面積判断」日本数学 教育学会誌 78(4),60-65 長谷川順一・横山昇司・植松茂(1988)「平行四辺形 の面積概念の構成に関する操作と教具について -事例研究をもとに-」香川大学教育実践研究, 10,19-29 長谷川順一・吉川雄基(2013)「面積に関する基礎概 念について(1)-小学校第4学年の児童を中 心とした調査とその結果-」香川大学教育実践 総合研究,27,25-34 細谷 純(1968)「空間・量・数の認識とその発達」黒 田孝郎他編「教育学全集6 論理と数学」81- 112,小学館 工藤与志文(2005)「概念的知識の適用可能性に及ぼ す知識操作水準の影響-平行四辺形求積公式の 場合-」 教育心理学研究,53,405-413 工藤与志文・白井秀明(1991)「小学生の面積学習に 及ぼす誤ルールの影響」教育心理学研究 39, 21-30 西林克彦(1988)「面積判断における周長の影響― その実態と原因―」教育心理学研究,36(2), 120-128

Piaget, J., Inhelder, B. and Szeminska, A. (1960)“The child’s conception of geometry.” Translated by E. A. Lunzer, Routledge and Kegan Paul, 261-273. Russell, J. (1976) Nonconservation of area: Do

children succeed where adults fail?" Developmnet Psychology, 89(4), 367-368.

佐藤誠子(2008)「小中学生における面積大小判断と その規定要因について-図形の高さ概念および 公式の定性的理解に着目して-」東北大学大学 -43-

(10)

院教育学研究科研究年報 56(2),123-135

付記

 第1執筆者が本論をまとめるに当たって,一 部,科学研究費からの補助を得た。

参照

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学校の PC などにソフトのインストールを禁じていることがある そのため絵本を内蔵した iPad

大学設置基準の大綱化以来,大学における教育 研究水準の維持向上のため,各大学の自己点検評

を軌道にのせることができた。最後の2年間 では,本学が他大学に比して遅々としていた

健学科の基礎を築いた。医療短大部の4年制 大学への昇格は文部省の方針により,医学部