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療養病床に勤務する看護職の職務関与の構造分析

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Ⅰ.諸     言  日本の高齢者医療制度は,世界では例をみな い急速な高齢化と共に,1973年の老人医療費無 料化,1983年の特例許可老人病院の制度化, 1993年の療養型病床群の創設とさまざまな変革 を遂げてきた。その後,療養型病床群は「療養 病床」となり,2000年の介護保険制度導入後は 「医療型療養病床」と「介護療養型医療施設」 に区分されている。このように高齢者医療の問 題は30年以上にわたり複雑な経過をたどり,今 日の療養病床再編に行き着いている1,2)  療養病床の入院患者は非常に高齢で重度の要 介護状態にあり,一般病床と比較して入院期間 も長期に及ぶ3,4)。しかし,医療法で定められて いる看護職の配置人数は一般病床の約半数であ り,療養病床の看護職は過酷な労働条件の下, 日々の業務を行なっている。今もなお療養病床 の削減が進められるなど,高齢者の看護を取り 巻く環境も変化を繰り返している現状にあるた め,それに対応した看護管理体制を整えること が必要である。  近年,国民の医療サービスの質への関心は高 まっており5),看護においても質の評価が要求 される時代となった。高齢化がますます深刻な 社会問題となる中,制度の変革に振り回され ず,国民のニーズに対応した看護の質を向上す ることが療養病床における重要な課題である。

原著:

 高齢者医療制度はさまざまな変革を遂げ今日の療養病床再編に行き着いている。入院患 者の高齢化や重度化などにより療養病床の看護職への負担が増える中,高齢者看護の質を 向上するためには,療養病床に勤務する看護職が疲弊せずモチベーションをもち働ける環 境をマネジメントすることが必要である。そこで,ワークモチベーションの概念の中でも 職務への意欲や態度を表す職務関与に着目し,職務関与因果モデルを構築し療養病床に勤 務する看護職の職務関与の影響要因を明らかにすることを研究目的とした。  岩手県内の療養病床に勤務する看護職に質問紙調査を実施し257名(有効回答率45.1%) の女性看護職を分析対象とした。調査には,職務関与測定尺度(義村),JDS(Job Di ag-nos tic Survey)尺度(Hackman & Oldham),職務満足の質問項目(Stamps, Herzberg を参考に新たに作成)を使用した。共分散構造分析により職務関与の影響要因を内発的動 機づけ,外発的動機づけという視点から検討した。その結果,内発的動機づけである職務 特性の影響が大きいことが明らかになった。その中で影響が高かった要因はフィードバッ クであり,影響が低かった要因は自律性であった。療養病床の看護職の職務関与に働きか ける看護管理方法として,自分の仕事の成果を認識できるフィードバックを促進すること が有効であると示唆された。 ────────────────────   ①療養病床 ②ワークモチベーション ③職務関与 ④職務特性 ⑤職務満足 ────────────── * 〒107 0062 東京都港区南青山1 3 3 青山 1 丁目タワー 国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健医療学専攻 2* 岩手保健医療大学看護学部 (受付:2016年 9 月 5 日)

療養病床に勤務する看護職の職務関与の構造分析

木 内 千 晶

*,2*

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看護の質は看護職個々人の影響を受けるため, 質の高い看護を提供するためには,看護職一人 ひとりが疲弊せずモチベーションをもち働ける 環境をマネジメントすることが不可欠である。  職務へのモチベーションをあらわす概念は多 いが,職務関与は古くから研究が行なわれ6) 本人の仕事への一体化に向けた「意欲」を重視 した概念とされる7)。中でも義村8)は,職務関 与を態度の 3 要素に対応させ,情緒的側面(職 務への興味愛着),認知的側面(生活の中で仕 事が有する重要性),行動的側面(自発的な職 務に関連行動をとる意志)を持つ多面的な概念 であると捉えている。看護の質はとりわけ看護 職の意欲や態度による影響が大きいため,看護 管理ではモチベーション概念の中でも職務への 意欲や態度を表す職務関与に着目することに意 義がある。職務関与の影響要因が明らかになれ ば,それに応じた施策を講じることが可能とな る。そこで,職務関与の影響要因を明らかにす ることで療養病床の看護管理の方向性を検討す ることとした。  職務のモチベーションの要因に関する研究は 1960年代以降米国を中心に展開されてきた。そ れらによると9∼11),モチベーションの要因には 仕事そのものに関係する内発的な動機づけと, 仕事内容の本質には直接関係しない外発的な動 機づけがあるといえる。  しかし,療養病床看護の職務に関して系統的 に研究されたものは見あたらない。看護の研 究全体に視点を広げると,看護職の職務に関 しては,職務満足についての研究が散見され る12∼15)。ただし,職務満足感が高い人が高いモ チベーションをもつとは限らず16),職務満足が ワークモチベーションを高めることに影響は持 たないという指摘もある17)。これら職務満足に 関する研究の多くは,「給料」「職業的地位」「職 場の人間関係」「看護管理」等,外発的な要因 で職務満足を測定していた。  看護の質向上を目指すためには,職務満足感 を明らかにすることに終わらず,満足感が職務 に関する意欲や態度,行動にも影響するかを分 析することが望まれる。そこで,本研究では職 務関与の規定要因として外発的な動機づけとな る職務満足と内発的な動機づけとなる職務特性 を設定し,因果モデルを構築することにより, これらの職務関与への影響を分析することを目 的とした。  なお,本研究を実施した2008年の療養病床の 状況は,2006年の療養病床再編案では,介護療 養型13万床を2011年度末までに全廃,医療療養 型25万床は2012年度までに15万床に削減するこ とが決定していた。しかし,本研究の調査開始 後の2008年 7 月には高齢者人口の増加を考慮 し,当初の計画を大幅に変更し医療療養型は約 22万床を存続させることになった。2011年の介 護保険法改正では,介護療養病床の廃止・転換 期限を2017年度末まで延長し,看護職の配置人 数についても,2017年度末まで経過措置を認め た。全病院のうち療養病床を有する病院は 45.4%で,現在に至っても医療型療養病床が約 27万7,000床, 介 護 療 養 型 医 療 施 設 が 約 6 万 3,000床存続している18)  また,「療養病床」「看護」をキーワードに 2008年以降の文献を検索した結果,その主な内 容は実態調査や自施設内の業務改善についてで あった。それらは主に記述統計による報告や 1 施設の研究のため一般化には至っていなかっ た。看護の職務に関してやそのベースとなる看 護管理に関する系統的な研究は2008年以前と同 様に依然として少なく,ワークモチベーション に関する研究は認められなかった。  従って,現在も療養病床が全国の 4 割以上の 病院に存続していることや,これまでに療養病 床の看護職のワークモチベーションについての 研究は発表されていないことから,本研究の分 析結果を今日の療養病床にも役立てることが可 能と考える。  近年のポジティブ心理学の発展により,職場 におけるメンタルヘルス対策にもポジティブな 考えが導入されるようになった19)。本研究で職 務関与という働く人のポジティブな側面への影 響要因をモデル化することは,今後の看護職の メンタルヘルス対策の在り方を考える材料にな り得る。このように本研究は,今後の療養病床

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再編に向け看護の質向上につながる看護管理へ の示唆を得るために意義があると考え再分析を 試みたので報告する。 Ⅱ.方     法 1 .概念枠組みと質問紙の測定尺度  概念枠組みは図 1 に示すとおり,職務関与は 職務特性と職務満足から影響を受けると捉え た。職務特性は内発的動機づけとして,職務満 足は外発的動機づけとして設定した。職務関 与,職務特性,職務満足の 3 概念の因果関係を 分析するために,複数の構成概念間すなわち潜 在変数間の因果関係を検討することができる共 分散構造分析を分析方法として選択し,潜在変 数間の因果関係を示す多重指標モデルを構築し た。 1 )職務関与  職務関与には義村8)の職務関与測定尺度を使 用した。義村の職務関与測定尺度は態度概念を ベースとし,職務へのモチベーションを測定す ることができるとされている。「情緒的職務関 与」 3 項目,「認知的職務関与」 2 項目,「行動 的職務関与」 4 項目の態度概念 3 要素 9 項目で 構成され,信頼性,妥当性が検証されている。 回答は「当てはまらない」「あまり当てはまら ない」「どちらとも言えない」「まあ当てはまる」 「当てはまる」の 5 件法で求めた。 2 )職務特性  内 発 的 動 機 づ け に 関 す る 理 論 に は, Hackman & Oldham の職務特性理論11)があ り,職務特性は個人が従事している仕事内容の 性質を表し,これらの認識が高いほど職務に対 するモチベーションが高いとしている。そこ で, 職 務 特 性 に は Hackman & Oldham20) JDS 尺度を用いた。この尺度は 7 次元21項目 で構成され 1 次元に 3 項目ずつ質問項目があ る。「技能多様性」「タスク明確性」「タスク重 要性」「自律性」「フィードバック」の 5 つの職 務特性次元に対する質問項目は大津21)の日本 語訳を使用し,「そうでない」「ややそうでない」 「どちらでもない」「ややそうである」「そうで ある」の 5 件法で回答できるように承諾を得て 一部を変更した。「他者からのフィードバック」 「他者との接触」の 2 つの補足次元に対する質 問項目は,筆者が原文の意味が忠実に表現され るよう日本語訳を作成し, 2 人の研究者による スーパーバイズを受けた。プリテストを実施し 内発的動機づけ 職務特性 外発的動機づけ 職務満足 職務へのモチベーション 職務関与 ・技能多様性 ・タスク明確性 ・タスク重要性 ・自律性 ・職務からのフィードバック ・他者からのフィードバック ・他者との接触 ・情緒的職務関与 ・行動的職務関与 ・認知的職務関与 ・雇用の保障・地位・看護管理体制 ・上司のリーダーシップ・給料 ・病院の経営方針・労働時間 ・昇進の可能性・上司からの信任 ・人間関係 図 1 .本研究の概念図

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回答が困難であると指摘を受けた項目について は修正を加えた。また,逆転項目は得点を入れ 替え分析した。 3 )職務満足  職務満足は,Stamps の看護職の職務満足 度22,23),ならびに Herzberg の衛生要因9)から 検討し,外発的な項目のみを援用し新たな質問 紙とした。援用した項目は「雇用の保障や安定」 「地位」「看護管理体制」「上司のリーダーシップ」 「給料」「病院の理念や経営方針」「労働時間」「昇 進の可能性」「上司からの信任」「看護職間の関 係」「看護職と医師との関係」の11項目で,療 養病床では介護職の配置があるため,「看護─ 介護職間の関係」の項目を追加した。計12項目 について「そうでない」「ややそうでない」「ど ちらでもない」「ややそうである」「そうである」 の 5 件法で回答を求めた。 2 .対象  岩手県内にある療養病床を有する37病院のう ち,承諾が得られた23病院の医療型療養病床お よび介護療養型医療施設に勤務する看護職570 名を対象にした。 3 .調査方法と期間  自記式質問紙調査による量的横断研究で,期 間は2008年 7 月から 8 月であった。 4 .データ収集の手順  承諾が得られた23病院の看護部長または総看 護師長宛に,調査依頼文と無記名式質問紙,返 信用封筒を送付し対象者への配布を依頼した。 質問紙の回収は各人が個別封筒に入れ,郵送に て研究者に返信する方式とした。 5 .分析方法  職務関与因果モデルを作成する前段階の手続 きとして,「職務特性」と「職務関与」は,下 位尺度と質問項目が既存の尺度と同様に対応す るかについて,確証的因子分析により確認を行 なった。  「職務満足」は既存の項目を組み合わせて作 成したため,探索的因子分析(主因子法,プロ マックス回転,固有値 1 以上を基準)を行ない 因子妥当性の確認をし,Cronbach のα係数に て内的整合性を確認した後,確証的因子分析を 行なった。  次に,職務関与因果モデルについて共分散構 造分析による適合度分析により,多重指標モデ ルの妥当性を確認した。その際モデルを簡便化 するために,「職務関与」「職務特性」「職務満足」 の因子を構成する変数の得点総和を項目数で除 したものにより各因子を得点化し,それらを観 測変数とした。   統 計 解 析 に は IBM SPSS Statistics 24.0と Amos 24.0を使用した。共分散構造分析の適合 度は,GFI(Goodness of Fit Index)は0.9以上, RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)は0.08以下を基準とし24),す べての分析で有意水準は 5 %未満とした。 6 .倫理的配慮  対象者には文書にて,調査内容は研究の目的 以外には使用しないこと,結果はすべて統計的 な処理を行なうため個人や病院が特定されるこ とはないこと,論文作成後に質問紙は粉砕し破 棄することを説明した。また,研究結果を公表 する際にも個人が特定されないことを説明し, 返信をもって了承を得るものとした。  なお,研究は所属機関の大学院看護学研究科 研究倫理審査会の承認を得て行なった。 Ⅲ.結     果  318名より返信があり,回収率は55.8%で あった。欠損値を有する人を除外したところ, 男性は 3 名と少なかったため除外し,女性257 名(有効回答率45.1%)を分析対象とした。 1 .対象の概要  対象者の平均年齢は44.9±9.7歳(平均±標 準偏差),看護職の経験年数は22.4±10.0年, 療養病床の経験年数は6.2±6.6年であった。職 種は看護師が162名(63.0%),准看護師が95名 (37.0%)であり,役職に付いている人は64名

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2 .職務関与の分析検討  職務関与測定尺度の 3 要素を潜在変数とした 2 次因子モデルの確証的因子分析を行なった。 全ての項目が義村の 3 因子概念と同様のモデル となり,適合度は,GFI 0.946,RMSEA 0.080 であった(図 2 )。パス図の数値は標準化係数 で,四角は実在変数,楕円は潜在変数,矢印は 因果関係を示す。職務関与の質問項目の平均を 表 2 に示した。 3 .職務特性の分析検討  JDS 尺度の 7 次元を潜在変数とした 2 次因 子モデルの確証的因子分析を行なった。「職務 (24.9%)で,所属部署は,医療型療養病床が 176名(68.5%),介護療養型医療施設が54名 (21.0%)であった(表 1 )。 表 1 .属性 N=257 カテゴリー 人数 % 職種  看護師 162 63.0  准看護師 95 37.0 役職  有り 64 24.9  (師長) (21) (8.2)  (副師長・主任等) (41) (16.0)  (その他) (2) (0.8)  無し 193 75.1 所属部署  医療型療養病床 176 68.5  介護療養型医療施設 54 21.0  医療・介護混合 27 10.5 就業形態  正規職員 247 96.1  正規職員以外 10 3.9 婚姻状況  配偶者有り 176 68.5  配偶者無し 81 31.5 同居の子供  有り 148 57.6  無し 109 42.4 図 2 .職務関与モデル 行動的 職務関与 K6 K7 K8 K9 情緒的 職務関与 K1 K2 K5 K3 K4 職務関与 認知的 職務関与 .45 .68 .78 .54 .84 .75 .80 .91 .76 .77 .66 .61 表 2 .職務関与 質問項目の平均点 項目 番号 質 問 項 目 平均(SD) 情緒的職務関与 K1) 仕事には興味を持っている 3.83(0.94) K2) これからも現在の仕事を続けていきたいと思う 3.73(1.04) K5) 今やっている仕事が好きである 3.51(1.07) 認知的職務関与 K3) 人生の主たる満足は,仕事から得られる 3.01(1.00) K4) 私にとって最も重要なことは,仕事に関することである 2.69(1.01) 行動的職務関与 K6) 仕事場を離れても,今後の仕事の進め方について,自分なりに考えることがよくある 3.49(1.06) K7) プライベートな時間にも仕事に役立たせるための勉強をしている 2.87(1.13) K8) 仕事場以外でも思いついた仕事のアイディアをメモすることがよくある 2.46(1.08) K9) 仕事の話をしていると,すぐに時間がたってしまう経験がよくある 3.09(1.12) SD(Standard Deviation;標準偏差)

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特性」から「タスク明確性」「他者との接触」 へのパス係数は有意でなかったためこの 2 つの 次元は削除した。また,自律性の項目である 「T16:私個人のカンや判断力を使う余地は全 くない」もパス係数が有意でないため削除し た。適合度は,GFI 0.910,RMSEA 0.074であっ た(図 3 )。職務特性の質問項目の平均を表 3 に示した。 4 .職務満足の分析および信頼性の検討  「M5:給料に満足している」は床効果を示し たため除外した。探索的因子分析の結果は表 4 に示すとおり 3 因子解に収束しすべての項目の 因子負荷量は0.4を上回った。また,累積寄与 率は49.78%であった。第 1 因子は「病院の看 護管理体制に満足している」「病院の理念や経 営方針に満足している」「上司のリーダーシッ プに満足している」等 6 項目の内容から「管理 経営」,第 2 因子は職員間の関係 3 項目から「人 間関係」,第 3 因子は「昇進の可能性に満足し ている」「職場での地位に満足している」の 2 項目の内容から「人事評価」と命名した。下位 尺度の Cronbach のα係数は「管理経営」0.80, 「人間関係」0.81,「人事評価」0.59であった。「人 事評価」のα係数が低い結果であったが, 3 つ の下位尺度を潜在変数とした 2 次因子モデルの 確 証 的 因 子 分 析 で は 適 合 度 は,GFI 0.943, RMSEA 0.068で許容範囲内であったため採択 した(図 4 )。職務満足の質問項目の平均を表 5 に示した。 5 .職務関与因果モデルの検討  多重指標モデルはすべてのパス係数が統計的 に有意であった(図 5 )。適合度は,GFI 0.938, RMSEA 0.070で統計的に支持され,「職務関与」 の決定係数 r2は0.51であった。「職務関与」と 「職務満足」のパス係数は0.24,「職務関与」と 「職務特性」のパス係数は0.57であった。また, 「職務満足」と「職務特性」間には正の相関が 認められた。 Ⅳ.考     察 1 .職務関与因果モデルの構築  職務へのモチベーションを表す「職務関与」, 内発的な動機づけである「職務特性」,外発的 な動機づけである「職務満足」という 3 つの潜 在変数間の因果関係を多重指標モデルに示した ことで,変数間の関連を簡便に測定することが 可能となった。職務関与の影響要因を内発的動 機づけ,外発的動機づけという二側面から測定 する際に有用であると考えられた。 2 .職務関与に影響を及ぼす要因  本研究による因果モデルの検討結果からは, 内発的動機づけである「職務特性」から「職務 関与」へのパス係数は0.57で,外発的動機づけ である「職務満足」からのパス係数0.24より大 きかった。この結果は,Herzberg の二要因理 論にある,内発的な動機づけは満足が高まりパ フォーマンスにもよりよい影響を及ぼすという 主張9,25)を支持する結果であると解釈できた。 田尾10)は,仕事の拡大化や充実化など内発的 に動機づけられることと,給与や昇進等外発的 図 3 .職務特性モデル 技能多様性 T4 T8 T12 タスク重要性 T5 T15 T21 職務 フィードバック T7 T11 T19 T6 T17 T14 自律性 T2 T20 職務特性 他者 フィードバック .55 .68 .45 .62 .38 .47 .65 .62 .71 .45 .50 .79 .63 .56 .50 .84 .39 1.15 .85

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動機づけとは相対し,一方に強く動機づけられ ると,他方に対する関心が希薄になると述べて いる。前述したとおり,看護の職務に関する研 究では職務満足に焦点をあてた調査が散見され るが,本研究からは職務の外発的な満足は,内 発的動機づけである職務特性と比較すると,職 務関与への影響は低いことが示唆された。従っ て,療養病床の看護職の職務関与,すなわち職 務への意欲や態度といったモチベーションに働 きかけるには,「職務特性」に着目した看護管 理が有効であると考えられた。  職務特性を構成する要因では図 5 で示した通 り「職務からのフィードバック」ならびに「他 者からのフィードバック」が大きく影響してい た。療養病床の看護職においては,自分の職務 に対してフィードバックを得られることが重要 であると示唆された。ただし,「他者からの フィードバック」の質問項目の平均点は低く, 表 3 .職務特性 質問項目の平均点 項目 番号 質 問 項 目 平均(SD) 技能多様性 T4 多様な技術や才能を駆使し,様々な業務を行なう 3.21(1.09) T8 複雑なあるいは高度な技術をいくつも必要とする 2.78(1.17) T12 仕事は全く単純な繰り返しである* 3.21(1.28) タスク明確性 T3 仕事全体の中で私が分担している仕事の割合は多い 3.08(1.09) T10 仕事は分担が決まっていて,始まりから終わりまで全ての仕事に私が関わるチャンスはない* 3.78 (1.10) T18 自分が始めた仕事は,終わりまで私が責任をもって行なうことができる 4.09(0.89) タスク重要性 T5 私の仕事の結果が,人々の健康あるいは生活に大いに役に立っている 3.40(1.00) T15 私の仕事の出来不出来で大勢の人が影響を受ける 3.25(1.11) T21 私の仕事は,組織全体から広くみれば,全く意味がないし,重要でもない* 4.03(0.99) 自律性 T2 仕事の手順や方法,期限などを自分で自由に決めることができる 2.35(1.25) T20 仕事のやり方を自分で思うように変えられる事が多い 2.45(1.09) T16 私個人のカンや判断力を使う余地は全くない* 3.72(1.05) 職務からのフィードバック T7 仕事そのものから得られる,自分の仕事の成果に関する情報は多い 2.82(1.13) T11 自分がどれくらい仕事をうまく出来たかは,仕事そのものからいつでもわかる 3.15(1.07) T19 仕事そのものからは,私が良くできたかどうかを知る手掛かりはほとんどない* 3.30(1.05) 他者からのフィードバック T6 上司や同僚たちは,いつでも私の仕事がうまくいっているかどうか教えてくれる 2.68(1.10) T17 看護師長または主任は,しばしば私がどれくらいよく仕事を成し遂げているか,教えてくれる 2.62 (1.16) T14 看護師長または主任や同僚たちは,私の仕事がどれくらいよく出来ているか,ほとんど教えてくれない* 2.62 (1.16) 他者との接触   T1 同僚や患者と密接に働くことが必要である 4.00 (1.06) T9 他の人々と多くの協力作業を必要とする 4.10 (0.96) T13 仕事は,他人との相談や確認がなくても,一人で適切に行なうことができる* 3.78 (1.18) 逆転項目 確証的因子分析で削除となった項目

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療養病床の看護職は上司や同僚からフィード バックを得られている認識は低かった。フィー ドバックの重要性は,一般病棟においても述べ られており,上司や同僚からの成果や能力,努 力に対するフィードバックが,仕事意欲,職務 満足の向上やバーンアウトの低減に影響すると いう報告がある13∼15)。一般病棟と比較すると, 療養病床は,話せる患者や反応のある患者が少 なく26),平均在院日数が長く顕著な回復があま りない27)。このことから,患者からの直接的な フィードバックが少ない特徴がある。すなわち 対象者からのフィードバックが得られにくい環 境においては,職員同士によるフィードバック が重要な意味を成すといえる。これまで組織マ ネジメントは職業性ストレスなどのネガティブ な面に関心が寄せられることが多かったが28) 2000年頃から,労働者のポジティブな面を扱う 研究が増え,組織の成果や個人の業績に関係す るとされている29)。職員間においてもポジティ ブなフィードバックをし合えるコミュニケー ション能力を開発し30),自分の仕事の成果を認 識できる環境をつくることが有効であると示唆 された。  「技能多様性」については,本研究の対象者 は看護職の平均経験年数が20年を超えているこ とから,看護の技術面においては熟練と言え る。一方,療養病床は急性期病院と比較すると 多種多様の高度な看護技術を駆使する場面は少 ない。それゆえ,「技能多様性」は他の要因と 図 4 .職務満足モデル 管理経営 M3 M1 M6 M4 M9 M7 人間関係 M11 M10 M12 M8 M2 職務満足 人事評価 .71 .51 .62 .70 .77 .51 .80 .92 .61 .71 .60 .89 .83 .74 表 4 .職務満足 因子分析 項   目 F1 F2 F3 第 1 因子「管理経営」   病院の看護管理体制に満足している 0.772 0.044 −0.093 雇用の保障や安定に満足している 0.673 −0.206 0.066 病院の理念や経営方針に満足している 0.629 0.033 −0.015 上司のリーダーシップに満足している 0.606 0.131 −0.045 上司からの信任に満足している 0.478 0.179 0.200 労働時間に満足している 0.449 0.030 0.056 第 2 因子「人間関係」 看護職と介護職との関係に満足している −0.134 0.930 −0.024 看護職間の関係に満足している 0.016 0.847 0.054 看護職と医師間の関係に満足している 0.249 0.468 −0.027 第 3 因子「人事評価」  昇進の可能性に満足している −0.050 −0.019 0.874 職場での地位に満足している 0.109 0.046 0.421 寄与率 38.94 5.76 5.08 α係数 0.80 0.81 0.59

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比較すると職務関与への影響は低い結果であっ たと考えられた。また「タスク重要性」につい ては,療養病床の削減が計画中であるため,療 養病床を不要なものとしてとらえることがない よう配慮し,高齢者看護の重要性が認識できる 働きかけを行なうことが必要であると考える。  田尾の調査結果10)では,内発的な報酬を価 値づけない成員にとっては,自律性は何ら動機 づけ効果をもたず,むしろ低下傾向がみられて いる。自律的な行為には責任が伴うため31),そ れが負担だと感じる側面もある一方,自己決定 し主体的・自律的に行動することは自己成長に もつながる。しかし,本研究の結果では「自律 性」については質問項目の平均点が低く,職務 特性としての影響も低い結果になった。この背 景として,療養病床では看護技術を発揮できず 同じ援助の繰り返しで26),看護職の学習ニード が低い32)という先行研究から,看護職の自律 性を発揮する機会が限られることが推察され た。専門職の特徴的要素となる自律性は,看護 表 5 .職務満足 質問項目の平均点 項目 番号 質 問 項 目 平均(SD) 管理経営 M3) 病院の看護管理体制に満足している 2.11(1.01) M1) 雇用の保障や安定に満足している 2.28(1.16) M6) 病院の理念や経営方針に満足している 2.27(1.14) M4) 上司のリーダーシップに満足している 2.52(1.26) M9) 上司からの信任に満足している 2.68(0.99) M7) 労働時間に満足している 2.70(1.28) 人間関係 M11) 看護職と介護職との関係に満足している 2.74(1.09) M10) 看護職間の関係に満足している 2.71(1.19) M12) 看護職と医師との関係に満足している 2.23(1.08) 人事評価 M8) 昇進の可能性に満足している 2.43(1.02) M2) 職場での地位に満足している 3.12(1.10) 削除項目 M5) 現在の給料に満足している 1.81(1.02) 図 5 .職務関与因果モデル 職務特性 職務満足 行動的職務関与 与 認知的職務関与 与 情緒的職務関与 与 職務関与 他者フィードバック タスク重要性 自律性 技能多様性 職務フィードバック 人事評価 人間関係 管理経営 .69 .62 .24 .54 .78 .79 .55 .46 .57 .48 .62 .31 .79 .71

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職においては患者ケア成果に直接的に影響する 不可欠要素とされている33)。従って,療養病床 においても自律性を発揮できる看護方式の導入 や,院内教育の充実など,組織としても看護職 の自律性の育成に取り組むことが,今後の課題 であると考えられた。 Ⅴ.結     論  療養病床の看護職の職務関与の影響要因を, 内発的動機づけと,外発的動機づけの二要因を 設定し,職務関与,職務満足,職務特性の因果 モデルを構築した。職務関与は内発的動機づけ である職務特性からの影響が大きいことが明ら かになった。  療養病床の看護職の職務関与,すなわち職務 への意欲や態度といったモチベーションを向上 するには,職務特性の中でも自分の仕事の成果 を認識できるフィードバックが有効であると示 唆された。  本調査では分析の過程で削除となる質問項目 があったため,項目の妥当性のさらなる検討が 必要である。また,対象は 1 つの県に限定した ため,今後は対象の幅を広げモデルの一般化, 普遍化を検証していくことが課題である。  今後の超高齢社会では,医療と看護と介護の ニーズを併せ持つ高齢者が増え,療養病床にお ける看護職の役割への期待が増加すると予測さ れる。そのため,療養病床の編成変化に合わせ て知見を蓄積していくことが必要である。  本研究に対するご指導をいただきました元岩手県立 大学看護学研究科石川みち子教授に深謝いたします。  なお,本論文は岩手県立大学看護学研究科に提出し た修士論文を再分析し加筆修正したものであり,研究 の一部を日本老年看護学会第14回学術集会において発 表した。 著者の COI 開示  本論文発表内容に関連して特に申告なし。 1 ) 小沼 敦.療養病床の再編.調査と情報 2007; 590:1─10. 2 ) 泉 眞樹子.高齢者医療制度の概要とこれまでの 経緯─財政調整を.レファレンス 2010;60(2): 55─79. 3 ) 厚生労働省:都道府県における「療養病床アンケー ト調査」結果,2007年;http://www.mhlw.go.jp/ shingi/2007/03/dl/s0312-11b.pdf(2017.1.16アク セス) 4 ) 横島啓子,中村真理子,熊谷智子,他.「医療保 険療養病床」と「介護療養型医療施設」における 看護業務実態(第 2 報)─全国調査の結果から─. 東海大学医療技術短期大学総合看護研究施設論文 集 2004;14:31─44. 5 ) 中村悦子.看護における人的資源管理,その意義 と課題.新潟青陵大学紀要 2005;5:333─345. 6 ) 日本労働研究機構.組織の診断と活性化のための 基盤尺度の研究開発 HRM チェックリストの開発 と利用・活用.JIL 調査報告書 2003;161:1─ 556. 7 ) 鎌倉哲史.ワーク・エンゲージメントはジョブ・ インボルブメントや組織コミットメントと弁別可 能なのか?─隣接する諸概念の整理.日本労働研 究雑誌 2007;564:97─98. 8 ) 義村敦子.基礎研究者の職務関与と人的資源管 理.東京:慶応義塾大学出版会,2007.

9 ) Frederick Herzberg. Work and the Nature Man. Ty Crowell Co., 1966. 仕事と人間性:動機づけ─ 衛生理論の新展開.北野利信訳.東京:東洋経済 新報社,1968.

10) 田尾雅夫.仕事の革新.東京:白桃書房,1987. 11) Hackman JR, Oldham GR. Development of the

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17) 外島 裕,田中堅一郎.産業・組織心理学エッセ ンシャルズ.京都:ナカニシヤ出版,2004. 18) 平成27年10月 9 日開催第 3 回療養病床の在り方等 に関する検討会資料,厚生労働省保険局医療介護 連 携 政 策 課;http://www.mhlw.go.jp/stf/shin-gi2/0000099942.html(2017.1.16アクセス) 19) 大塚泰正.ポジティブ心理学の理論と職場のメン タルヘルス.日本産業精神保健学会 2012;20 (3):194─198.

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25) Paul Hersey, Kenneth H. Blanchard, Dewey E. Johnson. Management of Organizational Be-havior: Leading Human Resources. Boston:

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Causal Models of Job Involvement Among

Long-Term Care Nursing Staff

Chiaki KINOUCHI*, 2*

  The purpose of this study was to elucidate factors related to work motivation among long-term care nursing staff and to investigate effective human resource management methods. A questionnaire survey was conducted among nursing staff working in long-term care beds in Iwate Prefecture and the responses of 257 female nursing staff were analyzed. Motivational factors were investigated from intrinsic and extrinsic perspectives, using the Job Diagnostic Survey, the Three-Dimensional Job Involvement Model, and questionnaire items on job satis-faction. A causal model for job involvement was constructed based on covariance structure analysis. The results indicated that intrinsic motivational factors were related to work motiva-tion. The factor with high influence on motivation was feedback from job and agents, and the factor with low influence was autonomy. With respect to human resource management meth-ods, the present findings suggest that feedback which enables recognition of workplace achieve-ments is effective for increasing work motivation among long-term care nursing staff.

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Doctoral Program in Health Sciences, Graduate School of Health and Welfare Sciences, International University of

Health and Welfare, Tokyo, Japan

参照

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