資 料
切迫早産の初産婦の夫の妊娠や出産、
父親になることに対する気持ちの変化
─入院から出産までの追跡─
Changes in fathers emotional responses toward pregnancy
and birth when expectant wives are hospitalized
for threatened premature delivery:
from hospitalization to delivery
新 川 治 子(Haruko SHINKAWA)
* 抄 録 目 的 本研究の目的は,はじめて父親になる切迫早産妊婦の夫が抱く,父親になることや妊娠や出産に対す る思いを明らかにすることである。また,これらの変化を入院直後から出産に至るまでの間追跡し明ら かにすることである。 対象と方法 切迫早産のために入院し出産に至った初産婦の夫3名を対象にした。データ収集には,半構成的面接 法を用い,入院時とそれ以降は週に1回,夫に対してのみ行い,内容分析を行った。 結 果 1.対象者たちの気持ちの中では,「父親になるという自覚」と「妊娠や出産に対して感じている無力感や 疎外感」が共存していることが明らかとなった。 2.対象者にとって父親になるという自覚は出産に至るまで揺らいでいた。この揺らぎは個々で異なっ ていた。 3.対象者たちは妊娠や出産に対し無力感と疎外感を持続的に抱いていた。 結 論 本研究によって切迫早産で入院した妊婦の夫たちの気持ちの変化が明らかになった。妊婦の入院は夫 たちを父親として発達させる面もあるが、揺すぶる出来事でもあった。そのため看護者は夫たちの気持 ちに耳を傾け,対象理解に努めることが必要であることが示された。また,コミュニケーションを工夫 して,父親になるという自覚の発達を支援し,妊娠や出産に参加していけるようなかかわりを検討して いくことの必要性が示唆された。 キーワード:切迫早産,父親になるという自覚,無力感,疎外感,入院*前日本赤十字広島看護大学(The Japanese Red Cross Hiroshima College of Nursing)
切迫早産の初産婦の夫の妊娠や出産,父親になることに対する気持ちの変化
Abstract Purpose
The purpose of this study was to determine the changes in the emotional responses of first time fathers whose primipara wives had been hospitalized for threatened premature delivery. The change in the subject's awareness of becoming a father, and their feelings concerning the pregnancy and delivery, from immediately following hospital-ization to delivery, were examined.
Method
Data were collected using semi-structured interviews of three first-time fathers whose primipara wives had been hospitalized for threatened premature delivery. The interviews, which were subjected to content analysis, were conducted weekly immediately after hospitalization and through delivery.
Results
1. This study shows that awareness of becoming a father, and feelings of helplessness and alienation towards preg-nancy and delivery, coexisted.
2. Until delivery, fathers experienced a sense of insecurity concerning their awareness of coming fatherhood. How-ever, no relationship was seen between the degree of insecurity felt and the severity of symptoms of threatened premature delivery.
3. Even fathers who were making efforts to support wives had identical feelings of helplessness and alienation to-wards pregnancy and delivery.
Conclusion
This study shows that there are changes in father's emotional responses toward pregnancy and birth when expectant wives are hospitalized for threatened premature delivery. The hospitalization of wives has two discern-able effects on husbands. First, wives hospitalization is a motivating factor which helps facilitate the father's positive feelings towards coming parenthood. Second, fathers experience a sense of insecurity concerning their awareness of coming fatherhood. This study suggests that it is significant for nursing staff to be aware of the emotions of first time fathers whose primipara wives have been hospitalized for threatened premature delivery, and to take neces-sary steps to support the father's role: to avoid preconceived ideas of the father's emotional state, to understand the feelings of fathers, institute schemes of communication to support the developing awareness of coming fatherhood, and facilitate the fathers participation in the pregnancy and delivery.
Key Words : threatened premature delivery, awareness of becoming a father, helplessness, alienation, hospitaliza-tion
Ⅰ.は じ め に
1980年代以降,初めて父親になる夫を対象とした 研究が盛んに行われるようになり,妻の妊娠に伴う顕 著な身体的変化によって妊娠が受容されていくこと (May, 1982)や,妊娠の経過と共に子どもへの愛着や 育児参加への意欲が高まっていくこと(村上他, 1995) が分かってきた。また,妊娠期の「父親になる」とい う実感の程度は,肯定的な父親意識の形成や,親とな るための積極的な準備行動,妊娠期の妻に対する思い やり,子どもが生まれてからの育児への協力の程度に 影響している(小野寺他, 1995;小野寺, 1996)ことも 明らかになった。このことは,核家族や共働き夫婦が 増加し,夫の家事・育児参加が不可欠な現代において 注目すべきことである。しかし,これらは何れも正常 な妊娠経過にある者を対象とした研究から得られたも のであり,異常妊娠の場合については明らかにされて いない。 夫にとって異常妊娠は,通常期待される正常な妊娠 経過からの逸脱であり,これに妻の入院による生活空 間の分離が加わることで,夫は妻の妊娠に適応するこ とがさらに困難になることが予測される。異常妊娠の 中でも最も頻度の高い切迫早産は,近年その入院期間 は短縮の傾向にあり,在宅での内服治療に移行してき ている。しかし,わが国の年間出生数は約110万人と 減少傾向にあるにもかかわらず,早産数は増加してお り2004年度の早産率は5.7%に至っている(厚生統計 協会, 2005)。この様な傾向は,高年妊娠の増加や女 性が責任のある職に就く機会が多くなったこと,就労 妊婦の仕事あるいは通勤のストレス,双胎妊娠の増加 と関係しているという見方もある(北井, 1998)。その ため,今後も早産および切迫早産は増加していくこと が見込まれ,切迫早産となった家族への看護はより重 要となってくると思われる。が必要である(松岡, 1997)。看護者は夫が妊婦の良き キーパーソンとなれるよう支援するだけでなく,夫自 身が父親として発達していくこと,すなわち父親意識 を形成し,親となる準備行動をとることができるよう 支援していく必要がある。それを実践していくために は,看護者は妊娠中に妻が入院している夫たちの父親 になるという実感や父親としての発達の状況の変化に ついて把握しておく必要がある。本研究は対象者が3 名と少ない。しかし,妻が長期に入院している間の夫 たちの貴重な経験や父親になるという実感,妊娠や出 産に対する気持ちの変化を前方視的に追跡することが できたので報告する。
Ⅱ.研 究 方 法
本研究には,対象者自身によって語られた気持ちの 変化を詳細に記述し分析する質的記述的方法を用いた。 1.対象 東京都内の切迫早産での入院治療が可能な2つの医 療機関に,妻が切迫早産のために入院し,出産に至っ た初産婦の夫とした。 2.対象者への依頼の手順と倫理的配慮 本研究の実施に際しては,まず,看護部長および師 長に対し,文書と口頭で研究の趣旨を説明し,対象者 の選定の協力を依頼した。対象者である夫には口頭と 書面にて研究の趣旨と自由意志による参加であるこ と,匿名性の厳守,面接の拒否や中断による妊婦の入 院への影響は全く生じないことを保証した。これらの ことに承諾が得られた後,同意書に署名を得た。同時 に,本調査による妊婦への心理的影響にも配慮するた め,妊婦に対しても同様の方法で,夫が研究に参加す ることの承認を得た。 3.データ収集方法 「妊娠や出産,お子さんに関して奥さんが入院する 以前/今のあなたの気持ちについて話してください」 の問いを中心とした半構成的面接を行った。面接の時 期は,入院直後とそれ以降の出産までの週に1回であ る。面接場所には静かな個室を準備し,妻や看護者を 意識したり,気兼ねしたりすることなく自由に語れる ように,夫に対してのみ面接を実施した。この時,対 に関するデータを得,対象者の語る内容の理解を深め るようにした。 4.データ分析方法 対象者毎に面接毎の逐語録を作成し,テーマ毎にそ の内容を分析した。ここでいうテーマとは,妊娠や出 産,父親になることへの気持ちであり,これらが明ら かであるものを1単位とした161単位である。そして, 適宜母性看護学の専門家のスーパーバイズを受けるこ とと,2回目以降の面接時に前回の面接時に語られた 内容の解釈を確認することを通して,得られた情報の 信頼性と解釈の妥当性を図った。Ⅲ.結 果
看護部長及び看護師長により選定された8名の方す べてから同意を得た。本報告では,入院初期から産後 までの経過を追跡できた3名について焦点を当て検討 した。対象者の背景を表1に示す。面接回数は4回か ら7回で,1回の面接は,45分から120分(平均69.5分) であった。3名の対象者からはいずれも「父親になるこ とへの気持ち」が揺らぐ様子と,「妊娠や出産に対する 無力さと疎外感」を常に抱いていることが語られた。 以下では,入院に至るまでの簡単な経過,彼ら自身 によって語られた妊娠や出産,父親になることへの気 持ちの経時的な変化について,実際に語られた内容と 共に述べる。また多くの場合,対象者の気持ちは同時 期に2種類の気持ちを抱いていることが示されていた ため,可能な限り対にして示していく。 1.A氏「入院により高まる父親としての自覚と持続 する無力感の共存」 A氏は学生時代から付き合っていた妻と2年前から 同棲していた。A氏は妻の月経周期が不規則であるこ とを知っていたため,子どもはできないだろうと思っ ていた。そのため,A氏は妊娠を非常に嬉しく思い, 即入籍を決め,結婚式をあわただしく済ませた。妻が 入院した時期はその直後であった。妻の入院後もA氏 の父親になることへの気持ちの高揚は続いた。 一方A氏は,妻が入院する以前から妻が妊娠しても 夫の自分には何の変化もなく,夫は無力な存在である という思いを継続して持っていた。また妻は,子宮収 縮抑制剤の強い副作用のためにあまり食事が摂れない切迫早産の初産婦の夫の妊娠や出産,父親になることに対する気持ちの変化 状態にあるときも,胎盤機能不全の適応での帝王切開 がほぼ決まったときにも,非常に辛い思いをしていた にもかかわらず,A氏にも看護者にもほとんど訴える ことがなかった。想像以上に子どもが小さかったこと もあり,A氏は児と対面した後もなお妻や胎児に対し て何もしてやれないという無力さや隔たりを感じ続け ていた。 1) 〈胎児が身近な存在になる〉と〈何もしてやれない 疎外感〉 入院直後は,切迫早産になったことで子どもの誕生 に切迫感がでたこと,また初めて胎児の映像を超音波 断層法で見たことにより,漠然とした「子どもができ た」という喜びから子どもの存在を身近なものに感じ るようになっていた。一方で,点滴につながれ横たわ る妻の姿に,何もしてあげられない無力さともどかし さを感じていた。 「入院前は普通に生活しているからそんなに意識して ないじゃないですか。動くとか聞いたら,ああ動くん だなとか。どういうのが出てくるとか,そんなによく 考えないし。……今は実際出てくるっていう風な状況 になっているから,先生から大きさとか聞いたりもし ましたし,実際モニターとか見てよりわかるように なって。他のちっちゃい赤ちゃんに対しても意識が向 いてきて。こういう形なのかなって。そういう意味で は身近な存在になってきたかな」 「妊娠ってやっぱりお母さんですよね。子どもが生ま れる前って,お父さんって全く必要ないですよね。実 際におなかが大きくなるわけではないし,実際に子ど もが動いているのを感じているわけでないので。極端 な話,僕はこうして病院に来たりしますけど,来なく ても済むんですよね。お母さんに対して協力的でない とか,それで済んじゃう話なんですよね」 2) 〈気持ちが引き締まっていく〉と〈夫というよりま だ彼氏という存在〉 入院2週目ごろには早産を体験した知人の話を自ら 聞いてみたり,子どもの胎内での様子を想像したりす る中で,自分自身の社会的な責任を現実的に感じ,気 持ちが引き締まるのを感じていた。一方で,自分と妻 との関係については社会的には夫婦となったが,気持 ちの上ではまだ落ち着いてないと感じていた。 「入院したときよりも心配していない。まずは知識を 入れたというのもあるし。……妊娠がわかったときよ り,もっともっとリアルになってきている。自分がこ の子を育てなきゃいけないし。家族に対しても収入 の部分とか。前より計画的に物事を考えていかないと。 ボーとしては生活できない。子どもはどんどん育って いくし,引き締まりますね」 「家でのお金の考えとか,そういうのは家庭になって いるでしょ。だからそういう意味では(自分は)夫な んだろうけど。だけどなんかもうちょっと,恋人気分 というか,遊びに来ているという感じですよね。夫っ てもっと事務的でしょ。僕の親父もそうですけれど, 荷物を運んで終わり。置いとくよって感じ。……まだ 短いし,夫という言葉に馴れていないし」 3) 〈何かあれば僕が見る〉と〈僕は見舞いの人〉 入院3週目,妻の切迫症状が夜中に急に悪化し治療 表1 対象の背景 夫の年齢/ 職 業 妻の年齢/職 業 入院時の妊娠週数 (入院日数) 分娩様式 〈出生時体重〉 面接時の妊娠週数 (総面接時間) 特 記 事 項 A 建築設計29歳/ 建築設計25歳/ 34週(19日間)緊急帝王切開 〈2050g〉 34, 35, 36週 産後5日目 (約4時間) 帝王切開の適応:胎盤機能不全 アプガースコア:9点(1分),9点(5分) B 臨床検査技師39歳/ 元臨床検査技師39歳/ 31週(39日間)緊急帝王切開 〈2520g〉 31, 32, 33, 33, 34, 36週 産後8日目 (約6時間) 体外受精,2回目の入院 帝王切開の適応:早産,高齢初産,辺縁 前置胎盤,体外受精後妊娠 帝王切開により出生したため一時的に保 育器に収容,アプガースコア:9点(1分), 9点(5分) C 35歳/自営業 元保育士31歳/ 31週(50日間) 第1子:経膣分娩 〈2940g〉 第2子:緊急帝王切開 〈2580g〉 32, 33, 34, 35, 36, 37週 産後1日目 (約10時間) 体外受精,双胎,4回目の入院 帝王切開の適応:分娩停止と骨盤位(第2子) 第2子は帝王切開により出生したため一時 的に保育器に収容,アプガースコア:7点 (1分),9点(5分)
かったことに対して,「自分は見舞いの人」だから仕方 がないと言いつつも,これまでの何もしてやれること はないという気持ちから,2人に何かあれば僕がみる という父親としての覚悟ができてきた様子が窺えた。 「僕は見舞いの人だから,僕なんか関係ないことなん ですけど。でも実際は仕事を途中で終わらせて来たり とか,いろいろ他にも波及することなんで。結局僕が 見なければならないし,本人も大変だなと思うから, (医療者からの情報を)知っておくべきじゃないです か?」 4) 〈子どもとの距離を縮めようとする〉と〈子どもが 小さいうちは傍観者〉 子どもと対面した直後のA氏は,普通の父親になり たいと思う反面,2000gという小さい我が子に対し傍 観していることしかできないと感じた。また,自分自 身がすぐに離れて暮らすことになるということも,子 どもとの間の距離として感じられていた。そのため, 生活を共にすることができない分,自分と子どもとの 共通点を探そうとすることで子どもとの距離を縮めよ うとするなど,父親になろうとする姿が感じられた。 「まだ実感ないですね,これが自分の子だって。だか らなんか自分と似ているところはないかって探します ね。僕自身から出てきたんじゃないし。自分の子ども だって意識って,生まれてすぐそばからできるもん じゃないんだろうなって。生活を一緒にして,その中 で実感もってくるんだと思うけど。だから今は,初め て会った人同士って感じ」 「普通の父親として必要なことはしなければならない と思う。でも,僕はどっちかっていうと(単身赴任で) いなくなっちゃうんで,それまでにどれくらい大きく なるのかな。……子どもにとって僕はいなくても成長 するわけですよ。お母さんは子どもにおっぱいあげる ことができるけど,お父さんは外から傍観者で見てい るだけだから,自分の子どもであるという実感と,自 分が父親であるという実感というのは両方湧きづらい んじゃないですか」 2.B氏「揺れ動く父親になるという自覚と妻に任せ るしかないという気持ち」 B氏夫妻は結婚4年目。結婚後すぐに流産を経験し ている。子どもが欲しいという妻の希望や夫婦共に 39歳という年齢的なことを考え,今回は体外受精を なり厳しい行動制限が行われた。妻は入院生活の不自 由さをB氏や同室患者に漏らしていた。 B氏は,入院の前には日々大きくなってきた妻の腹 部を目にしていたので,徐々に胎児の存在を自覚し始 めていたと語った。一方で,流産を経験したり,臨床 検査技師という仕事を通じて様々な症例を目にしたり することもあり,入院した時点では,妊娠したことの 嬉しさと本当に誕生するのかという不安が入り混じっ た状態であった。面接では,自らの父親になるという 実感が揺れている状況と,妊娠の継続は妻に任せるし かないので,自分はそれを支持していこうという姿勢 が語られた。 1) 〈子どもの存在が薄らいでいく〉と〈自分ではどう することもできない〉 入院によって胎動を触知するなどの愛着行動が制限 されたことで,自分の中の子どもの存在が薄らいでい くのを感じていた。また,妊娠の継続に関しては,自 分ではどうすることもできないので妻に頑張ってもら うしかないと語った。 「家にいた時の方がお腹触ったりとかしていたけど, 病院ではほとんど触らないし。前のベッドにも入院し ている人がいるし,結構廊下から丸見えだし。変な人 だと思われたらどうしようとか。だから……(胎児が 妻のお腹にいることの)実感なくなってきたかもしれ ない」 「妊娠は自分自身の身に起きた出来事ではないので, 妻に頑張ってもらうしかない。今までいろいろ気をつ けていたように。期限付きだから頑張って欲しい」 2) 〈父親として頑張らなければならない〉と〈見守っ ていく〉 入院期間中は,ほぼ毎日面会に来る傍ら,入院する まで妻に任せきりにしていた家事や育児の準備をした。 このことがきっかけとなって,胎動を触知しなくなっ たことで薄れてきていた父親になるという実感が再び 湧き,体力づくりに取り組むなど父親として頑張らな ければならないという意識へとつながっていた。この 間,妻の切迫症状が進み治療薬が増量され,B氏はさ らに症状が悪化することも予測していたが,自分は医 療従事者で医師が家族に対し病状を説明するタイミン グなどを熟知しているという自信があった。また,毎 日の医師の訪室によって妻が現状を把握できている様 子だと判断しているので,今は見守っているのだと語
切迫早産の初産婦の夫の妊娠や出産,父親になることに対する気持ちの変化 られた。 「(行こうか迷っていたけど沐浴は)やっぱりちょっと やっておいて良かった。なんとなくだけど雰囲気が掴 めたから。(人形を)見て触れて,実際(の子ども)に は触れていないけど,物を触ってみたりして,ちょっ と親父になるのかなって言うか。イメージがちょっと 湧いてきた」 「スポーツクラブにまた行きだしたんです。40のお父 さんだし,20代30代のお父さんと一緒にやっていくの も頑張らなくてはいけないし。一応性別は男と決まっ ているので体力つけておかないと参っちゃう」 「悪くなっているのかもしれないけど,(医師は)毎日 来ているらしいですから。奥さんが聞いていれば,自 分が直接聞かなくても。悪いことだったら,俺を先生 の方が呼んで言ってくれるだろうと思っているから」 3) 〈父親になることへの不安と興奮,焦り〉と〈医師 に任せるしかない〉 入院6週目,妊娠36週に入り,概ね帝王切開で出産 することが決まった。入院当初は帝王切開での出産に 抵抗を感じていたが,不整脈が出始めたこともあり母 児が無事であるためには,医師を信頼し任せるしかな いと語った。一方で,自分の子どもに会うということ への不安と興奮,子どもを見てもすぐには実感が湧か ないのではないかという焦りが語られた。 「子ども見てもすぐには実感がわかないかもしれない。 実際に自分の子ども見たら,めちゃくちゃな感想を 行ってしまうかもしれない。『こいつ俺の子どもかよ』 とか」 4) 〈なんだかまだ実感ない〉と〈当たり前のことしか しなかった〉 本当に生まれるまでは確信が持てなかったとこれま でを振り返り,無事に子どもが生まれたことを喜びな がらも,児と対面しても父親になったという実感がま だ湧かないことに対して,積極的に育児参加していく ことで実感が湧いてくると予想している様子が語られ た。また,入院するまでは妻に任せきりにしていた家 事や育児の準備,義母の世話などを,妻の入院期間中 には面会と仕事の合間に積極的に取り組んでいる様子 が見られた。しかし,無事に子どもが生まれたことに より,B氏は自分が妻の入院中にしてきたことは当た り前の行為だと評価した。 「(看護師に)『お父さん』とか言われてもなんかピンと 来ない。抱いたりスキンシップをするとだんだん実感 が湧いてくるのかなと思うんだけど。まだ寝ているか ら」 「僕が頑張ったことなんてないんですよ,全然。自分 のしてきたことは当たり前のことで威張れるほどじゃ ないですからね。過ぎちゃえば思ったより大変じゃな かったような。ああやって無事に生まれちゃえばね」 3.C氏「父親になることへの期待と困惑」 C氏夫妻は挙児を強く希望しており,人工授精によ る不妊治療を1年間行った後,初めての体外受精で双 胎を妊娠した。今回の入院では院内での安静度に制限 はなく,子宮収縮抑制剤の内服治療のみで,妊娠35 週に入ってからは外出や外泊も行いながら出産に備え ていた。妻は双胎による腰痛と,病院食に対する不満, なかなか出産に至らないことへの苛立ちをC氏だけで なく看護師にも漏らしていた。 C氏は妻が自宅にいる間は,母子のすべての安全は 自分に責任があると考え,陣痛が始まった時に自分が 仕事のために妻を病院に連れてくることができないの ではないか,またそのことによって子どもたちが死亡 するのではないかという不安を持っていた。そのため, 妻が入院したことでC氏はそれまで1人で背負ってい ると感じていた責任から開放され,子どもたちの誕生 を確信することができるようになり,やっと本当に父 親になるのだということを実感することができた。同 時に,C氏は今回の入院,出産で理想の父親になるこ とに夢を膨らませていた。また,はじめは不妊治療に も耐えて妊娠し,自分たちの子どもを産んでくれる妻 に感謝し,多少の自分の苦労は仕方がないと思いつつ も,妻の言動に困惑した。妻と共に親になることに不 安を抱いていた時期もあったが,出産直前には妻をサ ポートしようという気持ちに変化したことが語られた。 1) 〈親になるのだからしっかりしなければ〉と〈母親 となる妻への戸惑い〉 入院2週目になると,入院時に感じていた父親にな れるという興奮から,日常の1つ1つの出来事を自分 の父親像と照らし合わせることへと変化していた。そ の一方で,大きくせり出した妻の腹部に,妻に対する 性的なイメージと母親となる妻の姿のギャップを感じ 戸惑っていた。 「先日自分が腰痛になった時に,自分がしっかりしな くてはと思いました。絶対に身体治すぞという気持ち が強かったですね。この腕に2人の子どもを抱くんだ ぞって。不妊治療でかみさんに辛い思いをさせた分, 自分がこんなことではって」
お腹を直視できなかったんですよ。妊娠という子ども を産まなければならない女性の身体の変化というのを 受け入れられない部分が存在するのかなあ」 2) 〈育児を具体的にイメージしていく〉と〈妻の苦痛 を聞くのが辛い〉 入院から1か月ほどの間に,いよいよ出産だという 気持ちから,育児書を手に取って見たり,甥との関わ りの中で自分が育児する姿を意識したりするように なっていた。一方で,どんなに妻が辛いと訴えても妊 娠に関しては自分にはどうにもできないという気持ち と,妻にも母親になるのだからしっかりして欲しいと いう気持ちから,妻の苦痛を聞くことを辛いと感じて いた。 「今週35週くらい。出てくるかもしれないから,よう やっとね。少し意識しているのかな,本屋さんに行っ て育児の本買おうかと思って。自分の中でそろそろ自 覚していかないとやっぱりいけないかなと思って」 「昨日(妻に)泣かれた時は聞くのが辛いと思ったんで す。苦しくて,辛いと言われてもどうにもできないか らね。黙って聞いているのも苦痛は苦痛だよね。そん なことまで押し付けないでくれよというのもあるし。 今からそんな弱音を吐いていたらだめじゃないかとい う気持ちがあるんだよね」 3) 〈自分の子どもに気持ちが集中していると感じる〉 と〈自分は妊娠できないので妻に何も言えない〉 入院が1か月半になり,それまでの周囲の子どもた ちに対する興味が,次第に自分の子どもだけに集中し てきたと感じていた。一方で,当初予定していた入院 期間を過ぎても陣痛は起こらなかった。そのため,些 細なことにも苛立つ妻に閉口しつつも,自分が子ども を産めない以上何も言えないと耐えていた。 「もう直だなあって。最近他人の赤ちゃんにあんまり 興味なくなってきたね。なんかもう直自分の赤ちゃん が2人出てくると思えば。3,4週間前までは『こんな子 が生まれるんだね』って話していたけど,今はもう他 人の赤ちゃん見てもしょうがないかなっていう,そう いう気持ちに変わってきたかな」 「僕としては,できれば夏休み中に産んでくれれば, 立場上堂々としていられる(出産にも駆けつけられ る)。そうしたいなって話をすると『私はもう限界な んだ』って風に。今週は随分と八つ当たりされた。そ う言われちゃうと何も言えないから」 妊娠37週後半になり,いよいよ子どもが生まれる ということ時期には,親に成れるのだろうかという不 安を感じていた。また,入院以来妻の要望に仕方なく 応えるという姿勢であったが,なかなか出産方針が決 まらず,ただ入院しているだけの状況や,他の入院患 者から得た様々な噂を妻から聞く中で,妻が医師に対 して不信感を抱いていることを察知し,自分自身が出 産することができない分,妻をサポートしていきたい という気持ちに変化していった。 「親になれるのかなっていうのはあるけどね。まいっ かみたいな。悩んじゃうけどね,こんな親じゃ子ども が可哀想だなとか」 「できれば薬は使わずにやってもらえたらっていうの は気持ちの中にあります。ただ産むのは僕じゃない以 上,患者(妻)の意見を聞かなくては。双胎の平均妊 娠週数が37週だとかどうとか,患者が中途半端な知 識を持っている以上,(僕が)サポートしてあげなきゃ いけないという気持ちがある」 5)〈ついに父親になった〉と〈出産してくれた妻に敬 意を払いたい〉 出産後1日目の面接時,C氏はまだ児の誕生に興奮 しており,ついに父親になったと自覚したこと,唯一 無二の存在を得た喜びを語った。またそれまでとは一 変して,不妊治療や経膣分娩と帝王切開に耐え,自分 のために子どもを産んでくれた妻に対する敬意を語っ た。 「現実に子どもがいて動いている様子を見て,本当に お腹の中にいるっていう時はいるうちに入らないです ね。むしろ子どもはまだいないっていう感覚。それと, 本当にお父さんになったんだよ。誰の子でもない,周 りにお父さんたちが来ても,俺なんだよっていう。本 当にそんな感じ。他の赤ちゃんなんて目に入らない。 本当にこの子の周りには俺とうちのかみさんしかいな いっていうそういう感じ」 「生まれた子どもよりもお前が本当に良く頑張った なって言ってやろうと思ったし,言ってやらなければ と思いましたね。僕の力では産めなかったわけだから, 少なくとも。ちゃんと敬意を払うというかお礼をいう というか」
切迫早産の初産婦の夫の妊娠や出産,父親になることに対する気持ちの変化
Ⅳ.考 察
本研究では,妻が長期に入院している間の夫たちの 貴重な経験や父親になるという実感,妊娠や出産に対 する気持ちの変化を前方視的に追跡した。その結果, 今回報告した3名の対象者からは,妻の入院によって その期間中に父親になるという自覚が揺れ動く様子と, 妊娠や出産に対して抱いている無力感や疎外感を継続 して持っていることが語られた。以下ではこの2側面 について考察を述べる。 1.父親になるという自覚の揺れ はじめて父親になる経験については,正常経過を 辿る場合においても「危機」とみなすか,「発達的出来 事」とみなすかについてはっきりとした見解が出てい ない(岩田, 1998)。切迫早産は通常の期待される妊娠 経過からの逸脱であり,妻の入院による夫婦の生活空 間の分離が加わることによって,夫が妻の妊娠に適応 することをますます困難にし,危機に移行する可能性 が高くなることが予測された。しかし,今回の対象者 は,面接時の様子や態度,その内容から客観的に危機 的状況があったとは言い難い。自分自身が父親になる ことへの実感や,胎児の存在に対する実感への揺らぎ が特に大きく語られたB氏でさえ,その揺ぎにも混乱 せず冷静に客観的に状況を受け止めていると推察され た。そのため,切迫早産による入院が彼らを精神的な 危機的状況に陥らせる出来事であるとは言い難い。 一方「発達的出来事」という点では,妻の身体にド ラマティックな変化が生じ,夫にとっても妊娠が現実 のものになった時,夫は妊娠という状況に巻き込まれ, 父親としての意識が高まるという研究(May, 1982) や,緒方ら(1993)は妊娠中期,村上ら(1995)と山本 ら(1995)は妊娠末期になると父親になるという実感 が湧き,父親と胎児間に愛着,また育児への意欲が高 まるという研究がある。今回の対象者らは入院直後 に,超音波断層法で胎児の様子を見たり,すぐにでも 子どもが生まれるかもしれないという気持ちから,今 まで以上に子どもを日常の生活の中で意識したりする ようになっていた。このことで,対象者らは一様に父 親になることや子どもが生まれるということを強く実 感していた。一方で,いずれも妊娠30週以降の入院 で,妻はそれぞれすでに妊婦としての体型を呈してお り,全員が胎動の触知の経験もあった。それにもかか わらず,入院によって胎児との接触が限られているこ とで実感が薄れたり,急に自信を失くしたりと,妻が 入院したことで,出産に至るまでの間にその思いは揺 れ動いていた。このことから,妻が切迫早産で入院中 の夫の父親としての意識は,必ずしも妊娠経過や胎児 の発育に伴って高まり発達していくものばかりではな いということが言える。また,夫たちの気持ちの揺ら ぎの時期や程度はそれぞれ異なっていたことから,対 象者個人の特性や入院に至るまでの夫婦関係,妊娠経 過や切迫早産の程度や治療方法の違いによる影響が考 えられるため,看護者は先入観にとらわれることなく, 夫たちの気持ちの揺れに理解を深めるよう努めること が必要である。 また,今回のB氏のように,病室では他人の目が気 になって妻の腹部に触れない,胎児に声をかけられな いことで,父親になるという実感が薄れていっている と感じる男性がいた。このような事実からも,女性の 多い病棟における男性への繊細な心理的配慮の必要が 改めて明らかとなった。さらに,妻が入院したために 一人で両親学級に参加したり,これまでの妻の役割を 代行したりすることが,夫が父親になるという自覚を 高めることにもつながっていた。このことから,夫た ちの日々の努力を賞賛し,積極的に取り組めるような 気持ちに持っていく,また夫が一人でも参加できるよ うな出産・育児のための学習の場を作っていくことが, 夫の父親としての発達を促していくことの支援になる と考えた。 2.妊娠や出産に対する無力感と疎外感の持続 夫が妊娠についての関心を持つことや妻を支援する ことは,妊婦の母性意識に肯定的に関与する因子であ り,夫の心の支援が妊娠期の母性形成の発達に必要で ある(松岡, 1985;内山, 1998)。また,妊婦にとって 夫の存在が占める位置は大きく,親密感を抱き優しさ を求める対象であり(大日向, 1981),夫への不満は妊 婦の母性不安をもたらすこと(河野他, 1992)が知られ ている。切迫早産を対象とした御代田と塩野(2003) の研究と同様に,本研究の対象者らも,妻の苦痛を一 番に考えて,毎日のように面会に訪れ,差し入れをし たり,妻の衣類の洗濯やその他の家事をしたりするな ど様々な気配りをしており,異常妊娠で入院している という危機的な状況にある妻の母性意識の形成に対す る肯定的な働きかけが見られていた。 初産婦の夫であっても,妊娠初期にはすでにサポー ターとして何をすべきか,情報として何を得るべ きか,どのような役割を取るべきかを理解しているのことに向きがちであるために,夫は妻の身体を気遣 う反面,妻に対して何もしてやることができないとい う無力感を抱いたり,妻が自分に関心を向けてくれな いという孤独感を味わったりすることがある。さらに, 出産が近づくと子どもの誕生に対する期待感が強まる 反面,分娩に対し考えるようになり不安が高まると言 われている(小野寺, 1990)。また,切迫早産の妊婦の 場合についても,妻の関心は妻自身と胎児に向いてい る(蓼沼&今関, 2005)。しかし,この間の夫たちの感 情は自分自身の無力さや医療者に対する苛立ちや怒り の感情であった(大原, 2002)という報告がある。今回 の面接では,妊娠や入院という出来事に対して自分が 妊娠しているわけではないから何もできない,してあ げられないといった無力さや疎外感を感じている様子 が語られた。この気持ちは,入院する以前から入院期 間を通じて持続して抱かれているものであり,これま での妊娠経過や医療者との関わり,仕事上の立場など が関係していることが推察された。 そこで具体的な援助として,看護者はB氏のように 献身的にサポートしている夫もいることをまず知り, 夫が妻をうまくサポートしていると見えているときに はそのことをきちんと伝えること,また,夫の声にも 耳を傾けることが必要である。夫の行っていることに 対して保証をするような声かけを行うことは,夫の無 力感を多少軽減させ,妻をサポートすることに対する 充実感や意欲を維持することを助けることを可能にす る。これはC氏のように妻が精神的に不安定であった り,毎日遠方から面会に来ていたりする夫についても 同様である。 また,夫が医療者から疎外された存在であると感 じているA氏のように,医療者には直接何も訴えない ケースは,得てして不安や疑問がないものだと処理さ れがちである。しかし,今回の研究により無力さや疎 外感を抱いているために,医療者に接触してこないと いうこともあるということが明らかとなった。そこで, その疎外感を少しでも軽減するために,妊婦だけでな く夫を含めたコミュニケーションの充実を図ることが 必要である。また,C氏のように妻の精神状態に1人 翻弄されているような場合にも妊婦だけに治療や経過, 今後の方針などの情報提供を行うのではなく,夫も巻 き込んで一緒に行うことが必要である。情報の提供は, 夫の中の妻や児の状態がわからない不確かな状態を解 る。 本研究では,異常妊娠妊婦の夫のうちでも切迫早産 での入院中の者を対象としていることや,経時的な心 理的変化を明らかにするために,長期入院者の夫でか つ繰り返し面接できた者に限ったために対象数が少な い。そのため本研究の結果から,自然妊娠の場合と不 妊治療後の妊娠である場合の違いや,切迫早産以外の 長期入院を必要とする異常妊娠にも共通するものであ るか否かということについては検討できなかったとい う限界がある。しかし,本研究の結果より個別的な家 族への対応の必要性は明らかであり,その方向性とし て,父親になるという自覚の発達を支援し,妊娠や出 産に参加していけるようにかかわっていくことの必要 性は確認できたといえる。
Ⅴ.結 論
本研究によって切迫早産で入院した妊婦の夫たち の気持ちの変化が明らかになった。妊婦の入院は子 どもの誕生が予想外に切迫していることを父親になる 男性に印象付ける側面もあるために,急速に父親とし ての自覚を発達させる面がある。一方で,離れて暮ら すことやスキンシップの減少により父親になるという 気持ちや子どもの存在に対する実感を揺すぶる出来事 でもある。そのため看護者は夫たちの気持ちに耳を傾 け,対象理解に努めることが必要であることが示され た。また,コミュニケーションを工夫して,父親にな るという自覚の発達を支援し,妊娠や出産に参加して いけるようなかかわりを検討していくことの必要性が 示唆された。 尚,本研究は,聖路加看護大学大学院修士論文とし て発表したものの一部を加筆修正したものであり,一 部を第20回日本看護科学学会学術集会で発表した。 文 献 岩田裕子(1998).父親についての文献研究,筑波大学医 療技術短期大学部研究報告, 19, 9-20. 加藤尚美(2005).「母子に優しいケアを実現するために」 産科混合病棟化の現実をどう見るか,助産師, 59(2), 50-52. 北井啓勝(1998).切迫早産─最新のとらえ方,助産婦雑誌,切迫早産の初産婦の夫の妊娠や出産,父親になることに対する気持ちの変化
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