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意思決定プロセスの共有─概念分析

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 21, No. 2, 12-22, 2007

聖路加看護大学大学院看護学研究科博士後期課程(St. Luke s College of Nursing, Graduate School, Doctoral Course)

2007年3月15日受付 2007年8月2日採用

総  説

意思決定プロセスの共有─概念分析

Shared decision making—A concept analysis

辻   恵 子(Keiko TSUJI)

抄  録 目 的

 本研究の目的は,主として欧米で使用されている「shared decision making」の概念を分析し,女性の リプロダクティブ・ヘルスを対象とする助産実践においてこの概念を適用することの可能性を検討する ことである。 方 法  看護学,心理社会学分野の論文を中心に検索し,Rodgers(2000)の概念分析アプローチを参考とし, 属性,先行要件,帰結に関する記述の内容を質的に分析した。 結 果

 shared decision makingの属性は,1)当事者を巻き込むこと,2)相互に影響しあう動的な決定のプロセ ス,であった。このプロセスでは,コミュニケーション・対話を媒介として双方向の交流を重ね,関係 者は選択肢に関する構造化された情報とともに,識別された現状認識や見込み・目標・価値観・嗜好・ アイデアを分かち合い,望ましい決定に向け相互に行動し,合意に至る。先行要件は,1)健康の概念の 転換­疾病構造の変化と対応システムの特性,2)科学技術の進歩と医療の本質的な不確実性,3)医療モ デルのパラダイムシフトの必然性,4)当事者を含む関係者の特性と権限の認識,であった。帰結として, 1)人々の健康とQOLを最大にすること,2)当事者の内的な変化と成長,3)決定に関する当事者の満足, 4)適正な科学技術の使用を含む倫理的な臨床ケア実践,が導かれた。 結 論

 shared decision makingの概念はケアの方法論として現場で広く導入され,それらの経験的な記述が 積み重ねられることにより,さらなる発展の可能性が期待できる。またこの概念は,女性を中心にした ケア(women-centered care)の実践および研究を具体的に支える要素であり,女性を決定の中心に巻き 込み,決定プロセスを共有しながら継続的に支援していく際に適用できるものと考える。 キーワード:意思決定の共有,概念分析,女性,リプロダクティブ・ヘルス,ケア Abstract Purpose

The purpose of this study was to analyze the concept of shared decision making being used in Europe and America, and examine the possible applicability that concept to women’s reproductive health in the practice of mid-wifery.

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Methods

Rodgers’ (2000) approach to concept analysis was used to review literature focused on the areas of nursing and psychosociology, and the contents were qualitatively analyzed for attributes, antecedents, and consequences. Results

The attributes of shared decision making were found to be 1) that the patient is involved and 2) that it is a dy-namic decision process where persons involved mutually influence one another.

This process acts as an agency of communication and interaction. Through numerous two-way communica-tions, persons involved share information gathered concerning choices available, the current situation, outlook, goals, values, preferences, and ideas. Working together they move toward a desirable decision and come to agree-ment.

The antecedents were 1) a change in health concept-variation in disease structure and response system charac-teristics, 2) medical uncertainties and advances in scientific technologies, 3) the certainty of a paradigm shift in the medical model, 4) characteristics of those involved, including the patient, and perception of authority.

The consequences were 1) maximizing people’s health and QOL, 2) psychological changes and growth in the patient, 3) patient satisfaction with decisions, and 4) the practice of ethical clinical care, including the use of appro-priate scientific technology.

Conclusion

The concept of shared decision making is being widely introduced in the field as a care methodology, and the possibility of it being further developed is anticipated as the body of experiences grows. This concept provides con-crete support to women-centered care and research by placing women at the center of the decision-making while at the same time sharing the process. This concept can be applied when providing continual support.

Key Words : shared decision making, concept analysis, woman, reproductive health, care

Ⅰ.は じ め に

 医用生体工学をはじめとする科学技術の発展に伴い, 検査や治療における選択肢が増え,人々はそれらの選 択後に生じる影響の不確かさを抱えながら,難しい決 定を迫られる場合が少なくない。近年,根拠に基づく 医療(Evidence-based Medicine: EBM)という言葉が 医療の各分野において盛んに取り上げられるようにな り,欧米をはじめ国内でも多くの診療ガイドラインが 作成され,臨床現場のみならず予防医療や医療政策に 至るまで,その適用の動向が注目されている。これは, 当事者が主体となることにより,初めてその実践が可 能となるが,実際に人々がより詳しい医療・健康に関 する情報を求めていること,そして医療やケアに関す る決定に参加することへの当事者のニードが高まりつ つあることが知られている。これは伝統的でパターナ リスティックな医師­患者関係のモデルから離れ,当 事者の自律性を明確に認識する新しい形式の意思決定 に移行すること(Coulter, 1999)の背景として理解され よう。  女性が自身のリプロダクティブ・ヘルスに関する 意思決定に関与することにより,良質のアウトカム がもたらされるという根拠が示されている(Lavender, 1990)。そのなかでも,遺伝学的検査の一つとして位 置づけられる胎児の出生前検査に関する選択は,妊娠 中にどのようなケアを受け,どのような出産を迎える かといった選択とともに,妊娠中の大きな決定の1つ として考えられており(Levy, 1999a),選択には困難 性が大きいことが明らかにされている。現在,このよ うな背景にある女性を支援するケアについては,国内 では十分な検討がなされているとは言いがたい。助産 師は,妊娠期の女性の最も身近なパートナーとして彼 らの決定プロセスに関わることとなろう。  本研究では,主として欧米で使われている『Shared Decision Making』という概念に着目し,この概念が関 連分野でどのように使用されているのかを分析し,ど のような概念であるかを明らかにする。また,分析結 果をふまえ,助産実践領域の一つである妊娠期の出生 前検査の選択に関連した支援の基盤として,この概念 を適用することの可能性を検討する。

Ⅱ.方   法

 分析方法は,発展的な視点を基盤としたRodgers (2000)の概念分析アプローチを参考とした。このア プローチにおいて概念は,人々が相互作用するなかで, 経時的に変化する社会的な文脈から導かれて生じ,時 間や状況を超えて発展するものとして理解されている。

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つまり概念は,それが人々によってどのように表現さ れ,使われているのかを分析することで明確化され, さらなる問いや概念の発展の基盤を提示することが可 能となる(Rodgers, 2000)。このアプローチでは,概 念を構成する主要な特性である属性(Attributes),概 念に先立ち起こる先行要件(Antecedents),後に続い て生起する帰結(Consequences),また,分析対象と している概念となんらかの点でつながりのある関連概 念(Related concepts)との相違の視点からの分析が適 用される。  看護学を中心に,心理学,社会学など健康全般に 関連する学問領域のなかでShared Decision Making (以下,SDMとする)という概念がどのように使わ れているのかを検討するため,海外文献については, CINAIL(1982∼2005年 ),PsycINFO(1972∼2005年 ), SocINDEX with Full Text(1895∼2005年)を,国内文 献については,医学中央雑誌Ver. 3(1987∼2005)およ びMagazine Plus(1975∼2005年)の検索システムを 利用し,コンピュータ検索を行った。キーワードを shared decision making として検索を実施した結果, CINAILで320件,PsycINFOでは260件がヒットした。 次に,タイトルに Shared および Decision Making を含む記事に絞込み,それぞれ61件,63件となった。 和雑誌のキーワードは Shared Decision Making に 加え, 意思決定 , 意志決定 , 決定 , 共有 , 共 同 を用いて検索し,医学中央雑誌で33件,Magazine Plusで97件がヒットした。これら254件の文献のうち, 海外文献では経営管理学や教育学など学問領域の異な る文献やSDMに関する記述がみられない文献を除き, 査読システムを有する学術雑誌の記事を中心に,それ ぞれCINAILから18件,PsycINFOでは17件を採用した。 SocINDEX with Full Textからも同様の方法で2件を採 用した。さらに,分析過程でランドマークとなる論文 を二次的に4件収集した。和文献は,SDMに関する具 体的な記述がみられないもの,学問領域が明らかに異 なるものを除外し12件を採用した。最終的に分析対 象とした文献は53件であった。  対象とした各文献を読み,全体の概要を明らかにし た後,Rodgers(2000)が提示しているコーディング・ シートを参考として作成したシートを用い,属性,先 行要件,帰結,関連する概念に関する言葉や記述内容 を抽出した。抽出された各々の記述をコード化し,コー ドの共通性と相違性を識別し,カテゴリー化を行った うえで概念の主要なテーマを導いた。

Ⅲ.結   果

 SDMの概念分析の結果として,属性,先行要因, 帰結の内容を図1に示す。項目ごとに導かれたテーマ および抽出したカテゴリーについて述べる。 1 .文献による定義と属性  今回分析対象とした文献において,SDMの定義を 明確に述べているものはなかった。米国予防サービ ス・タスクフォース(Sheridan, 2004)では,SDMを 『患者と医師による特定の意思決定プロセス』と定義 し,その要件として患者が(1)避けるべきリスクや病 気または状態の重大性について理解していること(2) 予防サービスや含まれるリスク,利益,代替案(選択 肢),不確実性について理解していること(3)そのサー ビスと関連した可能性のある利益や害と考えられる彼 らの価値について熟考していること,を挙げている。 Elwyn(2000)はSDMの原則を以下のように提唱する。 『(1)少なくとも2人の(しばしばより多くの)関係者を 巻き込む─最小でも医師と患者である(2)双方の関係 者が意思決定のプロセスに参加するための手段を用い る(3)情報共有は意思決定を共有するための必要条件 である(4)決断がなされ双方がそれに同意する』。ま たCharlesら(1997)は,『(1)少なくとも2人の関係者 ─医者と患者が関係していること(2)関係者双方が情 報を共有すること(3)双方が望ましい治療について意 見一致をはかるために行動をおこすこと(4)合意が実 行すべき治療に向かって達成されること』とした。  さらに,看護学領域においては,Robertsら(1988) が,ナース・プラクティショナー(nurse practitioner: NP)と外来患者との意思決定プロセスの共有(SDM) を目的とする 積極的交渉モデル として,(1)患者の 要望,属性,期待を明確にする,(2)相互の影響を高 め,合意に至る,(3)意思決定をする,というプロセ スを提示している。このモデルは国内でも着目され(稲 吉,1997),実践の場で患者と看護ケアプランを共有 し,意思決定過程を支える方法論(曾田ら,2001)とし て採用されている。  分析にあたり,概念の構成要素(constituent compo-nents)を識別するために,これらの原則や定義として の記述を含め,すべての対象文献から抽出された要素 を切り離し,分析を行った結果,SDMの属性につい て,以下のテーマが導かれた。

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1)当事者を巻き込むこと   当事者を巻き込むこと(involvement) とは,SDM に お い て 重 要 な キ ー ワ ー ド(Elwyn, 2001)で あ り, SDMは修練によって獲得可能な専門職のコミュニ ケーションスキルとして理解されている。その場合 には, 当事者を巻き込む ことがスキルアップのア ウトカム(Elwyn, 2004)として位置づけられていた。 Siminoff(2005)は, 当事者を巻き込むこと を関係者 間の交流を促進する重要な特性として挙げている。し かしSDMであるとして展開されている現状でのコ ミュニケーションは,その交流が医療者から当事者へ の一方向の線形のプロセスにとどまっていることを 指摘している。Elwynら(2001)は,当事者を巻き込み, 決定に関与させることを意図して作成されたツールに 関するレビューを行ったが,その殆どに 当事者を巻 き込む という具体的な様相が記述されていないこと を報告している。  Karlawish(1996)は,急性期ケア領域における当事 者へのインフォームド・コンセントの適用の限界から SDMの可能性を論じ,特に看護職と患者の家族を巻 き込み,相互交流を行うことの重要性を強調している。 ICUという特殊な状況下では,それらの関係者の互い のナラティブを活用することによって,同じ事象に対 して複数の異なる経験からの意味づけを可能とし,医 師,患者,家族,看護職のそれぞれの役割を明確化で きると述べている。  また,当事者を巻き込むことの阻害因子として,医 療者側の時間の制限や場の構造上の制限(Faller, 2003; Whitney, 2004)について,複数の記述が確認された。 それらの障壁を補完するという意味において,ビデオ やオーディオ,コンピュータグラフィック,webベー スのアプリケーションなど,コンピュータ支援ツール を用いて統合した媒体を中心とする意思決定補助ツー ル(Colellaら,2004; Rulandら,2003; Lenertら,1999) や予防プログラム(Robertsら,1995)が数多く開発さ れていた。これらは,価値・要望・期待・嗜好の識 別を促進する意図を含むが,医療従事者­当事者間の 相互作用にとって替わるというよりも,それらの補 充または拡充を意図して作成されている(O’Connorら, 2005)。当事者が補助ツールをどのように認識するの か,認知がケアへの参加にどのような影響を及ぼすの かを検討した研究(Weaver, 2001)もみられている。  なお,SDMにおいて当事者の巻き込みを促進する キーワードとしては,医療関係者への信頼や当事者の 情緒的レディネス(Charlesら,2004)が,挙げられて いた。 2)相互に影響しあう動的な決定のプロセス  このテーマは,(1)コミュニケーション・対話を媒 介とした双方向の交流,(2)選択肢の利益とリスクに 関する構造化された情報と知識の共有,(3)現状認識 と見通し・目標・価値観・嗜好・アイデアの識別と 分かち合い,(4)望ましい決定に向けた行動,(5)決 1)健康の概念の転換─疾病構造の 変化と対応システムの特性 (1)治療に一定以上の期間を有する 疾患の台頭 (2)医療保険制度の範囲 2)科学技術の進歩と 医療の本質的な不確実性 (1)医療の標準化と個別化の流れ (2)Evidence-Based Medicine (3)検査・診断・治療・予後の不確実性 (4)治療や検査に関する選択肢の存在 (5)実践の範囲が存在すること 3)医療モデルの パラダイムシフトの必然性 4)当事者を含む関係者の 特性と権限の認識 1)当事者を巻き込むこと 2)相互に影響しあう 動的な決定のプロセス (1)コミュニケーションと対話を媒介とした 双方向の交流 (2)選択肢の利益とリスクに関する 構造化された情報の共有 (3)現状認識と見通し・目標・価値観 嗜好・アイデアの識別と分かち合い (4)望ましい決定に向けた行動 (5)決定と合意 1)人々の健康とQOLを 最大にすること (1)臨床アウトカム(治療/予防効果) (2)健康状態とQOLの改善 2)当事者の内的な変化・成長 (1)責任や権限の出現・強化 (2)知識の獲得と理解 (3)エンパワメント: 自律・コントロール感・自信 (4)健康管理に関する行動変容 3)決定に関する当事者の満足 (1)決定プロセスへの満足 (2)選択肢への満足 4)適正な科学技術の使用を含む 倫理的な臨床ケア実践 先行要件 属 性 帰 結

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定と合意,の5つのカテゴリーから導かれている。前 述の定義(Sheridanら,2004),原則(Elwynら,2000; Charlesら,1997)ならびにその他の文献において, SDMが関係者の 双方向の交流 をもつ(Colomboら, 2003; Charlesら,1997; Shiminoff, 2005)こと,そして 段階をもつ動的なプロセス であるという点につい ての記述(Siminoffら,2005; Rulandら,2003; Roberts ら,1998; Charles, 1999)が確認できた。  SDMは,アウトカムに価値を伴う議論の多い検査 や治療に際し,高度なコミュニケーションスキルに裏 付けられた決定支援の方法論(Coulter, 1999; Entwistle, 2001)や,医療への患者参加を促す対話の方法(稲吉, 1997; 曾田ら,2001)として,日本の看護学分野でも取 り上げられている。Schattner(2006)は,当事者の優 先順位の高い潜在的ニードがSDMであることを,デー タによる裏づけを提示し強調している。  このプロセスにおいて, 相互に共有するものとは 何か について,複数の研究者の見解を述べていく。 Colombo(2003)は,双方が交流し分かち合うものとは, 情報や知識,責務,価値観,互いのアイデアであると し,橋本(2000)は,決定に至る現状認識や前提,価 値,目標であるとした。橋本(2000)は,SDMにおい て,解決策を議論する以前に,問題の定義や意味,価値, 目標などを 共通の土台(common ground) のうえに 築くことからはじまり,共同作業は 決定の土台とな る部分をどう作り上げるか という問題に帰着するこ とを述べている。Elwyn(2004)は,SDMは競合して いる選択肢の間で,十分な明快さと見通しをもって問 題を定義し,識別するために働くべきものとしている。 2 .先行要件(Antecedents)  SDMの先行要件では,1)健康の概念の転換─疾病 構造の変化と対応システムの特性,2)科学技術の進歩 と医療の本質的な不確実性,3)医療モデルのパラダイ ムシフトの必然性,4)当事者を含む関係者の特性と権 限の認識,という5つのテーマが導かれた。 1)健康の概念の転換─疾病構造の変化と対応システ ムの特性  このテーマは,(1)治療に一定以上の期間を有する 疾患の台頭─疾病の複雑化/慢性疾患/遺伝的要素, (2)医療保険制度の範囲,という2つのカテゴリーか ら導かれた。急性疾患から慢性病,疼痛管理といった 医師─患者関係が長く続く構造に変化したことは,こ のモデルの出現に多大な影響を与えており(Charles, 1997),医師─患者関係の変容を導いたとされる。今 回の調査で対象とした文献においても,糖尿病(曾田ら, 2001)やその他の慢性疾患(Cohen, 2004; Lenert, 1999; Barry, 1997; Volk, 1999; 新 保,2003; O’Connor, 2005; Matthew, 2000),つまり更年期症状,月経過多,心房 細動,前立腺肥大,そして乳がんや前立腺がん(Feld-man-Stewartら,2000)のスクリーニングを対象にして いるものが多数を占めた。しかしながら,SDMが現 場で実践されるための障壁として,社会がこれらのプ ロセスを保険によって保護・拡大することを推進して いないこと,そして医療保険制度がこれを支えていな いという現状での課題(Woolf, 1997)が論じられている。 2)科学技術の進歩と医療の本質的な不確実性  このテーマは,(1)医療の標準化と個別化の流れ, (2)Evidence-Based Medicine,(3)検査・診断・治療・ 予後の不確実性,(4)治療や検査に関する選択肢の存 在,(5)実践の範囲が存在すること,の5つのカテゴ リーから導かれている。Copkeら(2004)は,多発性 硬化症の急性再発時の治療方針に良質のエビデンス がないことを例に挙げ,このような疾患の場合には, SDMを採用できないことを指摘した。  根拠に基づく患者ケアとSDMは,理論的に推奨さ れる臨床実践のモデルとして採用され,近年,患者の 嗜好を導き出すためのサポートシステムが急速に開発 されている(Ruland, 2003)。Evidence-Based Medicine (以下EBMとする)におけるこれらのシステム開発の 流れは,ガイドラインの作成をはじめとする医療の標 準化を保つことと同時に,医療の透明性を狙うもので あり,質の高い個別の医療を提供することを目的とし ている。医療における本質的な不確実性,つまり選択 した結果としておこる予後も含み,治療やその他の医 療方針に選択肢が存在することは,SDMが起こるた めの重要な要件となっている。  才木(2001)は, 何が最善か が不確かな治療を選 択しなければならない状況において,医師が迷いを表 現し,治療の決定に当事者を関与させようとする状況 について,明らかにしている。このことは,疾患,病 態,症状,EBMの有無による実践の範囲が存在する ことを示している。例えば,最良の治療法をもつ(治 療法に選択肢のない)疾患や病態の場合には,決定の 主体を当事者が完全に医師に譲り渡すことが起こる (Whitney, 2004)。さらに当事者が家族成員の権利や利 益が拮抗するような場合,つまり当事者が決定に関与 するだけでは問題が終結しない状況(家族集積性遺伝

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性疾患など)に対し,SDMではその解決策や行動の指 針を示していない(Elwinら,2001)。当事者にとって 重要でありながらも,日常生活において生命の脅威は ない症状­月経過多症,更年期症状,前立腺肥大など の場合は,がんなどの治療の選択肢とアウトカムが非 常に多い疾患に比べ,よりインフォームド・コンセン ト(informed consent:以下,ICとする)の方向に逆行 することを挙げ,扱う症状や病状により,当事者はいっ そう専門職と一緒に決めることを望む場合があること が示されている(Edwardsら,2003; Whitney, 2004)。 3)医療モデルのパラダイムシフトの必然性  このテーマは,前述した疾病構造の変化に付随して 起こった医師─患者関係の延長から,その関係性の形 を変える必要性が生じた(Charlesら,1997)ことに関 連する。半世紀前,パーソンズの病者役割行動の概念 を基盤とする医師─患者関係のパターナリスティッ ク・モデルから,明確に区切られる形でICモデルが 提唱された。ICモデルは,治療意思決定と同様,医 師のコントロールを超えた高い情報レベルを特色とす るものである。しかし,治療の選択肢の増加に伴い, 積極的に治療を探し代替案を考慮すべき責任を伴うこ ととなったと考えられており,ICの適応の限界が指摘 された(Siminoff, 2005; Karlawish, 1996)。このことか ら,ヘルスケアにおいて患者の自律性を明確に認識す る,新しい形の意思決定へのパラダイムシフトの必要 性(Coulter, 1999)への認識が高まったと考えられ,患 者を対等な存在と認識する 患者中心のケア(patient-centered care) の適用が強調されてきた経緯がある (橋本,2000)。  SDMとパターナリスティック・モデルとの明らかな 相違については多くの記述があり(Stevensonら,2000; Charles, 1997; Charles, 1999),SDMは,倫理的に避け られない論証的な臨床実践の重要な一部分(Whitney, 2004)として広く受け入れられている。Coulter(1999) やEdwardsら(2004)は,これを自律性の倫理的原則に おける信念から生起したものとして説明している。医 療における意思決定は,医師­患者関係のなかに存在 し(Siminoffら,2005),決定分析や医療倫理,根拠に 基づいた医療における主要なテキストでは,意思決定 プロセスに患者を含めるよう医師に奨励していること が示されている(Whitneyら,2004)。 4)当事者を含む関係者の特性と権限の認識  SDMにおいては,当事者を含む複数の関係者が存 在する。多くの文献において医師などの医療専門職と 当事者が必ず意思決定に関わるという前提が確認さ れる(Charlesら,2004)が,前立腺がんにおける検査, 診断,教育セッションのマネージメントにかかわる上 級実践看護師(APN)を含めたSDM(Colellaら,2004) や,地域医療を基盤とし,複数の職種が関わるメンタ ルヘルスチームのSDMプロセスにおける問題解決の 過程の評価(Collomboら,2003)など,複数の医療関 係者間のSDMも存在した。  SDMが起こるためには,その前提条件として関係者 のなかに当事者を含むが,その必要性を双方が認識し ていることが不可欠(Stevenson, 2003)であり,SDMの 必要性が叫ばれて久しいにもかかわらず,実際の意思 決定の現場における調査のレビューから,このプロセ スの要素が殆ど見出せないことが指摘されている(Ste-venson, 2003)。また,決定に関わる関係者のもつ特 性の前提として,当事者の能力(Faller, 2003; Whitney, 2004)や主体性(Woolf, 1997; Charlesら,2004; Copkeら, 2004)に言及している。Coulter(1999)はこれを,当事 者がケアに関する決定に密接にかかわる熱意の高まり や,情報とコミュニケーションへの希求といった具体 的なレベルで表現している。このプロセスがおこるた めには,関係者,つまり医師と患者の双方が情報およ び嗜好を提示できる権限をもつこと(Siminoffら,2005; Faller, 2003)が不可欠であると考えられた。 3 .帰結(Consequences)  SDMの帰結については,1)人々の健康とQuality of Life(以下,QOLとする)を最大にすること,2)当事者 の内的な変化・成長,3)決定に関する当事者の満足, 4)適正な科学技術の使用を含む倫理的臨床ケア実践, というテーマが導かれた。 1)人々の健康とQOLを最大にすること   こ の テ ー マ は,(1)臨 床 ア ウ ト カ ム ─ 治 療 効 果 (Woolf, 1997)/予防効果(Robert, 1999),(2)健康状態 とQOLの改善(Coulter, 1999),の2つのカテゴリーか ら導かれ,SDMの究極的なアウトカムとして,人々 の健康を最大限に導く(Colellaら,2004)ことが挙げら れている。 2)当事者の内的な変化・成長  これは(1)責任や権限の出現・強化,(2)知識の獲 得と理解,(3)エンパワメント:自律・コントロール 感・自信,(4)健康管理に関する行動変容,の4つのカ テゴリーから導かれている。  SDMは,選択した医療方針が当事者自ら希望した

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ものであることを保証し,彼らの権限と責任をより明 確にし,強化すること(Woolfら,1997; 稲吉,1997; 阿 部,2001)や,当事者が獲得した知識の理解を深める こと(Barry, 1997)が示されている。またSDMのプロ セスにおいて,当事者はコントロール感と自信の感 覚(Ruland, 2003; 曾田ら,2001)を体験し,主体性と パワーを維持・強化し,エンパワーしながら,結果 的に心理社会的適応能力を向上させること(Siminoff ら,2005; 曾田ら,2001; 稲吉,1997)が指摘されている。 さらに治療に対する当事者の態度の側面では,よりよ いアドヒアランス,健康管理に関する行動変容など, 良好な結果をもたらすこと(阿部,2001; 稲吉,1997; Rulandら,2003: Siminoffら,2005; Colellaら,2004)が 記されている。

3)決定に関する当事者の満足

 このテーマは,(1)決定プロセスへの満足,(2)選 択肢への満足という2つのカテゴリーから導かれてい る。SDMの最も重要な利益とは,選択肢についての 当事者の満足(Woolf, 1997; Rulandら,2003; Siminoffら, 2005)と,決定プロセスに関する満足(Barryら,1997; 余宮,2005; 曾田ら,2001; 阿部,2001; 佐藤ら,2005; Woolf,1997)であり,決定の質の向上(Volk, 1999)で ある。 4)適正な科学技術の使用を含む倫理的な臨床ケア実 践  Joffeら(2001)は,当事者を尊重し,信頼と信用に 支えられたSDMは,倫理的な臨床ケア実践につなが り,これが生命倫理における自律性の尊重と同義であ ると述べている。Woolf(1997)は,SDMが高額な科学 技術の使用を合理的にかつ,適正に行うことを促進す るとし,Coulter(1999)は,資源の適正かつ効率的な 使用を促進するとした。 4 .関連概念(Related concepts)  ここではまず,本研究の分析対象とした文献のなか で,特に頻繁に使用されていた「インフォームド・コ ン セ ン ト(Informed Consent: IC)」(Feldman-Stewart, 2000; Whitney, 2003)について述べる。SDMは,1970 年代頃に法的な側面を起源として提唱されたIC原 則のもとでの決定とは明らかに異なるものであり (Sheridan, 2004),SDMにおける権利とは,消費者の 権利運動の流れに起源をもつ(Charlesら,1997)。IC は,SDMの明らかな先駆であるものの,医療におけ るその焦点は共同参加というよりもむしろ,医師の情 報開示であり,積極的に患者が同意を表明することを 要求するものであった。これは,独立して情報をあつ め,独自に決定していく消費者運動を源流とした決定 プロセスとは明らかに異なるとされている(Sheridan, 2004)。  次に,SDMと同様,ヘルスケアに関する決定のプ ロセスをサポートするためのコミュニケーションプ ロセスである「リスクコミュニケーション(risk com-munication)」(O’Connorら,2005)について触れる。リ スクコミュニケーションとは,治療またはケアの選択 肢のリスクと利益に関するディスカッションを指し, SDMの属性である 当事者を巻き込むこと の一つの 能力として理解できる(Edwards & Bastian, 2001)。リ スクコミュニケーションはSDMの一部分をなし,選 択肢に関する情報として,当事者に価値判断を可能に させるDecision Aid(Feldman-Stewart, 2000; O’Connor, 2005; Edwards, 2003)等のツールによって補完され, 情報に基づく選択(informed choice)に到達すること を目的としたコミュニケーション能力の一つとして理 解できよう。  SDMについては,不完全に定義されてきたこと についての批判(Charlesら,1997)があり,研究者 らは定義を明確にする試みの必要性を強調してい る(Charles ら,1997; Faller, 2003; Karlawish, 1996; Sheridanら,2004)。SDMとの混乱が指摘された多く の概念のうち, informed decision making ならびに evidence-informed patient choice (Stevenson, 2000) は,いずれもエビデンスレベルの高い情報提供を重 視しており,固有のステップをもつ。 patient cen-teredness や patient-centered care (Stevenson, 2000; Ruland, 2003; Wlwyn, 2001), enhanced autonomy (Sheridan, 2004), consumer involvement (Edward, 2003)は,倫理的実践をめざす理念的な概念として理 解され,それを実践に適用する際の要件としてSDM が位置づけられるものと考えられる。 relationship-centered decision making , Decision making within a patient-clinician partnership (Sheridan, 2004)は,決定 プロセスにおける医療者と当事者の関係性に焦点をあ てており,多くは患者の権利とパターナリスティッ ク・モデルにおける医療の手続きを放棄する理念とし ての概念である。これらもSDMの要素の一部を含む ものであると理解され,SDMと混同して使用されて いることが指摘されていた(Sheridanら,2004)。

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Ⅳ.考   察

1 .Shared Decision Makingの定義

 今回分析対象とした文献において,SDMは理念ま たは理論的な文脈で述べられており,経験的な論述は 殆どみられなかった。この概念は,疾病構造の変化に 伴う健康の概念の転換,科学技術の進歩,そして臨床 疫学の方法論であるEBM研究の蓄積といった社会や 医療をとりまく状況や,人々の認識の変化という文脈 を背景としている。また,倫理的実践の推奨という 意味を包含しながら,既存の医師─患者関係を説明す る様々な理論適応の限界から必然性を帯び,コミュニ ケーションプロセスとして提唱されてきたと考えられ る。この概念は,1990年代より頻繁に用いられてきて おり,高度なコミュニケーションスキルに裏付けられ た決定支援の方法論の一つとして位置づけられている。  今回の分析結果をもとに,SDMの属性を用いて定 義を試みた結果を以下のように提案する。Shared De-cision Makingとは,「当事者を巻き込みながら,当事 者を含む関係者が相互に影響しあう動的な決定のプロ セス」である。このプロセスは,倫理的な臨床ケア実 践と人々の健康ならびにQuality of Lifeを最大にする ことを目的としており,決定に関する満足とともに当 事者の内的な変化・成長を導く。当事者を含む関係者 は選択肢に関する構造化された情報とともに,識別さ れた現状認識や見込み・目標・価値観・嗜好・アイデ アを,コミュニケーション・対話を媒介として双方向 の交流を重ねることにより分かち合い,望ましい決定 に向け相互に行動し,合意に至る。  しかし,現状ではこの本質的な属性の実態を,臨床 実践のなかで見出すことが困難であると複数の研究者 (Stevensonら,2000; Charlesら,2004; Faller, 2003)が 指摘している。この関係者を繋ぐ双方向の交流は,コ ミュニケーション・対話を媒介とすることが前提であ るが,価値観や嗜好を顕在化させる試みには,マルチ メディア等の補助ツールが用いられており,研究にお いてはそれらの効果の検証に焦点をあてたものが殆ど であった。これらは,あくまでも医療者と当事者の相 互作用を補完するものであり(O’Connor, 2005),SDM のプロセスにおける関係者間の交流,目的や見通し, 希望や嗜好,価値観の分かち合いに関する詳細な記述 に関しては,現在十分な蓄積はない。また,コミュニ ケーション,特に対話による当事者の巻き込みに関し て,その効果は殆ど記述されておらず,課題として残 されている。それらの経験的な記述が積み重ねられる ことにより,今後,この概念のさらなる発展が期待で きると考える。

2 .Shared Decision Makingの概念を女性を対象とす るケア実践および研究活動に適用することへの可能性  次に,看護学分野,特に女性を対象とする助産学領 域におけるSDMの概念の適用可能性を考察したい。  妊産婦は助産師に対し,医療やケアに関する正確で 偏りのない情報提供を求めていることが明らかにされ ており(Levy, 1999b),妊娠中にどのようなケアを受 け,どのような出産を迎えるかに関する選択とともに, 胎児の出生前検査に関する選択は,妊娠中の女性の重 要な決定の1つとして考えられている(Levy, 1999a)。   ケ ア 提 供 者 で あ る 助 産 師 と 女 性 の 関 係 性 は, パートナーシップ という言葉で説明されている (Kirkham, 2000)。この概念は,多くは経営管理学や 教育学などの分野で議論されてきたが,近年になっ て助産学領域に幅広く浸透してきた(Freeman, 2003)。 パートナーシップを基盤とし,「尊重」,「意思決定」, 「エンパワー」を要素にもつ 女性を中心にしたケア

women-centered care(Hills, 2002; Horiuchi, 2006)の 実践が助産師に求められており,この理念を具体的に 支える要件として,SDMが位置づけられると考える。 ここでは,遺伝学的検査の一つである胎児の出生前検 査をとりあげ,この概念の適用可能性を述べたい。  今回の分析においては,出生前検査を対象とした SDMに関する文献や記述は,殆ど確認できなかった。 出生前検査は,自身の健康への脅威を伴う疾患や治療 とは異なるものの,アウトカムに倫理的な価値を包含 するものであり,いかなる選択肢においても,大きな 不確かさと困難を伴う。  出生前検査における女性の決定に関する国内のケア システムは,未だ構築されていない。急速に制度化が 進む遺伝医療チームのなかで,看護職が担う役割が明 確でない国内の現状に加え,医療保険制度が当該ケア を十分に支えないため,多くの医療機関においては医 師が外来診療の中で,最低限の情報提供を行っている という状況にある。わずかながら,看護職や臨床心理 士の関わりの報告が散見されるものの,その効果につ いては殆ど検証されていない。しかしながら,先天性 障害をもつ児の出産既往や,遺伝に関連した不安をも ちながら妊娠を選択するなどの背景をもつ女性に対す るケアには,助産師の継続的な関わりが重要な要素と

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なる。出生前検査の選択に関する葛藤や,人工妊娠中 絶を選択した場合や死産後のケア,また胎児の異常を 知りつつ妊娠継続をしていくことへのサポート,ハン ディキャップをもつ子どもを産み育てていくことへの 支援,など,パートナーシップに根ざした継続的なケ アが助産師に求められている。様々な選択を迫られる この時期に,対話を媒介として正確な情報とともに現 状の認識や見通し,価値観やアイデアを助産師と分か ち合うことの意義は大きい。この過程において,女性 自身が最大限に尊重され,ケアが提供されること,ま たそれを積み重ねていくことが重要であり,SDMの 概念を基盤に据え,適用できる可能性は十分にあると 考えられる。

Ⅴ.結   語

 本研究における概念分析の結果,ヘルスケアに関連 するShared Decision Makingとは,理念的,理論的文 脈から必要性を帯びて生起してきた概念であり,当事 者を中心に据えた倫理的な臨床ケア実践に向け,示唆 を与えるものであることが明らかになった。また,こ の概念を女性を対象とする看護ケア実践および研究 に適用することは,女性を中心にしたケア(women-centered care)を具体的に支えるものとして,その意 義は大きいと考えられる。

 Shared Decision Makingの概念を洗練していくため には,引き続き文献検討を重ね,探求していく必要が ある。この概念が提唱するコミュニケーションプロセ スがケアの方法論として現場で広く導入され,それら の経験的な記述が積み重ねられることにより,今後さ らなる発展の可能性が期待できると考える。 謝 辞  本研究における分析の過程で貴重なご助言を頂きま した聖路加看護大学の田代順子教授と博士後期課程ク ラスの皆様,論文としてまとめるまでの過程でご指導 下さいました聖路加看護大学堀内成子教授に心より感 謝いたします。また本稿の修正にあたり,貴重なご助 言を頂きました2名の査読者の方に深く感謝申し上げ ます。 文 献 阿部雅子(2001).患者と看護計画の共有化の試み,─慢性 疾患患者の事例を通して見た看護効果,看護,53(14), 48-51. 余宮きよみ(2005).ホスピスでの痛みの治療,ペインク リニック,26 (6), 865-872.

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